NARUTO 狐狸忍法帖   作:黒羆屋

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今回の話において、茶釜ブンブクというキャラクターについて、設定の深い部分が公開されております。
そのことで今までのブンブクというキャラクターイメージが変わる可能性もあります。


第45話

 まさに蛇に睨まれた豆狸。

 そんな感じを受けつつ、僕は大蛇丸さんに話し始めました。

「…まず僕は自分に力がない事を自覚してます。

 大蛇丸さんはこの里の長です。

 その方針に部外者である僕が口を出すのが間違いである事も分かっています。

 それでなぜにここでこんな事を言い出したのか…。

 それはつまり、『気に入らないから』なんですよ」

「へえ…」

 大蛇丸さんの笑みが深くなる。

 ここで引いたら終わりどころか僕の人生が終わる気がする。

 僕は表面上は冷静を、内面的にはガタブルで話を続けた。

「まあ、大蛇丸さんなら予想していたと思うんですけど、僕は『根』とはいっても、うずまき兄ちゃんや自来也さま、綱手さまなんかの影響を受けてるんです」

「そうでしょうね、なんで自来也達は『さま』付けでワタシが『さん』付けなのかはそこはかとなく納得いかないけど…」

 そういや何故でしょうね?

 自分でも何とも分からないんですけど。

 それはさておき。

「大蛇丸さんとしては、自来也さまに影響を受けている僕が『こんなこと許せない!』と言いだすと考えてたと思うんですけどどうですか?」

「そうね、そう考えていたわ。

 そして…」

「僕を打ちのめして格の違い、ここで誰がえらいのか、を教え込ませるつもりだったんだと思うんですよ」

「…若い頃の自来也やうずまきナルトでは思いもつかないでしょうねえ、そう言う事には。

 ほんっと、そつの無い事」

 つまらなさそうな顔をする大蛇丸さん。

「さすがに大蛇丸さんに噛みついて気持ちを押し通すことは僕にはできないんです。

 そもそも僕は『根』の一員としてここにきてますから。

 大蛇丸さんに対してただ反逆して見せるのは立場的にできませんし、そこまで短絡的になれないのが僕ですから」

()()、ねえ」

 大蛇丸さんは先を促す。

 僕の言いたい事程度ならもう分かっているんだろう。

 しかし、ここは僕が言葉を尽くさないといけない所。

 大蛇丸さんもそれが分かっている。

 こういうところはうちの長とか、自来也さまとか、僕とは格が違うと思わされる人たちと一緒なのですよね。

「僕は兄ちゃんたちみたいに十全を手にすることはまず難しいんですよ。

 だから、限定的勝利、を目指すのを常にしちゃってるんですけど。

 まず僕が気に入らなかったのは、牢に入っている人たちの『眼』ですね。

 あれをどうにかしたい、というところから考え始めていたんです」

「アナタ、その前の研究実験棟から様子がおかしかったじゃない」

「おかしいて…、まあ良いんですけど。

 あれはこの里の状況を書類とかから類推していただけですよ。

 一応僕も『根』の一員なので、そう言った情報収集は普通するでしょ?」

「まあ…そうね。

 ワタシも『根』の出身だしねえ。

 木の葉隠れに残っていたら、私があなたの上司だったのかもね」

「そうですね。

 十分にありえたかもしれないです。

 で、続けますね。

 彼らの解放は大蛇丸さんにとってどれくらいの価値があるか、と考えてみたんですけど、そんなに大きな不利益にはならないでしょ?」

「どうしてそう考えたの?」

 大蛇丸さんはまた僕の話を促す。

 なんというか、ベテランの教師と話しているみたいだ。

 たしかみたらしアンコ特別上忍のお師匠様ってこの人だったよね。

 本質的に来る者拒まずの優秀な教育者となりえた人なのかもしれないなあ。

 この人の指導を受けて行き詰ってるのか、うちはサスケさんは。

 天賦の才能がむしろこの際あだになってるのかしらん。

 才能だけでそこまで行けちゃったから、壁を乗り越えるっていう経験が足りないのかもしれない。

 …いかんいかん話がそれた。

「簡単な話です。

 僕をここに連れて来たのは、インスピレーションのブレイクスルー、つまり、自分にない発想を他者から取り込んで自分の閃きの糧とするためかと思いますが、それってここにいる他の者達はその閃きの糧になっていないという事でしょう?

