NARUTO 狐狸忍法帖   作:黒羆屋

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これにて「我愛羅奪還任務」編の終了です。


第39話

 轟音が洞窟内を揺らした。

 そして、濛々とした土煙、それが止んだ時、

「うわぁ、うわぁ…」

 テンテンは呆然としていた。

 いくら自分が使用した忍具での事とはいえ、あまりの事に意識が反応できていなかった。

「ちょっと… 何でこんなことになってんのよ…」

「こ…これは…僕もちょっと予想外でして…」

 洞窟の後ろ半分は綺麗に崩落していた。

「十方飛丸」の砲撃のためである。

 本来であればここまでの威力は存在しないはず。

 何故こんな事に。

「…ブンブク、アンタなんかしたでしょ?」

「そんなことは… !?」

「なんかあんのね! 何やらかした!!」

 ブンブクの胸ぐらをつかんで振り回すテンテン。

「いや、多分、千本の、空洞をちょっと…」

 何やらいい訳をするブンブクだが、テンテンには理解できていない。

「なんの事よ、分かるように言いなさい!」

 実のところ細かいことはブンブクも理解していない。

 彼が千本に施した細工とは、彼の言うところの前世の記憶、そこから掘り出した「モンロー効果」を応用したものであった。

 千本の空洞を調整、爆発に指向性を与えたのである。

 細工をした本人が意識していない、せいぜいがちょっと火力が上がる程度の効果を見込んだところが大惨事であった。

 実際の所、この洞窟は土遁によって隆起させられたものであり、そう丈夫ではない。

 そこを配慮しないで砲撃を行った、というのもあるのだが。

 

 いきなり瓦礫が吹き飛び、生き残りの傀儡が飛び出してきた。

「うわっ、まだ生きてんの!?」

 生き延びたのは特に頑丈な人傀儡。

 サソリはとっさに通常の傀儡を盾とし、生き残る可能性の高い人傀儡を優先的にガードさせたのである。

 その数10体。

 250近くあった傀儡はそのほとんどが「十方飛丸」の砲撃と崩れた洞窟の下敷きになっていた。

 チヨが息を切らせながらそれでもサクラに、

「はあ…、サクラ、サソリを狙え…!

 他の傀儡はワシらが押さえる!」

 そう言うと、3体の傀儡に陣を組ませた。

 チヨの操演、三宝吸潰(さんぽうきゅうかい)の絶技である。

 陣を組んだ傀儡が凄まじい竜巻を発生させ、サソリの傀儡を陣の中心へ吸い込んでいく。

 そのままサソリの人傀儡は押し潰されていく。

 しかし、その隙を突くように、数体の人傀儡がチヨに迫る。

 サクラはそれを抑えようとするが、

「いくのじゃ、これを使えい!」

 チヨにそう言われ、渡された忍具・獅子首観音を手にサソリへと向かうのだった。

 

 

 

 サクラ姉ちゃんがサソリさんに突貫していく。

 そうなると、僕の仕事は、と。

「…!!!」

 今目の前に迫っているサソリさんの傀儡を止めることだよね。

 どうやら目の前の傀儡は頑丈さを主眼に創作されたもののようだ。

 岩盤を受け止めて、壊れていない。

 ならば、人間相手の技が通じるはず。

 僕は傀儡の目の前に立ちふさがった。

 傀儡は掴みかかってくる。

 本来なら纏絲勁の要領で相手の攻撃をいなし、そこから打撃を入れるんだけど、相手はサソリさんの傀儡。

 当然手には毒がたっぷりついてると見るべきだろうなあ。

 なので、こちらもそれ相応の手段をとります。

 ささっと印を結んで、

「金遁・部分什器の術!」

 を発動、そうすると僕の手から肘にかけてが金属で覆われます。

 この術は什器変化の変形で、体の一部のみ、自分が変化できる什器、僕の場合は茶釜に変化させる事が出来るんです。

 ちなみに、今の僕は両手が茶釜ですっぽり覆われた状態でして、

「うりゃさっ!!」

「!!」

 ゴインと言う音と共に、人傀儡の手首があらぬ方向へとひん曲がります。

 まあ、一抱えもあるような茶釜でぶっ叩いたらそうなりますよね。

 そうして傀儡の攻撃をいなし続けていた時です。

 姉ちゃんの投げつけた忍具がサソリさんに命中しました。

 サソリさんが壁に叩きつけられ、忍具によって拘束されます。

 いよっし!

