NARUTO 狐狸忍法帖   作:黒羆屋

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遅くなりました。
やっと引っ越しも一段落ち着きました。

で、今回なのですが、飛段、およびジャシン教についての独自解釈が入っております。


第36話

 …作戦目標「我愛羅の遺体の回収」及び「この場からの逃走」了承。…

 …敵対対象を確認、彼我との戦力差、S以上。行動目標の変更を要求。…

 …作戦目標「我愛羅の遺体の回収」の廃棄を提案。…

 No。

 …「暁」の情報収集とその情報の里への伝達を優先すべき状況。…

 Noです。

 …作戦目標の複数達成は至難。変更を要求。…

 Noです!

 

 我愛羅さんを回収するのは絶対目標です。

 もう二度と「自己暗示(かめん)」に振り回される訳にはいかないのです。

 その為には、今持っている手札を全部使い切るつもりで行かないと、飛段さんには勝負にすらならないでしょう。

 その上での目標達成はまず無理、そう僕自身が判断しています。

 

 …だからどうした。

 

 今の僕にとってはそれは逃げにしかなりません。

 僕の記憶の中にある言葉が脳裏をよぎりました。

「男なら、危険をかえりみず、死ぬと分かっていても戦わなくてはならない時がある。

 負けると分かっていても、戦わなくてはならない時がある、かあ」

 なら、やるしかないよね。

 今まで鍛えに鍛えた術に技術、戦術に戦略、正統派の大技にせせこましい小技まで全部総動員して、この戦いに挑もうじゃないですか。

 そう考えるとお腹の中に何かがストン、と落ちたような感じがして、気持ちが落ち着きました。

 僕は前を見据えて、飛段さんに向かったのです。

 

 

 

 うちはイタチは意外に思っていた。

 ダンゾウの秘蔵っ子、その名にふさわしい活動をブンブクはしている。

 文字通りあちこちの忍里へ飛び、5代目火影・志村ダンゾウの意を受けて動く。

「木の葉の闇」である「根」の次代の長と目される人物だ。

 その動きにしてはあまりにもおかしい。

 本来なれば自身の危機は最底辺に抑え、どのような犠牲を払っても情報を里にもたらすのが暗部の正しいやり方であろう。

 事実、イタチもそういった環境に身を置いて闘っていた身である。

 しかし、同時に納得もしていた。

 あの「木の葉の貴高き蒼き猛獣」の弟子でもある。

 マイト・ガイは感性にかたよる事は多いものの、その判断が誤った事はない。

 あるのであればとうの昔に死んでいるだろう。

 ガイ譲りの感性が「この場は引く事が出来ない」と判断したのかもしれない。

 ならば勝ち目のない戦いにあえて踏み込んだということか。

 この戦いで、この子狸の真価が問われる。

 イタチはこの戦いから目を話す事が出来なくなっていた。

 

 戦いは意外なことに、こう着状態に陥っていた。

 これは飛段とブンブクの戦い方があまりにも合いすぎていたためであった。

 ブンブクの戦い方はインファイト。

 相手の懐に潜り込み、回避のし辛い距離からの細かい打撃を与える戦闘方法。

 一方飛段の得物は異形の大鎌。

 基本的に「突く」のではなく「振り回す」得物である。

 飛段の筋力は圧倒的に高いが、得物を活かした戦い方をするのであればその懐は死角となる。

 ブンブクは飛段の死角にもぐりこみ、急所に寸鉄を叩き込んでいた。

 無論ブンブクが攻撃を的確に当てることなど何十回に1度の事である。

 しかも、飛段は「不死」。

 ブンブクの一撃など一瞬で回復し、ほぼ怯む様子もない。

 さらには、万が一にでもブンブクが飛段の攻撃を喰らうような事があれば、それはすなわち致命傷である。

 一撃たりともクリーンヒットを貰う訳にはいかない戦闘。

 このこう着状態はブンブクのスタミナと精神力をがりがりと削っていた。

「おらおらぁっ! 気ぃ抜いてると後ろだろうが前だろうがばっさりだぜえええっ!」

 飛段は戦い始めてから全く動きを止めていない。

 この無尽の体力こそが、飛段を暁のメンバーたらしめているともいえる。

 単純なチャクラの保有量ならば、干柿鬼鮫に劣るだろう。

 通常の下忍を1として、上忍を10とするならば飛段は100、鬼鮫は1000にも上る。

 飛段も異常なほどにチャクラの保有量が高いが、鬼鮫はその遥か上を行く。

 しかし、飛段の強みはその回復量である。

 飛段はチャクラを大量に使用したとしてもほぼ一瞬で回復する。

 言ってしまえば飛段はチャクラ消費100の忍術を連発する事が出来るのだ。

 鬼鮫とてチャクラ消費量100の忍術を10度ほども連発すれば死にいたる。

 それ程の技をチャクラ消費をいちいち考える事無く飛段は使用できるのだ。

 それ故に、飛段はチャクラによる身体強化をまったく気兼ねする事無く使用し、圧倒的な身体能力を発揮していった。

 それはブンブクをさらに追い詰めるものであった。

 