 あくまで彼らは実験の『検体』としての意味しかない」

 大蛇丸さんは皮肉気に口元を歪めた。

 どうやら間違ってはいないらしい。

「ならば、です。

 彼らを『音隠れの里』の組織に組み込んでも問題はない、ということになりませんか?

 当然、彼らは虐げられてきた人たちです。

 反逆しようと考えますよね?」

「そうでしょうねえ…。

 その場合、反逆という不利益はそう是正するつもりなのかしら?」

「一度叩いておけば問題ないでしょう。

 忍は一族が絶える事を殊の外怖がりますから。

 今捕えられている人たちの内、一族の代表と多対一で叩きのめせば、実力の差が分かるんじゃないかと。

 後は、一族の存続を条件に服従を迫れば問題ないと思いますよ」

 …感情を顔に出さないようにしつつ大蛇丸さんに答えます。

 まあ、どうせお見通しなんでしょうけどね。

 まあ嬉しそうなお顔だこと。

 そんなに僕をいじめて楽しいのかしらん。

 ある意味本末転倒なんだよねえ。

 あの牢屋に閉じ込められた人たちを大蛇丸さんの拘束から解き放つために大蛇丸さんに忠誠を誓わせる、と。

 とはいえ、これって僕のわがままなんだよね。

 ああいった絶望しか感じられない瞳、それが僕は好きになれない。

 昔の誰かを思い出すようで。

 だから僕は動こうと思う。

 だから、これは結局のところ僕のわがままだ。

 

 

 

