NARUTO 狐狸忍法帖   作:黒羆屋

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51話の閑話部分を52話として分割しました。
51話の方はエピソードを追加しておりますのでご確認ください。


第52話 閑話

 閑話 「不死コンビ」対「守護忍コンビ」

 

「暁」の飛段・角都 対 「元守護忍十二士」の猿飛アスマ・地陸は10メートルほどの距離を置いて対峙した。

 このほかにも「火ノ寺」の僧侶達やアスマの連れてきた奈良シカマル、神月イズモとはがねコテツが火ノ寺に向かっていたのだが、イズモとコテツはアスマの命で木の葉隠れの里への連絡および他の上忍チームへの救援要請に走っていた。

 イズモとコテツは中忍であり、戦闘時における実力はそれ相応だ。

 しかし、彼らは忍として、また人として偏った成長をしておらず、戦闘、伝達、諜報と忍として行われる任務全てに対応できる優秀な人材だ。

 アスマは彼らを戦力としてではなく、伝令として使うことで「暁」との戦いを勝利すべく火の国各地に散っている木の葉隠れの里の上忍達を呼び寄せる事としたのである。

 この近隣にいる上忍達なれば戦闘中に間に合う可能性もあり、またアスマが万が一倒されたとしても暁の2人はその上忍達との連戦を強いられることとなる。

 そこまで計算しての戦力分散だった。

 なお、シカマルが残されたのは移動能力に関してはベテランの2人に追い付けないから、というのもあったが、アスマとしては飛段達に対する「鬼札(きりふだ)」としてシカマルを残したというのもある。

 シカマルは「秘伝・影真似の術」をはじめとした影を使って相手を拘束する術を持っている。

 相手に手の内を知られていない状態なら、ここぞという時に使用させることでほぼ確実に相手を仕留める事が出来るだろう。

 アスマはその指示をシカマルにしていない。

 シカマルならば指示がなかろうと上手く状況に応じて援護を行ってくれるだろう、それだけの信頼をアスマはシカマルに対して持っていた。

 

「おい角都」

「…なんだ?」

 角都の様子がおかしい事に飛段は気が付いていた。

 いつも冷静な角都がそわそわしている。

「何か…キモイぞ、角都」

「いきなり何を言うかと思えばこの馬鹿は…」

「やかましい!

 で、何なんだよ、いつもの角都らしくねえぞ全く」

「分からんか、やはりバカはバカ、ということなのだな嘆かわしい」

「それで分かる奴ぁいねえよお!!」

「良いかよく聞け、あの地陸は3000万両の賞金が裏で掛けれらている」

「そんくれえさっき聞いただろうがよ」

「まあ聞け。

 そしてあの男、猿飛アスマにはさらに多い3500万両の賞金がかけられている」

「…!

 おい、猿飛アスマって…」

「そうだ、3代目火影・猿飛ヒルゼンの実子だな。

 それだけでも賞金が高いのが分かるだろうが、もう1つあってな…」

「? なんだよ…」

「奴は地陸と同じく火の国の精鋭である元・守護忍十二士の1人だ。

 さらに言えば、奴と地陸は親しい間柄でコンビを組んで幾人もの手練れを屠ってきている。

 つまりは、だ…」

「なーる…。

 アイツらを同時にしとめればその分上乗せがドンってか!?」

「そうだ、その額…、なんと1500万両!!

 2人がそれぞれ3000万両と3500万両だからしめて8000万両の超高額だ!!

 分かるか! 分かるかこの愉悦があっ!!

 ここの所10万、20万の小額の連中しか相手にできなかったが、この俺の人生でも1、2を争う高額がここにやって来たのだぞ!!

