これからは、閑話を挟みつつ半オリジナル展開となります。
天の呪印の力を得たサスケの猛攻を、大蛇丸は時にいなし、時に受け止め、最低限の動きで捌いて行く。
確かにサスケの力は圧倒的だった。
しかし、
「力に振り回されているようじゃねえ…」
余裕なぞあるはずもない。
今の大蛇丸は素手でショベルカーのアームを受け止めているようなもの。
今までの経験を総動員して受け流しているにもかかわらず、体がぎしぎしと軋む。
気を抜けば一瞬にして肉塊に変わりかねない、そんな薄氷を踏むような戦い。
しかし、それでも大蛇丸は平静を装う。
それもまた戦いの駆け引きだからだ。
“しかし、このひりつくような緊張感、忘れていたわねえ…”
若かりし頃には日常茶飯事だったこの緊張感、年を取り、陰謀と謀略が常になっていた昨今は忘れ気味になっていた。
かつての同僚たる自来也、綱手とやりあった時も、実量が伯仲しているだけにどこか「いつもの事」という感覚があった。
今の状態、圧倒的な暴力で迫るサスケを前に、かつて「山椒魚の半蔵」とやりあったあの時を思い出す。
ついつい大蛇丸の顔に笑顔が浮かんでしまう。
それを大蛇丸の余裕と見るのだろうか、サスケの攻撃が更に暴虐の勢いを増した。
竜巻から暴風、更には全てをなぎ払う台風の勢いに。
「うおおおぉ!!」
気合と共に、雷遁のチャクラを纏った「草薙の剣」が大蛇丸の首を狙う。
しかし、それを大蛇丸は風遁のチャクラを纏わせた己の「草薙の剣」で受け流す。
それ以外に手段がない。
大蛇丸が得意とする「口寄せ・潜影多蛇手」はすでに無力だ。
今のサスケの体に毒蛇の牙は通らず、搦めて動きを封じるにしても、糸くず程度の障害にしかなるまい。
まだまだ、攻めに転じるには時期が早い。
大蛇丸は強烈なサスケの攻撃に、体力と精神をすり潰されつつ逆転の一手の為、耐えていた。
なかなか効果的な打撃を与えられないサスケは、しびれを切らしたのか鍔迫り合いから大蛇丸を突き飛ばし、距離を取った。
来るか。
大蛇丸は印を組み、サスケの一撃を待ちかまえた。
サスケは未だに大蛇丸を殺せない自分に怒りを覚えていた。
何がまずいのか。
火力は十分なはずだ。
未完成であった、音の四人衆に施された呪印ですら、呪印化状態2なれば通常の10倍以上の力が出せた。
この完成された「天の呪印」の呪印化状態2ならば、いつもの数10倍の力は出るはずだ。
…サスケは理解していなかった。
いや、呪印の発動状態による理性の磨耗と言った方が良いか。
確かにサスケの力は数10倍に高められていた。
しかし、その高められた力がどこまでのものか、サスケは把握していなかった。
己の力を把握せずに戦う。
これが危険であることは間違いない。
無論圧倒的な力で相手を押しつぶす、それもありだろう。
しかし、
「呪印の使い手は力に振り回される傾向があるわ。
サスケ君、アナタもそう。
本来のアナタなら、冷静な判断を元に、強力な力をどう使うか考えたでしょう?
