NARUTO 狐狸忍法帖   作:黒羆屋

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第41話 閑話集

 閑話8 ナルトと四人衆

 

「………」

 先ほどから睨みあいが続いている。

 ここは茶釜ブンブクの家。

 睨みあいの一方はうずまきナルト。

 もう一方は童多由也、葛城鬼童丸、比良山次郎坊、そして宿儺左近・右近の兄弟である。

 

 こうなるしばし前。

「あ~、兄ちゃんいらっしゃ~い…」

 寝とぼけた声を出すのはブンブク。

 体力とチャクラを大量消費したため、リソースを回復しきるまでは、ということで世にも間抜けな「文福茶釜モード」にて日常を過ごしている。

 トロンと寝ぼけた眼でナルトを見、しっぽを振って挨拶をする姿はとても人間の化けているものとは思えない器用さを感じる。

「おっす、ブンブク上がるぞー」

 ここの所ナルトは毎日のようにブンブクの家に上がりこんでいる。

 家主の茶釜ナンブもその連れ合いのナカゴもナルトが来る事には全く問題を感じておらず、むしろ夕飯を毎日のように食べていくよう引き止められるくらいだ。

 実のところ、ナルトの借りている部屋は2年半以上の不在によってちょっとした魔窟と化していた。

 出かける際に食べこぼしたインスタントラーメン(味噌味)を中心に、極彩色ワールドが形成されていたりいなかったり。

 強力なチャクラの持ち主は、無意識にその力を周囲に放出するものだが、長年ナルトの暮らした部屋の中にもそう言ったチャクラがあふれていたのかもしれない、きっと、多分、メイビー。

 さすがに怖気をふるったナルトはなんとかベッド回りだけは極彩色の進行を阻止したようだ。

 本来ならば、そう言った時に一番頼りになるのがブンブクなのだが、現在彼は以下のありさま。

 正直掃除の戦力にはならないのであった。

 女性陣に頼むのは腰が引ける(特にサクラちゃん)し、男ではキバは論外、シカマルは確実に「めんどくせぇ」で終わるだろうし、チョウジは手伝ってくれるだろうが、あのパワーで部屋ごと消し飛ばされかねない、シノはこの前久しぶりに会った時に気付かなかったため、すねまくって話にならない。

 そう言う訳で極彩色とは一時休戦、不可触協定を結んで出来るだけ見ないようにしているのだ。

 単純な話、ブンブクに話を通すなら色々手段を講じてくれるだろうが、そこまで頭が回っていないのがナルトクオリティ。

 ひたすら空回りを続けていた。

 

