NARUTO 狐狸忍法帖   作:黒羆屋

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まずは一言。
いつもとはノリが違います。
初期のころの劇場版NARUTOを見るような感じで読んでください。
分量がいつもの8割増しくらいです。
若干読みにくいところがあるかとは思いますが、後ほど修正を入れると思います。


第32話 劇場版 NARUTO -ナルト- 3馬鹿大冒険! 森の怪蟲大激突だってばよ

 ここは火影の執政室。

 うずまきナルト、うちはサスケの両名が里からいなくなったため、担当上忍として働けなくなったはたけカカシは個人任務を請け負う事が多くなっていた。

 その日も5代目火影・志村ダンゾウに呼ばれ、いつもの個人任務だろうと高をくくっていた。

「は?」

 間の抜けた声。

 カカシのものに間違いはない。

「いまなんと?」

「…聞こえなかったか?

 6代目火影・千手綱手の就任決定の知らせを特使・茶釜ブンブクと共に滝隠れの里の長・シブキ殿に届ける事、だ」

 カカシの聞き返したのはそこではない。

 ダンゾウも分かっているのだろう、さらに続けた。

「護衛には葛城鬼童丸と短期留学生『砂隠れのカンクロウ』を同行させる」

「何故に砂隠れの者を?」

「…風影殿の依頼だ。

 カンクロウ殿にはある程度外の世界を見せておかねばならん、とな」

 カンクロウは現風影・我愛羅の兄である。

 今後外交特使として各忍里を回る事も多くなるだろう。

 その為の経験を積ませる意味もあるのだろうが…。

「いや、だから何でカンクロウ君がここにいるんですか?」

 当然の疑問だろう。

 短期留学などで砂隠れの里のカンクロウが来ているなど聞いていないのだ。

 それを問うてみると、

「・・・・・・・・・」

 非常にくだらない内容で、カカシは無性に泣きたくなった。

 とはいえ任務は任務、引き受けるしかなかった。

 

 

 

「…んで、何でカンクロウさんこんなところに?」

「しょうがねえじゃん?

 テマリを完っぜんに怒らしちまったんだから…」 

 ここはブンブクの家。

 ちゃっかりと家に上がり込み、そのまま居候を決め込んでいるのは砂隠れのカンクロウ。

 姉のテマリと大喧嘩をしてそのまま逃げだしてきたのだとか。

 当然、里長の我愛羅の許可がなければ里から出る事も出来ないはず。

 我愛羅からの許可ももらってあるのだ。

 実際、上記したように、カンクロウとテマリは今後外交特使として様々な場所に行くことになるだろう。

 その為の訓練、と考えればいいのかもしれない。

「ほい、チャンスだ、チャンスカードっと、お、銀行から1500両ぜよ」

「あ、さっきオレが支払った1500両! ひっでえじゃん!」

「そういうルールぜよ、がたがた言いなさんな」

 もっとも、男の子3人で能天気にボードゲームなんぞをしていなければ。

 そこへブンブクの母のナカゴから声がかかる。

「ブンブク、カンクロウちゃん、鬼童丸ちゃん、カカシちゃん、じゃなくってカカシ上忍がいらっしゃってるわよ」

「ナカゴさん、勘弁してよ…」

 ここから物語は動き出す。

 

 

 

 やって来たのは滝隠れの里。

 かつては「英雄の薬」と優秀な忍軍によって他の里からも一目置かれていた小里。

 現在では里長のシブキを中心に、里を強くするため、一丸となって頑張っている。

 ブンブク達はシブキに書状を渡し、任務を完了したところだ。

「それで、皆さんはこれからどうするんですか?」

 シブキがそう聞いた。

「それなんですが…」

 

「なるほど、特使とはまた別に、大森林の調査、ですか…」

 書状を渡した以上、ブンブク達の任務は終了した。

 しかし、実はブンブクには追加任務があったのだ。

「はい、滝隠れの里から奥に踏み入った、大森林の中にあったという『鬼隠れの里』の調査を許可願いたいのです」

「それは…」

 

 

 

 しばしの交渉の末、ブンブク達には許可が下りることとなった。

 正し条件付きで。

 1つ目の条件は大森林内にあるという「鬼岩(おにいわ)」に近付かない事。

 これは、里に伝わる言い伝えで、「忍は鬼岩に近付くなかれ、近づけば呪いあれ」というものがあるためで、万が一、という事もある、との事。

 もう1つは、滝隠れの里から護衛を1人出す、という事。

 それが、

「どうもっ、あっしは滝隠れのフウっす! よろしくっす!」

 滝隠れの元気娘、フウであった。

 

「よお、中忍試験以来じゃん」

「は? どちら様っすか?」

「オレだよ、砂隠れのカンクロウだっつってんじゃん!」

「~~? やっぱり思い出せないっす…。

 確かカンクロウって砂隠れの人だったっすけど…」

「だから、オレがそのカンクロウじゃん!」

「あの人はあんたみたいにクマドリしてなかったっす。

 服装も普通の里の人みたいだったっす」

 

「元気なお姉さんだったね」

「ありゃ天然ボケじゃん」

「多由也といい、くのいちにはおしとやかな奴はいねえのか…」

「鬼童丸さん、それおっかあの前で言ったらだめだよ…」

「あ、すまん、オレ上忍会議があるんで里に帰るわ。

 ま、そっちはそんなに危険ないから、頑張って」

「それで良いんですか、上忍って…

 …後でおっかあに言いつけとこ」

「やめてよブンブク君、あの人いろいろ怖いんだから…」

 

「ふう、温泉は良いですねえ…」

「全くじゃん、こればっかりは砂隠れじゃ無理だからなあ…」

「こん時ばかりはゲームをする気が失せるぜよぉ…」

 がらり

「みんなで一緒にお風呂に入ろう! 背中流すっすよ!」

「うわあぁ!!」

 以下大混乱。

 

 ブンブクの前で正座をさせられているフウ。

「いいですか、お姉ちゃん。

 乙女には恥じらい、を持たなくてはいけません。

 忍としての仕事はさておき。

 そうおっかあも言ってました」

「ああナカゴさんなら言いそうじゃん」

「別にオレはそれでも構わんかったぜよ…」

「何か言いました(ぎろりんっ)」

「いやなにも言っとらんぜよ(汗)」

「あのう、そろそろ足が…」

「反省しましたか、お姉ちゃん!」

「した! したっすから!」

「分かりました…」

 