今のアナタは力を使っていないわ。
それは力に振り回されるだけよ」
奇しくも、それは3年前、音の四人衆やサスケを前に、茶釜ブンブクが言い放ったのと同じ内容であった。
ブンブクの事を思い出し、それを忘れるように頭を振るサスケ。
“…今はこの戦いに集中しろ、あいつは強敵だ”
すでにサスケの左手には膨大な量の雷遁のチャクラが集まっている。
これを叩きつければ…。
走り出そうとしたサスケの動きが鈍る。
「…なんだ? 動きが…」
すぐにサスケには状況が把握できた。
今のサスケは呪印化状態2である。
現在の自重に比して凄まじい力がその体には宿っている。
背中には竜の
この普段と違う体格と力が、「ねじり千鳥」の発動を邪魔しているのだ。
本来「千鳥」とは、目にも止まらない速さで移動し、突きを繰り出す暗殺用の体術に、威力を増強する為の雷遁の形態変化を加えたものである。
つまりは体術と忍術のハイブリッドである訳だ。
ここで難点が1つ。
体術はその名の通り体を媒体としてチャクラを使う術である。
その体のバランスや筋力配分などが変わっていたらどうか。
うまく発動できるはずがない。
しかしサスケも天才と呼ばれるだけの事はある。
旧版の「千鳥」に即座に変更し、大蛇丸に向けて走り始める。
通常の千鳥の、チチチという音ではなく、「バジジジジジッ!!」と不吉な音を立て、地面をえぐりながら大蛇丸へと走る。
その速さたるやまさに「疾風」。
人の出せる速度を超え、ほぼ一瞬で大蛇丸に迫る、そして、
「これで終わり… なに!」
巨大な物体に遮られた。
大蛇丸はサスケが「ねじり千鳥」を発動できないことを見越していた。
優秀なサスケの事だ、使えないと分かれば、通常の千鳥に使い方を変えてくるだろう、それもまた想定の範囲内。
そして千鳥は発動してしまえば一直線に突進してくることしかできない。
さらに言えば、大蛇丸はサスケの師匠なのだ、細かな癖なども良く分かっている。
故に、動きの初動も分かる為に、
「ここっ! 『口寄せ・三重羅生門』!!」
暴走したナルトの攻撃を食い止めるためにも使った、三重羅生門を召喚、そして、
ゴゴゴバン!!
サスケの「忌まわしき千鳥」が、大蛇丸の絶対防御であるはずの三重羅生門を完膚なきまでに破壊した。
サスケは三枚目、最後の羅生門を破壊し、勝利を確信した。
この勢いで雷遁をたたきつければ、どのような相手だろうと砕け散る。
目の前には大蛇丸。
「幕引きだ、くたばれ!」
呪印により感情の起伏が激しくなったサスケは、凶暴な笑みを浮かべつつ大蛇丸に雷遁のチャクラのこもった左手を叩きつけ、
「!」
異様な感触がサスケの腕に伝わった。
まるで固い殻が砕けていくような。
そして雷遁がどこかに抜けていく。
何が起きた!?
写輪眼でいま起きている事を解析する。
大蛇丸の体の周りには、
「!? 土遁のチャクラ、だと!?」
今砕けていっているのは土遁のチャクラで作られた外殻であった。
そしてその下には、水にぬれた大蛇丸の本体。
「! 水遁による雷遁の吸収か!?」
わざと雷遁に弱い土遁の防壁を表面に張り、その下に水遁の防壁を張ることで雷遁のチャクラを土遁に引き付け、その上で更に水遁によって雷遁のチャクラを地面・土へと誘導してしまう。
大蛇丸が雷電姉妹と戦った時に使った手口である。
無論、サスケの蓄えた雷遁のチャクラの量は雷電姉妹の比ではない。
故に、三重羅生門でその力を大幅に削り、その上で防壁を張ったのである。
これで、サスケの千鳥はただの体術へとなり下がった。
そして、
「サスケ君、本当の体捌き、っていうのを教えてあげる…」
大蛇丸がサスケの左腕に手をかける。
突進のエネルギーを活かし、体を開きつつ、サスケの足を払った。
前につんのめるサスケ、それを、
「喰らいなさい、『潜影多蛇手』!!」
大蛇丸の袖より
当然のことながら、彼らの必殺である毒の牙はサスケに通じない。
しかし、
「な!!」
完全に体勢を崩し、宙に浮きあがったサスケを、蛇たちは更にウゾウゾと何十匹も大蛇丸の袖から湧き上がり、天高くサスケを持ち上げていく。
そして、凄まじい勢いで地面に叩きつけた!