 大蛇丸は結局のところ、ブンブクの提言を受けるつもりでいた。

 環境を変えることはデメリットもあるがそれを鑑みても現在の研究環境を変える必要を大蛇丸は感じていたからである。

 それでも彼は聞いてみたかった。

 茶釜ブンブク、この少年が何をこの世界に望むのか。

 大蛇丸は忍術の天才でありながら、忍の世界に適応できない存在だった。

 先にも上げたが、大蛇丸は幼少時に両親を失い、天涯孤独となっている。

 孤児となり、忍としての適性のある存在は大概の場合、忍里において優秀な手駒として教育を受ける。

 その際、里への強烈な帰属意識、忠誠を刷り込まれるものだ。

 薬師カブトがそうであるし、サイもそうであろう。

 カブトは大蛇丸に、サイはナルトにその刷り込みを解除されており、自分を確立しつつある。

 …カブトの場合は依存する相手が大蛇丸に代わっただけなのかもしれないが。

 大蛇丸の場合、幸か不幸か、担当する上忍が3代目火影・猿飛ヒルゼンだったのが影響した。

 ヒルゼンは大蛇丸に里への帰属意識を強要する事無く、大蛇丸の学習意欲のままに彼の欲する知識を与え続けた。

 ヒルゼンは正しく「教授(プロフェッサー)」であった。

 教師は生徒を導くが、教授は学生の求める知識を授けるのである。

 大蛇丸に人並みの社交性があったならば状況は変わっただろう。

 大蛇丸は元々コミュニティに対する帰属意識が低かった。

 周囲にいるごく少数の人間とのコミュニケーションがあれば、それで大蛇丸は満たされていたのである。

 しかし、その少数に不幸が起きる。

 同僚の慟哭する姿、後輩の亡骸、そう言ったものを見るにつけ、大蛇丸は歪んでいった。

 己のコミュニティから距離を置き、忍術の探求にその天賦の才を費やし始めたのである。

 それが、人間を使った非道なものになるのには長い時間がかかった。

 じっくり、時間を掛けて大蛇丸は壊れていったのである。

 最初は他の里の捕虜からだった。

 実験によって他者の体を乗っ取り、命を繋ぐ「不屍転生」の術を編み出し。

 激闘によって大きく損傷した体を捨て、敵の体を乗っ取り。

 乗っ取った相手に影響を受けたのか、そこから歪みは大きくなったようだ。

 実験に木の葉隠れの里の人間を使うようになり、里では神隠しが頻発することになる。

 そこからの崩壊は早かった。

 師であるヒルゼンに実験施設を発見され、木の葉隠れの里から逐電。

 紆余曲折あり、今に至っているのである。

 結局、忍の世界に大蛇丸は溶け込む事が出来なかった。

 それと同じものを、ブンブクには感じるのである。

 サスケは天才だ。

 大蛇丸の与える知識と技術をスポンジのように吸収していく。

 弟子としては理想的な存在。

 しかし、大蛇丸とは決定的に違う。

 大蛇丸から見れば彼は「血」に囚われている。

 サスケから見るなれば大蛇丸は「自分」しか持たないからっぽの存在、ということになるのだろうが。

 サスケは血族の仇としてその兄を追い求めているが、その為に視野が狭くなり、周囲を見直す事も出来ない。

 当然、大蛇丸の言葉も聞くことはない。

 今のサスケにとって、短絡的に強くなる事、うちはイタチを殺すこと以外は不必要であると切り捨てている。

 その切り捨てたものの中に強くなるための欠片が入っていたとしても。

 大蛇丸は気付いてない。

 そんなサスケを見る度に体の中でほんの少し湧き上がるいら立ち、それはかつて自分がそうであった為であると。

「忍術を極める」為に切り捨てたものの中に、大切なものがあった事を。

 決定的に違っていながら似通った存在。

 サスケと大蛇丸はそのような関係だった。

 それとはまた違う意味合いで大蛇丸はブンブクに共感性(シンパシー)を持つ。

 ブンブクは、言ってしまえば「秩序の破壊者」である。

 既存の秩序、例を上げるならば、うずまきナルトの一件であろう。

 10年ほど前、木の葉隠れの里においてはうずまきナルトを生贄(スケープゴート)とすることで、里人の不満をナルトに集中させ、内政の不備に目がいかないようにしていた。

 これは3代目火影・猿飛ヒルゼンの策ではなく、むしろその取り巻きが行っていた事であろう。

 無論、当時「根」の長であった志村ダンゾウの意が動いていた事は言うまでもない。

 その状態で安定していた木の葉隠れの里をブンブクは打ち壊した。

 うずまきナルト1人の犠牲でまとまっていた里の秩序を破壊する概念を、彼はたった1人で作り上げたのである。

 これは大蛇丸にとっても驚愕すべき事だった。

 大蛇丸にはできなかった事だからだ。

 大蛇丸にとって木の葉隠れの里は旧態依然とした忍社会の象徴だった。

 木の葉隠れの里、そしてその忍組織を破壊する、それが「木の葉崩し」だった。

 古いものを破壊し、新しいものが現れる。

 その為に木の葉隠れを出てから数年、潜入させていた間諜から九尾の人柱力である、うずまきナルトの近況に関する情報が上がって来た。

 その時は誰がナルトの環境を打ち壊したのかは分からなかった。

 

 茶釜ブンブクの名前を知ったのは「木の葉崩し」のしばらく前であったろう。

 最初は気にも留めなかった。

 本格的に興味を持ったのは薬師カブトが接触を持ってから。

 間諜達にブンブクの情報を重点的に調査させて、大蛇丸はこう思った。

 常識と戦う存在だ、と。

 自分が「血」という束縛を嫌悪し、束縛の破壊をもくろむのと同じく、彼は「社会的弱者」という束縛を嫌っているのだろう。

 何処からそんな概念が出てきたものか。

 大蛇丸にとって、面白い存在となったブンブク。

 どうにか手ての内にできないか、そう考えて呼びつけてみたのだが、予想以上だ。

「いいわ、アナタの策に乗ってあげる。

 …代わりに」

「分かってますよ、計画は僕主体で作れ、ってことでしょ?」

 ブンブクは不敵に笑って見せた。

 

 

 

 どーもー!!

 はーいてんしょんなブンブクです!!

 はい、3日寝てません。

 1日1回大蛇丸さんの所に企画書を持って行っては

「論外。 話にならないわ」

 とバッサリ切り捨てられるのが日課です。

 さすがにほぼ2人で1つの忍里を運営するだけの事はあります。

 指摘がとっても苛烈で、その上理にかなってるもんだから僕としてもどうしようもない。

 という訳で、

「んじゃ経理の情報回して下さいよ!!

 そっちがないと企画組めないじゃないですか!!」

「アンタ馬鹿?

 他の里の忍者にそんなもん回せるわけないじゃない!?」

「だーかーらー!!

