NARUTO 狐狸忍法帖   作:黒羆屋

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初めて書いた二次小説であります。
楽しんでいただけたら幸いです。

「雪屋」様からブンブクのイラストをいただきました!
 えっらいかわいいので是非見てください。

【挿絵表示】



第0部 茶釜ブンブクの日常
第1話(挿絵あり)


 僕、茶釜ブンブクの朝はご先祖様へのあいさつから始まる。

「おはようございます、今日も一日よい日でありますように」

 そう実家の奥に作られた祭壇に手を合わせる。

 ずらりと並べられたご先祖様、つまりやかん、鍋、花瓶、風鈴、湯呑み、等々の()()()()に対してである。

 うちはいわゆる血継限界…血族により伝えられる異常な術、能力をもった家系だ。

 まあ、だからといってうちが特に周りから畏怖されたり尊敬されたり毛嫌いされているわけではないのだけど。

 うちの血継限界はそれはもう微妙なもので、「金遁・什器変化」という。

 なんじゃそれは、と言われてもしょうがない。

 血継限界の特徴として、印を結ばず発動できる、というものがあるが、僕は手を使わないで「茶釜」に変化できるのである。

 ちなみに僕が茶釜に変化したのは2歳の時。

 おっとう(父親)おっかあ(母親)には「一族始まって以来の天才だ!」と持ち上げられたものの、正直うれしくない。

 うちの一族は歳喰ってじいじ、ばあば(高齢)になるとある日、器物から人間に戻らなくなるらしい。

 なんでも昔、火の国のお殿様に仕えたうちの一族がそのまんま殿様の湯呑みになったまま戻らなくなったそうで、そのことを忘れたある日、殿様のひ孫の殿様が隣国の忍に殺されそうになったところで湯呑みがどろんと爺忍に変化して返り討ちにしたんだそうだ。

 不思議なことに、爺忍はそのまま姿を消し、湯呑みもなくなっていたそうで、どうもうちの一族は死ぬ直前に器物に変化することでチャクラの消耗を避け、いざというときのために備えている、ようだ(いや、僕は前途有望なおこさまですから、まだまだ後80年くらいはそうなる予定ありませんから)。

 実際僕の生まれる前にあった「九尾事件」のときにはうちのご先祖様がぽんぽんと復活なされ、里の防衛にあたったとかなんとか。

 おかげでうちの一族はいまだに里の一般人からは感謝されているのです。

 忍の血統のおうちからはいまだに小馬鹿にされるけどね、ま、それはしょうがない。

 写輪眼のうちはとか、白眼と柔拳の日向、現火影の血統である猿飛とかと比べると、ねえ。

「うちの異能は茶釜とか茶碗になることです」っつってもねえ。

 かつて元三忍の一人、大蛇丸さんが里抜けする際にもうちの一族無視されたくらいだし。

 てか研究マニアの大蛇丸さんが興味持たなかった血継限界って一体…。

 考えるのやめよ、むなしくなるだけだ。

 

