NARUTO 狐狸忍法帖   作:黒羆屋

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今回、チャクラなどに関する独自解釈が入っております。


第54話

 それはある日のお昼前でした。

 その日は僕が食事の当番で、音隠れのお姉さまたちとお昼ごはんの準備をしていました。

 ちなみに献立は白いご飯に具材多めの御御御付(おみおつ)け、アユの塩焼きに浅漬けの御新香という、若い人たちには若干不評(薬師カブトさん除く)のメニューです。

 なお、アユの塩焼きのみは炉端焼き風に串に刺して火にかけて、皆がそろってから一気に配膳します。

 冷めちゃうとさみしいもんね。

 なんてやっていると、

「…子狸、準備なさい」

 いきなりの大蛇丸さん登場、アンドいきなりの出立宣言。

「…はて?」

 僕が動揺していると、大蛇丸さんは僕の襟首をつかんで、瞬身の術でシュパッと外に移動していた。

 

 

 

 ブンブクは気付いていなかった。

 彼の履いている履物、その隙間に小さな白い粒が付着しているのを。

 

 

 

 いきなりお外です。

 ここしばらく、僕は施設からは全く出ていませんでした。

 まあ虜囚の身なので当然なのですが。

 ちょっと自分でも忘れかかっていたり。

 で、なんで大蛇丸さんは出かける気になったんですかね、しかも僕付きで。

「…そろそろ、らしいのよ」

 大蛇丸さんの平たんな声に、僕はついにこの時が来たのか、と悟りました。

 希代の英雄、3代目火影・猿飛ヒルゼンさまの永のお休みの時期が。

 僕の時代までだと火影さま=3代目でしたし、大蛇丸さんにとってはなおさらなんだろうなあ。

 でも、そうなると僕を連れていく理由って?

「ダンゾウとの折衝役に決まってるじゃない」

 …なるほど、僕を介してダンゾウさまを動かして、木の葉隠れの里の内部での安全を図るおつもりですか。

 まあそれなら動きますよ、そう言う指示ですし。

 …実際の所、ヒルゼンさまの容体は里においてある僕の分身及びカモくんからの連絡で大体の所は把握してます。

 で、ダンゾウさまからも、大蛇丸さんが3代目に会いに来る可能性を示唆してまして、そうなった場合の対処法は考えてある訳ですよ。

 まあ、通さないって判断はないようですし、研究成果のいくばくか、で話しがつくでしょう。

 ダンゾウさまも大蛇丸さんとの縁を切るつもりはないようですし。

 んじゃ、さっくりと行きましょう。

 大体ここからだと3日くらいですかね。

「…何言ってるの?

 それじゃアナタを連れてきた意味がないじゃない」

 はい?

 …ええっとですね。

「あの、僕は人を乗せて飛行できるほどの変化をするほどチャクラに余裕がある訳じゃないんですが…」

 そう、もともと僕のチャクラはエリートである上忍何かに比べると少ない。

 中忍の中程度だと思ってくれれば良いかな。

 で、さらに影分身で里に残してる分身くんに割り振った分を考えると、かなり少なめなんだよねえ。

 大体下忍の上くらいかな。

 まあ僕の場合、戦い方が体術、というか格闘技術中心なんで、そんなに困んないんだけどね。

 とはいえ、万全の状態でも大蛇丸さんを乗せて飛行術を使うのは難しい。

 万全じゃない状態ならなおさらだ。

 その辺りを考えていない大蛇丸さんじゃないとは思うんだけど…。

「はぁ…アナタ誰にモノを言っているの?

 この大蛇丸がその程度の事を考えていないわけがないでしょう…」

 あ、まあそうですよね。

「ちょっと待ってなさい」

 そう言うと、大蛇丸さんは自分の右の親指を剣歯で噛み切り、その血を左手になすりつけた。

 口寄せの術、だと思うんだけど、この場で呼んでどういう意味が…。

 そう考えていた僕の前に現れたのは…。

「契約者・大蛇丸様、『龍地洞』が『白蛇仙人』様の眷属アオダ、お呼びにより参上仕りました」

 大体2メートルくらいの青大将、アオダさんでした。

「アオダ、これが茶釜ブンブクよ。

 ブンブク、これはワタシの口寄せ動物、『マンダ』の血族、アオダよ。

 仲良くなさい」

 はい、了解です。

 僕とアオダさんはお互いに挨拶をしました。

 彼は爬虫類の冷静さを体現したような方でしたね。

 妖蛇とか化蛇ってこういう方が多いんでしょうかね。

 で、

「このアオダを運んで来ればいいわ。

 後はアオダが判断してくれるから」

 といって、大蛇丸さんは、大蛇丸さんは、

 

 ずるん

 

 とアオダさんの口の中に入って行きました。

 は?

