NARUTO 狐狸忍法帖   作:黒羆屋

38 / 121
「雪屋」さんからブンブクの下忍版イラストをいただきました。
ぜひともみてください!

【挿絵表示】



第35話(挿絵あり)

「があああぁああぁあっっっ!!!」

 我愛羅が悲鳴を上げる。

「暁」の精鋭の1人、六道ペインの秘術「封印術・幻龍九封尽」によって(おの)が半身たる一尾の守鶴を引き剥がされつつあるのだ。

“おい、我愛羅しっかりしろ!!”

 脳内に守鶴の声が響く。

 それも、だんだんと遠ざかっているようにも思える。

 事実、守鶴のほとんどは秘術により「外道魔像」の中へと封印されている。

 守鶴は焦っていた。

 このままでは確実に我愛羅は死ぬ。

 太古の時代より、尾獣は不滅の存在であった。

 周囲にいる者は必ず守鶴の前からいなくなっていった。

 残っているのは同じ尾獣のみ。

 だからと言って、親しい者達と死別するのに慣れることはなかった。

 このままでは理不尽に我愛羅は死んでいく。

 それは守鶴にとって許容できる事ではなかった。

 何とか少しでも我愛羅の生存確率を上げなければならない。

 その時、

 守鶴は気が付いた。

 外道魔像の吸引力に逆らう力が自分の中にあるのを。

 これはなんだ?

 守鶴は自分の中を探っていった。

 かすかに残った守鶴の残りかすのような魂。

 その中に、

 両の手を合わせた僧侶の姿があった。

 

 

 

 ただいま僕は大ピンチに陥っております!!

 今僕がいるのは「蟲骸巨大傀儡・鋼」の操縦席です。

 主たる操縦席(めいんぱいろっとしーと)には僕、副操縦席(さぶこくぴっと)にはフウさんとカモくんがおさまっております。

 僕は見様見真似ではあるものの、傀儡の操演が出来ますので鋼を直接操縦しますし、鋼の筋繊維には僕の「八畳風呂敷」をフウさんに加工してもらって使っているので、僕との親和性が高いのですよ。

 で、信じがたいことに、

「うわわわわゎわゎっ!! 力負けするっ!!」

 全長30mの鋼、そしてそれを動かしている筋繊維、装甲の重量だってかなりのもの。

 それをですね、

「うぉら! どうしたぁ!!」

 銀髪オールバックのお兄さんが、押し返してくるんですよ、馬鹿なことに。

 確かに僕の操演技術はお粗末なものです。

 でも、その分はフウさんのとんでもチャクラが十分に埋めてくれているはずなんですよ。

 フウさんの内在しているチャクラってうずまき兄ちゃんに匹敵するくらいありますし、さらに七尾さんのパワーが加わるとさらにドン! なわけでして、小山くらいの質量なら十分に受け止められるはずなんですが。

 その力をこの銀髪のお兄さんは押し返しているわけです!

「暁」って組織が本格的に恐ろしくなってきました。

 さらに厄介なのがS級犯罪者のリストの中でも最初期から載っている古つわもの、角都さんですね。

 このお兄さんを突き放すと強烈な土遁がガシガシ飛んでくるんです。

 どうやらこっちの特性を知られてしまったようです。

 鋼の装甲はチャクラをエネルギーとした忍術の攻撃をはじくだけの力があります。

 そう、鋼の装甲部分は。

 それを支える筋繊維はそうはいきません。

 その筋繊維や腱の部分にダメージを与えるため、角都さんは土遁や水遁などのチャクラを質量に変換する攻撃を行っているのです。

 おかげで装甲は無事なんですが、筋繊維がブチブチと切れては修復をするのでどうしても隙が出来やすいんです。

 僕とて並行作業思考(マルチタスク)はできなくはないのですが、こういう余裕のない時にやるのはさすがにしんどい。

 おかげでフウさんにかなりの負荷がかかってしまっています。

 フウさんかなり辛そうです。

 …こうなったら、最悪を考えて用意していた手を使う準備はしておいた方が良い、かな?

