まずは両手をパン、パン、もひとつパン。
両の手のひらを頭の右斜め上に一緒に動かすように。
そのまま次は左斜め上。
何度か繰り返してから右から左にぐるっと円を回すように。
また何度か繰り返してここからが本番。
二回手を叩いてそのままずぅいっと前に。
んで体を大きく前に倒しつつ左足をサソリの尻尾のようにぐうっと上に持ち上げてっと!
「あそれ、だあれがころしたこまどりをっと!」
いよっし成功!!
ガッツポーズをしていると、
「…何やってんだお前は」
おや?
あ、サスケさんだ。
「おはようございます」
僕がそう言うと、
「ああ…、じゃなくてな。
お前は何をしてるんだって言ってんだが」
「なにって、傀儡繰りの練習ですが何か?」
はい、今僕は、人間大の絡操傀儡の肩に乗り、それを動かしているのです。
「それは見りゃ分かる。
なんで
いやそんなふうに言われても。
傀儡の練習にはなかなかいいんですよ、精霊踊り。
精霊踊りとは、夏のご先祖様供養の節句の時に皆で踊る踊りですね。
この時期は露店が出たり、花火とかも上がります。
んで、最後に精霊踊りを踊ってご先祖様を供養する、と。
まあその1つを踊ってみていた訳ですが。
この踊りって、意外に難しいんで傀儡繰りの練習には良いかな、と思ったんですけど。
ほら、ここの所事務仕事ばっかりで体なまり気味でしたからね。
サスケさんとひと試合、となるとなまりっぱなしの僕ではちょっとどうにもなんない訳でして。
んで、いまこうやって体を鍛えている訳ですよ。
「…それは分かる、分かるが」
? 分かるが?
「なんでその豆狸モードとやらなんだよ!?」
は? ああこの準省エネモードですか。
「こっちは使えるチャクラの量が大分少なくなりますからね、チャクラのコントロールを訓練するには都合が良いんですよ。
少ないチャクラでどううまく配分してやるか、とかね。
日常動作をきっちりこなせるようになるとそこから応用がきくんですよ」
そう言う僕に、呆れた目を向けるサスケさん。
これはあれだなあ、
「流石はウスラトンカチの身内だ…」
そう言うでしょうねえ。
まあ僕としては自慢なんですが。
それはともかく。
「しかし意外ですね、敵情視察ですか?」
今のサスケさんがそういう事をするとは思えなかったんですけど。
てっきり、
「そんなもん必要じゃねえ」
って、やっぱりそう言いますか。
「んじゃまたなんで?」
僕が不思議そうに言うと、
「忠告にだ。
オレと戦うと、お前死ぬぞ」
まあそうでしょうねえ。
実力は冗談抜きでケタ違いだし。
でもね、
僕はニヤリ、と(狸の顔で)笑うと、
「確かにサスケさんは忍びとして桁違いの性能がありますがね、
性能の違いが戦力の決定的差ではないということを…教えてあげましょう」
たちまち周囲が氷点下のブリザードの如く冷え込みました。
「ほう…、オレを倒すってのか?」
僕は内心ビビりまくり、表面上は冷静に(まあ、タヌキ顔だしねえ)、
「は? 誰が誰を倒すんですか?」
そう言いました。
「…いまお前がそういったじゃねえか」
サスケさんがそう言います。
…昔の事は忘れちゃいましたかね?
「誰も倒すなんて言ってませんよ?
あくまで忍びとしての
僕としては今がっちがちの性能至上主義になってるサスケさんに戦術の重要性を思い出してもらおうと思っているだけですからして」
それに自慢じゃないけど、逃げ回るのは得意中の得意なのですよ、僕は。
なにも真っ向勝負だけが泡を吹かせる方法じゃないってね。
…自分で言ってて情けなくなる時もあるけど。
「くだらねえ…。
戦いは殺すか殺されるかだ。
それ以外は価値なんかねえよ」
相変わらず、というか、何か3年前から変化なし?
大蛇丸さんとかカブトさんの話を聞く限り、いろいろ変化があったと思ってたんだけど。
もしかして兄ちゃんに会ったのが逆効果になってんのかしらん。
このまんまだとなにかあったら本当に心がへし折れちゃうんじゃないかな?
