言ってしまうと前篇。
後編はできるだけ早く上げるようにします。
「肉ぅをおなべでいったっめっ、
塩ぉであーじをつっけってっと」
鶏肉を適当にこまめに切って、でっかい鍋にぶち込んで、同じく鶏皮から炒め煮して出した油でちゃちゃーっと鶏肉を炒めてそれに塩コショウで味付け。
これに水を入れて煮込んでっと、良い出汁が出るんですよねえ。
ジャガイモやニンジン玉ねぎは、今回はちょっと小さめに切って、煮込んだ時原形がかろうじて残る感じで。
小麦粉を軽く炒めておいて、それにカレー粉を混ぜ、更に炒めて香りだし。
ほいでもってそれを少しずつダマにならないようにさっきのシチューに加えると、カレーの完成っと。
いやあ、ガイ師匠に散々作らされた甲斐あって、野営料理は何かそれなりにうまく作れるようになったんですよねえ。
んで、と。
カレーを作ったって事は、ですよ。
「おい、飯が炊けたぞ」
そういうのは灰色の髪の毛を持つお兄さん。
僕より年上の、幻幽丸さんと言う人です。
なんでも元々は音隠れの里を大蛇丸さんが作る前は田の国の有力な忍の一族だったそうで、大蛇丸さんの策にはまって一族郎党捕えられたそうです。
「あーい! こっちもルーは完成でーす!!」
大体200人前以上の出来上がり、と。
「じゃあ、後は配膳ですね、みなさん呼んできてくださーい」
さて、お昼御飯ですね。
なぜこのような事になっているのかといいますと、話は数日前にさかのぼるわけですが。
「いらん。お前の力など借りん」
そう言うのはうちはサスケさん。
大蛇丸さんががサスケさんにに僕を戦術アドバイザーとして紹介した時の事です。
サスケさんは僕の顔を見るなりそう言った。
そりゃもうバッサリと手加減なし。
カブトさんの、
「サスケ君、折角大蛇丸様がさらってきたんだから…」
という言葉にも耳を貸しません。
ってか、僕は誘拐されてきた設定なのね。
サスケさん本人は冷静のつもりなんだろうけど、あきらかに苛立って怒った態度でそのまま出て行っちゃった。
これ、どうしたらいいもんなんでしょうねえ。
大蛇丸さんの顔を見てみるんですけど、
「…この前のナルト君との一件で依怙地になってるのかしらねえ。
意外に意識してたのねえ、あの子」
とりなしてくれるという訳ではない、と。
カブトさんは、
「ボクを見ないでほしいな。
彼、ボクの事、目にも入れてない感じだし」
との事。
さてどうしたもんだか。
僕の任務としては「大蛇丸の手伝い」であったので、まあ、大蛇丸さんのお手伝いをすればいい訳なんだけど、大蛇丸さんとしては、今足踏み状態のサスケさんの「壁」の踏破に一役買ってもらいたかったようなんですよね。
今まで順調だった修行がここへきて躓いている状態。
大蛇丸さんはその原因が分かっているようだけど、多分それは本人が気付かないといけない事。
で、僕というあて馬を使ってサスケさんに自分の問題点を認識してもらおう、という事だったようなのですが…。
「あれはしばらく駄目だろうね。
ナルト君との一件で相当意地になってる。
イタチ以外の事であんなに感情的になってるサスケ君は初めて見るよ」
カブトさんがそう言いました。
なんかサスケさん、精神的な成長、というのかな、年相応の変化、があんまし感じられないのだけれど。
というより、うずまき兄ちゃんに会って、昔の自分が戻って来てるのかしらん。
…その時、サスケさんに感じた奇妙な気配、それを僕はもっと重視すべきだったのでしょう。
サスケさんが精神的に成長していない、というその事象。
カブトさん達も感じていた違和感。
それについてもう少し真剣に考えておけばよかったのにと後悔することになるとは。
その時は思いもしなかったのです。
さて、サスケさんに相手をしてもらえなかった僕ですが、だからと言って大蛇丸さんの膝の上で日がなゴロゴロしている訳にも行きません。
一応なりとも僕は任務でここにきているわけですから。
そう言う訳で、機密に触れないレベルでカブトさんのお仕事のお手伝いをすることになりました。
まあ、早い話が書類整理ですね。
…なのですが。
「!? ちょっとカブトさん! 事務仕事するのがカブトさんだけっておかしくない?」
音隠れの里の組織ってどうやらかなり小さいらしいというのは予想していました。
前の「木の葉崩し」にしても、ほとんどの手勢が傭兵か幻術などによる強制誘導だったとの事。
中枢部分に関してはせいぜいが100人規模程度だろうと
さすがに実質カブトさん1人とは思いもしませんでしたよ。
「…事務仕事を侮るといろいろ大変なんですけどね、大丈夫ですかカブトさん?」
「正直言ってきついね。
とは言え、こういうのを任せられる人材はいないしねえ」
? そうですか?