「どろう2っす! どうっすか!」

「うわ! それひどいってばよ!」

「ブンブク残念ぜよ。

 これでオレの勝ちは揺るがな…」

「あ、りばーすじゃん」

「! ちょ…」

「あおの4」

「わいるどろー4、あかっす」

「ぬがっ!」

「ほいよ、あかの2」

「あ、りばーすです」

「なんだよまたか…わりーな、どろー2じゃん」

「うげっ!」

「あかの9、2枚捨てっす」

「あ、僕もあかの8、2枚捨てです」

「オレもじゃん、あかの1、2枚捨て」

「いちまーい、にまーい、さんまーい、よんまーい、やっと出た、あかの2」

 楽しい(?)夜は更けて行く…。

 

 

 

 夜の夜陰に紛れて。

 怪しげな一団が滝隠れの里に近付いていた。

「…おい、さっきの話、間違いないんだろうな」

「ふん、間違いない。

 元滝隠れの馬鹿者にしっかり鼻薬かがせて(わいろをおくって)確認済みだ」

「そいつも誘えばよかったんじゃねえか?

 自称元そこの上忍(笑)だろ」

「もうとっくにくたばったとさ。

 無様にも下忍に殺されたそうだ」

「上忍、ねえ。

 そりゃ確かにカッコ笑い、だわ」

「よし、オレ達の目的は『奇跡の泥』だ。

 他のモノには眼もくれるな、欲をかくと足を掬われるからな、今の滝隠れをなめるなよ」

「承知」

「任せて」

 忍び装束の一団はひたひたと足音も立てずに忍びよっていった。

 

 

 

 次の日、ブンブク達は大森林に分け入り、鬼隠れの里の調査を始めていた。

「ああ、やっぱりシノさん連れてこなくれ正解だったね」

「たしかに。あいつ絶対虫に気を取られて先に進めねえぜよ」

 大森林はほとんど人の手が入っていない自然の領域だ。

 しかし、下忍とはいえ、ブンブクも忍。

 この程度の障害をものともせず、調査を続けて行く。

「兄貴ぃ、目印の『鬼岩』らしいもんをめっけましたぜ」

 斥候に出していたカモからの連絡を受け、現場に進む一行。

 そこには、

「うわぁ、確かにこれは…」

「自然にできたとは思えないじゃん」

「そうなると、なにか仕掛けがあると思った方が良いぜよ」

「みんな、これ以上は近付いちゃいけないっすよ」

 まるで6本の角の生えた人、いや人外の顔のように見える鬼岩。

 苔むし、相当の年月、そこにそのままあるのだろうと思えるそれは、不思議な事に年月と共に風化しているようには見えなかった。

 下手に近付き、そう手以外の事が起きるのを避けるため、一行はその場から離れた。

 この場にいたのがナルトならば、必ず鬼岩にちょっかいを掛けていただろうが。

 

 さらに大森林の奥に進んでいく一行。

「そういや、その『鬼隠れの里』の連中って何でこんな不便な所に住んでたじゃん?」

「いや、妥当に考えれば、昔はここにも道がちゃんとあったって事じゃないかなあ?

 大きめの里はほら、滝隠れの里もあったわけだし。

 昔は忍里ってうちらのとこみたいに大きなのがデン、とあったんじゃなくて、小さな里が点在してるのが普通だったみたいだし」

「60年くらい前の火影が提唱した『五大忍里』のシステムだな、授業で習ったばかりぜよ」

「ふ~ん、あっしはそこらへんもう忘れたっすよ」

「もしくは『不便でないといけない』理由でもあったのかも。

 とっても危険な代物を扱っているとか」

 ブンブクの脳裏にはケミカルハザードという言葉が浮かんでいた。

「もしそれが事実なら、気をつけた方がよさそうじゃん。

 ブンブクの言う事はたまに大当たりを引いたりするからな…」

 この中では最年長であるカンクロウが、皆の気分を引き締めに掛かる。

「…ん? あれは…」

 その時、鬼童丸が何かを見つけた。

 彼は非常に目が良い。

 その優秀な視力で、自然の中に埋もれた人工物の痕跡を発見したのだ。

 

 そこは石造りの建物が点在する遺跡だった。

「どうやらここが目的地で間違いなさそうぜよ」

「なんで分かるっすか?」

「ほれ」

 鬼童丸は手のひらに自身の召喚動物でる蜘蛛を呼び出していた。

「こいつらが騒いでる。

 かなり強いチャクラを持った虫がここにいた形跡があるんぜよ」

「そ、今回の調査はうちの里の蟲使いの人の依頼だから。

 昆虫とかと関わりのある遺跡でしょ、確か」

「まあ、そうっすね。

 うちの里にもお昔は蟲使いの一族がいたって話を聞いた事があるっすよ。

 いろいろあって今はいなくなっちゃったっすが」

「んじゃ、オレと加茂之輔はここいらで警戒。

 調査はフウ、ブンブクと鬼童丸に任せるじゃん」

「はーい」

「任せておくぜよ」

 

 調査は進み、ブンブク達はかなりの量の文献を入手していた。

 湿気の多い土地柄ゆえか、紙媒体の文献は油紙などに包まれ、出来るだけ劣化しないように保存されてあったのである。

 そんな中、

「ちょっと来てほしいっす~っ」

 フウのそんな声に呼ばれて、ブンブクが見たものは、

「…石版、ですか」

 おそらく長の家であろうと思われるひと際丈夫に作られた建物。

 その奥の壁の一部が風化により崩れ去っており、そこから地下に行けるようになっていた。

 警戒をしているカンクロウに声をかけ、地下に入っていくブンブクとフウ。

 地下にあった石版は、忍び文字で書かれており、すぐには解読できそうにない。

 ブンブク達は石板の文字を紙に移し、ひとまず出ることにした。

「? ブンブク君、どうしたっすか?」

「…ここ見てください」

 フウがブンブクが示した会談の一角を見る、そこには…。

「足跡っすかね?」

「間違いないかと。

 誰かが僕らより先にここにきてたってことだと思う。

 …早めにこの忍び文字、解読した方がいいかもね」

 

 

 

