NARUTO 狐狸忍法帖   作:黒羆屋

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閑話2にて原作との食い違いがありまして、一部話を修正いたしました。


間章 閑話集
第40話 閑話集


 閑話1 しっぽ

 

 ぱた、ぱた。

「あー」

 ふり、ふり。

「うー、あぅー」

 ふわ、ぱたぱた。

「うーきゃー!!」

 …僕がなにをしてるかって?

 しばらくチャクラおよび体力の回復に専念するためにですね、当分の間準省エネモードでいることにしたんです。

 んで、この姿だとなかなかうちから出られないんで、妹のフクちゃんのために育児休暇を取ったおっかあと家族の団欒をしてるとこなわけでして。

 あ、この「育児休暇」って制度を設定したのは5代目、で、実際に運用を始めたのは6代目なんですが、非常にありがたいんだそうです。

 特に、忍って忍術やチャクラの身体強化を使うと男性も女性も戦闘能力に関しては一般人ほど差が無いんですよね。

 なので、事務方、現場と女性の活躍の場は多いんですけど。

 差がないために現場での働きが長くなる、で、婚期が遅れる、と。

 なんでも育児休暇の制度を5代目が提案した時、6代目及びその近習が「もっと早くに決まっていれば!!」って泣き崩れたとかなんとか。

 6代目はともかく、シズネさんはまだまだ大丈夫だと思うんだけどなあ。

 たまにトントンくんから話を聞くと、異常に焦ってるらしい。

 猿飛アスマ上忍と、夕日紅上忍、今は猿飛紅さん、か、の結婚が決まってかららしいけど。

 あの人たち、同期か何かだったのかな?

 アスマ上忍は確かはたけカカシ上忍とも同期だったから、シズネさんとカカシ上忍も同期なのかあ。

「そう言えばそうだったわねえ。

 カカシちゃんには丁度良いかしら…」

 おや、僕、声に出してました?

 僕はおっかあのすぐ脇でフクちゃんと遊んでます。

 さすがに今の僕のサイズは手のひらサイズなんで、直接遊ぶのも大変なんですが。

 ぱた、ぱた。

「きゃー!!」

 まあ、フクちゃんはどうやら僕の尻尾がお気に入りのようでして、現在僕の尻尾を猫じゃらしに飛びつく猫の如く遊んでるわけですよ。

 最初の内はかじられたりしてなかなか痛い思いをしてたんですが、痛い痛いと大げさにしていたら、いつの間にかかじったり、毛を引っ張ったりは少なくなりました。

 うちのフクちゃんはもうかわいいのですよ!

 おっとうが「カカシちゃんにうちのフクちゃんを」とか言う冗談を聞いた時の、あの修羅の表情、今だともうね、分かりすぎくらい分かっちゃいますね。

 今の僕なら、「兄馬鹿」は尊称だと理解できます。

 なんぞと考えておりますと、

「ブンブクちゃん、最終的に決めるのはフクちゃんですからね、それと『兄馬鹿』は尊称じゃないわあ」

 あれ? また口に出してましたかね。

 どうもリソースを体力とチャクラの回復に回しているせいか、頭が回りません。

 口からだだもれてるんでしょうか。

 そんな事を考えていると、

「ごめんくださーい! ブンブクいるかーっ!」

 あ、うずまき兄ちゃんだ。

 玄関に迎えに出ようとすると、

 むんずっ!

 …フクちゃあん、お兄ちゃんお客さんのお出迎えしないと、しっぽ離して。

「やーっ!!」そですか。

 僕は仕方ないので、

「兄ちゃん、適当に入っちゃってー!」

 そう兄ちゃんに声を掛けるのでした。

 

 

 閑話2 ちいさなこいのめろでぃ、を眺める人達

 

