NARUTO 狐狸忍法帖   作:黒羆屋

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今回は幻術についての独自解釈と、原作改変が入っております。


第49話

「そこまで!!」

 大蛇丸の声が響き、ブンブクとサスケの動きが手が止まった。

 ブンブクの右手はサスケの右目を掠める寸前で止まり、逆手に持ち変えられたサスケの剣はブンブクの背中に突きたてられる寸前で止まっていた。

 サスケは内心愕然としていた。

 ブンブクの動きはサスケの目からすれば大したことはない。

 中忍の中、その程度の能力だ。

 それがなぜ、十分に実力を上げた自分の攻撃を捌ききり、懐へと飛び込んで己の最大の武器である「写輪眼」に手をとどかせることが可能なのか。

 そう考えていたサスケの前で、茶釜ブンブクがぶるぶると震えだす。

 何事か、と見ている周りの者達。

 それを尻目に、ブンブクは倒れ込み、じたんばたんとのたうちまわり始めた。

 無表情で。

 あっけにとられるサスケ、そしてカブト。

 呆れたように見下ろす大蛇丸。

 数秒ほどのたうちまわったブンブクは、すぐに静かになった。

 ゼーゼ―という呼気のみが周りに響く。

、無表情で。

 最初に気付いたのはカブト。

 医療忍者であるカブトは治療すべき患者の観察を欠かさない。

 その為、ブンブクに奇妙なところがあるのに気づいた。

 ブンブクは顎から下、首の部分には大量の汗をかいているが、顔にはかいていない。

「これは…」

 そう言いかけるカブトに、大蛇丸がにやりと笑いかけた。

「やっと気付いたのかしら、カブト」

「ええ、あれはお面ですか?」

 そう、ブンブクは自分そっくりの面を顔につけていたのだ。

 地面にぐったりと倒れ込んでいたブンブクだが、

「ぷはっ!?」

 大きく息を吐き出すと、顎に手を掛け、顔の皮… もとい、特殊樹脂でできた面をベロンと剥いだ。

 状況を知らない人間が見たならなかなかにスプラッタな光景である。

「な…!?」

 当然、サスケもぎょっとした顔でブンブクを凝視していた。

「ひるはとおほっは…」

 ブンブクは舌を突きだしたまま、何事かほざいている。

 

 

 

 ども、いまサスケさんとの勝負に全く関係ない所で死にかかった茶釜ブンブクです。

 いやこれきっついわあ。

 飛段さんに使ったのが申し訳なくなってきますね。

 周りには、ポカンとした顔のサスケさんとカブトさん、呆れ顔の大蛇丸さんです。

 ? …ああ、これですか。

 僕は引っぺがした顔の皮、もとい、

「これ忍具ですよ。

 特殊樹脂使って作った僕そっくりのお面です」

 それを持ってこう言った。

「は?

 ち、ちょっとブンブク君、何でそんなものを…」

 こう突っ込んでくるのはカブトさん。

 サスケさんはまだフリーズ状態のようですね。

 僕は辛みに顔をしかめつつ、

「これですか、写輪眼対策なんですよ、これ」

 そう答えた。

「!? それはどういう意味だ!?」

 あ、サスケさんフリーズ解除ですね。

 僕は口を水筒の水で洗いつつ、

「これ見てもらえます?」

 そう言って、サスケさんにお面を渡した。

 サスケさんは汚そうに僕のお面を持つと(失敬な!?)、

「これがなんだってんだ?」

 そう言ってきたので、

「それの目の所見てもらえます?」

 僕はそう言った。

 

 

 

 サスケはブンブクに渡された面を手に取った。

 顔から頭部にかけて、かなり精密に作られている代物だ。

 結構な重さがある。

 ブンブクが目の所を見ろと言うのでサスケはマスクの裏側から、眼の部分に当たるところを覗き込んだ。

 

 極彩色。

 

 思わずサスケは面を取り落とした。

 取り落とされた面はカブトが拾い上げた。

 カブトは同じように目の部分を除き込み、

「うわっなんですこれ!?」

 そう声を上げた。

 そして、

「…ああ、なるほど。

 乱身衝の応用かあ…、でも何で自分に…」

 ブンブクはその言葉に、

「らんしんしょうってなんです?」

 そう尋ねた。

「あれ、知らないで使ってたのかい?