 飛段が腕を振り回す。

 獲物である大鎌は、リーチが長すぎる故にブンブクに当たる事はない。

 しかし、

「くうっ!!」

 懐に入り込んでいるブンブクはその腕を避け切るだけのスペースがない。

 しかし、強力と言っていい飛段の攻撃を、ブンブクは何とか捌く。

 それはまるで飛段の攻撃が事前にブンブクには分かっているかのようだ。

 確かに飛段の攻撃は単調であり、フェイントなどは一切入っていない。

 それは飛段の一撃がフェイントなど必要のない、圧倒的な力と速さを持っているからだ。

 しかしだからといって、ブンブク程度の技量で飛段の一撃を避けきるなど不可能である。

 なぜ。

 

 イタチは驚愕していた。

 ブンブクの動きは飛段の動きを先読みしていなければ出来るものではない。

 イタチなら可能だ。

 そもそも飛段はイタチと同じ「暁」の一員であり、いつか戦う時の事を考えてその術は「写輪眼」にて複写済みである。

 さすがにその不死性と彼の「呪術・死司憑血」は複写しなかった。

 あれは飛段の特性と言っても良い。

 イタチも使用は可能であるが、その結果、自身の体質が激変してしまい、今後の活動に支障をきたしかねない状況になるのである。

 しかし、写輪眼を持たないブンブクが、飛段の攻撃を先読みしている。

 しかも、その方法がイタチの写輪眼でも理解できていない。

 つまりそれは忍術、幻術、体術のどれでもない、純粋な格闘技術である可能性を示唆していた。

 チャクラの運用に頼らない戦闘技術。

 過去の遺物と思われるそれを用いて絶対的な強者に挑むブンブク。

 イタチはブンブクのわずかなチャクラの流れから、格闘技術を複写すべく写輪眼を起動させ続けた。

 

 

 

 もの凄い勢いで飛段さんの腕が振るわれます。

 冗談抜きで轟音と共に空気が切り裂かれ、掠めただけで肉がそぎ落とされそうです。

 そんな非常識な攻撃を僕が何とか捌いていられるのは飛段さんの攻撃が単調なのと、鍛えに鍛えた近接格闘の技術である「聴勁」が功を奏しているためです。

 僕はまだまだ修行が足りないのですが、自分の皮膚感覚を高め、相手の攻撃しようとする動作を筋肉の動きから察知予測して対応する技術なのです。

 現在ではとうの昔に廃れた技術ですが、チャクラの量に難のある僕は、前世の記憶からこの技術を引っ張り出し、何とか形にしたのです。

 もっとも、僕では相手に接触していないと察知が出来かねる上に、複雑な動きは察知しかねます。

 とは言え、このままだとジリ貧ですね。

 そろそろカードを切る必要があるでしょう。

「うぉらあぁ!! とっととくたばりやがれえぇ!!」

 だいぶ飛段さんもじれてきていますかね。

 他の「暁」の方々からなにも言ってこないところを見ると、この戦いに口出しをする気もない様子。

 なら、ちょっとした小技を使わせてもらいましょう。

 そう思っているところに、飛段さんが腕力にものを言わせて僕を弾き飛ばしました。

 最低辺の受け身を取った僕。

 そこに、飛段さんの大鎌が迫ってきます。

 その苛烈な連撃は。

 僕の両手、両足、そして、僕の首を飛ばすのに十分なものでした。

 

 

 

「いよっし惨殺ううぅぅ!!」

 飛段はそう喚き散らしながらも、手に残る違和感に警戒を解く事が出来ないでいた。

 こと、近接白兵戦において「暁」の中でも第一人者と言えるであろう飛段は、人を直接斬り殺した数もかなりになる。

 その経験が、ブンブクを切り裂いた手ごたえにほんのわずかな違和感を残していたのである。

 しかし、両手両足と首を斬り飛ばした以上、飛段並みの不死出ない限り立ち上がっては… 飛段がそう考えた時である。

 