「カモくん、作戦J発動ね、後、お化粧お願い」

 僕は小声で、事前の里の各所に潜ませておくよう頼んでおいたカモくんの分身たちに思念波で指示を出すようにお願いをした。

 

 

 

 ブンブクから指示を受けた安部見加茂之輔、通称カモは里の住民に事前に言い含めておいた作戦を発動すべく、潜ませておいた分身体を動かし始めた。

 各分身体はブンブクのしたためた書状を持ち、里の長であるシブキ、里人のまとめ役、上忍達の上役に向けてひっそりと移動していった。

 

 

 

「暁」の精鋭、飛段はこの戦いを心から楽しんでいた。

 飛段はジャシン教の信徒であり、他者の死、そして自身の死を信奉する神、ジャシン様に奉納する事をこの上なく好む。

 今戦っている巨大な傀儡は先ほどから飛段を殺し続けている。

 奴の巨大な拳を受ける度、両の腕がひしゃげ、肋は叩きおられ、頭骸骨はメキメキと嫌な音を立てている。

 それが飛段には快感だった。

「ん~ん、き…きんもちイィ…!!」

 潰され、激痛を味わえば味わうほどテンションが上がる飛段。

 げらげらと馬鹿笑いをしながら異形の得物を振り回し、30mの巨人の攻撃をはじき返すその姿は里の人々の心をへし折るのに十分なものだった。

 一方相方の角都といえば、

「…つまらん。

 さっさと捕えられてくれんものか…」

 飛段とは対照的にローテンションであった。

 七尾の人柱力はペインが引き取るために金にならない。

 茶釜の坊主は元より金にならない。

 この巨大傀儡は大きすぎて闇社会の連中では買い取ってくれず、金にならない。

 これで滝隠れの里の秘薬、「英雄の水」でも残っているならそれを奪って金に換えても良かったのだが、それも数年前に喪失している。

 とにかく今の滝隠れの里において、金になりそうなものは何もない。

 すなわち、角都にとって尾獣狩り以上の仕事はここに存在せず、副収入はない。

 さらに言うのならば、飛段のあの活躍は、角都の秘術である地怨虞(じおんぐ)により、飛段の身体能力を触手で強化しているためである。

 とはいっても、飛段の不死性を利用して飛段の筋肉の間に触手を突きさし、忍術による身体強化を角都が支援しているのだが。

 これがまた細かい作業であり、金銭という角都のモチベーションを上げるものがない以上、見事なまでにやる気が現在進行形で失せているのであった。

 と、その時、状況が動いた。

 鋼が大きく距離を取ったのである。

 角都は相手が勝負に出た事を理解した。

「飛段! 一旦下がれ!」

「ざっけんな! 折角楽しくなってきたってのによお!!」

 角都は飛段がどうやら状況を理解していないのに気づいた。

「馬鹿が! 大技が来る!

 吹き飛ばされたくなければ下がれ!」

 角都の勢いに押されるように後退する飛段。

 飛段が後退するのと同時に、

 

 ゴウッ!!

 

 高々と飛翔する鋼。

「そうか、あれが奴の切り札か!!」

 角都は事前に情報を仕入れ、鋼がどのような攻撃をしてくるか予想を立てていた。

 その為、前回は様子見、今回こそが七尾狩りの本番であった。

 そして蟲骸巨大傀儡・鋼の最強の操演が自重とその力を活かした飛び蹴りである事も調べつくしていた。

 その為、角都はその攻撃に対して過剰なほどの警戒をした。

 すなわち、

「地怨虞!!」

 己の体に取り込んだ木偶人形達に、

「風遁・圧害!」

 突風での威力減退。

「火遁・頭刻苦!」

 火による傀儡の強度低下。

「雷遁・偽暗!」

 電撃による傀儡操演の誤作動を誘発。

「水遁・愚巫(ぐふ)!」

 質量攻撃での落下速度相殺。

「土遁・土流壁!」

 そして、大量のチャクラを以って小山のような壁を形成。

 それを以って、鋼の蹴りを受け止めようとしたのである。

「…これで抑えきれるかどうか」

 角都をしてもこれであの巨大兵器が食い止められるか自信はなかった。

 

 突風が鋼を抑えようとする。

 しかし、鋼の質量、そしてその突進の切っ先となるつま先は風を切り裂いて降り落ちる。

 轟炎はその蹴りに裂かれて吹き散らされる。

 天雷はその身を焼くがその速さに曇りなし。

 そして瀑布と岩山がその前に立ちふさがり、

 

 轟っ!!