 入って来たのはうずまきナルト、油女シノ、犬塚キバ、そしてナルトに背負われた日向ヒナタであった。

「ありゃ、皆さんお揃いで。

 んでさ、何で兄ちゃんヒナタさんおんぶしてんの?」

「いや、オレもなんでだか…。

 久しぶりに会ったんで挨拶したらぶっ倒れちまったんだってばよ」

 心底理解できていないという顔で首をひねるナルト。

 分かっていないのはナルトだけである。

 ナルトは察しは悪いものの、人の感情の機微には鋭いところがある。

 特に、自分に向けられる負の感情に対しては。

 逆に、好意的な感情に関しては普段感じ慣れていないせいか、疎い一面がある。

 この場にいる誰も(場合によっては赤子であるフクすらも)が分かるような好意的な感情をヒナタに寄せられているにも関わらず、ナルトは首を捻るだけだ。

 まあ、3年近く里を空け、場合によっては自分のことなど忘れているかも、と思っていたナルトにしてみれば、覚えていてくれるだけうれしいのであるが。

「あらあら、まあまあ、大変ねえ、家の布団貸したげるからヒナタちゃん寝かしといてあげなさい」

 そうナカゴに言われ、ヒナタを客間に寝かせつける一同。

 実際に寝かせるのは女性であるナカゴの仕事であるが。

 

「…でさ、今度の中忍試験だけどよ、誰かチームで欠けてんのいねえかな?」

 ナルトは、本題を話す前に、世話話として中忍試験に関しての内容を持ち出した。

「ああっと…、確か元音隠れの連中がまだ下忍だったと思うんだがな…」

 キバがそう切り出す。

「そうだな、なぜなら彼らは戦闘能力と隠密能力はともかく、交渉や一般常識に大きく欠けるところがあるからだ」

 シノがそう続ける。

「そっそ、んだから今も週一でイルカ先生に集中講義してもらってるらしいぜ」

「へえ、さっすがイルカ先生だってばよ」

 そう言うナルト。

「先生も大変だよなあ、ナルトにブンブクに元音隠れの連中、と。

 問題児ばっかだよなあ」

 キバがからかうようにそう揶揄すると、

「それどういう意味だってばよ?」

「それどういう意味かなあ?」

 ナルトとブンブクの息のあったジト目がキバに飛ぶのであった。

 

 しばらく雑談をした後、シノがブンブクにこう切り出した。

「ブンブク、しばらく席をはずしてほしい、何故なら…」

大事な話(にんむ)があるんでしょ、了解。

 キバさん、赤丸くんと遊んでても良い?」

「ん? おう、構わねえぜ」

「はーい。

 フクちゃん、おいで~」

 ブンブクが尻尾を振りながら縁側の方へフクを誘う。

「あ~、だ~!」

 ブンブクの後を追う赤ん坊。

 縁側からは子犬の頃と変わらぬ顔立ちと余りにも変わってしまった巨体の犬が顔を出していた。

「だー、わんわ、わんわ」

「そうだねえ、わんわんだねえ、赤丸くんって言うんだよ」

 何とも心温まる光景に頬を緩めつつ、ナルトは話し始めた。

「戦える奴がいる」と。

 

 結局、キバ達元夕日紅班は別任務が入っており、ナルトと共に調査任務、音隠れに潜入させてあるサソリの間諜に接触し、サスケの情報を得る、への動向は不可能であった。

 頭を掻きながら、「悪かったってばよ、みんな、無理言ってすまねえな」と言うナルト。

「気にするな、本当なら一緒に行ってやりたいところだが、任務が入っていてはな」

「そうだぜ、こっちこそ一緒に行ってやれなくて悪りい。

 っち、折角オレ達の超強化、お前に見せてやれたのによお!!」

 と、残念がるシノとキバ。

「へえ、ホントかよ」

 にやにやと笑うナルト。

「あ、てめえ、嘘だと思ってやがんな!

 その内にオレ達の強さ、見せつけてやる!」

「む、たしかにオレ達は強くなった。

 必要な時に、力を出せるようにな…。

 ヒナタも強くなったぞ、ナルト。

『大事な人を守る事が出来るように』だそうだ」

 シノの言葉に、やさしい目をするナルト。

「そっか、ヒナタらしいな…」

 その表情に、「やっぱコイツ気づいてねえ」という表情をするシノとキバ。

 なれば、その事を伝えてやればいいものを、それだけは絶対しない、と決めている。

 こういう事(ひとさまのれんあいばなし)は脇でニヨニヨとしながら生温かい目で眺めているのが楽しいのだ。

 彼女いない歴=年齢の2人は、やっかみ半分でそう考えていたりした。

 ブンブクが知ったなら、

 「その情熱の半分も恋愛にかければ2人とも絶対モテるのに」と言われるのが分かっていながら、やめるとこが出来ない2人であった。

 

 

 閑話3 留学生?