 さて、朝ご飯をおっとうとおっかあとの3人で食べる。

 白いご飯と具沢山の御身御付汁(おみおつけ)、焼いた川魚の干物に御新香(おしんこ)、朝には欠かせない生卵と見事なバランス食。

 おっかあは本当に料理がうまい。

 今は引退しているが、凄腕の感知型忍者でもあったらしい。

 幸せそうに白飯をかっ喰らっているおっとうも戦闘系としてはそこそこなのだそうだ。

 子供のころは(今もそうだって? 忍術学校に入る前の話だって!)うちの血継限界でどうやって戦っていたのかしらん、とか考えていたけれど。

 そうやって家族の団欒をしていると時間が迫ってくる。

 そう、忍術学校に僕は通っているのだよ。

 現在、僕は11歳。

 後一年で卒業、という大事な時期である。

 真面目に予習復習を行い、鍛錬も欠かしていない。

 成績優秀な、とはいいがたいが模範的な生徒でうれしい、とイルカ先生は言う。

 なんというか、妙な実感と変な期待感のこもったまなざしで僕らを見るのである。

 まるで、「どこぞの誰かのような真似はしないでくれよ~」という心の声が聞こえてきそうな。

 僕らの前に担任として受け持った生徒のときはかなり苦労したらしいしね。

 うずまき兄ちゃんなにやってんの、こぉんな良い先生に負担かけて、とお説教したのは昨年の春でした。

 そのうずまき兄ちゃんも下忍から中忍試験を受けるまでになったそうで、この前自慢げに報告しにきた。

 うちのおっとうもおっかあも中忍なので、2人のときはどんな試験が出るのか、と事前に聞いておいてあげたんだよね。

 2人のときは一次予選がペーパーテスト、二次予選が暗号解読、本試験が実戦形式の試合だったそうで、うずまき兄ちゃんにそれを話したところ、真っ青になって「まずいってばよ、どうすれば…よしっ、また爺ちゃんのとこに忍び込んで問題を…」とか言ってた。

 さすがに火影様の邸宅で問題を作ってることはないんじゃないかと思うけど。

 そもそも、そんな兄ちゃんに不利な試験問題が出るとは限らないじゃない、と慰めたものの、兄ちゃんは「忍術学校の卒業試験、俺3回落ちてんだってばよ、苦手な分身の術で…」…何とも慰めようがないです。

 とはいえ、チームが()()うちはのサスケさんと秀才のサクラ姉ちゃんでしょ、チーム戦なんだから大丈夫でないのかしらん。

 なんだか難しい任務をこなしてるらしいし、チームワークはばっちりっしょ。

 そもそも忍の昇級試験なんだからバカ正直に問題解くとかないと思うんだよね。

 普通に優秀な2人と、僕らのヒーロー(悪ガキ)的優秀さをもったうずまき兄ちゃんのトリオなら結構さっくりとクリアーできると思うのです。

 そう言ったらうずまき兄ちゃんもう鼻高々で、さっきまでの鬱状態はどこへやらのハイテンション。

 気分よくお家に帰って行ったのでした。

 

 それはさておき。

 さて、時間が迫ってきたので「いってきます!」と両親に告げてうちからダッシュ、これもまた修行である。

 身体能力、特に持久力はどんな職業においても基本になるからね。

 ダッシュと競歩を組み合わせて休むことなく走り続ける。

 うちは木の葉の里のちょっと外れたところにあって、学校は火影の顔岩のあるあたりなので、ちょっと距離があるのですよ。

 そこまで緩急をつけて走るのはこの年だと丁度いいウォーミングアップになるのです。

 走りながら今日の授業内容を頭の中で反芻し、同じ方向に歩いていく同級生たちに挨拶をしていく。

 今日は遁術の実地訓練があるんだよね、あんまし得意じゃないんだよね。

 幻術と変化に関しては突出した才能があるらしいんだけど、その他は下の中、よくて中の中だからね。

 実際僕の使える術は間が抜けているものが多いと思う。

 変わり身の術は使えるよ、ええ。

 え、高等忍術じゃないかって、まあ、普通のアカデミー生は使えないよね。

 でもさ、茶釜に変化したうえで、ほかの食器と入れ替わるしかできないとかさぁ、微妙すぎない!?

 影分身だってお手のものさ、食器の分裂にしか使えないけどさ!?

 自分ひとりでご飯茶碗と汁もの茶碗とお皿2枚に御箸とお盆、湯呑みにまで変化分身できるぜ、すごいだろう!(泣)