 それがないと計画があ!!」

 ほぼ毎回けんか腰で言いあって、最終的に僕がアイアンクローで吊り下げられる羽目になる訳ですが。

 昨日はサスケさんがちょいとのぞきに来てたんですが、

「ふぉーざーきーん! ふぉーざーらーん!! ふぉーざーまーんてーん!!! ぃや~っはあ~っ!!!」

 とか仕事の合間に歌ってたのを見て、

「……」

 黙って出て行っちゃいました。

 どーも、一応気にしてくれてるみたいですね。

 がりがり、がりがり。

 いやあ、どんどん筆記用具が減っていきます。

 こんなシビアな現場は久しぶりですよ。

 砂隠れの里でプレゼンやった時以来ですか。

 今回は里の情報が少ないだけに、大蛇丸さんの様子をうかがいながら調整しないといけないので、これまた大変なんですよね。

 まあ自分で言いだした事なんだから責任はとらなきゃね。

 そんな事を考えつつ、筆を動かしていると、

「そろそろ休んだらどうだい?」

 カブトさんから声が掛かりました。

 お茶を淹れてくれたみたいです。

「…おお! おはぎ付きじゃないですか!」

 わーい!

 …いかんいかん、テンションが変な風になってます。

 とはいえ、

「もうちょっとで完成稿にできそうなんですよ、ここんとこの努力の成果がね」

 あと数時間で完成するんじゃないかなあ、だと良いなあ。

「…君もいい加減仕事人間だよね、ボクが言うのもどうかとは思うけど」

 まあ、ボクもカブトさんと似てるからねえ。

 そんな事をぽつりと言うと、

「? ボクが君と似ているって?

 よく分からないな…」

 カブトさんは心底不思議そうに言う。

 まあ分からなくはない。

 僕だって本来のペースなら、そんなことは言い出さないだろう。

 丁度仕事が終わりかけ、みょんなテンションになっていたのが影響しているのだろうか。

 僕はカブトさんの言葉に、

「そうですよ、僕も自分って無かったもんで」

 そう、切り出したのでした。

 

 

 

 木の葉隠れの里にて。

「ナルト君、聞きたい事があるんだけれど…」

 そう切り出したのは新生カカシ班改めヤマト班の構成員であり、「根」から出向してきたサイである。

 彼らヤマト班の3人はは、「天地矯任務」の後、アスマ班のいの、チョウジと共に焼き肉屋へと来ていた。

 様々な話をしながらくつろいでいたナルト達。

 サイは丁度いい機会だ、とでも言うように話し始めた。

「皆も彼の事は知ってるよね」

「? 彼って誰だってばよ?」

 ナルトがそう尋ねる。

「うん、茶釜ブンブク君の事なんだけど」

「あれ? サイってブンブクの事知ってるのかい?」

 もの凄い早さで肉をかっ喰らっているチョウジがそう聞き返す。

「そうだね、まあ色々と話す事はあるよ」

 さすがに「根」に関してはそうそう話すことはできないため、サイはそう誤魔化した。

「んで? ブンブクの事で聞きたい事ってのは?」

 ナルトはそう促す。

 サイはナルトの目を見てこう話し始めた。

「彼が今の彼になった経緯について、聞きたいんだ」

 その言葉に、ナルト以外の面子は疑問の表情浮かべた。

「ねえサイ、それってどういう意味?」

 サクラがそう言う。

 いのやチョウジも同じように聞いてきた。

 ナルトは一瞬何を聞かれているか分からない、という表情を浮かべていたが、得心が行ったらしくポン、と手を打つと、

「ああ、あれなあ、んじゃ今度話してやるってばよ。

 今だとちょっとな…、オレさ、あんまし話うまくないし、変に長くなるかもしんねえし」

 軽くそう言った。

 いのはサイの顔に気を取られており、チョウジは肉に気を取られていた。

 故に、その言葉にナルトらしからぬ調子が混じっていたのに気付いたのは同班のサクラだけだった。

 

