NARUTO 狐狸忍法帖   作:黒羆屋

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第56話

 ごりり、ごりり。

 がり、ごり、ごしごし。

 きゅきゅっ。

「うん、なっかなかいい出来じゃ~ん」

「暁」の拠点の1つにてトビは作業を終えていた。

 ペインの呼びだす尾獣封印の為の巨大な像、「外道魔像」の一部をペイン本人から譲り受け、トビはクナイでそれをコリコリと削り、なにかを作り上げていた。

 見た目は「酒杯」とでも言うのだろうか。

 液体が注がれる為に在ると思わしき半円状のカップ部分。

 そこからすらりとした脚が伸び、机に置かれた時、その机と接する台が円状に広がっている。

 一般的なワイングラスのようにも見えるそれは外道魔像の一部を削り出し、トビ自ら磨き上げただけに、その表面にまるで大理石のような文様を描く一種の芸術品じみた気品を放っていた。

「さってとお、んじゃま、捕まえて来るっすかねえ…」

 トビは立ち上がり、

「先輩、ちょっと出かけてくるっす、あ、ペインさんからは許可もらってるっすよ~」

 そう暁の先輩であり、2人1組(ツーマンセル)の相方であるデイダラにそう言った。

「…どこいくんだ、うん?」

 デイダラからすると、いろいろ迂闊なトビが1人で出て歩くのは不安でしょうがないらしい。

 トビはそのデイダラの不安を払しょくするように

「大丈夫っすよ。

 ちょっと……、

 

 新しい『暁』のメンバー、ナンパしてくるだけっすから」

 

 そう、爆弾を落とした。

 

 

 

 は?

 僕はうちは兄ちゃんが何を言ったのか分かりませんでした。

 でも僕の体はしっかり状況に対応してくれているようです。

 兄ちゃんから適度な距離を取り、いきなり切りつけられない程度、かつ、兄ちゃんの得意とする手裏剣術の間合いの内側をキープしつつ、手にはいつもの寸鉄を兄ちゃんに見られないよう握りこんでいます。

 なんて言うか、忍の業って言うのを自分にも感じます。

 兄ちゃんは、なんていうか、うつろな、でも異様な熱気のこもった目を僕に向け、

「…死ね」

 そう言うと、僕に斬りかかってきました!

 その一閃を僕は辛うじて避けました。

 …どうやら兄ちゃんは割りきれてない様子。

 剣筋にも乱れがありますし、本人は無表情を貫いているつもりなのでしょうが、顔が明らかに歪んでいます。

 これならばなんとかなるか?

 兄ちゃんの不意を突き、「金遁・什器変わり身」で僕の部屋に置いてあるお猪口と僕を入れ替える事が出来れば、後は遁走するだけです。

 実際の所、什器変わり身は金遁と言ってますが、実際の所は時空間忍術の1つ。

 使い手によってはかなりの距離を飛ばす事も出来るんですよ。

 その為にも今は少しでもチャクラがほしいところ。

 まずは「影分身」を解除して…ってえ!?

 !!! あっぶなっ! もう少しでざっくり肩を持ってかれるとこだった…。

 僕が動揺したのは、今発動中である影分身の術を解除しようとしたところ、解除できなかったためです。

 術が解除できないという異常事態に動揺したっていうのもあるんですが…。

 影分身って練り上げたチャクラを等分して、術者本人と分身に割り振る訳なんですけど、その際にチャクラの保有量みたいなものも分割するんですよね。

 まあ言ってしまうと影分身を発動中は分身に割り振った分のチャクラの回復を見込めない、ということでして。

 つまりは、今うちは兄ちゃんの攻撃を凌ぐのに現在のチャクラ保有量、大体強めの下忍程度の分量でしょうか、で何とかしないといけない、という事になっちゃうわけです。

 えい仕方ない!