 まさに『鴨が葱背負ってやって来た』のだぞ、興奮しないわけがなかろう!!」

 飛段は思った。

「なるほど、これが『とらぬ狸の皮算用』という奴か」と。

 

 戦いは拮抗していた。

 お互い譲らず2対2の接戦であった。

 シカマルはあまりに凄まじい良戦いに、下手に手出しをする事による味方の不利を発生させないために戦闘を「観る」事に専念していた。

 この戦闘において、シカマルレベルの戦闘能力の忍が介入したとして、出来る事はたかが知れている。

 シカマルは自分とアスマ達の力の差を悔しく思いながらもこの戦いを見極め、己の力が最も効果的に発揮できるポイントを見落とすまいとその明晰な頭脳を最大限に回転させていた。

 さて、一方の雄であるアスマ・地陸コンビであるが、非常にバランスの良い戦い方をしていた。

 短刀と角手を合わせたような独特の形をしたチャクラ刀を構えたアスマが正面にて飛段を抑え込み、地陸が後方より角都に忍術を放つ。

 飛段が角都のカバーに入ろうとするとアスマが飛び退りながら手裏剣で足止め、地陸が前に出つつ錫杖でしたたかに打ちすえる。 

 アスマと地陸はお互いに前衛、後衛を賄うことのできるオールラウンダーであり、その都度前後を入れ替えることで飛段達に動きを読み切らせない策に出ていた。

 その策に見事に嵌っているのが飛段達「暁」陣営である。

 先ほどから飛段は前衛を圧倒している。

 それなのになぜ仕留められないでいるか。

「だあっ、角都ぅ! しっかり狙いやがれえ!!」

 いつも冷静な角都、それが高額の賞金に目がくらみ、先ほどから小さなミスを連発していた。

 そしてもう1つ。

 飛段は己の秘術である「呪術・死司憑血」、この術を今回の戦いで飛段は封印していた。

 飛段はこの戦いを「強者の鮮血とその命を以って『隣人』との殺し合いの為の禊ぎとする」と定義していた。

 あくまで本番はこの後の「茶釜ブンブク」との殺し合いである。

 そのため、相手の死を自身の中に取り込み、お互いの死を以って完成とする死司憑血はブンブクに対して使うものであり、禊ぎであるこの戦いには使用しない、と飛段は決めていた。

 そのために戦いが長引いている、というのもあった、

 

 戦い始めて30分以上が経過した。

 さすがに「暁」の精鋭である飛段、角都に疲労の色は見られない。

 一方アスマ・地陸の側には、徐々に疲労が蓄積されていた。

 こと、実戦から離れて久しい地陸にとっては負担が大きかったようだ。

「さすがに久々の実戦でこれだけの手練れとの戦闘は荷が重かったか…」

 今まで常時実戦に身を置いてきたアスマは、相方の疲労が手に取るように分かった。

 長年タッグを組んで戦ってきたのだ、しばらく疎遠だったからと言ってそれくらいは理解している。

 そろそろ片を付けないとまずいが、なんといっても厄介なのが前衛に立つ飛段。

 とにかく切ろうが砕こうがすぐさま復活してくる。

 情報としては知っていたが、本物の不死がこんなに厄介なものだったとは。

 飛段の大鎌を何とか受け流しつつ、アスマは地陸に叫んだ。

「地陸、そろそろ本気で行くぞ!」

「む、言われんでも!!」

 地陸は大きく後方に跳び退ると印を組み、特殊な呼吸法を行い始めた。

 今までと違う地陸の行動に、飛段が警戒をする。

「おい角都よお、そろそろホントに目え覚まさねえとシャレになんねえぞ、ったくよお!!」

 先ほどから細かい失策で彼らを仕留める好機を逃している角都。

 それは、出来るだけ死体を綺麗に残し、死体の転売業者に高く売りつける為でもあった。

 角都の忍術は殺傷性が高く、同時に相手に与えるダメージの総量も大きい。

 死体を綺麗に残すには、一定以上のダメージを与えない術が望ましかった。

 とはいえ、今相手をしている連中はそんな生易しい手段で倒せるほど弱くはない。

 強い術で相手の死体を大きく損傷するか、死体を綺麗に残す為の弱い術で相手を倒せないリスクを大きくするか、角都は悩み、その為にここまで戦闘を長引かせてしまっていたのだが。

「…致し方ない。

 そろそろ木の葉隠れの里の連中の増援も来るやもしれん。

 手加減抜きでやらせてもらおう」

「だあっ! 格好付けてねえで早くしろってのおぉ!!」

 飛段の罵声に眉をしかめつつ、角都は己の秘術、

「禁術・地怨虞(じおんぐ)