 乱身衝は医療忍術を応用した撹乱忍術だよ。

 全身の神経系の信号を一時的に別の所につなげてしまう術で、例えば右手を動かそうとすると右足が動いちゃうようなことになるんだ」

 カブトがそう答えると、ブンブクは納得したようにうなずいた。

「なるほどなるほど。

 確かに認識を崩す、って意味じゃおんなじですもんね、それ」

「で、これは一体なんなんだい?」

「さっき言った写輪眼対策ですよ。

 具体的に言うと、写輪眼の能力のうち、幻術に対する対抗策ですね」

 ブンブクはそう言うと、サスケの方を見た。

 そうして、今回の試合で、どのように戦ったかを話し始めたのである。

 

 

 

 さて、姑息な挑発とかは置いときまして、今回の試合で使ったのは、「チャクラの使用による誘導」です。

「? どういうことだ?」

 そう尋ねてくるのはサスケさん。

「まず、写輪眼ってどんなものなのか、それを僕は里、ああ、木の葉隠れの里ですね、の記録を調べてですね、徹底的に解析してみたんですよ」

 僕はそう言うと、懐からいつもの如く「じゆうちょう」を引っ張り出した。

 そこには里の記録から分かるうちは一族の戦い方だ。

 そこから写輪眼についての記述を抜き出し、まとめてデータ化したんですね。

「んで、そこから使えそうな対策のうち、忍具で代用できるものを抜き出して作ったのが()()です」

 僕が指差したのは僕のお面。

 それなりの重さのあるそれは、顎から顔前面、そして頭部のかつらまでで、ほぼ頭を丸々覆う作りになっています。

「ん? ブンブク君、このかつらの所、変じゃありませんか?」

 お、カブトさん気付いたんだ。

「それ、ばねが仕込んでありまして、かつらの部分が飛び出るんです。

 一瞬気を引くのに使えるかと思ったんですよ」

「それはどうでもいい、写輪眼対策ってなどういうことだ!?」

 サスケさんがその会話に割り込んできました。

「今うちの里が『暁』に狙われているのはご存知ですよね。

 そして暁の精鋭としてうちはイタチさんがいる、と。

 これで警戒しない方がおかしくないですか?」

 僕としては正論のつもりなんだけど、サスケさんは納得しかねているらしい。

 まあ、サスケさんにとって、今の所イタチさんと対面するのが悲願だからね。

 それまでイタチさんがつぶれちゃったら困る訳だしなあ。

 とはいえ、現在木の葉隠れの里の所属ではないサスケさんに、それを止める事も出来ない、と。

 で、ほぼ八つ当たりが僕の所に来ている訳ですね。

「で、これのどこが対策だって!?」

 サスケさんに凄まれて、しぶしぶ僕は説明を続けます。

「このお面は、眼、鼻、口、耳と全部にフィルターがあるんですよ」

「フィルター?」

 大蛇丸さんがそう聞き返します。

「情報を漉しとる、というのかな。

 ねえサスケさん、幻術は人の精神面、つまりは脳に作用する術でしょ?