 これで勝ったか!?

 チヨお婆ちゃんが息を切らしながら、

「動けまい。

 …終わりじゃ、サソリよ。

 その封印術は、ぜい、チャクラを完全に抑え込むものじゃ…。

 もう、チャクラ糸は、使えぬ…」

 そう告げます。

 これで終幕。

 そう思った僕は甘かったのです。

 

 

 

 全ての片が付いた、そう周囲の空気が弛緩した瞬間だった。

 ゆらりと立ち上がったモノがあった。

 赤砂のサソリ、その傑作たる人傀儡の1体である。

 胸に「蠍」の文様の入ったソレは、音もなく近付き、チヨにその毒刀を突きたてようとした。

 その瞬間。

 鮮血が飛び散った。

 チヨの、それではない。

 間に入り、チヨの代わりに腹部に大きく刀を突きさされたのはサクラであった。

 そこからチヨを切り捨てるため刀を抜こうとしたサソリであったが、それは叶わなかった。

 サクラが刀をがっちりとその手で捕え、抜けないようにしている。

 のみならず、刀が突き立ったままで止血と治癒を行っている。

 ダメージの残る体でとてつもないチャクラコントロールのセンスである。

 しかし、

(器用な奴だ、しかし、そろそろ刀に塗られた毒が効いてくるはず… !?)

「何故毒が効かない!?

 それだけの傷だ、毒によってチャクラのコントロールが乱れるはずだが…?」

 そう訝しがるサソリに、サクラはニヤリ、と笑ってみせる。

「しゃー、んなろー…、舐めるなよ!」

 その先ほどとは若干乱暴なものの言い方に、

「…ならば!」

 サソリは今の体である人傀儡のギミック、肘部分に仕込んだギミックを発動、刀と右の前腕部をサクラの元に残したまま前腕部に仕込んだ刀を引き抜き、チヨに切りかかった。

 

 サソリはその瞬間、様々な事を考えていた。

 祖母たるチヨが自分が創った初めての傀儡、2体で1組の両親を模した傀儡を使っていた事。

 チヨから伝授された操演技術の数々。

 今思えば厳しくも的確に、丁寧に操演の技術を指導してくれた事。

 初めて操演が成功した時のチヨの顔。

 厳めしくしていたが、どこか緩んでいたのを思い出す。

 いつからだろうか、操演は息をするように自分の一部となっていた事。

 傀儡の操演になにも感じなくなっていた事。

 赤秘技・百機の操演を完成させた時も、こんなものか、と感じていた。

 それがどうか、赤秘技・サソリの一国を成功させた時、サソリは久々の胸の高鳴りを感じていた。

 自身を人傀儡に改造し、生身と言える部分は中枢部分のみ。

 体を乗り換える事もたやすくできるようになった代わりに、色々なものを切り捨てた。

 多分感動や感激といった感情もそうだと思っていたのだが、まだ残っていたのか。

 そう思いながらサソリはチヨに向かって突き進む。

 そうして、チヨの目の前に来た時、サソリはふと思った。

 オレは何故にチヨを殺さねばならんのだろうか。

 その逡巡が明暗を分けた。

 急速に体の力が抜ける。

 見ると、足元にチャクラの封印法陣が描かれている。

 チヨの傀儡「白秘技・十機近松の集」の内の1体が、法陣を描きだしていた。

 動きの鈍ったサソリにチヨの繰り出す両親を模した傀儡の剣が迫る。

 ああ、仕方ねえな。

 サソリはそう思い、その刃を受け…、

「!!」

 その直前、サソリの視線の先には茶釜ブンブクの姿があった。

 サソリは思った。

 操演技術の果てをオレはまだ見ていないと。

 その思いがサソリをほんの少し動かした。

 そのほんの少しの動き。

 サソリを積んだ人傀儡は、チヨの操演する傀儡の刀にその体を貫かれた。

 

