日も落ちてきた時間帯、2つの影があった。
1つは中肉中背の多分男性であろう。
若干猫背気味、自然に見える立ち位置は、両の足に均等に体重を分散させ、いかなる状態にも対処できる格闘、白兵戦闘の理想的な状態を維持している。
両手には何も持っていないように見えるが、達人と呼ばれる人間なら自然に少しだけ曲げられた手、その平側に艶消しの処理がなされた金属の棒を持っていることが分かったかもしれない。
寸鉄。
古くは掌に隠せるほどの短い短剣の事を言い、棒手裏剣などもそのたぐいに入る。
彼の持つ寸鉄は切っ先がなく、ただの黒い鉄の棒である。
棒の中ほどに数センチの突起があり、握りこむと手の小指側、人差し指側、そして中指と薬指の間から黒塗りの鉄が打突部分として顔を出している。
忍の忍具としては古来からあるものであり、昨今ではまるで使用されなくなった得物でもある。
理由は簡単、威力が弱いからだ。
刀や槍ほどの間合い、威力もなく、そもそもチャクラを併用した体術ならば素手で岩をも砕く威力を引き出せる。
石を持って叩く程度の威力ならないほうがまし、と考えるもの当然と言えよう。
しかし、男は頑としてそれを使い続けている。
使い慣れた、ということもあるだろう。
幼いころから馴染んだ得物は何よりも頼れるものであろうから。
しかし、それだけではない。
この目立たない武器、これこそが彼の忍としての道、忍道そのものであるから。
普段は何もなくていい、そして一度事が起きたなら、目立たず、密やかに、周囲に一切気取られず、振るわれるのは刹那の時、そして誰にも気取られずまるでなかったかのように消え去る。
そのように自身もありたい、その思いが彼をしてただの鉄の棒を必殺の武器として愛用させている。
1つはそれよりかなり小さい影。
猫足立ち、というにはあまりにも背を丸めている。
まるで猫が威嚇をするが如く。
手には男性と同じく寸鉄を構えているが、その技量は劣るのだろう、見るものが見れば持っているのが丸わかりである。
「んじゃブンブク手合わせ始めるぞ」
「はい、おっとう、じゃなくて先輩!」
茶釜ナンブは息子であるブンブクに、修行中は「先輩」と呼ぶように躾けている。
父親を忍という生き方の先輩である、と認識させるのと同時に、修行中に家族の情を出さないためでもある。
茶釜一族は実のところ火の国においては千手やうちはを凌ぐ旧い忍の家系である。
両家ほどの派手さはないが、その派手さがないゆえに諜報、護衛など戦闘にかかわらない分野で活躍してきた。
木の葉の里では万能の裏方として知る人ぞ知る、そういった一族なのである。
歴代の火影は茶釜を重用した。
かつての火の国の大名直轄の戦士集団、守護忍十二士には必ず名を変えた茶釜の者が入っていたほどである。
そういったものは大体十二士の中で最弱の名をもらうのだが、彼の者が他の十二士の傍らにいる限り、不思議と誰も戦死することはなかったという。
最弱なれど豪運、そういった人物はたいがいが茶釜のものであった。
忍ぶ者、茶釜の一族はその言葉通りの存在であった。
2人の影がゆるゆると動きだす。
ブンブクがナンブの隙をうかがい、その周りを回り始めた。
時折腕をピクリと動かすのは視覚にうったえるフェイントだろうか。
のみならず、父親へと飛ばす視線は、すい、とあらぬ方向を見ており、父の仕掛ける忍術に確実に対応できる体制を整えている。
「ほう、今の術に気付いたか、感心感心」
「いや、いっつも喰らっているんだからそりゃ気づくよ、そのお猪口」
ナンブの周りにはチャクラにより数個の鉄でできたお猪口が浮かんでいる。
ときおりこのお猪口はナンブの意思によってブンブクに向かって飛んでくる。
これが意外なほど痛い。
のみならず、
「シッ!!」
飛んできたお猪口をよけたその瞬間。
ブンブクは大きく右にとび跳ねた。
丁度その直前にブンブクの頭があったあたりを黒風が通り過ぎる。