 で、仕掛けるには大体人の五感に影響を与えて術を仕掛ける訳じゃない?」

「そうだな。

 術を仕掛ける際に気付かれないよう仕掛けることで、相手に幻術だと気付かせないのが常套だ。

 幻術眼は相手の目を見る事で仕掛けとするな」

「でしょ。

 つまりは相手の視覚から術の仕掛けって言う情報を相手に見せることで、幻術を掛けるんだよね。

 つまりは…」

「目から入ってくる情報が幻術の仕掛けと人の脳に認識されなければならない、か…」

 カブトさんご名答。

 人の意識に認識させず、しかしその人の脳に認識させなければ幻術を掛けることはできない。

 言ってしまえば幻術は脳に誤作動を起こさせ、人の意識に間違った情報を与える術だ。

 火であぶられた訳でもないのに体に火が付いたと錯覚させたり、目の前に橋なんてないのに橋があるように見せて転落死させたり、と言う風に。

「なるほどねえ、五感から脳に入る情報を、その直前で書き換えてしまう訳か」

 例えば「幻術に掛かる」という言葉によってサスケさんが僕に幻術を掛けようとしたとしようか。

 このお面の目の所には、目から入ってくる色彩をランダムで入れ替えるような仕掛けがしてある。

 赤は青に、青は緑色に、緑色は赤に、といった具合に書き換えてしまう。

 その結果、僕の目に入ってくる「幻術に掛かる」という情報が、「べううむぐうい、あ、あふ」なんて風に書き換えられちゃうわけ。

 これだと脳が「幻術に掛かる」って命令を受け付けない、って寸法だたりする。

 少なくとも、うちの里の幻術使いの方には有効な手段だと言われた。

「とはいえ、色々抜け穴もあるんですけどねえ」

 視覚以外にも幻術に掛ける手段はあるし、こう言うのはどうせイタチごっこになるからイタチさんにも一回しか通用しないだろうし、あ、僕今うまいこと言った!

 ともあれ、視覚から引き込む幻術に対しての対応策としてはそこそこ意味があったんじゃないかなあ、と。

「それとこれですね」

 僕が出したのは真っ赤なカプセル錠剤。

 あれです。

 僕が飛段さんに使った、辛味成分を抽出した錠剤です。

 今回はさすがにあんなん使ったら(舌が)死んじゃいかねないので、ある程度辛味成分は抑えてあるんですが。

 未だに舌が死んでます。

 発動時間を5秒に限定して、更にですからね。

 使った瞬間、口から脳に直接火箸でも突っ込まれたような衝撃が突きぬけましたね、あれはひどい。

 自分で作ってもらって言うのもなんだけど、もうちょっと考えた方がよさそうだ。

「そう言う訳で、幻術をかからないようにする、掛かったとしても一気に意識を回復する、ってコンセプトで今回の試合に臨んでみた訳ですよ。

 ここまでが幻術対策ですね」

 で、次が写輪眼の特性であるチャクラの流れの解析、および術解析とコピー対策ね。

 