 

 

 全てが終わった僕たちは、兄ちゃん達と合流するために洞窟のあった森を抜け、森とステップ、風の国の国境付近まで移動していました。

 テンテンさんと僕とで八畳風呂敷くんが変化した人力車にサクラ姉ちゃんとチヨおばあちゃんを乗せて走っています。

「ブンブク、あんたあの傷で走って大丈夫なの?」

 そうテンテンさんが聞いてくるけど、実は自分で走ってないんだよね、僕。

 僕は風呂敷くんの一部を解除した。

「げっ! あんた何それ!!」

 今の僕の見てくれは、首の無い僕の体に変化させた風呂敷くんの上に、準エコモード(ぶんぶくちゃがま)状態の僕がのっかっているのです。

 走ってるのは僕のチャクラを受けた八畳風呂敷くんの変化体なのですよ。

 いやあ楽チン楽チン。

「うわ、ずっこい…」

 テンテンさんがそう言うけど、こっからが僕の本番だし、あんまし疲れてらんないんだよね。

「兄貴ぃ、皆さんお揃いだそうですぜ」

 カモくんがそう教えてくれる。

「でさ、カモくん。

 我愛羅さんの状態は、どんな感じ?」

 そう尋ねてみると、

「完全に息の根が止まってまさあ。

 あれじゃあ、どう見ても死んでるとしか…」

 ん、了解。

 じゃあ、やっぱり()()が必要だね。

 さっさとみんなに合流しないと。

 僕はタヌキ顔でぼりぼりと兵糧丸をかじりつつ、そう思うのでした。

 

 僕たちが着いた時、兄ちゃんたちは我愛羅さんをデイダラさんから取り返していたところでした。

 これで一安心です。

 そう考えていた時ですが、ネジさんがデイダラさんを発見しました。

 デイダラさんは逃げのびる事が出来ないと分かったのでしょう。

 我愛羅さんを連れ去る際に使った土でできた鳥のようなものにかじりつき、

「みんな急いでここから離れろ!」

 ネジさんの言葉に、なにが起こるか理解しました。

 

 曰く、自爆。

 

 走って逃げても間に合わない!

 ならば!

 僕は八畳風呂敷を地面すれすれに敷いてその下に潜り込みました。

 爆発と言うのは横と上に衝撃が抜けていくらしいので、風呂敷くんの硬度を上げてやれば何とかなるかも、そう思ったのですが。

 …爆発が来ません。

 空間が歪んで、まるで爆発のエネルギーが空間に喰われるように消えていきます。

 どうやらはたけカカシ上忍の新忍術のようです。

 しかし、あんなとんでも忍術使ったら、チャクラの消費も半端じゃないでしょうに。

 おかげでカカシ上忍はふらふらになってました。

 

 兄ちゃんが、我愛羅さんに話しかけています。

 返事が返ってくる事はありません。

 チヨお婆ちゃんが兄ちゃんに落ちつけ、と言ってますが、それは今の兄ちゃんには逆効果です。

 兄ちゃんは我愛羅さんの事が痛いくらいわかるんです。

 同じ“人柱力”であり、おんなじ様に周りから排斥されてきた、というのもあります。

 そして、やっと周りから認められてきた、その矢先だからでしょう。

 兄ちゃんが泣いてます。

「サスケも助けらんねえ、

 我愛羅も…助けらんねえ」

 兄ちゃんの慟哭が僕の心に突き刺さります。

 その兄ちゃんの嘆きに反応したのがチヨお婆ちゃんです。

 お婆ちゃんが一歩前に出ました。

 お婆ちゃんは自身の生命を糧にして相手の傷や命すら取り戻させる転生忍術が使えます。

 それを、という事なのでしょうが。

「兄ちゃん、さっき僕なんて言ったっけ?」

 準備は万端です。

 ここは僕が動くところですから。

 

 

 