もうもうと土煙が上がる。
それが晴れた時、そこには、
ふらつきながらも立ち上がろうとするサスケの姿があった。
頭を振り、意識をはっきりさせようとするサスケ。
「くっ、大蛇丸はどこに…」
「ここよ」
背後からする大蛇丸の声。
反射的に振り向こうとするサスケに大蛇丸は、既に印を結び終えた両の手をその左肩に当てた。
すると、サスケの体に刻まれた天の呪印を封じる封印術、封邪法印が赤く光を放った。
「何を、うっ…」
赤い光はその光量を増し、それと共に、サスケの体色が元のものへと戻り始める。
髪の毛は黒い艶を取り戻し、背中の肩甲骨は縮小、人の背中の形に収まっていく。
サスケが脱力し、膝をつく頃には、呪印化状態は完全に解除されていた。
「大蛇丸…、てめえ…」
呪印が解除された時の疲労感からふらつくサスケ。
その有様を見ながら、大蛇丸は見下すように言う。
「もともと呪印をアナタに授けたのはワタシじゃない。
木の葉隠れの里ですら、呪印の封印術を編み出したのだから、ワタシがそれ以上の封印術を持っているのは当然じゃない?」
当然と言えば当然と言えよう。
大蛇丸は呪印を実験と称して様々な忍に埋め込んできた。
大蛇丸にしたがう者だけでなく、時には捕えてきた敵にも。
呪印が適合するのはその場合味方だけではない。
暴走する敵を抑え込む手段問うものは考えてしかるべきであろう。
このサスケのように。
サスケは呪印という武器を一時的にであろうが失った。
この状態で大蛇丸という難敵を倒さなければらならない。
サスケの脳内では大蛇丸を倒すための方策を考えていた。
しかし、
“…勝てない、のか?”
大蛇丸から享受された術の数々はある。
しかし、当然それは大蛇丸に読まれているだろう。
発動の印を見れば大蛇丸はその術がなんであるのかを看破する。
そして対応策を取られるだろう。
術で勝つのであれば、大蛇丸以上の習熟度の術を使う必要があるが、サスケにはそんな術はなかった。
写輪眼で解析できる以上、一度見れば十分、それがうちはのやり方であったが故に。
なるほど、カカシ先生が大蛇丸に勝てないのも道理か、そうサスケは思い至った。
カカシは印を組む速さが早い。
それは血がにじむほどの努力の結果である。
そして、写輪眼で相手の術を解析し、相手より半瞬早く術を発動することで、敵の術を潰す事が出来た。
つまり、印を結ぶ速さが五分以上の相手には勝ち目がないということ。
そして大蛇丸は忍術の天才。
印を結ぶ速さもカカシと五分であろう。
今のサスケにはその印を結ぶ速さで大蛇丸に勝つことは不可能だ。
術比べでは大蛇丸の勝利である。
ならば幻術か。
確かに万華鏡写輪眼を開眼してから、サスケの幻術は一段強力になった。
そう、一段、程度である。
実際、隙あらば大蛇丸に幻術を仕掛けているが、ことごとく解呪されている。
これもまた無理。
ならば体術か。
先ほど最高の「千鳥」を撃ち込んで弾かれている。
…ならばもう打つ手は。
そう考えた時。
「…これで、ワタシのあげたものはない、わね」
大蛇丸がそう言った。
ひどく穏やかな目をして。
「さ、我が弟子。
あとは、アナタが本当にモノにした技を、ワタシに見せなさい。
それで倒せなければ、アナタの体はワタシのもの。
さあ、本当のアナタの力を見せてごらんなさい」
かれは、師としてそう言った。
サスケは唖然としていた。
これは大蛇丸の余裕なのか!?
