NARUTO 狐狸忍法帖   作:黒羆屋

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ここから新展開です。
オリジナルのお話になります。
今回はいくつか、独自解釈、オリジナル設定などが入ってきます。


第2章 音隠れ編
第43話


 うつらうつら。

 ども、半寝ぼけ状態の茶釜ブンブクです。

 どうもね、そろそろ本格的にボクの体は身体機能を修復にかかっているらしく、そっちにかなりのリソースを取られているようなんです。

 で、頭に霧がかかったようにぼんやりしている、と。

 ダンゾウおじいちゃん、じゃなくって元5代目さまから何か指示があったようなんだけど、どうもはっきり思い出せない。

 まあ、思い出せないってのはしょうがないよね。

 …ぼんやりしてると誰かに頭をなでてもらってるみたいだ。

 ちょっとひんやりする感触が気持ちいい。

 なんだろう、この絶妙な加減、というんだろうか。

 なんか、もっとなでてほしかったり。

 むう…、何か頭がはっきりしない。

 眠い…。

 

 

 

 音隠れの拠点の1つで、大蛇丸は今まで誰にも見せた事のないような、奇妙な顔をしていた。

 うれしいような、情けないような、腹立たしいような、そう言った感情の絶妙なブレンドをされた無表情。

 大蛇丸の片腕として様々な仕事(雑務とも言う)をこなす薬師カブトはあまりの気味の悪さに近寄るのを躊躇していた。

 とはいえ、音隠れの全ては大蛇丸の判断を仰がなければ何も始まらない。

 意を決して、カブトは声をかけた。

「…大蛇丸様」

 瞬時に表情がいつものどこか皮肉げな顔つきに戻った大蛇丸は、椅子に腰かけたままカブトに振り向いた。

 その佇まいは正に悪の帝王、と言うにふさわしい雰囲気を醸し出していた。

 ただ一点。

 

 半寝ぼけ状態の子狸茶釜をその膝に乗せてかいぐりかいぐりしていなければ。

 

 これがペルシャ猫とか、豹とか虎とかを侍らせている、というのなら様になるだろう。

 片手にぶどう酒とか麦酒とかのグラスをくゆらせているとなお可。

 時々「む~、にゅ~」とか、奇声とも鳴声とも何ともつかない寝ぼけ声を出す珍獣を膝に乗せている大蛇丸は、とてつもなく、シュールだった。

 座っている椅子も全く飾り気のない事務用だし。

 部屋も、豪勢でもなければ薄気味悪くも…ある。

 壁際の棚には標本のホルマリン漬けが飾られ、本棚には忍術やその他の専門書がみっしりと詰まっている。

 机の上には様々なところから合法非合法を問わずかき集めた資料、そしてそれを分析した結果などが所構わず置かれている。

 有り体に言ってしまえば学者の研究室だ。

 もーすこしふんいきがあってもいーんじゃないのかなー。

 一見冷静でいながら、カブトは実のところ大蛇丸のあり様にかなり動揺していた。

「カブト。

 何か…」

 大蛇丸がカブトに向かって話そうとした時。

「に~…」

 茶釜狸が大蛇丸の手にその顔をこすりつけた。

 大蛇丸の手がワシワシとせわしなく動き、狸の喉を撫であげ、頭を撫でる。

 ひとしきりなでられるのを堪能したらしい狸はそのまま膝の上で丸くなった。

「…あったかしら」

 そして大蛇丸はなにもなかったかのようにカブトに向かってそう言った。

「…はい、定時報告が各里のスパイより上がってきました。

 まず火の国ですが、…」

 カブトは様々な場所にはなっている音隠れの間諜達からの連絡をまとめ、大蛇丸に報告をしていった。

 カブトは大蛇丸の、忍術の研究者としての優秀さとその執着、存在の確かさに憧れ、彼になりたい、無意識のうちにそう考えている。

 しかし、カブトの知らなかった大蛇丸の一面、それは人の多面性をカブトに教えてくれていた。

 …こんな形で知りたくはなかった。

 新入りはやたらと態度が大きいし。

 しかも恐ろしく強い。

 ここのところ、なにかボクは彼に便利屋扱いされている気がするし。

 最近めっきり愚痴の多くなったカブトであった。

 

