ご注意ください。
第58話 閑話集
閑話 茶釜ブンブク捜査網
茶釜ブンブクが失踪した。
正確に言えば、木の葉隠れの里に残っていたブンブクの影分身がいなくなったのである。
これにはいくつかの可能性があるだろう。
1つ、影分身は打撃に弱い。
何らかの要因でダメージを負い、消滅したという考え。
1つ、本体に何かあった。
本体が何らかの必要に迫られて影分身の術を解除した、という考え。
そして1つ、本体が死亡した、という考え。
木の葉隠れの里の上層部は混乱した。
「根」という組織の次期長官として教育を受けていたブンブクがいなくなる。
それは上層部に予想以上の恐慌をもたらした。
何せ現火影は就任して1年たっていない。
里の運営に当たる人材があまり育てることが出来ていないのが現状だ。
その中で逸早く非公式であれど木の葉を支える柱である「根」の次代のトップが育っていたというのは僥倖である。
それがいきなりの失踪。
しかも非公式であるが故に、一般の者どころか暗部の精鋭にすら話すことはできない。
下手に動けば「根」の存在が明るみに出る。
志村ダンゾウにとってももどかしい状態であろう。
現在、木の葉隠れの里は「暁」に対する作戦行動中であり、飛段と角都という難敵を倒したのはよいとしても、未だデイダラ、小南、ペイン、干柿鬼鮫、そしてうちはイタチは健在である。
新しく実働部隊を増強したらしいとの報告もあり、予断は許さない状況だ。
動かせる手駒はわずか。
メイキョウおよび元・音隠れの陣営である。
彼ら及び「根」の精鋭数名のみで調査を行う、となればどうしても手が足りない。
まずは現火影・千手綱手と話し合う必要があるだろう。
「…そうですか、厄介なことになりましたね」
護衛の暗部をもまいて、ダンゾウと綱手はとある場所で落ちあっていた。
綱手の弟子であるシズネなどにはちょっと抜け出して一杯ひっかけに行っている事になっている。
実際、綱手がこうして執政室を逃げ出して、飲みに行っている事になっている9割方はダンゾウやコハル等周囲に聞かれたくない話しをする為である。
シズネは大体分かっているようだが。
「うむ、これでうちはサスケと大蛇丸の動向が読めなくなった。
あ奴らを野放しにするのはあまりにも危険だ」
ダンゾウは左手で顎をさすりながらそう言う。
「…やはりまだ、疑っていらっしゃるのですか?」
「うむ。
『介入者』などいなければ、いないに越したことはない。
しかし、万が一にも存在しているなら…」
「ええ。
忍界全体で敵対しなければ、ならんでしょう…」
「介入者」。
これは、今は亡き3代目火影・猿飛ヒルゼンの提唱した「歴史に介入する者」という意味合いの言葉だ。
ヒルゼンはあくまでそのような概念、偶然と必然の折り重なった歴史の中で、あまりにも都合の良い、または悪い事象が重なることを指し、「まるでに歴史の介入する者がいるのではないか」などという、ヒルゼン本人としても戯言として認識していた言葉である。
歴史はあまりにもドラマティックだ。
偶然に合った2人の男が意気投合し友誼を繋ぎ、今の忍界にある忍里の先駆けを作り上げ、10年の後里を守るものと里を滅ぼすものとして対峙する。
歴史をひも解いて行くと、このような事例がいくらでも出てくる。
時代の流れというものは、ヒルゼンをして心惹かれるものであり、それを調べてまとめるというのは「事実は小説より奇なり」を実感する学者として興味深い内容であったのだろう。
ダンゾウがそれに興味を持ったのは偶然と言っていいだろう。
ヒルゼンと違い、ダンゾウは浪漫を解さない硬物であり、現実主義者でもあった。
それに、言ってしまえばダンゾウ自身が「介入者」でもあった。
いくつかの小さな忍里の崩壊を後押しいていたし、誰にも語った事はなかったが、「山椒魚の半蔵」との
ダンゾウは「外道」を以って木の葉隠れに貢献した人物であった。
陰謀を旨として木の葉隠れの里を守る役割を負ったダンゾウ、その手腕が、ヒルゼンのひも解いた歴史にかすかな疑問を感じたのである。
ヒルゼンと歴史について話している時、自分ならここで介入する、と考えるポイントで、事件が発生し、事態が
大体においては事態を鎮静化するのではなく、より危険な方向に動く事が多いように思えた。
大きく世界が動き、その度に英雄が現れる。
英雄は世界を動かし、より混沌の種を育て、その混沌が危機を生み、英雄が生まれる。
まるでこの世界は英雄を育てる為のゆりかごのようだ。