「大蛇丸さまは当然ですが『白眼』の効果をご存知ですよね」

 僕は大蛇丸さんに水を向ける。

「ええ、広範囲の視角、チャクラを見る能力、経絡を透視する能力、術でなく、チャクラを見るという能力に限って言えば写輪眼を上回るわね」

 そう言うことですよ。

「それがどうかしたってのか?」

 写輪眼が白眼に劣る、という所に噛みつくサスケさん。

「チャクラを見る、という点において、写輪眼には問題点がありますから」

 僕がそう言うと、今度は僕を睨みつけるサスケさん。

「まず聞いてください。

 白眼は人のチャクラの流れを見ますね。

 つまりはある意味通常物質を無視しての透視、が出来る訳です。

 これが写輪眼にはできない。

 チャクラで体が覆われていれば、更にその裏を見る事が出来ない訳です。

 なんで、最初は身体強化、というかチャクラの使用で体を動かしてたんですけど…、サスケさん気付いてました?」

「ん? なにをだ?」

「僕、ほとんど筋肉まともに使ってなかったんですよ」

「!?」

 驚きの表情を見せるサスケさん。

 やっぱり気づいてなかったか。

「今回僕は意図的に脱力をして、自分の速度や筋力をサスケさんに誤解させるように動いてました。

 元々僕はチャクラが少ないのをサスケさんも知ってますからね、それも偽装になってたはずです。

 でも、サスケさんはあれが僕の全力と見誤った。

 それは『チャクラで強化しているなら生身より確実に強いはず』って言う思い込みがあったからだと思うんですがどうですか?」

 サスケさんは無表情だ。

 でもそこには確かに焦りが見える。

「で、多分ですけど『何らかの術によってオレの攻撃を避け続けている』って思いませんでした?」

「…」

「写輪眼に解析できない術となると僕のうちの『金遁』ですけど、それを疑って、より解析に力を入れる為に目を酷使してません?」

「……」

「で、十分に目が疲労して、解析能力のみならず視覚機能そのものが衰え始めたところで僕の挑発に乗っかってより体力を使う戦い方をしちゃった。

 ちなみになんで僕が回避できてたかって言うと単純で、練習してるサスケさんをよく見てその動きのパターンをある程度理解してたから。

 後は挑発とか細かい小細工で攻撃を単調化させるのに成功してたからですね。

 まあ確かに、お面を付けていたから視覚に頼るのは難しかったけど、その分大きめに余裕を持って回避してましたしね」

「…むぅ」

「で、僕の狙いは、ずばり『突き』。

 サスケさんの戦い方を解析したところ、『千鳥』とかを得意技にしているせいなのか、刀でも突きを止めに持ってきそうだなあ、と。

 ちなみに、兄ちゃんからも聞いてます」

「…そうか」

「で、突いてきたところで身体強化を切って突撃したんですけど、そういやサスケさん気付いてます?」

「なにがだよ…」

 なんかサスケさんくたびれて来てるなあ。

「ほら、このお面のかつら部分、僕の本来の頭より若干大きめなんですよ。

 これも仕込みです。

 普段接触している僕よりも頭が大きいんで若干だけど相対した時の距離感に狂いが生じてたんです。

 で、この頭と背中ですね、これで足元を隠して更に距離感を狂わせたんです。

 ほいでもって、ちょっと独特な歩法で走る速度は変わってないんだけど、上半身の動きで遅くなったたり早くなったように見せかけたんです。

 そして懐に飛び込んだらば一番狙われたくないであろう目を攻撃することでさらに動揺を誘いました。

 僕はこれっくらい小細工を積み重ねないとサスケさんに一矢報いる事も出来ないんだけど、逆にいえば、僕程度の素養の忍ですら、やり方次第ではサスケさんクラスに手が届いちゃうわけですよ。

 それはサスケさんにとってまずくないですか?」

 僕がそうまとめると、サスケさんは無表情ながら何とも気まずそうだ。

「とまあ、そう言う感じに話を持っていきたかったわけですよね、大蛇丸さま」

 と、僕はいきなり大蛇丸さんに話を回してみる。

 大蛇丸さんは、にまあっ、とおっかない笑みを浮かべて見せた。

 なんて言うか、「それこそが、私の思うがまま」って顔をしてますね。

 まあ良いように使われましたか。

 なんかどっと体に積もっていたものが押し寄せてくる感じです。

 ああ、さすがに、疲れたあぁ…。

 

「で、どうです、サスケさん」

 僕はそう切り出した。

「…なにがだよ」

 サスケさん、ちょっとふてくされ気味。

 まあ、今までの努力は無駄にならないとはいえ、その努力の成果が僕ごときにひっくり返されかけたとなるとねえ。

 まあこれでちょっとは力押しでの戦いを見直してくれると良いなあ。

 でないとイタチさんには勝てないと思うし。

「オレは強くならなきゃなんねえ。

 だから、その為には何でもやってやる!」

 ほっほう。

「いま

 なんでもするって

 言ったよね… ってあ痛たたたたたたぁぁぁぁ!!!!」

 一瞬で後ろに回られて! 痛い痛いウメボシ痛い!!

「図に乗んじゃねえよ…」

 ひーんいじめっこだあ!