 を発動させた。

 角都の全身から黒い霧、良く見ればそれは角都の体表を破り、這い出してきた糸、触手のようなものだと分かるだろう。

 角都の背中に張り付いた5つの面、それらに触手が纏いつき、角都の上背を遥かに超える5体の巨人がその脇にせり出してきた。

「ったく世話の焼ける奴だぜ、角都ちゃんよお!!」

「くだらんことを言っていないで前を見ろ。

 向こうは勝負に出たようだ…」

 弾かれたように前を見る飛段。

 そこには猿飛アスマ。

 そして、その横に在るのは、

 身の丈2メートルほどの人型。

 輪郭はぼんやりとしているが、筋骨隆々とした体格と怒気を孕んだ表情を持っていた。

 アスマの後方では地陸が印を結び終えていた。

「さて、『暁』の奴儕(やつばら)、貴様らに我ら『忍宗』の秘儀をお見せいたそう。

 これぞ我が忍宗奥義、『口寄せ・明王降臨』!!」

 そう地陸が宣誓した瞬間、

「っがっは!!」

 飛段が大きく弾き飛ばされた。

 空中で2度、3度とまるでピンボールの球の様に弾き飛ばされる。

 とどめとばかりに頭上からの一撃。

 飛段は数メートルのクレーターを作りながら地面に叩きつけられた。

 

 口寄せ・明王降臨。

 忍術ではなく、忍宗の修行僧が己の持つチャクラ以外、つまりは天然自然のチャクラを取り込み、規格外の力を発揮する「仙術」の延長上に在る力である。

 仙術ほど洗練、先鋭化されたものではなく、仙術の行使時に起こる身体の変容もほとんど起きない。

 とはいえ、自然のチャクラを取り込む際には身動きが取れなくなるため、その間は他者に守ってもらう必要があった。

 地陸がこの術を発動できたのはアスマのフォローと角都の手加減のおかげであるが、一旦発動してしまった口寄せ・明王降臨の効果はご覧の通りだ。

 この術で呼び寄せるのは地陸の中に(こご)った自然のチャクラ。

 一旦人の身の中に取り込んだ自然のチャクラに、術を以って形を与えたものである。

 いわばチャクラというエネルギーが人の形を取ったもの、と言えようか。

 この人型、明王には質量はないが物理的な影響を与える、という特性があった。

 重量が無く、異様に高速で動き、かつその見た目通りの質量をもつかのように、相手にぶつかれば大きなダメージを与える理不尽な存在。

 そのような「守護明王」を呼び出す術であった。

 その効果は見ての通り。

 飛段ほどの手練れが見切る事も出来ず、一方的に打ちのめされてしまっていた。

 この明王に対抗するにはチャクラによる攻撃しかない。

 すなわち忍術による攻撃のみが通じるのだが、その速さゆえに忍術で捕えることが非常に難しい代物であるのだ。

 なれば点より面。

 さすがに金の妄執を(一応は)振り切った角都は判断が早かった。

 飛段は打ちのめされている間に巨人の1つに強力な風遁を発動させていた。

「一度吹き飛べ! 風遁・圧害!!」

 その暴風は、倒れた飛段ごと、アスマ・地陸を吹き飛ばした。

 

「だああっっ!! ばっかやろう角都うぅ~~!!」

 異様な角度に手足を折り曲げながら、角都に罵声を浴びせる飛段。

「仕方あるまい、先の術はあまりにも強力。

 単体への攻撃はまず当たらん。

 故に、このあたり一帯に攻撃をする必要が…!!」

 その時、角都の胸にサクリと突き刺さったものがあった。

 角手の様な、いびつな楕円を描く握り(グリップ)と短刀ほどの刃の付いた奇妙な刀。

 アスマのチャクラ刀である。

「さすがに油断大敵って奴だぜ、元・滝隠れの角都さんよ」

 投擲したポーズのまま火のついた煙草をくわえ、にやりと笑うアスマ。

「馬鹿な…」

 そうつぶやき、角都はその場に倒れ伏した。

 

 もうこれで問題なくこちらの勝ちだろう。

 シカマルはアスマの勝利を確信した。

 あとはシカマルの「影縫いの術」などで飛段を拘束してしまえば終わりだ。

 シカマル自身は飛段にかなわないことは認識しているが、アスマ、地陸の助力があればそう難しい事はない、そう見切る事が出来た。

 それが慢心に繋がったのか。

 シカマルも、アスマ達ですらも、倒れた角都の周囲の地面が、もぞりと動いたことに気付かなかった。

 

「おお怖ええこええ!!

