NARUTO 狐狸忍法帖   作:黒羆屋

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第47話

 こんにちは、茶釜ブンブクです。

 現在、僕は修羅場第二弾に突入中です。

 新生音隠れの里として大規模に人員の増加があったこの施設では、住民登録とか、お仕事の割り振りとか、とにかくしなきゃならない事務仕事が多い。

 本来は里の中核に関わる仕事なので、ボクは傍観を決め込もうと思っていたのですが、

「キミね、企画から関わっておいてここで逃げられると思ってないよね?」

 とか言うカブトさんの目が怖かったので、まあ、機密に関わらない程度にお手伝いをすることになりました。

 どうせ本当に大事なところは見せないと思うし。

 出来る所まででもお手伝いしないと(主にカブトさんが)過労死しちゃいそうですし。

 当然と言えば当然なんですけど、カブトさんは僕よりもさらに忙しそうです。

 カブトさんの下には新しく組み込まれた音隠れの新人さんたちが仕事をしているのですけど、今まで事務方ってカブトさん1人だったんですよね。

 仕事のためのマニュアルとかもなくて、カブトさんと同じように仕事が出来る人なんてそうそういる訳じゃない。

 あんなスーパーサポーターみたいな人を基準に仕事の割り当てを決められてもなあ。

 そう言う訳で、事務職のためのマニュアルの作成を主にお手伝いしております。

 さすがにスタッフが多くなるとやりやすいですね。

 資料も集まりやすいですし。

 あ、資料は田の国の官僚機構のものを参考にさせてもらってます。

 たかだか10日で形が出来てきました。

 今回はちゃんと睡眠もとれてますし。

「らったったらったたったふうふういえいっ!」

 いよっし上がったあ!!

 歌の最後にびしっ! と人差し指を突きあげ、正気に戻った僕は、

 周りの生あったかい視線にさらされている事に気づくのでした。

 

 

 

「え~っと、みなさんお疲れ様でした…」

 恥ずかしそうに顔を真っ赤にして、ブンブクは座り込んだ。

 この10日間、周囲にいるブンブクの補助を行ってきた者達はその様子をほほえましく見ていた。

 ここにいるのは血族の中でも力の弱い者達。

 忍として、ただその血を絶やさぬ為だけに生かされてきた者達であった。

 戦いの才はなく、忍として特に優秀という訳でもない彼らは、この小さな田の国において居場所のない者たちであった。

 忍びの社会において「血」は何より重視される。

 こう言ってはなんだが、より優秀な忍びを「創る」為に忍びの血族の中では常に優秀なものの「掛け合わせ」つまりは交配じみた事も行われてきた。

 優秀な者同士が結婚しより優秀な忍を生む。

 そうすることでより強い忍を抱えた一族が繁栄する。

 そう言った事が当然とされていた。

 だからと言ってその試みがすべてうまくいくとは限らない。

 こればかりは自然の摂理というものだ。

 そうして生まれるのが忍としては弱い者、癖があって里で運用できない者達である。

 里から見限られた彼らを拾い上げたのは大蛇丸である。

 まあ実際の所、忍びとして使い物にならないならば、別の使い方が出来ないかと大蛇丸がカブトに丸投げしたのが事実であるが。

 カブトとて、基本的な考え方は大蛇丸と変わらない。

 さてどう使うか、という事を考えていたところ、目に留まったのは我関せずを決め込もうとしていた毛玉。

 大あくびをしながら優雅にお昼寝、という何とも殺気の溜まるゆるきゃら姿を披露してくれていたこ奴に、カブトは目を付けた。

 

 ひまなやつにやらせりゃいいじゃん。

 

 気配を感じて遁走モードに入った茶釜狸を捕獲、

 懇切丁寧に現状を説明し、

「企画から関わっておいてここで逃げられると思ってないよね?」

 とヤサシク説得したところ、快諾してくれた。

 これにて一件落着。

 音隠れの里の組織を構成するため、複数の作業を同時進行していたカブトは、これ幸いと事務職のためのマニュアル作りをブンブクに任せることにした。

 そのまま、カブトは他の仕事に没頭していった。

 

