NARUTO 狐狸忍法帖   作:黒羆屋

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だいぶ遅くなりましたが、51話をお届けいたします。
腰を痛めましてパソコンの前に座っていることができませなんだ。
申し訳ありません。
今回ですが、ちと区切りが悪いかもしれません。
後々修正するかも。

8月1日大幅改訂をいたしました。


第51話

 レディーセット!

 脱兎! 自由への飛翔!

 ひょい。

「どこ行くんだあブンブクよお?」

 そしてキャッチ…。

 ゲームセットです。

 はい? なにしてるかって?

 そりゃもう、飛段さんから逃げる為に準エコモードで駆け出したところだったんですが何か?

 ええあっさり捕まりましたよ。

 こう襟首をつままれてぶらーんと。

 

「そう怯えんなよブンブクう。

 別に今日はお前を殺戮しに来たわけじゃないんだからよお」

 あれ、そうなんですか?

「そ。

 っち、この前かなり腕の良い奴らがいたからよお、禊ぎの為に殺戮しようと思ったんだけどよお」

 普通禊ぎって血とか汚れをはらうもんじゃありませんでしたっけ?

 飛段さんとこのジャシン教だとそう言うもんなんですかね。

「そういうこった。

 強者の血を浴びてこそ禊ぎになるってもんだからなあ!」

 まあなんとも嬉しそうなお顔ですこと。

 とは言え、それだと今回僕が襲われることはないってことですよね。

 ん?

 んじゃあ、

「今日は何用でこっちに来たんですか?