人ごとながらもの凄く心配だ。
どうも、大蛇丸さんやカブトさんは人の心の機微っていうのが戦闘面とか陰謀面でしか理解できてない感があるので、心のケアって向かないのかもしれない。
これは大蛇丸さんがサスケさんを道具としてでなく、愛弟子として認識してるがゆえのかな。
それに、だ。
「だからこそですよ。
実際に戦場に立ったら、使えるモノはすべて使わないと。
小技、大技、小細工に真っ向勝負、全部使い切ってやっと生き延びる事が出来るというもんです」
その僕の言葉に対してサスケさんは鼻で笑うように、
「それは弱者の戦い方だ。
うちはの戦い方じゃねえ」
そう言い切った。
どうしたんだろう?
なんていうか、うちはってそんなに正々堂々の戦いが好きだったったかなあ。
イタチさんの戦い方っていかにも忍らしい、こう言っちゃなんだけど姑息でえげつない戦い方だと思うんだけど。
言い方は悪いけど、賢く、相手の損耗を強いつつ自分の損失をできるだけ削る戦い方だ。
もしかすると、自分の最大の手札である写輪眼をあえて公開し、その名声すら武器にして戦いを有利に進めていた様子すらある。
忍は自分の秘術をひけらかさない。
それは種を明かされると意味がなくなる手品のようなもの。
対抗策をとられやすくなり、より自身の死が身近になる。
しかし、イタチさんは自分の写輪眼の威力を他に見せつけるように戦い、その影に自身の優れた体術や忍術を覆い隠してしまった。
イタチさんの全ての行動が写輪眼の幻術に繋がっているように見せる事が出来た訳で、実は特に手裏剣術に通じていたとか、うちはの火遁すら霞んで見えるけれど、だからと言ってうちはの豪炎球の術が弱くなった訳でもない。
しかし敵はうちはの写輪眼を恐れるあまり火遁を甘く見て真っ黒焦げ、別に火遁の火力が落ちる訳じゃないのにね。
そういうクレバーな戦い方をするのに、明らかに格の劣るサスケさんがスペックだけで戦っちゃ勝ち目なんてないだろうに。
とは言っても僕がそういったところでサスケさんに通じるわけでもなし。
ここはそれなりに痛い目に会ってもらおう、そう考えたんでしょうね、大蛇丸さんは。
…無茶ぬかしやがる、僕の心の声でした。
サスケは奇妙な既視感に囚われていた。
前にもこんな会話をした事があったような。
いや、気のせいか。
サスケは自身の部屋の隅にホコリかぶっているノートの存在を忘れている。
まるで記憶がぽっかりと抜け落ちているかのように。
サスケは頭を振り、いま浮かんだ事を振り捨てた。
まあいい。
軽く叩き潰せばこいつもへこむだろう、と。
確かにブンブクはいつもと違う非常に挑発的態度をとった。
これは普段彼がやらない事。
しかも準省エネモードのお間抜けな狸茶釜の姿で、だ。
これでは挑発にも威嚇にもならない。
それが
ブンブクは言った。
全てを使いきって、と。
今回に限りそれはできなかった。
理由は音隠れの里の者が見ている、ということ。
今回に限り、ブンブクの戦い方が記録される可能性が高かった。
ゆえに、今回ブンブクは小技を重ねる戦い方でサスケと戦わざるを得ない。
彼にとって、死合はすでに始まっていた。
「いや、死合じゃなくて試合だからね、字が違うよ!?」
とうとうこの日が来てしまいましたか…。
あの数日後、今日はサスケさんとの試合の日です。
…ええ、「死合」じゃないです、「試合」の日ですよ!