 

「しっかし驚いたぜよ、『暁』に2度も襲われて無事とは…」

「確かに…。

 かつてはあの大蛇丸さ…大蛇丸が所属していたんだろう?

 アレクラスの強さの忍2人か…、よくもまあ…」

「うわ、あのクソオカマ、『暁』にいたのかよ…。

 どんだけ気違いな集団なんだ? 暁って…」

 そう言うのはかつて音隠れに所属していた3人。

「東門の」こと葛城鬼童丸、「南門の」こと比良山(ひらやま)次郎坊、そして「北門の」こと(わらべ)多由也である。

 彼らは別任務の完遂後、「暁」に襲撃を受けた滝隠れの里に救援に駆け付けた、という訳であった。

 担当上忍のヤマト、かつては木の葉の暗部にて「テンゾウ」を名乗っていた男は、滝隠れの里近くに木分身を配置しており、その為に滝隠れの異変にいち早く気付く事が出来たのだ。

 任務を済ませた帰りであり、担当する下忍の1人である鬼童丸が滝隠れの里に顔が知れていた関係で情報収集がてらに寄ることとなったのだ。

 で、

「ブンブク君がぁ~!!」

 鬼童丸は泣き続ける滝隠れのフウを宥め、それをにやにやと眺める多由也とヤマト、呆れながら2人を咎める次郎坊、という構図が先ほどから続いている。

「ヤマト教官、それで、木の葉隠れの里から連絡はないのですか?」

 次郎坊がヤマトにそう聞くと、

「え? ああ、ブンブク君ね、ちょっと前に先輩が確保したって情報が入ったけどね」

「な!? それならそうと教えてやれば…」

 そう言う次郎坊にヤマトはにやっと笑って、

「でもさ、こっちの方が…面白くないかい?」

 次郎坊の肩を叩いてそう言った。

「ヤマト教官…」

 さすがに呆れる次郎坊。

 ヤマトはその次郎坊を見ながらこうも思う。

 少しは人らしくなってきたじゃないか、と。

 ヤマトはある意味、元音の四人衆と近しい存在だ。

 大蛇丸の実験によって能力を付加され、捨てられた後に木の葉隠れの里に拾われた。

 大蛇丸の危険性について、ヤマトは嫌と言うほど知っている。

 その大蛇丸の()()である彼らをヤマトは警戒していた。

 確かに大蛇丸の目は確かだ。

 優秀な素材を見つけ、さらに加工することで強力な手駒を作り出している。

 ただし、それには多くの犠牲が発生する。

 1人の完成体を仕上げるのに100の犠牲が出ては割に合わないのだが、忍術の研究者である大蛇丸はその犠牲をものともしない、いや、全く考慮していない。

 大蛇丸にとって、失敗作とはデータの1つにしか過ぎないのだろう。

 だからと言って、犠牲になったモノがその犠牲を仕方ないと思うのはまた別の話。

 ヤマトは周囲に恵まれたおかげ、またはせいか、それほど過去を振り返っては悩む事をしなくてすんでいる。

 自分の後輩達である次郎坊達にも前を見据えて歩いてほしいものだ。

「…と、ボクは考える訳だよ、分かるかね?」

「…教官がオレ達で遊んで楽しんでいるのは理解できました」

「それはちょっとひどくないかい!?」

 そう、こういったなんでもない日常、それは簡単に失われてしまうからこそ、尊いんだ、そう思うしねえ。

 そう考えながら、ヤマトは次郎坊をからかうのであった。

 

 未だにぐすぐすと泣くフウに、それを宥める鬼童丸。

 十分にそれを堪能し、からかいつくしたヤマトはブンブクの無事とその顛末をフウ達に語った。

「そうっすか! ブンブクくん無事なんすね、よかった~!!」

 喜色満面のフウと、

「そう言う事が分かってたんなら、さっさと話してほしかったぜよ…」

 慣れない女の涙に疲労困憊の鬼童丸であった。

 ヤマトはにやにやと笑っていたが、その笑いを引っ込めると、

「さて、フウちゃん、だったかな?

