NARUTO 狐狸忍法帖   作:黒羆屋

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とうとう50話目です。
いやここまで来ました。


第50話

「せいっ!」

 背後からの一撃。

 うちはサスケは背に刀を回し、チャクラで強化された王仁丸幻幽丸の一撃を辛うじて受け止めた。

「ちっ!」

 幻幽丸は更に闇に溶ける。

 サスケの死角に入り込むことで、写輪眼でのチャクラ感知を妨げ、隠密を継続する、無音暗殺を得手とする幻幽丸の得意技だ。

「……」

 サスケは視覚以外の感覚を総動員して幻幽丸を索敵する。

 それは、「写輪眼」に頼らない戦い方の模索。

 サスケはこの3年間でけた外れに強くなった。

 それはサスケの天賦の才能のおかげ、だけという訳ではない。

 大蛇丸という優れた指導者の影響も大きかった。

 大蛇丸の使う術の数々、それをサスケは写輪眼の能力を最大限に発揮し、取り込んでいった。

 問題があったとすれば術を手に入れた後の事だろう。

 大蛇丸の術はあまりにも強力だった。

 術を習得した、ただそれだけで戦いに勝てる、と錯覚するほど。

 確かに今のサスケは強い。

 同年代のものですら、1対1で勝てるものはそう多くないだろう。

 人柱力である、我愛羅やナルトですら。

 

 本来であれば。

 

 今のサスケに足りないものは戦術。

 大概の相手ならばサスケの持つ術を適当にばらまいても十分に勝つことが可能だ。

 実際、茶釜ブンブクと相対した時にはうちはの剣術のみで実質戦えている。

 鬼童丸達が遊んでいる家庭用ゲーム機での対戦格闘モノで言うなら、「強キャラで大攻撃と対空必殺のみで戦えている」状態だろう。

 剣を振り回し制空圏を張り、相手の体勢が崩れたら突き殺し、距離が空いたなら強力な術で仕留める。

 忍としては大変正しいやり方だ。

 戦術は単純に、殺すなれば最短に。

 この世界の忍はいわばワンマンアーミーだ。

 1人でとにかく様々な任務をこなさなければならない。

 言ってしまえば戦闘する忍の1任務でしかなく、得手不得手はあれども、様々な任務をこなすためにこれまた様々な訓練をこなさなければならない。

 戦闘技術の研磨だけを行っているわけにはいかないのだ。

 その為、多様な選択肢を持って敵を翻弄する戦い方のできる忍はごくごく少数だ。

 大概の忍はこれ! という戦闘パターンが数種類あれば十分手練れと呼ばれるのだ。

 ゆえに、忍の名が売れるのは里にとっては痛しかゆし、本人にとっては致命的ともいえる。

 なぜなれば名が売れるということはその忍の手口が知れるということ。

 手口が知れるということは戦闘パターンが解析され、その戦術が読み切られ、仕留められるということでもあるからだ。

 そう言う点では「名張の四貫目」は名が通っていながらその手口を知られていない、稀有な例であった。

 変化に優れ、誰もその顔を知らず、ただその名のみが忍の世界に広がる。

 これが忍として普遍的な理想でもあった。

 とはいえ、ただ1つの戦術で倒しきれるほどサスケの相手であるうちはイタチは容易な相手ではなかった。

 イタチの恐ろしいところは最大の武器である写輪眼を前面に押し出し、それに対応されたとしても体術、忍術共に上忍の決め手となるレベルの実力を持っていることだ。

 写輪眼に対応しようとすれば勢い他への対応がおろそかになる。

 そこいらの忍、例え上忍であろうとも、得意分野への対応策をとられたとしたならそれは絶対的な不利を意味するのであるが、イタチは違った。

 むしろ、写輪眼の対応に気を取られた所に手裏剣術、火遁での攻撃が飛ぶ。

 これがまた致命的なほどに強力だ。

 あわててそれらに対応したところで写輪眼の幻術に落ちてしまう。

 イタチを倒すには、写輪眼対策を行った上で、体術、忍術にも対応しなければならないのだ。

 故にイタチと戦い、勝利する者は忍の常識に囚われたものではなく、むしろ侍のような戦闘技術に特化した存在が求められているのかもしれない。

 忍という枠にとらわれている大蛇丸は「忍は忍術を使う者」というその存在意義ゆえにイタチには勝てない。

 大蛇丸は戦うとなれば必ず己の習得した忍術をその武器とする。

 イタチは写輪眼の特性ゆえに大蛇丸の使う忍術の全てが把握できるため、大蛇丸の得意とする強力な忍術の連打が撃ち出される前に解析されてしまい、即座に対応策を立てられてしまう為だ。