事務仕事って別に忍じゃなくても出来る人いますし、こういう仕事の適性って戦いとか諜報とかとはまた別の問題だと思うんですけど。
疑問に思ったので、色々カブトさんに聞いてみましょう。
そしてしばらく後。
…うん、この人たちはおかしい、主に凄いという意味で。
音隠れの里の上層部って、実質大蛇丸さんとカブトさんの2人だけでした。
そんなバカな! って言いたくなりましたよ、本当に。
だって、この2人だけで「木の葉崩し」の下準備、実行をしてのけた、ということなわけです。
確かに、忍の小隊をまとめる中隊長とか、実験施設を管理する施設長とかはいるらしいんですけど、ほとんど横のつながりがないんですよ、聞いた限りにおいては。
で、命令を下せるのは大蛇丸さんかカブトさんだけ。
現場の判断ってほぼなしなんだけど、命令系統が単純な分動くのも楽であるって事。
これって上層部の2人にかかる負担がもの凄いはずなんだけど、どうやらそこら辺はほぼ大蛇丸さんが1人でこなしちゃうらしい。
…あの人、人間なのかしらん。
頭とか9個くらいないとおかしいと思う。
なんでも必要になった時は多重影分身で疑似的に並列作業をするらしいんだけど、そんなにたくさん影分身が使えるのは僕の知る限り兄ちゃん位なんだよね。
つまり大蛇丸さんはうずまき兄ちゃんと匹敵するチャクラがあるってことらしい。
さすがに1000人とかは無理だそうだけど、実戦で使うには100はいけるそうだ。
うらやまねたましい。
ぼくなんて1人維持するのがせいぜいだというのに。
カブトさんもそれなりの人数が維持できるとか。
もっとも本人さん曰く、「訓練の賜物」だそうです。
後天的にでもチャクラの総量を増加できるのはうらやましいですよ。
僕はなかなか増えませんので。
まあそれはさておき。
僕は書類整理をお手伝いしながら、カブトさんに事務方の人を雇うメリットを話しました。
とにかく、カブトさんは大蛇丸さんの命を受けて出かけるか、大蛇丸さんと共に行動することが多いのです。
その間、この手の作業は滞る訳でして、拠点に戻った後には書類が山積、と。
それを処理するのもカブトさんなのでお仕事満載、という訳ですね。
少なくとも事務方をちゃんと使うならば、アジトを空けた後でも書類の整理はきちんとしてくれるでしょうし、雑務を行わずに重要案件だけ片づける事が出来ます。
それだけで大分仕事が楽になると思うんですけどね。
下手にカブトさんも優秀で、それ以上に大蛇丸さんが優秀だから凡人を使役して事務処理を行うって言う発想がなかったんですね。
大変ではあるけれども自分たちで処理できてしまうために。
僕は事務仕事の重要性をカブトさんに説きながら、書類整理を続けるのでした。
「さすが、ダンゾウの秘蔵っ子だけはある…のかな?」
薬師カブトはそうつぶやいた。
先ほどブンブクが喚いていたように、音隠れの里の中枢的な業務、事務的な内容に関してはカブトが一手に行っていた。
それがどれだけ異常な事かはカブトは分かっていない。
他の里の行政体系などは知っている訳ではなかったが、効率は悪いもののその能力にあかせて仕事が完遂できてしまうカブトは、かなりなブラックな職場環境にもかかわらずひょうひょうと仕事をこなしていた。
とはいえ、乾坤一擲の大仕事であった「木の葉崩し」が失敗に終わり、その事後処理には大きく時間を割かれることになった。
音隠れの意思決定をする大蛇丸を除けば、そういった事務方をそつなくこなす事のできる人材はカブトしかいない。
呪印の影響が強くなる前の次郎坊や右近ならば可能であったかもしれないが、大蛇丸は彼らの能力を戦闘に特化させるために事務方に組み入れることはなかった。
自我が残っており、かつ事務処理能力のある忍など、音隠れの里には存在していなかった。
そこにやって来たのがブンブクである。
カブトの調査では彼の母親は木の葉隠れの里において忍組織の事務をその生業としていた。
その関係だろうか、ブンブクは書類の分類がかなり速い。
カブトをして感心させるほどのものであった。