 シブキ様からの話は聞いてるね…」

 そう切り出した。

 

 フウはシブキから、

「木の葉隠れの里への避難」を勧告されていた。

 現在、滝隠れの里の戦力はそれほど多くない。

 有り体に言ってしまうと、守護神たる「蟲骸巨大傀儡・鋼」が全損状態である以上、「暁」に対抗する手段が全くと言っていいほどない。

「暁」のメンバーが1人なら、里の上忍戦力を総動員すれば五分の勝負に持っていけるかもしれない。

 しかし、そこまでだ。

「暁」が2人1組(ツーマンセル)で行動する以上、今の滝隠れでは勝負にならない。

 その為、暁に狙われているフウを、戦力の整っている木の葉隠れの里に避難させるという案が、前々から木の葉隠れの里と協議され、しばらく前に双方の里で調印が行われていた。

 今回、飛段と角都に襲撃され、その協定が発動したことで、フウを木の葉隠れの里に避難させる事が出来るようになったため、ヤマト班がフウを木の葉隠れの里まで護衛することになっていた。

 本当ならフウとて慣れ親しんだ滝隠れの里を離れたくはない。

 しかし、この前の様な怪人がまた里を襲うとしたら…。

 2度の襲撃の時には鋼があった。

 それですら彼の怪人達を追い払うのが精いっぱいだったのだ。

 このまま里にいるわけにはいかない。

 彼ら(あかつき)をぶちのめし、里に危害を加えないようにしないと。

 フウは滝隠れの里を離れ、木の葉隠れの里にいく決意をした。

 木の葉隠れのもう1人の友人、茶釜ブンブクと、この隠れの里の人柱力、うずまきナルトに会うのをちょっと楽しみにしながら。

 

 

 閑話4 「根」

 

 木の葉隠れの里の裏側、影を司る集団である「根」の一員である名無し、通称「サイ」は、5代目火影を引退し、「根」の長官へと復職した志村ダンゾウに呼び出されていた。

「お前が、あのカカシ班に配属されるよう、もう手は回してある…」

 ダンゾウは、サイをナルトの護衛として付けるつもりであった。

 問題は、ナルトに接触させることで、サイにどのような変化が起きるか。

 サイはダンゾウ直々に調()()した人材だ。

 孤児であり、念入りに、かつ周到に心を壊し、「根」の、木の葉隠れの里の忠実な道具として再生した存在。

 それだけに、天性のカリスマを持つナルトに接触させた場合、その心にどのような変化が起きるのか。

 里に仇なすものでなければ構わない。

 が、万一復活した心が里へと牙を牙を向けるようであれば、それは問題だ。

 しかし、

「お前はうずまきナルトと年もさほど変わらぬ上、

 里の同世代のものと戦わせても引けを取らぬ、

 そして何よりも、あの素晴らしい絵心は感嘆の一言じゃ…」

 ナルトと組ませて丁度良い人材はある事情によってサイしか残っていなかった。

 調()()を行える人材がダンゾウ自身しかいない事、そのダンゾウが死んだ時、そういった処置をした人間を主力とする事は、方法を継承させるつもりがない以上危険であったからである。

 いざという時、使いつぶさざるを得ない人材をナルトの傍に置いておくべき。

 それがダンゾウの判断だった。

 

 サイは今回の任務に思うところがあった。

 うずまきナルトと言う人物についての興味。

 様々な人間に影響を与え、里を変えていくうずまきナルト。

 それだけならばサイはナルトに興味をもたなかった。

 しかし、もしも自分がナルトに影響が受ける事があるならば、自分の望みは叶うのだろうか。

 もう一度、あの人(にいさん)思いだし、その絵を書けるのだろうか。

 感情をなくした自分。

 そのサイの唯一の望みが兄との絆を思い出し、兄の絵を描く事。

 それが出来るようになる何かをナルトは持っているのだろうか。

 ()()()が変わったように。

 一縷の希望をひっそりと持ち、サイはダンゾウの前から退出した。

 

 ダンゾウの元へ油女トルネが音もなく現れた。

「サイを使わして大丈夫なのですか?