 僕の目がおかしくなったんでしょうか?

「ねえアオダさん?」

「どうかしましたか、ブンブク君」

 ホントに平常運転ですね、アオダさん。

「いや、僕の目がおかしくなってないんなら、今、大蛇丸さまがアオダさんの口の中にずるんと入っていっちゃった様に見えたんですけど…」

「はい、間違いないですよ」

 はい、てそんな。

「時空間忍術の一種ですよ。

 ワタシ達オロチの一族の特性だと思っていただければよろしいかと」

 まあ一種の瞬身だよね。

 僕はさっきのビジュアル的なショックを払しょくすべく、そう思い込むこととしたのです。

 …でもやっぱりきついね。

 

 さて、早速移動しないとね。

 僕は印を結び、

 ぽへん!

 いつもの準省エネモードにと変化しました。

 …ええっとアオダさん?

 その舌なめずりは何なんでしょうか?

「これは蛇の習性です。

 お気になさらず。

 でもまあ…」

 なんです?

「恒温動物って、

 おいしいですよね」

 いやいやいやいや!

 いきなりなに言いだすんですか!

「いや、丁度おいしそうな温度の熱源が近くにできたモノですから、ちょっと味見を…」

 されたら任務失敗ですっての。

「さて、冗談はさておき」

 蛇さんの表情って僕には分からないんだけど、冗談には聞こえなかったなあ。

「あまり時間をかける訳にもいかないのでしょう。

 で、どのようにしていどうするのですか?」

 あ、それはですね。

「ええっと、じゃあ、アオダさんには、ここに入ってもらいます」

 と、僕は胴体部分の茶釜のふたを開けました。

「ん? ワタシが入り切るには少し小さいのでは?」

 アオダさんがそう言います。

 まあそうでしょうね。

 今の僕の胴体部分である茶釜は大体15センチちょっとという大きさです。

 2メートルサイズのアオダさんでは入りきるのはちょっと難しいですかね。

 でもそこは非常識生物たる僕の体です、あ、自分で言うな、ですか。

「大丈夫ですよ、この口を通るものなら、かなりの長さが入りますから」

 僕がそう言うと、

「ブンブク君、いま君の状態は『天に唾する』というのと一緒ですよ?

 ワタシの中に大蛇丸さまが入るのと、君の中にワタシが入るのと大した違いはないでしょうに」

 そうかなあ。

 人間丸々と長いとはいえ2メートルくらいのアオダさんじゃちょっと違いません?

「…まあ良いでしょう。

 じゃあ入りますよ」

 そう言うと、アオダさんはするすると茶釜の中に収まっていきました。

 で、茶釜の口からにゅるんと顔を出すと、

「では行きましょうか。

 大蛇丸様をお待たせする訳には参りません」

 うーん、これだけ丁寧な(ひと)ってそうそういないよ。

 良い(ひと)だ。

 さて久しぶりに大空を飛翔だ!!

 

 僕は風を操作し、風に乗り、一路火の国・木の葉隠れの里へと向かっていました。

 いやあ、風が気持ちいい!

 アオダさんは、ちょっと顔を出して、

「この寒さは変温動物には辛いです…」

 と言ってすぐひっこんでしまいました。

 さて、

“カモくん、木の葉の分身に連絡。

 今、大蛇丸さんと木の葉隠れの里へ移動中。

 大体あと2刻位で到着するよ。

 ダンゾウさまに連絡よろしくって”

“はいよ、了解っす兄貴ぃ!”

 カモくんを介して木の葉隠れの里に連絡を取る。

 しばらくすると、カモくんからの返信が。

“兄貴ぃ、分身からの連絡っす。

 里の方では了解したってことです。

 しばらく分身の方はダンゾウさまのとこに行ってるって言ってます。

 さすがに兄貴が2人里にいるのはまずいっすからね”

 はいよりょーかーい。

 僕はカモくんに了承の返事をしてさらに速度を上げることにしました。

 