 我愛羅の前で自身の無力を嘆いていたナルト。

 その前に、

「兄ちゃん、さっき僕なんていったっけ?」

 弟分の茶釜ブンブクが立った。

 そう、この弟分は、「なんとかなる」そう言ったのだ。

 ナルトはブンブクを見返した。

 全くいつものブンブクだ。

 それならば、

「ホントに何とかなんのか?」

 一縷の望みを託し、ナルトはブンブクに聞いた。

「そだよ。

 そもそも我愛羅さん、完全には死んでないし」

 その言葉に、ナルトを始め、全員が絶句した。

 いち早く立ち直ったのは最年長のチヨ。

「こりゃ子狸、冗談じゃないじゃろうな?」

 さすがに信じられないようだ。

 それに対し、ブンブクはのへらっとした笑みを浮かべながら、それに対して返答した。

「はい、勿論。

 それじゃ説明しますね。

 まず、相手さんの使ったのは、我愛羅さんから一尾さんを強制的に引き剥がし、別のものに封印しなおす術のようです。

 んで、これは当然ながら、一尾さんに反応する術でして、一尾さんの中にある、一尾さん本来の部分と変質した部分はどうやら吸収できなかった、もしくは一尾さんが故意に残す事が出来た部分があるようなんです」

 ブンブクの言葉にナルト、およびガイが首をひねる。

「え~と、つまり…どういうことだってばよ?」

「ぶっちゃけて言うと、一尾さんは一部を我愛羅さんの中に残す事が出来た、つまり引っぺがされなかった部分が残ってるって事。

 そのせいだと思うんだけど、我愛羅さんは死に切ってないんだよね。

 だから、一尾さんがごっそり欠けてはいるものの、その部分を補てんしてやれば我愛羅さんは死の淵から戻ってくるって事」

 そう言うと、兄ちゃんの顔色が目に見えて良くなる。

 でも、

「…じゃあ、その『補てんしてやる』部分は何処から持ってくるのかな?」

 そう言うのははたけカカシ上忍。

「それは、ワシが…」

 そう言いかけるチヨお婆ちゃんを僕は制止する。

「チヨお婆ちゃん、それやったらさすがに死んじゃうでしょ。

 お婆ちゃんには今する事があるんだし、僕の方がリスクが少ないんだよ」

「…それはどういう意味かの?

 お前も転生忍術が使える、と?

 もし使えるとしても、あまりにも危険度が高くはないかの?」

 さすがにそんな超級の忍術なんて僕には使えない。

 でもね。

 僕はにんまりと笑うと、

「転生忍術とは別のやり方で、補てんが出来るんですよ、僕は。

 危険はありますけど、成功率は高いですよ。

 まあ、任せて下さいって」

 そう言いきったのです。

 

 僕は我愛羅さんの前に座り込みました。

“カモくん、里の皆にお願いする必要があるけど、本当に大丈夫だね?”

 里に戻したカモくんに、念話で再度の確認です。

“オッケーすよ兄貴、こっちは今か今かと待ってるとこっす”

 おっけー。

 んじゃあ始めようか、この茶釜ブンブク、一世一代の大技を。

 僕は兄ちゃんに向かって拳骨を突きだしました。

 兄ちゃんも僕に拳骨を突きだします。

 僕と兄ちゃんの拳骨が、こつん、とぶつかります。

 それだけで、僕には万の援軍があるのと同じなのです。

 

 

 

 皆の見ている前で、茶釜ブンブクは、「ぱん!」と手を合わせ、術を行使し始めた。

「口寄せ・狸穴(まみあな)大明神(だいみょうじん)(たぬき)燈篭(どうろう)!!」

 地面より巨大な鳥居と同じく巨大な燈篭が2列、4対8基湧き上がってきた。

「これが…!」

 カカシ、ガイですら目の当たりにすると驚愕する光景だ。

 これがブンブクの行える最大の術、口寄せ・狸穴大明神、狸燈篭の術。

 化け狸の里への異界門を開く術である。

 そしてここからがブンブクの術の本番であった。

 複雑な印を組み、

「口寄せ・猩々寺(しょうじょうじ)狸囃子(たぬきばやし)!!」

 そうブンブクが唱えると、場に異変が起きた。

 