まあ、ブンブクの書類処理能力に関しては、ここ数年で散々里の上層部にプレゼンの書類作成などをやらされていた結果でもあるのだが、そこまではカブトも思い至らないようであった。
ともあれ、ブンブクという助っ人のおかげで書類整理は非常にスムーズに進んだ。
その為、カブトは事務方の増員を言うメリットを考慮する気になっていた。
その後、カブトは大蛇丸に事務方の増員を提案した。
大蛇丸としても、万能の手駒であるカブトを雑務に忙殺させるのは無駄が多いと考え直したようだ。
「…で、それはやっぱり」
「はい、茶釜ブンブクの提案です」
「…それは良いんだけど、ちょっとあの子はこちらに踏み込みすぎねえ。
ちょっと脅しをかけておいた方がいいかしら?」
大蛇丸はそう言ってぬめりと笑った。
カブトはぞっとする一方、奇妙な安心感に囚われていた。
これぞいつもの大蛇丸であると。
ここ数年、正確にいえばうちはサスケが音隠れに合流してから、大蛇丸は変わって来たと思う。
サスケとの関わりで、人としての深みが増したというか、より「上に立つ者の品格」が出てきたように思う。
とは言え、それは同時に今まで持っていた「狂気の天才」としての大蛇丸が薄れてきているような気もするのだ。
今まで大蛇丸に従ってきたカブトにとっては何か釈然としないものを感じているのであった。
しばらく後。
「サスケ君があのありさまなのでね、アナタには音隠れの雑務をやってもらう必要があると思うのよ。
とりあえずここの施設を案内するからしっかり頭に叩き込んでちょうだい」
大蛇丸自ら、カブトを伴い、ブンブクを連れまわし、今いる施設の案内をしていた。
いくつか、ブンブクも使っている一般区画を回った後、大蛇丸は実験区画を案内し始めた。
異様な匂いのする廊下を歩いて行く。
薬品の独特な匂いと、人の体臭、体液、腐敗臭のまじりあった何とも言えない吐き気を誘う香り。
そして辿り着いた所は、拷問部屋であると言っても通じそうな場所だった。
壁には血が飛び散りこびりつき、薬品が棚には所狭しと並べられている。
10床程のベッドにはおなざりにシーツがかけられ、その上に拘束された人体が転がっている。
大量の管が付けられ、その脇には大蛇丸、影分身で作られた大蛇丸が全く感情を見せないその目で冷徹に被験者達のデータを収集していた。
「どう、ここがワタシ達の研究施設よ」
自慢気、というよりは皮肉気に大蛇丸が言う。
実際、このような非道な実験は通常の施設ではできないだろう。
そしてその実験結果が各国に流れることで忍術の研究が進む、となればこの場を否定する者とてどうしても声が小さくなるというものだ。
外道の知識がなければ外道に喰い荒されるだけなのが現在の忍界の現実だった。
ブンブクは口元に手を当て、なにかをぶつぶつと呟いている。
それを、大蛇丸は動揺を受けているものとして悦に入った。
こうやって、ショックを与えることでサスケの落ち着くまではブンブクにもおとなしくしていてもらおう。
なに、忍ならば、そして「根」の一員ならばここで人格崩壊を起こすような事もないはず。
大蛇丸とカブトはショックを受けていると見たブンブクを連れて、更にその奥へと足を運んだ。
故に、
「これだと衛生面が、栄養状態はどうなってるんだろう…?」
そうつぶやくブンブクの声を耳に入れることはなかったのである。
大蛇丸がブンブクを次に連れてきたのは、牢獄。
大蛇丸が捕えた実験用の検体を保管しておく区画であった。
すえた匂いが鼻を突き、牢の中では無気力、敵対、絶望の眼をした人々が身じろぎもせず座り込んでいた。
何故ここに大蛇丸がブンブクを連れてきたか。
あくまでもブンブクは木の葉隠れ所属の忍である。
大蛇丸の思惑としては2つ。
1つに彼の発想を自身のインスピレーションの糧とすること。
大蛇丸は忍術研究における天才である。
しかし、同時に1人の人間でもある。
最近実質1人で研究を続けていた結果、発想の転換に大蛇丸は悩まされていた。