 ちょっとしたお茶目のつもりだったんだけどサスケさんには通じませんでした、まる。

 さて冗談は置いといて、

「で、大蛇丸さま、僕大分役に立ったと思うんですけど?」

 僕がそう言うと、

「そうね、良いわよ、例の件書いてあげる」

 いよっしゃぁ!

 僕はいそいそと「じゆうちょう」を引っ張り出した。

「なにやってんだ?」

 サスケさんが聞いてくるけど後々。

「んじゃここにお願いします!」

 大蛇丸さんとカブトさんからサインを貰いましょう。

「なんだこれ?」

 横からサスケさんがのぞきこんできます。

「むっふっふ、これは『実力派忍者サイン帳』ですよ。

 僕があった忍の方に頼んでサインをしてもらってるんです!」 

 いや、これで『伝説の三忍』コンプリートっすよ!

 火影さまは3代目、5代目に6代目と抑えてあるし!

「暁」の皆さんもかなり…ってサスケさんどうしたんです?

 なんかプルプルしてるし…。

 するとサスケさん、僕の頭をがっつりと掴んで、

「お前イタチにいつ会った!?」

 は? ああ、イタチさんのサインですか。

「空区の闇市場で」

 あ、サスケさんが愕然としてる。

 まあそうだよねえ、たしか猫バアさまの店ってうちは一族の御用達だったってキバさんから聞いたし。

 サスケさんも出入りしてたんじゃないかなあ。

 それなのにイタチさんが出入りしてるのに気付かなかった、と。

 サスケさんは大蛇丸さんを睨みつけてる。

「…アンタは知ってたんだな!?」

 大蛇丸さんはしれっと、

「当り前じゃない。

 あそこに出入りするときは気を使ったわよ…。

 イタチと鉢合わせになっても、どうせ今までのサスケ君じゃあっさり殺されるだけだもの」

 と、肩をすくめて見せた。

 まあ、そうでしょうね。

 真っ向勝負でその力を発揮する今のサスケさんと、搦め手上等なイタチさんとでは相性が悪すぎる。

 サスケさんが写輪眼対策に意識を取られている以上、イタチさんの術中にあるようなものだから。

 自分のできる事を考えられるくらいに冷静になる必要があって、イタチさんの痕跡を見ただけで熱くなるんじゃとてもじゃないけど会わせらんないよね。

 サスケさんは大蛇丸さんの言葉にぐうの音も出ないでいる。

「さ、試合も終わったし、食事にしましょう。

 サスケ君は育ちざかりなんだから、しっかり食べてもらわないと。

 今後は組手も多く取り入れていくつもりだから、体力勝負になるからね」

 大蛇丸さんがそう言って、この試合は本当に終わりとなったのでした。

 

「あら、このハンバーグ茹で卵入りなのね」

「僕はもう少し塩気が強い方が好きなんですが」

「ケチャップの熟成が甘い」

「はいそこ! いちいち食事にケチ付けない!!」

「ふん、おさんどんはしっかり働け」

「だから僕はおさんどんするために来たんじゃなーいっ!!」

 

 

 

 いずことも知れない場所。

「ヤハリアノ一族ハ厄介ダ。

 ソロソロ本格的ニアレヲ壊スカ…」

「でも、ただ壊すだけじゃ面倒じゃない?

 出来ればもうちょっと効果的にやりたくない?」

「デハドウスル?」

「サスケ君の完成に一役買ってもらうって言うのは?」

「…悪クナイ。

 仕込ミヲシテオコウ」

 誰かと誰かがそう言った。

 

 

 

 閑話 その頃火の国では

 