 滝隠れの里は襲撃を受けていた。

「下忍、中忍は住民の避難誘導を、上忍は敵の排除を優先してくれ!」

 里長であるシブキはこの襲撃をおかしい、と感じていた。

 今やこの里に「英雄の薬」はない。

 大人数での襲撃ならばともかく、今回の襲撃は山犬の群れ(多分召喚動物による誘導)と数人の腕の立つ忍のみで構成された相手である。

 金や食料を奪いに来た者とは違う感じがする。

 シブキの直感は正中を射ていた。

 これは誘導。

 この襲撃の首謀者である「蛍火のジュゲン」は混乱に乗じて里に侵入、里の大樹の根元、とある枯れた泉にまでやって来ていた。

 ジュゲンは巻物を取り出し、泉の底にたまる泥を吸い上げていた。

「貴様、そこでなにをしている!」

 そういうのは里長のシブキ。

 かつての気弱な少年は、世界の荒波にもまれ、精悍な青年へと成長していた。

 その知性も同様に。

 襲撃におかしなところがあると感じた彼は、かつて「英雄の薬」の原料が湧いていた泉が、襲撃者の目的ではないか、そう推理した。

 本来の英雄の薬ほどではないが、その泉の水には滋養強壮作用があった。

 もしや、今は失われた英雄の薬の調合法を手に入れて輩がそれを悪用するのではないか、シブキはそう考えたのだ。

 ある意味それは当たっていた。

 より最悪な方向へ。

 

「ああん? 英雄の薬だあ!? そんなくだらないもんのためにこれはあるんじゃねえ!

 滝隠れの里の大樹は特殊なチャクラを生成するんだよ、この『奇跡の泥』はその集大成だ!

 これはなあ、オレの一族に伝わる最終兵器を起動するカギなんだよ…

 そう、『大魔蟲・怒鬼』のなあ!!」

「どき、だと…。

 まさか!!」

「そのまさかさあ、もうここに用はねえ!

 あばよ!!」

 大量の起爆札をばら撒き、その隙に逃走するジュゲン。

「くそ、なんて奴だ…。

 しかし…!、まずい、今あの近辺にはフウ達が!」

 

 

 忍び文字を読解しようとしていたブンブク達。

 木の葉、滝、砂、音と様々な忍び文字による解読を試した結果、なんとか読み解く事に成功いた。

 しかし、

「…これシャレになんないね」

「危険極まりないじゃん」

「勘弁してほしいぜよ」

「里の近くにこんな危ないものがあったなんて…」

 石板には驚くべき事が書かれていた。

「鬼隠れの里」はとある召喚動物を封印するために存在した里であったのだ。

 それは「大魔蟲・怒鬼」。

 蟲術を極めて行く過程で出来上がった、最強最悪の蟲である。

 鬼の面のような甲羅を纏い、強力な土遁と時空間忍術のハイブリッドである「暗黒洞」を制限なく使用できる、巨大な蟲。

 全てのものは暗黒洞に囚われ、その高重力で跡形もなく押しつぶされる。

 術を封じたとしても、その巨体による蹂躙はとどまる事を知らない。

 そして最も忌むべきは、術者すら時間と共にその身に取り込んでしまう事。

 術を使うものが術に取り込まれる。

 忍にとっては余りにも皮肉な結末である。

 殺しても死なないそれを封印するため、鬼隠れの里はこのような辺鄙な場所に居を構え、さらに少しづつ里の民を他の里に移住させ、自然消滅をさせたのである。

 その事全てが石板に書かれていた。

「と、今解読できるのはここまでだよね」

「こんなもん、知っちゃってどうするぜよ?」

「…ほっとく訳にもいかねえじゃん。

 正直言って、忍5大国で管理でもしねえと余りにも物騒じゃん」

「そうですねえ、ちょっとこれは一国に管理してもらうのは余りにも…。

 これ尾獣レベルで、かつ制御できないってことですもんね」

 ぴくり。

 フウの肩が引きつった。

 やっぱりだめなのか。

 尾獣の人柱力では友達になれないのか。

 そんな思いがフウの中に会った。

 しかし、

「まあ、身内に人柱力がいる身としては何とも言い難いじゃん」

「そうですよねえ、力と人柄は別ですし。

 うちの兄ちゃんもねえ、もしここにきてたら絶対『鬼岩』に落書きとかしてたと思うし」

「お前ら、余裕だなあ。

 身内に人柱力がいると、そんなに能天気になるもんなのか?」

 もしかしたら、

 彼らはフウが人柱力だと知ったとしても仲良くしてくれるかもしれない。

 そう考えると、フウの心の中が、ぽっと温かくなる気がしたのである。

 

「! ちょっと待つっす!」

 いきなりフウがそう言った。

「里の念話使いからっす。

 ! 里が、襲撃されたって…。

 襲撃者の目的は、大樹のふもとの泉の泥?

 それが、…! はあっ!? 泥が『怒鬼』の起動に必要って!?」

「…おい」

「やべえぜよ」

「これは僕らじゃどうにも…、

 いや、鬼岩に襲撃者より先につければ!」

「なるほど、鬼岩を動かす前に、下衆共を仕留めればいいのか…。

 おい、フウよぉ、念話で敵の戦力を確認してくれ。

 こっからいけば連中より早く鬼岩につけるじゃん!」

「! 分かったっすよ! 先に鬼岩に着いて、連中叩きのめすっす!」

 

 ブンブク達が鬼岩の前についてみると、丁度里の方からはぐれ忍の一団がやってくるのが見えた。

 数は4名だが、多数の山犬と黒いオオカミを追従させている。 

 戦闘にいるのはいかにもガラの悪そうな男性。

 どうやら彼がこの集団の頭目のようだ。

「さて、こっちも4人。

 4対4ですね!」

 

 ブンブクの相手は土遁使いの大男だった。

 走ってくるブンブクに対し、男は「土遁・岩柱槍!」周囲に岩の柱がそびえ立つ。

 本来ならばブンブクに突き刺さるはずのそれは、ブンブクの歩法によって目算を崩され、命中せずに終わった。

 しかし、男はにやりと笑う。

「これで終わりと思ったか! 土遁・岩宿崩し!」

 ブンブクの周辺に突き立った岩の柱が、計算されたようにブンブクに崩れかかる。

「!」

「兄貴ぃ~っ」

 カモの悲痛な叫びが辺りに響く。

 ブンブクは逃れる事も出来ず、腕を残して生き埋めになってしまった。

「ふん、たわいもない、さて…?」

 余裕を見せる男は奇妙な生き物を見つけた。

 まるで茶釜に狸の手足と頭、尻尾を付けたような間抜けな生き物。

 それはとてとてと男の前にやってくると、ぼうん、という煙と共に消え去り、

「うりゃさっ!」

 ブンブクは肘を男に向かって突き上げた。

 丁度股間のあたりに。

「!?‘*@!!!」

 声もなく悶絶する男に、手加減無用のブルドッキングヘッドロック。

 男は地面に顔をうずめて轟沈した。

「兄貴、お見事ですぜ」

「カモくんも名演技だね」

 ブンブクは自分の腕に変化させていた「八畳風呂敷」変化を悠々と解くのだった。

 