そして英雄の武器となり、盾となるのが忍術。
チャクラを使った強力な術達。
歴史をひも解く限り、例外なく、英雄達はチャクラを操り、世界を救っていく。
そう、例外なく。
まるで歴史が忍術の発展の為に英雄を作り出しているかのように。
ダンゾウはロマンティストではない。
歴史などというものは偶然と人の意志が作り出すものだ。
世界が英雄を求める、などと信じないし、また信じる気もない。
ダンゾウはこれを偶然であると断じた。
そうでなければ誰かがこの流れを作り出していると考えるしかないからだ。
人類悠久の歴史が誰かに作り上げられたものだ、などと夢物語でしかない。
そのような長く存在するものなど、それこそ神仏の類いであり、敬して遠ざけるものでしかない。
「仏ほっとけ神構うな」などという言葉がこの世界にあるのかどうかはさておき、ダンゾウは神も仏も信じない。
なればこそ。
人の世の歴史に介入する「介入者」がもし、万が一存在するのならば、この動乱の時期に動かないはずはない。
ダンゾウは、介入者の「不在の証明」をするためにほんのわずかな手を打つことにした。
その1つが「5代目火影と6代目火影の不仲」である。
木の葉隠れの里の権力者である6代目火影と不仲である風を装うことで、ダンゾウは里と別個の調査、戦力を持っていても、いるかもしれない「介入者」に不審に思われない。
元々が権謀術策を旨とする「根」の長官という立場を持つダンゾウである。
木の葉隠れの里の主流派と意を反する行動を取っても不自然に思われまい。
むしろ、向こうからダンゾウに接触してくる可能性もあるだろう。
…既に接触している、という事もあるだろうが。
今、ダンゾウが気にしているのは「うちは一族」の動向だ。
歴史の端々には「うちは」と「千手」の影がある。
チャクラを使う英雄達には少なからずこの2つの一族が関わって、または英雄そのものであった可能性が高いのである。
その為、ダンゾウにとっては虎の子ともいえるブンブクを大蛇丸の援助という名目でサスケの監視に付けたのである。
サスケの監視、という任務だけであるなら他の「根」の構成員でも良かっただろう。
しかし、もし「介入者」などというものが存在するのであれば、根の優秀な上忍では目立ちすぎる。
その為の措置だったのだが。
いま、音隠れにいるブンブクとの連絡はとるのが難しい。
サスケの状況が知りたいところだが。
そこまで考えた時だ。
「5代目、こちらで考えがあります」
6代目火影・千手綱手がそう切り出した。
「…聞こう」
綱手の提案は、情報収集に飛び回っている自来也に音隠れの里の拠点を調査させる、というものだった。
多分であるが、今サスケの周囲でなにか厄介な事が起きているのは間違いないだろう。
ならば、集団よりは突出した個人に行かせるべきだ。
ダンゾウとしても自来也なれば十分に信用できる人物である為、異存はなかった。
こうして、自来也は音隠れの里へと向かうこととなったのだ。
自来也が音隠れの里の拠点へと出立した半日後、「大蛇丸死す」の報が木の葉隠れの里へと届いた。
閑話 蛇の弟子
みたらしアンコは動揺していた。
師であり、仇敵でもある大蛇丸が死んだ、というのだ。
アンコにとって、大蛇丸への感情は非常に複雑である。
かつて下忍時代の担当上忍であった大蛇丸。
忍の師匠としての大蛇丸は非常に論理的であり、また丁寧に弟子を育てる人物であった。
その薫陶を受けたアンコ達は同期の者達に比べても優秀な下忍に育った。
その関係が崩れたのは、アンコの同僚達が任務中に殺された時だったろうか。
中忍に昇格していたアンコだが、その頃から大蛇丸は自身の研究に没頭するようになっていた。
雰囲気が少し変わったような気がしていたが、どうやらその時期に「不屍転生」による身体の交換を行っていたようだ。
今でも内心、その時に止めておけば、と悔やむ事がある。
その後、里の人間を実験台として忍術の研究をしていたことが発覚し、大蛇丸は木の葉隠れの里を逐電した。
その際にはアンコもひどく疑われ、「大蛇丸の弟子」というレッテルはしばらく里に残り、肩身の狭い思いをしたものだ。
さらには大蛇丸はアンコ自身にも試作忍術である「天の呪印」を刻んでいった。
大蛇丸が研究していた呪印としては最初期の検体、ということになるだろうか。
アンコの苦しむ反応を見て、大蛇丸はにんまりと笑うと消えていった。
どうせ良い実験結果がとれたと思っていたのだろう。