やだなあ、やりたくないなあぁ…。
実のところ、影分身に元々少ないチャクラをかなり持ってかれちゃってるんで、戦闘はしんどいんですよね。
かなり姑息に立ち回らないと勝負にすらなんない。
とは言え、
「持って来た装備が使い物になるかどうか、お試しにはもってこいだよね…」
サスケさんと言う写輪眼使いに僕の「対イタチさん用忍具」がどこまで通じるか。
試してはみたいと思ってたんだけど、今、木の葉隠れの里に生粋の写輪眼使いってほぼいない。
少なくとも僕は知らない。
なので、かつてサスケさんから聞いて興味を持ち、「暁」に所属している事が分かった時点で、僕はうちはイタチさんの事を徹底的に調べ上げ、そして対抗策としていくつかの忍具を作り上げていた。
まあ、僕に作れるような代物なので、忍具というよりただの道具なんだけどね。
実際に使えるかって言うと疑問符付きだし、まあ無駄になる気も多々するんだけどね。
それでも仕込みはしておかないと。
何の準備もなしにイタチさんと向かい合うなんて冗談じゃないしねえ。
…やっぱり怖いんですけど。
サスケさん、鬼気迫る表情とか結構してますし。
とにかく強い奴とたくさん戦って勝てば強くなると思ってますね、あれ。
まあ間違いじゃないんですけど。
ただ、それって一歩間違うと再起不能の重傷を負う羽目にもなるし、戦う相手の方向性によってはサスケさんの不必要な方向に成長する可能性もあるしね。
あくまでサスケさんにとって一義は「復讐」な訳だし。
イタチさんを殺すなりなんなりすることがサスケさんの成長意義な訳だしね。
…そうなると、ここで僕がサスケさんをうならせることが出来るような戦い方をするなら、サスケさんにとってもプラスなのか。
しょうがない、ちょっと気張ってみるかな、出来る範囲で。
…やりたくないい、下手をすると激怒されかねないネタがちらほらとあるんだけど、使わざるを得ないよねえ。
はあ、やりたくない…。
「準備できたかい?」
そう声を掛けてくるのは薬師カブトさん。
なんか妙にうれしそうじゃありませんか?
「そりゃもう。
普段は君とサスケ君に振り回されてるからね。
絶対にどっちかは痛い目に合うんだからね。
もう楽しくて仕方ないよ?」
うわあいい笑顔ですこと。
さっすがは師弟だけありますね、大蛇丸さんそっくり。
「!… なんか今、ものすごくゾクッとしたんだけど、なんか妙なこと考えてないよね」
いえなんにも。
僕が考えたのは当然のことですからね。
「…まあいいや、そろそろ行こうか」
「ハイ…。
あーるーはれたーひぃるーさがりぃー」
ドナドナと行きましょう、ドナドナ。
そこは大蛇丸と今はその傘下となっている血族の代表たちが戦った闘技場である。
今そこにはうちはサスケと茶釜ブンブクの2名が佇んでいた。
サスケはブンブクに興味なさげな視線を送っている。
それはそうだろう。
サスケには「写輪眼」がある。
写輪眼は全ての忍術、体術、幻術を看破し、複製使用が可能にする。
また、チャクラの流れを視認する事も出来る。
更には今まで鍛えてきたサスケの基礎能力は、「暁」の怪物たちにも匹敵するものとなっていた。
「…だけど、このままじゃ、ねえ」
そうつぶやくのは試合を見る大蛇丸だ。
「どうかしましたか? 大蛇丸様」
そう尋ねるカブトに対し、大蛇丸は答える。
「サスケ君は確かに強くなったわ、ワタシですらその才能に嫉妬するほどに。
でもね、その才能、基礎能力も使いこなせなければ宝の持ち腐れなのよ…」
どこか憂鬱そうな大蛇丸の声に、更に疑問の湧くカブト。
「そうですか? 十分にサスケ君は強いと思いますが?」
「じゃあアナタ彼と戦ったら勝てるかしら?」
「無理でしょう。
こちらの
カブトは忍として当然の答えを返す。
いや、この場合の忍とは、大蛇丸の定義する「忍術を使う者」としての返答である。
忍術を使う者は忍術を解析、把握するものにかなわない。
それがカブトの、というよりも大蛇丸の教えを受けたものとしての当然の答えだった。
大蛇丸はニマアッと笑うと、
「じゃあこの試合を見ておくと良いわ。
ちょっと人生観が変わるかもねえ…」
などとカブトにとっては不可解なセリフを吐き、試合開始の合図を送るのであった。
サスケとブンブクの死合が始まった(だから試合だってばあ!!)。
サスケは自身の名刀「草薙の剣」を握った腕をだらりと下げ、自然体でブンブクに相対している。
とはいえその内心は疑問符がつくものだった。
(何故奴は間合いを詰めてこない?)