 あんまり無理はしたくないんだけどなあ。

 僕は兄ちゃんの剣閃から大きく飛び抜くと、「金遁・什器変わり身」の術を使う為、印を組み、そして…!

 術が発動しない!?

「無駄だ、お前の術は読んでいる。

 時空間忍術はここでは制限される」

 うちは兄ちゃんがそう言うのが聞こえました。

 

 

 

 うちはサスケは茶釜ブンブクを呼び出す前に、修練場にあらかじめ封印術の法陣を設置していた。

 彼があまりチャクラの保有量が多くない事、そして化け狸や器物の口寄せ、転移といった時空間忍術に属する術を得意としている事は知っていた。

 その為、低位の時空間忍術、特に封印術を敷いた空間からの出入りが可能なものは使用が出来ない、もしくは余分にチャクラが必要になるようになっていた。

 その為、時空間忍術、特に茶釜家秘伝のものは消費されるチャクラを抑えるよう術が構成されているのが災いして、ブンブクには発動する為のチャクラ量がかなり負担になっていた。

 チャクラを多く消費するということは、同時に印での制御が難しくなるということ。

 戦闘を行っている最中にブンブクが転移術を使用することは絶望的になっていた。

 そして、サスケから距離を取った事はブンブクを窮地に追い込むこととなっていた。

「うわっ! どぅえいっ!!」

 サスケは元々手裏剣を得意としている。

 先ほどからブンブクに向けて、十字手裏剣が様々な角度から飛来しているのだ。

 サスケは手首の返しなどで、手裏剣の打ち方を変え、ブンブクが回避しづらいタイミングで打ちこんでいた。

 一方ブンブクは手裏剣術を苦手としている。

 現在の間合いではサスケが圧倒的に有利だった。

 

 サスケの手から手裏剣が飛ぶ。

 それにはごく細い糸が括りつけられている。

 それはブンブクが回避を行うと同時にサスケの指の動きにより、細かな振動を与えられ、クン、と空中で軌道を変化させて再度ブンブクに襲いかかる。

 サスケの得意とする手裏剣術、「操手裏剣の術」である。

 しかし、

「なに!?」

 手裏剣はさらに軌道を変え、サスケの方へ飛んでくる。

 何が起こっている?

 サスケは手裏剣を回避しながら写輪眼を発動させた。

 サスケの目に、チャクラの流れが視覚情報として入力される。

 …なるほど。

 サスケは理解した。

 ブンブクの指に、黒い糸が絡みついている。

 操手裏剣の為にくくりつけてあった操作用の糸、これにブンブクは自分の糸を絡めてサスケの操作を乱したのである。

 タネが分かればなんのことはない。

 しかし、この一瞬でそのような小細工を使うことを判断した、その決断力にサスケは驚いた。

 とはいえ攻撃の手を休めることはしない。

 矢継ぎ早に手裏剣を飛ばす。

 その際に墨塗りの手裏剣をその陰に潜ませて打つ。

「影手裏剣の術」である。

 操手裏剣の術も影手裏剣の術も、手裏剣術の修行を怠らなかった幼いサスケへの、うちはイタチからの贈り物であった。

 その兄から貰った術で、弟分となったブンブクを殺そうとする。

 何とも皮肉な話だ。

 しかし、すいと印を組んだブンブク、その肩に手裏剣が突き刺さるかと思われた瞬間。

 きん!