大蛇丸はその後にさらに改良を加えた呪印を音の四人衆や、サスケに施していく事となる。
最初期の呪印は致死率90%という代物であった。
アンコは死にはしなかったものの、呪印の影響で全力を出すことが難しくなった。
恩も恨みもある人物。
それがアンコにとっての大蛇丸である。
その大蛇丸が死んだ。
とても信じることはできない。
出来るのなら飛んでいきたかった。
真実を自分の目で確かめたかった。
しかし自分は木の葉隠れの里の忍である。
任務以外で動く訳にも行かなかった。
その時だ。
任務の配分を行う事務所から、「自来也への書簡配達」という任務があるのを聞かされたのは。
自来也は「暁」の調査の為、各国へと飛びまわっている。
丁度今は「田の国」、つまりは音隠れの里のある国に派遣されているのだ。
なれば、自来也への書簡配達のついでに大蛇丸に関すつ調査をしたとしても、ちょっと寄り道をした、程度で済むだろう。
そう短絡的に考えたアンコは、書簡配達任務を引き受け、その日のうちに田の国へと旅立った。
「死んだなんて信じないわよ大蛇丸、片を付けるのはワタシなんだから…」
みたらしアンコは首筋のうずきを感じながら、そうつぶやいた。
閑話 砂隠れでは
「…次、操演の型・6番」
教師の号令により子ども達が
ここは砂隠れの里、その修練場の一角。
今ここでは新米の絡操傀儡師が、熟練の教師にしたがって、傀儡の操演の基礎を学んでいた。
無論、彼らは里の命運を背負って立つ才能豊かな子ども達である。
また、教師の指導が良いのか、熱心に操演を学んでいた。
ここで子どもたちを教えているのは「赤砂のサソリ」。
かつて「暁」に所属し、砂隠れの里を襲撃し、そして里長である「砂瀑の我愛羅」を捕えた。
その後、祖母である「チヨ婆」と木の葉隠れの里の忍である春野サクラに破れた彼は、助命と引き換えに「暁」情報、そしてその操演技術を砂隠れの里の為に使うことを強いられている。
とはいえ、サソリにとって己が絡操傀儡師であれるのであればどこにいても文句はないようで、己の操演技術の研磨、新作傀儡の作成、操演技術の継承と、睡眠を必要としない体の利点を最大限生かしてその仕事を楽しんでいた。
「先生、何してるんですか?」
生徒の1人が尋ねた。
今、サソリが持っているのは何とも間抜けた人形である。
胴体部分が茶釜のようになっており、それに狸の頭、手足と尻尾の付いた、直立茶釜狸人形とでも言うべき代物。
良くは分からないが、砂隠れの里の入口、その辺りにある土産物屋で売っているお土産用のおもちゃの1つを参考にした代物だ。
「これ知ってる~、土産物屋で売ってる奴だあ」
生徒の1人がそう言う。
サソリは、
「まあ見ていろ」
そう言うと、人形を地面に置いた。
すると、
ぱぱんがぱん、
人形が手を叩き、珍妙な踊りを踊り始めた。
生徒達は最初ぎょっとしたように、そしてその後は狸の珍妙さに噴き出し、笑い始めた。
「せ、せんせ、これなに?」
生徒達が笑いながら聞くと、
「これは最近生まれた操演技術の1つ、『遅延操演』と言う。
あらかじめチャクラ糸に命令を仕込んだり、傀儡に特定の動きをするように細工をして、術者が操演を意識しなくても動いてくれるよう仕込みをしておく技術だ。
複雑な指令をあらかじめ組み込んでおけば、今までとはまた違う連携などもとれるようになる。
手数を増やすにはもってこいの方法だ」
そうサソリは答えた。
「先生すげー!!」
子どもたちは絡操傀儡の技術の奥深さに感激し、歓声をあげた。
そんなところへ、
「サソリ、ちいっと良いかの」
砂隠れの長老の1人、サソリの祖母でもあるチヨ婆がやってきた。
チヨ婆はサソリの祖母であると同時に、S級犯罪者であるサソリの監視役でもある。
かつてチヨ婆は里の奥にて隠遁生活を送っていたが、サソリが里へ戻ると同時に表側へと引っ張り出されたのである。
本人は隠居生活を台無しにしおってなどと
ブンブク、要らんこと言いの癖は未だに健在である。
「ふうぅ…、はっ!」
回し蹴り、更に繰り出した足を地に付けた瞬間に元の軸足で後ろ回し蹴り。
それを囮として絡操傀儡「烏」の攻撃の軸線に架空の敵を負いこむ。
烏の腕の根元に仕込まれた細剣の攻撃範囲から敵が逃げたと仮定し、「木の葉昇風」の動きで相手を蹴りあげ、動きを封じる。
その瞬間に絡操傀儡「黒蟻」が発動、架空の敵はその中に吸い込まれた。
カンクロウは砂隠れの里の外周、その近くにある倉庫の一角の前、そこで演武を行っていた。