ナンブが
「うっわ、あぶなっ! さすがに今のは当たったら死んじゃうって、おっ…、先輩!」
さすがに動揺したのかナンブを父と呼びそうになり、訂正するブンブク。
「はっはっはっ、すごいぞぉブンブク、初めて父さんの変わり身を見切れたなあ、んじゃ、どんどんいくぞお!」
「うぇ、ちょ、まっ、ひぎゃああああぁぁあぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
本来変わり身という忍術は攻撃を受けた瞬間に身近なものと自身の位置を入れ替え、攻撃を回避したり、相手の視覚外に逃れたりするものである。
しかし、茶釜一族の血継限界「金遁・什器変化」、その特性を生かすべく歴代の一族が開発した忍術の1つに「金遁・什器変わり身」の術がある。
これはチャクラでマーキングをした器と自身を入れ替えるもので、超高等忍術である「
茶釜一族に特化した術の構成になっており、飛雷神の術ほど覚えるのが難しくなく、かつ必要とされるチャクラも格段に少ない。
この術を使ってナンブはブンブクの周りをまるで分身の術でも使っているのでは、と思えるほどのスピードで動き回り、殴りかかっていた。
この攻撃に、ブンブクは防戦一方となる。
右から飛んできた拳をさばくのと同時に正面に現れた南部の前劇をバックステップでかわす、そのほぼ同時に身をかがめて左フックをいなす。
しかし次の正面蹴りを回避することができずに被弾、そこからの追撃をさばききれず、ブンブクはついに地に伏した。
「最初の見切りはよかったぞお、でもその前に私の猪口に囲まれないようにしないとな、戦いでもそうだが、常に2手、3手先を読まないとなあ」
「11歳にそれを求めますか、先輩…」
「そうもいってられないぞ、もう後1年もすればキミも立派な下忍になるんだからね、そうでしょ、我が息子」
どうやら今日の修行は終了であるらしい。
ナンブの口調に息子を心配する親の情が混じりこんでいた。
「それじゃ、ここからは反省会ね、そこの切り株に座って話そうか」
ナンブは息子の体術の問題点を指摘することにし、それを持って本日の修行のまとめとすることにした。
ブンブクの体術の問題点を細かく指摘しつつ、ナンブは、我が息子ながらよくもたかだか11でここまで動くようになったものだと感心する。
先の修行で使っていた什器変わり身などは、言ってしまえば1対多数の戦いに持ち込むようなものである。
剣術などでは人間最大4人までにかこまれた状態に対処できるなら何人とでも戦える、という考え方がある。
攻撃をするとなるとどうしても、手足や得物を振り回す空間が必要になる。
そのため、1人に対して同時に攻撃できるのは多くても4人程度であるからだ
ナルトの得意とする「影分身」にしてもそれは変わらない。
影分身の場合、一度倒されてしまうと消えてしまうため、死体が他の者の邪魔になることがなく、絶え間なく攻撃ができる、という利点もある。
しかし、分身と本体が意識レベルでつながっておらず、分身の得た経験は術が解かれた時に本体に還元されるため、結局は多人数で攻撃している時と同じ欠点を負うことになる。
什器変わり身の術は違う。
高速で入れ替わりを行っているため、他の攻撃者の体に邪魔をされることなく十分に身体を使った攻撃ができるのである。
無論、コンマ秒単位での視点の切り替えに術者が対応できるなら、という注意点付きであるが。
ナンブは10年以上の歳月をかけ、この高速戦闘に耐えうる身体能力と先読みをする経験を積み上げてきた。
それをたかだか11の子どもが対応しているのである。
本来ならば見切るどころか何が起きているのかも認識できないはずなのに。
(これも天賦の才能か… いや、それだけではないな、これは… 周りからの影響も大きいか、これもナルトくんのおかげかな…)
本格的な修行に入る前から、ブンブクは年上の子どもたちと一緒に遊ぶことが多かった。