物事を多面的にみる事の出来る大蛇丸であるが、同時に突飛な思考は苦手である。
そういったものが得意な自来也とは既に袂を分かたっている。
そこで目を付けたのがブンブク、という訳であった。
2つにサスケの修行の糧とすること。
サスケは若い頃の大蛇丸に似て天才的な理解度を持つが、同じく突飛な感性を持っていないうえに、復讐に目が行き過ぎて視野が狭まっていた。
うずまきナルトの影響を受けているブンブクと接触させることで狭まった視野を広げる事が出来るのではないかと期待をしているのだ。
しかし、音隠れの運営にブンブクが口を出すのはまずいだろう。
今のところ、音隠れの運営は(カブトの懸命の努力により)問題なく動いている。
大蛇丸としては現在、音隠れで行われている研究環境に不満はなく、それを変える必要は感じていなかった。
無論、その下で必死に環境維持に努めているカブトは違う訳だが。
大蛇丸はすでに50年以上生きている。
その中で様々な経験を積んでおり、その中からどうすればうまくいく、といういわば成功体験の体系化を自分なりに形成している。
今現在の状況はその体験から完成させたものであり、現状が維持できるならば確かに部外者に口を出されるのは混乱の元であろう。
その為、大蛇丸はブンブクにくぎを刺す意味で音隠れの里のやり方、つまりは大蛇丸のやり方を見せたのである。
当然、いかに「根」の一員とはいえあの木の葉隠れの里の忍だ、反発してくるだろう。
それを大蛇丸の力でねじ伏せることで言う事を聞かせるのだ。
どちらが上位にあるかを明確にしておく必要があるのだから。
…これで、この子狸に恐れられるかと思うと、大蛇丸としても何か思うところはあるのだが、主に毛玉的な意味で。
大蛇丸はブンブクが黙り込んでいる事に疑問を感じていた。
うずまきナルトの影響、ひいてはあの自来也の影響を受けている限り、この状況を見てなにも言ってこないとは思っていなかったのだが。
耳をそばだててみると、ぶつぶつと何かをつぶやいている。
「さて、材料をどうするか…。
大蛇丸さんだもんなあ、生半可なもんじゃだめだろうなあ…。
でもこのまんまだと破綻は目の前だろうし…」
なにかいろいろひどい事を言っているように聞こえる。
大蛇丸はぬうっと腕を突きだし、ブンブクの頭をむんずと捕まえた。
「あだっ! あたたたたたたたたた痛い痛い痛い痛いっ!!
は~な~し~て~~っ!!!」
足が浮くほどに吊りあげてやると子狸はやっと正気に戻ったようだ。
大蛇丸は忍としても細身な方だ。
しかし、伝説の三忍と呼ばれたその身である。
体術において綱手、総合的な技術では自来也に劣る、とはいえ、幻術と忍術においてたの追従を許さないだけのものはあり、また苦手とする体術においても超一流の上忍ですら太刀打ちできないレベルにある。
小柄な豆狸を吊り下げることなどたやすいものだ。
「ひどいっ! 頭が割れたらどーするんですか!!」
茶釜狸が何か言っているがとりあえずスルー。
「ワタシに何か言いたそうだったからわざわざこっち向けてあげたんじゃないの。
言いたい事があるんでしょ?
面と向かって言ってみなさいな」
大蛇丸はブンブクに顔を近づけてそう言った。
鼻先にある大蛇丸の顔。
大概のものならば、怯え恐れるものだが。
ブンブクは眉間に人差し指を当てて考え込むと、おもむろに切り出した。
「どうでしょう、大蛇丸様。
ここに総合的な忍術の研究機関を立ち上げてしまっては?」
さすがに大蛇丸さんもぎょっとしてるね。
まあ、インパクト重視でやってみてるから、これでとっかかりくらいにはなると思うんだけど。
「アナタ馬鹿? それとも茶釜と同じで中身がからっぽなのかしら?」
…いきなりバッサリ斬られました。
「勢い重視で言うからよ」
読まれてましたね。
さすが、伝説の三忍のうち頭脳労働担当。
ちなみに自来也さまは勢いよく飛び出す役回りで綱手さまは暴走した2人のブレーキ役。
自来也さまが方針を決めて、大蛇丸さんがそれに策を付け、行き過ぎを綱手さまが押さえる、と。
良いチームですよね。
ごっ!
