今回は大きく話が動きます。
ふむ。
木の葉隠れの里に里帰りして、ヒルゼンさまをお見舞いして、改めて影分身を置いて音隠れに帰って…とんぼ返りで来て、しばらくしてからのことです。
うちは兄ちゃんの様子がおかしくなりました。
要因としては飛段さんの敗北でしょう。
意外なくらいに兄ちゃんは飛段さんが気に入ってたんでしょうか。
毎回毎回ぶっ飛ばされていたんですけどね。
まあおかげで兄ちゃんの実力って桁が跳ね上がってるようですし。
よう、というのもそろそろ僕では強さが図れなくなってきちゃってるんですよ。
試合ではもう兄ちゃんの足下にすら食いつけなくなっちゃってます。
おかげで今の僕のお仕事は、兄ちゃんとの訓練後にディスカッションと、カブトさんの事務仕事の手伝い、研究班との益体もないお話くらいでしょうか。
この益体もない話し、というのもどうやら大蛇丸さんにとってはインスピレーションを刺激される代物らしく、1日に1回はセイ博士とか、キョウジ先生を交えてお茶会をしております。
まあなんといいますか、大蛇丸さんを含めて、研究家って寝食を忘れて研究に没頭しちゃう事も多く、まともにご飯を食べにこないこともしばしば。
なので、「糖分を取らないで脳の活動を活発化させるのはよくない」ということで、1日1回、3時のおやつの時間を研究班に義務付けるようにカブトさんに計らってもらいました。
そこに気がついたら僕も参加する羽目になっておりまして、正直言って専門用語を覚えるのが一苦労です。
…は? 飛段さんが敗北してって事、僕はなにも思わないのかって?
正直、その内にひょこっと現れると思うんですよね、あの人。
僕は木の葉隠れの里から飛段さん、角都さんとにいちゃ…うずまき兄ちゃんたちとの戦いの経過について詳細な所を聞いている。
で、その状況を聞いてなんですけど、飛段さんが死んだとはとても思えないのですよ。
上半身完全にすり下ろされてそこから体を再生するような怪物じみた蘇生力を持つ飛段さんが、爆殺程度で消滅するわけがない。
シカマルさんも、実質体をバラバラにして身動きできない状態で封印したようなものだって言ってたし。
角都さんは、何とも言えない。
はたけカカシ上忍曰く、「自爆して木っ端微塵」だって話だけど、この世界じゃあまりメジャーじゃないけど、「微塵隠れの術」なんてのもあるし。
爆発に紛れて変わり身、とかの可能性も否定できないんだよね。
とは言え、角都さんの不死のネタである複数の心臓、それが全部つぶされている以上、復活もないのか? そこいら辺がまだ分からないんですよね。
それはさておき、予想以上に飛段さんの不在が兄ちゃんのダメージになっている様子。
精神的な支えでもあったのでしょうか。
大分不安定になってる気がします。
本来であればカブトさんとかがそのポジションになるんでしょうけど、カブトさんもカブトさんで大蛇丸さんに依存気味で、兄ちゃんの精神的支柱、ってわけにもいかないようですし。
僕は僕で所属が木の葉隠れの里ですからして、それに、木の葉を裏切る気もないですしね。
とはいえ、音隠れにも愛着出てきちゃいましたし、出来れば揉めることなく仲良くできればいいのですが、このまんまじゃ難しそうです。
大蛇丸さんと綱手さまとでうまく折り合いを付けてくれると良いんですが。
うまくいかない場合は、次代の火影さまと、裏方のトップ、この場合はもしかしたら僕ですが、で調整する必要があるのでしょうね。
…ダンゾウさまの偉大さが分かるなあ。
なんだかんだいって、表向きもめたり無視したりしている所でもダンゾウさまってコネクション持ってるしねえ。
雨隠れの里なんてダンゾウさまいないとほぼ無縁だし。
あの「山椒魚の半蔵」さんに伝手がある人ってよっぽどレアだしねえ。
…話しが逸れました。
兄ちゃんは飛段さんいろいろアドバイスを受けていたようです。
僕が聞いてる限りはこんなのがありました。
飛段とサスケ、彼らに追従できる実力をもつものは、音隠れの中にも多くはない。
大蛇丸とカブトは例外とし、他には、名張の四貫目、王仁丸幻幽丸位のものだろうか。
故に、手合わせとなるとサスケ対飛段、幻幽丸対飛段、という戦いが主となる。