サスケは試合当初から写輪眼を使用し、ブンブクの使ってくるであろう忍術に対処しようとしていた。
ブンブクは小柄だ。
さらに言えばチャクラの量が少ない。
サスケと戦うにはいきおい体術に頼るしかない。
ゆえに、少ないチャクラを使用した忍術を囮として使い、懐に飛び込んでくるものと思っていたのだが。
先ほどからブンブクは一定距離を保ち、サスケの周囲を回っていた。
サスケの剣筋から放たれる斬撃、それを受けない距離、
その絶妙の距離をブンブクは旋回していた。
サスケには見えている。
その写輪眼の力により、サスケはブンブクがその身体をチャクラによって強化している事を。
ブンブクの中に流れるチャクラ、特にその足に集中するチャクラは、体術による「瞬身の術」を発動しようとするパターンに酷似している。
実際、ブンブクはチャクラによる身体強化で脚力を強化している。
ゆえに、サスケはいつ飛び込んでくるのか、そう警戒し、写輪眼でブンブクを警戒し続けていた。
それがブンブクによる仕込みであるとも気付かず。
試合が始まって15分以上。
サスケはいら立っていた。
「てめえ…。
やる気あんのか!?」
斬る為に間合いを詰めれば後退され、手裏剣や火遁で攻める為に間合いを開ければ詰められ、しかし積極的に攻めてくる訳ではない。
サスケの怒りは頂点に達しようとしていた。
それに油を注ぐのはブンブク。
「いや、一生懸命戦ってますってば。
単純に攻めあぐんでるだけですって」
本人はいたって真剣なのだが、サスケはそう取らない。
ぎりぎりと食いしばっていた口がふっと緩むと、
「そうか。
なら、本気で行くぞ」
無表情になり、一気呵成に攻め始めた。
「サスケ君、焦れて動き始めましたね、大蛇丸様の言った通りになりました」
そういうのはカブト。
「…そうね」
なにか気になる風である大蛇丸。
大蛇丸の予想よりもサスケのキレるの早い。
何が原因なのか、気になっているのだ。
「…? 大蛇丸様?」
「なんでもないわ、カブト。
アナタはどう見るかしら?」
カブトへ水を向ける大蛇丸。
「そうですね、あの年でここまでの戦い方が出来るとは…。
さすがはあのダンゾウの後継者、と言ったところですか。
駆け引きが非常にうまいですね、彼」
「そうね、ワタシは興味ないけれどね」
そう、ブンブクの動きは極力チャクラを使わない、忍術に関わりの無い所で動いている。
なにせ、忍術の発動エネルギーであるチャクラを、彼は身体強化にしか使っていないからだ。
「しかし、ブンブク君はそろそろ限界なのでは?
先ほどから身体強化を使用し続けていますから…」
そのカブトの言葉に、
「それはどうかしら…」
と、にやりと笑みを浮かべたのは大蛇丸。
「? それはどういう意味ですか?」
カブトがそういうのと同時に、試合が大きく動いた。
(くそっ!? どういうことだ!?)
サスケは焦りを禁じえないでいた。
どれだけ素早く切りかかっても、ブンブクはサスケの剣の生み出す攻撃範囲、いわば「制空圏」の内部に取り込むことが出来なかった。
かと言ってやはり手裏剣や豪火球の術の間合いの内側にいる為、飛び道具を使用できない。
なれば、と必勝を期して放った剣の突き、これは受け流したり、受け止めたりするのが不可能なほどの威力を持つ。
下手に受けなどすれば、受けた得物ごと貫きとおされる、そんな強烈なものだ。
しかし、突きという技は実のところ隙が大きい。
一度突きを繰り出すと、重心が前に持っていかれ、姿勢を立て直すのに若干の時間が必要になるのだ。
とは言え、ブンブクの速度はすでに見切っている。
チャクラによる身体強化を得てのスピードなど、写輪眼の解析能力の前には無意味だ。
そう思っていたのに。
必殺の突きを放った瞬間、ブンブクの体からチャクラの影響が大きく減衰した。
その瞬間だ。
ブンブクの動きが
その速度が一瞬大きく減衰し、次の瞬間加速、サスケの繰り出す切っ先の下をすり抜けたかと思うといきなり動きが止まったように、更にそこから一瞬で加速しているようにサスケの目には見えた。
「!? なにが…!?」
目まぐるしく変わるブンブクの動き、それをサスケの目が解析しようとする。
(術を使っているなら写輪眼が見逃すはずが…!?)