 鬼童丸の相手は忍犬使いの女だった。

 が、

「キバと比べたら話にもならんぜよ」

 得意の集団戦を、鬼童丸の蜘蛛の糸であっさりと封じられ、動揺している間に打ちのめされてしまった。

「いくらなんでもイージーすぎるぜよ。

 きちんと修行しねえとこなもんなのかね。

 オレも気をつけんといかんぜよ」

 

 カンクロウと対するのは忍刀使い。

 体術の間合いにおいてはカンクロウの不利、とみられていたが…。

「くっ、このっ!」

 意外な事に、チャクラ糸を武器、盾にしてカンクロウはうまく立ち回っていた。

「このくらい出来ねえとなあッ、ガイ師匠に後でどんな目に会わされるか…っ!」

 砂隠れの里ではかつて体術が冷遇されてきたが、現風影・我愛羅の方針で体術の地位向上が図られたのである。

 その為、我愛羅の兄弟でもあるカンクロウが体術が苦手、という訳にもいかなかった。

 そのため、カンクロウがいろいろと理由を付けて木の葉隠れの里一の体術の使い手、マイト・ガイに短期入門をすることになったのである。

 その修行は苛烈を極めた。

 その甲斐もあり、カンクロウはいっぱしの体術使いとしての開花を見せていたのである。

 それを見てブンブクは「才能が憎いっ!!」と血涙を流していたとかいないとか。

 とはいえそれは「いっぱし」レベルの話。

 体術を主体とした忍刀使いと戦うにはまだ足りない。

 体術どうし、ならだが。

「!」

 忍刀使いは動揺していた。

 まるで蜘蛛の巣にでも絡まったかのように体が動かない。

「へっ!」

 カンクロウは不敵に笑う。

 チャクラ糸に紛れて鋼糸を地面に這わせてあったのである。

 それをチャクラで制御し、忍刀使いを縛り上げた。

 そして、

「潰れちまえ、操演絡繰傀儡『山椒魚』!」

 地面から四足闘物型の大型の絡繰傀儡が飛び出し、忍刀使いを、「ぶげっ!」押し潰した。

「これにて、仕舞い、じゃん」

 

 フウと戦うのは頭目らしき男。

「はっ、滝隠れの出世頭と聞いたが、大したことぁないなあ、おい!」

 頭目、「蛍火のジュゲン」は上忍相当の実力を持っていた。

 手裏剣、ヌンチャクによる体術、火遁と土遁を併用した遠距離忍術と、的確にフウを責め立てる。

 他の男どもの戦闘への介入を許さないために絶妙な距離を取っている。

 その為にカンクロウと鬼童丸は手を出せないでいる、のだが。

「…? なんだこいつらは? 仲間のピンチだってのにニヤニヤしやがって…」

 ジュゲンは気が付いていない。

 先ほどから小さな茶釜のようなものがジュゲンの目を盗んでちょろちょろと戦場に近付いているのを。

 

「く、このままじゃやばいっす!」

 フウは焦っていた。

 一瞬。

 ほんの一瞬で良い。

 奴の隙があれば…。

 そう思っていた時である。

「! な、なんだこれ!?」

 ジュゲンがいきなりバランスを崩した。

 ジュゲンのかかとの所にペッたりと丸いものがへばりついている。

 フウは知らぬ事だが、ブンブクは文福釜モードに変化し、ちょこちょことジュゲンに近付いていた。

 そして至近距離になるや「八畳風呂敷」を糸状にほぐしたものでジュゲンの足にへばりついたのだ。

 体術の距離では、身体のバランスが急に崩れると動きに乱れが生じるものである。

 ジュゲンもその例に洩れず、致命的な隙を見せてしまっていた。

「! チャンス!」

 フウは素早く印を組むと秘伝忍術・燐粉隠れの術を発動した。

 フウの周囲からキラキラとした粒子が湧き上がりジュゲンを取り囲む。

「く、このっ!」

 燐粉は振り払おうとすればするほど纏いつく。

 その隙にフウは七尾の力を一部開放した。

 どんどん燐粉の纏いつくジュゲンを尻目に昆虫の羽根で高々と飛翔する。

 そしてそのまま急降下、必殺の蹴りを放つ!

「ゲハアッ!!」

 燐粉の纏いついたままジュゲンははじけ飛んだ。

 燐粉は実のところ衝撃に弱い。

 ジュゲンが地面にたたきつけたられた衝撃で、

 

 轟!!

 

 激しく燃焼、爆散した。

 これぞフウの特性を生かした「秘伝・燐粉爆砕」の奥義である。

「最後はど派手に! それがフウのやり方っす!」

 フウはカンクロウ達にびしっとサムアップをして見せた。

「僕はまる焼け寸前だったけどね」

 ブンブクはすんでの所で逃げていた。

 

 

 

「甘めえよ、馬鹿どもが…」

 周囲に倒したはずのジュゲンの声が響き渡った。

 ブンブク達が周囲を見回すと…。

「あそこっす!」

 鬼岩の上に、蛍火のジュゲンが立っていた。

 ジュゲンは辛うじて変わり身の術を使い、爆死を逃れていたのである。

 とはいえその体はぼろぼろでまともに戦える状態ではなかった。

 ぜいぜいと余裕のない体で鬼岩に立つジュゲン。

「もう諦めるっす、あんたに勝ち目はないっすよ!」

 フウがそう勧告するものの、

「く、くっ、くかかかっ! 馬鹿が、勝ち目がねえのはそっちだってのがまだ分かんねえよおだなあ、おい」

 そう言いながら懐から巻物を出すジュゲン。

 それを見て、ブンブクが焦った声を出した。

「あれって封印術の巻物じゃない? ってことは…まずい!」

 彼がそういうと同時に、ジュゲンの持っていた巻物が開かれ、その中から黒々とした泥が噴出してくる。

 その泥が鬼岩に触れると同時に…。

 

 めりめりっ!