いま、まさに飛段とサスケがその得物をぶつけ合っているところであった。
「はっ、だいぶっ、ましになってきたじゃねえかあ!!」
がきんがきんと異形の鎌を叩きつけながら、飛段が言う。
「なん、のっ! まだまだぁ!!」
そう言いながらなんとか飛段の猛攻を捌くサスケ。
しばらく前ならば、とうの昔に弾き飛ばされ、地面に這いつくばっていた所だ。
飛段は、己のラッシュにサスケがついていけるようになったのを見て満足そうに笑い、
「んじゃあ第二段、いくぜええ!!」
更にその速度を上げていく。
それにもサスケは食いついていくが、ここで飛段は戦い方を変えた。
手首を返し、3枚もある鎌の刃、これでサスケの「草薙の剣」の刃を抑え込んだのだ。
いきなり戦術の変わった飛段に一瞬対応が遅れるサスケ。
動きの止まったその瞬間に、サスケの首に黒い槍がつきつけられた。
飛段の左手にいつの間にか握られていた漆黒の細身の槍、その切っ先が今にもサスケの首に届くか、その時に、
「サスケよお、ちっと休みを取ろうぜえ」
飛段からの一旦中止の合図が入ったのである。
飛段とサスケが組手を止め、周囲を見回してみると、音隠れの若者達がそれぞれ組手をしていた。
サスケ達の様子を見て火がついたらしい。
気合の入った組手をしている。
気が付くと、サスケの周囲には人の輪が出来ている。
サスケ本人は気付いていないのだろうが、サスケには人を引き付ける何かがあった。
天性のカリスマ。
そう言ったものがサスケにはあるのだろう。
それをサスケは自覚していないのだが。
彼らからしても、サスケを慕う半面、彼に負けていられないという思いもまたある。
結局の所、彼らもまた、忍なのだから。
サスケが音隠れの者達の組手を見ていると、
「そういやサスケよ、オメエこの先どうしたい、とか夢、みたいなもんってあんのかあ?」
飛段が話しのネタとして程度であろう、気軽に話しかけてきた。
「オレはイタチを倒せれば…」
「ああ、それじゃなくってよ」
飛段は既にその事…サスケはイタチを殺すだけの力を得るべくナルトたち仲間のいる木の葉隠れの里を逐電し、大蛇丸のつくった音隠れの里へと参じた事を知っている。
実際、サスケには何度となく聞かされている内容だ。
飛段の聞きたいのはそれではなかった。
「おめえがよ、イタチを首尾よく仕留めたとするぜ。
そしたら、オメエはどうすんだって話さ…」
「それは…」
サスケはその先を続けることが出来なかった。
かつてサスケは忍術学校を卒業し、チームを組むことになったうずまきナルト、春野サクラ、そして担当上忍のはたけカカシにこう言った。
「一族の復興と、ある男を…、 必ず殺すことだ」と。
しかし、既に一族はサスケとイタチしかいない。
少なくともサスケはそれ以上のうちは一族の生存を知らない。
家は一族の復興は、己が婚姻し、子孫を残し、増やす必要がある。
しかし、サスケが結婚し、子を成したとしても、その子の配偶者がいない。
婚姻が出来たとしても、自分と配偶者でうちはの血は2分の1、その子の子なれば4分の1。
確実にうちはの血は薄まるだろう。
その辺り、うちは一族のみならず、血継限界を持つ家系は近親婚にならない範囲で出来るだけ血の近しいものと結婚し、外部の血は出来るだけ入らないようにするのが通例だ。
中にはそう言った近親婚を避けるための血族独自の方策がある場合もあるが、幼くして木の葉隠れの里を飛び出してしまったサスケには、うちは一族がどのようにして血を絶やさず、かつ近親結婚を避けていたのかは分からないままであった。
その為、サスケは一族の復興は実質不可能である、そう考えている。
そもそもサスケはイタチさえ殺せれば、その先はどうでも良かった。
ゆえに、「次の大蛇丸の体」として大蛇丸に選ばれたとしても、サスケにはそれと引き換えに手に入る強さがあれば良かったのである。
しかし、サスケのその決断は「イタチを殺した」後の事を考える必要がなくなることを示している。
サスケは、子どもから大人に心身共に変化していく思春期をひたすら復讐を想って生きてきた。
その為、思考が単純化しがちなのかもしれない。
様々なことに想像力を回し、「次の事」を考える期間の少なさ、サスケがその事に初めて思い至った瞬間であったのだろうか。