 

 

 大蛇丸は上機嫌だった。

 ダンゾウから借りてきた子狸が予想以上の外拾い物であったためである。

 大蛇丸は「暁」の情報及び、いくつかの外道・非道な実験の結果をダンゾウに渡すことで、しばしの間茶釜ブンブクを木の葉隠れの里から借り受けるという対価を受け取っていた。

 ブンブクが木の葉隠れの里において、いくつか忍術の画期的な運用法や、術に関してのアドバイスをした、という事は大蛇丸の情報網にも掛かっていた。

 こと、秋道一族の秘術である「倍化の術」の強化案は大蛇丸をして驚くような効果を得ていた。

 元の「倍化の術」から威力が跳ね上がったという訳ではない。

 しかし、元々この術は身体に大きな影響を与える術であり、その負担は他の一族では習得できないほどの反動がその体にかかるのだ。

 術の身体への負担を減らすために、秋道一族は総じて大食らいだし、肥満体、そして全体的に内臓が丈夫なのである。

 術の行使で大量に消費されるカロリーを効率よく蓄えるために、彼らは太りやすく、そして消化の能力が高く、大量に糖分や資質を貯蓄できる体となっていた。

 それが、ここしばらくで変化が起きていた。

 未だ、秋道の一族はいわゆる「デブ」と呼ばれる体型のものばかりだ。

 ところがその肥満体形に変化が訪れていた。

 より筋肉質に、スポーツでいうとプロレスラーや力士の体型に近くなっていっているのである。

 当初、大蛇丸はその変化を疑問に思っていた。

 秋道の術は体脂肪をチャクラに変換するものである、そう考えていたためだ。

 ところがである。

 ひそかに入手した資料には、秋道一族の術を使用した際の継戦能力の高さが見て取れた。

 自分が忍術に関する要諦を知らない、その事は大蛇丸を怒らせるのと同時に、知識欲の刺激となった。

 大蛇丸はなりふり構わずに情報を集め始めた。

 それこそ対価をどれだけつぎ込んでも。

 そして、ダンゾウとかなり不利な交渉をした結果、秋道の一族に施された術強化の方法、その行程と結果、そこに使われて基礎知識を入手することが出来た。

 おかげで大蛇丸の開発した術はかなりの数がダンゾウを介して木の葉隠れの里に流れたのだが、それは大蛇丸にとってどうでもいいことだった。

 その資料を見聞、解析した結果、大蛇丸は現代の発想からはみ出したものがこのプロジェクトに関わっている事を突きとめた。

 やっかいな。

 大蛇丸のその時の思いはこうだった。

 身体能力、術の行使能力だったら問題はない。

 幻術でも、脅しでもその能力を大蛇丸のために使わせることは可能だ。

 しかし、欲しいのはその発想。

 大蛇丸はそれがチートじみた「前世の知識」から来ているものだという所に思い至る事はなかった。

 そのため、下手に手を出してその人物の心理や精神状態に変化を付けてしまう事を恐れた。

 自分が下手にその人物の人格に手を加えて、発想を捻りだす力を潰してしまったら…。

 調査を続けていった大蛇丸はさらに厄介な事を知る。

 その発想の持ち主は茶釜ブンブク。

 今では木の葉隠れの里の諜報組織「根」の次期長官と目される少年であった。

 かつてはともかく、今では周囲に護衛が常時いる事だろう。

 実際はそんなんことはないのだが、忍の常識に縛られている大蛇丸はそう考えた。

 大概の忍はそう考えるのだが、ダンゾウはその裏をかいたともいえるのかもしれない。

 実際のところはただのスパルタ教育である。

 仕方なしにダンゾウと連絡を取り、更に幾つかの不利な条件でブンブクを借り受けることにした。

 もっとも、今現在ブンブクはあの飛段との戦いで重傷を負っており、その傷を癒すためにこの小動物のような珍妙な姿へと変化しており、更には意識レベルも低下気味だ。

 今一つ役に立たない状況で貸し出され、しかも本人に影響を与えるような術は使えない、と来ている。

 借り受けた最初の頃、大蛇丸はダンゾウにだまされた感満載であった。

 何とか意趣返しを我慢していた時の事である。

 