 確か飛段さんたちって大蛇丸さんあんまし好きじゃなかったような気がするんですけど…」

 飛段さんたちに限らず、「暁」の人たちは元「暁」所属で裏切り者の大蛇丸さんを毛嫌いしているって情報があったはず。

「ああ、それな。

 ほれ…」

 飛段さんはアゴで大蛇丸さんの方を指す。

 そこでは…。

「…それでは1人当たりこの値段で良いのだな…」

「ええ。

 あとくされの無い犯罪者ならまあがたがた言われる事もないでしょうしね。

 そっちとしても賞金の掛かってない程度の奴でも金になるなら良いのでしょう?」

「うむ。

 いままで金にならなかった屑どもが現金化できるとなれば(いや)もない。

 よろこんで商売をさせてもらおう」

 …なんだかなあ。

 どうやら大蛇丸さんは人体実験用の検体を山賊や強盗など、犯罪者を捕えてきて検体にするつもりみたいだ。

 で、それを実際にやってもらうのが「暁」の角都さん、と。

 僕が微妙な表情をしているのを見て、飛段さんもまた微妙な表情をしていた。

「あーっと…、まあ、なんて言ったらいいのかねえ…」

「飛段さんも大変ですねえ…」

 確か僕たちの所に来ている情報では、角都さんって90歳を超えた現役としちゃ最年長の忍って話だったんだけど。

 僕たちの見ている角都さんは、なんというか、少年のように目をキラキラさせているんですよね。

 いままで稼いできたお金はそれこそ国家予算に匹敵するでしょうに。

「…角都の奴、前回賞金首を狩りそびれたことがそんなに悔しかったのかあ?」

 飛段さんは首を捻っていました。

 …そこいら辺は里からの情報で知ってたりする。

「僕⇔化け狸の里のカモくん⇔木の葉隠れの里の影分身の僕」という連絡網が出来ており、かなり正確に里と僕は情報交換が出来るんだ。

 飛段さんと角都さんは「火ノ寺」を襲撃し、そこの僧侶である「地陸」さんを倒そうとしたらしい。

 なんでも地陸さんって裏の世界じゃ3000万両の賞金首だそうで。

 そんだけあると一生遊んで暮らせる金額だよねえ。

 で、そこに猿飛アスマ上忍が乱入してきたんだとか。

 アスマ上忍もおんなじ位賞金が掛かってるんだそうだけど、ここで問題点が1つ発生したんだそうで。

 なんでも、アスマ上忍と地陸さんって元々チームを組んでたらしく、「2人同時に仕留めれば8000万両」の超大口賞金首だったんだそうです。

 ここで角都さんがおかしくなったんだとか。

 余りの金額に、いつもの冷静さが吹っ飛んじゃって、引き際とかが狂ってしまったそうです。

「なんでオレが引き止め役をしなきゃなんねえんだあ!!」って飛段さんが愚痴ってました。

 2人してアスマ上忍達を押し切りかかったところで、木の葉隠れの援軍が到着。

 その中にも結構高金額の賞金が掛かってる人がいたそうで(どうやらガイ師匠もいた様子)、更に角都さんがヒートアップ。

 何とか連れて逃げだしたは良いけど、反動で角都さんが使い物にならないくらい落ち込んだそうです。

「…でよう、まあとりあえず小銭稼ぎでもって事で動いたのは良いんだけどなあ、火の国周辺だと下手に動けなくてよお。

 角都が万全ならともかく、調子が狂った状態だと、『暁』として動くのもなあ…」

 なるほどね。

 言い方はぼかしてるけど、「暁」としての任務って「尾獣」の確保だよねえ。

 ってことは、うずまき兄ちゃんと滝隠れのフウさんを狙っての事だよね。

 今んとこ兄ちゃんとフウさんの居場所については情報統制と欺瞞情報でもって特定されにくくして入るはずだけど。

 さすがに感づかれてるみたいだなあ。

 実働部隊こそ少ないものの、暁って結構大きな組織なんじゃないだろうか。

 裏っ側で動いている情報網はかなりの規模になりそう。

 そうなると、これはここ最近でできた組織じゃなくて、ペインさんたちは元からあった組織を乗っ取ってそれを隠れ蓑にしている可能性が大だなあ。

 僕は顔に出さずにそんなことを頭の中で描いていた。

 その間にも飛段さんの説明、というか愚痴は続いて行った。

「それで、裏の換金屋に話を通して、大蛇丸が条件付きの人狩りをやってるって聞いたんでな、そこいら辺の金額交渉も兼ねて遊びに来たら、お前が居たってわけだ」

 なるほどなるほど。

 そうなると飛段さんたちと大蛇丸さんたちは長い付き合いになるってことですかねえ。

「で、なんでまたお前がここに居んのよ?」

 …あ~、そこいら辺は誤魔化したかったんですけどねえ。

 大蛇丸さんとダンゾウさまのラインを気取られるといろいろ厄介ですし。

 とはいえ、さっきカモくん経由でダンゾウさまからある程度の情報開示は認められてますしね。

「まあ、使えるコマとして木の葉隠れの里から誘拐されてきたことになってまして…」

 そういうと、飛段さんはひょいと肩をすくめて、

「あー、まためんどくせえことしてるなあ、らしいっちゃらしいけどなあ、おい、『根の後継者』殿?」

 やめてってそう言うの。

 僕はもう厨二病は卒業したんですから。

 なんですか、その「にやあ~っ」とした表情は!

 こうしてしばらく僕は飛段さんに「二つ名」でおちょくりまわされ、そこに音隠れの皆が乱入することで収拾がつかなくなりました。

 ちなみにしばらく後に大蛇丸さんの拳骨の介入によって事態は収拾されたのでした。

 

 やっぱり僕の扱いが悪い! 地位向上を要求する!!

 

 さて、大蛇丸さんと角都さんのお話し合いが終わったようです。

 そうそうにお帰り、というのもさみしい話なんで、晩御飯でも食べてって頂くというのはどうかと思うんですが。

 と、大蛇丸さんに相談したところ、

「…良いんじゃなあい?

 とはいっても、残ってるのは()()位だけどねえ…」

 ? なんですその奥歯に物が挟まったようなものいいは?

 確かに激辛麻婆豆腐ですけど、あれはかなりいけると思うんですけどねえ。

 とにかく聞いてみる事にしましょうか。

 

「あ? 飯食ってけだ?