 はっはあ~っ! さっすがに強ええなあ、おい!」

 飛段はアスマと地陸、双方を相手取ってなお軽口を叩いていた。

 余裕がある訳ではない。

 当代きっての強力なコンビ、猿飛アスマと忍宗僧侶地陸と戦っているのだ。

 本来ならばさっさと撤退していておかしくない状況だ。

 しかし、戦いと殺戮を求めて「暁」に入った修羅である飛段にとっては強者との戦いは何よりの楽しみ、悦楽であった。

 さらに言えば、

“…しっかりこいつらの気をひかねえとなあ…”

 そういう狙いもあった。

 とはいえ、先ほどの術、口寄せ・明王降臨をもう一度使われるとさすがの飛段でも辛い。

 使用中はどうやら地陸は動けないのが幸いだが、アスマに加えてあの明王とやらが参戦してくるとなると飛段ですらちと荷が重い。

 猿飛びアスマの得物は飛びクナイと短めのチャクラ刀である。

 飛段はアスマの攻撃に対応し、懐に飛びこまれないよう注意しつつ、地陸を狙っていく。

 飛段の得物である3枚刃の大鎌は柄の部分にロープが仕込まれており、近距離から中距離をその間合いとしている。

 アスマの注意が地陸のガードから外れた瞬間、飛段は全力で鎌を投擲、地陸の首を狙おうとした、その瞬間。

「! 体が… 動かねえ…」

 飛段の体に黒い紐のようなものが巻きついていた。

 ひものようなものは地面を這い、印を結んだシカマルの足元まで伸びていた。

 いや、これはひもではない。

 シカマルの影だ。

 奈良家の秘伝「影首縛りの術」である。

 影縫いの術の如く、影のある相手を己の影で浸食、動きを止めるとともに相手の体に纏いつかせた影がその首を締めあげる忍術である。

 とはいえ飛段の首を絞めてへし折った所で相手は不死、すぐに回復してくるであろう事は想像の範囲内だ、

 ならば、ここは大技で大ダメージを与え、その隙に拘束するのが吉。

 そして動きを封じてしまえばアスマなり地陸なりが片を付けてくれよう。

 シカマルの戦術が勝敗を付けるのだ。

 影首縛りの術が発動した瞬間、地陸の「口寄せ・明王降臨」が飛段の頭上に現れた。

 そのまま明王は空中で旋回、強烈な飛び蹴りを飛段に振り下ろした。

 めりめりと音を立て、身動きが出来ない飛段の肩が砕けていく。

「ぐがあ…、 かあああっっ!!」

 飛段はそのとてつもない一撃を、全身の筋肉に力を込め、弾き返そうとする。

「!! なんと、明王の一撃を弾くと言うのか!」

 飛段の力が明王の力と拮抗する。

 それがどれほどのものか。

 明王を使役する地陸が驚嘆の声を上げた。

 しかし、その均衡を破るものがいた。

 誰あろう、猿飛アスマだ。

 風遁により、多量の粉末を飛段の周囲に吹き付ける。

「!? 何しやがる、このヤロー!!」

 飛段の罵声にも耳をかさず、その粉末、チャクラを変質させて作り上げた易燃性の粉末に、アスマは奥歯に仕込んだ火打ち石で着火した。

 

 轟音!!

 

 風遁によりその爆破範囲を制限された可燃性粉末の爆発は、中心部、つまりは飛段にとてつもない熱力と圧力を以って一撃を加えた。

 並みの忍、いや、常人であろうとも跡形もなく消し飛んでもおかしくない威力である。

 飛段であろうとも、そうそう耐えられる威力ではない。

 風遁と火遁を時間差で発動する猿飛アスマ必殺の忍術「火遁・灰積焼」である。

 これで仕留めた。

 そう皆が気を緩めた瞬間である。

 

 ぼっ!