 さて、任されたブンブクであるが、押し付けられた者達は幸いなことに文字が読める者ばかりであった。

 忍はこの世界において万能の戦士だ。

 時には潜入工作などもこなす。

 その為には、基礎的な教養を幼いころから見に付ける必要があった。

 忍としては不適とされた彼らだが、身に付けた教養は失わない。

 また、彼らは彼らでやる気に満ちていた。

 このままだと自分達の居場所がない。

 一度一族もろとも虜囚という最底辺に落ちた彼ら。

 もともと血族の中で底辺の扱いをされてきた彼らにとって、現状はなり上がるチャンスでもあった。

 忍としてでなく、音隠れの里の構成員として。

 その為、自分達の教育係がみょうちきりんな少年であろうとも歯を食いしばって、石にかじりついてでも全うしなければならない、そう考えていた。

 一方、ブンブクにとっても彼らは都合が良かった。

 文字が読めることと、学習意欲が高い事である。

 この世界において識字率は必ずしも高くない。

 木の葉隠れの里において、識字率は9割を超える。

 これは3代目火影・猿飛ヒルゼンの方針によるものだ。

 一方火の国全体ではどうか。

 都市部において7から8割、農村部において7割程度である。

 火の国は忍五大国の中でも特に豊かだ。

 その為、他の国よりも圧倒的に識字率が高かった。

 これに匹敵するのは技術大国である雷の国位だろうか。

 国力が無く、国民の多くが遊牧民であり、教育機関を設定しづらい風の国では多分1割を切るだろう。

 世界的にそのような状況であり、小国である田の国の所属である彼らが全員文字を読めるというのは少なくとも事務仕事の補佐は可能であるという事でもあった。

 それに、字が読めるならば、努力次第で事務仕事はできるだろう、そうブンブクは考えたのである。

 ブンブクは、最初の4日間を彼らの教育に当てた。

 特に重視したのは「報告、連絡、相談」である。

 上司に作業の進捗状況を確実に伝えることにより、現場の状況を上層部が理解できている状態にし、

 その状態を憶測なしで全体に伝え、

 作業を行っている個人が対応できない状況は他者に相談して参考意見を取り入れる、それが出来る基盤を整える目の時間を設けたのだ。

 もともと、組織にとって致命的なのは情報が行きとどかない事である。

 組織が巨大化した場合、末端まで情報が行きとどかない事はままあれども、音隠れの里程度の規模の事務組織なら、「ほう、れん、そう」を確実にしておくことで情報が行きとどく、つまりは組織運用がスムーズにできるということになるだろう。

 ブンブクの母親である茶釜ナカゴは木の葉隠れの里の忍組織において事務方をしている。

 彼女から聞いていた話と()()()()()()()()から、ブンブクは組織に必要な業務の雛型(アーキタイプ)を彼らと一緒に形造っていったのである。

 そういった教育を施した後、ブンブク達はマニュアル作成に入った。

 ブンブクが中心になって勧める作業は、自分達でも驚くほどスムーズに進んでいた。

 ブンブクなどはやけくそではなく、作業の順調さに鼻歌を口ずさむほどであった。

 後半になるとある程度仕事の進んだカブトがちょくちょく覗きに来るようになった。

 その、「ちょくちょく」程度でブンブク達の行ってきた事務仕事の要諦をあっさりと掴み、自分の仕事に応用してしまったのは流石と言うべきだろう。

 カブトは大蛇丸の直属の配下として、部下の扱いにもたけている。

 彼はその統率力を以って、音隠れの里の組織をブンブクから手に入れた要諦を応用して強固なものへと変えていった。

 このあたり、高齢で自身の成功体験にしがみつく他の里の上層部ではまねのできない事であろう。

 たった今生み出された若い組織の特権と言える。

 結果として音隠れの里の事務組織は、優れた官僚機構としての側面を持つようになる。

 そして、トップが不意にいなくなった、そんな状況にも組織を維持していくことが可能になっていったのである。

 

 

 