 と甲高い音を立てて、手裏剣ははじけ飛んだ。

 みればブンブクの肩口、そこには金属の肩当てがあった。

 いや、良く見れば鋲の打ってあるそれは肩当てではない。

「…茶釜?」

 そうそれはまるで肩当てのようにブンブクの方に装着された「茶釜」であった。

 ブンブクはにやりと笑ってみせると、

「これぞ秘伝『金遁・部分什器変化』の術ですよ、兄ちゃん」

 そう言った。

 金遁・部分什器変化。

 体の一部を金属の什器に変化させる術。

 無論ブンブクの実力では達人の使う鋼の剣を受け止めるのは難しい。

 同様に、もしサスケの投げた手裏剣が一直線に刺さる棒手裏剣であれば茶釜を貫いてブンブクの体に突き立っていたかもしれない。

 しかし、サスケが打ったのは木の葉隠れの里でも一般的な十字手裏剣。

 十字手裏剣は回転して飛来する。

 故に、点で飛来する棒手裏剣よりは命中率が良く、また相手を切り裂くように傷つける事が出来る。

 しかしその分、貫通力は棒手裏剣に劣るのだ。

 だからこそブンブクは茶釜で手裏剣を弾く事が出来た。

 だからと言って、今のこの状況が絶対絶命のピンチなのに変わりはないが。

 

 

 

 まずいなあ。

 傍から見れば一見なんとか逃げ回っているように見えるかもしれない。

 でも、僕は確実に追い詰められていた。

 兄ちゃんの打つ手裏剣は、確かに僕の首や足を狙っていて、一撃でも貰えば戦闘不能になりかねない威力がある。

 でも、それ以上に厄介なのが、その攻撃は僕が避けた場合の事も考えてなされているって事。

 当たれば良し、当たらなかったとしても強烈な攻撃を充てる為に僕の動きを制限、誘導する事が出来るよう考えられて撃たれているって事なんだよね。

 僕は動きを制限されないよう、部分什器変化の術を解除して、攻撃を避けつつ使える忍具を確認していた。

 今は時空間忍術系のものがほとんど使えない。

 辛うじて元々のチャクラの消費量が大きい「口寄せ・狸穴大明神」くらいなんだけど、こんなん使わせてくれる好きなんてないよね。

 忍具の口寄せも封じられてるから懐にある代物でなんとかやりくりするしかない。

 とはいっても変わり身が封じられている以上、短距離の転移ですらできないので「金遁・什器変わり身」による奇襲もだめ。

 そうなるってえと懐に入っているお皿とかはほぼ無力、と。

 …詰んだ?

 いやいやいや、まだ諦めんよ!!

 僕は手元の煙幕弾と閃光弾、その他ちょびっとに仕込みをしつつ、とにかく攻撃を避ける事に専念するのでした。

 

 

 

 茶釜ブンブク。

 一旦殺すとなればここまで厄介な相手だったとは。

 サスケは驚きをもってブンブクを見直していた。

 とにかく危機回避能力が高い。

 サスケの打つ手を尽く回避していく。

 確かにこれならば、飛段と戦って死ななかったというのも分かる。

 しかし、

「お前の動きは読めている…」

 今まで散々共に修練してきたのだ、

 基本的な動きはそうそう変わらない。

 今、サスケは確実にブンブクを追いこんでいた。

 ブンブクもその事に、とうの昔に気付いている。

 だからこそ、

「写輪眼対策、か。

 やっかいだな」

 俗に言う3大瞳術の1つである写輪眼。

 伝説にすぎない輪廻眼はさておき、白眼と比べると写輪眼には付加効果が多い。

 チャクラの流れを見る事の出来るだけの白眼に比べ、術解析、幻術の発動など、写輪眼は使えるカードが多いのだ。

 だからと言って全ての面において写輪眼が白眼に勝るかというとそうではない。

 写輪眼はチャクラの流れを視覚化するが、それは相手の胎内のチャクラの流れが見える、という訳ではない。

 体表に出てきたチャクラの流れから、術の解析を行うのだ。

 術を使う場合、特定のパターンのチャクラの流れが体の周り、特に印を結ぶ手の周りに起きる。

 それを検知、解析するのが写輪眼。

 白眼はチャクラの濃淡など、チャクラそのものを判別するため、世界は色彩のある通常視角の世界に重なって、白黒の濃淡の付いたチャクラ視覚が見える事になる。

 体内のチャクラまで見通すことは、写輪眼にはできない。

 それを把握しているブンブクは、どうやってか、写輪眼を誤魔化す(すべ)を持っていたようだ。

 ブンブクの体の周りに、薄くチャクラの膜のような色が見える。

 この幕のせいでブンブクのチャクラの動きが見えにくくなっていた。

 