 ここしばらく、奴は様子がおかしい。

 異常のある道具は使わぬに越したことは…」

 同僚たるサイを人として扱わぬトルネの言動に、ダンゾウは特に反応する事もない。

 ダンゾウにとってサイは自分が作り上げた使える「道具」にすぎないからだ。

 しかし、

「よい、アレの好きにさせろ」

 ダンゾウはそう言う。

「しかし、アレは明らかに異常をきたしております。

 特にここしばらく、ブンブクへの執着は傍から見ても本来の奴ならばありえぬほどで…」

「構わん。

 それであ奴がブンブクに手をかけるなれば、それはワシの目が曇っていたという事。

 その程度の火の粉、払えずば『根』の長たる資格なし」

 ダンゾウはそう言い切った。

 それ以上言う事も出来ずにトルネは下がるしかなかったのである。

 

 

 閑話5 蛇と鷹

 

 2人の男が対峙していた。

 1人は少年と言っていい年だろう。

 しかし、その瞳に映る光は年相応の希望に満ちたものではなく、どろりとした情念、何かたった1つの事に凝り固まった「鬼」の目をしていた。

 名を「うちはサスケ」。

 両親と一族の仇であり、血を分けた兄弟たる「うちはイタチ」の首を取ることだけを考え、渇望している。

 その為の力を得るために木の葉隠れの里を抜け、音隠れの里へと亡命したのである。

 かつてまだ幼さを残していた顔、体はこの3年で大きく変化していた。

 まだ若干の幼さを残す顔立ちは、その表情によって彼をずいぶんと大人びた印象に変えている。

 人によってはクール、冷酷、虚無的なところがたまらなく言い、というものもいるだろう。

 上背はまだ成長期なのだろう、育ち切ってはいないものの、余計な機能の無い、均整がとれたものとなっている。

 もっとも、成長期の今の時点で完成されている、と言うのも異常なのであるが。

 着物風の服装を、元々持っている廃頽的な雰囲気に合うよう着崩しているが、その姿勢はかつて木の葉隠れの里にいた時とは違い、ずっしりとした安定感を持ち、これまでの修行が並大抵ではない事を想起させた。

 

 もう1人は年齢不詳の男性。

 端正な顔立ちは屋もすると女性と間違われかねない作りだ。

 その瞳さえ見なければ。

 その男は獲物を狙う「蛇」の目をしていた。

 瞳にある光は1つではなく、男の心の複雑さを示している。

 言わずと知れたその男は、かつて木の葉隠れの里に三忍あり、と讃えられた忍術のスペシャリスト「大蛇丸」その人である。

 音隠れの里の衣装に身を包み、ここ数十年は年もとらないのか、かつての姿をそのまま留めている。

 今、彼はサスケの修行を完成させるべく、対峙しているのである。

 が、

(問題よねえ…)

 大蛇丸はある悩みを抱えていた。

 他でもない、サスケの事である。

 この数年でサスケは大きく成長した。

 大蛇丸の指導もそうだが、うちは一族の「写輪眼」が術の習得に大きな成果を出したためである。

 無論、サスケ本人の才能も高い。

 だが、それも頭打ちの感が強い。

 サスケは優秀すぎた。

 かつてブンブクが評した通り、サスケははたけカカシと同じ「万能の天才」である。

 生まれながらに持っている戦いの才能、うちは一族の弱点を克服した膨大なチャクラと写輪眼によって使える術の数を増やし、引き出しの多さによって戦術を千変万化に繰り出すことで戦場を駆け抜ける、そういった戦いのできる人物である。