…くおお! 脳が! 脳が揺れる!!
どうも現実逃避をしているのを見抜かれたようです。
拳骨を喰らいました。
「…そお、もう少し目覚ましが必要なのねえ」
ロープ! ロープ!!
ウメボシは勘弁です!!!
両の拳骨に吐息を掛けながら迫る大蛇丸さんから逃れるため、僕は必死に言葉を続けます。
「まずですねえ、研究機関ってのは、大蛇丸さんにも利点があるですって」
「さん付け? …まあ良いけれど。
それで?」
大蛇丸さんは先を促します。
「今の大蛇丸さんの研究環境は、カブトさんの奮戦もあって維持できていますよね。
でも、最近ひらめきが足りないんじゃないですか?」
大蛇丸さんはダンマリを決め込んでいる。
これは肯定、と見て良いのだろう。
これは多分環境に変化がなくなったためではないのだろうか。
サスケさんが来る前、つまりは「木の葉崩し」以前のことなのだけど、音隠れの里には人がもっといたはず。
その人材を全て総動員して「木の葉崩し」に投入したんだろう。
多分なのだけど、その時に、事務方や医療忍者も戦力として投入していたんじゃないかしら、と思う訳です。
大蛇丸さんの行っている研究、なんだけど。
「研究」って、定義すると「物事を詳しく調べたり、深く考えたりして、事実や真理などを明らかにする一連の過程」であるんだけど、つまりはぼくらの知識を集めて、考察、実験、観察、調査なんかを通して結果を出す訳。
その際に、「仮説」を立てるんだけど、やっぱり仮説を思いつくためのインスピレーション、閃きってあるんですよね。
「そうね、それこそが天才の証でもあるわ」
そう、人と違うものの見方をすることで、今まで見えなかった真理をのぞき見る、それが閃き。
でもね、ただ閃けば良い訳じゃない。
それを形にするためには今までの知識の蓄積がものを言う。
閃きを形にするのには試行錯誤と、唐突な偶然があるという。
いろんな人が偶然という言い方をするけど、実際のところは、広く情報を収集、綿密な記録をって、わずかな兆候を見逃さず、いろんな解析とその処理を試せるだけの技術と研究に対する執着を持ち、随時研究の計画にフィードバックされた情報で調整を加える等の事が出来るぐらいに鍛えられた人以外にはまずそんな偶然は起きないものです。
大蛇丸さんはそれが起きるであろう数少ない人なのだろう。
さっき見せてもらった書類からも、かなりの数の発見がさまざまな所に売られているようだったし。
そう、大蛇丸さんたち音隠れの里の軍資金ってどこから出てるかと思ったら、大蛇丸さんの研究成果を他の里に売ることで捻出しているらしいんだよね。
てか、実質大蛇丸さんとカブトさんだけで1つの戦闘集団の運営資金ねん出してんのか、とんでもないよね。
本来だったら何十人ものスタッフを抱えてやっと大蛇丸さんの研究1つに足が届くかどうか、ってところなのに。
で、今大蛇丸さんに足りていないのは情報の収集、だと思う。
「…それならしっかりやってるわよ?
アナタをここに呼んだのもその成果だし」
…そう言う意味じゃないんですけどね。
この場合の情報収集ってのは、無意識レベルのものも含むってことです。
誰かほかの人との接触、会話、ふとしたしぐさ、とか、本来ならば情報としては役に立たなさそうなチップ。
そう言ったものから研究の糧になりそうなものを見つけるアンテナ、とでも言うのかな、それを大蛇丸さんは持っているはず。
で、大蛇丸さん、つまりは受信側は問題ないけど、問題になるのは送信側じゃないかと。
「…つまり、ワタシの閃きの糧になる情報が少ない、という事かしら?」
イグザクトリィ。
さすがに話が早い。
研究をチームで行うメリットは、互いが互いに影響を与えあい、研究を行う上での
「さらに言うと、だんだんと研究環境が悪くなっているのが見て取れるんですよ」
「…それはどういう意味かしら?」
そろそろ、カブトさんだけでは手が回らなくなっているのではないか、と。
さっき見た実験棟なんだけど、拷問部屋と見紛うような状態だったし。
という事は清潔が保たれていない、ということ。
多分だけれど、しばらく前の「天地橋」での一件で、カブトさんに負荷がかかったんじゃないかと思う。
カブトさんは様々な役割を1人でやってるけど、結構ぎりぎりなんじゃないかなあ。