 ブンブクの腕が、飛段の足をつかんだ。

 

「!」

 まるで蛇のように飛段の足に絡みつく、切断して胴体から切り離されているはずのブンブクの両腕。

 それだけではない、斬り飛ばしたブンブクの両足も飛段の動きを妨げるかのように膝、足首に絡みつく。

「こんのおぉぉ! 邪魔なんだよお!!」

 飛段は脚に絡みつく手を強引に引き剥がしにかかる。

 その時、

「がっ!!」

 飛段の右腕に激痛が走る。

 斬り飛ばされたブンブクの頭部。

 口には棒手裏剣が咥えられている。

 飛段の右ひじの内側、関節が折り曲がるために筋肉が付いていない薄い部分にブンブクの加えた手裏剣が突き立っていた。

 ご丁寧に切っ先には返しが入っており、抜き辛くなっている。

「だあっ!」

 飛段は噛みつく頭、絡みつく腕と足を強引に振りほどき、

「本体は、そこかああっ!」

 自身の獲物である異形の鎌を、転がっているブンブクの胴体へと叩きこんだ、その瞬間。

 強烈な光と轟音が辺りを包んだ。

 

「ほう…」

「暁」のメンバーである元砂隠れの里の上忍、最強の傀儡使いにして稀代の天才造形師たる「赤砂のサソリ」は感心していた。

 茶釜ブンブクが傀儡の操演を行える事は情報としては知っていた。

 しかし、飛段に切り離されるまでブンブクが傀儡を持っていた事をサソリにすら気付かせないとは。

 さらにそのチャクラ糸は非常に細く、サソリ以外ではよほど注視してみていないと気が付かないだろう。

 見たところ、ブンブクの保有チャクラは多いものではない。

 故にチャクラの放出を極限まで絞ってチャクラ糸を形成しているのだろうが、その為に他の忍に傀儡を使っている事を気取らせないとは。

 面白い技術だ。

 しかも、「本体が攻撃」することで傀儡部分にブンブクの本体が潜んでいると()()させた。

 他のものたちでは、せいぜいイタチが写輪眼によってブンブクの本体に気付いている程度だろう。

 ブンブクの技量は自分達「暁」のメンバーに比べれば有り体に言って勝負にならないほど弱い。

 そのブンブクが飛段を翻弄しているのだ。

 その起点となっている技術が「機巧傀儡の操演」である。

 サソリはこの戦いを見るのが面白くなってきた。

 

 

 掛かった!

 僕は()()()()()()()()

 他者から見ると、僕の生首から体が生えたように見えたでしょう。

 僕は事前に「自分の頭」に変化して、首から下を八畳風呂敷に変えておいたのです。

 胴体部分には特製の起爆札、爆発時に光と煙、大きな音を出す代わりに威力はさほどでもないものを用意しておきます。

 で、飛段さんに斬り飛ばされた時に、手足の部分を操演した訳です。

 もちろん僕の操演の技術は(つたな)いものです。

 操演などとはおこがましい技で、器用に動かす事なんてできません。

 せいぜいが飛段さんの足回りの動きを鈍らせるだけが関の山です。

 そこから本体である僕が手裏剣で右腕を封じにかかる訳です。

 返しが付いたものを使ったのは、少しでも飛段さんの回復を妨げるため。

 手裏剣が刺さったままでいれば、なかなか回復もままならない、と考えたのですが、なかなか良い選択だったと自画自賛。

 さて、飛段さんはこちらの思惑通り胴体の方を切りつけてくれました。

 もちろんこれで飛段さんが倒れる訳もありません。

 ここで稼げる一瞬の時間、その為に今までの仕込みはあったのです。

 僕は左の指に傷を付け、その血を右手に付けると地面に法印を書き出します。

 そして、

「口寄せ! おいでませ岩室五兄弟!!」

 

 

 

 ブンブクが印を組み、口寄せを行うと同時に、

 ぼうん!