 ん~…大蛇丸んとこの飯かあ…。

 なんか、妙なもん入ってねえだろうなあ?」

「さすがにそれは…。

 こっちも検体売ってもらわないとまずい訳ですし、そんなことはするつもりはないんですけどね。

 それに調理したのはブンブク君ですから…、飛段さんに一服盛るくらいはしそうですね…」

 はいカブトさん、何物騒なこと言ってんですか!

「え? しないの?」

「は? しねえのか?」

 カブトさんも飛段さんもユニゾンで言わないの!

「いやそもそも意味無いでしょうに。

 そんなんで倒せるならとうの昔に死んでるでしょうが。

 違いますか? 飛段さん」

 飛段さんはにやあっと笑うと、

「当然。

 角都と一緒にいると正攻法じゃ無理だって毒殺を狙う奴ぁ結構いるんだよなあ」

 でしょうねえ。

 切っても死なない飛段さんと、心の臓を潰しても死なない角都さん。

 物理的に死なないなら、ケミカルならどうかって考えますもんねえ。

 まあ無駄な訳ですが。

 角都さんのはなにかタネがありそうなんだけど、飛段さんのはなあ、どうにもこうにも。

 どう攻略していいか全く見当がつかないんだよなあ。

 まあそれは今は良いや。

 で、どうしますか?

 そんな風な感じを込めて、飛段さんの相方である角都さんを見てみると、

「ふむ、なれば出してもらおうか。

 飯代が節約できるというものだ」

 といういかにも角都さんらしいセリフが返ってきました。

 

 お、麻婆豆腐の残りがあったまったようで…す?

 ええっと、調理担当のみなさん?

 なんでゴーグルにマスク付けてるんですか?

 そして麻婆。

 …なんですかこの赤、というか赤黒いモノは。

 おかしい。

 器の縁に付いた汁を指ですくってちょっとなめてみます。

 

 !!!???!?!?!?!??!?

 

 

 

 ブンブクは白眼を剥いてのたうちまわった。

 舌が爆発したような辛さ。

 じたんばたんと跳ねまわる。

 頭など回る訳もない。

 とはいえ、ブンブクにはこの辛味に覚えがあった。

 そう、自身の持っている辛味錠剤である。

 忍具として作ったもらったカプセルに封入した、唐辛子などから抽出したほとんど劇薬のようなものである。

 誰かがブンブクの口にコップを差し出した。

 涙目で視界の効かない状態ではあったが、貪るようにそれを飲み干すブンブク。

 若干なりとも辛味が軽減されたか、やっと周囲を見る余裕が出来たようである。

 

 

 

 ああ死ぬかと思った。

 しっかし、こんなに煮詰めた記憶ないんだけどなあ。

 そう思ってふと視線を上げると。

 さっき僕が飲んだコップを持って、「だーいせーいこー」とでも言いたげな大蛇丸さんの顔。

 …あ、そうですか。

 なるほど。

 麻婆の残りに辛味錠剤の残り放り込んだのはこの人でしたか。

 …。

「何考えてるんですか!

 角都さんたちはビジネスパートナーでしょ!?

 いきなり嫌がらせしてどうすんですか!??」

 そう言っても大蛇丸さんには糠に釘、蛙の面にションベンという感じです。

 蛇なのに蛙とは此れ如何にって感じですが。

 それはさておき。

 なんというか、誰か引っ掛かってくれたら楽しいみたいな顔をしています。

 カブトさんとかならともかく、サスケさんだったらどうしたんでしょうね。

 確実にへそ曲げますよ、あのひと。

 大蛇丸さんは楽しげに眼と口で3つの三日月を形成しながら、

「大丈夫よ。

 アナタが最初に引っ掛かるのは分かってたから」

 って、チョットマッテ!

 じゃあなんですか!?

 僕がこうなるのを分かってて大蛇丸さんはこんな無慈悲な事をしたのですか!?

 なんということだ! ワタシはこれほどに大蛇丸さまにお仕えしているというのにっ(ここでぶわっと滝のような涙)!?

 大蛇丸さんを見てみると、

「フフフッ、愚かな仔。

 ワタシは大蛇丸、弱っているなら追い込むのは当然でしょう…?