しかし、サスケには考えている余裕はない。
大蛇丸に通じるであろう術、己の本当にモノにした、と言える術は1つしかない。
そう、「ねじり千鳥」。
それしかない、と言える。
なれば。
サスケは意識を切り替え、大蛇丸に向かって構えた。
「そう、それでいいわ。
そうでなくては、その体をワタシのものとする意味もないのだから」
そう
呪印は一度発動すると強大なチャクラを使用者にもたらすが、反面その効果が切れた時の疲労は半端なものではない。
本来であれば倒れていてもおかしくはないのだ。
しかし、ここで倒れれば、うちはイタチを殺すなどと言う前に、己の体は大蛇丸に乗っ取られ、その精神は封印される。
大願を成就するまでサスケは歩みを止める訳にはいかないのだ。
サスケは己の練る事の出来る限界までチャクラを練り、大蛇丸を見る。
穏やかだ。
先ほどまでの激情はなりを潜め、大蛇丸と己だけが世界に在る、そう感じていた。
周囲にいる音隠れの者達も息を潜めて勝負の行方を窺っていた。
サスケの息のみが周囲に響き、
「ふっ!」
サスケが大蛇丸に向かって走り始めた。
ちりちりという、「千鳥」独特の鳥の鳴き声のような音が修理に響いた。
先ほどとは違い、走り始めてから徐々に前傾姿勢になっていく。
全身のチャクラの流れを完全にコントロールし、加速、減速を細かく行い、自分の真の速度を大蛇丸に読み切らせないように。
大蛇丸からは左右にぶれている自分が見えているはず。
これはブンブクとの訓練で培った体捌き。
歩幅の変化、膝を活かした走法によるスピードの増減。
雷遁を使った加速法、関節部を強化するチャクラの使い方は音隠れの皆との訓練によって手に入れたもの。
そして、元となった「千鳥」は己が生まれた木の葉隠れの里の先達から。
学んだものを全て組み合わせ、再構成して出来上がったサスケだけの術、それが。
「行くぞ師匠! 『ねじり千鳥』!!」
サスケの左手は螺旋を描き、大蛇丸へと向かう、そして…。
大蛇丸は、サスケの繰り出そうとしている「ねじり千鳥」の初動を見逃すまいと全神経を集中させていた。
あれは一旦喰らってしまえば大蛇丸とて死ぬであろう威力を持っている。
しかも、あまりにも攻撃の速度が速い為に、変わり身などを使っている余裕がない。
要は避けるか受け止めるかしなければ、直撃すれば命が無い、ということだ。
下手を打てば死ぬ、そのような緊迫した状況でありながら、大蛇丸は意識を集中させつつ、考えていた。
“すばらしいわ、サスケ君、これが私が育てた忍界の次代を担う逸材”
“すばらしいわ、サスケ君、これがワタシの次代の体”
大蛇丸の思考は2つに分かれていた。
サスケを次代の忍界を背負って立つ己の弟子、そして次代の己の肉体、と。
サスケの体を乗っ取るなら、その精神は死んだも同然である。
しかし、サスケをそのまま次代のホープとして考えるなら大蛇丸は別の体を確保しなければならない。
サスケという少年を、師として大蛇丸は愛している。
サスケという少年の体を大蛇丸は欲している。
サスケとの決着が迫る中、大蛇丸の精神は2つに分かたれようとしていた。
サスケが「ねじり千鳥」を繰り出した瞬間、彼の姿が消えた。
いや、消えて見えるほどの速度で大蛇丸に突進したのだ。
そして大蛇丸の目が、辛うじて、本当に辛うじてサスケの左手を捕えた。
「かあっ!」
大蛇丸の裂ぱくの気合が周囲に轟き、
大蛇丸の
サスケは愕然とする。
これでも届かないのか。
オレの修練は無駄だったのか。
そんなはずはない。
まだ何かあるはずだ、何か。
まるで走馬燈のようにサスケの人生がフラッシュバックする。
初めて覚えた手裏剣術。
優しかった両親、目標だった兄。
うちはのいとこたち、既に鬼籍に入っている。
うちはの壊滅した夜、兄であるうちはイタチが言っていたこと。
忍術学校でひたすら強くなるために自主訓練に励んでいたこと。
チームを組むことになった馬鹿とサクラ、遅刻魔。
実地訓練での鈴取り。
実は優秀だったはたけカカシ上忍。
忘れられない再不斬と白。
中忍試験でカカシから千鳥を教えてもらったこと。
ナルトが見る間に強くなって嫉妬した。