 初めてできた時にはそりゃもう一人枕を涙で濡らしたさ。

 だってあれだよ、うちの両親は「これでうちも安泰だ!」ってもう祝杯ムードよ。

 水を差せないじゃない。

 これならうずまき兄ちゃんみたいに大爆笑してくれたほうがまだ気が楽だよ。

 サクラ姉ちゃんだけだったよ、何とも言えない表情で肩をぽんと叩いて慰めてくれたの。

 サクラ姉ちゃんが望むなら僕はうちはサスケさんへの恋のキューピッドを務めるのもやぶさかではない。

 ちなみに破たんしたとしても当方は責任を取りかねます。

 こんな感じで実技は正直いって微妙なのですよ、僕。

 座学は比較的得意なんだけどねえ。

 知らないことを知る、というのは僕にとって快楽なのですよ。

 ちゃっちいとは言っても(失礼)血継限界持ちの忍の家に生れた以上、好き勝手に旅行をするようなことはまずできない。

 卒業して下忍となればお仕事お仕事で好みの知識を仕入れることも難しいのではないだろうか。

 そうなると、こういう学び屋で知識の学ぶことができる子どもという時期は僕にとってとても貴重な時間なのだ。

 というわけで学校に着くと僕は早速カバンから本を引っ張り出し、魅惑の読書タイムへと… できるわけがないわけで。

 そらそうでしょ、周りには遊びたい盛りの同級生たちがいっぱいで。

 しかもあれよ、みいんな忍候補生なわけですよ、もう元気いっぱい。

 ま、僕も体を動かすのは大好きなわけで、さ。

 追いかけっことかさんざん遊んでるうちに時間が来て、それでも騒いでると担任のうみのイルカ先生に怒られる、と。

 だからそろそろやめようって言ったじゃん。

 ほれほれ、僕も一緒に怒られるから先生のお説教聞こうね。

 

 

 

 忍者学校の教員を務める中忍、うみのイルカにとって茶釜ブンブクという生徒は自分の担任する愛すべき生徒であるとともに、不思議な存在でもあった。

 かつての教え子であるうずまきナルト、彼を兄と呼びその後ろをついていく姿を以前から見かけていた。

 さすがにナルトが下忍となり、任務で里を開けるようになるとそうはいかなくなり、ほほえましい姿を見る機会はだいぶ減ったけれども。

 しかし、その姿が最初からそうだったわけではないこともイルカは知っていた。

 

 ブンブクはこう言っては何だが普通の家庭の子供である。

 二親が生きており、両親からの愛情を目いっぱい受けて育ってきている。

 片やうずまきナルトは一桁の年齢から天下孤独の一人暮らし。

 身寄りがなく、身元引受人の猿飛ヒルゼンは高齢の上火影としての業務に忙殺されており、里全体に広まるナルトへの悪感情を把握しきれていなかった。

 なにせヒルゼンの目である暗部にすらナルトを嫌悪する者がおり、ヒルゼンがナルトの状況を把握するのを妨げていたからだ。

 それがヒルゼンへの悪感情からきているものであればまだ良かっただろう。

 彼らの忠誠は三代目火影であるヒルゼンへと向けられており、彼にとってマイナス要素となるナルトを排除することがヒルゼンへの忠誠を示す、そのような流れが出来上がってしまっていたのである。

 実際、九尾事件の後数年は木の葉の里の中に暗い雰囲気が漂い、犯罪件数の上昇、被害を補てんするための資金捻出のしわ寄せがさまざまなところに出ており、里の民の不満がたまっている状態だった。

 九尾の生まれ変わりであるという少年は丁度良いスケーブゴート(生贄)であったのだ。

 これは自然発生した、という面もあるが、それを増長させたものもいたのであろう。

 暗部は少年への虐待を些細なものとし上層部に報告しない、という行動に出たのである。

 少年の素性は里の民を混乱させないために極秘とされた。

 九尾事件の英雄である四代目火影の直系であり九尾の妖孤の人柱力、その者への扱いを九尾によって親しき人々に被害が出た里の民が扱いかねるのは目に見えていた。

 そのため、汚いものはすべてたった一人に押し付けることで小を切り捨て、大を生かすことを選択した者たちがいたのかもしれない。

 組織は長く続き、巨大化すればするほど、暗く、腐敗臭のする面を仕切らなければならない人材が出るものだ。

 九尾の人柱力であることを除けばただの子供でしかない少年。

 その苦肉の状況が少年の心を追い詰めることになっていた。

 

 イルカはナルトが忍者学校に入学する前から、彼が公園で肩を落とし、他の子供たちが楽しそうに遊んでいるのをうらやましそうに見ているのを知っていた。

 イルカとしても、「九尾事件」で自身の両親が命を落としていることもあり、当初は憎しみをこめた眼でナルトをにらんだものだった。

 しかし、長じて子供時代の孤独、両親の死を乗り越えたイルカは里の皆からの憎悪の視線を受けるナルトを見て、「これは違う」と感じるようになった。

 ちょうどその頃からだろうか、どろりと濁った目のナルトの周りを幼児がちょろちょろとついて回るのを見るようになったのは。

 最初に見た時は、声を荒げたナルトが2、3歳の幼児にくってかかっているところであった。

 あれだけ罵倒されれば、声の大きさだけで普通は逃げ出しているのではないだろうか。

 しかし次に見た時も、その幼児はニコニコとした顔でナルトについて歩いていたのだ。

 さらに次に見た時に見た時にはナルトに無視され、置いてきぼりにされて泣いていたというのにその次に見た時にはケロリとしてまた何が楽しいのか、ニコニコとしながらインプリンティングされたカモのヒナよろしくぶすくれた少年の尻について回っていたのである。