 さて、僕がいなくても里の運営が急速に動くようになってきました。

 今はこの施設の運営もかなり安定し、他の施設から人員が定期的に移送されるようになってきているそうです。

 今までに2回、大蛇丸さまと血族の代表選手のハンディキャップマッチが行われましたが、全て大蛇丸さまの完勝です。

 第1回目ほどの絶戦は行われておりませんね。

 あのときが一番メンバーが充実してましたし。

 あれだけの戦い、しっかり録画保存させていただきましたともさ。

 もちろん、うちの秘伝忍術で。

 ちなみに皆さんから後ほどきっちりサインを頂いておりますよ。

 もうほっくほく。

 ちなみに大蛇丸さんとカブトさんからはまだ貰えてません。

 大蛇丸さんからは、

「もうちょっと役に立ったら書いてあげる」だそうです。

 これ以上僕に何を期待してるんだろう…。

 とか考えかけて、

「…僕まともにサスケさんと会話すらしてない」

 ことに気づいて愕然としたのはここだけの秘密です。

 

 さすがにこれはまずい。

 カブトさんに、

「カブトさん、サスケさんっていつもはどこにいるの?」

 と尋ねたところ、

「ああ、彼なら修練場のどれかにいるはずだよ。

 そうだね、そろそろ落ち着いてるんじゃないかと思うから、会ってみるかい?」

 そう言われました。

 

 ここの施設にはいくつかの修練場があります。

 その1つで、サスケさんは今日も修行をしていました。

 あ、今日は結構な手練れの人たちとの組手ですか。

 しばらく見学させてもらいましょう。

 

 むうう。

 確かに強いっちゃ強いんですけどねえ。

 なんていうか、スペックだけで勝てちゃってるんだよね。

 直線的すぎるというか。

 悪いって訳じゃない。

 直線的ってことは、相手との距離が最短、つまりは最速で攻撃できるってことだし。

 基本的に、忍の戦い方の最もスタンダードなやり方の1つなんですよね。

 とにかく圧倒的な早さで相手に攻撃を打ち込んで沈める。

 ええっとなんでしたっけね、そう、「先の先」なんて言うんですっけ。

 このまま鍛えていけば、僕の調査したうちはイタチさんに勝つのは可能だと思う。

 このまま鍛える事が出来るなら。

 サスケさんは正統派の戦い方をする人だと思う。

 大蛇丸さんもそう。

 忍術はえげつないものが多いけど、それは大蛇丸さんの特性を生かしたものであるというだけ。

 正統派とは基本的に力押しの事。

 小技をねじ伏せる才能と努力の結晶の事。

 サスケさんには才能はあるけど、努力が足りない。

 実際に足りていないのは努力する時間なんだけど。

 僕が木の葉隠れの里の資料を漁りまくって纏めた「うちはイタチさんレポート」から推測するに、今のサスケさんの強さは木の葉隠れの里にいた頃のイタチさんに匹敵、もしくは凌駕している。

 ただ1つ、写輪眼の性能を除いては。

 いたちさんって確かに優秀なんだよね。

 だけど、上忍としてはその戦歴に比して身体能力が極端に高い訳でもなく、忍術も強力ではあるけど、もっと優秀な人もいるし。

 特筆は幻術。

 とにかく幻術への誘導がうまい。

 これはうちのおっかあもそう言ってたし、資料として載っていた幻術使いの夕日一族の人の解説にもあった。

 僕のいたちさんのイメージとしては「幻術特化の万能忍者」ってとこだろうか。

 忍の「体術、忍術、幻術」を10点満点で採点した場合、

 はたけカカシ上忍が「8、8、8」(写輪眼除く)

 マイト・ガイ師匠が「10、6、4」

 猿飛アスマ上忍が 「8、9、6」

 夕日紅上忍が   「6、6、9」

 うちはサスケさんが「7、8、7」(写輪眼除く)

 って感じだとすると、

 うちはイタチさんが「8、8、15」って感じ。

 なんだ15ってって話はさておき、とにかく体術と忍術も並みの上忍以上で、それ以上に写輪眼を使った幻術が特化している感じ。

 幻術という強力な武器がある為に相手は下手にイタチさんに踏み込めず、イタチさんは相手の心理をも武器にして闘う事が出来るんだろう。

 確かに写輪眼さえ封じれば、サスケさんに勝機は十分にあるだろう。

 でも、写輪眼に意識を持って行かれればその分隙が大きくなり、体術や忍術で落とされる確率もあがる、と。

 瞳術による幻術という強力な武器であり、盾である技術がイタチさんを最強としている。

 これだけなら大蛇丸さんも勝てそうな気がするんだけどな。

 大蛇丸さんの場合、忍術に頼った戦い方をするなら写輪眼による術の解析、模倣で出掛かりを潰されちゃうから一気に不利になるだろうけど、体術や戦闘技術メインで押していけばさっきも言ったけど、経験の差で押し勝てる可能性は十分にあると思うんだよね。