 その程度の事が分かっていないから隙を突かれることになるの。

 覚えておきなさい、忍が死角から狙う狙われるのは(さが)なのだと…」

 ばさりと振り乱した髪の奥から、蛇の両眼が僕を見下ろし、その三日月のような笑みを浮かべた唇の薄い口腔からぜろりとした舌がまるで蛇のようにのたうっていた。

 

「で、2人とも寸劇はそろそろ終わりにしませんか?」

「あっはい」

「もうちょっと続けても良いのに…」

 カブトさんの一言で、ネタを終りにする僕と大蛇丸さん。

 とは言え、料理が冷めちゃいますね、さすがにあのまんま提供する訳にも行きませんが。

 さて、まだ残ってるはずですからあっため直してこないとな…、…てぇ!!

「うわぁ!! 飛段さん駄目だって!!!」

 飛段さんが一心不乱にさっきの「特辛地獄麻婆豆腐」をかっ喰らってらっしゃる!?

 え!? なんで!? なんでそんな()()食せるんですか!?

 

 

 

 飛段は一心不乱にその劇物を平らげていた。

 量的には皿2つ。

 つまりは飛段と角都の分が用意されていた訳であるが、自身の分を平らげ、角都の分にすら手を出している。

 飛段はこの辛味、というか痛味(いたみ)を知っていた。 

 かつてブンブクと戦った時に喰らった辛味錠剤である。

 飛段はその痛みを「味覚的死」として認識した。

 死とは飛段立ちジャシン教の教徒にとっては神聖なものである。

 敬意を払い、崇拝すべき概念だ。

 そしてこの食事にはその「死」があった。

 しかし同時に食事とは「生」の象徴でもある。

 他の生物の「死」を取り込み、己の「生」とする行為。

 これもまた、ジャシン教においては神聖なる概念とされているのである。

 今飛段の口の中には「生」と「死」が同時に存在していた。

 飛段は不死だ。

 破壊された細胞は速やかに修復され、死は生へと変わる。

 強烈な「辛味」は飛段の口腔内の細胞、特に味覚に関わる細胞を破壊し、それは即座に修復される。

 復活した味覚は即座に破壊され、そして復活する。

 飛段は辛味による味覚の「死」と復活した味蕾の感じる肉と野菜から染み出した旨味による「生」を同時に体感していた。

 

 

 

 僕たちは(大蛇丸さん含み)唖然としていた。

 飛段さんは、

「これはっ、こいつはあっ、神の食いモンだあっっ!!!

 生を司る『食事』の中にっ、『死』が溶け込んでやがるうっ!!

 辛味で『死』んで、食事で『生』きかえるっ、こいつぁ生と死の輪廻を表してやがるっ!!」

 ええっと、そんな上等なもんなんですか?

「ワタシに聞かないでちょうだい…」 

 大蛇丸さんが(珍しくも)茫然と言った。

「そんな大層な成分はないと思うんだけど…何か調理の際に化学反応が起きたのかな?」

 首をひねるカブトさん。

 呆然とし、言葉も出ないサスケさんを筆頭とした音隠れの里の皆に、

「…馬鹿が刺激物を取り過ぎて壊れおったか…」

 すっかり呆れている相方の角都さん。

「ブンブクうぅ!

 まだあんだろ、おかわりだっ!」

 ええ~ぇ、()()まだ食べるんですか…。

 あ、そう言えば、角都さんはどう…

「食うか馬鹿、やはり馬鹿の『隣人』は馬鹿ということか?

 貴様には『馬鹿二号』の称号をくれてやろう、喜べ馬鹿二号」

 立て板に水と言う感じで罵倒されました。

 いやそうじゃなくてね、あの劇物じゃなくて、皆で食べていた方の「()()()()()()()()」の方なんですけどね。

「…なるほど、馬鹿よりはましなようだな、馬鹿二号。

 いいだろう出してみろ馬鹿二号。

 食えたものでなかったならしっかりと油を絞ってやろう馬鹿二号」

 …くぬやろう。

「忍はそう言った事を顔に出さんものだ馬鹿二号。

 …ときに大蛇丸、この子狸のあしらい方はこんなもんで良いのか?」

 …大蛇丸さんっ!