 飛段と角都は火の国に侵入していた。

 火の国にいる尾獣の人柱力を捕える為である。

「で、これからどこに行くんだよ、角都?」

 飛段が如何にも面倒だと言いたげな声で角都にそう尋ねる。

 飛段達は自分たちの割り当てである二尾の人柱力、ユギトを仕留め、半死状態のユギトをペインの使者であるゼツに引き取らせた。

 飛段としてはユギトは十分な猛者であり、可能であるならば完全に息の根を止め、ブンブクを殺戮する為の禊ぎとしておきたかったところであった。

 しかし人柱力は半殺しで抑えなければならない。

 飛段は何よりそれが不満だった。

 かと言って、角都のアルバイト(しょうきんかせぎ)に付き合ったところで歯ごたえなぞゆで過ぎた麺ほどもない輩ばかり。

「なんっていうかよお、もっと歯ごたえのある奴ぁいねえのかよ…」

 愚痴も出ようというものだ。

 そうすると、

「なんだ、強い奴を殺したいのか、ならばうってつけがこの近隣にいるなあ」

 まるで待ち構えていたかのように角都が言った。

「…てめぇ今までオレがそう言うのを待ってただろ、ああん?」

 角都を睨みつける飛段だが、角都は意に介さない。

「当然だ、元々裏の賞金首で高額な輩がこの火の国には何人もいる。

 貴様の目にかなう奴も必ずいるだろうよ。

 今から行く所は九尾の人柱力がいるのでは、と疑われているところだ。

 万一外れたとしても確実に猛者はいる。

 それならば貴様も構うまい?

 人柱力がいれば『暁』としての依頼の片が付く。

 いなくても強きものと殺し合いが出来る。

 そしてオレはそいつを金に換える、というわけだ。

 三方丸くおさまって良い事ずくめだな」

「…ふんっ、まあいいか、オレは禊ぎが出来るならそれで良いしなぁ」

 角都の言葉に飛段は意識を切り替えた。

 とにかく、強敵、出来れば最上級の奴を殺して己の禊ぎとしなければ。

 そうしてこそ、「隣人」に対しての最大限の敬意を払うことになろう。

 ブンブクが知ったなら、「やーめーてー!!」と絶叫する事請け合いである。

 一転してご機嫌になった飛段を見て、

 内心、単純馬鹿、と呼び捨てた角都。

 そう思いながらも、この先で手に入るであろう賞金を皮算用しつつ、角都も普段よりは随分とご機嫌な様子であった。

 

 2人がやって来たのは「火ノ寺」。

 六道仙人が開いた「忍宗」の寺の1つである。

 忍宗は忍術を作り上げた宗派でもある、と言われている。

 もっともその教えは「人と人との繋がり、人を幸福へ導くもの」としてチャクラという力が存在している、というもの。

 忍術のごとき戦の道具としてチャクラを使うことを戒めている。

 ゆえに、忍宗の修行僧達も忍術を使用するのは己の自衛のため、無辜の民が傷つけられようとしている時のみに許されるもの。

 あまりにも「忍」とは立ち位置が違うものである。

 何処でそのように分かたれたものか。

 その寺の前、「阿形吽行天狗像」の前で、

「寺じゃねーかよ…。

 人柱力とか、つえー奴とかこんなとこにいんのか?」

「人柱力に関しては何とも言えん。

 だがただの寺ではないからな、可能性は高い…」

 角都はそう言いながら、寺の防御の要である「封印鉄壁」をぶち破りにかかるのであった。

 

 封印鉄壁。

 火ノ寺において不埒者から寺を守る強力な結界封印術である。

 それを飛段と角都がどのように破ったかというと…、呆れたことに「力押し」であった。

 結界のかなめとなっている正門の2体の天狗像、生半可、どころか上忍クラスの者が最強クラスの術を使っても破れるものではない。

 それを、「暁」の2人はその強大なチャクラを持って叩き割ったのである。

 彼らの前に立つのはこの寺の僧侶である「地陸」。

 かつて守護忍十二士の1人と讃えられた強力な忍術使いである。

 彼が何故に僧侶となったのかっは定かではない。

 はっきりしているのはこの寺の中で彼が最強であるということ。

 地陸は凛とした声で、

「貴様ら!