飛段は動きが止まったサスケを見て、ため息交じりに言った。
「おまえなあ、いくらなんでもなにも考えなさすぎだろうよ…。
いいか、夢ってやつはな、『叶う夢』と『叶わない夢』があるんだよ」
いきなり何を語り始めたのか、サスケはいつも飛段が話すしょうもない内容とはまったく違う口調で話す内容に呆然としていた。
「こうやって打ち合って分かったんだけどよお、お前、少なくともイタチの足下くらいには手が掛かってんぞ。
それだけ強くなったってこった。
つまりだ、おめえにとってよ、『イタチを倒す』ってのはもう既に『叶わない夢』じゃねえんだ」
その言葉は、飛段から『強くなっている』というお墨付きを貰うのに等しい。
今までは比較対象もなく、とにかく実力を付けなければイタチに届かない、という思いだけで修練を積んできたが、そこに今のイタチの実力を知る飛段という実力者が手合わせの相手として現れた訳である。
おおまかではあるものの、サスケが今、イタチと比べてどれだけのレベルにあるか、という指針が存在し、実際に戦って勝つことが出来る、とそう指摘されたのである。
そこまで思い立ち、では実際にイタチと戦い、倒すことで兄であるイタチが何を考えてうちは一族を殺しつくしたかを聞くことが出来たなら。
そこから先、サスケにはなにもなかった。
呆然とするサスケに向かい、飛段は言った。
「例えば、だ。
オレの夢は『ジャシン様に近付き、同じ位置に至る事』だ。
はっきり言っちまえば、これは『叶わない夢』だ。
そうだろ、『神』になるなんてな夢物語だ。
神になっちまったら多分オレはオレでいられねえ。
存在の階位が変わっちまうんだからな。
だが、オレの夢には、ブンブクを殺し、『隣人を己に取り込む』ってのもある」
そこまで言った時、どこからか、「ふぎゃあぁぁ!!」と狸が絞められるような声がしたのは気のせいだろう。
「これはまあ叶ったとしたら、力を増したオレはまた別の夢、目標を立ててそれに動くだろうよ。
まあ漫然と生きるのもいいさ、だけどよ、お前にゃそれは出来ねえだろうよ。
んだからよ、なんか次の目標は、考えときなよ」
飛段はにやりと笑ってそう言葉をまとめたのであった。
考えてみると、兄ちゃんが実力を認めた人で、こうもすんなりと懐に入り込んだ人っていなかったんじゃないかと。
木の葉隠れの里で言うならカカシ上忍なんだろうけど、あの人時間にルーズでえらいグダグダな態度で担当上忍していたという話だったから(情報ソース:うずまき兄ちゃんおよびサクラ姉ちゃん)几帳面な所のあるうちは兄ちゃんは信頼しかねていたんじゃないだろうかしらん。
「ぶえっくしょいん!! あっれぇ、風邪引いたかなあ? ここんとこ写輪眼のおかげで体力減退中だしねえ、あ、『イチャイチャタクティクス』汚れてないよねえ」
…大丈夫だろうか。
しばらくして落ち着かないようだったら、大蛇丸さんに相談してみようかなあ。
そしてその数日後、うちは兄ちゃんは落ち着いたよう、だった。
ここで僕はもうちょっと兄ちゃんを良く見ておくべきだったのだ。
そうすれば、悲劇は避けられたのかもしれないのに。
ごりり、ごりり。
がり、ごり、ごしごし。
「なあ、トビ。
お前一体なにしてるんだ、うん?」
木の葉隠れの里の目の届かない場所。
ここは「暁」の拠点の1つ。
そこではデイダラ、そして「赤砂のサソリ」の敗れた後、新しく暁の精鋭に迎えられた「トビ」ガそこにいた。
トビはいま、石とも木ともつかない何かを、クナイでゴリゴリと削っていた。
「ああ、これっすか先輩。
ええっと、ペインさん? に貰ったんですよ、触媒にちょうど良さそうだったんで」
「うん? 触媒?」
忍の術に触媒を用いることはそう珍しいことではない。
ただ、デイダラにはトビの削るそれが、えらく不吉なものに思えて仕方がないのだ。
「…一体何を削ってんだ、うん?」
どうしても気になったデイダラはそうトビに聞いてみた。
「ああ、これはっすね…
外道魔像の、破片っすよ」
飛段が敗れた、との報はサスケにとって衝撃であった。
しかも倒したのは木の葉隠れの奈良シカマル。
サスケにとっては予想外の存在であった。