 

 鬼岩のちょうど額部分にひびが入った。

 日々は大きな亀裂となり、泥がその中に吸い込まれていく。

「はははっ、やった、これでオレは最強の力を得る!」

 気の触れたように笑うジュゲン。

 亀裂は大きくなり、やがて真っ二つに裂ける。

「くそっ、『蜘蛛粘金』!」

 鬼童丸が硬化させた粘糸をジュゲンに叩きつけるが、彼の足下から膨大なチャクラが噴出し、鬼童丸の攻撃を妨げた。

 そして裂け目から泥が噴出し、ジュゲンの下半身を飲み込む。

 まるでジュゲンが鬼岩の額に埋め込まれたようだ。

 チャクラの噴出は収まらない。

「ひっ!」

 フウが悲鳴を上げた。

 鬼岩の瞳が、ギラリと生気を放ったのである。

 そして伝説の鬼岩が、地響きを上げて浮かび上がった。

 それはまさしく鬼。

 みりみりと6本の角が立ちあがり、浮き上がると同時にはっきりと見えてくる上下の顎には鋭い牙がぞろりと生えている。

 その恐ろしげな顔に睨みつけられ、ブンブク達はまるで金縛りにでもあったかのように身動きが取れなくなる。

「かかかっ、さあ、復活だ! 『大魔蟲・怒鬼』! お前の本当の姿を見せてやれ!」

 そうジュゲンが言うとともに、更なる異形がその場に現れた。

 

 鬼岩の側面がめりめりと剥がれる。

 それと同時に鬼の顔、その下顎が二つに裂けた。

 鬼の顔がまるで咆哮を上げるかのように上顎が持ち上がっていく。

 そう、鬼岩はまるで、人の形を取るが如く捻じれ、歪んでく。

 側面が剥がれた所からは、明らかに腕と思しき部分がせり出し、剥がれた側面は肩当てか飛び立とうとする甲虫の羽根の如く広がっている。

 下顎部分は甲冑の直垂のようにその下からせり出してきた脚部を支えている。

 そしてジュゲンの埋め込まれた部分は、異形、といってよい凶暴な顔が持ち上がって来ていた。

 そこには、鬼岩ではない、鬼どころではない、異形としか言いようのない怪物が存在していたのである。

 

「さあ、第2ラウンドといこうぜ、ガキどもおっ!」

 大魔蟲・怒鬼が動き出した。

「…みなさん」

 ブンブクが告げる。

「うん」

「はよ言うじゃん!」

「そうぜよ!」

「総員てった~い!!」

「兄貴ぃ~っ、たぁすけてぇ~っ!」

 彼らは必死になって逃げ出した。

 

 

 

「これはどうにもなんないかな!?」

 しばしの後、何とか鬼隠れの里に逃げ込んだブンブク達である。

「しっかし、何かおかしいぜよ?」

 鬼童丸が首をかしげた。

「? なにがですか?」

「なんであいつはただ追いかけてくるだけなんだ?

 あの怪物には『暗黒洞』とか言う必殺技があるぜよ。

 それ使えばこのあたり一瞬で消し飛ぶんじゃねえか?」

 鬼童丸の指摘に頭をひねるブンブク。

「そうですねえ、それが可能なはずですもんね。

 1つ、猫がネズミをいたぶるみたいに、遊んでる、という可能性」

 ブンブクがそういうと、

「くそったれ! ガキどもどこに逃げやがった! とっとと出てきて殺されやがれ!」

 というジュゲンの苛立った声が聞こえた。

「…なさそうですね」

「そうじゃん」

「じゃあ、次の可能性として、石板を十全に解読できてない、かな?」

「ああ、それありそうっす!」

「それだと、怒鬼への対処法が、石板の残りに書いてあるかも知れないね。

 カモくん、警戒よろしく。

 後のみんなは石板の解読に尽力しよう」

「了解!」

 

「ガキどもォ、どこに隠れやがったぁ…」

 外で喚き散らしている声を聞きながら、ブンブク達は必死の解読作業を行っていた。

「この、『守護者』ってなんですかね。

 生きてもおらず、死してなお、鬼を封ずるもの、って。

 あと、蟲の王がどうとか、暗黒洞に対抗する鎧、とかって」

「さすがによく分からん。

 それでも、あちらさんがこっちに意識を持って来てるうちに、何とか解読しねえとな。

 滝隠れの里の方に意識が行くとまずいじゃん」

「確かにそうなんですけど、幸か不幸か、敵さんかなりお馬鹿になってそうですね」

 ブンブクの言葉に首を傾げる一行。

「はい手を止めないで。

 …多分敵さん怒鬼さんにかなり浸食されてんじゃないかと。

 もともと、血の気は多いんでしょうけど、一応小集団の頭やってた人の反応じゃないでしょ?」

「おい、って事は…」

 顔色が変わるカンクロウと鬼童丸。

 フウは自体が飲み込めてない様子。

「そ、このまんまだと、あの人、怒鬼さんに取り込まれて怒鬼さんが本能のまま暴れ出すって事」

「そ、それはまずいっす! 何とかしないといけないっすよ!」

 いきなり動揺して大声を出そうとするフウの口をぶんぶくが押さえるが時遅し。

 どうん! という衝撃と共に、一行は吹き飛ばされた。

「みいつうけえたあぞうぅぅ!!」

 吹き飛んだ石造りの建物の上から、巨大な影、怒鬼が睨みつけていた。

 

 ブンブク達は次の瞬間、大きく吹き飛ばされた。

 ブンブク達のいた建物ごと、怒鬼の腕が地面をえぐり、吹き飛ばしたのだ。

「うぇあぁ~っ!!!!」

「くそっ、山椒魚!」

「蜘蛛粘金!」

 シェルターとしても使える大型傀儡、「山椒魚」と鎧としての効果もある「蜘蛛粘金」によって、何とか負傷は避けられたものの、これで怒鬼からは丸見えである。

 これはやばい、そう感じた時。

「があああぁぁぁっ!!」

 とうとう、何かが切れた。

 言うならば、ジュゲンと怒鬼との間で行われていた主導権争いの綱引きが、とうとう怒鬼の勝利に終わったのだ。

「やめろおぉ! おれはあぁ! まだあぁ!」

 喚き散らすジュゲンの声がだんだんと小さくなっていく。

「とにかく体勢を立て直さないと…」

 ブンブク達が吹き飛ばされたのは、奇しくも鬼岩の埋まっていた場所であった。

 カンクロウの傀儡、山椒魚から抜け出してみたブンブク達はあっけにとられた。

 そこには、「何か」が埋まっていた。

 鈍く光る、(あかがね)色の何か。

「! これ、石板にあった、守護者ってやつですかね?