茶釜一族は木の葉の里の中心部から若干はなれたところに居を構えている。
そのため、同世代の子どもたちが近所に住んでおらず、ブンブクはうちから離れて里の中心部に遊びに行くことが多かった。
両親ともに忍者であり、下働きがいるほどの名家でもなく、ブンブクは年上のいとこたちに連れられて、またはひとりで公園に遊びに行っていたのである。
その時にブンブクの面倒を見てくれていたのが2歳上のうずまきナルト世代の子どもたちであった。
実のところ、ナンブ、ナカゴの夫婦は年上の子どもたち、というよりはナルトと自分たちの子どもが遊んでいることが良いことだとは思っていなかった。
かつての「九尾事件」ではその住居が事件の中心部より外れていたこともあり、茶釜一族には大きな影響はなかった。
しかし、守るもののある大人の立場としてはナルトと自身の子どもが関わることによって里の悪感情がブンブクに飛び火するのを嫌悪したのである。
「うずまきナルトに関わってはいけない」と、当時3歳であったか、幼児のブンブクにナンブは言い聞かせた。
当時からブンブクは歳に似合わない聡明な子供であったし、当然、両親の話を聞きわけるだろうと南部は気楽に考えていた。
「? どうして?」
その時のブンブクの顔は、両親が初めて自分の理解できないことを言い出した、とでもいうような、ポカンとしたものであった。
ナンブは里に通達されている、うずまきナルトの出自に関するかん口令の部分をぼかして話していたため、説得に矛盾が生じていた。
その矛盾をブンブクは指摘してきたのである。
もとよりナルトの境遇に関しては内心忸怩たる思いがあったためにブンブクの追及を逃れることができず、ナンブは「とにかく言うことを聞きなさい」と言い聞かせることしかできなかった。
これで一応の解決にはなっただろう、と考えた南部は甘かった。
ブンブクは3歳ながら「なぜ?」を止めることをせず、なぜナルトが迫害、虐待を受けるのかを調べ始めたのである。
先ず一族の者たちに話を聞き始めたが、当然忍の一族であり、火影の配下である茶釜の者は情報を漏らすことがなかった。
そのため、ブンブクは里の一般人に紛れ込み、彼らの会話の断片からナルト迫害の真実を分析・解明してのけたのである。
ナンブがそのことを知った時には唖然としたものだ。
本人いわく、「おっかあがやってる秘密の特売情報を手に入れるやり方をまねただけ」だそうだが。
それから数日後、ブンブクは両親に「うずまきさんを助けるために力を貸してほしい」と相談を持ちかけてきた。
ナルトの置かれている状況、現状が維持された場合に里に与える悪感情など、ナルトの状況を改善しなければならない、というプレゼンを行い、先ず茶釜一族を味方として状況打破を図ろうとしたのである。
もちろんすべて本人が考えたわけではない。
里で情報収集を終えたブンブクが最初に相談を持ちかけたのは奈良家のシカマルであった。
言わすと知れた木の葉の里の天才である。
めんどくせぇと言いながらもブンブクのもたらした情報を整理、精査、そしてナルトを救う作戦を即座に立案してのけたのはさすがといえよう。
その作戦にのっとり、ブンブクは茶釜一族を説得し始めたのである。
もともとナルトへの迫害は「九尾事件」において大きく損なわれた、里の民の火影忍軍に対しての不満を他に向けるための生贄であった。
しかし、九尾事件も10年以上が経過し、その傷跡もほぼ修正されたと言っていい。
今現在、ナルトが迫害対象であることのメリットはないと言えるだろう。
一方、ナルトの現状を改善するためには里の人間の意識改革が必要となり、これには大きな費用と手間がかかる。
また、里の上層部は人柱力としてナルトを里の戦力として組み込むつもりもない様子。
つまり里の上層部にとってナルトの状況というのは改善してもしなくてもかまわないのである。