己の同級が、あの実力者を倒したと。
実際の所、様々な情報を収集、統合し、徹底的に策を練り込んで、更にそこに幸運が加味された結果であり、明晰な頭脳を持つシカマルからすれば赤点レベルの結果であった。
シカマルは自分はまだまだ未熟、飛段戦後にナルトにそう呟いていたという。
その結果、サスケは己の実力に疑問を持つようになっていた。
もっと強い力を。
圧倒的な力が必要だ。
なにも失わない為には、己に力が必要だ。
サスケは大蛇丸の書物、研究のレポートなどを読みふけり、己の力を強めるための方策を探していた。
しかし、それはうまくいかなかった。
なぜならば、大蛇丸とサスケの存在意義の違い、によるものであった。
大蛇丸の持つ資料は、忍術に関する資料である。
強大な術に関する記述、その使用法が書かれている。
そう、忍術に関する資料、なのだ。
忍術を用いた戦術書、ではないのだ。
その忍術をどう使えば、強力な相手を倒すことが出来るか、そう言った内容は書かれていない。
大蛇丸は忍術の研究家である。
戦術の研究家ではなかった。
無論、大蛇丸は海千山千の忍ではある。
戦術に関しても一家言持っている。
とはいえ、それは大蛇丸、に最適化されたもので、サスケにそのまま適用できるものではない。
結局の所、
サスケはふと己の部屋の隅で埃をかぶっているノートを見つけた。
そう、3年前、木の葉隠れの里を逐電した時にブンブクから持たされた「じゆうちょう」である。
あの頃は本当に子どもだった、そう懐かしさからそれを手に取った。
開いてみると、己の几帳面な文字に、若干殴り書き気味のブンブクの文字が入れ替わるように書かれている。
こう見てみると、シカマル譲りなのだろうか、意外なほどに対イタチ戦として書かれている部分が的確で、つい感心しながら見てしまう。
そして、
「…!」
サスケは見つけてしまった。
それは、イタチの能力を羅列した1ページ。
その中にその文字はあった。
万華鏡写輪眼。
写輪眼の上位互換である、とそこには書かれていた。
「万華鏡…写輪眼」
この言葉は、サスケの記憶を刺激した。
うちはの里が壊滅した時。
サスケは丁度外出しており、帰って来た時には父、母、仲の良かった親戚、いとこなど、老若男女問わず、全てが死に絶えていた。
愕然とするサスケに、まるで無機物のような冷たい目をした兄・うちはイタチはこう言った。
「この俺を殺したくば、恨め! 憎め!
そして醜く生き延びるがいい…、 逃げて逃げて、生にしがみつくがいい…」
そしてこうも言った。
「お前も俺と同じ、『万華鏡写輪眼』を開眼しうる者だ。
ただしそれには条件がある…
最も親しい友を、殺すことだ」
うちは一族の血継限界である写輪眼。
そのさらに上が存在していた。
そう、うちは一族の力、つまり現在はうちはイタチとうちはサスケのみが得る事の出来る力として。
「『万華鏡写輪眼』、これさえあれば…」
イタチと五分以上に戦える。
だがその機会は、一度失われている。
かつて幼いサスケとナルトが戦った時、サスケはナルトを殺す機会があったはずだ。
しかしサスケはイタチの言いなりにはならない、サスケなりのやり方でイタチを超える、そう覚悟したはずだった。
ならば、万華鏡写輪眼の開眼に、他の条件はないのだろうか。
サスケは万華鏡写輪眼について調べるようになっていた。
それ故に、一見サスケは精神状態が安定したように見えるようになった。
実際の所は「万華鏡写輪眼」に意識のほとんどが行っている為、心のブレが見えないようになっているだけなのだが。
万華鏡写輪眼に関する情報は大蛇丸の資料からは発見できなかった。
これは間が悪かったというべきであろう。
大蛇丸の資料は田の国各地にある音隠れの里の隠し拠点に点在している。
今サスケがいる拠点にはたまたまであるが写輪眼関連の資料が置いていなかった。
このような事もある可能性を大蛇丸が考えていなかったのか。
多分考えていただろう。
そしてサスケが写輪眼のみに傾倒することを恐れたのだ。
それ故に、必要とされるまで、写輪眼関連の資料はサスケの目の届かぬ所に秘匿されていた。
その事が結果的にサスケの、万華鏡写輪眼への傾倒を強くすることとなった。