だから、その他にお仕事が入るとどこかにひずみが来る、と。
今後、大きな作戦を行うことになると、そのひずみはさらに大きくなって、いつか決壊するんじゃないかな、と。
どうも、説得材料に欠ける論法なんだけどね。
本来だったらしっかり資料を用意してプレゼンしたいところなんだけど。
大蛇丸は驚いていた。
大蛇丸とここまで論理的に話のできる相手はいなかった。
こと、大蛇丸の意見を否定するような立場の者は。
大蛇丸にとって、他の忍はあまりにも「血」に縛られ過ぎていた。
早くに親を亡くしていた大蛇丸にとって、血族を極端に重視する周りの忍達は、「自分達の所属は里ではない、家なのだ」と言っているように聞こえていた。
確かに血継限界など、一族にしか伝わらないものもあるだろう。
しかし、一族秘伝など、大蛇丸からしたら愚かしいことこの上ない。
知識は共有してこそ発展するのだ。
自分達だけでため込むなど、知識の死蔵でしかない。
そこから先の進歩など望めないではないか。
それは忍術の知識を知識として認識している大蛇丸と、己の身の武器として認識している血族を持つ忍との認識のずれであった。
知識の死蔵。
それは大蛇丸にとって許しがたいものであった。
その知識さえあれば、解決できていた事もあったろうに、そう考えた事もある。
すでに大蛇丸の意識に上ることはない昔の事。
まだ現役であった猿飛ヒルゼンと、墓を詣でた時に見た白蛇の抜け殻。
それは永遠の象徴。
そして守るべき戦友、後輩達の死。
死すれば全ては消え去る。
その強烈な思い。
忘却の彼方へと消えたそれは大蛇丸の無意識に根を張り、大蛇丸の行動原理にすら昇華されていた。
知識を制する事、それは全ての命題を解くことに等しい。
今の大蛇丸は「知」に打ち勝つ事をその行動原理としている。
しかし、大蛇丸が本当に求め飢えるもの。
それは「知を制することに狂った」大蛇丸本来の魂が求めてやまないものなのかもしれない。
ブンブクは大蛇丸にとっても初めての論客だった。
この世界においては聴衆に理解がしやすいプレゼンの手法はまだ確立されていない。
聴衆、ブンブクにとっては大蛇丸、は知識もあり、理解力も高い相手である。
ブンブクは全力で大蛇丸へ「忍術の研究機関を立ち上げる」ことへのメリットのみならずデメリットも説明していた。
何故デメリットまで伝えたか。
大蛇丸はブンブクよりも経験、己で習得した知識の量においてはるかに上位の存在である。
ブンブクの提案に都合の良い事のみを告げたところですぐに論破されるであろう。
なれば、利益不利益を全て提示して、大蛇丸の知識に傾ける情熱に賭けた方が目があるとブンブクは考えたのである。
ブンブクの提示したものは、メリットとしては雑務、事務作業の1人当たりの作業量の低減、複数の人間での議論による多面的な思考と論の深化。
デメリットとしては人数が増えることによる隠密性の低下、反乱の可能性であった。
さて、ここまで熱弁をふるいましたけど、大蛇丸さんとしてはどうなんでしょうかね。
「…話は分かったわ。
確かに悪くない。
数年前まではそれなりの規模だったんだしね。
別に人が増える分には問題ないし、その増員分を今捕えてある『検体』共にやらせるという案も良いわ。
ワタシも何人か非合法の研究をして里を逃げだした連中や、手違いで里を追放された医療忍者を知ってるから、彼らを取り込めばかなりの技術力になるしね。
足りなくなった検体は山賊どもを狩りだして補充、もしくは単純に購入、と。
ワタシとしては試してみても良いと思うわねえ。
でもねえ…」
大蛇丸さんは僕の方をいわく有り気に見ている。
…まあそう言う事なんだろうなあ。
「この提案で僕が何を手に入れるか、ですかね?」
大蛇丸さんはにんまりと笑うと、僕に顔を近づけてきた。
「そう。
アナタにここの暗い部分を見せたのは、もう少し大人しくしていてほしかったから。
ダンゾウの部下にひっかきまわされるのはいやだもの。
それはアナタも分かってるわよね。
でもアナタは動いた。
それはなぜ?
ワタシやカブトの心配をして、なんて言い訳通じると思ってないでしょうね?
話しなさい、茶釜ブンブク」
そう大蛇丸さんは僕を問い詰めたのです。