 

 

 僕が纏っているのは八畳風呂敷くんです。

 これはチャクラを流すことで形を変える性質があるんだけれど、つまりはチャクラの流れる半分生きた布、ということ。

 これを利用して、八畳風呂敷くんにチャクラを流し、八畳風呂敷くんのチャクラで僕自身のチャクラを兄ちゃんの目に映らないようにしている訳。

 写輪眼はあくまでチャクラの流れを可視化するだけで、透視の能力がある訳じゃないから。

 こうすることで、懐にある閃光弾とかの使用タイミングを兄ちゃんに読ませなければ何とか活路を見出せ…ないかなあ。

 そんな事を考えていると、やばい、だいぶ追い詰められている。

 しかしこの距離となると…。

 そう考えた時、うちは兄ちゃんが印を組んだ!

 やば! この術は!?

 

 

 

 仕込みは終わった。

 手裏剣術でブンブクを追いこみつつ、サスケはブンブクの周囲に操手裏剣に使った鉄糸を這わせていた。

 そして、

「火遁・龍火の術!」

 鉄糸に沿って炎がブンブクに迫り、ブンブクの退路を断った。

 あわてて懐から焙烙玉(しゅりゅうだん)のようなものを取り出すブンブク。

 しかし、

「遅い。

 …火遁・豪火球の術!!」

 火遁を得手とするうちは一族の代表的な技、火遁・豪火球の術がブンブクを襲う。

 逃げようにも、退路は龍火の術により炎に包まれている。

 そして、

「!!!」

 ブンブクは炎に包まれた。

 そして数瞬後、

 どん!

 という音と共に、ブンブクの手元が破裂する。

 先ほど持っていたものだろう。

 どうやら煙玉か何かだろうか。

 すぐにそれは豪炎球の炎に焼かれて消える。

 しかし、

 

「…そこだ!」

 

 サスケは「草薙の剣」を抜き放ち、()()に突きだした。

 草薙の剣は炎を寄せ付けない。

 豪炎球の炎を切り裂き、それ、茶釜に狸の手足のついたようなものを串刺しにした。

 炎に包まれ、串刺しにされながらぴくぴくと動くそれ。

 炎の中に変わり身を残し、本体は先ほどの煙玉に紛れて遁走するつもりだったのかもしれないがそれは許さない。

 やがて手足、頭が焼け落ちた頃、

 どぱん!

 人型が急に破裂した。

 何度も破裂音をさせ、ブンブクの形をした人型が崩れ去っていく。

 まるで踊りでも踊っているようにくるくると回転しながら崩れていく人型。

 そしてサスケの切っ先から、ばくんという音と共に茶釜が地面に落下した。

 地面にぶつかり、真っ二つに砕ける茶釜。

 これで、茶釜ブンブクは、

 死んだ。

 呆然とするサスケ。

 これで終わったのか?

 周囲には黒焦げになった地面と、ブンブクが持っていたらしい忍具。

 それのどれもこれもが原形を留めていない。

「は、は、…ははは…はっははは…、…ぐっ」

 サスケは目を押さえた。

 サスケの両目。

 その黒目に当たる部分に写輪眼とはまた違う文様が浮き上がっていた。

 まるで猫の光彩のようなアーモンド形の赤い文様、その中心部に、黒い瞳孔が点のように見える。

「…そうか、まだ足りないのか…」

 サスケはかつて写輪眼が限定的に開眼した時のような感じを味わっていた。

「そうか、ブンブクだけでは、足りないのか…」

 サスケはまるで夢遊病ででもあるかのように、ふらりふらりと歩き始めた。

 その先にいるのは…。

 