 その後に来たのが紅班の男性陣、キバとシノ。

 最近、年の近い男の子達のたまり場になっているのがブンブクの家である。

 ブンブクの妹であるフクが生まれて、それを見にやって来るようになったのがきっかけだったろうか。

 更にはアスマ班のイノシカチョウコンビがやって来た。

「お、なんだよ、みんな勢揃いじゃんか」

 ナルトはうれしそうだ。

 元々ナルトは人懐っこい性格をしている。

 人とふれあうのが大好きなのだ。

 また、仲間と認めたものに対しては非常に懐が深くなる。

 だからこそ。

「ちーっす、ブンブク、いるかぁ」

「多分いるんだろうけどよぉ」

 だらりとした物言いと、更にだらっとした、いかにも眠そうな口調。

 かつて「西門の」と音隠れの里で二つ名を持っていた左近、右近の兄弟だ。

 その後には鬼童丸、多由也、次郎坊が続く。

 その姿を見たナルトは、

「! てめえら!!」 

 即座に戦闘態勢に入った。

 ナルトはこの3年ほどの里の状況を定期的にブンブクから聞いている。

 その中には「音の四人衆」が木の葉隠れに取り込まれた話も入っているはずなのだが…。

 ナルトにとって、「音の四人衆」はサスケが木の葉を抜ける事になった原因の1つでもある。

 サスケの里抜けという事態はナルトにとって一つの転機と言える。

 ただ強くなる事を目指していた子ども時代から、何故強くなるのか、強さの意味を求めるようになった青年期への転機。

 そこに関わっていた5人に初めて対し、ナルトの感情が抑えられなかった、という事なのかもしれない。

 当然、戦意を叩きつけられた5人とて黙ってはいない。

 左近・右近は融合し、鬼童丸は副椀を形成した。

 多由也は笛を取り出し、次郎坊は腰を落として身がまえた。

 焦ったのは当事者以外の面々である。

 ナルトと違い、他の者達は元・音の四人衆とは交流があった。

 鬼童丸はキバ、シノとゲーム仲間であるし、次郎坊はシカマルと将棋、囲碁で勝負する碁敵(ごがたき)であったりする。

 その為、次郎坊は猿飛アスマや奈良シカクなどの年長者にも覚えが良い。

 左近、右近は意外な事にチョウジと仲が良い。

 3人で日向ぼっこをしながら菓子を食べている事がある。

 チョウジのおおらかなところと、左近・右近の若干無気力なところが良い方向で噛み合っているのかもしれない。

 多由也はイノ曰く、「恋する乙女同盟」だそうで、イノのみならず、若いくノ一達と上手くやっているようだ。

 やはり、人の恋愛話は傍から聞く分には面白いのだろう。

 そう言う訳で、元音の四人衆に関して、ナルトと戦友たちとの間には温度差があったのである。

 

 そして、一触即発の雰囲気の中。

「あれぇ、イルカ先生の新旧問題児が勢ぞろいだねえ」

 緊迫した空気をぶっ壊す寝惚けた声が聞こえた。

 言わずと知れたブンブクである。

 ブンブクは先ほどまで、皆が和気あいあいとしている中、のんきにお昼寝としゃれこんでいたのである。

 体力は未だ完全にはほど通り状態であり、準省エネモードでなければ入院も覚悟しなければならない状態である。

 寝る子は育つ、ではないが、日がなうつらうつらとしているのであった。

 で、お昼寝から起きてみると目の前にはナルトと元音の四人衆。

 彼らの共通点、それは、

「誰が問題児だってばよ!」

 忍術学校始まって以来の悪戯小僧に、

「別にオレ達」

「問題児じゃねえよなぁ」

 居眠り遅刻の常習犯(でも無断欠席はしない)、

「まったくぜよ!」

 授業中にゲームをするとか、

「そうだ、イ、イルカ先生に聞こえたらどうすんだこのボケ!」

 悪口雑言で散々説教を受けているとかである。

「事実じゃないか…」

 という次郎坊の言葉も聞こえていない様子。

「そもそも、新旧とか言うんなら、ブンブクだって同じじゃねーか…」

「そうだな、イルカ先生言ってたもんなぁ」

「僕が問題児!? そんなわけないじゃないですかHAHAHAぁ」

「うっさんくせえ物言いすんじゃねえぜよ…」

「そうだこのクソ狸!」

「だから女の子がそう言う悪い言葉使いしちゃいけないって…」

「そうだブンブク!! お前だってイルカ先生に呼び出しくらってたってばよ!!」

「な、何で知ってんのさ兄ちゃん! そもそもあれは火遁に炭の粉を併用したらどうなるかって純然たる実験だってばよ!! 怒られたのは事実だけど!!」

 気が付くと、ナルト&元音の四人衆対ブンブクの口合戦に発展していた。

 その様子をキバ達は呆れ半分の生温かい目で眺めるのだった。

 

 その後、この家の最高権力者であるおっかあによって皆が正座をさせられたのはまた別の話。

 

 

 閑話9 大名と老猿

 

 ここは木の葉隠れの里にある総合病院。

 その特別病棟に元3代目火影・猿飛ヒルゼンが入院している。

 ヒルゼンはこの数カ月で状態が悪化していた。

 そろそろベッドより起き上がる事すら億劫になっている。

 はっきり言ってしまえば寿命である。

 若いころから第一線で任務をこなし、長期間火影と言う激務を全うしてきた。

 本来なれば10年以上も前に隠居しているはずが、4代目の死、その後の混乱期を束ねていくにはヒルゼンのカリスマが絶対に必要だったのだ。

 その激務に次ぐ激務はいかに頑健なヒルゼンをしても大きくその活力を削られていた。

 それが決定的になったのは数年前の「木の葉崩し」である。

 あの時の激戦は、ガタが来ていたヒルゼンの体に致命的な一撃を加えていった。

 一時期は快方に向かったものの、ヒルゼンの容体は緩やかに悪化し、ついに限界を迎えつつあった。

 とはいえ、ヒルゼンに後悔はない。

 あのときの戦いすら、ヒルゼンにとっては教え子の成長を身をもって体感できたということであり、喜ばしいとすら思えていた。

 