 あんたの仕込みかあっ!!

 満面の笑顔とかまあ嬉しそうだったらないのなあ!!

 ええい2人してその愉悦笑いを止めれえっ!?

 僕はプンスカと怒りつつ、飛段さんのお代わりと、角都さんのご飯の準備に台所へと向かうのでした。

 

 

 

「うぉらあっ!!」

「くっ…」

 なんかものすごい高速の戦闘が目の前で繰り広げられています。

 対峙しているのはサスケさんと飛段さん。

 いやね、ここしばらくちょくちょくと飛段さんがご飯を食べにくるのですよ。

 で、僕に激辛料理を作ってくれと、との事でして。

 ほんとにね、3日と空けずにやって来るんで、人ごとながら、「暁」のお仕事とか大丈夫なんでしょうかね。

 でですね、毎食毎食タダ飯をかっ喰らっていく飛段さんにさすがに大蛇丸さんが怒りまして、

「ならば食事の礼に手合わせの相手をしていきなさい」

 ってことになったんですね。

 丁度サスケさんの相手として完全に格上の相手っていうのが大蛇丸さん位なんですよね、うちって。

 いやうちじゃない、音隠れの里って。

 しっかしさすがはサスケさんだなあ。

 あの飛段さんのスピードに真っ当についていけてる。

 僕なんて、飛段さんの間合いの内側にべったりへばりつく形で何とかしのいでたんだけど。

 うわあ、飛段さんの鎌って傍から見ると切っ先が見えない…。

 唸りを上げて旋回する異形の鎌、刃が複数ついてるから 見切りが大変なんだよね、あれ。

 その物騒な獲物の刃を時に回避、時に銘刀「草薙の剣」でさばいていくサスケさん。

 なんであんなこと出来るんだろう。

 飛段さんの間合いで戦ったら確実に僕は肉片になってる。

 たぶん、サスケさんは飛段さんの使う身体強化のチャクラを視認して行動の先読みをしてるんでしょうが、そもそもそれで先読みが出来るってのが才能なんだと思うんですよ。

 しかもサスケさんの場合、あれ多分感覚的なものじゃなくて知性と理性でやってるんだからすごいんだよね。

 知性でなんとかする場合、感性で何とかする場合よりも一手番余計な手順が必要になるからね。

 ショートカットしないというかなんというか。

 感性で回避とかする場合は、攻撃感知→本能によってあらかじめ設定されてる回避方法で回避。

 なのが、

 知性での回避は、攻撃感知→最適な回避方法の選択→回避行動、こんな感じなのかな。

 なのでどうしても回避行動に入る時間が長く掛かるはずなんだけど、やっぱりサスケさんは優秀なのだろう、ただ回避するだけじゃなく、だんだんと切り返しも出来るようになってきている。

 学習能力が半端じゃないっていうのは非才な僕でも理解できるくらいだ。

 そこいら辺は兄ちゃんとは真逆だよねえ。

 兄ちゃんは学習能力そのものは低い。

 代わりに何度も練習して、ある時その成果が一気に出るんだ。

 だからこそ、サスケさんには兄ちゃんがいきなりドーンと強くなったように見えるんだろうし、兄ちゃんにはサスケさんのはっきりと目に見える形の成長がライバル心をかきたてられるんだろうか。

 さて、僕もこうしちゃいられないよね。

 僕は音隠れの里の忍の1人と組手を始めたのでした。

 

 

 