 それからだろうか、一年以上かけ、濁った目をした少年は見事に陽気な悪ガキへと変貌していったのである。

 ちょうどその頃中忍試験に合格したイルカに、忍者学校の教員にならないかとの誘いがあった。

 若くして両親を失い、苦労をした分、彼は他者への共感に長けていた。

 それは人として優れた点ではあったが忍びとしては欠点になりうる。

 自身の長所、短所を把握していたイルカにとってこれは渡りに船であった。

 忍は非情でなければならない、これは正しい。

 しかし非情の忍を量産しようとした霧隠れの里ではあまりのやりように手駒となる忍自体の数が激減し、後に残ったのは人格が破綻したシリアルキラーばかり。

 まともに里を運営する人材が残らなかったのである。

 真に必要なのはいざという時に非情になれる強じんな精神力をもった「人」なのである。

 もちろん人である以上、気弱になり、誰かにもたれかかることもあるだろう。

 そういう時、支えの一助となれるのなら、そう考えてイルカは教員の道へと踏み込んだのである。

 その後、うずまきナルトは忍者学校へと入学し、うみのイルカはその担当教諭となった。

 それからの数年はイルカにとって激動の時期であった。

 まあなんというか、ナルトは見事に問題児であった。

 ひたすら、「面白い」事件を量産しちゃってくれるナルト、その事後処理に忙殺される毎日、しかし不思議と嫌だとは思わなかった。

 子供のころに体験できなかったおもちゃ箱をひっくり返したような日々。

 ナルトと関わることで、イルカは自身が得られなかった子供時代をナルトと共有していたのだろうか。

 ある意味、それはうみのイルカという人格が一度生まれなおす、子供返りを体験していたのかもしれない。

 そうしてイルカは本当の意味で大人になることができたのかもしれない。

 そんな2人の傍らにはあの幼児、いやもう少年となっていた茶釜ブンブクがいたのである。

 

 

 

 さて、座学の授業中はとにかく僕にとって楽しい時間だ。

 うずまき兄ちゃんあたりは退屈でしかたがなかったのだろうが、よそ見とかそんな勿体ないこと出来ないね。

 イルカ先生の授業はとっても分かりやすい。

 内容そのものは事前に予習をしているし、十分な把握ができている。

 それに、先生の話し方はとても面白い。

 単純に教科書の内容を話すだけじぁなく、いろんな例や実体験を声に抑揚をつけることで、みんなをうまく話に引き込んでいく。

 話しているのは僕たち生徒全員に対してなのに、まるで一人一人に話しかけているように感じるんだ。

 これはやっぱり中忍としてイルカ先生が培ってきた技術のたまものなんだなあ、と考えるとおろそかにはできないよね。

 卒業までに少しでも体得できるように頑張らねば。

 学校で習う内容はあくまでも基礎の基礎。

 卒業したら下忍として一歩踏み込んだ内容を体得しなければならないのだから、そう悠長にしてられないだろうしね。

 ということで、今のマイフェバリットは「イルカ先生からコミュニケーション技術を盗め!」です。

 やっぱり凄いよね、先生。

 さすがうずまき兄ちゃんを導いた人だけあるよ。

 ほかの先生方もイルカ先生を見習えばいいのになあ。

 どうも生徒にただ忍として必要な技術を教え込めばそれでお仕事終了と思っている先生が多い気がする。

 やっぱり信頼関係があると教わるほうも教えるほうも効率が段違いだと思うんだけどなあ。

 

 午後は実地の訓練が入ってくる。

 自慢ではないけど体術はなかなかすごいよ。

 先生からも褒められるくらい…。

 え、なに口ごもってるんだって?

 いや、ほら、学校に入る前ってうずまき兄ちゃんとかと鬼ごっこなんかして体術を鍛えてたんだけどさ。

 兄ちゃんって動きが動物じみてんじゃない?