ここ何年か、カンクロウは絡操傀儡の操演と体術を融合させ、格闘戦闘と同時に傀儡操演を行う技術を作り上げる為に努力をしていた。
その甲斐あってか、「操演体術」とでもいうべき体術と傀儡操術のハイブリッド忍術が完成しつつあった。
まったくガイ師匠とサソリ殿には頭が上がらない。
この2人の薫陶のおかげで操演体術はモノになりつつあるのだから。
とはいえ、別にカンクロウは普段からここで修練を積んでいる訳ではない。
彼は人を待っているのだ。
演武が終わったちょうどその頃、待ち人がやってきた。
「お、サソリ殿、来ていただいて助かるじゃん」
誰あろう、「赤砂のサソリ」その人である。
「ふむ、オレを呼び出すということは、傀儡に関わる事なんだろうな、そうでなければ帰るぞ」
一応なりとも、カンクロウは里の有力者の1人である。
サソリは年上とはいえ、その彼への言い様ではない。
とは言え、サソリは伝説的な傀儡操演者であり、傀儡造形師である。
カンクロウは彼なりに、サソリに敬意を持ち、払っていた。
「まあ間違いなく、傀儡師としてサソリ殿をお呼びしたのです。
まずこれを見ていただきたい」
気取って話すカンクロウに、
「別に敬語で話す必要などない。
オレにとって重要なのは傀儡に関することだけだ」
そう言い切るサソリ。
それもどうか、とは思うカンクロウだが、相手がそう言うならば構うまい、そう思いなおした。
「んじゃ、そうさせてもらうじゃん。
サソリ殿に見てもらいたいのはこれじゃんよ…」
そう言って倉庫に納められていたものが引き出され、日の光を浴びた。
それは一言でいえば、
鬼の首。
であった。
大きく砕け、明らかに生きてはいないものの、巨大な人間状の頭部、それを模したものがそこにあった。
「…これはいったい!?」
さしものサソリも驚いた。
無論、人傀儡であるサソリの体である。
表情などは浮かべていないが。
「これは…なんだ!?」
その声には畏怖の感情が混じっていた。
これはただ大きいだけだはない。
何か途方もない力を持ったモノ、その残骸なのだとサソリの直感が告げていた。
「これは…」
カンクロウが説明をし始めた。
数年前に数度あった滝隠れの里への襲撃。
そして今回の「暁」の襲撃により、滝隠れの里は防衛能力の強化を迫られていた。
しかし、この世界における力の強化とはすなわち強力な忍を抱えられるかどうかである。
忍五大国の忍里ならば忍の数が多く、その層の厚さによって優秀な忍びを抱える確率はほぼ100%であろう。
しかし、規模の小さな忍里では優秀な人間がいると居ないとではその戦力が大幅に変わってしまう。
滝隠れの里にとっては第3次忍界大戦の傷がまだ癒えていない状態である。
それは潜在能力を大幅に引き出す代わり、寿命を著しく削る秘薬「英雄の水」の使用過多、という側面もあるのだが。
英雄の水も今は里になく、大きな戦力としては「蟲骸巨大傀儡・鋼」、しかも完全復旧にはまだまだかかる状態であり、それを繰る傀儡師も未熟だ。
そういう状況で、滝隠れの長であるシブキがとったのは、周囲との融和政策であった。
こと、砂隠れの里とは傀儡の操演技術の向上の為にも是が非でも仲良くしておきたいところであった。
故に、シブキが使える札のうち、最大のものがこれ、滝隠れの森の中に封印されていた凶悪な兵器「大魔蟲・怒鬼」の残骸であった。
怒鬼は残骸となっても大量のチャクラを蓄えていた。
そして、その外骨格は圧倒的な強度を持っているのである。
「なるほど…。
つまりはこいつで、絡操傀儡を作って良い、そう言うことだな」
今までで最大、と言っていい素材を見せられたサソリは、浮かべる事が出来たなら凶悪な笑みを浮かべていたことだろう。
サソリはこれにどういうギミックを仕込むか、それを思い浮かべた。
そして思いだした。
確かこれを倒したのはカンクロウの繰る巨大傀儡であったなあ、と。
サソリはカンクロウに話しかけた。
「おい、お前ならこいつにどんな
カンクロウは傀儡師である。
絡操傀儡の仕掛けなら、まあ色々思いつく。
しかし、この巨大な傀儡にふさわしいモノ、というとなんだろうか…。
しばらく考えて、カンクロウは1つのアイデアを思い出した。
「ああっと、出来るかどうかはともかくとして、だ。
こう言うのがあるんだが…」
そしてカンクロウの言葉を聞いたサソリは、
「面白い、ならばまず、滝隠れに行くぞ」
そう切り出し、カンクロウの腕を掴んで歩きだした。
「な!? ちょ、ちょっと…!