 確か…」

 その名は「守護鎧・鋼」。

 そう記されていた、対怒鬼用兵器がそこにはあったのである。

 

「さて、文献を調べた結果ですが…」

 その内容はこうであった。

・「鬼隠れの里」は「大魔蟲・怒鬼」封印するために存在していた。

・ 怒鬼は強力な術である「暗黒洞」を制限なく使用できる。

・ 術者を時間と共にその身に取り込んでしまう、今はこの状態。

・ 取り込まれた術者が完全に吸収されてしまうまでに大体1昼夜。

・ 対抗策として「守護鎧・鋼」がある、これは今目の前に。

・ これは本来何らかの大型昆虫に纏わせて使うものである。

・ これは込められた膨大なチャクラにより怒鬼の暗黒洞のような術系を無効化する能力がある。 

「…ということだね。

 纏わせる巨大昆虫がいない以上、どうにもならない、と」

「…これは、一旦撤退の後、五大忍里で緊急会議をする必要があるんじゃないかと思うじゃん。

 もうすでにオレ達だけじゃどうにもなんなくなってるじゃん」

「そうぜよ。

 オレもさすがに呪印なしであれに突っかかる気には…」

「そうですよねえ、…あ!」

 ブンブクは思うところがあったのか、カモと何か話しこんでいる。

「ねえカモくん、化け狸の人たちはどう?

 狸穴大明神の術で来てもらえればかなりやれると思うんだけど!?」

「…無理みたいっす。

 9大種族会議の準備のためにみんな出払っていまさあ」

「なにそれ?」

「尾獣の方々が最初に近くにおいた種族の長と有力氏族が一堂に会する会議でさあ。

 主に、口寄せ動物がどう人間と付き合うかを話し合うんでさ」

「へえ、って今はそういう話ししてる暇はないんだっけ。

 そっか、それだと無理だねえ…。

 避難はもう始まってる筈だけど、いっぺん滝隠れまで戻って、避難誘導をした方がいいかも。

 この分だといの一番に狙われるのは…」

「どこっすか!?」

「多分、滝隠れの大樹。

 怒鬼さんの好物か、力の源って大樹の泉の泥でしょ?

 それを狙うんじゃないかと思う」

「そんな…」

 フウはもう泣きそうだ。

「仕方ねえぜよ。

 早いとこ避難させねえと、人の犠牲が出るぜよ」

「だな、これ以上オレ達が出来る事はねえ。

 無念だが、後は上の連中に任せるしかねえじゃん。

 こういっちゃなんだが、オレは現風影の兄貴に当たる。

 なんとか早めに動いてもらえるよう頼んでみるって」

 鬼童丸とカンクロウの慰めもむなしく、フウの瞳からぽろりと涙の粒がおちる。

 怒鬼が滝隠れを襲撃したなら、里がどうなるか、が想像できてしまうのだろう。

「フウは、あっしは、里のために生まれたのに…、人柱力なのに…、なんにも…、なんにも出来ないっすか…?

 里が…、里が…、無くなっちゃう…」

 ほろほろと涙を流すフウを見て、気まずくなるカンクロウと鬼童丸。

「おいブンブク、お前も… !?」

 ブンブクに話を促そうとした鬼童丸は、ブンブクの目つきが変わっているのを見た。

 ブンブクはぶつぶつと何かをつぶやいている。

 これは…。

 ブンブクのつぶやきに耳を澄ます鬼童丸。

「…つまりこれは大量のチャクラを蓄えた昆虫の外骨格、なんだよな。

 ってことは、だ。

 蟲の構造って、骨格の内側に筋肉が付いてるから、それを模倣してやれば…。

 ここには八畳風呂敷を持ってる僕、筋肉を固定する腱の役割は鬼童丸さんの蜘蛛粘金で代用、で、全体のコントロールは傀儡師のカンクロウさん、さらには確か七尾さんは昆虫系の始祖だから、フウさんにチャクラを流してもらえればさらに親和性が…」

 何やらずいぶん危険な事を考えている様子。

 ふっとブンブクが顔を上げた。

 大粒の涙を流し、泣いているフウを見て、その後カンクロウ、鬼童丸の顔を見上げた。

「カンクロウさん、鬼童丸さん、僕の博打に乗る気はありませんか?」

 

「またずいぶん無茶を言うなあ、おい。

 それは今この場で、即興で絡繰傀儡を作るのに等しいじゃん」

 カンクロウは呆れ顔だ。

「で、どうなんですか」

 ブンブクは真剣そのものだ。

「…やるじゃん。

 なあブンブク」

「なんです?」

「どっかで聞いた言葉なんだけどよ。

『男がどんな理屈を並べても、女の涙一滴にはかなわない』だとさ」

 隣で鬼童丸が肩をすくめ、

「そりゃ全く至言ぜよ」

 ニヤリ、と笑った。

「兄貴、オレっちも気張るぜい!」

 カモもやる気だ。

 ブンブクはパン! と手を叩くと、

「んじゃやりますか!

 男連は早速作業に掛かりましょう!

 フウさんは里の方に連絡を取って下さい、緊急避難勧告を出してもらって、木の葉隠れの里の方に逃げてもらってください」

「え、え!?」

 フウは自体が飲み込めないでいた。

 しかし、3人がこの事態を何とかしようとしてくれている事だけは分かった。

 もしかしたら…。

 フウは、自分のためにこの事態を何とかしよう、そうこの3人が考えてくれた事を今まで感じた事のない想いで見つめていた。

 

 

 