 

 世界が震えた。

 鋼はその巨体で角都の全ての忍術を貫き、そして、

「あめーんだよぉぉ!!」

 異形の武器を持った銀髪の男、飛段によって食い止められていた。

 一瞬拮抗する飛段と鋼。

 そして次の瞬間。

 なにかが一斉にはじける音が里中に響き、

 そして、

「『守護神』蟲骸巨大傀儡・鋼」は関節と言う関節から瓦解し、崩れ去ったのである。

 

 

 

 がしゃりと地面にたたきつけられた鋼。

 そのちょうど頭部に当たる部分、そこから褐色の肌の少女が転がり落ちてくる。

 彼女は地面に落ち、うめき声を上げるが、起き上がることはない。

 周囲にいる滝隠れの里の住人達は言葉もない。

 忍の世界における最大戦力である尾獣の人柱力、その力を使った機巧傀儡がS級犯罪者とはいえ、たった2人の忍に倒されてしまったのである。

「うしっ、これで仕事は終了だな…」

「うむ、それではこの小娘を捕えて帰るぞ」

「はあっ!? なにふざけてんだてめえぇぇ!

 こっからがお楽しみタイムだろうがぁ!」

 ここには民間人も含め相当数の人間がいる。

 これをジャシン様に捧げる(ころす)のは、飛段にとって最高の快感になるだろう。

 それを角都(こいつ)は邪魔すると言うのか。

「まずは七尾の人柱力を回収するのが先だろうが。

 たしか先行して木の葉隠れの忍が1人来ているはずだ。

 という事は…」

「本隊が近づいてるってのか?」

 飛段にとって殺戮を邪魔されるのは非常に問題だ。

 殺戮はただの楽しみではない。

 飛段にとって、殺すことそのものも快感ではあるが、主たる目的は「殺戮をジャシン様にささげる」事である。

 つまり、殺戮の前、そして後に行われるジャシン教の儀式こそが飛段にとっては最重要なのである。

 儀式のない殺戮など、メインディッシュの前のオードブル以下の存在でしかない。

 せいぜい部活帰りのつまみ食い、程度のものと言おうか。

 儀式をしない殺戮を飛段は好まない。

 故に、撤退をすべきだろうか。

 そう考えていた時の事だ。

 先ほど少女が現れたところから、1人の少年が現れた。

 飛段と角都にはその少年に見覚えがあった。

 たしか、茶釜ブンブク。

 木の葉隠れの里の下忍である。

 少年はその年に似合わない冷静な態度で、飛段達に交渉を持ちかけてきた。

 

「七尾の人柱力は渡すので、これ以上の戦闘を停止して撤収してくれないか」と。

 

 飛段は角都の方を見た。

 こういう頭を使う、というより利益不利益を考えることであれば、信仰の事しか基本的に頭にない飛段よりは、拝金主義の角都のほうが有能である。

 角都は飛段の視線を受けて、前に出た。

「ふむ、貴様の話に乗ったとして、こちらに何の利益がある? それともいくらか出すか?」

 やはり最初に出てくるのは金の話か。

 飛段は呆れた。

 角都は金の信奉者だ。

 譲歩を引き出すより金をよこせ、それが角都である。

 それに対し、

「この中には手配書(ビンゴブック)にのってるような賞金首はいないでしょ?」

 少年はひょいと首をすくめてそれを受け流した。

 角都はどうやらこの少年は厄介な相手だと見抜いた。

 彼は時間を稼ぎたいようだ。

 本隊が近付いているであろう、その推測は彼の様子を見る限り正しい。

 そうこちらが推測するのも織り込み済みだろう。

 忍として長い経験を持つ角都はそこまで予想する。

 ならば人柱力を確保し、里の人間を蹴散らしてここから撤退するのが正解か。

 角都の使う忍術は大規模殲滅戦に有効なものがそろっている。

 ここでそれを打ち込んで撤退を…。

 角都がそう考えている時である。

「それにね、この里ではその人柱力を守れる力もないし、守りたくもないんですよ」

 少年がそう言葉を続けた。

 なるほど、これは厄介払いか。

 角都はそう考えた。

 人柱力は尾獣の力を自身に封じ、忍が尾獣の力を振るう事が出来るようにするもの。

 その封印術によってはごく一部しか引き出せないがほぼ暴走の心配がないもの、から圧倒的な力が引き出せるがちょっとしたことで暴走するもの、がある。

 前者の典型は歴代の木の葉隠れの人柱力であり、後者は砂隠れの人柱力であった。

 なるほど、滝隠れの里の今代の七尾の人柱力は暴走しやすい傾向があるのやもしれん。

 角都はそう判断する。

 そう考えていると、

「そうだそうだ!」

「そんなバケモンのためにオレ達が何とかする必要はねえ!」

「うちの子を返してよ、このバケモノ!」

 そう、里の人間から褐色の肌の娘に対して罵声が飛ぶ。

「こういうことです。

 そっちで回収してくれるなら、こちらとしても都合が良いんですよ」

 少年忍者がそういう。

 角都は、

「しかし、この『守護神』とやらの動力はそこの人柱力ではないのか?