 

 

 大蛇丸は深夜遅く、研究棟でデータの取りまとめをしていた。

 最近、この手の仕事が楽しくて仕方がない。

 やはり、研究者もチームで行うのが良かったらしい。

 大蛇丸は忍術のエキスパートである。

 そう、忍術の、だ。

 医療や生物学のエキスパートのセイ博士、分野の深い所は大蛇丸やセイに負けるが、その分野の幅は2人の追従を許さないほどのキョウジ博士。

 彼らとのディスカッションは大蛇丸の停滞していた思考に喝を入れた。

 自身とは異なる考え方に触れることで、大蛇丸の天賦の才能は、まるで新しい空気を吹き込まれたかのように活性化した。

 自来也など見る者が見たなら、大蛇丸本人とはとても思えないのではないか、または、かつての自来也達が肩を並べ修行や任務にいそしんでいた頃の彼を思い出すかも知れない。

 

 大蛇丸がデータのまとめをあらかた終えた頃である。

「…誰かしら、この騒ぎ」

 大蛇丸は振動を感じていた。

 これは…修練場の方か。

 しかし、これだけの衝撃をそれなりに離れた研究等に響かせるとは、それ相応の術を使わなければ不可能だ。

 大蛇丸は立ち上がった。

 

 修練施設へと移動していく大蛇丸。

 特に警戒する様子はない。

 当然と言えば当然だろう。

 ここは大蛇丸の家も同然。

 そこで緊張し続ける者はいないだろう。

 とは言え、

「!」

 いきなり突き込まれた「なにか」を避ける程度には大蛇丸は忍の心構えを捨ててはいなかった。

 大蛇丸の心臓に向かって伸びてきた「雷遁のチャクラの収束した剣」のようなもの。

 それを繰り出してきたのは、

「大蛇丸、アンタの命を貰いうける…」

 …鬼の目をしたうちはサスケだった。

 

「なるほど、ワタシから学ぶものはない、そう言う事かしら?」

 大蛇丸はサスケを前にそう言った。

 一見尊大に見える大蛇丸。 

 しかし、

“ふうん、ワタシの知らない形態変化、ねえ”

 その目は油断を感じさせないものだった。

 サスケはここしばらくで急速に強くなった。

 サスケは、確かに経験、という点では大蛇丸の足元にも及ばない。

 しかし、その才能は大蛇丸をして嫉妬するほどのものである。

 故に、大蛇丸は己の次代の器としてサスケを木の葉隠れの里から引き抜いたのである。

 そのサスケが本気で自分を殺しに来ている。

 大蛇丸は、

 にまぁり、

 と、微笑んだ。

 ここで自分を殺せるようならばイタチに届くだろう。

 そして出来ないのであれば、

「サスケ君、アナタを貰いうけるわ…」

 その体、この大蛇丸の体として貰いうけよう。

 ここに、蛇の師弟の戦いが始まった。

 

 白い影は踊る。

 幕引きはもうすぐ。

 

 

 

 ぎゃりん! と甲高くも耳障りな音をさせて2つの銘刀がぶつかり合う。

 大蛇丸の持つ「草薙の剣」とサスケの持つ「草薙の剣」だ。

 大蛇丸の草薙の剣が新刀と呼ばれる、刀のうち、反りの浅いものに対し、サスケの草薙の剣は片刃の直剣である。

 これは大蛇丸がサスケの戦い方に合わせて己の持つ銘刀をうち直してサスケに与えたもので、それが己に向けられるとは大蛇丸にとっても皮肉なことであった。

 いや、むしろ大蛇丸にとっては望んだことだったのだろうか。

 無表情ながら熱に浮かされたようなサスケの顔に対し、大蛇丸は明らかに楽しんでいる様子があった。

 剣戟の衝撃により、周囲の壁に亀裂が入り、ガラガラと崩れおちる。

 その音に驚いた音隠れの者達がやってくる、しかし、

「手出し無用よ」

 大蛇丸の笑顔交じりの静止により、手出しできるものはいなかった。

 