「ねえ、さっきのどういうこと?」

 焼肉屋を出て、いの、チョウジと別れた3人。

 サクラはそう切り出した。

「ああ、あれな。

 …しっかし、サイってばブンブクの事、気付いてたんだ」

「そうだね、僕は君達とは違ってそう言うのに敏感だから」

「…その言い方って、馬鹿にしてるように聞こえるわ。

 気をつけてね、サイ」

「うん、気を付ける。

 サクラくんに殴られたくないしね」

 サイの表情に変化はないものの、若干心拍数が上がったように見えたのはナルトの見間違いではないはずだ。

 サイは言葉を続ける。

「僕は、みんな知ってる通り、一度感情を殺している。

 そう言う訓練を受けているんだ。

 それで、そう言った人間ってお互いになぜか分かる。

 例えば薬師カブトがそうだ。

 彼は多分だけど元は『根』だったんだと思う。

 ダンゾウさまの元で使われていた形跡があるから。

 向こうも分かったと思うよ。

 その感覚がブンブク君も僕と同じ、感情の無い人間だった事があるって教えているんだ」

 サイの言葉に反応したのはサクラだ。

「じゃあなに、ブンブクもダンゾウに感情を壊されたって言うの!?」

 サクラにとってもブンブクは弟分だ。

 それに手を出されたというのなら…。

「サクラちゃん、それ違う」

 そう止めたのは誰であろうナルトだ。

「前にさ、ブンブクが話してくれた事があったんだけどさ…」

 ナルトはそう前置きをして話し始めた。

 

 

 

 僕はまあ異常な赤ん坊だったんだと思う。

 なんて言うんだろうな、生まれてきて、生き物として知ってるべき事を最初っから知らなかった、というか。

 僕は木の葉隠れの里の総合病院で生まれたらしい。

 最初はものすごく大変だったっておっかあが言っていた。

 なにせ、息をしているだけで泣かない。

 赤ん坊ってお母さんのおなかの中にいるときは、羊水っていう水の中にいるんだそうで、そこから出た時に肺呼吸に切り替わって、羊水を吐き出す必要があるんだそうです。

 で、ボクはそれをしなかったそうで、お医者さんもおっかあもとっても心配したんだそうです。

 隣で出産をしていて生まれた赤ちゃんの泣き声を聞いて、それから泣き始めたそうですが。

 で、僕は記憶力は良い、というか、赤ん坊の頃の事は特に覚えてるんですが、とにかく周囲の同じくらいの子どものまねばかりしていました。

 おんなじ様に泣き、笑い、食べてウンチして寝る、と。

 そうですね、模倣、です。

 赤ん坊として知っている自然にするべき事、保護してもらう親に笑いかける事、体の動かし方、そう言った人間に本来持って生まれてくるものが欠けていたんだと思います。

 正直、気味の悪い子どもだよね。

 まあ、それに関してはかなりうまくやってたみたいだし、後で聞いたらおっと音おっかあくらいしか気づいていなかったみたい。 

 え? うんそう、すごいでしょ! うちのおっとおとおっかあ。

 かなり気味の悪い子どもだったはずなんだけど、おっとおもおっかあも僕に愛情をくれたんだもの。

 で、1歳2歳となって、外に出るようになった僕は、いろんなサンプル、同年代の子どもですね、の行動をなぞっていった(トレースした)んです。

 その辺りから、子どもとしての違和感がなくなったんでしょうかね、普通にお友達とかできるようになりました。

 そのままいったら、とても人間とは思えないようなものになってたんじゃないですかね。

 なんて言うか、人間社会に潜む怪物、みたいな奴。

 外見は人間なんだけど、内面は人の倫理とか、基本的な考え方が違いすぎて共存できないようなそんなの。

 僕は順調に怪物に育っていっていたんだと思う。

 で、3歳くらいかな、兄ちゃんに会ったのは。

 そ、うずまき兄ちゃん。

 兄ちゃんは凄かったんだ。

 え? どういう意味かって?