 と白煙が舞い、5匹の狸が召喚された。

 岩室5兄弟。

 忍術5系統をそれぞれ使う化け狸の兄弟である。

 そして、

「レディー、セット!」

 ブンブクの指示で狸たちはブンブクの後ろに、さらに、

「獣遁・擬人分身!」

 その瞬間、飛段が咆えた。

「うおっなんだとおお!」

 ブンブクが6人に増えた。

 化け狸たちの使った変化によって、ブンブクと見分けのつかない5人の分身が出来たのである。

 一瞬の動揺。

 飛段の動揺をブンブクは見逃さなかった。

 まず、

「ハット!」

 の掛け声とともに6人のブンブクが襲いかかる。

 まず1人、と言わんばかりに飛段の大鎌が先頭のブンブクを襲うが、その隙に、後ろから迫る残る5人のうち4人が大きく回り込もうとする。

 それに目を取られた飛段の刃は先頭のブンブクの掌の寸鉄によって受け止められる。

 本来のブンブクであれば飛段の一撃を止めることなど不可能だ。

 しかし、単純な力であれば、岩室5兄弟の四郎坊とて土遁の強化を併用することで、飛段の一撃すらしのげるようになる。

 そして、

「う」

 チャクラで身体強化をした4人のブンブクに、

「ず」

 蹴り飛ばされ、

「ま」

 その体は、

「き」

 宙に舞う、そして、

「ナルト連弾!」

 5人目のブンブクに更にカチあげられる。

 6人目、ブンブク本人はその間に

「八畳風呂敷、変化!」

 大きく翼を広げ、風遁で洞窟の上方に舞いあがっていた。

 そして浮き上がってきた飛段をふわりと捕える。

 これぞ木の葉隠れの里に伝わる「影舞葉」。

「こんのっ! 離しやがれえ!!」

 飛段はとっさの事にすら反応し、引き剥がしにかかる、が、

「なにいっ!!」

 先ほど切り飛ばし、弾き飛ばした筈のブンブクの両手が飛来し、飛段の動きを妨げる。

 その間にもブンブクは飛段を抱えたままさらに上昇する。

 そして、

「飛段さん、これが僕の最大火力です、覚悟して下さいね」

 ブンブクがそう言うのと同時に、

「変化!」

 ブンブクが異様な姿に変化した。

 例えるのなら飛段の背中に大きな筒が付いたように見える。

「そんなもんがなんになるって…」

 飛段が嘲笑を浴びせたその時、ブンブクの声が響いた。

「五郎坊くん! 風遁!」

「あいよ!」

 下では狸の姿に戻った五郎坊が兄弟達の力全てを借りて全力の風遁を飛段、正確に言うならば飛段の背負った、ブンブクの変化した筒、その開口部に叩き込もうとしていた。

「風遁、大突破ぁ!!」

 拡散を極限まで絞られ、ほとんど一本の線となった風遁の風が筒に叩き込まれる。

「後は頼んだぜ!」

 力を使い果たした五郎坊、そしてその兄弟達はそのまま煙と共に里に召還された。

「飛段さん、僕が変化したのは風を圧縮する機構を持った筒なんですよ…」

「は? それがどうした!?」

「限界まで圧縮された空気、それが急速に熱せられて膨張、爆発的に排出される、それを…」

 ジェットエンジンと言う。

 ブンブクは、前世の知識を利用し、自身を人間大のジェットエンジンに変化させたのだ。

 そんなものはこの世界のどこにもないというのに…。

「それじゃあ…、 点火!」

 ブンブクが持っていた起爆札が少量の燃料と共に炸裂する。

 ただの燃料ではない。

 忍具として火遁の補助に使われる揮発性の高いものだ。

 それがジェットエンジンと化したブンブクの中で反応、取り込んだ空気を一瞬で膨張させる。

 そしてそれが後方へと吐き出された時、

「ぐえっ!!」

 飛段をして圧迫されるほどのGで、ブンブクは飛段ごと地面へと突進していった!

 きりきりと空中で螺旋を描きながら、飛段は地面へと迫る。

「これが、僕の最大火力! 『変化奥義・螺旋表蓮華』です!」

 ブンブクがそう宣言した瞬間、轟音と共に飛段は地面に叩きつけられた。

 

 土ぼこりが晴れた時、そこに立っていたのは茶釜ブンブクのみであった。

 飛段は大きく陥没した地面に腰から上が埋もれた状態で突き立っていた。

 …違う、そうではない。

 地面には到底人間が噴出したとも思えない血しぶきが飛び散り、飛段の腕がちぎれて転がっている。

「螺旋表蓮華」はドリルのように回転して相手を地面に叩きつける。

 その際、地面は相手に対してやすりのようになる。

 強力なグラインダーを押し付けられたようなものだ。

 つまり、飛段の上半身はもはや存在しない。

 地面にすりつけられ、すり下ろされてしまっている。

 彼の上半身は血だまりそのものになっているのだ。

 

 