「いったい何が起きてるんだ?」

 王仁丸幻幽丸は呆然とし、次にこの状況が分かりそうな人物、つまりは薬師カブトに尋ねていた。

 とはいえ、カブトも現状を把握しているとは言い難い。

「…元々、サスケ君は大蛇丸様から、兄であるうちはイタチを倒せるほどの力を手に入れる代償に、大蛇丸様の次世代の器としてこちら側に来たんだけどね」

 その言葉に、事情を知らない若い者達はぎょっとした顔をする。

「まあ、大蛇丸様もサスケ君を育てるのが楽しくなったみたいでね、今使っている体にも特に問題は出ていないようだし。

 後はそうだね、どうやらブンブク君から聞いたことでなにか閃いたみたいでね、それをセイ博士たちと研究してるから、てっきりそれはもううやむやになってたと思ったんだけどね。

 あの様子だと、大蛇丸様からじゃなくて、サスケ君から突っかかったのかな?

 それにしてもおかし…、ん!?」

「どうしたんだ、カブトさん」

「一瞬見えたんだけど、サスケ君の目、なにかおかしくなかったかい?」

 カブトの顔は険しい。

「そりゃ、あいつの目は『写輪眼』だろ。

 大蛇丸様と戦ってるんだから使うにきまってんじゃ…」

「いえ、目の文様が、どうも写輪眼のものじゃないような…」

「どういうことだ?」

 疑問をぶつけてくる幻幽丸に、カブトは眉間にしわを寄せながら、

「もしかして、あれは伝説の…」

 そうぶつぶつと呟き始めていた。

 

 意外な事に、戦況はこう着状態であった。

 不完全とはいえ万華鏡写輪眼の力を得たサスケ、その力で大蛇丸の使う術は全て把握できている。

 なれば十分に勝機はある、そう考えたサスケであるが、大蛇丸の経験はサスケの才能を凌駕していた。

 サスケは大蛇丸の術を解析できるが、同時に大蛇丸もサスケの師匠であり、サスケの動きは手に取るように分かっている。

 その為、術を行使しようとすると双方即座に対応策を取られてしまい、決定的な一撃を打ち込む事が出来ない。

 一進一退の攻防が続き、気がつけばすでに3時間以上剣を交えていた。

「はあ、そろそろ、オレに斬られてしまえ…」

 そう肩で息をしつつあるサスケに対し、

「そうもいかないわ、色々私もやりたい事があるんだから」

 余裕を見せる大蛇丸。

 実際に余裕なのか、実の所体力の限界が近いのかは分からない。

 少なくとも、自分の不利を他者に見せないよう隠す事が出来るのは経験の賜物なのだろう。

「やりたいこと、か。

 アンタのやりたい事ってなんだ?

 この世の道理を解き明かすだの何だのと、くだらない利己的な理由で他人を玩具のように弄び続けてる」

 言葉を発するたびにサスケの中に殺気が膨らみ、

「反吐が出る」

 そう吐き捨てた。 

「…そうね。

 間違いなく私のやっている事は利己的ね。

 でもねえ」

 大蛇丸はそう言うとぬめり、と笑う。

「じゃあ、アナタの目的である『うちはイタチを倒す』は利己的じゃないのかしら?