 正直言って大蛇丸さんは写輪眼を絶対視しすぎている気がするんだよな。

 というか、血継限界全体を。

 カブトさんからちょっと聞いた話だと、大蛇丸さんが本来乗っ取ろうとしていた体って「君麻呂」って人のものだったそうだ。

 強力な血継限界の血族だったそうだけど、不治の病で亡くなったとか。

 話を聞いてると寿命じゃないかとも思うんだけど、と言ったら驚かれた。

 君麻呂さんって当時右近さんたちと同い年だったって話だったんだけど、その能力が「骨を操る」能力だったそうで。

 広い原っぱ一面に骨の森みたいなのを作り出し得たとか。

 それだけ細胞分裂すれば、骨細胞だけでも老化するんじゃないのかしらん。

 君麻呂さん以外のサンプルはすでに死に絶えていたらしい。

 だから検証は難しかったらしいけど戦闘狂の若くして死んでいく一族だったって事を考えるとありそうだと思う。

 自分たちの寿命が術を使えば使うほど縮んでいくからこそ、生き急いだのかもしれないなあ、なんて。

 強力な血継限界はそれだけにペナルティーも大きいんじゃないかな。

 だからこそ、「白眼」の日向一族は「柔拳」という白眼だけじゃない一族秘伝を編み出したんじゃないかと思う。

 もしかしたら、写輪眼にもそういった欠点があるのかも。

 なんて考えてたら、

「何を考えてるのかしら…」

 耳の後ろをべろんと舐められました。

 振り向いてみると至近距離に大蛇丸さんの顔。

 なんかこう、愉悦に浸っていそうなとっても「イイ」表情をしてらっしゃいます。

「うひゃおう!?

 やめてくださいって大蛇丸さん!!」

「サスケ君を見てたのね、どう思う?」

「このまんまだと潰れるんじゃないですかね?」

 正直に僕が言うと、大蛇丸さんは肩をすくめ、

「やっぱりそう見えるのねえ…。

 困った事…」

 ため息をついた。

 ああ、やっぱり大蛇丸さんもそう見てるのか。

 こう言ってはなんだけど、兄ちゃんに比べてサスケさんはメンタルが弱いんではなかろうか。

 なんというか打たれ弱い感じ。

 自分の才能を理解してるからか、兄ちゃんに意外に良い勝負をされたのがショックだったのかなあ。

 サスケさんに比べると兄ちゃんの実力の伸びって階段状なんだと思う。

 ある一定まで経験を積むと、それが形を成して一気に強くなる。

 上り坂のように順調に成長していくサスケさんとは違う。

 まあ確かに実力が付いたかを実感するのは兄ちゃんみたいな方なんだろうけどさ。

 学んだことをすぐに己の実力として取り込めるとか、どんだけハイスペックなんでしょうね、サスケさんは。

 なんかこう、恨、妬、嫉とか言う感じが頭の中をよぎります。

「どうしたの? 黒い顔しちゃって。

 狸だからって狸になんなくてもいいのよ」

 大蛇丸さん、どういう意味ですか?

 確かに狸って腹黒の代名詞みたいに言われてますけど。

 とにかく、今のサスケさんは弦をいっぱいに張った弓、空気をパンパンに詰め込んだ風船みたいなものに見えます。

 なんかきっかけがあったら壊れちゃいそうです。

 とはいえ、きっかけがなくてもストレスで壊れそうですが。

 とにかく、このままだとまずいというのは分かります。

 現在の状況を打破するか、サスケさんにもうちょっと余裕を持ってもらう必要があるってことですよね。

 うーん、どうしたもんだか。

 あ。

「大蛇丸さん、ほら、この前戦った人たちとか、あの人たちと手合わせしてもらうのはどうですか?」

 いい刺激になるだろうし、明らかに格上の人たちもいたわけだし。

「彼らはまだ駄目よ。

 弱い子たちじゃ無駄に潰されちゃうだけでしょ?

 それに格上のあいつらは使う訳に行かないし」

 なぜですか?

「四貫目はそろそろ戦闘が辛い年齢だしね。

 使いつぶして良い人材じゃないのよ」

 んじゃ蒼傑さんは?