 それがいなくなればこのガラクタは動かなくなるのではないのかね?」

 そう切り返すも、

「これは本来大型の蟲を何匹も使って動かす、いわば蟲の甲冑です。

 本来の力を引き出すのには人柱力なんて必要ないですしねえ。

 むしろ言う事チキンと聞いてくれる蟲の方が何ぼか使いやすいってものでしょ?」

 言外に人柱力が反抗的であった事をにおわせている。

 角都が考えこんだとき、飛段が声をかけた。

「おい角都、さっさと帰ろうぜ。

 下手をすりゃもう本隊が来ててもおかしくねえんだろ?

 仕事を失敗するよりはとにかく先の目的を達するのが大事だろうぜ」

 飛段はいい加減面倒になったようだ。

 さっきまでのハイテンションが一転すっかりやる気をなくしている。

「いいだろう、人柱力を回収して帰るとしよう」

 角都はそう判断した。

 七尾の人柱力に近付いて「地怨虞」の触手で持ち上げ。

「飛段、行くぞ」

 そう言って、「暁」の2人は滝隠れの里より去っていったのである。

 

「暁」の2人が失せた後、少年忍者が、「くしゃり」と潰れた。

 

 

 

「急ぐぞ、飛段」

 角都が飛段を急かす。

「うるっせえよ! 大分力を持ってかれてんだ、しょうがねえだろうが!」

 飛段が罵声を浴びせる。

 しかしまあ、それも仕方なかろう。

 飛段達は実のところ、現在進行形で封印術を行使している真っ最中なのである。

「封印術・幻龍九封尽」

 人柱力から尾獣を引き剥がし、外道魔像に封印するものだ。

 その為、2人は自身のチャクラをある程度消費した状態で滝隠れの里に侵入していたのである。

 それもこれも、あの「守護神」によって一度撤退を余儀なくされ、予定が狂ってしまっていたためである。

 とはいえたかだか数日。

 今から移動すれば丁度一尾を封印し終わった後に七尾の封印が出来るだろう。

 その為には少しでも早く約束の場所につかねばならない。

 角都は渋る飛段をなだめすかして封印場所へと急いだ。

 その為、気付かなかった。

 七尾の人柱力である少女が手から何かをぽろりぽろりと落としているのを。

 

 

 封印の場所では丁度一尾の封印が終わったところであった。

 地面には一尾の人柱力、砂隠れの里の新風影、砂瀑の我愛羅が倒れていた。

「戻ったぜえ」

 飛段がかったるそうにそう言う。

 角都は言葉を発するのももったいないのかそのまま地面に七尾の人柱力を放り出す。

 聞き取りづらいほどのかすかな声で彼女は呻いている。

「これで良いのだろう、ペイン」

 角都は「暁」の首領格であるペインの「影」に確認する。

「ああ、それで良い。

 ただ…」

「ただ、なんだ?」

「ここに向けて木の葉の忍、2班ほどが向かってきている」

 ぴくり。

 角都が反応を示す。

「いくらだ?」

 すでに角都の中ではその忍達を殺してその死体を売りさばいた場合、いくらになるかしか頭にないようだ。

「それは貴様の方が詳しいだろう。

『コピー忍者』、『木の葉の珍獣』、『白眼』持ち、そして…『九尾の人柱力』だ」

 角都と飛段に驚きが走る。

「へえ、なかなか豪勢じゃねえの」

 飛段はすでにやる気だ。

「…悪くない、しかし…」

 角都はここに実際にいる面子、飛段とデイダラ、サソリを見る。

 そして戦力の計算をする。

 たしかに万全であるならば必勝を期待できるだろう。

 しかし、自分達は一尾の人柱力を封じたばかりである。

 封印術にある程度のリソースを取られた状態で戦って勝てるのか?