 イタチに対しては忍術にこだわらない戦いをする者の方が有利に戦えるだろう。

 例えば自来也。

「忍とは忍び耐える者」という思想を持つ彼はそれ故に勝利に対して貪欲で、善人でありながら勝たなければならない時には手段を選ばない非情さ、狡猾さを持つ。

 忍術以外にも仙術など、懐の広さは忍びの世界でも随一で、必要ならば様々な小技も使いこなす。

 言ってしまえば茶釜ブンブクの上位互換であろうか。

 この懐の広さ、引き出しの多さは忍術の才に恵まれた大蛇丸への対抗心から生まれたものとはいえ、彼の名声を高めるのにも一役買っていた。

 この引き出しの多さゆえに自来也はイタチに対して、またチャクラの膨大な忍、うずまきナルトをはじめとする人柱力やそれに匹敵すると言われる干柿鬼鮫などにも優位に立つことが出来るのだ。

 もっとも、その引き出しの多さゆえに綱手姫のような「チャクラで防御しつつただ単純に殴る」のような攻撃に弱かったりもするのであるが。

 サスケは大蛇丸にその性質が近い。

 理性によって戦うサスケは、ナルトのように感性によるその場の閃きを戦術に取り込むことが得意ではなかった。

 その為、侍達の納める「兵法」、木の葉隠れの里で教えている「木ノ葉流剣術」といった武術における「型」、つまりシチュエーションバトルを以って経験を積むことにしたのである。

 そうすることで対応できるシチュエーションを増やす、つまりは「引き出しを増やす」事にしたのだ。

 幸いにしてサスケは戦いにおいて天賦の才能があった。

 普通の人間なら何度も繰り返して学ばなければならない技術も、サスケならば数度の反復で習得できた。

 無論のこと、それは「習得」であり、「習熟」ではない。

 サスケがブンブクと戦った後、ブンブクは彼にこう言った。

「サスケさんって『守・破・離』って言葉知ってる?」と。

 これは武術などの用語である。

「守」つまりは学んだ事を正確に行えるようになることである。

「破」これは学んだものを自分なりに吸収、自身に最適化することである。

「離」師より学んだものを自分なりに再構成し、流派を自分のものとする、つまりは独り立ちして一流派を作り上げることである。

 ブンブクはサスケに対し、彼が「守」で完結している事、大蛇丸より学んだものを自分のものとし切れていない点を指摘したのである。

 これは実の所大蛇丸の失策でもあった。

 写輪眼を持たない大蛇丸にとっては、術を自分のものとするべく最適化を行うのは当然のことだった。

 そうしなければ術は効率的に使用することはできないからだ。

 しかし、未熟であっても写輪眼という解析能力に優れた武器を持っているサスケにとって、見ればその術を習得できる、これが術の習熟を妨げていた。

 術を見ればその術を習得できるサスケにとって、「最初から効率化された忍術」を使えるのだから。

 ただしそれは習得元である大蛇丸にとっての、である。

 サスケにとって、ではない。

 写輪眼を万能としてきたうちは一族の誇りの弊害であった。

 ブンブクとの一戦以降、プライドを刺激されたのだろうか、サスケはブンブクと何度か手合わせをしている。

 それのことごとくが相打ちとなれば、サスケも今の状況に気が付くというものだ。

 最初は不覚、というかもしれない。

 2度目もないとは言わない。

 しかし3度目以降となると認めたくないと思っても認めざるを得ない。

 今までの自分のやり方、それに問題があるという事を。

 

 

 