 

 粉塵舞うその中心から、飛段が飛び出してきた。

「なっ!」

 狙うは、奈良シカマル。

 咄嗟の事にシカマルは半瞬だけ動きを止めていた。

 それが命取りか。

 シカマルは飛段の強烈な右の拳を喰らい、大きく弾き飛ばされていた。

 飛段は無傷、という訳ではなかった。

 大きく損傷した全身。

 得意の得物である大鎌は砕け、損壊していた。

 代わりに手に持っているのは黒く細い槍のような得物。

 ジャシン教において殺戮した相手をジャシン様に捧げる祭具でもある得物だ。

 伸縮自在である代わり、強度はそれほどでもない。

 これを以ってアスマ達と打ち合う訳にはいかなかった。

 アスマ達も驚いていた。

 あの爆発をどうやって捌いたのか。

 その疑問を考える事も出来ず、飛段と対峙する羽目になる2人。

 この場の流れは飛段に傾いていた。

 しかし、未だアスマと地陸は健在。

 負傷の回復しきっていない飛段ならば、2人がかりで制圧することも可能なはず、だった。

「食らえ、風遁・大突破!!」

 倒したはずの角都から忍術による攻撃を喰らわなければ。 

 飛段を含む3人に、とても立ってはいられない暴風が吹きつけた。

 咄嗟に顔を腕で覆うアスマと地陸。

 その彼らに、

「うおらぁ! 殺戮ぅうぅ!!」

 暴風に乗る形で飛段が迫った。

 一瞬視界を塞がれたアスマの動きが一瞬止まる。

 しかし、アスマはぎりぎりの所で対処して見せた。

 チャクラ刀で飛段の槍を受け流し、

「かっ!??」

 アスマの胸に、黒々とした槍が深々と突き刺さっていた。

 地面に倒れ伏すアスマ。

「…へっ、甘めえぜえええええぇぇ!!」

 それは、飛段の左手に握られ、飛段の背中から、アスマの胸を一直線に貫いていた。

 飛段は左手に2本目の槍を持ち、自分自身の背中から心の臓、そしてそれらを隠れ蓑にしてアスマの胸を貫いたのだ。

「アスマ! 貴様あぁ!!」

 盟友が倒された怒りに震える地陸が傷の癒え切っていない飛段に一撃を見舞おうとした時。

「オレのいることを忘れたな…『雷遁・偽暗』!!」

 地陸に強烈な雷遁が放たれ、したたかに打ちつけた。

 これは胴を貫かれ、とても生きているはずがないと思われた角都の忍術だった。

 

「よお、角都ちゃんお疲れえ…」

 だらりとした表情で飛段が言う。

「ふん、オレがあの時守ってやらねば、貴様とてそんななめた口は聞けなかったのだぞ」

 そうのたまう角都。

 アスマの忍術、火遁・灰積焼を受けるその瞬間、「秘術・地怨虞」の黒い触手を地面の中に打ち込み、飛段の所まで伸ばした後にその体に纏いつくように保護、更には「土遁・土矛」の術を以って飛段の受ける被害を最底辺に抑えたのである。

 とはいえ、土遁・土矛をもってすらアスマの術を無傷に抑えることはできなかった。

 さすがは木の葉隠れの精鋭ということか。

 しかし、「暁」の精鋭たる飛段と角都の前に彼らを膝をつくこととなった。

 忍の戦いは戦闘の手札が先に尽きた方が負ける。

 同時に手札を読ませないものが勝つのだ。

 今回の戦いは角都の特異性を読み切れなかった為にアスマ達は敗北した。

 敗れれば何も残らないのが忍である。

「さて、その命もらい受ける…!?」

 手に持った黒い槍をアスマの心臓めがけて突き刺そうとした飛段。

 その瞬間、とてつもない怖気が飛段の体と突きぬけた。

 その怖気をもたらした直感にしたがい、大きく飛びのいた飛段。

 その飛段の黒い槍、それに、

 

 きゅいん!