それを埋めるため、ブンブクに話しかけ、イタチ対策を話した。
強くなる為に木の葉隠れの里を抜け、音隠れの里に来た。
大蛇丸との訓練の日々。
ナルト達との再会。
ブンブクがやって来て、サスケの周囲は一気に騒がしくなった、嫌いではなかったが。
そして、
ブンブクを殺し、
大蛇丸を殺そうとして、失敗し、
いや、なにか、あった、はず。
その時だった。
ふっと頭の中をよぎったもの。
訓練の時、ブンブクが中忍に捕えられた。
ブンブクも相手を引き剥がそうと右腕を相手のあごに掛けたはいいが、その腕ごとがっちりホールドされてしまっては自由も効かない、そんな時。
ブンブクが左の手のひらで、抑え込まれた右腕の肘を強く叩いた。
本来打撃とはある程度の隙間がなければ威力を発揮しない、しかし、その右の掌底はビリヤードのキューに突かれた玉のように、中忍のあごを打ち抜いた。
そんな光景。
ブンブクは左の手で右の肘を叩いていた。
しかし、サスケの腕は左腕を打ち出すカウンターウェイトとして後方に振り出されている。
故に右手は使えない。
「ならば!」
サスケは、腕ではない、ならば、
脚だ。
サスケの跳ねあげた左の膝が、伸びきっていない左の肘を強く打った。
そして、
「喰らえ! 『脚破・ねじり千鳥』!!」
そして、その衝撃で更に加速したサスケの左手は、雷遁の輝きを、
大蛇丸の体に叩き込んだ。
「おい、どうなった?」
音隠れの誰かが言った。
カブトも、幻幽丸も何も言わない。
サスケは大蛇丸の後方に膝をついていた。
左の腕は伸びきったままだ。
そして、
大蛇丸は、
「た、大した、ものね、この、大蛇丸を…」
大蛇丸の胴体、左の脇腹から腰の辺り、そこまでの肉体が、
完全に消滅していた。
この時、大蛇丸の精神は完全に2つに分かたれていた。
師としてサスケを愛する心。
生にしがみつくあさましい心。
2つの心は真っ二つに裂かれ、その1つが大きく空いた胴体の空洞からこぼれ落ちた。
大蛇丸の本当の意味の核を成す小さな白蛇の姿をしたそれは、その体に染みついた本能に従うように瓦礫の間に滑り込み、そこに在った空洞に身を潜めた。
しばしの休息と、失った力を取り戻すために。
カブトはその時異変に気がついた。
大蛇丸の雰囲気が変わっている。
まるで飢えに苛まれている爬虫類のような雰囲気に。
「もしかすると、まずいかも…」
その呟きに、幻幽丸が反応した。
「どうした、カブトさん。
何か知ってるのかよ?」
カブトはその問いに、
「大蛇丸様は、『不屍転生』の秘術によって他者の肉体を乗っ取る事が出来るんだ。
その際、乗っ取られた側の精神は大蛇丸様の精神世界に封印されることになるんだけど…。
大蛇丸様の力が大きく減じた場合、抑え込んでいる精神が暴走するかもしれない、そういう推論も存在しているんだ」
「じゃあ、もしかしたら…」
その時、大蛇丸の肉体が、べきべきという音を立てて盛り上がり始めた。
周囲におぞましい陰の籠った声が響く。
「さあすうけえくうぅうんん、あぁなあたぁあのからぁあぁあだあうぉおおちょうだああいぃ!!」
蛇に蛇が絡みついたような巨体と、それにふさわしい巨大な八つの頭を持つ蛇、
「くっ、皆避難するんだ! このままではあの巨体に押しつぶされるぞ!!」
カブトの声が周囲に響き、その一瞬後、音隠れの者達は施設より各自脱出していった。
音隠れの里人がほうほうの体で施設を逃げ出してしばらくして。
「どうやらおさまったようだね。
みんな、ボクは調査に行ってくる。
皆はしばらくここで待っていてくれ」
カブトはそう言うと、幻幽丸など数人の護衛を連れて施設、というよりは大蛇丸とサスケがどうなったか、を確認しに行った。
サスケはすぐに見つかった。
破壊しつくされた修練場、その瓦礫の1つに腰をかけていたのだ。
カブトは大蛇丸もすぐに見つけた。
大蛇丸、というより、人間を一飲みにできそうな人面の大蛇そのものの姿をした大蛇丸の
カブトはここで行われていた事が把握できた。
大蛇丸が不屍転生の儀式によってサスケの体を乗っ取ったということ。
しかし。
サスケは立ち上がり、カブトの横を通り過ぎた。
カブトはサスケに、あるいはサスケの体を乗っ取ったであろう大蛇丸に、