 皆さんこんにちは、僕は今、大蛇丸さん、幻幽丸さんとサスケさんで先ほどの訓練の討議討論をしているところです。

「…やっぱり視覚に頼り過ぎてるわね、もっと五感を活用しないと幻幽丸は捕えられないわねえ」

 なかなか手厳しい意見は大蛇丸さん。

 とはいえ、実際に長い事実戦の場にいた人の言葉だ、相応の重さがある。

「うーん、チャクラを視認できるのは強いんだけど、同時に体の重心や筋肉の動きも見落とさないようにしないと…」

 医療忍者らしい意見のカブトさん。

「でもそれってかなりの高等テクニックだと思うんですけど?」

「確かに、でもキミならできるでしょ?」

 そりゃ出来ますけどね。

 でもそれってチャクラが見えてないからやりやすいんでして。

 なまじっかチャクラが視認できてるが故に、それだけで相手の体の動きを把握してるって思えちゃうんですよね。

 これが綱手さまみたいにチャクラでの身体能力の強化をばりばりにしてるってんならまあそうなんでしょうけどね。

 僕みたいにチャクラが乏しい相手に対してはその優秀な能力があだになってるんでしょうね。

「…しかし、それならイタチは」

 サスケさんが反論に出ますが、

「サスケ君、アナタは確かに凄いわ。

 チャクラの保有量もワタシに匹敵するくらいだしねえ。

 そしてその才能、単純な能力比較なら、イタチを上回っている部分もあるのよ?

 でもねえ、イタチがアナタよりもチャクラ保有量が少ない、その事を考えてほしいのだけれど…」

 大蛇丸さんの言葉にサスケさんは黙りこむ。

 僕が前にやったのは身体能力をチャクラで強化する「ふり」という欺瞞方法。

 僕でもこれくらいはできてしまうのだから、チャクラ量が極端に多い訳ではないであろうイタチさんとて同じ事、いやそれ以上の詐術を使ってくる可能性が否定できないのだ。

「まあそこいら辺は今後の修行次第じゃないかなあ。

 僕も出来るだけ手伝うし」

 それもまた僕の任務(おしごと)だしね。

「…ちょっといいか?」

 そう遠慮がちに言うのは幻幽丸さん。

「何であんた達は視覚に頼らない知覚法を模索すんだ?

 むしろ視覚を強化する方が良いんじゃないのか?」

 ああ、それも考えたんだけどね。

 実際視覚を強化する忍術とかはまあ珍しくない。

 ただそれは遠視能力なんかが多くて、白眼みたいに視角を広げるのってほとんど聞いた事無いし、視覚強化って眼から入ってくる情報が増えるんで脳に負担が増えて、頭痛とかするようになるんだよね。

 うちの「金遁・千里鏡」なんかもろにそれだし。

 とはいえ。

「大蛇丸さま、こう視界の角度を広げる忍術って無いんですか?」

 負担の少ない方法で相手を知覚する忍術があれば、それはそれで使い勝手が良いかもしれませんし。

 それに、感知能力を上げる忍術の中には使いこなすために訓練が必要なものもあります。

 うちの金遁・千里鏡や白眼なんかは使用時に入ってくる情報量が跳ね上がる為に、その負担に耐える訓練が必要ですし。

 使う忍術によっては熱感知とか、普通は感知できないものを見てしまう為にその「見方」まで確立させないといけないものもあるんです。

「そうねえ、いくつかあるわ。

 もっとも、使いこなすためには慣れが必要だけどね」

 大蛇丸さんの言う「慣れ」ってどのレベルなんだろう。

 この人も明らかに天才の類いだし。

「忍具なら、魚眼視角の眼鏡なんかがあるけれど、あれは視覚そのものを歪めるから写輪眼持ちのサスケ君には勧められないわね。

 後は術ね。

 やはり使い慣れないとひどい目に合うけれどね、そこいら辺は分かってるんでしょう?」

 まあねえ、手馴れていないと複数視点を得る術って酔っ払いそうになるからね。

 そんな事を言っていると、

「いや、そうじゃなくてな、別に術を使わなくてもいろいろあるだろう? 方法はよ」

 幻幽丸さんはそう言う。

 ん? どういうことでしょうか?

「いいか、例えばこれだ」

 幻幽丸さんはクナイを取り出した。

 幻幽丸さんの里の一般的なクナイだと思うんだけど。

「これが?」

 僕はちょっと分からなかったんだけど、カブトさんは分かったらしい。

「…! なるほどね、確かにこう言うのもありだね」

 僕が首をひねっているのを見たカブトさんは、

「ブンブク君、ちょっとこっちに来てごらん」

 僕を呼びました。

 僕がカブトさんの横に行くと、ああ! なるほどね!!

 幻幽丸さんのクナイは、基本墨で隠密用の塗装が施されているんですけど、裏面だけぴかぴかに磨き上げられていたんです。

 なるほど、これで鏡のように死角を見る事が出来る訳ですね。

 そうかそうか、サスケさんは草薙の剣を使う訳だから、その剣の刀身を鏡代わりに使えば死角を減らすことが可能ですよね!