 そのヒルゼンの前には1人の男がいる。

 でっぷりと太った、頬の緩んだ男。

 そう大きな方ではなく、よく言えばユーモラス、はっきり言ってしまえば威厳の欠片もない間抜けた男だった。

 しかし、この男こそがこの「火の国」を修める大名である。

 本来ならばこのような場にいていい者ではない。

 しかも、

「…正直言いまして、意外でしたぞ。

 殿がリンゴの皮を剥く事が出来ますとは。

 しかもウサギさん…」

「ほっほっほ、これはワシの近習に教わったモノでの、これくらいしかできんがのぅ」

「近習と言いますと…」

「うむ、茶釜のものよ」

 ヒルゼンは頬を緩ませると、

「左様でございますか、かの者は…」

「うむ、もう20年も前になるかの、ワシの代わりに毒見をしてのお…」

 かつて最も親しかったであろう人物を思い出しながら、大名は遠くを見るような眼をしていた。

 

「殿、今日はどのようなお話で? 例の件、ですかな…」

 ヒルゼンが切り出す。

「うむ、ここ10年を目途に、守護忍十二士を復活させることにした」

「左様でございますか。

 これで木の葉隠れの里もお役御免、というところですかな?」

 ヒルゼンは木の葉隠れの里の危機、という話にも顔色を変えず、むしろ茶目っ気を感じさせる表情をする。

「なにを言っとるか。

 木の葉の忍はたかが軍事に収まるものではなかろう。

 今後は活動の幅も大きくなるのでおじゃろ?