「…なんなのよ、この毛玉茶釜」

 優雅にお昼寝中のブンブクを見て大蛇丸はぼやく。

 手のひらサイズ、というには少々大きいかな、程度の茶釜、それにそれ相応のサイズの狸の頭、手足と尻尾が付いている意匠。

「むぃ…」

 時々奇妙な鳴き声を出すと、おててやあんよ(としか表現のしようがない前足と後足)をぴくぴくと動かし、尻尾をふわりと振る。

 年頃の女の子(一部例外あり)なら「かわいい!」とか言うのだろうが、大蛇丸はいいい年した壮年だ。

 さすがにそう言う事はなかった。

 とはいえ、触ってはみたい。

 なんの気なしにブンブクの頭に手を伸ばすと、

「んみ…」

 ブンブクが鼻面を大蛇丸の手にこすりつけてきた。

 小動物特有のちょっと高めの体温が大蛇丸の義手に感じられた。

 大蛇丸の腕は元々の自分の体を改造、傀儡化したもので、忍術の使用に支障がないよう生身の腕と同じ精度の触覚も備えていた。

 驚いた大蛇丸は手を引っ込める。

 実のところ、大蛇丸は大概の生き物に好かれない。

 大蛇丸の内在する蛇の性に反応でもするのか、気配を消していない時の大蛇丸は、子どもの頃から小動物に避けられる傾向にあった。

 おかげで子どもの頃は犬と遊ぶ自来也や、猫を撫でている綱手を見る度、気にしていないつもりではあったが、やはりどこかうらやましく思うところがあったように思えた。

 大蛇丸はひっこめた手をおずおずと出した。

 狸の頭に触れる。

 子狸茶釜は多の小動物のように毛を逆立てるでもなく、逃げるでもなく、大蛇丸に撫でられるに任せている。

 ときおり、「んにゅ…」とかピクリと動くたび、手をびくっと引っ込める大蛇丸。

 元来、子どもとか、小動物に触れる経験の少なかった大蛇丸である。

 とはいえ、意外に面倒見は良いようだ。

 少なくとも子どもの頃のみたらしアンコ特別上忍には大分好かれていたようであるし。

 大蛇丸は飽きることなくブンブクをモフり続けていた。

 

 そしてブンブクの定位置は大蛇丸の膝の上になった。

 

 

 

 はて?

 ボクはなんでこんなことになっておるのでしょうか?

 覚醒した僕の意識は、ちょっと混濁気味です。

 ちょっとひんやりする手が僕の頭を撫でてて気持ちいい…。

 じゃなくて、ええっと、確か…。

 そうそう、お昼寝中に、志村のおじいちゃん、じゃなくて、ダンゾウ様が来たんだよね。

 で、

「お前に任務を与える…」

 で、大蛇丸さんの所に出張、と。

 ううん、やっぱり「根」はえげつないなあ。

 里襲撃の首謀者ともつながりあるんだね。

 この分だと「暁」とかともありそうだ。

 …とはいえ任務は任務。

 今回の僕のお仕事は、大蛇丸さんの研究のアドバイス、と。

 …できるかな?

 なかなか難しいよね。

 そう言えば、寝ぼけてなんか言ったような気もしなくもないけど…。

 僕は大あくびを1つ。

 そして大蛇丸さんの膝から飛び降りた。

 大蛇丸さんの前に降り立った僕は、ぼうん!、という煙と共に人型に戻った。

 人型に戻った僕は、大蛇丸さんの前に片膝を突き、

「僕は木の葉隠れの里、「根」が1人、ブンブクでございます。

『根』の長より大蛇丸様の手助けをするよう言いつかっております、よろしくお願いいたします」

 そう、名乗りを上げた。

 どんな時でも友好的にいくにはまずは挨拶だよね。

 大蛇丸さんは手をワキワキとさせた後、

「ふん、ダンゾウの所は礼儀をしっかり教えるようにしたのね。

 この前来たのは本当に礼儀知らずだったわ…」

 あ、それって「サイ」さんのことですかね。

 ひと悶着したって兄ちゃんから聞いてますし。

「まあいいわ、アナタはワタシの問いに答えていくだけでいいわ。

 ワタシの欲しいのはアナタの飛び抜けた発想なのだから」

 むう、大蛇丸さんの期待するものなんてそんなに持ってない気がするんだけど。

 そう考えていると、体勢がぐらりと傾く。

 ありゃ、まだ回復が不十分だったかな?