 サスケさんもそこに気が付いたのか、普段の無表情の中に驚愕を滲ませている。

「でも良かったんですか? 無音暗殺(サイレント・キリング)を得手としている幻幽丸さんとしては手の内を明かしちゃった形になりますけど…」

 僕がそう言うと、

「はっ、その程度で不利になるほど弱かねえよ。

 オレの無音暗殺はたった1つの策でひっくり返るようなシロモンじゃないんでな。

 それにだ、無音暗殺っつったらお前んとこの一族の十八番(おはこ)だろうがよ」

 幻幽丸さんの言葉にサスケさんがギョッとしたようにこっちを見た。

 大蛇丸さんとカブトさんは知ってたんだろうね、平然としてる。

「いやいや、幻幽丸さんと事うちのやり方は全く違うじゃないですか。

 うちのは(うず)め火みたいなもんですから、ほとんど能動的に動く事無いですから」

 実際、茶釜一族のやり方は特定状況下になった時だけ動きだす地雷みたいなもんだから。

 だれもが存在を忘れた時にこそ意味が出る代物なので、忘れられなければ使えないんですよ?

「アホ、無音暗殺ってなそう言うもんだ。

 誰にも仕事をした事を気取らせない事が最上だっての…」

 何だか変な方向の評価高いのね、うちの一族って。

 まあ嬉しいっちゃうれしいんですけどね、うちが評価されるのは。

 

 

 

 かつてサスケに付いて回っていた評価は、「忍のエリートうちは一族」「うちは一族の天才」であった。

 本人は納得していない。

 その上に自身の兄である「うちはイタチ」がいたからだ。

 木の葉隠れの里の中の評価とは別に、うちは一族からの評価はそれほど高いものではなかった。

 これは相対的なものもあるだろう。

 イタチは7歳で忍術学校を首席で卒業、8歳で写輪眼を開眼させ、10歳で中忍に昇格、その後まもなく暗部入りを果たし、13歳の時には暗部の部隊長を務めている。

 天才という枠を超え、怪物と言った方が良い経歴だ。

 ブンブクなどは、

「こんな経歴を持った人が『人』であったら、どんなにか辛いんだろうなあ」

 などと言っているが、とかく他人はイタチの優秀さのみに目が行くのだろう。

 サスケは「イタチの弟」としか見られていなかったようである。

 サスケの父母はイタチを特別、もしかするとイタチが異常であることを認識していたのやもしれない、であるとし、サスケにはイタチと同じようになることを望んでいなかったようだ。

 しかし、一族の者達はサスケにもイタチと同じ血が流れている、すなわちイタチと同じほどに優秀なはず、という期待をかけていた風がある。

 子どもは他者からの感情に敏感だ。

 元々生物として、幼生体は脆弱であり、成体の保護なしに生存できない傾向がある。

 人間は他の哺乳類よりも未熟な状態で母体より生まれる。

 生まれたばかりの子牛などは、すぐにでも立ち上がることが出来るのと比べれば一目瞭然だろう。

 そのため、親の庇護を受けるべく子どもは庇護欲をかきたてる容姿、反応をするのだという。

 周囲の一族の者達からかけられる期待に沿うようサスケが努力したとしてもおかしいことではない。

 ただ、その上にいたのが超人うちはイタチでなければ。

 ある意味、サスケは欲しい評価を受けられず、必要無い評価を受けていたともいえる。

 これはうずまきナルトと木の葉隠れの里の住民との関係に近いものではなかったろうか。

 かつてブンブクが持っていた、「ナルトとサスケの共通点」は、こう言う所から培われてきたのかもしれない。

 木の葉隠れの里の民からの悪意にさらされ続けてきたナルトは他者の悪意に敏感、好意に鈍感で。

 一族の者からイタチと比べられ続けてきたサスケは他者の評価には敏感だが感情の機微には鈍い。

 そんなサスケにとって、茶釜一族は「特に取り柄のない地味な一族」であった。

 周囲からは裏方として特に評価される事無く、特にうちは一族にとってはただ1人の例外を除き、「取るに足らない者達」として見られていたはずだ。

 その1人とは誰あろう、うちはイタチ。

 写輪眼で解析できない「金遁・什器変化」、そして必要があるまで何十年もその存在を忘れられたまま過ごし、一度大事となれば何処からともなく姿を現し、誰の目にもとまらぬよう仕事をこなして痕跡すら残さず消える。