その解析結果は、
幻術、でなく。
忍術、でなく。
体術ですらなかった。
そう、ブンブクにはチャクラによる身体強化の痕跡すらなかったのだ。
「馬鹿な!?
それでこの速さが出せるわけが…!?」
混乱するサスケ。
それが全てブンブクの仕込みが結実したものだと理解するのにはもう少し時間が必要だった。
「!? 一体サスケ君は何に動揺しているんでしょうか?」
はた目から見ているカブトに、今の状態は理解しがたいものがあった。
動揺しているサスケに、奇妙な走り方をしているブンブク。
「カブト、今サスケ君は幻術にでもかかっているような気分でしょうね。
なにせチャクラを使用していないのに一見凄まじい速さで走ってきたり、かと思うといきなりぴたりと止まって見えたりね」
大蛇丸にはブンブクの動きが1つ1つ理解できていた。
大蛇丸はそう言った言葉は知らなかったであろうが。
チェンジ・オブ・ペース。
スポーツ用語である。
無論この時代には存在しない用語だ。
スピードに緩急をつけること、または緩急を付ける技術の総称である。
様々な技術があるが、当然のことながら純粋な肉体に依存するものだ。
チャクラを使用した体術ではない。
そこにサスケの混乱の元があった。
忍である以上、ここぞという時はチャクラを使った術で攻めてくるだろうと。
その思い込みは試合当初から培われていた。
初期よりブンブクはチャクラによる身体強化によって身体機能を高め、サスケの攻撃をかわしていた、と思わせてきた。
ブンブクは体にチャクラを流していた
写輪眼はチャクラの流れを見切る。
だが、だからと言って体内のチャクラの流れが見えている訳ではない。
写輪眼は白眼と違い、チャクラの流れの把握は視覚に依存する。
体の影に隠れている部分が見えている訳ではないのだ。
ブンブクはそれを利用し、自身が身体強化を使っているが故の身体機能の向上によりサスケの攻撃を避ける事が出来ている、そう思い込ませていた。
回避できていたのはブンブクがサスケを観察し、その動きを解析していた為である。
サスケは格下のブンブクを舐めて掛かり、ブンブクもそれを増長するよう仕込みを続けたため、本人が気がつかないうちに動きが単調になっていたのである。
本来ならば大蛇丸やカブトが指摘することで解除できるその油断。
サスケはそのプライドからか、修行についての相談を大蛇丸達にしていなかったがために、ブンブクの術中にはまったと言っていいだろう。
これが仕込みの1つ。
また、チャクラを体に流しているのが明確な為、サスケは常時写輪眼を使用しなければならなかった。
サスケは生粋のうちはである。
後天的に写輪眼を移植されたはたけカカシと違い、写輪眼の使用によって大きな疲労を得ることはない。
しかし、チャクラの流れという視覚的情報の増加、それはサスケの目に負担を掛け、精神を疲労させていった。
これもまた仕込みの1つ。
そして姑息にも逃げ回り、苛立たせる子狸に対して迂闊に体勢の崩れやすい突きを放った時。
ブンブクはいくつかのチェンジオブペースの技術を使った。
1つは身長差を利用したもの。
ブンブクはサスケに対し、背が低い。
その為、ブンブクの頭はサスケの視界の下にある。
ブンブクは体のブレを抑え、サスケに対して自身の体を自分の頭に隠すようにして接近した。
こうすることで下半身をサスケの目にさらさず、お互いの距離感をあいまいにして接近したのである。
また走り方も奇妙なものだった。
ある距離から膝を曲げない走り方を通常の走法に混ぜ込んだのである。
そうすることで今度は上半身がぶれ、サスケから見るとまるでいきなり加速したり、止まって見えたりする事になる。
グースステップともよばれる技法である。
無論、傍から見ているカブト達には丸分かりなのだが、写輪眼という視覚に頼った戦闘法を確立していたサスケには存外効果が高かったようだ。