 特に、角都としては「コピー忍者」はたけカカシを警戒している。

 忍術を攻撃の起点としている角都にとっては写輪眼持ちは警戒してもし足りない相手である。

 また、白眼持ちがいるのも問題だ。

 デイダラの起爆忍術は粘土にチャクラを注ぎ込むことで爆薬としている。

 その動きを白眼持ちが見切り、反撃してくるとなるとどうか。

 こと、広いとはいえここは洞窟だ。

 サソリの得意とする複数体操演の傀儡を十全に使いこなすには外の方が都合が良いだろう。

 戦いの場は変える必要がある。

 …ならば。

「ここから撤収すべきだろう。

 七尾の人柱力はこのままいったん回収し、別の場所で封印を行うべきだ」

 角都はそう提案する。

「オイラもそれでいいと思うな、うん」

「オレもデイダラに賛成だ。

 ここでは戦術が限定される」

 デイダラとサソリも角都に賛同する。

「ならば…」

 そう言おうとした所で角都の動きが止まる。

 七尾の人柱力が一尾の人柱力、我愛羅の死体の前に移動していた。

 七尾の人柱力が我愛羅の死体の頬を撫でる。

 我愛羅の死を悼むように見る七尾の人柱力。

 その時だ。

「お前は何者だ?」

 ペインが七尾の人柱力にそう言った。

「? 何を言っている、これは…」

 角都がそう言った。

 ペインは何を言っている?

 角都は混乱していた。

 これは間違いなく七尾の人柱力だろうに。

 角都は多分この場にいる誰よりも長く非合法の忍としてやってきた。

 ペインがそう言うのであればこれが偽物の可能性もあるのかもしれない。

 しかし、少なくとも角都の認識できる範囲では変化の術は使われていない。

 その気配も七尾のチャクラを感じる。

 ましてやここには影とはいえうちはイタチがいるのである。

 イタチの「写輪眼」にかかれば忍術、幻術、体術の全てが解析される。

 変化の術も例外ではないはずだ。

 ならばなぜペインはあのような事を言ったのか。

 なにかあるはずだ、ペインがそう言った根拠と言うものが。

 そう思った時、イタチが目を見開いた。

「そう言う事か!」

 それと同時に角都も動いた。

 七尾の人柱力、いやその偽物に。

 

 

 

 滝隠れの里では襲撃の余韻がまだ残り、里の皆はまだ動けないでいた。

 里の民を見回す里長のシブキ。

 そこに、

「あ痛たっ!」

 ほぼ残骸、という状態の「蟲骸巨大傀儡・鋼」の中から七尾の人柱力・フウが転げ落ちてきた。

 フウは今の今まで気絶していたのである。

「フウ! 大丈夫かい!?」

 シブキ、そして里の皆がフウの周りに集まってくる。

「あっしは大丈夫っす!

 みんなこそ怪我とか大丈夫っすか?」

 フウは全身の痛みをこらえてそう聞く。

「ああ!」

「問題ねえよ!」

「怪我は少ししたけど、死んだ人はいなかったからね!」

 里人からそう聞かされ、ほっとした顔のフウ。

 しかし、周りにブンブクの顔がないことに気付いた。

「あれ? ブンブク君はどうしたっすか?」

 死んだ者はいないという。

 ならば怪我でもしているのだろうか。

 ならば見舞いに行かないと、そう考えているフウ。

 しかし、ブンブクの話が出ると里の皆の顔色が変わった。

 話し辛そうにしている皆の中から、ブンブクの召喚動物である「安部見加茂之輔」が顔を出した。

「兄貴は…」

 

 

 

 角都が七尾の人柱力の髪をむんずと掴む。

 そして引き寄せようとした時。

 ずるり。

 髪の毛がごっそりと抜ける。

 いや、これは…。

「かつらか!?」

 七尾の…いやそれに()()していたものは大きく後方に飛んだ。

 その瞬間、そのものの体に何かが巻きつき、忍装束を形成した。

 その服装は、木の葉隠れの里の忍の装束。

 その者は顔に手を当て、ぺりぺりとなにかを剥がしていく。

「いやあ、すいません。

 僕、偽物です」

 そう言った木の葉の忍、茶釜ブンブクの顔は、

「パンダみてえだな、うん」

 顔料がこびりついて、目の周りだけ黒く色付いたパンダのようになっていた。

 

 

 