背後で白い影が躍っている。
サスケは表面上は冷静に、煮詰まりつつあった。
大蛇丸や音隠れの里の者達、ブンブクには相談したくはなかった。
これは元々サスケが己自身で何とかするやり方を子どもの頃から続けてきた結果、ともいえるが、ここ最近は自分で考え込み、煮詰まる前に大蛇丸やブンブク、飛段や幻幽丸などが相談相手となり、論議し、そして問題解決をしてきた。
相談しないのは、特にこの問題がうちはの秘儀に関わることだからであろうか。
一族の秘儀を周囲に漏らさないのも、忍の一族の流儀ではあった。
それに、今現在分かっている条件は…。
だからだろうか。
イタチと戦った事もあるという、名張の四貫目、という年上の忍に話を聞いてみようか、と思ったのは。
平均年齢の若い音隠れの里の中でも大蛇丸以上の高齢でありながら、その見た目はさえない中年、と言った感じの存在感を感じさせない男。
いつからいるのか、それすらはっきりさせず、その実力を隠し通す不気味な存在であると周囲からは思われている男だ。
しかし、その実力は折り紙つき。
実際、大蛇丸とのハンディキャップマッチも、彼の作戦があってこそ、若い音隠れの精鋭たちも戦いという形になったと言って良い。
その後に行われた戦いでは、見るべき所もなく敗北している者達が大勢いた。
少なくとも最初の勝負のように、きちんと勝負になっている試合は1度だけだ。
後にその試合を見たサスケであるが、戦術、の重要性を十分に認識できる内容であった。
その策を練りだし、各人の能力を引き出してのけた、というのは年の功だけなのだろうか。
忍として、また現場の指揮官、つまりは上忍として、四貫目は非常に優秀だった。
「…で、俺にその、『写輪眼』についての見識を聞きたい、と」
「そうだ、忍としての経験が長いアンタなら、何か知ってるんじゃないか?」
四貫目は顎に手を当てながら、思い出すように話し始めた。
「…確かに、ワタシはうちはイタチと戦った事はあるが、彼の目がその特別な写輪眼であったかどうかは分からない。
だが、若い頃、うちはマダラと交戦した事がある。
確か、奴が持っていた写輪眼が特別なものであったはずだ。
その特別な写輪眼がお前さんの考えているものなのやもしれんな」
四貫目の言葉に考え込むサスケ。
初代火影・千手柱間と共に木の葉隠れの里を創設し、その力ゆえにうちはの同族からも見限られた悲劇の英雄。
マダラの持つ写輪眼が万華鏡写輪眼であるならば、彼の足跡を調べれば何か分かるやもしれない。
サスケは漆黒の闇の中に一筋の光が
「なあ、マダラについてアンタの知っている事を教えてくれないか?」
四貫目は遠い昔を思い出そうと頭を捻りながら、それでも孫のような年齢のサスケの為に記憶を捻りだしていた。
「マダラは特に強さを求めた男であったようだな。
確か恋人だか親族だかを失ったあたりから強力な瞳術を使うようになったと風の噂に聞いた事がある。
その噂が広まり始めてからだな、『写輪眼のうちはマダラ』の名前が急速に忍界に広まったのは。
とにかく、名のある忍と戦ってはその度に勝利、相手の
正直に言えば、今のうちはの名声はマダラ1人が作り上げたものと言っても良い」
四貫目はそう言うとふっと一息ついた。
サスケはその言葉に、期待と共に不安を感じざるを得なかった。
サスケの「写輪眼」は自身が死にかけたことで開眼した。
ならば、やはり「万華鏡写輪眼」に開眼する為には…。
サスケの思いを別に、四貫目は話しを続けた。
「その後だがな、マダラが力の使いすぎで瞳力を失いつつあるって情報が流れてなあ。
一時期、複数の忍里でマダラに瞳術を使わせることで彼の力を減衰させようと、潰されるのを覚悟の人海戦術で休みなしに襲撃した事があった。
ワタシも参加しておったから間違いないが、少なくともマダラの瞳術は使わせれば使わせるほど負担が掛かる代物だったようだぞ。
最終的に瞳から血を流して、一時期戦線を離脱しておったからな。
それがどうにかしてか瞳術を復活させてきおった。
あの時は死ぬかと思うたわい。
あの時まではまだ穏やかなチャクラをしておったが、復帰後のあの荒々しいチャクラはどうしたことか、と話題になっておったよ」