 茶釜ブンブクあたりが知ったなら、血涙を流しながら「才能が憎い!」とか言いそうな、忍であれば誰もが羨む存在だ。

 大蛇丸ですら。

 しかし、いかんせんサスケには経験が足りない。

 サスケは大蛇丸と同じく理論肌の天才であるため、咄嗟のアクシデントの際、自分の引き出しに無い状況になってしまうと一瞬の隙が出来てしまうのだ。

 木の葉隠れの里などでは、そういった時のために3人1組(スリーマンセル)を組ませ、相互に補完する関係を作っているのだが。

 音隠れにはサスケと組ませて丁度いい人材が今現在いない。

 サスケの実力が飛び抜けているのだ。

 いま、サスケの実力はあの薬師カブトすら追い抜き、大蛇丸に次ぐ実力を示している。

 そう、大蛇丸に次ぐ、だ。

 単純な実力では、サスケはまだうちはイタチに追い付いていない。

 サスケはイタチを殺す事を目標としている。

 イタチを殺せなければどれだけ実力を付けたとしてもサスケにとっては意味がないのだ。

 もし、サスケの師が自来也ならばまた変わっただろう。

 自来也は大蛇丸ほど術に造詣が深い訳ではない。

 が、彼は術を使うタイミングが素晴らしい。

 言ってしまえば、大蛇丸が忍術の天才ならば、自来也はその術を使いこなす、戦術の達人と言えよう。

 その彼に師事するならばサスケは手持ちの術を様々なシチュエーションに対し、組み合わせてどんな状況でも乗り越える優秀な忍に育っただろう。

 しかし、自来也が師匠であるならばそもそもサスケが術を習得する機会、その数が少なくなる。

 結果として戦術の幅が狭くなる、という悪循環。

 なかなかままならないものである。

(本当にどうしたものかしら…。

 …ダンゾウに借りを作るのはしゃくだけど、頼むしかないかしらねえ…)

 大蛇丸は表情に出さず、そうため息をつく。

「…どうした、アンタが来ないのならこちらからいくぞ」

 静寂の間にいら立ったのか、サスケがそう告げ、次の瞬間、2人は激突した。

 

 

 閑話6 婆と孫

 

 ここは砂隠れの里の特に厳重な牢獄の1つ。

 ほとんど人の出入りの無いそこに、1人の老婆がいた。

 通り名をチヨ婆、と言う。

 かなりの高齢であり、大二次忍界大戦で活躍した大御所である。

 牢の中には絡繰傀儡が1つ。

 かつて「赤砂のサソリ」と呼ばれた天才的傀儡師、その肉体を改造して作られた「人傀儡」である。

「…」

 チヨはしばし牢獄の前に佇んだ。

 牢の中には床、天井、そして牢屋の策に至るまでびっしりと法陣が書き込まれている。

「風影奪還作戦」時、サソリの動きを止める際にも使用された封印術の法陣である。

 人傀儡を封じるためにしては大袈裟に過ぎるこの陣容。

 そもそも、傀儡は人が使わねば動かぬ道具、それを…。

 その時、人影どころか生きとし生ける者の無いこの牢獄で、チヨ以外にコトリと動くものがいた。

「…ババァ、突っ立ったまんま死んだか」

 そう言ったのは陣の中に捕えられている人傀儡。

 その胸部には「蠍」の文様が入ったパーツが埋め込まれている。

 そう、ここに捕えられているのは「赤砂のサソリ」その人である。

 人である事をやめ、絡操傀儡の中枢パーツとなったサソリは、元々の体に封じられ、この牢獄に捕えられていた。

 あの戦いのとき、サソリの逡巡と生への渇望が一瞬の差を分けた。

 チヨの繰る「父と母」の傀儡はサソリの胸部を貫き、本体を掠めて人傀儡を操るチャクラ糸を切断、サソリを無力化した。

 その後サソリはチヨの持つ傀儡の封印術の巻物へと封じられ、砂隠れの里へと護送、この重犯罪者用の牢獄へと収監された。

 そして今までの罪状を考えれば、死罪、封印刑は免れないだろう、サソリはそう考えている。

 しかたあるまい、それだけの事をしてきたのだから。

 他者を殺してきて、自分の死は受け入れない、という訳にも行くまい。

 サソリは自身の死について、達観していた。

 心残りは自分の操演技術が継承されずに終わることか。

「暁」にいる間、サソリは己が滅びることなど、考えた事もなかった。

 死する時はこのように捕えられるのではなく、あっさりと死んで行くのだろう、と。

 こうなって見ると、後継を育てておくべきだったか、大蛇丸の元に送り込んだあの間諜(すぱい)、薬師カブトはなかなかに優秀であった。

 あれならば己の技術の一端なりとも習得できたのではなかろうか。

 サソリは傀儡のように永遠に変わらぬ者こそ至上、そう考えてきたが、永遠とは継承することで受け継がれるモノ、そう言う考え方もあったか、そう思い至る。

 思えば、サソリに操演の技術を継承したのはこのチヨも一緒であろう。

 デイダラの奴も、爆発が一瞬であれど、その技術を繋いで行けば、「爆発」という芸術は永遠のものとなったであろうに、その辺りは自分と似ていたのだな、そうサソリはチヨの死体の前でそう考え…。

 くたばったと思ったババァの体がピクリと動いた。

「なぁ~んてなぁ 死んだふりぃ~!