「そんな、それじゃブンブク君は…」

 フウは絶句した。

 ブンブクは最悪の状況、つまりフウが捕えられるという事を予測し、その為に事前に策を打っておいたのである。

 フウと同じ肌の色になるような顔料を用意、それを伸縮性のあるのりに混ぜて用意。

 手や腹などフウが露出している部分には事前に塗っておく。

 瞳の色は魚の鱗を加工したコンタクトでごまかし。

 フウのチャクラが注ぎ込まれた「八畳風呂敷」でフウの装束をコピー、即座に変装できるようにもした。

 さらに、加茂之輔の伝令により、里の人々には「人柱力は暴走しやすく、里の人間から嫌われている」演技をしてもらうよう指示。

 極力飛段達に疑問を持たせないよう配慮した。

 駄目押しには分割した八畳風呂敷にブンブク本人を演じさせ、鋼の中に誰もいない、そう飛段達に錯覚させた。

「そうっす、今兄貴は『暁』の本拠地にいるんす。

 ちなみに、オイラは兄貴と念話で連絡が取れますし、兄貴もところどころに『マーキング』してるから脱出も容易っすよ」

 カモはことさら能天気にそう言う。

 周囲に不安を持たせない事。

 それがブンブクからの指令でもあった。

 カモは、ブンブクに変装していた八畳風呂敷の切れ端を回収すると、

「んじゃオイラは一旦化け狸の里に帰りやす。

 そっからまた兄貴に口寄せしてもらう予定になっておりやすんで」

 そう言って煙と共に消えていった。

 

 呆然とするフウに、シブキが言った。

「フウ、お前に話がある…」

 それはフウにとって、世界が変わる第一歩であった。

 

 

 

 水筒から水を垂らした手拭いで僕は顔を拭った。

「しかしよく気付かれましたね、ええっと…」

「…」

「だんまりさん」

 最初に僕に気付いただんまりさん(仮)に僕はそう言う。

 だんまりさん(仮)ことペインさんは黙ったまま我愛羅さんを指差した。

 …そういうこと。

 我愛羅さんの頬にはうっすらと顔料が付着していた。

 それだけで僕の変装に気付いたのか。

 そう、僕は変化ではなく、変装と言う技術を使ってフウさんに化けていたのです。

 いや、だって、相手には写輪眼のうちはイタチさんがいるんですよ!?

 イタチさんが来たりしたら変化じゃばれるにきまってます。

 それに、角都さん、でしたか、なんかものすごい格上の存在感があるんですよ。

 えらい長く生きた人にしかない迫力って言うんですかね。

 忍として長く活動なさった人なら、それくらい読んでくるんじゃないかと思います。

 そう言う訳で、変化の術が一般的な変装術になっているのであれば、逆に化粧とかでの変装は気付かないんじゃないか、と思いまして。

 そもそもフウさんの人相風体を細かく知っている人って里の人くらいでしょうし、誘拐のためにちょっと確認した程度なら簡単な変装でもごまかせるかと思ったんですが、大成功でしたね。

 しかし、…そっか、我愛羅さん…。

 目の前の何かおっそろしい見てくれの像から守鶴さんの気配を感じます。

 どうやら我愛羅さんは守鶴さんを引き剥がされた、ということでしょうか。

 魂レベルで融合している人柱力と尾獣を引き剥がせば…こうなっちゃいますか。

 …どうにも思考が安定しません。

 ここでクールにならないと。

 そう考えていると。

「てめえぇ! 仕事増やしてんじゃねーよ、おらぁぁ!!」

 鎌を持った怪人、飛段さんがそう咆えています。

 かなり怒っていらっしゃる様子。

 一方角都さんは、

「はずれだ、大外れだ…」

 何か非常に落ち込んでいらっしゃる?

 なぜに?

「これならまだ露店で売ってる2束3文の草鞋の方がまだましだ。

 売れない皿なぞ何の価値もない…」

 この人、僕を殺して茶釜を売っ払うつもりだったんでしょうか。

 まあそれはどうでもいいや。

 どうやらこの中で一番地位が高いのは、

「だんまりさん、どうでしょうか、僕に価値はないんですし、このまま帰してはもらえないでしょうか」

 ペインさんだろうと当たりを付けて、僕は彼に話しかけた。

 無論、オッケーが出る訳もない。

 これは少しでも時間を稼ぐためにやっている。

 どうやら近くまで兄ちゃんたち来てるみたいだし。

 ここで我愛羅さんを持って行かれてりしたら厄介だ。

 我愛羅さん…。

 僕は僕にできる事をするまで。

 それは、1つにはこうやって時間を稼ぐ事。

 そしてもう1つは…。

 僕はカモくんに念話で連絡をとった。

“カモくん、大至急隠神刑部さん達に連絡を。

 うん、第一級非常事態宣言だよ”

 さて、ここからが正念場だ。

 

 

 

 不敵としか言いようのないブンブクの提案。

 おどろいたことに、それに飛びついたのは飛段だった。

「ここなら邪魔が入らねえ!