「今の君は…、
いったいどちらなんです?」
そう、尋ねた。
サスケは立ち止り、
「どっちだと思う?」
そう聞き返してくる。
なんと答えて良いか分からないカブトの目の前でサスケの瞳が変わった。
写輪眼、いや、違う。
瞳の中に3つの勾玉があるような、写輪眼の黒眼ではない。
今のサスケの瞳には、アーモンド状の楕円が十字になっている、今までの写輪眼とは全く違う文様が浮かんでいた。
その目の中に引き込まれるようにサスケの瞳を見つめるカブト。
そして、その場で何があったか、それを幻術として見せられた。
「大蛇丸様が死んだ…? それにブンブク君も…。
しかしこれではまるで…」
呆然とするカブトに、サスケは、
「オレが奴の全てを乗っ取ったのさ」
そう言い捨てると、カブトに背を向け去ろうとする。
「サスケ君! 君はこれからどうするんですか!?」
その背に問いかけるカブト。
「決まっているさ、オレはイタチを殺す。
それだけがオレの悲願だ。
それがなされなければ全てが浮かばれない」
それ以上を全て背中で拒否し、サスケは去っていった。
彼の言う「全て」とは。
イタチに殺されたうちは一族の皆か。
それとも、経った今その力の全てを奪った大蛇丸か、それとも万華鏡写輪眼を開眼する為に殺した茶釜ブンブクか。
呆然としていたカブトを正気づけたのは幻幽丸だった。
「おい、カブトさん、カブトさんてばよお、しっかりしてくれ、大蛇丸様がいなくなった今、音隠れの頭はあんたなんだぜ」
その言葉に正気を取り戻すカブト。
「え?」
考えてみればそうだ。
大蛇丸が創設したこの音隠れの里。
初期の頃は上層部と呼べるのは大蛇丸とカブトだけ。
こうして人員が増えたとしても、里の決定権は大蛇丸1人にあり、その次にはカブトが存在していたのだから。
なれば、大蛇丸が消えた今、里の決定権を持つものはすなわちカブト1人である。
「ボ、ボクが音隠れの長!?」
動揺するカブト。
いままで大蛇丸の決定がカブトの全てだった。
その自分が里の長など…。
「…カブトさん、アンタ、気付いてないのか?
大蛇丸様は研究が主で、里を動かしてたのは実質はあんたなんだぞ。
大蛇丸様には従うさ、あの方は間違いなくオレ達の「神」だからな。
だけど、里の長としてここ数カ月やってきたのは間違いなくあんただ。
オレ達はあんたの指示に従うぜ、長殿」
幻幽丸はそう言った。
周囲にいる音隠れの者達も、そろって頷く。
いつの間にか、カブトは彼らの信頼を得ていた。
「…分かりました。
まずはここから移動しましょう。
さすがに大きな騒動を起こしました。
大蛇丸様は死んだとは言え、まだ我々の事は他の里には知られたくありません。
一旦第26研究施設に移動して、体勢を立て直しましょう。
皆で資料と、そうですね、大蛇丸様の遺体を運んでください。
研究の為の資料とします。
あの方であればそうしたでしょうから」
凛としてカブトはそう言い放った。
これより音隠れの里は、薬師カブトを長とした体制を作り上げる。
彼らが忍界大戦でどのような役割をするのか。
それは後日語られるべき事であろう。
「やあうまくいったねえ」
「マッタクダナ、飛段二大蛇丸、チノカマノ小僧モヨク踊ッテクレタ」
「これでサスケ君はこっちの思い通りに動いてくれるね。
次はイタチかな?
これまた楽しみだねえ」
「とびノ方モウマクヤッタラシイゾ。
ソノ内二オ披露目スルソウダ」
「へえ、楽しい事がいっぱい増えるねえ
「フン、能天気ナコトダ。
サテ次ノ策ヲウツトシヨウ」
人形遣いたちは次の幕を開く為に消えていった。
さて、本当に人形は思い通りに動いてくれるのか。
本当に邪魔な小石はどけられたのか。
それもまた、後日語られるべき事なのだろう。
サスケが音隠れを出てから数日。
各国の忍達が極秘調査を始める直前の事である。
地面が盛り上がり、土と瓦礫が押しのけられる。
そして。
「ぷはっ、死ぬかと思った。
…ってあれ? みんなは? 施設の屋根はどこ行ったの?
いったい何が起きたんだってばよ!?」
サスケの万華鏡写輪眼はまだ不完全です。
完全になると原作のような六芒星型になります。