サスケは四貫目の言葉に頭を巡らせる。
うちはマダラが万華鏡写輪眼を開眼していたとして、その開眼方法はやはり「親しい者を殺す事」もしくはそれに近い方法。
万華鏡写輪眼は体への負担がある、無理に使用し続けると失明など、不利益がある。
復帰する方法はあるものの、それは自身を変質させるほどの影響がある、ということ。
やはり、万華鏡写輪眼の開眼には…。
サスケの焦りと不安が顔に出ていたのだろうか、四貫目はサスケを励ますように言った。
言ってしまった。
「サスケ君、どうも今、君はふらふらと足元が落ち着いていない状態のようだ。
そう言う時は自分の原点を見直してみると良い。
自分の根幹にあるものを見直す事によって、先が見えるかもしれん」
四貫目のこの言葉は一般的に言うなら非常に意味のある言葉だ。
ならば、サスケにとってはどうか。
さすけ
それは、
「復讐」
四貫目を別れた後、サスケは四貫目からの言葉を反芻していた。
己の原点を見直す。
本来であれば、うちはサスケの原点、それは「家族愛」であると言えよう。
写輪眼が発言する際に歪む事も多いが、うちはの者は一族への愛が強い。
うちはマダラですら、その行動の発端は一族が虐げられぬよう、一族が無事に暮らせるように敵を威圧するように力を見せつける為であった。
しかしサスケには今愛情を注ぐ為の両親はいない。
他の一族の者達も死に絶えた。
そしてそれを成したのは愛情を注ぐはずであった兄、うちはイタチである。
サスケの行動原理は「復讐」へと書き換えられていた。
そしてサスケは飛段の言葉を思い出す。
飛段はサスケにとって兄の代替でもあったのだろうか。
サスケは彼の言葉をすんなりと受け入れる傾向があった。
飛段は言った。
「夢なら叶えろ、周囲を見る必要はない」と。
サスケは気付いているだろうか。
飛段の言葉が自分の中で書き代わっている事を。
サスケは気付いているだろうか。
音隠れに来て、ブンブクや若き精鋭たちと交わったことで、自分の目標が「イタチを殺す」から「イタチを倒す」に変わっていた事を。
そしていま、それが「イタチを殺す」にまた書き代わっている事を。
…そしてサスケは立ち上がった。
背後で白い影が踊り狂う。
僕はその夜、忍具の点検をしていました。
チャクラの保有量の少ない僕にとって、忍具はチャクラを大量に使用しない非常にありがたい道具ですから。
…うん、満点。
「金遁・
角手や寸鉄、万力鎖や手裏剣、クナイなんかの暗器もそう。
下手に傷ついたまんまにすると、艶消し処理が落ちちゃってまあ目立つ事目立つこと。
そして辛味錠剤や「さいしゅうへいき」なんかは扱いを間違うとおおごとになるしね。
んで、最後に僕にとっての命綱である「八畳風呂敷」くんを修繕。
ほつれたりしている所には丁寧に、おんなじ風呂敷くんから取り出した糸でほんのちょっとチャクラを通しながら修繕。
こうすることで、すぐになじんできれいに直ってくれる。
うん、これでよし。
さてと、明日はどうしよっかな。
ここん所、兄ちゃんには負けっぱなしだし、そろそろ八畳風呂敷くんとか使って本格的に手合わせしてみようかしらん。
ちょっと里の方に連絡して、ダンゾウさまから許可もらっとかないとなあ。
そんな事を考えていた時でした。
「ブンブク、ちょっと良いか?」
おや、うちは兄ちゃんです。
「何、兄ちゃん?」
僕がそう返すと、
「!…、 ちょっと、話しがあるんだが…」
? 何だか奥歯にものが挟まったような言い方。
うちは兄ちゃんは僕を修練場の方へと誘った。
まあ何かあるんだろう、僕は茶釜やお猪口でお手玉をしながら兄ちゃんにくっついて行った。
修練場は夜でもあり、特に深夜訓練がある訳でもなかったので誰もいなかった。
「んでさ、兄ちゃんどうしたの?」
僕も「うちは兄ちゃん」とサスケさんを呼ぶようになっていたので、だんだんと話し方もフランクになっていた。
その時の兄ちゃんはいつものクールな感じではなく、
とても苦しそうな顔で、
そして、
「ブンブク、お前を、お前を…」
「お前を殺す」
そう言った。
白い影は踊る。
この幕の幕引きへ。
残り2話分はできるだけ早めにあげる予定です。
そこからは原作の確認作業も含めて遅くなります。