 何用かは知らぬが、大人しく帰られよ!」

 そう2人に告げる。

 飛段はそれに対し、にやりと笑うとその得物である異形の鎌を持ちあげ、

「けっ、無益な殺生はしねえってか。

 んだが、こっちの宗派じゃそうはいかねぇ…」

 そう切り返しつつ角都に目の前の僧侶の情報を促す。

 角都からは相手が「仙族の才」と呼ばれる力を使う、闇の世界で3000万両の賞金の付く忍であることが告げられた。

 飛段はそれを聞き、にやりと笑みを浮かべる。

 なるほど、確かにこいつはオレの禊ぎにふさわしい。

 飛段はヒートアップして来ていた。

 それを見る角都は、

「あの3000万両は火の国の大名を守る『守護忍十二士』に選ばれた事もあるエリート忍者だ。

 気を抜くと、死ぬぞ」

 そう飛段に言った。

 それに対して帰って来たのは、

「だからオレにそれを言うかよ、角都ぅ!」

 飛段のいつもの言葉であり、軽妙な掛け合いの言葉が死闘の開始の合図となった。

「暁」の飛段と角都対「火ノ寺」の地陸が激突した。

 

 戦いはの趨勢は「暁」側に傾いていた。

 これは飛段のモチベーションの高さによるところが大きい。

 もともと2対1の戦いだ。

 周りには火ノ寺の修行僧達もいるものの、とてもではないがこの凄まじい戦いに介入することが出来なかった。

 錫杖を繰り、飛段の鎌を弾きつつ角都の忍術を回避する地陸。

 火ノ寺の僧侶には「仙族の才」があり、その力は凡百の忍の力を上回る。

 とは言え、それは自然のチャクラを取り込んで己の力とする仙術に準ずる力だ。

 コントロールの難しい力であり、この2人を同時に手取りつつなお術を行使するのは至難の技であった。

 その焦りが動きにも出たのか、ほんの一瞬、地陸の動きが髪の毛ほどのブレを見せた。

「! もぉらったああ!!」

 その隙を見逃すほど飛段は無能ではなかった。

 大鎌の繰り出される速度が一気に速くなり、地陸を追い詰める。

 そしてその後ろでは、角都が風遁の風の球を打ち出していた。

 巨大な力の塊が地陸と飛段に迫る。

 飛段はそれを受けても問題ない。

 いくら体がひしゃげ、潰れようとも飛段は不死だ。

 すぐに元通りになる。

 地陸はそうはいかない。

 あの風遁の力を喰らえば、死にはしないとしても戦闘不能になることは間違いない。

 それは死と同義であろう。

 しかし飛段に抑え込まれている以上回避する術はない。

 せめてもの抵抗にチャクラを防御に回すにしても、そんな事をすれば飛段に斬られる。

 八方ふさがりの状況の中、風遁が地陸に迫り…。

 

 ザンッ!!

 

 風遁がまるで断ち切られたかのように消し飛ばされる。

 そして、

「げはっ!!」

 飛段が横から弾き飛ばされた。

 地陸の傍には1人の男が立っていた。

 木の葉隠れの里の忍び装束をまとい、体に安物の煙草のにおいを沁みつかせたその男は。

「アスマ!」

 そう、木の葉隠れの猿飛アスマであった。

「よう、地陸。

 念仏三昧で腕がなまったんじゃねえか?」

 そう軽口をたたくアスマ。

「ぬかせ、貴様こそ結婚して肥えたのではないか?

 動きが鈍くなっているようであるが?」

「うっせーよ。

 …まだいけるな」

「誰に向けてモノを言っておる?」

 かつては幾度となく交わした軽口。

 アスマはにやりと口を歪めると、

「さあて、こっからは2対2だ。

 簡単に勝てると思うなよ」

 そう言って、愛用のチャクラ刀を暁の2人に向けて構えたのである。


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