 

 さて、これが他の人なら僕の勝ちなのでしょう。

 しかし相手は「不死」の飛段さん。

 加えて、他の「暁」メンバーがなにも言ってきません。

 つまり…。

 そんな事を考えていると、飛段さんの下半身とちぎれ飛んだ両腕がでたらめに跳ねまわり始めます。

 …やっぱりか。

 僕はこれから始まる第2ラウンドのために、少しでも体力を回復することにしたのです。

 

 

 

 びくんびくんと頭部、胸部の無い飛段が跳ねまわる。

 しばしの間そうしていると、おもむろに飛段が立ちあがった。

 腰から上の消失した飛段。

 しかし、その傷口に周囲の血だまりが纏いついていく。

 まるで逆回しのフィルムを見るが如く、飛段のへそ、腹、胸と血だまりが本来の形を形成していく。

 血だまりが両腕を掬いあげ、肩を形成するとともに腕をその肩に張り付ける。

 首、下顎、上顎、鼻梁が再形成され、顔から頭部がその形を取り戻した。

 完全に元の形へと復活した飛段。

「だああっ! むっちゃくちゃ痛えぇぞぉ! コラァァ!! 超スーパー激痛だぁコノヤロォー!!」

「いや普通痛いじゃすみませんから、それ…」

「あぁ!?」

 飛段がやっとブンブクを認識すると、彼は胡坐をかき、ゆったりと呼吸を整えているところだった。

「…ずいぶん余裕じゃねえか、ガキ」

「いや、飛段さんが復帰してくるのは周りの人たち見てれば分かりましたし」

 つらりとした事をしたり顔で言うブンブク。

 無論内心は焦りでいっぱいだ。

 だからと言ってそれを顔に出してしまう訳にはいかない。

 こちらが平気だ、というパフォーマンスもまた、この戦いには重要な小技の1つなのだから。

 これで飛段が若干なりとも焦り、怒りを見せてくれるのなら、漬け込む隙もあるだろう。

 ブンブクはそう考えていた。

 

 飛段はブンブクの顔をまじまじと見ると、

「ぶっ! げゃゃゃひゃひゃひゃあひゃひゃひゃぁぁぁ!!」

 いきなり気が触れたような笑い声を上げた。

 これにはブンブクも呆気にとられた。

「おめぇ面白れええ!!」

「へ?」

「ここまでオレを虚仮にした奴はいねえぇ!!

 しかも結構天然と来てやがる!!」

「…はあ、それはどうも?」

 若干混乱しているのか、ブンブクの返答も的を得ていない。

「いい! おめぇ良いわあ!!

 間違いねえ、おめぇはオレの『隣人』に違いねえ!!」

 飛段がそう言いきった瞬間、周囲にいた「暁」のメンバーがザワリとした。

「…」

「…驚いた」

「なんと…」

「これは驚きだな、うん」

「何とも気の毒な事ですねえ…」

「馬鹿が大馬鹿に進化したか…」

「ふむ」

「へえ…」

 各自が各々言ってはいるものの、その目にあるのは1つ。

 ブンブクへの同情。

「…隣人ってあれですっけ?

 飛段さんが信奉してるジャシン教の…」

「そのっ通ーっりっ!!

 ジャシン様の教えの一にはこうある、『汝隣人を殺戮せよ』と!

 そしてオレはおめぇに運命を感じた! おめぇこそオレの隣人であると!!

 おめぇを殺すことでオレはジャシン様に一歩近づける!!

 感謝するぜぇガキィ! いや、茶釜ブンブクぅ!」

 そう、殺戮をその教義とするジャシン教において、「隣人」とは特別な意味を持つ。

 ただ周辺にいる人間を殺戮することもまた、ジャシン教においては是とされる行為である。

 しかし、彼の宗派における「隣人」とは、殺戮し、その死を神であるジャシンに供儀することでよりジャシンとの距離が縮まる、そのような特別な存在なのである。

 ジャシン教は世間一般では成立の遅い、若い宗教であるとされる。

 しかし、実際はかなり古くからある「超人信仰」の宗派なのだ。

 人を殺し、殺し、殺しつくして人の頂点に立ち、更にその上を目指す。

 ジャシン教はそう言った超人崇拝の異端派ともいえる教義を持っていた。 

 その歴史の中で「隣人」を得た者はごく少数、伝承によるならばたった1人と伝えられている。

 ならば、「隣人」を殺害する事の出来た飛段はどれほどジャシン様に近付く事が出来るだろうか。

 飛段のテンションはとどまるところを知らず、跳ね上がっていった。

 