 

 飛来した何かが接触した。

 槍の切っ先は、金属同士がぶつかるキン、という音も、肉を切り裂くぞぶりという音もせず、

 ただ消滅した。

「うん、『時空間忍術・虚空斬破(こくうざんぱ)』、うまくいったようだな」

 気負いのない、むしろやる気の無さすら感じる声がした。

 そこには、剣を構えた口元を覆った忍びがいた。

 その左目は、

「写輪眼! キサマ、『写輪眼の』はたけカカシか!」

 角都が相手をそう看破した。

「…っち、また面倒なのが来やがった、っとお!!」

 飛段が飛びのくと同時に、飛段の立っていた地点に、

 

 どおん!

 

 という轟音と共に突き立ったモノ、いや者がいた。

「ダイナミック・エントリィー!!」

 そう、彼の名は、

「木ノ葉の気高きあ…」

「『木の葉の珍獣』マイト・ガイか!?」

「誰が珍獣かあっ!!」

 角都の声に、思わず突っ込みを入れるガイだった。

 

「おい角都、どうす…」

 飛段は角都に相談しようとして顔をひきつらせた。

「おお、おおお、こんなに高額の賞金首が…」

 これはまずい。

 確かに「コピー忍者」はたけかかしに「木ノ葉の気高き碧い猛獣」マイト・ガイとくれば、先のアスマ達に負けず劣らずの高額の賞金首であることは間違いないだろう。

 だが、それは同時に並々ならぬ強敵である事でもあるのだ。

 無論、飛段としては戦うのにやぶさかではない。

 とはいえ、特に角都が消耗している今、戦って勝てるか、というと(はなは)だ疑問である。

 角都としても、敵を仕留めても換金できず、そもそも勝てるかどうか分からない勝負を挑まないであろう、正気ならば。

 さらに、ここにカカシとガイが来ているということは、更に増援が増える可能性がある、ということでもある。

 角都が正気に戻ってくれれば、飛段は角都に話しかけようとした。

 その時である。

「ああっと、『暁』の角都と飛段、だっけ?

 アンタ達、ここは引いてくれないかなあ?」

 カカシからの提案であった。

 このままでは「暁」側はジリ貧である。

 ここは火の国、木の葉隠れの里のテリトリーである。

 ここでカカシ達を倒したとしても同等の戦力がすぐに送り込まれる。

 いずれはすり潰されるだろう。

 一方カカシの方も出来るだけ早く撤退したい。

 そしてアスマと地陸、シカマルの治療をしなければならないのだ。

 ここで飛段達を拘束するのは難しい。

 ならば、彼らと戦闘をした人から情報を得るほうが有効だろう、そうカカシは判断したのだ。

 カカシがどう判断したか、長年のライバル(自称?)であるガイも理解している。

 そのうえで、カカシはこの場にいる木の葉隠れの忍の総意として、あえて緩い態度のまま、交渉を持ちかけたのである。

「…はやいとこ『いちゃいちゃタクティクス』の続き読みたいしね」

 そう、判断? してのカカシの交渉、である、はず。

 これもまた、天才忍者はたけカカシ一流のブラフなのであろう、多分。

「…角都、どうする?」

 飛段が角都にそう問う。

「無論すべて殺して…」

「だから、それが出来る状況かって聞いてんだよ」

「む…」

 普段であれば飛段に論破される角都ではない。

 普段の飛段は感性で生きており、理論的な部分は角都に任せている。

 飛段の直感を角都の知性が修正することで、ツーマンセルがうまくいっているのだ。

 今その一部が崩れている。

 飛段の問いかけで角都は自分がいつもと違う状態であることに気付いた。

 一旦気付けば角都の頭脳はしっかりと損得を勘定し始める。

 確かにこのままだと自分達は木の葉の里と言う巨大な忍組織にすり潰されるだろう。

 向こうはそれだけの戦力を持っている。

 このままカカシとガイという強力な敵を倒したとして、まだまだ木の葉の里には上忍が大量にいる。

 その一割ほどを敵に回すとして、万全でない今の状態で勝ち目はあるか。

 ないに決まっている。

 万一にも疲労しきった状態で人柱力と戦う事にでもなれば、飛段はともかく角都は生きて賞金を受け取ることはないだろう。

 ふむ、仕方なし。

 角都は撤退を決断した。

 

 去っていく「暁」の2人を見送りながら、ガイはカカシに声をかけていた。

「むう、奴らを逃がしてしまって良かったのか。

 忍としては任務を優先し、奴らの捕縛、殲滅を行うべきであったかも知れんぞ」

 カカシはアスマと地陸に応急処置を施しながらへらりと返した。

「な~に言ってんの、君だって納得してんでしょ?