 もしかしたらイタチはそのようなものを相手取った事があったのかもしれない。

 むしろそうありたかったのはイタチ自身なのか。

「戦の無い世の中」を切実に求めるかれにとっては、茶釜一族のあり方は好ましいものだったのだろう。

 かつては茶釜一族に敬意を払っていたうちは一族が傲慢となっていったのはいつの頃か。

 少なくとも「うちはマダラ」はかつて茶釜一族の住まう土地に「木の葉隠れの里」を設立した際に茶釜の者を里人として迎え入れたいとの旨を彼らに告げている。

 他の一族は、うちはと千手の一族の結託に、参入を希望して入って来たというのに。

 サスケはブンブクと戦って、その事実を思い出すことになった。

 茶釜一族には何かある。

 それを知ることは己にとって多分有益な事なのではないか、サスケはそう予想するのだった。

 

 さて、更に数日たち、サスケの動きが目に見えて良くなってきた。

 数度のブンブクとの手合わせでは後れを取ることがなくなりつつあった。

 相も変わらず奇策でサスケを翻弄するブンブクだが、どうやらサスケは奇策に対抗するのは正道であることを理解してきたようだ。

 焦らない事、動揺しないことを念頭に置いて試合をするサスケ。

 むしろブンブクの方が動揺している事も多い。

 まあもっとも、ブンブクの場合はそれすらブラフ(はったり)であったり、戦術の仕込みであったりすることもあるのだが。

 これが本来のサスケの実力なのだろう。

 試合形式での修行では、幻幽丸、吉光、剣コタロウが拮抗、名張の四貫目ともいい勝負をするようになってきていた。

 これを見て大蛇丸が、サスケの鍛錬相手として梁山泊の蒼傑を残しておくべきだったかとも言うようになっていた。

 

 

 

 この頃になると、ブンブクはサスケの練習相手としてはそろそろ物足りなくなってきていた。

 ブンブクの真骨頂は小技を積み重ねることでの相手の弱体化だ。

 実戦なればともかく、訓練では仕込みかねる部分も多々あり、それならば実力的に五分か若干強い相手と戦う方がサスケの実になるようになってきていたのである。

 そのため、ブンブクの出番はもっぱら訓練の後の反省会においてであった。

 その分時間が空くようになり、事務方のトップであるカブトの手伝い、準省エネモードによる大蛇丸の癒し(笑)などが任務として入るようになっていた。

 そして…。

「むー、今日の献立はどうしますかねえ…」

 食事配膳の指示など、雑務を引き受けることになっていたのである。

 

 

 

 さてここしばらくでいろんな料理を作って来た訳ですが、それは大体食材を買いそろえてあるのから色々やりくりして作ってるんですよね。

 そう、食材を「買って」きていた訳です。

 さすがに木トンみたいなのを使える人はいませんので、野菜のような植物系はいまはまだ買ってくるしかありません。

 すでに栽培にも着手してるんですけど、どう頑張ってもあと1月くらいは収穫までにかかります。

 火遁での水分剥奪系の術とか、水遁の腐敗系の術とかで意外に簡単に肥料は用意できたし、水源感知とか、土遁の土地隆起系の術、土地改良とか、農作業に忍術ってホントに役に立つんだよね。

 おっとうやおっかあも里の人たちには内緒で時々使ってたし。

 基本的に忍術ってほとんどの里では「武器」として使われるんだよね。

 数少ない、というかほとんど唯一の例外が雲隠れの里発祥の雷遁を燃料とする機械(テレビとか、扇風機とかね)だけど、あれも基本的に戦争に使われるものだったしねえ。

 忍術を民間転用するとは何事か! って怒るお偉いさんがいるんでなかなかできないんだよね。

 民間の労働者のみなさんとの兼ね合いもあるし。

 まあ、それはさておき、買って来た食材を「加工」するのはもう始まってます。

 まあ、忍の一族のみなさんも、そっちの方の仕事だけで食べていけるほどの規模ではなかったみたいで、農業漁業放牧と兼業していた様子です。 

 で、そのうち野生のイノシシとか取ってきたお肉を塩漬けにしたり、買って来た野菜を漬物にしたりする人も出て来てる訳ですよね。

 そして、僕の前にあるのもその加工品の1つ、と。

 白くて四角い、ふよんとしたあれです。

 まあぶっちゃけお豆腐なんですけどね。

 みんなの晩ご飯用に結構な数を作ったとの事。

 ずらっと並ぶのを見るとなかなかに壮観です。

 あとあるのは、っと、ネギにニラ、芽の出ちゃったニンニクに生姜と猪の切り落とし肉ですか。

 …調味料はどうなってたかな?