 オレに殺させろ!!」

 そう言うと、ブンブクの前に出てきたのである。

「おいお前、オレに殺されなかったらこっから帰してやる。

 他の連中も文句ねえよなあ、え!?」

 周囲も相当の実力者であるのに、そんな事も考えもせず、恫喝する飛段。

 自分が負けると思っていないのだろう。

 それも当然。

 本人は「暁でもっとものろまで下手だ」なぞとは言っているものの、くせ者揃いの暁の中で、不死、と言うだけで怪人達と同じ位置に立つことなど不可能だ。

 飛段とて一定以上の強さを持っている。

 そうでなければ、例え角都の助力があったとしても30m級の質量を持った人型と戦うことなどできはしない。

「え~、それは無茶でしょう?」

 ブンブクがそう言うが、飛段は聞く気を持たない。

 鎌を構え、大仰な身振りで彼の信奉するジャシン様に祈りを捧げ始める。

「…むう、さすがに無茶なんですが。

 まあしょうがないですよね、ええっと、だんまりさん、どうでしょうか」

 ブンブクはトランス状態になった飛段を置いておくことにして、ペインに話しかけた。

「万が一にも僕が飛段さんに勝ったりしたら、追加で何かくれません?」

「なに?」

「そうですね、僕が勝ったら、我愛羅さん返してもらいます、これでどうですか?」

 ペインをはじめ、飛段以外の「暁」の面々もそれには驚いた。

 この下忍は飛段に勝つつもりらしい。

 実力差は明白であるというのに。

 これは何かあるのか、そう深読みさせるのに十分な疑念だった。

 無論これはブンブクの遅滞戦術の1つ。

 ここで「暁」内部の意見が分かれるようならさらにひっかきまわして時間を稼ぐつもりなのだ。

 しかし、

「…やってみろ」

 ペインはそうブンブクに告げた。

 

 

 

 …やっぱり読まれてたか。

 ペインさんは「やってみろ」としか言ってないんですよね。

 つまり確約はしてない、と。

 でもいいんです。

 時間は稼げましたし、事が終わったら、そこからさらに交渉で粘るって方法もありますしねえ。

 …我愛羅さん、ちょっとだけ待ってて下さいね。

 何とかしてみますから。

 僕はそう心の中で我愛羅さんに話しかけ、そして飛段さんに向かって。

 さあ始めよう。

 この3年、僕もただ居たわけじゃない。

 だから。

 ここで今まで封印した禁忌を解除する。

 ガイ先生の教え、言うところの、

「自分ルール、ですよね。禁忌を解くのは」

 そう、

 

 自分の大切なものを、死んでも守り抜く時。

 

 僕は3年前、扱いを失敗した自己暗示を、僕のキーワードと共に解き放った。

 

「我が身(すで)に鉄(なり)

 僕の体は鉄でできている。

 痛みはすでに感じない。

 全てはこの任務のために。

「我が心既に空也」

 心はここに置いていく。

 たった1つの目的のために。

 大事な人のために。

「天魔伏滅!!」

 天も魔も、その為には打ちのめし、叩き潰す!!

 

 

 

 ブンブクの雰囲気が変わった。

「…へえ」

 飛段がにやりと笑い、角都が目を剥いた。

 デイダラがスコープに手をやり、サソリがその傀儡からキリキリと音をさせた。

 先ほどまで少年の雰囲気であったブンブクから、鞘から抜き放たれた刀、その鋭さが感じられた。

 下手に触れるならば「暁」の面々ですら切り裂かれかねない危険な気配。

 濃厚なそれがブンブクから噴き出した。




忍者ものといえば私の世代は「服部半蔵影の軍団」なんですよ。
ちなみに「わが身すでに~」は確かⅢの決め台詞でしたか。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。