そして最後の仕込みは忍具。
それは…。
サスケは己に憤っていた。
自分でも信じられないことに、ブンブクに懐に入るのを許してしまっていた。
剣術の中には懐に飛び込まれた際の技術も存在するが、そもそもブンブク程度の相手に懐に入られる事をサスケは想定しておらず、半瞬遅い。
他の体術も同じ。
忍術はそもそも印を結ばねばららず、その隙をブンブクは逃さないだろう。
ならば…。
印を必要とせず、一瞬で発動できるサスケ、いやうちはの切り札。
写輪眼の能力のうち、瞳術によって相手に幻術を仕掛ける「幻術眼」。
相手と目を合わせるだけで、高度な幻術を相手にしかける事の出来る強力な術だ。
サスケは攻撃を打ち込もうとするブンブクの顔、その目を覗き込んだ。
「写輪眼!」
サスケの目に力が籠り、ブンブクに真実と見紛う幻覚を見せるべくサスケのチャクラがブンブクに影響を与える。
これでブンブクは身動きが取れなく…。
「! なんだと!?」
覗きこんだブンブクの瞳。
それは奇妙な光彩を放っていた。
まるで流動する油のようにとどまる事をしない金属光沢のある瞳。
本来のブンブクの瞳は茶色だった事を思い出すサスケ。
次の瞬間。
すっと差し出されたブンブクの右手。
軽く構えられたその手、その指先がすっと横に振られ、サスケの両の目を掠めようとして…。
「そこまで!!」
大蛇丸の声が響き、
ブンブクの右手はサスケの右目を掠める寸前で止まり、逆手に持ち変えられたサスケの剣はブンブクの背中に突きたてられる寸前で止まっていた。
閑話 カカシの思いつき
「さ~て、どうしたもんかねえ」
まだ体調の万全ではないはたけカカシ。
未だ木の葉隠れの里の病院で入院状態であった。
手元には「うずまきナルト最強伝説への道!!」と、お世辞にもきれいとは言えない字で表紙の書かれたノートが10冊ほど。
中を見てみるとどうやら2人の人間が書いたらしい、ナルトの修行法や、オリジナル忍術の草案などが書かれたものだった。
これは先ほどまでいたナルトがカカシに置いて行ったものである。
「2年ちょっとオレがやって来た修行の記録だってばよ!」
とのことである。
カカシは意外に思っていた。
あの、字を書くのも読むのも嫌いというナルトが、よくぞここまで書き溜めたものだなあ、と。
なんというか、感慨深い。
うみのイルカ辺りと語り明かしたい気分に、カカシはなっていた。
「ふうん、なるほど、ねえ…」
ノートを読み解いていくと、なかなかに面白い。
基本的に、旅の師であった自来也は、ナルトに力の放出方法、ナルトの中にある力(九尾のチャクラの事であろう)の危険の無い引き出し方に重点を置いていたようだ。
一方、このノートの発案者である茶釜ブンブクは、力の集中方法、チャクラをどうセーブし、継戦能力を高めるか、という所に重点を置いている。
「力の集中、かあ…」
ブンブクはナルトの強大なチャクラを更に集中させることでより強力な破壊力を少しでも使いやすくすることを考えていたようである。
その1つとして、力を集中し、一点に破壊力を集める方法についての考察がノートに載っていた。
「なるほど、ねえ。
螺旋、かあ…」
カカシにとってもこれは人ごとではなかった。
ここのところ、写輪眼の新しい力である「神威」の発動の度にひっくり返っては病院に担ぎ込まれ、ブンブクの母である茶釜ナカゴに世話を掛ける、(そして結婚しろとせっつかれる)のは申し訳なく思っていたところだ。
カカシは右手の指を虚空に向けてくるりと回し、それを腕を突きだすように前に突きだした。
「ふむ、空間そのものではなく、断裂を打ち出すように、と」
カカシの頭の中で、新しい忍術が出来あがろうとしていた。
どうも表現が足りない感じがしております。
後々書きなおすかもしれません。