 まずは香りだった。

「? なにこの匂い、香水? 花の香り?」

 サクラが周りを見回す。

 次に起きたのが光。

 草原に様々な色の光が、まるで蛍のように舞い始めていた。

 更に音。

 しゃなり、しゃなり、しゃんしゃん。

 鈴の音も涼やかに、空から神楽鈴を持った天女たちが舞い降りてきた。

 しゃんしゃんと鈴が降られるたび、我愛羅に光の粉が舞いかかる。

 そしてその鈴の音にひかれたように、雅な、しかしてどこか楽しげな雅楽の音が鳴り響く。

 異界門から、楽師達が到着したのだ。

 数十人に及ぶ大楽団。

 狩衣を身にまとい、薄手の衣装を幾重にも重ね、単色ではありえない美しさを演出した美男、美女の集団。

 彼らが持つ楽器もまた光達が纏いつき、幻想的な雰囲気を高めている。

 彼らが高らかに曲を奏でるとその後に続くのは踊り手の一団。

 こちらも見事な衣装を身にまとい、時にゆったりと、時に激しく、光を反射しながら踊りまわる。

 彼らはくるりくるりと踊り、奏でながら我愛羅の周囲に光と音の乱舞を顕現していった。

 

 砂漠を駆け抜ける一団があった。

 向かうは草原の先、森林地帯。

 先頭に立つのは我愛羅の姉であるテマリ。

「急ぐよ、みんな!」

「ぜっ、や、病み上がりにこの速度は辛いじゃん…」

 愚痴を言いながらも付いて行くのは我愛羅の兄であるカンクロウ。

 そして、里に残っていた砂隠れの里の忍達。

 我愛羅を心配する里の忍達、その内里の最底辺の警備のために涙を飲んだ者達以外が我愛羅の為に走る、走る。

 しばし走った後、彼らは異変を感じる。

 彼らの走る先、我愛羅のいる方向から妙なる音楽が聞こえた。

 テマリが足を止め、警戒を促す。

「一体、何が起きてるんだ…」

 険しい表情で先をにらむテマリ。

 この先には我愛羅がいると言うのに。

 焦りが募る。

「…なあ、テマリ。

 これってもしかして…」

「なにが言いたい、カンクロウ?」

()()()が関わってんじゃねえ?」

 …ありそうだ。

 テマリは苦笑いをしながら、

「間違いないんじゃないのか?

 …ブンブクだし」

 そうのたまった。

 ブンブクが聞いたなら、己の扱いにさめざめと泣いて見せた事だろう。

「んじゃ、とっとと行くじゃんよ。

 祭りに遅れるじゃん!!」

 カンクロウの台詞と共に、砂隠れの忍達は走り始めた。

 その表情は、先ほどより若干なりとも柔らかかった。

 

 

 

 僕はカモくんに秋道印の兵糧丸を食べさせてもらいつつ、術を維持し続けていました。

 そうすると、少しづつですが、我愛羅さんの顔に生気が戻りつつあります。

 今僕が使っている術、口寄せ・猩々寺狸囃子ですが、これは本来なら人相手には使えない術です。

 化け狸の祭を行い、そこで湧き出た狸の精気、それを死んだ狸の魂に変換して補てんするのです。

 言ってしまえばたくさんの化け狸から少しづつ魂の欠片を譲ってもらって、それを狸の魂の形に生成し、狸の体に入れることで復活させる、というもの。

 なので、人である我愛羅さん使用できる術ではありません。

 それが可能になっているのは、我愛羅さんが守鶴さんの人柱力であり、抜き出されたのが守鶴さん、つまり化け狸の始祖であるからなんですよ。

 それに加えて、どうやら守鶴さん、自分の中に溶けていたかつての人柱力を構成しなおして、それに自分の力を封じることで我愛羅さんに一尾の力を残すことに成功したみたいなんです。

 そのおかげで大分楽に我愛羅さんの欠けた構成要素を補てんできるというもの。

 