 それにつられて僕も四足の移動とかが得意になっちゃってさ。

 さらに、「おまえは見込みがある!」とか兄ちゃんの同期の犬塚キバさんに言われてね。

 ついいい気になって体術を教わったらすっかり馴染んじゃった。

 まあいいんだけどね、うち(茶釜)の伝統体術も低い姿勢からの突き上げとか多いし。

 感知能力も高めで、これはおっかあに似たのではないかと自分では思っている。

 ところが同じ体術でも手裏剣なんかの投擲系は正直言って苦手。

 遠くから攻撃できるってかなりのアドバンテージになるので必死こいて練習してるけど、どうも上達しない。

 忍術もかなりだめなんだよね。

 さっきも言ったけど幻術と変化に関して、僕は結構やるほうだと思う。

 んだけどさ、特に五遁に関してはかなりぼろぼろ。

 特に火遁とか全く駄目。

 ちなみに例の感応紙を使ったチャクラの性質変化の調査では土と火だったんだけどね、なぜか。

 まあ、紙の端っこがちょっとぼろけてなあんとなく焦げくさいようなにおいがした、程度だったんだけど。

 ちなみにうちの血統としてチャクラは土と火だそうなのでおかしくはないのだけれど。

 いまだに火遁とか火種すら作れないし。

 まだ虫めがねのほうが有用とか、さすがにへこみますわね。

 土遁のほうは一生懸命集中してやっとこさ泥団子ができました。

 まあこのしょぼさのおかげで親しみやすい美少年の称号を周りからいただいております、だからいいのさっ(良い訳ゃない)。

 

 授業が終わり、それぞれうちに帰って修行だの家事手伝いだの、一番多いのは友達同士で遊びに行くことですが。

 ともあれ、イルカ先生から「そろそろ中忍試験だからな、他の里の人たちも来ているんだから迷惑をかけたりしないようにな」とのお言葉があり、みなさん今日のところはお家に帰る、とのことであります。