状況を改善、または悪化させるメリットが双方とも存在しない、故に現状維持、ということだ。
そこでブンブクとシカマルは草の根レベルで少しずつナルトの状況改善を図る計画に出たのである。
先ずナルトの味方となる中核、つまり茶釜家を味方とすることで大人の社会に改善を迫り、同時に子どもの中にナルトの友達を増やすことで大人側にナルトが危険でないことや信用できる人物であることをアピールさせる。
子供側へのアプローチは「めんどくせぇ」と言いながらもシカマルが担当し、大人側の味方予定の茶釜家の説得はブンブクが行うことになった。
というわけでナンブ達の前に、シカマルの綴った作戦がびっしりと書いてある「ジャ○ニカじゆうちょう」を持った息子がいるのである。
「なあ、ブンブクや、その、もうちょっと落ち着こうな」
「えっとそういったばあいは、と」作戦計画書には大人がごまかしてきた場合の対処法も書かれているらしい。
ブンブクは手加減をしなかった。
シカマルからも、時間的余裕を与えた場合、大人のほうが有利になる。故に作戦決行した後は一気に押し切るべし、と念を押されている。
子どもたちの意識改革だけでもナルトの状況は良くなるだろう、しかし、それは長い時間が必要だ。
子ども時代の体験は大人になっても響くものである。
ただでさえナルトには両親がいない。
子どもにとって守護してくれる最も身近な存在がいないのである。
年々ナルトに対する虐待は苛烈さを増しており、当初は蔭口、無視程度だったものがしばらく前から投石、暴行へと悪化していた。
本来ならば保護者である三代目火影がその支えとなり、周囲の悪意からナルトを守らなければならないものを、火影としての激務と、周囲の情報規制、そして何よりナルト自身がヒルゼンに助けを求めないことが、状況の悪化を招いていた。
ナルトは九尾の人柱力である。
そのため、身体能力、特に回復力が異常なほど秀でており、一般人に暴行された程度の傷なら受けたその瞬間から回復する。
そのことが、ヒルゼンをしてナルトへの暴行を気付かせない要因になっていた。
しかし、それは体の傷だけ。
傷ついたナルトの心は人柱力の力で治る訳もなく、未だ涙と血を流しているのだ。
さらに、どれだけ殴ってもすぐに傷が治る、ということが暴行を行う大人たちにとっての免罪符ともなっていた。
あいつは傷なんてすぐ治る、怪物だ、だから殴ってもいいのだ、あいつは木の葉の里を襲った化け物なのだから、私たちにはあれを嬲る正当な権利がある、と。
それがブンブクには許せなかった。
本人に非があるなら、ナルトの自業自得、ともいえよう、しかし、ナルトに何の非があるというのか? 人間に限らず生まれは自分では決めることができない。
生まれただけで悪とされる存在、それを幼いブンブクは認めることができなかった。
ゆえに持って生まれた義侠心と転生者としての知識、経験のすべてを動員して両親の説得にかかったのである。
しばらくの後、疲れたように父、ナンブと母、ナカゴはブンブクの説得攻撃に疲労困憊していた。
シカマルのたてた作戦はどうやら完璧なものだったようで、両親の反論はことごとくつぶされていた。
ナンブは諸手を挙げ、もう降参、という態度を示して言った。
「わかったよ、ブンブク。父さんたちも君たちの計画に乗るのにはやぶさかじゃない」
「じゃあ、「ただしっ!」っ!」
今までのぐったりした態度から急に真剣な目になったナンブに、緊張の度合いを高めるブンブク。
「一緒に計画を作ってくれた人に関してはだれか、とは聞かない。私たちが聞きたいのは、ブンブク、君の考えだ。何故こんなことを始めたのかい? はっきり言ってしまえばうずまきナルトくんはキミにとってちょっとした知りあい、程度でしかないよね。それになぜここまで心を配るんだい? 私たちはそれが知りたいんだよ。」
父、母の瞳は真剣で、じゆうちょうに描かれた策ではなく、ブンブクの考え、本当の気持ちを聞かせろ、と言っていた。