 より広範囲の動きをするのに戦に縛られていては動き辛かろうに」

 大名はそう言う。

 現在の戦争は忍対忍の小規模戦闘が主流だ。

 大規模に人員を動かすよりもよほど経済的で、そうであるが故に大名たちは忍里を優遇してきた。

 それは逆を言えば、殺し合いのための人員を確保するために忍里を大名が飼っているという事。

 大名からの補助金が途絶えれば、たちまち困窮するのは風の国と砂隠れの里のかつてを見れば分かるだろう。

 しかし、木の葉隠れの里の忍に関するシステムは変わりつつある。

 忍と言う戦闘要員の育成だけでなく、より広範囲に活躍できる人材を出来るだけ多く育てるのが今の忍術学校の方針である。

 あと数年すれば、忍術は戦闘の道具というだけでなく、より様々な方面で活躍する事になるだろう。

 ブンブクが言っていたが、「冒険者ギルドのよう」に、より便利屋としての活躍が主になるのではないだろうか。

 そうなった時のために、火の国では直属の忍術部隊「守護忍十二士」を戦闘、戦争時の実働部隊でなく、軍を動かす司令部としての役割をもたせる事を考えているのだ。

 かつての守護忍十二士は実力は高いものの、結局は戦術部隊にすぎなかった。

 それでは木の葉隠れの里の変化について行くことはできない。

 そもそも、忍は戦場において様々な役割をもつ、が、忍では対処できない部分も存在する。

 拠点の支配である。

 忍は優秀な戦力であるが、数が少ない。

 調査、諜報に優れた忍もいるが、それらが戦闘においても万能であるわけではなく、むしろ戦闘能力においては一般人の1部隊と変わらない程度の戦力である事も多い。

 無論それだけ強ければ十分であるのだろうが、忍は強襲、殲滅が戦いの基本になる。

 戦線維持や都市の制圧など、特定の状況に優れたものでない場合、それを苦手とする場合が多いだろう。

 例えるならはたけカカシ。

 彼は戦闘能力は絶大だが、継戦能力に欠ける。

 彼に一都市の制圧と維持を任せるなどもったいないにもほどがあろう。

 日向ネジはどうか。

 柔拳という高い戦闘技術を持ち、白眼という調査能力にも長ける力がある。

 しかし、彼も同じく能力の常時使用となると問題がある。

 白眼は視神経、そして脳に大きな負担を掛ける。

 やはり、能力の使用時間は限る必要がある。

 彼らに限らず、チャクラという消耗するリソースに依存する以上、継戦能力に長けた忍は基本的に存在しない。

 実のところ、里の中でも継戦能力に長けた忍とは茶釜ブンブクに他ならない。

 彼はチャクラを極力消費しない戦い方を研究、身に付けているのである。

 ともあれ、大名がこのような事をしでかすのであれば、木の葉隠れの里にいる保守派は黙っていないだろう。

 その急先鋒こそが、かの志村ダンゾウ、であるのだが…。

「最初にダンゾウから話があった時は、なにをトチ狂ったのやら、と思ったでおじゃるが…」

「あれは里の事を第一に考える男ですからな、里に利があるのなら豹変するのも当然でしょうて」

 ヒルゼンはにこやかに言う。

 しかし、その顔はどこか儚い。

 命の消える直前の、まるで蝋燭が消える前に大きく燃え上がるのに似て。

「…そろそろ帰るとするかの。

 ヒルゼンまたの、養生せいよ」

 大名はもはや生きては会う事が出来ない事を理解しつつ、再会を期する声を掛けて病室を出ていった。

「…殿も、お気をつけて。

 余り早く来られないようにして下されよ…」

 そういうと、ヒルゼンはベッドに横になった。

 その顔には短期間の起床にもかかわらず、疲労がこびりついていた。

 

 

 閑話10 転校生?

 

「どもっす! 滝隠れの里から来たフウって言うっす!」

 元気にあいさつするのは滝隠れの里の忍にして七尾の人柱力であるフウ。

 その前にはナルト達が。

 左近達がブンブク邸にやって来たのは、鬼童丸達がフウを木の葉隠れの里に護衛してきた事を伝えるためであった。

 フウの知己の1人であるブンブクを介することで、木の葉隠れの里に早くなじんでもらおうという6代目火影・千手綱手の計らいであった。

 その計らいのために、ナルトと元音の四人衆との間で激突が起きそうになっていた訳だが…。

 それはともかく。

 ここに九尾の人柱力・うずまきナルトと七尾の人柱力・フウとの邂逅がなったわけである。

「ああ、あんたがブンブク君の兄貴分って言うナルトさんっすか? よろしくっす!」

「おう、よろしくな、フウちゃん、だったよな」

 …大分あっさりと、であったが。

 それを眺めているブンブク。

「仲良き事は美しきかな、だねえ」

「だぅー」

 フクに尻尾をつかまれながら、ブンブクはぽやぽやとそうのたまうのであった。

 これから来るとてつもない動乱。

 その嵐の来る直前の凪にも似て。

 

“いよっ、ひっさしぶりじゃね?”

“…ふん、うるさいのが来よったわ”

“相っ変わらずのツンケンさん、今の娑婆じゃそういうの「ツンデレ」っつうんだぜぃ?”

“ワシのどこに「デレ」があるって!?”

“あ、知ってんだ。 まあいいじゃん、ひっさしぶりに会ったってんだからさ、兄弟”

“…まあいい、本当に久しぶりだからな”

“そっそ。んでさ、守鶴に会ったんだろ、どうだったよ?”

“ふん! 尾獣の誇りを失いやがって! 人間にしっぽを振る奴なんて兄弟じゃねえ!”

“またそんなツンデレセリフを。 そんなんだから守鶴に嫌われるんだぜ? ホントは大好きなくせしてよお”

“…お前と話をしてると、なんか話が合わなくて疲れるのう…”

“失敬な。 このラッキーセブンの言うことに間違いはないっての”

尾獣生(じんせい)間違いだらけの貴様に言われとうないっつうの…”

“しっかし、お前の人柱力、どっか「じっさま」に似てね?”

“! …知らんな”

“なんだ、お前もそう思ってんじゃんかよ”

“! そんなことはない!”

“はいはいツンデレツンデレ乙”

“だーかーらー!!!”

 

 

 閑話11 5代目と6代目

 