 体の外っ側は完治してるんだけど、内側に溜まったダメージは完調には程遠いらしい。

 そのまんま地面に倒れようとしていた僕だけど、ひょいと襟首を掴まれ、持ち上げられた。

 …大蛇丸さん、なんというか、僕は猫の子じゃないんですけど。

「そうね、子狸だものね」

 それも違います。

「…カブト」

 大蛇丸さんがそう言うと、すっと薬師カブトさんが現れます。

 …かなり隠密に長けているみたいです。

 身のこなしがかなり良い。

 戦闘をするよりどう逃げきるかを考えた動きですね。

 僕と方向性が似てるようです。

「お呼びですか?」

()()の治療をしときなさい。

 内臓系に結構な負傷が残ってるようだわ」

 おお、そこまで分かるんですか!

 流石は伝説の三忍のお1人だけあるんだなあ。

 そんな事を考えつつ、僕はカブトさんに首根っこを掴まれて、猫のように運ばれていくのでした。

 

「呆れたものだね、よくもまあここまで…」

 カブトさんに診察してもらったのは良いんですが、お説教受けちゃいました。

 いや、僕としても言いたい事はあるんですよ。

 あのまんま準省エネモードで生活していればもう後2週間くらいで完治したはずなんです。

 それがですね、とある事情でチャクラを消費しなくちゃいけない事になりまして、それで、回復が遅れてるんですって。

「あのね、そういった芸当が出来る人は限られているんだ。

 例えば6代目火影の『創造再生』なんかがその典型だね」

 ? そうぞうさいせい? 聞いた事無い術ですね。

「…そうか、君は知らないんだね?

 ダンゾウの後継と聞いていたからいろいろ知っているものだと思っていたんだけれど」

 …長の後継かどうかはともかく、僕はまだまだ下っ端ですからね、実力も地位も。

 だから、知るべき事でないなら知る必要はないんですよ。

「…君くらいの年齢だと、もう少し背伸びしていても良い頃だと思うんだけどね。

 サスケ君が君の事を『年齢詐称』って言うのが分かった気がするよ」

 …またそれか。

 サスケさんめぇ、しまいにゃ泣くぞちくしょい。

 年下を泣かせた罪悪感に苛まれるがよい。

 あ、そ言えば。

「ねえ、カブトさん。

 サスケさんってどうなの?」

 僕はそう尋ねてみた。

 兄ちゃんから聞いた限りだとサスケさん、かなり強くなってたみたいだけど。

 僕が尋ねると、カブトさんは難しい顔をした。

 しばらくして、カブトさんは話し始めた。

 もちろんその間、治療の手を止めることはなかった。

 さすがに優秀だよねえ。

 この手際の良さはシズネさんに匹敵するくらいじゃないだろうか。

 確かに医療忍術に使用するチャクラの微調整、チャクラのコントロールは若干シズネさんの方が上手かも。

 でも、細かなチャクラの使用法の切り替えはカブトさんの方が断然と言っていいほど上だ。

 これは術の技量とかではなく、判断力の問題。

 多分この人はチャクラの量ではなく、使い方がうまいのだろうなあ。

 シズネさんは術を使用するとき、脳内で使う術の順番を決めて使用している。

 もちろん不慮の事象の時はすぐさま他の術に切り替えるのだろうけど、カブトさんはその切り替えが異常に早いと思う。

 こういう人は一芸のみならず、もの凄く多芸なのだろうと想像できる。

 僕の目指す忍の到達点の1つと言えるんだよね。

 さて、カブトさん曰くだけれど。

「…今、サスケ君は伸び悩んでいるようです。

 その為に君をアドバイザーとして呼んだようですよ」

 とのこと。

 はて?