 いえ、その分だと今のアナタの目的は『イタチを殺す』かしらね?」

 大蛇丸はそう続けると、笑いを消し、

「いつからアナタは()()なったのかしら、それとも()がそうしたのかしらねえ…」

 サスケの心を射ぬく様に睨みつけた。

「! 何を言っている! 俺は変わってなどいない!」

 そう、変わったのはむしろ大蛇丸の方。

 サスケにここまで師としての愛情を注ぎ、里長として音隠れの里を切り盛りするなど。

 サスケは「元に戻った」と言う方がふさわしいように大蛇丸には思えた。

 なぜ元に戻るのか、それが分かれば…。

 それは大蛇丸の油断だったのか。一瞬視界からサスケを外してしまった。

 それを逃すサスケではない。

 大きく後方に跳び、そして、大蛇丸の目を覗き込み、万華鏡写輪眼の瞳術、幻術眼を使った。

 大蛇丸の動きが鈍り、そして、

解印(げいん)!!」の言葉と共に幻術が破られた。 

 はた目から見れば大蛇丸が印を結んでいる様子はない。

 しかし、サスケの万華鏡写輪眼にはチャクラの流れが見えていた。

 大蛇丸の背中、そちらに奇妙なチャクラの流れがあった。

 そのチャクラの流れを万華鏡写輪眼が解析する。

「…なるほど、『人傀儡』の腕、か…」

 大蛇丸の背中には忍を素材として作られた人傀儡の腕部が通常の腕とは別にくくりつけられていた。

 大蛇丸はその腕を使い、幻術の解印を行ったのだろう。

 今の大蛇丸は腕を失い、本来の大蛇丸の肉体の腕を人傀儡として加工して使っている。

 それを操作しつつさらに傀儡の操演を行っているのだ。

 伝説の三忍と言われるのは伊達ではない。

 しかし、

「ふううぅ…」

 サスケは

 サスケの左肩、そこにある「天の呪印」から、黒々とした影が湧き出し、サスケの体色を紫がかった土気色に変えていく。

 矢印のようなその文様は顔へと凝り、鼻梁に十字の文様を刻む。

 めりめりと肩甲骨がねじれ、肥大化し、まるで巨大な竜の爪、または皮膜で出来た鷹の翼のように大きく広がる。

 色素の抜けた髪はざわざわと伸び、腰のあたりまで届くほどになった。

 これがサスケの呪印化状態2である。

 それと同時にとてつもない勢いでチャクラが消費されていく。

 この姿になったなれば、短期間で勝負を付けなければならない。

 サスケは勝負に出るべく大蛇丸を挑発する。

「大蛇丸、アンタは俺より弱い」

 大蛇丸はその言葉を、

「言うわねえ、うちはのヒヨッコが」

 鼻で笑う。

 今の大蛇丸は実質30代から40代の最盛期の状態をキープしている。

 大蛇丸はここ数ヶ月で人体への理解が急速に深まった。

 今まで効能が高く、副作用も重い薬剤で薬漬けにしてきたが、医療、特に忍の弱い内科面での知識が深まった為、被験者の体に合った、適切な量というものが把握できるようになっていた。

 それを大蛇丸自身の体で試し、このベストコンディションを実現したのである。

 確かに大蛇丸の才能はサスケには及ばない部分が多々ある。

 こと、戦いにおいてサスケの才能は底なしなのではないかと思うほど。

 しかし、

「ヒヨッコじゃなけりゃ手に入りそうもなかったんだろ? あんた…」

 今のサスケに負けてやるほど、今の大蛇丸は落ちぶれていなかった。

「…サスケ君」

「む?」

「うちはがどうとか、どうでもいいわ。

 ワタシはアナタの底がみたいの。

 さっさとかかって来なさい?

 それとも、ヒヨッコは囀るだけなのかしら、ねえ?」

 そろそろ、「授けられただけの力」に頼るのはやめてもらわなければ、ねえ。

 大蛇丸は手首を返し、掛かって来い、と挑発する。

 今のサスケは呪印の力で凄まじく強化されている代わりに、感情が安定せず、更には呪印の影響で負の感情、特に怒りを覚えやすくなっている。

 その彼が挑発に乗らないわけがない。

「大蛇丸ぅ! うちはを舐めるなぁ!!」

 とてつもないチャクラを抱えたサスケと、いつも通りの大蛇丸が、激突した。


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