 サスケは必死に飛段に喰いついていった。

 ブンブクはサスケの優秀さに目が行くのであろうが、本人としたら高速で旋回し、時にフェイントが入り、軌道のぶれる大鎌を捌くのに必死であった。

 甘く見ていた。

 サスケは先ほどまでの自分の甘さを呪いたくなっていた。

「暁」の飛段。

 本人いわく、不死身である以外に取り柄が無い、なんぞと言っていたが、とんでもない。

 確かにここの所、大蛇丸以外に明らかに格上の相手と戦ってこなかったとは言える。

 大蛇丸の連れてくる相手は自分より一段強い相手、つまりはその戦いの間に強くなれば届く相手、であった。

 飛段は違う。

 少なくともこの戦いの間になんとかなる相手ではない。

 これはサスケから見てもバケモノだ。

 大蛇丸と同じレベルの恐ろしさを感じる。

 これとブンブクが戦ったというのか。

 それが事実だとすればブンブクが生きている事、そしてへらりへらりと飛段達と能天気な会話をしていられることが信じられない。

 そう、意識が今の戦いからずれたせいであろうか。

「隙、ありだぜえ!!」

 サスケは飛段の鎌の柄で思いきり弾き飛ばされた。

 

「ゲッホ… ガハッ!!」

「おーい、目ぇ覚めたかあ?」

 サスケは意識を急速に覚醒させた。

 背後から飛段の声が聞こえる。

 どうやら気絶した後に、飛段に活を入れてもらって目が覚めたようだ。

「まず休めや。

 どんなに無理したって実にゃあなんねえぞ、そんなんじゃよ」

 目が覚めてすぐに立ち上がろうとしたサスケに、呆れを含んだ声で話しかける飛段。

「だがっ…!」

「だがもかかしもねえよ。

 焦ったってどうにもなんねえ時はなんねえんだ、気持ちを切り替える為にもいったん休憩だ」

 焦りを見せるサスケに、飛段はさらりと気負わぬ態度で言いった。

「いいかサスケよお。

 おめえはあんまりにも周りが見えてねえ。

 こと『強くなる』って目標があるんなら一旦足を止めて、周りを見回してみるこった。

 何か見えてくるもんもあるんじゃねえの?」

 サスケは反論しようとして出来なかった。

 同じようなことは大蛇丸、カブト、ブンブクなどからも言われていた。

 しかしその言葉はサスケにとって受け入れられるものではなかったのだ。

 彼らはサスケにとって距離が近すぎた。

 サスケは否定するだろうが、彼らはサスケにとって「身内」になっていたのだ。

 身内からの助言は時として受け入れられないことがある。

 今のサスケの状態はまさにそれだった。

 サスケにはかつて支え、甘やかしてくれ、叱ってくれる親がいた。

 あまり構ってはくれなかったが、不器用でも愛情を注いてくれた兄がいた。

 それは子ども時代の、自分を肯定してくれる絆。

 サスケは無意識のうちに大蛇丸達にそれを求めていたのだろうか。

 余りにも近い距離の者達からの忠言、今の自分に対してのプライド、様々な要因を以ってサスケは彼らからの言葉を素直に取り入れることが出来なくなっていた。

 そのためだろうか、未だ身内と言えない飛段の言葉、特にたった今叩きのめされたばかりの状態での言葉はすんなりとサスケの中に浸透していった。

 

 サスケの目の前では音隠れの中忍と茶釜ブンブクが組手を行っていた。

 中忍は体格に優れ、ブンブクと並び立つとまさしく大人と子ども、と言った風である。

 中忍はその体格を生かして押し潰すように襲いかかっていた。

 ブンブクはそれをうまく回避し、ちょろちょろとコマネズミのように中忍の周りを回っていく。

 中忍の死角に入りこむように移動していくブンブク。

 無論、中忍とてブンブクの動きを読んでいる。

 力は圧倒的に中忍が上だ。

 点ではなく面での攻撃、つまりは回し蹴りやフック、ラリアットなど、振り回しの攻撃でブンブクを追い詰めていく。

 サスケから見ても、ブンブクの不利は明らかだった。

 これを見て何を感じろと…?