 僕はさ、大体同年代の子どものトレース、ああ、行動をなぞるってことね、をしてたんだけど、ほら、2歳とかそれくらいの子どもって比較的単純じゃん。

 転んで痛いと泣く、お母さんが来ると喜んで飛びつく、眠くなったらあくび、とかさ、大人に比べて経験が少ないから真似しやすい訳。

 それは6歳くらいでも変わんないんだよね。

 でも、兄ちゃんは違った。

 多分里を上げての迫害を受けていた為じゃないかと思うんだけど、その行動ってもの凄く複雑だった。

 当時の兄ちゃんって迫害を受けて絶望した眼をしてるのに、行動はやけになるでなく、淡々としてさ、でもどっか今の兄ちゃんみたいに本質部分では熱くてさ。

 当時の僕がトレースしきれない、情報の塊みたいな人だったんだ。

 でさ、僕は兄ちゃんにくっついて歩いていた。

 最初の頃はもうけんもほろろ、って言うのかな、大声でどなられて、追っ払われたりしてた訳。

 でも、ボクが泣くのってモノマネなんだよね。

 小さい子どもが怒鳴られたら、そう反応するだろうっていうデータからくる反応。

 で、次の日にはデータ収集のために好意的な反応を見せつつくっついて歩く、と。

 そんな事をしているうちにどうも僕に変化があったようなんです。

 知識欲、というのかな。

 うずまき兄ちゃんをもっと知りたい、という欲求ですかね。

 多分そこが僕の分水嶺。

 今まで蓄えたデータを組み合わせて兄ちゃんから様々な反応を引き出して、それを自分に組み込んで、そうやって、僕は今の僕になっていったんだと思う。

 そこから僕の世界は広がっていった。

 物まねだけしていた時には気がつかなかった同世代の子どもたちが、なにを考えていたのか、とか。

 ただまねていただけでは分からなかった事が兄ちゃんと関わることで見えるようになってきていた。

 だからだろう。

 兄ちゃんが不幸せなのが僕には許せなかったんだ。

 だから捩じ曲げた。

 兄ちゃんへの悪意をどうにかして払しょくしたい、そう思ったんだよね。

 で、いろいろあってそれがうまくいっちゃった。

 あれは一義に僕の兄ちゃんへの依存心が生んだものだと思ってる。

 そう、カブトさんの大蛇丸さんへの依存とおんなじだ。

 だからさ、カブトさんは僕にとって他人とは思えないところがあるんだよねえ。

 

 

 

「…こんな感じだ」

 ナルトは丁度ブンブクがカブトと話をしている時刻に、サクラとサイに向けてブンブクについて自分が知っている事を話した。

「だからさ、多分サイが自分とブンブクが似てるって感じたのは間違いじゃねえ気がすんだ」

 ナルトの言葉にサイは深くうなずいた。

「そうだね、今の話から考えると、ボクもブンブク君もナルト君の影響を大きく受けてる。

 だからかな、もしかしたら、君達と僕が一緒に動くことになったのは、運命だったのかもね」

 サイも、ナルトやサクラと関わる事が出来たから、絵を描く事が出来た。

「仲間」というタイトルを付けたあの絵だ。

 ナルトはそうやって周囲を変えていくのだろう。

 それはただ力によって相手を従えるのとはまた違う世界を自分達に見せてくれるのかもしれない。

 サイはそう思うのだ。

「…? どうかしたかい?」

 サイがふと眼を上げると、2人は驚いたような顔をしていた。

「いや、お前さ…」

 ナルトがそう言い、

「ホントに自然に笑ってたわよ」

 サクラがそうほほ笑んだ。

 

 

 

 薬師カブトは今ブンブクから聞いた話をどう消化すべきか、悩んでいた。

 長い話であった。

 話しの終わりころで彼は計画書を書き終わり、今はカブトの持って来た渋い茶をすすり、おはぎをうまそうにほおばっている。

 茶の渋さに口をすぼめているところは、普通の子どもと変わらないようにも見える。

 しかし、今の話を信じるならば、彼は精神的怪物として生まれ、人になった、そう言う存在だ。

 そんな事がありえるのか。

 この世界において心理学的な技術を習得しているカブトにとっても全く初めての存在だった。

 この世界において医学は外科的、薬学毒学的なものを除いてはそれほどの発達を望めていない。

 それは医学が忍術と深いつながりがある、というより忍術の一分野としてしか発達してこなかったことによる。

 心理療法的分野においても同じ事。

 心を破壊する術や薬品は作ることが可能でも、それを修復するのは至難である。

 カブトは大蛇丸という絆にすがることで自身の心を再構成する事が出来た。

 しかし、最初から何もない、などという事があるのか。

 自分には壊れた心の断片があった。

 それを核にして大蛇丸という強烈な個性にすがって、なんとか自身を作り上げることに成功した。

 核になる何かなしでそんな事が出来るのか。

 ブンブクの中には自分が知らない何かがあるのだろう。

 そう結論付けるまでにはしばしの時間が必要で、その頃にはブンブクは、

「…くあぁ~、スピー」

 すっかりおねむであり、いつもの間抜けな姿、ブンブク曰く準省エネモードに変化してうとうとしていた。

「…これが僕とおなじ、ねえ」

 カブトは苦笑すると、計画書と茶釜狸をつまみ上げ、大蛇丸の元へと向かうのであった。


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