 小麦味噌があるね、後は、お、山椒かあ。

 これだと…、むう、あれが出来るかな。

 僕は手に持ったカプセル錠剤を見て、にやりと笑うのでした。

 

「しんじゅくうっまれの、あ、とんがらしい~っと」

 まずはニンニクとショウガ、白ネギ、唐辛子のみじん切りと小麦味噌をゴマ油で炒めて、香りが出てきたら切り落とし肉を叩いて作ったミンチを投入します。

 じゅわ~っと良い匂いが周りに立ち上るんですよね。

 これをカリッカリになるまで炒めてやります。

 十分にお肉に火が通ったら、次は湯通ししておいたお豆腐の投入です。

 軽あるく水気が飛ぶくらいに火が通ったら、鶏ガラを煮出しておいた出汁を投入、お塩や山椒や一味唐辛子など、各種調味料を入れていきます。

 ふつふつとしてきた所で今回の秘伝(笑)辛味抽出液の投入です。

 入れると一気にお湯が赤く染まります。

 さらにお味噌投入。

 赤と言うよりも赤黒くなってきます。

 十分に煮込んだなら、一度火から外して片栗粉をお酒で溶いたものを回し入れてまた火にかけます。

 だし汁にとろみがついて、ふつふつとまるで溶岩のような赤黒い汁が沸き立ってきます。

 最後に山椒をすり鉢ですったものをさっとかけて完成です!

 これぞブンブク特製激辛麻婆豆腐!!

「うん、なんかおいしそうな匂いがするねえ… え?」

 丁度カブトさんが来たんで少し味見をしてもらいましょう。

「丁度良かったカブトさん、ちょっと味見しません?」

「…味見は良いんだけどさ、なんかその湯気、目に染みるんだけど」

 カブトさんは眼鏡を湯気で真っ白にしながらそう言いました。

「まず、食べられるレベルにはちゃんとしてますから、はいどうぞ」

 僕はおたまで麻婆豆腐をちょっと掬い、小皿に移すとカブトさんに差し出した。

 カブトさんは疑惑の目を僕に投げかけるけど、別に僕だって味見してない訳じゃないんだから、きちんと食べられるじゃんよ。

 カブトさんは匂いを嗅いで、すぐに鼻を押さえた。

「ちょ! っこれっ! 鼻にくるんだけど!?

 いま目にもかなり染みたよ!?

 これホントに食べもの!?」

 僕は無言でうなずく。

 ホント、一口食べれば分かるってばよ。

 カブトさんは観念したかのように小皿を口に運び、

「!!!」

 一気に頬張って、そして悶絶した。

「! 辛っ! こんな辛いの…? ってあれ!?」

 にやり。

 カブトさん気付いたね。

「辛いだけじゃない、これは…」

 僕はカブトさんに水の入った湯呑みを渡しつつ、

「肉のコクと、味噌のうま味、なんといっても舌を刺す山椒の辛味と唐辛子の辛味が食欲をそそるでしょ?

 これをご飯と一緒に食べたら最高ですよ!」

 カブトさんは味の分かる人だったようだ。

「うん、舌の刺激が頭の刺激にも繋がっている感じだね。

 ボクは好きだよ、これ」

 なるほどね。

 じゃあ全員分作って…。

「辛いのだめな人もいるんだから、辛さ控えめのも作っておこうね」

 あ、はい。

 

「ふうん、なかなかのものねえ…

 良いわあ、この刺激」

「くっ、たしかにっ、やめられねえっ!!」

「良い感じで汗が出るねえ、疲れがとれそうだ」

「おいっ、おかわり持ってこい!」

「火を噴くくらいに熱いぜぇ!! こいつは熱い漢の飯だ!!」

「か、辛いのです…」

「こ、これっくらい、レディは…、 やっぱり辛いぃ~!」

「あ、辛くてだめって人のためには甘口用意してますよ~」

 

 

 

 大蛇丸一派とは思えない和やかな食事の風景。

 そこに。

 

 ごんっ!!

 

「邪魔するぞ」

「大蛇丸ぅ、客だ客う!!」

 乱入してきたのは。

「暁」の角都と飛段だった。




ちなみに、ブンブクの麻婆豆腐は「泰山」じゃないです。
あれはブンブク君には再現不可能なんですよ。
こちらの麻婆豆腐は作者の大好きなお店の麻婆を参考にしております。

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