 ここは火影の執政室。

 6代目火影・千手綱手はヤマト上忍を召喚、ナルトおよびサクラの担当上忍であるはたけカカシの代理を命じているところであった。

「…という事で、だ。

 お前にはカカシの代行をやってもらう」

 ご意見番の2人と元5代目火影・志村ダンゾウの強い要請があり、ナルトを御せる人材として、ヤマトが推薦されたのである。

 サソリからの情報により、あと数日でサソリが大蛇丸の元に潜伏させている間諜(スパイ)と、天地矯での接触を行う予定であった事が分かっている。

 ナルト達にとってはサスケにつながる重要な情報だ。

 この調査を他者に任せるつもりはなかった。

 一方、里の上層部では会議が紛糾していた。

 ナルト達に調査を任せるつもりの綱手に対してナルトを里に留めて関し、護衛すべきという御意見番との対立があったためである。

 普段と違うのは元来綱手の側につくシズネがナルトの派遣に対して慎重であった事である。

 その場を取りまとめたのはダンゾウ。

 ダンゾウの抱える人材を4人班(フォーマンセル)に組み込むことで御意見番2人の意見を取りまとめ、ナルト達の派遣を認めさせたのである。

 ヤマトは、

「あのカカシ先輩の代行とは、光栄ですね」

 そう言うと、うっすらと微笑んだ。

 ヤマト、かつてテンゾウと名乗っていた男は暗部時代、カカシに様々に助けられた経験があった。

 今回の事はその借りを少しでも返す事の出来るいい機会だ、そう考えていた。

 ヤマトに対し、綱手は真剣な表情で話し始めた

「…今回、もう1人、あの暗部養成部門『根』から新人が1人、カカシ班に配属される。

 ただ…」

 そこで綱手は言葉を切った。

「何です?」

 綱手の逡巡にヤマトは疑問を呈する。

「…そいつの行動には注意を払っておけ」

 その綱手の言葉に眉をしかめるヤマト。

「…と、言いますと?」

 何やら嫌な予感がする。

 ヤマトは優れた忍である。

 様々な経験を積み、その経験は本人の理論的なところのみならず、第6感的な無意識の勘、とでもいうべきものを強化している。

 その勘が、特大の厄を感じていた。

「その新人は『5代目』が推薦してきた」

 なるほど、確かに厄介だ。

 5代目、つまり志村ダンゾウが推薦してきた人間。

 それは木の葉隠れの里における裏側を取り仕切る「根」の面子という事なのだろう。

 ダンゾウは滅私にて木の葉を支える得難い人物ではある。

 しかし同時に、木の葉を守るためなら全てを犠牲にしかねない危険人物でもあるのだ。

 その子飼いがヤマトの臨時班に入る、と。

「考えすぎなのでは?」

 ヤマトは一応そう言っておく。

 内心はどうあれ、任務に疑問があるとは思われたくはない。

 綱手は少し表情を柔らかくすると、

「まあ良い。

 すぐに班の顔合わせをしてくれ」

 そうヤマトに告げた。

「ハッ!」

 ヤマトは返事を返すと執政室を後にした。

「…厄介だなあ、6代目と元5代目の確執、かあ。

 里が割れるような事がないと良いんだが…」

 ヤマトはそうこぼした。

 それは、上忍達のほとんどが感じている事でもあった。

 