 巨大傀儡の作成作業は意外な局面を迎えていた。

 当初、4人プラス1匹で始まった作業。

 夜に入る前に、滝隠れの忍達が協力するために集まってくれてきたのだ。

 里長のシブキですら。

 彼は、

「里を守るのが長の務め、ここで動かないでどうする!」

 そう言っていた。

 下忍は里の人たちの避難誘導、そして中忍以上は傀儡作成の作業に当たってくれたために、作業は予想以上に早く進んでいた。

 元々、この鎧は大型昆虫数十体を内包する形で動かすものであったらしく、一度方針が決まると作業は流れるように進んでいった。

 まず、ブンブクが鎧より供給されるチャクラにて「八畳風呂敷」を成長、増強して筋繊維に変化、それを鬼童丸が蜘蛛粘金の術で固定する。

 要所要所にカンクロウがチャクラ糸の操作起点を打ち込み、最後にフウが七尾のチャクラを流して鎧と筋繊維、腱の親和性を高める、そういう作業が進んでいく。

 そして1昼夜。

 そろそろ怒鬼が活動を開始するだろう、そういう段階になって。

「作業終了じゃん!」

 とうとう、『蟲骸巨大傀儡・鋼』が完成したのである。

 ところが、完成した段階で問題が発生した。

 操縦を行う中枢部分、ロボットでいえばコックピットがちと狭かったのである。

 実際にチャクラ糸を繰るカンクロウ、鎧と筋の親和性を高めるチャクラを送るフウ、筋繊維の変化を維持するためのブンブク、腱の維持をする鬼童丸、この4人が乗り込まなければならないのだが。

 ここで年長者の鶴の一声が出た。

「ブンブク、お前茶釜になるじゃん」

「…茶釜になってると周りが見えないんだけど」

「文福茶釜になっとくじゃん」

「…それしかないのかっ(血涙)」

 結局、ブンブクの席はフウの膝の上、となった。

 

 巨人が立ちあがる。

「チャクラ糸の操作、十分許容範囲じゃん!」

「粘金の固定も問題ないぜよ!」

「筋繊維の方も問題ないですよ!」

「うん、鎧の方も素直に従ってくれてるっす!」

 各員からおーるぐりーんが申告される。

 主たる操縦者(めいんぱいろっと)のカンクロウから、

「蟲骸巨大傀儡・鋼、立つじゃん!」

 周囲にあった土遁による足場を破壊しつつ、チャクラの影響からか、金属沢のある赤味のかかった装甲を日に煌めかせつつ全長30mの巨人が、仇敵に対してその腕を構えたのである。

 全身を異形の鎧に包んだ巨人。

 装甲を何枚も重ねたようなデザインの胴体は、身長に比してスリム、と言っていいだろう。

 しかし、その手足は胴体の細さに比べてかなりがっしりしている。

 肩口からは、尾の代わりなのだろうか、バランサーとして使われているらしい触腕が唸っている。

 脚は太く、つま先には爪が付いている。

 腕には相手を殴りつけるためなのか、恐ろしく大きく、丈夫そうな爪がついており、凶悪さを示している。

 相手をするのが怒鬼でなければどちらが悪役か分からない。

 元が巨大昆虫の外骨格だけにどこか生き物めいた存在感を振りまきながら、鋼は怒鬼に向かっていった。

 

 

 

 怒鬼は苛立っていた。

 怒鬼は喜んでいた。

 己の力をぶつける相手がいた事に。

 知的生命体はすべからく己の存在意義を考える。

 怒鬼は見た目以上に知能が高い。

 もっとも、その高い知性は「闘争」に特化しており、いかに相手を滅ぼすか、どう壊すか、そういう考え方しかできないのであるが。

 地響きを立てて迫りくる仇敵・鋼。

 怒鬼はそれを迎え撃つため、鋼に向かい合った。

 怒鬼の背中には風遁の発動印が書かれた羽が大量についている。

 その全てを起動し、怒鬼は鋼に襲いかかった。

 

 2体の巨人が大森林を舞台にぶつかりあった。

 質量以上の衝撃が周囲を襲う。

 激突の瞬間、2体の周囲の土がはじけ飛び、木々が隕石の爆発にでも巻き込まれたようになぎ倒された。

「ぐ、があっ!! お、重てえじゃん!」

「脚部の筋繊維1割に損傷! 回復始めます!」

 たった一撃でも鋼には大きな損傷ができる。

 なにせ即興の機体だ。

 ぶっつけ本番で動かさざるを得ない以上、現場で調整をするしかない。

 それに、里にこれ以上この怪物を近付ける訳にもいかない。

「みんな、気合入れるじゃん!

 こいつを大森林の奥に押し込むじゃんよ!」

 カンクロウは皆に、そして自分自身に気合を入れると鋼の全身に力を行きわたらせ、怒鬼の巨体を思いきり持ち上げた。

 信じがたいほどの強力を発揮し、怒鬼を釣り上げる鋼。

 そしてそのまま、怒鬼を森の奥に投げ飛ばした。

 怒鬼はその巨体ゆえに脚部の身の移動では非常にゆっくりとしか歩くことはできない。

 その為の風遁の発動印なのであるが、その風遁を持ってしても投げ飛ばされた衝撃を吸収することはできなかった。

 とてつもない衝撃と、高々とあがる土煙。

 さらに押し込もうと、突貫する鋼。

 しかし、

 

 轟っ!!

 

 衝撃を受け、動きが止まってしまう。

「くっ、なにが起きた!」

「多分向こうの特殊能力の『暗黒洞』って奴だと思う!

 左腕の筋繊維が半分断裂した!」

 あわてて切れた筋繊維を繋ぎなおすブンブクだが、その間にも、怒鬼から漆黒の弾丸、というべきものが鋼に飛来する。

 目に見える形での攻撃である。

 カンクロウは余裕を持って回避するが、

 

 ボッ!

 

 逸れた弾丸が、森に着弾する、その瞬間、森の木々がごっそりと消滅した。

「でぇっ! こりゃやばいじゃん!」

「そうっす! あっしらの後ろには滝隠れの里があるっすよ!!」

 時空間忍法「神威」が使われたかのように、周囲のものを飲み込んで消滅していく「暗黒洞」の厄介さに一同は気付いた。

 自分たちの後ろには守るべきものがある。

 ならば、飛来する「暗黒洞」を回避する訳にはいかない。

 鋼は腕を交差し、打ち出された暗黒洞全てを受け止めながら、怒鬼に突進していった。

 

 

 

 鋼はすでにぼろぼろだった。

 見た目にはそうは見えない。

 しかし、怒鬼の暗黒洞を受け止め、受け止めた結果、内部の筋繊維はぼろぼろになっていた。

 特に両腕はすでに修復が不可能なほど、痛めつけられていた。

「くそっ、機動力が足んねえじゃん!」

 なんとか怒鬼の後ろに回り込み、「暗黒洞」の余波が滝隠れの里に及ばないようになった頃にはすでに鋼はがたがたになっていた。

 ブンブクと鬼童丸が何とか修復をしてくれているものの、すでに腕部の修復に取りかかる余裕はない。

 もう一歩。

 あと一歩何かがあれば。

 カンクロウは焦りが募っていた。

 