 

 

 うわあ…。

 なんか泣きたくなってきますね。

 つい素の性格が出てきてしまいます。

 最も好かれちゃいけない人に気に入られた気がしますね。

 さっきまでなんとなくいい加減だった飛段さんの雰囲気が、なんかこう、嫌な感じで生き生きしています。

 これはしんどいかも。

 休息と秋道印の兵糧丸のおかげで大分体力、精神力は回復していますけど、さて、どれだけ持つ事やら。

 飛段さんはどうやら特別な殺戮をする時のみ行う儀式を取り行っているようです。

 おかげで時間が稼げますし、体力の回復も出来るわけですが…。

 正直言って危険な感じがさっきとは段違いです。

 ここからが飛段さんの本領なのでしょう。

 しかしまあ、上半身がすり潰されても復活するとか、僕の似非不死とは格が違います。

 ほんと、どうやって倒したらいいものか。

 とはいえ、相手が格上、絶対の勝利を得られないのは僕にとっていつもの事。

 今回は自分が生き残ることと、我愛羅さんを何とか取り戻す事ですから、それを前提に策を練リ直すべきなのでしょう。

 ずいぶんと血生臭い儀式を続ける飛段さんを尻目に、僕は頭をフル回転させるのでした。

 

 さて、飛段さんが儀式を終えたようです。

「さあて! 始めるかよおお!!」

 目つきがイッチャッテル飛段さんが大鎌を構えます。

 もうちょっと時間を稼ぎたかったのですが、さすがに無理ですね。

 手持ちのカードだけでなんとかできるでしょうか。

 僕は気合を入れ、飛段さんに改めて向かうのです。

 

 

 

 立ち合いが始まってたった5分。

 それまでに、ブンブクはその前の戦い30分以上の疲労にさらされていた。 

 飛段の動きがことさら変わったわけではない。

 確かに切れはよくなった。

 が、それ以上に飛段の戦術が変化していた。

 ブンブクの攻撃を避けようとせず、ひたすら攻撃に専念するようになったのである。

 ブンブクの戦い方はフェイントなどで相手の隙を作り、避けえない方向から急所をえぐるものだ。

 様々な方法で相手の隙を作り、致命の一撃を見舞う。

 しかし、飛段はフェイントであろうが渾身の一撃であろうがお構いなく受ける。

 そしてその攻撃が無かったかのように剛腕を振るうのだ。

 あまりにもブンブクにとって不利。

 ブンブクの培ってきた戦術が、飛段には全く通じないのである。

 さらに言えば、飛段の攻撃がよりコンパクトに、シャープになっていた。

 最初のように叩き潰す攻撃で無く、掠めるような連撃。

 それだけでもブンブクには十分に脅威なのである。

 ブンブクは小柄である。

 それだけに、耐久力という点では他の者達に劣る。

 飛段レベルの攻撃であれば掠めるだけでも十分なのである。

 しかし、飛段にとってブンブクは待ち望んだ「隣人」である。

 必ず劇的な殺し方をしてくるに違いない。

 ブンブクはそれを見定めるべく、防御中心の戦術をとり、飛段に張り付いていた。

 しかし、

「さあ、そろそろいくぜええ!」

 飛段が頭上で大鎌を大旋回させると、鎌がいきなり伸びた。

 三段になった鎌の刃、その間に鎖が仕込んであり、それが解放されたのである。

 振り回され、そして軌道のずれた刃はでたらめに動き回り、そして、

 どすりっ!

 飛段の体に突き立った。

 ブンブクは辛うじてその刃を回避するものの、飛段の体から突き出した鎌の刃がその体を掠め、幾つも後の筋を体に刻んでいく。

 大きく距離をとって構えなおすブンブク。

 そのブンブクに、満面の笑みを浮かべた飛段が言った。

「傷、付いたよなあ…」

 そして、

 鎌に付着したブンブクの血を、

 べろり、となめた。 

 そして変化が起きる。

 飛段の顔に、まるでどくろを思わせるような白と黒の隈取が成される。

 それと同時に足元には、飛段の鮮血によって円と三角を組み合わせた法陣が描かれたいた。

「ブンブクぅ、おめぇは俺に呪われたぁ。

 これより儀式を始める…」

 飛段が、壮絶な笑みを浮かべた。




ブンブク君の忍術ですが、違和感を覚える方もいるかと思います。
それも含めて伏線ですのでご了承ください。

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