 火の国、木の葉隠れの里の郊外、森の中に僕らは着陸しました。

 僕の茶釜の中から、アオダさんが這い出してきます。

「ふうむ、陽の高さからして半日経っていませんね。

 直線で来ているとはいえ、早いものですね」

 まあそれが僕の売りですしね。

 風を操作し、風を捉まえて一直線に。

 伝書鳥並みの速さで移動出来る忍者ってのがね。

 そんな事を言っていると、

 アオダさんの口からにゅるりと大蛇丸さまが出来てきました。

 …やっぱりかなり、なんですね。

「なに、何か言いたいようね。

 聞いてあげるから言って御覧なさい?」

 いえなにも。

 さすがにおっかなくて言えませんて。

 さて、ちょこっと大蛇丸さんと漫才をしていると、

「…驚いたわね、アナタが来るなんて」

 …僕も驚きですよ、「根」の棟梁が直接来ちゃうなんて。

「ふむ、貴様を迎えるにふさわしい者どもが出払っているだけよ。

 いま、里はかなり動揺が広がっているからな」

 ああ、やっぱり3代目の容体って里に広まってるんですねえ。

 …ヒルゼンさまは長年火影を務められて、みんなから慕われているから。

 それに、6代目火影・千手綱手さまの火影就任からまだ1年たってない。

 いくら衰えたとはいえ、3代目の威光はまだまだ国の内外に広まってるし、そのヒルゼンさまが無くなりそう、となれば有象無象が動き出しかねない、と上層部が判断してもおかしくないしね。

 ちなみに有象無象の代表格は大蛇丸さまと「暁」なんでしょうね。

 さて、そんなことを考えていると、大蛇丸さんとダンゾウさまのお話し合いが終わったようです。

 予想通り、というか予定通りいくつかの研究成果の譲渡を交換条件に、「根」は大蛇丸さんの里への出入りを今回に限り容認する、と。

 えげつない、さすが「根」の長官えげつない。

 あくまで容認するのは「根」だけってのがさすがだなあ。

 他の上忍、暗部なんかは自分でどうにかせい、もめた所で「根」は介入しない、と。

 こう言った腹芸なんて将来僕にできるのかしらん。

「大丈夫でしょ」

「出来るようになるまで修行だ」

 だから僕の心読まないでください、お2人とも。

 

 さて、大蛇丸さんがヒルゼンさまのお屋敷に行ってしまうと、僕とダンゾウさまが残された。

 ダンゾウさまは僕を見ると、

「…では音隠れの状況をお前の口から聞きたい。

 報告を」

 そう言った。

 まあ、報告は影分身経由で送ってはいるものの、直接本人から聞きたいっていうのはあるんだろう。

 さて、一応まとめてはいるからね、僕はえへんと1つせきをすると、ダンゾウさまに報告をし始めた。

 

 ところどころつっかえながら、また時にはダンゾウさまからの質問を受け、それに答えながら10分ほどで報告は終わった。

 なんかダンゾウさまの顔に引きつりがあるのは気のせいだろうか。

「…なんというか、大蛇丸はどこに行こうとしているのだろうか」

 あの人、そんなに変わりました?

 僕から見るとひたすらに「忍術の研究」にまい進してるだけな気がするんですけど。

「お前はかつての大蛇丸を知らんからな。

 今の大蛇丸はかつての『飢え』を感じさせるような狂気が薄れている。

 かと言って忍として格が落ちた、という訳でもない。

 お前はあ奴に何をしたのだろうな…」

 いや無理ですって。

 大蛇丸さんに何らかの影響って、どっちかってとうちは兄ちゃんとか、カブトさん、そして音隠れの里のみんななんじゃないですか?

「気付いておらんのならそれも良いか…」

 ダンゾウさまは呆れるようにそう言いました。

 ? 何なんでしょうね?

「お前は確かにうずまきナルトの弟分だ、ということだ」

 …何かこそばゆいですね、そう言われるのは。

 

 さて、大蛇丸さんからの連絡を待ちますかね、なんて考えていたらば、

「ブンブク、ヒルゼンにあって来ると良い」

 なんてダンゾウさまに言われました。

 あれ?

 分身の方は会いに行ってないんですか?