 周囲の祭はそろそろ佳境を迎えつつあります。

 一通りきれいどころ(中身は狸な訳ですが…)が揃い踏み、ここから大御所がやってきます。

 門の奥から、どう見ても白装束の演歌歌手にしか見えないものが、せいやっ、せいやっと掛け声とともに筋肉の集団の担ぐ御輿に乗ってやってきます。

 あれは芝右衛門さんかなあ、しばらく前に「サブちゃん先生」のコンサート行ってたって言ってたしなあ。

 その奥からはデュエット系のムーディーな服装を来た男女。

 多分金平の親子狸さんたちでしょう。

 親子で「男と女の愛遊戯」とかどうかと思うんですけど。

 あ、親子でなくて、夫婦でしたか。

 後ろからおんなじ様なムーディー系がもう1組やってきました。

 こっちは「三年目で破局」とか、何か縁起でもない。

 あ、好きなんですか、そうですか。

 軍隊風の楽団その者に変化してきたのは禿げ狸、という通称の老狸の爺ちゃんです。

 微妙に音程が外れているのが御愛嬌。

 とは言え、集団に化ける事において、爺ちゃんの上に立つ者はいないという話。

 これまた凄いものです。

 次もまた強烈。

 電飾がぎっしりと詰まった、総重量1tはありそうな衣装? というかセットと言うか、を身にまとい、がらがらとうう音とこれまたたくさんの狸たちに傅かれて、女の情念を歌いあげる女性。

 どうやら団三郎さんでしょうか。

 あんだけ重たそうなもの着込んで腰とか大丈夫なんですかね。

 それも含めて全部変化ですと!?

 相変わらずとんでもないです。

 そしてオオトリ。

 隠神刑部さんですが、なんとフォーク系。

 ベルボトムのジーンズに、デニムのチョッキ、色つき眼鏡(サングラスと言うのはどうかと…)にギターを構えて熱唱しております。

 さて、一通りの披露が終わった後、大団円に入るようです。

 周囲に光の粒子が舞い散り、妙なる音楽が僕たちの耳に響きます。

 皆さんが、天人の様な、ふわりとした衣装に身を包んだ美男美女に変化し、ゆっくりと昇天してきます。

 それと共に、光の粒子、もうすでに滝のようなそれが我愛羅さんに吸い込まれていって…。

 

 

 

 砂隠れの忍達はあっけにとられていた。

 化け狸たちの乱痴気騒ぎ、それがおさまったと思ったなら、余りにも荘厳な幕切れが目の前で繰り広げられていた。

 いっそ神秘的ともいえる美男美女の昇天、そして振り落ちてくる光の渦。

 それが己の里長の体の降り注ぎ、そして、

 

 我愛羅の瞼がピクリ、と動いた。

 

 我愛羅は夢を見ていた。

「封印術・幻龍九封尽」によって、死の淵に追いやられている間、少しずつ己という情報が我愛羅から失われる夢だ。

 我愛羅は我愛羅から切り離され、だんだんと自分を失っていった。

 その時であった。

「あなたは大丈夫」

 そう我愛羅に話しかけるものがあった。

 我愛羅ではない誰か。

 それは、両の手を合わせた僧侶の姿をしていた。

 推せば倒れそうな枯れ木のような体、プルプルと震えながら差し出されたその手が我愛羅の頭を包む。

「大丈夫、あなたは大丈夫、目を開いてごらんなさい、耳を澄ませてごらんなさい、あなたを呼ぶ人がいます」

 消えかかっていた我愛羅、その頭を包んだ手から、暖かいものが感じられた。

 僧侶はそっとその手を離す。

 僧侶が触れていた我愛羅の額。

 そこに、体と同様に消えかかっていたはずの「愛」の文字がくっきりと浮かび上がっていた。

 その「愛」の文字から暖かい力が我愛羅の体に広がっていく。

 意識が急速に覚醒していく。

 我愛羅は僧侶に手を伸ばした。

「アンタはいったい…」

 僧侶はその皺だらけの顔に、有るか無しかの微笑を浮かべ、

「また会いましょう、我愛羅殿…」

 そこから、我愛羅の意識は更に覚醒していく。

 そうだ、オレは我愛羅、砂隠れの里の長で、一尾の人柱力、そして…。

 

「我愛羅…」

 目の前には我愛羅が友と呼んだ男、ナルトがいた。

 ここはどこだ?