 サスケさんってば兄ちゃんとサクラ姉ちゃん、僕の同僚のサイさん、担当代理のヤマト上忍をまとめて相手して勝ったって聞いてますけど?

「明らかに上忍含めた4対1で勝つのって強いってことじゃないんですか?」

 カブトさんは、

「まあ、ナルト君達から見たら、そうだろうね。

 でも、サスケ君からしたらそうでもない、ってことさ」

 …ふうむ、結構ぎりぎりの戦いだったって事?

 そうなると、意外だけど勝敗のきっかけになったのはヤマト上忍かな?

「! 正解。

 サクラ君が突貫した時にテンゾウさんが割って入ってね、サスケ君に斬られてしまったんだよ。

 あそこで勝負が付いちゃったね。

 あれでナルト君とサクラ君が動揺してくれてね。

 あのまま2人にうまく連携を取られていたらまずかったね。

 ボクの見たところ、サクラ君はあの『病払いの蛞蝓綱手姫』の直系の弟子である医療忍者だ。

 綱手の教えを受けた彼女がおとなしく切られて倒れるとは思えない。

 多分何らかの方法で傷を治癒、もしくは一時的にしろ無効化してサスケ君を抑え込んだろうね。

 そうなればナルト君の螺旋丸でサスケ君は倒されていたかもしれないね」

 …まあ、心当たりがあるけど。

 なるほど。

 差をつけたと思っていた兄ちゃんに、意外に実力差が詰まっている事に気付いちゃって、と。

 しかし、サスケさんだったら、復讐一本槍だと思っていたんだけど。

 予想以上に兄ちゃんたちはサスケさんにとって大事だったんだなあ。

 どうでもよかったらそんなに気にしないだろうし。

「しかし、ナルト君の動きはよくなっていたね。

 特にあの螺旋丸のバリエーションは凄かった」

 あ、あれ使ってたんだ。

「同時にナルト君らしくない、とも思ったけどね。

 彼はチャクラがあふれるほどにある。

 サスケ君もそうだけど、そういう忍はチャクラを温存するような戦い方は、少なくとも何かきっかけがないとしないからね。

 …あれを彼に教えたのは君かい?」

 やっぱり分かるもんなんだなあ。

 まあ、兄ちゃんの場合、長期に師事したお師匠さんが自来也さまだからなあ。

 あの人も大蛇丸さんほどではないにしても圧倒的なチャクラを持ってるし。

 あと、何かよくわかんない気配もさせてるから、更に隠し玉があるんだろうと推測できるんだよね。

 それはさておき、

「そうですね、初めて螺旋丸を見せてもらった時にちょこっと考えて、兄ちゃんと話をしましたね」

「じゃあ、あのサクラ君の豹変ももしかして君かい?」

 はて?

 姉ちゃんの豹変って、あ、あれかなあ。

「多分それは元々姉ちゃんの持ってるものを活かしてみたらって言っただけだと思いますけど…。

 後は幻術対策に使えるかもって」

 カブトさんは頭を抱えて、

「いや、ホントにね、勘弁してほしいよあれは」

 …いったい何があったんですか?

 

 

 

 閑話 その時何が起こったか

 

「…だから今度は、

 オレの気まぐれで、お前は命を落とすんだぜ」

 それは天地矯にて大蛇丸と戦い、その後、音隠れの秘密基地に侵入したナルト達がサスケと邂逅した時の事である。

 幻術を使った瞬身の術で木の葉勢の懐に入り込んだサスケ。

 すらりと宝刀である「草薙の剣」を抜き放った。

 それにいち早く反応したのは「根」に所属するサイ。

 こちらは体術を使った瞬身でナルトとサスケの刃の間に割り込み、サスケの腕を抑えた。

 それをサスケの隙と見て、ナルトはサスケの腕から抜け出ると同時にその腕関節を決めにかかろうとし。

 次の瞬間サスケの腕を蹴り、大きくサスケから距離を取った、そして、

 バチチチチッ!!