 分身との記憶の齟齬があるとまずいんですけど。

「お前本人ではなくな、文福狸として、よ」

 ああ、そう言うことですか。

 不思議なことですが、文福狸さんに変化できるのは本体である僕だけなんですよね。

 影分身の方はどうやら前世の記憶に関して言うとある程度情報が制限されてしまうんですよね。

 そのせいかどうか分からないんですが、文福さんを引き出せるのは僕だけなんですが、最近意識の統合が進んだためか、文福さん引っ張り出すには結構なチャクラが必要でして。

「じゃあ、いっぺん影分身解きますね」

 僕はそう言って、術の解除をした。

 それと同時に僕の中に結構な量のチャクラのタンク、というんでしょうか、チャクラをため込んでおけるプールのようなものが復活します。

 これは影分身によって分割していたチャクラが回復する余地が出来たということです。

 早速僕は「秋道印の兵糧丸」を内臓強化を行いつつぼりぼりと貪りました。

 そして、もう1年以上も呼んでいなかった、記憶の中の文福狸さんを、意識の底から呼び出したのです。

 

「お久し振りですね、5代目、いや今はダンゾウどの、と呼ぶべきでしたね」

 ブンブクの姿が煙の中に消え、その煙が晴れると、そこには古風な官吏の服を着た二足歩行の狸、文福が立っていた。

「お主も壮健そうで、…というのではないか、まあ久しいな」

「ええ、それではワタシもヒルゼン殿の所へまいりましょうか」

「そうしてくれ、奴も喜ぶ」

 ダンゾウの言に文福は、

「それではワタシも参りましょうか…」

 ゆらり、とその姿を薄れさせていく。

 化け狸お得意の幻術である。

 文福の消えた後を見ながら、ダンゾウは遠くの、もう失われてしまった何かを見つめるように佇んでいた。

 

 自来也、綱手、大蛇丸の3人が退出した猿飛邸。

 うつらうつらとするヒルゼンの枕もとに、すうっと狸面の官吏が現れた。

 言わずと知れた文福狸である。

「…久しい、ですな、文福殿」

 ヒルゼンは目を開けず、そう言う。

「ええ、今生では最後になりましょうかね。

 まあ、とうの昔に死んでいるワタシが言うのもなんですが」

「はは、は、は、確かにそうですのう。

 ワシがこうも、心安らいでいけるのも、貴殿と友誼を結べたのも大きい、ですから、のう…」

 ヒルゼンの顔には深い死相が刻まれていた。

 しかし、同時にかつて現役であった時にはなかった深い安らぎのようなものも浮かんでいたのだ。

「…なれば、ワタシがブンブクの中に顕現したのも良きことだったのですねえ」

 文福は感慨深そうにそう言った。

 

 文福がその少年の中に顕現したのは偶然だったのだろうか。

 文福は大昔に死んだ化け狸である。

 彼の生きていた時代、それはチャクラが人より出でて、世界に広まりつつあった時代。

 なぜチャクラが人からしか発生しないか、それは文福の知らぬこと。

 人が増え、生き、死ぬ、そのサイクルの中で、チャクラは世界に広まっていった。

 人より出でたチャクラは長い年月をかけ、変質し、自然のチャクラ、仙術の元となる自然のエネルギーと呼ばれるものとなっていった。

 これにより、この世界には「妖怪」や「忍動物」と言われるチャクラを有する生き物が発生するようになっていった。

 文福はその内、「化け狸」とカテゴリーされるチャクラを有する動物の1匹として生まれた。

 最初の頃は本当にただの狸同然の知性と強さしか持たなかった。

 それが変わったのは「尾獣」の1柱である、「一尾の守鶴」が彼の近辺に住みついた頃からだろうか。

 一尾が居ついたことで、その周囲のチャクラが一尾の影響を受けた。

 一尾の影響を受けたチャクラは一尾に近しい生き物、化け狸の中に凝り、チャクラを吸収、その内にチャクラを練ることが出来るように化け狸達をこの世界に適合させていった。

 気がつけば文福は自分自身を「文福」であると認識し、人の言葉を操り、妖術、今でいう忍術を自在に使えるようになっていった。

 化け狸は、元々の狸という種族がそうであるのか力の割には臆病であり、里から出ていこうというものはほとんどいない。

 文福は数少ない例外であった。

 人の社会に憧れ、あちこちを旅してまわった文福は、化け狸の里において「賢者」と呼ばれるようになった。

 人の社会に紛れ見識を広めつつ、化け狸の里において仲間と能天気な時を過ごす。

 その生活はある日突然崩れた。

 一尾の力を狙う人間の軍隊が里に攻め入って来たのだ。

 人間達は単純な武力だけでなく、今でいうところの忍術を使ってきた。

 当時の忍術は今でいうところの下忍が使う忍術、火遁・炎弾の術や、水遁・水弾の術のような初歩の術が中心であったが、攻め入ってきた人間達はそれ以上の術を開発、運用していた。