 どうせならちょっと遊んで行きたかったんだけどな。

 忍者ごっことか好きなんだよね、以前はしたことなかったし。

 ま、しょうがない。

 みんなとはうちが離れてるし、だらりだらりと帰りましょうか。

 そんなことを考えながらうちへの帰路についていると「ワン!」ってうおっ! ビックリした。

 後ろから背中に飛びつくものがいた。

 耳が長いのが特徴の小型犬、犬塚キバさんの相棒「赤丸」くんである。

 そういえば赤丸くんって白犬なのに赤丸って名前なんだよね、なんでだろ。

 それはともかく、赤丸くんがいるってことは「ぃよう! ブンブク」キバさんがいるってことだよね。

「あ、キバさん、こんにちは」僕は礼儀正しく、先輩であり、木の葉隠れの里の下忍であるキバさんに挨拶をした。

 キバさんはいわゆるガキ大将的な人で、僕もだいぶお世話になった。

 うちの家系は血継限界がアレなので、同世代の子供からはバカにされやすかった。

 そこら辺を主に拳骨で矯正してくれたのがキバさんだった(もっともその後にお母さんのツメさんから粛清をくらっていたが、あれはトラウマものだったよ、ほんと)。

 ちなみに兄ちゃんはそういうのあんましうまくないんだよね、やりすぎるっていうか。

 うずまき兄ちゃんを「お兄ちゃん」とするなら、キバさんは「兄貴」なんだよね、僕にとっては。

 兄ちゃんの世代の人はとても優秀な人が多い。

 サスケさんとかがその代表だけれども、山中・奈良・秋道の、いわゆる猪鹿蝶の家の子供たちもこの世代だ。

 この人たちとも僕は親交がある、ありがたいことに。

 その橋渡しをしてくれたのがキバさんである。キバさんまじオヤビン。

「おう、元気か、チビ」

 余計なお世話っすよ、キバさん。

 僕は背が小さい。

 同年代の男の子と比べても頭半分くらいは背が低い。

 そこそこコンプレックスなんだから突っつかなくてもいいのに、キバさんまじいじめっ子。

「あ、そういや兄ちゃんがなんだか中忍試験出るって張り切ってたんだけど、キバさんは?」

 そう聞くとキバさんはニッと笑い、小鼻を膨らませながら自慢してきた。

「おう、俺達は確定。ナルトの奴はまだ無理だろ、でもあいつとだったら楽勝だな」

 それはどういう意味かな。

 うずまき兄ちゃんは意外性の人だからね、組むとめんどくさいけど敵対すると大変だよ。

 キバさんも兄ちゃんに突っかかってはひどく面白いいたずらで撃退されてた記憶があるんだけど。

「バッカ、遊びと実戦を一緒にすんじゃねえよ! 俺が負けるわけねえじゃん!」

 キバさん自信満々である。

 それからうちの里から誰が出るんだろうとか、そういう話をしているうちにだいぶ時間が経ってしまっていた。

 なんだかんだいってキバさん面倒見いいし、話していて楽しいんだよね。

「あ、やッべ、買い物済ませなきゃ、母ちゃんに怒られる!」

 あ、うんツメさん怖いもんね。

 ここに兄ちゃんがいたらここぞとばかりにあおるんだろうけど、兄ちゃんも怖いよね、ツメさん。

 大慌てで商店街のほうに走っていくキバさんと、それを楽しそうに追いかける赤丸くん。

 さて僕も帰らなきゃ。

 

 帰り道でうずまき兄ちゃんとあった。

 隣にはイルカ先生。

 今回は珍しく、兄ちゃんがイルカ先生に一楽のラーメンを奢るのだとか。

 なんか最近難度の高い任務をこなしたって話だし、それ相応のお給金が出たんだろう。

「ブンブク、おめーにも奢ってやろうか?」とか言われたけど、兄ちゃん目が泳いでるよ、あんまし余裕ないんでしょ、無理しちゃだめだって。

 晩御飯は家族で取ることにしている、ということにして断りを入れ、むしろ今度またうちにご飯を食べに来るよう約束を取り付けて今日は帰ることにした。

 兄ちゃんほっとくと3食インスタントラーメンだし。

 未来の火影がそんなんでいいわけないでしょ、一日三食五十品目。

 しかし、中忍の本試験楽しみだな。

 誰が勝ち残ってくるのか楽しみだけど、やっぱり気になるのはマイト・ガイ上忍のお弟子さんである。

 前に訓練場で見たけどかっこいいよね、あの人。

 兄ちゃんと一つしか違わないのに、正中線の通ったあの姿勢、あの年代ではぴか一だと思う。

 同期の日向ネジさんもかっこいいけど僕は断然リーさん派である。

 みんななぜリーさんやガイ上忍のカッコよさがわからないのだろうか。

 ガイ上忍のポーズとか真似したら周り、特に女子からの受けは最悪だった。

 全く解せぬ。

 もうちょっと筋肉の付く体質だったら間違いなくリーさんの弟弟子になりたかった。

 ちなみに両親にそのことを話したらえっらい微妙な顔をされた。

 あれはなんだったんだろうか。

 

 さて、晩御飯を両親とともに食べて(ラッキーなことに中忍試験の準備、警備のためにおっとうは定時上りができる状態だった)今日の授業の復習、明日の授業の予習と久しぶりにおっとうとの組手修行をした。

 もちろんぼろ負け、おっとうは普段優しいが修行のときは手を抜かない、忍の鑑である。

 それからおっとうと風呂に入っておっとうの大きな背中を流す。

 おっとうもそれほど背が高いほうではない。

 しかし、脂肪の少ない、見事な後背筋の浮き出た背中には幾つもの傷が浮かび、歴戦のつわものの風格を醸し出している。

 昔はおっとうの背中を流そうとすると苦笑しながら遠慮されたものだったがいつのころからか背中を流すのを許された。

 この背中に僕と木の葉隠れの里は守られているのだと思うと、ほんとに誇らしくなる。

 この人の誇りになれるような人になりたい、と思う僕なのでした。

 入浴も終わって、後は寝るだけ。

 最後にご先祖様に手を合わせて布団にもぐりこむ。

 明日もいい日でありますように。

 

 え、ずいぶんジジくさい、ですと?

 10やそこらのガキの考えではない、と。

 

 いやそのですね。

 

 まあ、実のところ、僕には生まれる前の記憶、というのがあるんですよ。

 

 そう。

 

 まあ、なんというかね。 

 

 僕、転生者です。




時系列的に原作とエピソードが前後してしまう部分がありましたので修正をしました。

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