 フウは無力感に襲われていた。

 自分は七尾の人柱力だ。

 その自分が、いま、必死になって頑張ってくれている人たちのためになにも出来ていない。

 ブンブク君、カンクロウ君、鬼童丸君。

 みんなが頑張ってくれているのに。

 なにかあるはずだ。

 自分にだけしかできない事が。

 フウだそんな思いにとらわれていると。

“古の盟約により、今回のみ、特別だ…”

 そんな声が聞こえた。

 それと同時に、フウの中に圧倒的な力が生まれた。

 いや、元々持っていたものが引き出された、というのか。

 その力はフウから鋼へと伝わり、

 鋼のその背中へ抜け、

 虹色に輝く甲虫の羽をその身に顕現した。

 

「! こりゃあ一体…」

 一瞬カンクロウは何が起こったか分からなかった。

 しかし、鋼の傀儡体がいきなり軽やかに動き始めたのが分かると、

「おい! みんなここが賭け時じゃん!

 全力で行くじゃんよ!」

 そう号令をかける。

「はい!」

「いくぜよ!」

「ぶちかますっす!」

 

 怒鬼には理解できなかった。

 もうすでに仇敵には力が残っていないはずだった。

 それが。

 一瞬、鋼の目がギラリと輝いたように見え、そして次の瞬間、怒鬼の視界より消え去ったのである。

 怒鬼の感覚器は、少なくとも戦いにおいては非常に優秀だ。

 それが、一瞬とはいえ、敵を見失ったのである。

 

 全身の筋繊維、そして七尾の羽によって鋼は高々と跳躍した。

 この時、操演師のカンクロウには1つのビジョンがあった。

 ここしばらく師事して(しごかれて)いた木の葉隠れの上忍、マイト・ガイである。

 彼が初めに見せてくれた体術、それは、「木ノ葉剛力旋風」。

 凄まじい勢いで突貫し、眼にもとまらぬ速さで繰り出される蹴り。

 カンクロウは体術使いではない。

 しかし、あの蹴りを傀儡で再現できないものか。

 そうカンクロウは考えていた。

 しかし、烏や黒蟻では強度が足りない。

 半ばあきらめていた、その時、この「鋼」を繰る機会を得た。

 なれば!

 鋼は自らの重量、そして七尾のチャクラによる推進力を全て落下のエネルギーに変え、彗星の如く怒鬼に突進していった。

 そして、

 

「喰らうじゃん! 『操演・鋼剛力旋風』!!」

 

 その蹴りは、怒鬼に命中し、一瞬拮抗。

 そして次の瞬間、怒鬼の上半身を粉微塵に吹き飛ばし! さらに地面を大きく削り、一直線の巨大な平地を作りながら、やっと止まったのである。

「これにて、全演目、終演!!」

 次の瞬間、制御を失い暴走したチャクラにより、怒鬼は轟音を立てて爆散した。

 

 

 

「そっか…。

 そんな事があったのかあ…。

 やー、大変だったねえ」

 そんな爪の垢ほども気持ちのこもっていない事を抜かすのははたけカカシ上忍。

 すでにブンブク以下、カンクロウも、鬼童丸もこの人に対する尊敬の念はすでに消えうせている。

 ここは滝隠れの里の入口である。

 戦いの後には必ずそれを終わらせるための雑務が待っている。

 避難させた住民の呼び戻し、日常生活が始まるまでの保障、破壊された施設の補修など様々な任務がブンブク達を待っていた。

 それらをこなし約1週間(なお、鬼童丸は補講を受けるために一度木の葉隠れの里に帰っている)、やっと日常生活が戻って来た所にカカシがやって来たのである。

 無論カカシとて無駄にだらだらとしているわけではない。

 上忍として、滝隠れの里の復興に尽力し、木の葉隠れの里との連絡を取ってくれていたのである。

 もちろん、木の葉隠れの里側が無償で援助、という訳でもない。

 双方の里の間では政治的綱引きが行われ、なにがしかの取り決めが実を結んだようだが、今回の話には関係がない。

 そして今日、ブンブク、鬼童丸、カンクロウの3人が滝隠れの里を離れる事になったのである。

 ブンブク達と仲良くなった里人たちも見送りに来る中、瞳を潤ませているものが1人。

 言わずと知れた滝隠れのフウである。

「…みんな、行っちゃうっすか?」

「うん、僕たちはここの人じゃないからね」

「とはいえ、また遊びに来るぜよ」

「そういうこった。

 ってかそのうちに許可もらえたらうちの里にも遊びに来な。

 歓迎するじゃんよ」

「そっそ。

 …じゃあ、()()()

 それは再会を約束する言葉。

 フウにもそれは伝わっていた。

「…そうっすね。

 あっしの事、忘れちゃ嫌っすよ?」

 彼女はにっこり笑って。

 そしてこの冒険は終わったのである。

 

 

 

「蟲骸巨大傀儡・鋼」。

 これは滝隠れの里に安置され、里の守護神として長く人々から愛されることとなる。

 その後の歴史では、滝隠れでは傀儡操演技術が隆盛を極め、後の世に「傀儡の滝隠れ」とも呼ばれるようになっていく。

 その先駆けとして、鋼はその最前線にあり続けた。

 

 このすぐ後、一度は特級犯罪者集団「暁」の手練れを一度は撃退した、というところからも明らかだろう。




いろいろ突っ込みどころ満載かとは思いますがお許しを。
この内容は、ジャンプフェスタで上映されたNARUTOのオリジナルストーリーのオマージュを混ぜ込んであります。
探してみると面白いかもしれません。

今回、格闘ゲームのほうからフウの忍術「燐粉爆砕」を持ってきましたが、ゲームと文章で表現法が違う、というのはしょうがないと思ってください。
さすがにビジュアルなしですと、表現に限界が・・・。

ちなみに、一度撃退した「暁」は飛段、角都ペアをイメージしております。
多分鋼だと術メインなら装甲ではじき切れてしまうので相性的に押し切れる相手のようなので。
ちなみにデイダラ・サソリチームには傀儡としての出来の問題で勝ち目なし。
イタチ・鬼鮫には言わずもがな、チャクラを削りきられてつぶれるでしょう。

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