 鳥が何百、何千と鳴くようなけたたましい音と共に、サスケの周囲に雷が舞った。

 サスケが「千鳥」を更に形態変化させ、己の周囲に雷を纏う術、「千鳥流し」である。

 サイが弾き飛ばされ、ヤマトの繰り出した捕縛のための木遁が黒焦げになる。

 サクラは一瞬そこに介入する機会を失った。

 しかし、ナルトが体勢を立て直し、サクラとアイコンタクトをして同時に踏み込んだ。

 ナルトの攻撃とサクラの攻撃を重ね、サスケの動きを封じるつもりだ。

 ナルトが「螺旋丸」を練り、サスケに叩きつけようとする。

 しかし、

 がっ!

 ナルトの螺旋丸はサスケの草薙の剣に受け止められていた。

「無駄だ、その程度の攻撃ではオレの剣は折れ…」

 サスケの言葉はさらなる衝撃で中断させられた。

「この程度の攻撃、だとぉ!

 んなら更にのっけたらどうだぁ!!」

 サスケは繰りだされたナルトの手を見た。

 一指。

 人差し指のみがサスケの草薙の剣に突きつけられている。

 

 その切っ先、指の先に通常の螺旋丸よりもふた回りほど小さい、しかし強力な力の塊が存在していた。

 そして、草薙の剣にかかる圧力が跳ね上がった。

「中指の分も乗っけてやるってばよ!」

 二指。

 ぎしり、と草薙の剣が軋む。

 更に、薬指、小指の螺旋丸が剣に叩きつけられる。

 ミシミシと軋み、それでも主に危害を加える者を弾くべく、剣は螺旋丸を弾き返す。

「受けきったぞ、ナルト…」

 内心の動揺をおくびにも出さず、サスケは一見無表情に言う。

 これでナルトの攻撃は受けきった、

 次はサクラを…、そう考えたサスケ。

 ナルトの表情をちらりと見て、

「!?」

 ナルトは不敵に笑っていた。

「なあサスケ、腕って2本あんだよな…」

 ナルトは左腕を振りかぶって、

「喰らえ!

 これが『八連螺旋丸』だあっ!!」

 時間差で4指の螺旋丸を剣に叩きつけた。

 通常の螺旋丸なれば草薙の剣は十分に受けきれた。

 しかし、時間差を持って叩きつけられる8つの螺旋丸。

 1つ1つの力は元々の螺旋丸を下回る。

 込められたチャクラの量は通常の遥かに下。

 圧縮率は最初期の頃の螺旋丸と同等の代物だ。

 しかし、威力は低下するが、それが8回、順番に叩きつけられればどうか。

 一撃ではなく、連撃の衝撃は草薙の剣をたわませ、

 ギャリン!

 音高くへし折った。

「なに!?」

 それと同期したサクラが拳を構えて突貫してくる。

 綱手仕込みの力の集中(ばかぢから)がサスケを襲おうとする。

「! …『写輪眼』!!」

 サスケはサクラの目を覗き込み、幻術を使った。

 うちは一族の写輪眼による瞳術を使用した幻術だ。

 これを解除するのには手間がかかる。

 幻術にかからないようにするのは至難の業だ。

 サスケの幻術に対抗できそうなのは、この中では上忍のヤマト位なものだろう。

 目に見えてサクラの動きが鈍くなった。

 これでまずはナルトを…、

 そう思った時、

「…ん~っ、しゃー!んなろぉー!!」

 どう聞いても「雄叫び」としか聞きようのないサクラの咆哮が周囲の空気を振動させた。

 それと同時にサクラが「猛突進」としか言いようのない突撃をしてくる。

 地面を蹴立てて突っ込んでくるサクラに、サスケは表情には出さないものの久々に「恐怖」を感じていた。

 しかたない、傷付けるつもりはなかったのだが…。 

 サスケはへし折れた草薙の剣にチャクラを送り込んだ。

 サスケの草薙の剣は大蛇丸より一振りを譲り受けたもので、サスケ用に調整されたチャクラ刀である。

 それはチャクラによって刃を構成する事の出来るもので、へし折れていたとしても長さが変わるだけで刺突は可能なのだ。

 その切っ先をサクラに向けて、

 どすっ!