 その技術がどこで培われてきたか、博識な文福ですら分からなかった。

 さらには尾獣の封印術、そして尾獣から力を取り出して兵器として使う「尾獣玉」の威力もあり、化け狸側が劣勢、最終的には封印術によって一尾が捕えられる結果となってしまった。

 文福は奪還作戦を敢行したが、奮戦むなしく刀折れ矢尽きる事となり、配下の化け狸を逃がす為に突貫、死亡した。

 あの時の人間の顔は忘れない。

 あの不気味な「はんぶんにんげん」のことは。

 

 それからどれだけの時間が経ったのか。

 とうの昔に「世界のチャクラ」に溶けだしてきて去ったはずの文福というパーソナリティ。

 それが引きずり出されたのはなぜだったのか。

 気がつけば「茶釜ブンブク」という人物の人格の一部として文福はそこにいた。

 ブンブクは非常に単純、というと語弊があるだろうか、人として未完成な人格を有していた。

 人が生まれもって得ているはずの本能や反射と言ったより原始的な行動基準を備えないで存在する、異様な存在。

 その異様な存在はとある人物への執着を持っていた。

 うずまきナルトである。

 ブンブクは自分が学習した人の行動の模倣、それを持ってしても理解できないナルトという人格に異常なまでに固執していた。

 当時のナルトの状況は、一言でいえば「迫害」である。

 身体的、精神的に周囲から追い詰められ、助けを請う事も出来ず、ただ壊れていくだけが彼の未来であったはずだった。

 ブンブクはナルトという観察対象がこれ以上破壊されぬよう、その救済が出来る情報を求めていた。

 それが、化け狸・文福であったのだろうか。

 文福はブンブクに様々な事を教えた。

 ブンブクはそれがナルトを救うためになるとなれば異様なほどの学習意欲を見せ、文福の知識を吸収していった。

 その為であろうか、しばらく後にはブンブクは己の感情らしきものを見せ始め、それが更にナルトを救うという目標のモチベーションになっていったようだ。

 ブンブクには文福以外の情報源もあるようで、文福の提案を元に、ナルトを救うための様々な方策を組み上げていったのである。

 そして気がつくと、ブンブクは立派な1個人としての人格を持ち、文福は彼のアドバイザー的な立ち位置に収まっていた。

 文福はこの第2の生を楽しむことが出来た。

 それはブンブクというパートナーに恵まれた事、そして…。

「アナタに会えたことですよ、猿飛ヒルゼン」

 文福はそう言って、狸の顔でにっこりとほほ笑んだ。

 

 そう、文福にとって、ヒルゼンはかつてなかった「学者仲間」であった。

 博識であり、様々な分野にその手を伸ばしていた文福。

 今の世にあれば大蛇丸や音隠れの学者どもとそれはもう語りあったであろう。

 そしてヒルゼンもまた「教授(プロフェッサー)」と呼ばれる男。

 特に趣味でありライフワークであった考古学、人類学などの学問に関してはいくら方っても語りつくせないほどの知識と持論を持っていた。

 文福にとって、ヒルゼンと語り、議論をぶつけるのはこの上ない楽しみだったのだ。

 文福にとってヒルゼンはかけがえのない「同士」であった。

 同時にヒルゼンにとっても。

 2人の学者はお互いの意見をぶつけ合い、よりその学術への見識は磨かれていった。

 そして、

「文福よ、すまんが、の、そこにある、風呂敷を、取ってもらえんか?」

 文福が風呂敷を取った。

 かなりの分量の、本のようである。

「それは、の。

 お主と、ワシが語り合った内容をまとめた、言うてしまえば『古代史』の論文の、ようなもんじゃ。

 つい先ほど、出版社の方で、まとめが終わったそうでの。

 お主にも、渡しておきたいと、そう思うておった所じゃ。

 直接、渡せての、嬉しい限りじゃわい…」

 だんだんと話すのも辛くなっているだろうに、ヒルゼンはそれは嬉しそうに文福に話しかけていた。

 文福は感慨深そうにその風呂敷に包まれたものを見ると、それを大事そうに抱えた。

「ありがとうございます、大事に読ませてもらいますよ。

 では、養生してくださいませ」

 分福はそう言い、立ち上がった。

 もう既に、養生なぞした所でヒルゼンの体は今も分単位で死んでいるところだ。

 しかし、文福は彼に、むごかろうとなんだろうと少しでも長く生きてもらいたかった。

「ああ、そうさせてもらうわい。

 …文福殿、では、な。

 悠久の時の果て、もしまた廻りあう時が来たとしたら…」

「ええ、その時はまた語り合いましょう、飽きるほどに」

 文福はそう言うと、ヒルゼンの前より辞していった。

 