 ギャハ! ギャハ! ギャハ!!」

 チヨが、いかにも引っ掛かった、と言いたげな自慢そうな顔をしながら笑う。

 それを白眼視で睨むサソリ。

「…ずいぶんとリアルなボケだな、ババァ。

 エビゾウ叔父も大変だ…」

 妙にしんみり言われて、ふてくされた顔になるチヨ。

「で、何の用だババァ、オレは忙しいんだが」

「ふん、無様にとっ捕まっておいて忙しいもなにもありゃせんじゃろうに…」

 チヨの言葉にサソリは心外だとばかりに言い返す。

「確かにオレは動けんがな、頭の中で模擬位はできるんだよ。

 先の戦いにおいて、オレは新しい操演を試した。

 オレは全ての操演技術を網羅したと思っていたがな、もしかしたらまだオレの知らん操演があるかもしれん。

 だから今一度、全ての操演技術を頭の中で試しているところだったのだがな」

「…ふん、死んでしもうたらどれだけ研鑚を積もうが意味がないじゃろうが」

「それこそ知ったことか。

 オレは傀儡の操演しか知らんし、それ以外をするつもりもない。

 生きていようがいまいが、先があろうが無かろうがオレと言う存在が消えるまでオレは傀儡師だ」

 それは今までの自分を肯定する言葉。

 なにかになりたい、かつての自分(ひと)を否定したい、そうして傀儡になった男が、やっと自分を見つけた瞬間であったのかもしれない。

「…サソリ、風影様がお前と取引がしたい、というとる。

 取引に応じるならばその功績に対して刑の執行を延長、刑期を短縮する事も考慮する、との事じゃ」

 この時代、司法取引の概念は存在しない。

 裁判がおこなわれる訳でもなく、罪状認否の考えがない以上当然なのだが、我愛羅はサソリの実力を認め、砂隠れの里に再度取り込みたい考えがあった。

 その為、刑期を設定し、サソリが里に貢献するたびにそれを減刑していく方法をとる、との事であった。

「…それは、オレの操演技術の継承、というものでも構わんのか?」

 サソリの言葉にチヨは驚きを隠せない。

「お前が弟子をとるなんて考えをするとはの。

 傀儡のような永久の美こそが至上、その傀儡になったお前がのう…」

「なに、受け継がれる技術もまた永遠だろうよ…」

 チヨの感慨に、さらりと返すサソリ。

 そう言えば、面白い技術を使う奴がいたな。

 体術と操演の結合。

 まだまだ未熟であったが、あれを突き詰めるとおもしろくなりそうだ。

「良いだろう、ババァ。

 風影の考えに乗ってやろう。

 その方がオレにとっても都合が良い…」

 これより、サソリという不世出の傀儡師、そしてチヨ婆と言う師を得て、砂隠れの里の操演技術は更に円熟し、更には周囲に拡散していくのだが、それは後の世の話。

 

 

 閑話7 蠢く影

 

「さて、どうしたもんかなあ、ちょっと厄介なことになってきちゃってさあ、ホントどうしたもんだかねえ…」

「…ならば、更にサスケに干渉するか?」

「そうだねえ、大蛇丸はおっかないけど、このまんまだとまずいんじゃないかなあ…」

「まったく、強くもないくせにしゃしゃり出てくるな、あの一族は」

「そうだねえ、かと言って殺しちゃうともっと厄介になるしね」

「まあそう言うな。

 殺るよう仕向けるのはただ1人、…茶釜ブンブク」




多由也と次郎坊の姓は「だるまさん」氏、「ウルトラスパーク」氏のアイディアをお借りしております。
この場を借りまして、両氏に感謝と御礼を申し上げます。

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