 今は『暁』の情報がほしい時期なんだから、実際に交戦した人達に死なれちゃ面倒じゃない。

 それに、さ…」

「それに、なんだ?」

「シカマル君はまだまだこれからの逸材だし、アスマは、さ…」

「ああ、3代目、か…」

 元3代目火影・猿飛ヒルゼンは現在、非常に弱って来ており、意識レベルも低下気味の状態だ。

 猿飛アスマはヒルゼンの実子であり、また、同僚である猿飛紅・旧姓夕日のお腹には彼の子どもが育まれている。

 アスマが死ぬこととなれば、ヒルゼンの死期は確実に縮まるだろうし、紅の悲しみはいかほどのものになるだろうか。

「ま、死なないけどね」

 カカシがそう能天気に言うと、

「う、う、る、せえ、ょ」

 蚊の鳴くような声で、その胸を貫かれたはずのアスマがカカシに文句を言っていた。

 

 飛段の持つ黒い槍に貫かれようとしていたアスマ。

 自分の死を間近に控え、その時アスマは確かに人生の総括たる走馬燈を見た。

 幼少時代、自身を構ってくれない父に反発した事、人柱力であった母の死、長じて木の葉隠れの忍ではなく火の国の守護忍十二士となった事、様々な事が頭をよぎっていった。

 そして老いた父の安らかな顔、己の妻となった紅の微笑み、それを思い出した時。

 アスマの頭にあったのは、死にたくない、という思いではなく。

 死ねない、死んでたまるか、という意地。

 その意地が道理を貫いたのだろうか。

 ほんの少しのアスマの身じろぎ。

 それは、飛段の槍が身体に潜り込む時、信じられないほどの精密さで心臓の血管を避け、致命的な損傷を避けてその体に突き立ったのである。

 とはいえ、その傷が軽いものではない事は確かだ。

 肺は大きく傷つき、胸部の骨もかなり傷んでいる。

 ただ単に即死ではない、その程度のものでしかない。

 ここから忍として復帰できるかどうかも怪しい状態だ。

 しかし生きている。

 まずはそこからだろう。

 カカシは安堵混じりのため息を吐き出すと、応急処置の続きに入るのであった。

 

 

 

「で、角都よお、これからどうすんだ?

 人柱力探しはするにしても、こんだけがっつり警備網を敷かれちゃ身動きとれねえぞ?」

 それからしばらくして、周囲に木の葉隠れの里の忍がいないと呼んだのか、飛段が角都にそう尋ねた。

「ふむ、かなりの警備だしな、その隙を突きつつ人柱力を探すしかあるまい。

 丁度良い、ついでに小金稼ぎをしながら、じっくりと探すとしよう」

 金への妄執を(一応)払っていつもの冷静さを完全に取り戻した角都はそう答える。

「丁度、犯罪者を集めてほしい、という依頼があったらしくてな、依頼人に会ってみるか、と思っていた所だ。

 とりあえず田の国に行くぞ、付いて来い」

 角都はそう言うと、飛段の返事を待たずに走り始めた。

「おい…、人の話聞けよなあ~、ったくよお…」

 飛段は頭を掻きながら、角都の後を追った。

 

 この後、飛段達は音隠れの里の拠点の1つで大蛇丸との話し合いに入る。

 飛段はここでブンブクと運命の再会を果たすのであった。

 

 

 

 いずことも知れない場所。

「角都ノ手下達ノ居場所ハ把握済ミカ?」

「もちろん。

 で、こいつらどうするのかなあ?」

「マア待テ。

 時期ガ来レバ教エテヤロウ」




地陸さんの「口寄せ・明王降臨」はアニメ版の地陸さんの技をイメージしてねつ造しました。

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