「よろしいのですかダンゾウ殿。

 貴方様の方がよほどヒルゼン度のと話したい事がありましょうに…」

 ヒルゼンの屋敷の外、その垣根の影で文福とダンゾウは話しこんでいた。

「ワシらは奴とはこれまでに十二分に話しこんだ。

 後は語りつきておらぬ若い者達の為に時間よ」

 ヒルゼンの言葉に、深くうなずく文福。

 彼ら、ヒルゼンとダンゾウ、そして同世代のうたたねコハル、水戸門ホムラはすでにヒルゼン亡き後の木の葉隠れについてしっかり話し合っているようだ。

 彼らの木の葉隠れの里への愛はとても深い。

 ヒルゼン亡き後も、彼が安心して安らげるよう、様々な話をしたのだろう、そう見て取れた。

「それでは、ワタシも失礼いたしますよ。

 もはやお目に掛かることはないでしょうが、ダンゾウ殿、御息災で…」

 そう言うと、文福はブンブクの意識の彼方へと消えていった。

 

 

 

 閑話 3代目火影

 

 3代目火影・猿飛ヒルゼン。

 火の国に、いやかつて忍5大国と呼ばれた地域において忍里の確たる地位を築き上げた大人物である。

 時代的に、第2次、第3次の忍界大戦を戦い抜いた英雄であり、2代目火影・千手扉間、4代目火影・波風ミナトという2人の火影の死という一大事を受け止め、里を支え切ったその手腕は歴代の政治家の中でも特に評価されるべき偉業であろう。

 任期は歴代の火影の中でも断トツの48年。

 ほとんどの火影が10年そこそこしか務める事の出来ない激務をこの年数務めるというのは並大抵の体力、心力ではなかったであろう。

 忍としての能力も高く、血継限界の使えない身で「忍の神」とまで呼ばれるほど、様々な術を使い、他の追従を許さぬ戦いぶりであったという。

 その戦術は高いチャクラ保有量と、その知識から来る様々な忍術の組み合わせであり、忍の神、の名に恥じぬものであり、忍の戦い方の1つの理想であったことが当時の資料から窺える。

 その2つ名は「教授(プロフェッサー)」。

 彼は2代目火影である千手扉間の提唱した忍術学校の制度を完成させた人物でもある。

 彼の行った忍術学校の基礎が無ければ、志村ダンゾウの行った教育改革が、こうも効果的、短期間になされることはなかったであろう。

 猿飛は正しく「教授」であったのである。

 また、彼は上級忍者としての顔の他、学者としての側面も持つ。

 今現在、我々の知る歴史の内、猿飛の発見、提唱した古代史についての通説は少なくとも20を下らない。

 彼はまた、歴史学者としても現代の学者達の「教授」であったのだ。

 

 さて、その猿飛ヒルゼンの書き記した書物の中に、未だ眉唾であるとの評価を受けている資料がある。

 その書物の名を「ヒルゼン狸夜話」という。

 猿飛が晩年縁があり語り合ったという「化け狸の幽霊」との対話をまとめたものであるという。

 まずはこの文福という「化け狸の幽霊」という眉唾。

 化け狸はどれだけ生きたとしても500年が限界である。

 これは遺伝子分析により、はっきりとしている。

 この書物の解析により、書かれた当時より1000年以上は前の話であり、どれだけ生きたとしても化け狸には無理なことである、はずである。

 故に、この書物は猿飛一流の冗談、もしくは子供が歴史を読み解く為の児童書ではないか、とされていた。

 内容は主に木の葉隠れに存在していた尾獣の一柱、九尾氏からの聞き取りをもとにしている、というのが定説であった。

 しかし、書物の解析を進めた結果、尾獣各氏の封印されていた時期の内容も入っており、この情報がどのようにして猿飛にもたらされたか、という疑問が発生した。

 これはこの資料の内容が真実である、とするならば全ての矛盾が溶けるのであるが、やはりこの書は猿飛の冗句である、という定説は崩されていない。

「ヒルゼン狸夜話」のミステリーはいまだ歴史ミステリー好きの話しのネタとして、また歴史の隠された秘密の1つとして多くの人たちの議論に上っているのである。

 

「で、実際の所はどうなんですか、茶釜ブンブクさん?」

「さーねえ?」


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