 我愛羅が周囲を見回すと、

 そこには、テマリ、カンクロウをはじめとした砂隠れの忍達が、気遣わしげに我愛羅を覗き込んでいた。

 予想だにしない事の呆然とする我愛羅。

「これは…」

「お前を助けるために、みんな走って来たんだってばよ…」

 そういうと、ナルトはニッカリと微笑んだのである。

 

「ありがとう、ナルト」

 我愛羅の兄姉達が若干ひねた愛情表現をし、砂隠れの忍び達が喜ぶ中、我愛羅がナルトに感謝の言葉を掛けた。

「それを言うならオレじゃなく、ブンブクに言ってやってくれ。

 お前をさ、すっげえ忍術で助けて…」

 そう言って振り向いたナルトの目の前に、ブンブクはいなかった。

 足元に転がる手乗りサイズの茶釜。

「…おい、ブンブク?」

 ナルトは知っていた。

 茶釜一族は死ぬと鉄瓶とか、急須とか、そう言ったものになってしまう、と。

「冗談だろ、おい」

 返事が、無い。

「そ、そんな…」

 ナルトは茶釜に手を伸ばし、

 

 ぽへん!

 

「いや死んでないから」

 いつもの茶釜に間抜けな狸の顔、手足と狸の尻尾が生えた、ブンブク曰く「準省エネルギー」の文福茶釜モードである。

 てちてちとナルト達に近付くブンブクに、主に女性陣(稀に男)からの黄色い声(稀に野太い声)が響く。

 短い手足を動かして、我愛羅の肩に乗るブンブク。

 そして、

「おかえりなさい、我愛羅さん」

 そう我愛羅に告げた。

 

 

 

「茶釜ブンブク、お前にも迷惑を…」

 かけた、と言おうとする我愛羅さん、僕はその先の言葉を止めた。

「僕もさ、兄ちゃんも、迷惑だなんて思ってないです。

 これは僕らの身勝手なんだから。

 僕も兄ちゃんも、結局のところ我愛羅さんがいないのは嫌なだけなんです。

 多分、みんなも同じじゃないのかなあ、ねえ」

 僕は砂隠れの皆にそう問います。

「全くだ。

 心配掛けやがる弟じゃんよ」

 なんて言うのはカンクロウさん。

 確か毒を受けて治療してたって聞いたけど、来たんだねえ。

「何だお前、偉っそうに…」

 なんて言うのはテマリさん。

 周りの砂の忍さんたちも我先に、と我愛羅さんの周りに集まってきます。

 それを見て、僕は我愛羅さんの肩から飛び降りました。

 なぜだか女の子たちからため息が聞こえました。

(美少年とマスコット、ありね!)とか聞こえてませんから!!

 

 僕はみんなの輪から少し外れた所にいるチヨお婆ちゃん、エビゾウお爺ちゃんの所に行きました。

 お婆ちゃんは、みんなを穏やかな顔で見ながら、僕に話しかけました。

「時代は、動いておるんじゃなあ…」

「はい…」

 僕はそう答えます。

「うずまきナルト、か…。

 下らぬ年寄りどもが作ったこの忍の世界に、

 あのようなものが現われてくれるとは、うれしいもんじゃの…」

 …感動です。

 こんなに素直に兄ちゃんを褒めてくれる人がいるとは。

「えへへ、そうでしょ! うちの兄ちゃんは凄いんですから!!」

 僕は胸を張ってそう言えます。

「かつて、ワシがやって来たことは間違いばかりじゃった。

 じゃがな、こうして若い世代が手を取り合えるのなら、次の砂と木の葉の関係は、良いものになるじゃろうて」

 …お婆ちゃんは、後悔しているのだろうか。

 ならばさ。

「お婆ちゃんにはまだやる事があるでしょ」

 僕はそう言います。

「まずは話をしなきゃ。

 そっから始めようよ」

 僕はそうお婆ちゃんに言いました。

 それが、この事件の幕引きとなったのでした。




これから、閑話をいくつか、その後オリジナル展開に入ります。

内容について、いろいろ突っ込みどころがあるかと思いますが、一応伏線であります。

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