この回答次第ではもしかしたら両親との今までの関係が壊れるかもしれない、そう思わせる瞳だ。
ブンブクはもとより両親にごまかしを言うつもりはない。
ゆっくりと言葉を選んで話し始めた。
「さいしょはね、なんていうか、きょうみがあっただけだったんだ。
どこかほかの人とは違う、なんか僕に近いような、そんな感じがあったんだ。
さいしょにはなしかけた時は、ものすごく怖かった。
あの時はうずまきさんはまわりのおとなから毎日いじめられてたみたいでものすごく気が立ってたんだ。
まるでいつもなぐられてたりする猫みたいに。
でも、なんどかはなしてたりするとぶっきらぼうだけどものすごいやさしい時があってさ、近くのおとなの人に聞いたら『あれがツンデレだよ』って教えてくれたんだ」
「…ちょおっと待ってね、その人はどんな格好してたのかしら?」
「片目かくしてしてエッチな本もってた」
「…オーケーオーケ(カカシちゃんね、後で絞めるべし)」
「もうおっかあ、はなしのこしおらないで。
でね、いっしょに遊ぶとおもしろいし、いろんなあそびかた知ってるんだ、すごいんだよ、うずまきさん。
ほかの子たちは僕がちいさいからっておいてけぼりにすることもあるけど、うずまきさんはめんどうだっていいながらぜったいそんなことしないんだ。
あんまし遊んだことないこたちはわるく言うけど、でもいっしょにあそぶこたちはぜったいにうずまきさんのことわるく言わないもん。
だから、みんながうずまきさんのこと知ればあんなひどいことしないと思うんだ。
だからさ、ぼくもたぶんうずまきさんのことがだいすきだとおもう。
うずまきさんが悲しいかおしたりするのみたくないもん。
だからうずまきさんを助けたいな、って思うのは、たぶんうずまきさんのためだけじゃなくて、うずまきさんがしあわせなら僕がうれしいから、ってのもあると思う。
それに、さ…」
「どうした、ブンブク」
「それに、さ。
僕のなまえは
『福を分ける』って書いてブンブク。
僕はうずまきさんといっしょにいてうれしいから、うずまきさんから福を分けてもらってるんだとおもう。
だから、こんどは僕がうずまきさんに福を分けてあげたいんだ」
ブンブクの両親たるナンブは内心驚いていた。
茶釜ブンブク。
この名前を付けたのはブンブクの曾祖父に当たる茶釜ハガネであり、ブンブクの名を付けた時の台詞が、『誰かかから福を分けもらえるよう、そして誰かに福を分けてあげられるような子に育つように』であった。
両親は微笑み、ブンブクたちの計画に加担することを約束するのであった。
そこからは話が早かった。
子どもたちには子どもたちのネットワークがある。
その情報網を伝い、子どもたちの間にはうずまきナルトを遊び仲間として認める気風が強くなっていった。
大人たちがそれを禁止したとしても、むしろそれは逆効果、子どもというのは強く禁止されると大人に逆らってみたくなるものである。
大人側の理論に破たんがあるならば尚更で、シカマルから大人を言い負かす方法を伝えられた子どもたちにとっては大人をへこませるチャンスでもあった。
子どもたちのなぜなに攻撃に親たちはだんだんとうずまきナルトに対する態度を改めなければならなくなっていった。
そうして一旦ナルトへの嫌悪が収まリ、冷静になると同時に、今まで気づかなかった、もしくは気付かないようにしていた疑問が心中から昇ってくる。
そう、ナルトは危険な「九尾の化身」である。ならば、なぜそのような危険な存在が木の葉の里の中でのうのうと生きているのか。
本来であればどこか暴走しても危険のない地域に「封印」されているのが当然ではないのか。
三代目火影、猿飛ヒルゼンへの里の民の忠誠は高い。
信頼する火影がナルトの保護者でもあり、その火影がナルトを自由にさせているという事実。
もしかしたら、ナルトは九尾の生まれ変わりそのものではない、という可能性に里の人々は気付き始め、それとともにナルトへの暴行は鳴りをひそめていった。