 サスケはそう言う意味を込めて飛段を見るが、

「まあそうあせんなよ。

 ありゃ多分仕込みだぜ」

 飛段は気楽そうにそう言っていた。

 この言葉に眉をひそめるサスケ。

 どうみてもブンブクが追い詰められているだけに見えるのだが…。

 案の定、ブンブクが中忍に捕えられた。

 ブンブクも相手を引き剥がそうと右腕を相手のあごに掛けたはいいが、その腕ごとがっちりホールドされてしまっては自由も効かない。

 体格差があれだけあり、抱え込まれてしまえば何らかの術がなければ脱出は不可能。

 そうサスケが判断した時である。

 ブンブクが左の手のひらで、抑え込まれた右腕の肘を強く叩いたのだ。

 本来打撃とはある程度の隙間がなければ威力を発揮しない。

 しかし、

「がっ!」

 その右の掌底はビリヤードのキューに突かれた玉のように、中忍のあごを打ち抜いた。

「!」

 サスケは自分の予想が覆された事に驚愕する。

 更には、

「がはっ!」

 中忍の鳩尾に打ち込まれたブンブクの左のストレート。

 本来であれば大人と子供の対格差の拳骨。

 アドレナリンの回って戦闘状態の体にはブンブクのパンチなぞ通用しないはず。

 しかし、ブンブクの一撃は中忍を悶絶させ、その巨体を地面に沈めていた。

「…何が起きたか分かるか写輪眼よお」

 飛段がそう揶揄する。

 サスケは確かにうちはの一族としてその血継限界である「写輪眼」を持つ。

 しかしその写輪眼をして今のブンブクが何をしたのかが理解できていなかった。

「サスケよお、やっぱおめえ『見盗り』をしっかりした方が良いな。

 写輪眼で見たモンを理解するだけのおめえ自身の経験が足りてねえってこった」

 飛段の言った「見盗り」とは、武道における「見盗り稽古」のことである。

 相手の一挙手一投足に集中をしその技術を吸収する、これもまた修行であるということ。

 いままでサスケはわき目も振らず己の忍術を強化することを考えていた。

 自分より劣るものから吸収するものはない、そう思っていた。

 写輪眼さえあれば、全ての術は獲りこむことが出来る、そう慢心していた。

 しかし、今のブンブクの動きは写輪眼で見切る事が出来なかった。

 忍の動き、いや、人の動きには必ずチャクラの流れが伴う。

 ゆえに、見切ろうと思えば写輪眼で解析は可能なはずなのだ。

 それが出来なかった、その理由は一言でいえば「サスケ自身の経験の薄さ」である。

 写輪眼とは術の全てを解析する。

 そう、解析するだけなのだ。

 解析に懇切丁寧な解説が付いてくる訳ではない、ということ。

 写輪眼の解析したものを理解するためにはサスケ自身の知識、経験が不可欠だということである。

 サスケの知識、経験に無い部分があり、その為にブンブクの動きが理解できなかったのだ。

「良いかよサスケ、ありゃただの技術だぞ。

 ブンブクの奴ぁ拳骨を撃つ時に腕を伸ばしながら拳骨を内側にねじったんだわ。

 で、そうすることでただ拳骨を撃つ時よりも力が一点に集中するしな。

 更に拳骨の軌道が下にさがってな、振り下ろしの威力が乗んだわ。

 後は体を捻ることでその分の威力も乗っけてんだ。

 そういった細かい技をちまちま乗せることでガタイ(たいかく)のでっかい奴をぶちのめす威力を生み出してんだな」

 飛段の解説に、自分の知らない技術がまだあることを知ったサスケ。

「…力の一点集中、か。

 捻じる…」

 それらを今の自分にどう吸収していくか、それを考えながらサスケは周りの忍達の修行を凝視していった。

 

 

 

「いやあサスケ君大分強くなったんじゃない?

 あの飛段っていうの、意外に良い助言者(あどばいざー)だねえ」

「ソウダナ。

 シカシ、同時二邪魔ナ存在デモアル」

「うん、あの狸君もそうだけど、飛段君もサスケ君の中に入って来ちゃったねえ」

「ソロソロオレタチモ動クベキダロウナ。

 アイツラニハセイゼイ感動的二消エテモラオウ」


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