「あれは解放したわ。

 あんまりにも武人なんだもの。

 忍里としては使いにくいったらないわ。

 それより解放して梁山泊に恩を売る方がまだいいわ」

 さすが計算ずくですねえ、素晴らしい。

「何か言いたそうねえ、ブンブクぅ?」

「いえなんでもないでっす!!

 それじゃあ吉光さんとか、幻幽丸さんは?」

「勝っても負けても納得はしないでしょうね。

 今の彼に必要なのは効果的なイタチへの対応策だからねえ。

 この前ナルト君達に接戦に持ち込まれてから、イタチ戦への自信が急速に失われてるのよ、彼。

 まったく困ったものね、彼がイタチを仕留めてくれるなら、イタチの体を貰おうと思ってるのに…」

 ああ、まだうちはの体を手に入れるのにこだわってるのか。

 血継限界は好きなんだよね、血族による忍術の囲い込みは嫌いなのに。

 しかしそうか、今のサスケさんじゃ完全な格上か、格下にぼろ負けするようなことが無いとショック療法になんないのか。

 結構大変だなあ。

 なんて能天気に思っていた僕に、大蛇丸さんは爆弾発言をかましてくれた。

「ブンブク、アナタ、サスケ君と死合なさい」

 

 

 

 閑話 その頃木の葉隠れの里では

 

 ここは火影の執政室。

 現在、「暁」への対応策を協議中である。

 ブンブクほか、主として志村ダンゾウからもたらされた暁のメンバーの情報を元に、その行動予測とどう相対するか、という議題が話し合われている。

 この場には6代目火影・千手綱手をはじめ、ご意見番の2名、元5代目火影・志村ダンゾウ、上忍のほとんどと先代猪鹿蝶の3人ほか、主だった一族の棟梁達がそろっていた。

「さて、以上が連中の経歴、ということになる」

 ご意見番の水戸門ホムラが話をまとめた。

 木の葉隠れの里の情報分析班は優秀だ。

 少ないデータから的確に情報をまとめ上げた。

「……」

 周りの者達は言葉も出ない。

 相当の難敵だとは思っていたものの、かつてないほどの強い敵集団であることが認識できたからである。

 現在の所、五尾と一尾の捕獲が確認できている。

 無事を確認できている尾獣は岩隠れの四尾、雲隠れの八尾、木の葉隠れにいる七尾、九尾である。

 雲隠れのもう1体の尾獣である二尾はその人柱力であるユギトともども行方が知れない。

 彼女は雲隠れの里との関係はよく、逃げ出す必要がない。

 暁に捕えら得た可能性があるとのことだ。

 霧隠れの三尾、六尾は行方が知れない。

 最悪の場合、「暁」には5体の尾獣が確保されている可能性がある訳だ。

 忍界でも最強と呼ばれる尾獣が5体、小集団である暁に確保されている。

 しかもそのやり方は忍五大国に喧嘩を売るやり方で、だ。

 その目的は不明。

「うっし、忍五大国潰してなり上がってやるぜひゃっほう!!」というだけでもあるまい。

 そのバックにはそれ相応の組織がある事が分析班の報告に上がっていた。

 つまりは、これは代理戦争という訳だ。

 敵は「暁」及びその背後にいる組織。

 暁のメンバーを捕え、その背後にいる連中を引きずり出す。

 それが木の葉隠れの里が行うことである。

 今のところ捕えるこの出来たメンバーは「赤砂のサソリ」のみ。

 しかし、彼は「ペイン」というリーダーの事はよく知らなかった。

 ペインの副官であろう「コナン」という女性をまずはターゲットとすることで、その場の意見はまとまっていた。

「でだ、実際にどう動くんだ?」

 上忍の1人がそう言う。

 それに応えるのは猪鹿蝶と謳われた知将・奈良シカクである。

「それについては考えがある。

 いくつか意図的に尾獣の潜伏場所を流してやる。

 無論事実でなくてもかまわない。

 ってえか、事実も混じっててもかまわない。

 ウソってなあ真実混じりの方が信憑性が高いからな。

 で、奴らの攻撃地点を絞らせて、襲撃が来たら皆が一斉に集結して袋叩きにする、と。

 な、単純だろ」

 口で言うのは簡単でも、それを的確に配置するのは至難の業だ。

 その配置を、方針が決まった直後からシカクは決めていたのだろう。

 木の葉一の知恵者は伊達ではない。

 シカクは綱手の許可を貰うと、上忍達にてきぱきと配置場所を支持していった。

 