今まではナルトが憎っくき九尾の化身であると思うからこそ、暴行を行うようなガラの悪い連中の行動も見ないふりをしていた。
しかし暴行をふるうことを正しいとおもえなくなった以上、チンピラどもの暴力を見て見ぬふりをすることは普通の心を持った人たちにはできることではなかく、暴行現場に居合わせた人たちから警邏の下忍たちへと連絡が入り、ナルトへの暴行は終息に向かうようになった。
一方大人社会からのアプローチにも変化があった。
茶釜家を経由して、火影直轄の暗部に変化が起きたのだ。
ナルトが四代目火影にして「九尾事件」の英雄「波風ミナト」の息子であることを知る者は意外なことに少ない。
現在主力となっている20代の忍たち、彼らは九尾事件の時、10代であり、詳しいことを聞かされていなかった者も多い。
その当時の事を知っているものたちは当時の状況-ナルトが英雄波風ミナトの子であり、同時に憎むべき九尾を封印した「九尾の人柱力」であること-の複雑さに口をつぐみ、荒廃した里を沈静化するために詳しい事情を話さぬようにかん口令が敷かれてしまった為である。
茶釜家では上層部と掛け合い、暗部の忍たちに「うずまきナルトに関する正確な情報」を通達するように要求した。
現在の木の葉忍軍、特に暗部に関して、ナルトに関する情報の不透明さは各忍にとっての情報の不均等につながっていた。
暗部の忍たちは驚いただろう。
ナルトに関する常識が自分と同僚とでは違っていたのだから。
ナルトに関するかん口令が、この場合現場でナルトを見張る暗部の忍にとって不利な状態となっていたのである。
下手を打てば暗部の中でナルトに関する立場から亀裂が生じる可能性があった。
現場レベルでの意見の相違、その亀裂は組織としては致命的なものになる場合がある、そのため、ナルトに関する諸問題は棚上げされてきた。
ここで調整役を買って出たのが元々木の葉忍軍を下支えしてきた茶釜一族である。
彼らは確かに戦闘能力はみるべきほどのものではない。
それこそしばらく前の雨隠れの里であるなら真っ先に排斥されていただろう。
しかし、彼らは木の葉の里という巨大組織においてに監査、会計、総務など、戦いはしないものの組織を維持するための部署で仕事をしてきた。
組織の中での調停役としては最適だったのである。
そのことも考慮に入れていたたった6歳の少年、奈良シカマル、確かにこの男なれば「後の火影に」と考えるものがいてもおかしくない。
本人は「めんどくせぇ」で終りだろうが。
ともあれ、茶釜一族の総出を挙げた調整により、暗部の混乱は最小限にとどまった。
その後、ヒルゼンのもとにはナルトに関する情報が正常に流れるようになった。
もちろん、「火影様!! ナルトの奴が歴代火影様の顔岩に落書きを!!」といった盛大でしょーもなおもしろいいたずらの情報すら上がってくるようになり、三代目火影・猿飛ヒルゼンの精神的負担はぐんと上がった? のである。
それからブンブクはナルトを茶釜の家に連れてくるようになり、さらにその後には奈良シカマル、犬塚キバなども遊びに来るようになった。
ナルトたちはブンブクと庭で遊んだりするようになり、忍者学校に入学すると、アカデミーで教わった内容や実習で学んだ体術をブンブクにも披露するようになった。
ブンブクも彼らのすることを面白がって、一緒に体を動かすようになり、自然と鍛錬を積むことになった。
特にナルトとキバの動きはブンブクに合っていたらしく、どんどん動きが獣じみてきたのはナンブ達の密かな懊悩となっていたが。
特別上忍の犬塚ツメにも「うちに弟子か養子でこの子よこさないかい?」などと言われてしまったし。
とにかくナルト世代の子どもたちは優秀であり、かつ個性的であったため、ブンブクも多分に影響を受けたようである。
そして現在、ブンブクは1つの術を習得しようとしていた。