 さて、新生カカシ班ことヤマト班が面通しをした後の事である。

 ヤマト班の一員たる春野サクラは、師匠である綱手の前で報告をしていた。

「…そうか、もうそんな調子か」

「ハイ…」

 ヤマト班の状態は最悪と言っていい。

 新しく入った班員の「サイ」とナルトがとにかくぶつかるのだ。

 どうやら最初の接触がまずかったらしいのだが、その時の状況をサクラは知らない。

 笑顔を顔に張り付けたような彼を、とにかくナルトは気にくわないようであった。

 その事を綱手に報告すると、

「仕方ない、とりあえずナルトはお前がうまくコントロールしておけ」

 との無茶ぶり。

「一応努力はしてみますけど…」

 自信はない。

 あの2人の間に入りこむのはかなりの重労働だなあとうんざりしていると、

 コンコン、とノックをする音。

 綱手の声に合わせて入って来たのは、

「5代目、か…」

 元5代目火影・志村ダンゾウであった。

「5代目、なんの用ですか」

 綱手は感情を消した声でそう問うた。

「…サイの小隊の隊長には、優秀な暗部のものを付けていただけましたかな、6代目」

 ダンゾウは慇懃にそう返す。

「3代目の在任の時から、一番の使い手だったものを選抜しましたよ」

「…結構。

 ただ、其奴(そやつ)、もめごと嫌いで腰の引けた3代目の教えが染みついていなければいいんだがな…」

 ダンゾウの慇懃無礼な言葉の毒に、びくりとするサクラ。

 サクラにとって、ダンゾウは5代目火影、というだけの存在でしかなかった。

 しかし、この言葉によって、5代目火影・志村ダンゾウには3代目火影・猿飛ヒルゼンと6代目火影・千手綱手に対する隔意がある事が感じられた。

 その後二言三言言葉の刃を交わすと、ダンゾウは執政室より出ていった。

「…今の、どういう事ですか?」

 サクラは綱手に問いかけた。

 綱手は努めて冷静に話した。

「5代目はかつて、3代目火影の椅子をめぐって、先生と争った事がある。

 元々あの人(ダンゾウ)はガチガチな合理的思考に基づく強硬・武闘派路線の主導者だったんだ。

 穏健派の3代目の教え子で、初代火影の孫の私が嫌いなのさ」

 サクラはそれを聞いて、どう答えて良いか分からなかった。

 木の葉隠れの里の上層部の政権闘争、とでも言うのだろうか。

 余り関わりになりたくない部分である。

 そう言えば、ブンブクはダンゾウについて様々な仕事をしていた。

 敵に対して容赦の無いところはダンゾウに似ているのだろうか。

 そして、綱手の弟子であるサクラとも、ぶつかる事があるのかだろうか。

 …そろそろ一度、上下の差をきっちり教えておく必要があるかな?

 姉より優れた弟はいねえ、とか?

 

「…はっ! 殺気!?」

 その頃どこぞで居眠りをしていた狸型茶釜が背中を這いまわった悪寒に身を震わせていた。

 

 サクラが執政室を退出した後の事である。

「これで良いんですかね、5代目?」

 綱手がそう声をかける。

 そこには元5代目火影・志村ダンゾウの姿があった。

 サクラの出ていく前、すでにダンゾウは外に出ると見せかけて隠業により部屋の中にいたのである。

「ああ、あの娘には、あの程度で良かろう。

 かなり勘の鋭い娘のようだ、後は周囲の情報からワシらの不仲を推測してくれよう」

「それですよ、良いんですか、このままではあなたが一方的な悪役になりかねない」

「なに、構わん。

 …この仕掛けは保険に過ぎん。

 なにもなければ『5代目6代目の火影は個人的に仲が悪い』というだけで終わることだ。

 万が一に備えておくのが執政者、というものだろう?」

「そうですがね、…くくっ」

 不意に綱手が口元を押さえながら笑う。

「? どうかしたのか?」

 不意を突かれたのか、ダンゾウが疑問をその厳めしい顔に登らせた。

「くくっ…やはりあなた達は似てますよ。

 先生とおんなじくホントに頑固で…」

 そのまま笑い続ける綱手に珍しくも憮然とした表情を見せるダンゾウ。

「…その言い方を借りるなら、お前は自来也と大蛇丸と似たところがあるということになるな」

 ぼそっとつぶやいたダンゾウの言葉に過剰反応する綱手。

「はあっ!?

 片やエロ馬鹿、片や陰険カマ蛇、あれのどこにワタシと似た要素があるってんですか!?

 却下、却下です! 5代目、取り消しを求めます!!」

「ほほう、ムキになるという事は、自覚があるということか。

 なれば結構。

 お前もアレらの同類、という自覚があるならばあ奴等ほどのバカはやらんだろう」

 亀の甲より年の功という言葉があるが、本来十分な経験を積んでいる綱手、それよりもさらに経験豊富なのはヒルゼンと同年代のダンゾウであったか。

 口では勝てない、と考えた綱手だが、ニヤリ、とその口を歪めた。

「む? どうかしたかね、三忍の1人、病払いの蛞蝓綱手姫」

 ダンゾウはさらに綱手を追いこもうとするのだが、

「5代目、5代目の論法で言うならば…」

「なにかね?」

「5代目はヒルゼン先生とコハル婆様とホムラ爺様と同じ、という理屈になりますね」

「!」

 顔を歪めるダンゾウ。

 ダンゾウとヒルゼン、コハルとホムラは同時期を生きた戦友であり、その意味では確かに同じ感覚を共有しているともいえる。

 とは言え、若いころから互いを知っているため、正直言えば恥ずかしい過去も互いに知っているのだ。

 行ってしまえば、「黒歴史の共有」。

 若いころに捨ててきた、諸々の恥ずかしい事を思い出し、ダンゾウは不覚にも顔をひきつらせた。

 綱手は思った。

 ここが攻め時と。

「5代目ぇ、その辺り、色々教えちゃもらえませんかねえ…」

 2人の木の葉隠れの里の最高権力者たち、その最低な攻防戦は余人に知られる事無く、闇に葬られることとなった。




七尾さんの話し方に自信がありません。

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