「で、オレはどこに行けばいいんだ?」

 最後に残ったのは猿飛アスマ。

「あんまり遠くは困るぜ」

 懐を漁り、最近タバコをやめたのを思い出すとひょいと肩をすくめて見せた。

「分かってるさ、そろそろなんだろ」

 アスマの妻、紅は臨月を迎えていた。

 その為アスマは仕事を抑えて出来るだけ妻の傍にいるようにしていた。

「アスマ、お前さんには『火ノ寺』に行ってもらう。

 噂を流す気はないんだがな、尾獣を匿える施設ってのも限られる。

 誘導がずれた場合、あそこに被害が出る可能性があるんでな」

 アスマは驚いたような顔をすると

「なら問題ねえよ。

 あそこにゃオレのツレがいるからな。

 仕掛けてきたとしたら一網打尽にしてやるよ」

 にやりと笑ってそう言った。

 

 

 

 ダンゾウは「根」の隠れ家の1つで茶釜狸姿のブンブクと会話をしていた。

 そう、今現在、音隠れの里にいるはずのブンブクと、である。

「そうか、音隠れは里として再起動したということだな。

 お前の差し金で」

 ダンゾウは無表情にそう言う。

「はい、そうなりますぅ」

 寝ぼけ気味の声を出すのはブンブク省エネモード。

 いったいどうなっているのか。

 

 ここにいるのは影分身のブンブクである。

 チャクラの消耗を徹底的に軽減するために、ブンブクの影分身はこの省エネ姿でずっといる。

 そして口寄せ動物の安部見加茂之輔を介して本体と連絡を取っているのだ。

 つまり、音隠れの情報はダンゾウに筒抜け、ということである。

 その情報から、ダンゾウは音隠れの里が拡大、本来の意味での忍里になりつつあることを理解していた。

 それについては木の葉隠れの中枢からはとてつもない警戒を呼ぶだろう。

 しかし、ダンゾウはあえてそれを放置する。

 今までも他の里との殺し合い潰し合いなぞ当たり前にあった。

 それに大蛇丸が率いる一団が加わるだけの話だ。

 しかも、大蛇丸は他の忍術研究者を取り込んでいるとの事。

 規模の小さな里でそのような事をするのであれば、研究に資金をつぎ込まねばならず、他の里への襲撃には資金を投入できず、かなりの時間が費やさることとなろう。

 ダンゾウにとって、つまり木の葉隠れの里にとっても都合のいいことなのだ。

「ところでダンゾウさま、本体が聞きたいことがあるってぇ」

 ポヤポヤとした口調で狸が言う。

「なんだ?」

「3代目の体調」

 その言葉に一瞬ではあるが、ダンゾウの顔に動揺の色が見える。

「…良くはない。

 正直眠っている事も多くなった。

 もう長くはあるまい…」

 最近は食欲もなく、イワシのツミレ汁を少々すする程度で、1日の大半を寝て過ごしている。

 起きている間は意識ははっきりしているものの、少々の会話でも疲労するようになっている。

 ダンゾウとしては日々を穏やかに暮らしてくれればいい、そう思っている。

 それが数10年の長きにわたって木の葉隠れの里を維持してきた男への報酬だと。

 ダンゾウはヒルゼンの事を振り払うようにブンブクに聞いた。

「それで、サスケの周辺はどうなっている?」

 ブンブクは眠そうにあくびをすると、

「まだ接触しきれていない。

 行動が妙に幼い気がするって言ってる」

 そう言った。

 ダンゾウは目を細めると、

「サスケの周りに目を光らせておけ。

 サスケは所在の分かっている『うちは』の片割れだ。

 いつ何時奴に介入するものが現れるとも限らん」

 そう告げた。

「分かりました。

 いつ『介入者』が現れても良いよう準備しておくよう伝えます」

 そう言うと、ブンブクの影分身は眠りについて行った。

 ダンゾウは眠りに就いたブンブクを一撫ですると、長い思索へとはいっていった。




次の更新は1週間程度かかる予定です。

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