 それは割り込んできたヤマトの肩口に突き立った。

「その防ぎ方…、

 失敗だったな」

 鋭利な切っ先は受け止めようとしたヤマトのクナイの切っ先を切り落とし、深々とヤマトの肉をえぐった。

 サスケはこれを好機とみた。

 傷口をぐりりと抉り、ヤマトと体位を入れ替えて、ナルト、サクラの盾とする。

「! ヤマト先生!!」

 ナルトが叫ぶ。

 打ちすえられたヤマトを見るナルトから異様な気配が噴き出してきた。

「これは…」

 サスケはナルトの目を覗き込んだ…。

 

 サスケがナルトの内なる力、九尾の妖狐の力を抑え込み、ナルト達との決別を宣言するのを薬師カブトは見ていた。

 アジトの1つに戻った彼は考える。

 サスケは強くなった。

 それは間違いない。

 大蛇丸はサスケが必要としているものを全て教え込んだと言っても良い。

 サスケはそれだけ優秀な生徒だったということだ。

 しかし、ナルトは化け物か。

 確かに、九尾の力の漏れ出したナルトは本当の意味での化けものであった。

 しかし、正気のナルトも異常だ。

 ナルトの保有するチャクラなら、先ほどの「八連螺旋丸」ならばかなりの回数を連発できるのではないか。

 対集団戦において、あの1撃分で上忍1人は沈めることが可能であろう。

 大概の得物では小さな螺旋丸1つで叩きおり、更に相手を沈める事も十分に可能だ。

 正直言って、カブトはかつて自分のくらった螺旋丸とあの小さな螺旋丸が同程度の圧縮であるとみている。

 それが8連発。

 自分の胴体が消し飛ぶのに十分だろう。

 それとあの綱手姫の弟子。

 どうやってサスケの幻術を解いたのか。

 更に幻術を解いた後のあの暴走具合。

 最初はお淑やかな雰囲気を持っていたのがいきなり猛牛にでもなったように感じた。

 

「くしゅっ! …誰かしら、噂でもしてるのかなあ…(サスケ君よきっと! しゃーんなろー!!)」

 

 サスケ君はナルト君とぶつかって、テンゾウ(カブトはヤマトを暗部のテンゾウとしてしか知らなかった)は大蛇丸様が押さえるとして、そうなるとボクがサクラ君を抑えなきゃならないのかあ。

 カブトはこめかみを押さえつつ、大蛇丸の書き出したデータを整理する作業を続た。

 実際の所、カブトが考えるようにナルト達が強い訳ではない。

 カブトはいくつか判断を誤っていた。

 まず、確かにナルトは強くなった。

 チャクラの制御も昔よりうまくなっている。

 しかし、螺旋丸を自在に生み出すまでにはいっていない。

「八連螺旋丸」はあくまで通常の螺旋丸を練るまでの時間がない場合、咄嗟に練る事の出来る量のチャクラで生み出す事の出来る廉価版螺旋丸とでも言うべきものである。

 さらに言うなら、戦闘時と言う極度の緊張状態に置かれたために、ナルトの、ここぞという時の集中力が両手の螺旋丸を生み出す事を成功させていた。

 ブンブクが言うところの「安定性はないけど意外性はある」ナルトの面目躍如である。

 とはいえ、あれ以上の連発はナルトとて不可能だった。

 元々螺旋丸は極度の集中を必要とする術だ。

 普段であれば八連螺旋丸は成功率がせいぜい3割。

 片手のみでなんとか実戦で使えるレベルである。

 さらに、サクラに関しては別に幻術を解除できた訳ではない。

 幻術の影響を受けていない、()()()()()()()()()()()()の話である。

 カブトはあの戦いにおいて予想外の事が起きていたため、若干視野が狭窄していたのだろう。

 ナルト達とてあれがぎりぎりだった事をカブトやサスケは理解せず、ナルト達を過剰に評価していくのであった。




はい、今回は、
・大蛇丸さん、初めてのモフモフ
・カブトさん、愚痴る
の二本立てでした。

ここから大体投稿が週間ペースになると思われます。

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