待つじゃん!?
きちんと許可もらってこねえとアンタまた牢屋に逆戻りじゃんよ!!」
「む、それは困る。
この面白そうな素材をいじれなくなるのは問題だな。
よし、許可を取ってこい。
ああ、ババァも一緒に来い。
確か監視役だったはずだしな」
絡操傀儡の事になるとサソリは人が変わったようにアグレッシブになる。
まあ、多分
そんなことを考えながら、カンクロウはサソリに振り回されていた。
閑話 地面の底では
ずりり。
ぐちゃ、めきょり、ずるり。
ごりり、ごり、べちゃ。
全く光の射さない漆黒の空間。
いや、空間ではない。
そこは土と石の詰まった場所。
地の下である。
どれだけの時間が経ったのか。
地上であれば10分も掛からない所を、その存在は1日がかりでジワリ、ジワリと進んでいった。
“よお、かなり手ひどくやられたじゃねえの…”
“ふん、貴様こそ、不死の名が泣くぞ…”
“うっせえよ! その『不死』に助けられた奴が何言ってやがんでえ!!”
“…それについては感謝する”
“…おいおい、とうとうあれか、これがあいつが言ってた『デレ期』ってやつかあ!?”
“…やはり馬鹿は馬鹿か、そして馬鹿二号は馬鹿二号だったようだな、いや間違えた、ようだなではなく確定だな”
“…なんでおめえはくたばりぞこなってそんなに絶好調なんだよ?”
“知らん。 お前もその有様だし、オレも当分は動けん。もうしばらく大人しくしているほかあるまい?”
“まあ、そうだな。 山賊か盗賊が通りかかるのを待つしかねえか”
“そういうことだ。 そうすればオレが復帰できる、そうなればお前を掘りだせるだろう”
“それまではのんびりさせてもらおうぜえ”
闇の中で話すものたちは何者か。
閑話 囚われたモノ
暗闇の中、苦悶の声が響く。
そこにいるのは仮面の男、トビ。
いつもの迂闊さは微塵も感じられず、かといって目の前の拷問を楽しむ訳でもなし。
虚無。
その言葉が似合う人物であった。
トビの目の前には全身を縄で拘束されたものがいる。
上背は子どもと言っていいだろう。
目には覆い、耳にはヘッドホン、耳栓の代わりだろうか。
口には拘束具が付けられ、くぐもった悲鳴しか聞こえてこない。
その人物は椅子にくくりつけられ、全く身動きが出来ない状態で、うめき声、苦悶の悲鳴を上げていた。
「ふむ、予想以上に粘るのだな。
かけられている方からすれば、もう1月近くは拷問を受けている事になっているはずなんだが…」
トビは、幻術を微調整しつつ、被験者の人格を破壊しつつ、身体機能に影響が出ないよう、細心の注意を払っていた。
そう、トビはここに囚われた人物に、幻術をかけていた。
この人物の命を奪わないようにしつつ、人として殺す為に。
トビは幻術により、この人物に拷問を受ける幻影を見せていた。
幻影、幻と侮るなかれ。
幻術の中で炎に焼かれれば人の体は火ぶくれを作り、殴られれば腫れ上がる、精神と肉体はお互いに影響を与えあうものなのだ。
ひと際大きなうめき声をあげて、囚われ人はがっくりと
それを見てトビはふうっと息をついた。
一仕事終えた、とでも言う様に。
トビは肩をごきごきと鳴らしつつ、
「ふむ、これで人格の破壊は出来たようだな。
次は新しい人格を植えつける作業だが…。
さてどのように設定するか」
トビはぐったりとした人物の心臓が動いているのを確認して、そうつぶやいた。
もし、別世界の知識を持った人間がここにいたのなら、彼のしていることをこう言ったであろう。
「