NARUTO 狐狸忍法帖   作:黒羆屋

34 / 121
一応これにて1部から2部にかけての空白期間のネタを終わります。
…もしかしたらもうちょっと追加するかも。


第31話 閑話集

 閑話14 鼬と鮫と子狸

 

 本日、僕は「空区」に来ております。

 この前ですね、木の葉隠れの里でバイオテロが起きまして、頼んでいた「化けオコジョのマーキング液」の濃縮と効果発動の条件付けが上手く出来なくなりまして。

 なので、少々お金がかかっても外注しようか、という事になりました。

 そこいら辺の交渉をするために猫バアさまから紹介してもらった商人さんと会いに来たわけですが。

「おや、どうしました少年?

 このあたりは大分物騒です、君のような少年が出入りするところではないと思いすがね」

 青い肌のおそらく水の国出身の大きな人。

 背中には剣とも何ともつかない得物を担いでいる。

 物腰は丁寧なんだけど、気配はものすごく凶暴だ。

 これだけの人って僕の前世も含めて、そうそうない。

 ぶっちゃけ隠神刑部さんや老猿・猿魔さんに匹敵、下手をするとそれ以上の猛者だろう。

「今日はここに買い物に来てるんです。

 まあ確かに、かなり危険なところですし、用事が終わったらさっさと帰るつもりでいますよ。

 

 干柿鬼鮫さん」

 青い肌の大男、秘密結社「暁」の構成員でもある鬼鮫さんに僕はそう言った。

「ほう、ワタシの事を知っていましたか、流石はあの火影の秘蔵っ子」

 …うえぇ、その呼び方はやめてほしいなあ。

「…ふむ、私が君の事を知っているのが不思議ではないのですか、茶釜ブンブク君」

 いや、最初に会った時に名乗ってるよね、僕。

 僕がそう言うと、

「ほう、よく覚えていましたね、感心感心」

 いやだから、僕は小さい子どもじゃないんですって、確かにちっさいけど。

「…ふむ、てっきりワタシ達を追ってきたのかと思ったのですがねえ、違いましたか」

「はい、違います。

 そもそも『空区』での喧嘩は不文律ですがご法度でしょ?

 準備もなにもなしに『空区』の親分さんたちに喧嘩売る気はないですよ」

 僕はそう言って肩をすくめて見せた。

 これは別に鬼鮫さん()()だけに言っているわけではない。 

 この周囲には一般人じゃ気がつかないくらいの気配がある。

 猫バアさまの所に忍猫さんとか、他にもそれなりの腕の忍、空区の有力者に非合法に雇われた人たちだろうか、がいるようだ。

 本来ならば、僕だって気づく事がないレベルの人たち。

 僕が気づく事が出来たのは、鬼鮫さんや()()()()の存在に当てられて、隠業が甘くなっているためだろう。

 この人たちはそれだけ強いという事。

 で、結構な人たちがこの近辺で気配を探っているおかげで、

「そういうものでしょ、うちはイタチさん」

 他の人が探していない部分、気配のないポケットのような所に僕は声をかけた。

 

 

 

「…ふむ、よく気が付いた」

 まるでいきなりそこに存在したかのように、声がした。

 黒いコートの男。

 つややかな黒髪の、整った容姿の男。

 その容姿、服装に比して存在感がない。

 まるで空に溶けていってしまいそうなその男はブンブクを見てそう言った。

 ブンブクはその男を見ると、

「どうも、木の葉隠れの里の茶釜ブンブクです、うちはイタチさん」

 そう言って微笑んだ。

 うちはイタチは意外に思った。

 あの能天気さはどうやら本心のようだ。

 イタチは優秀な忍だ。

 情報収集を欠かすことはない。

 特に、木の葉隠れの里の情報は。

 情報を統合してみると茶釜ブンブクはかなりの危険人物のはずだが。

 特に人心掌握に長けているという話。

 そのような人物の気配ではない。

 意図的にせよ無意識にせよ、大概の場合、人心掌握に使われる技術というものを幻術使いであるイタチはよく知っていた。

 その技術を使ってきている様子がない。

 ならば天然の人たらしなのだろうか。

 無意識にせよ、人を誘導するには一定のやり方があるものだが、ブンブクにはその傾向はない。

 単純に自己紹介をしている、そう見える。

 一般家庭の見た目通りの子どもなら分かるのだが。

 これがあの5代目火影・志村ダンゾウの秘蔵っ子だというのだろうか。

 暗部の人間にありがちな人の裏を見続けてきたが故の影、そう言うものが感じられない。

 木の葉隠れの里で暗部を務め、木の葉隠れのみならず、忍の闇を見続けてきたイタチだ。

 そうそう見おとすものではないはずなのだが。

 イタチとしては本来ならばそのままやり過ごしても良かったのはずだった。

 ただ、弟であるうちはサスケが木の葉隠れの里を里抜けする直前に会っていた者。

 それが茶釜ブンブクであった。

 サスケとブンブク、どのような関係があったのか。

 無論、イタチには暁の情報網に加え、独自の伝手もある。

 サスケとブンブクの情報は、ある程度は掴んでいるのだ。

 サスケと何を話したのか、目の前にその当人がいる。

 もちろん、話しかけるという事は、こちらからの情報を彼に与えるという事。

 情報戦では自身の情報を出来るだけ漏らさずに相手からの情報を引き出すのが基本だ。

 イタチはブンブクに情報を与える危険を冒してでも、サスケの情報を求めていたのである。

 

 

 

「茶釜ブンブク、君に聞きたい」

 イタチさんは僕にそう言った。

 なにが、ではなく、

「いつの事ですか?」

 僕に聞きたい、などというのなら、やっぱりそれはサスケさんの事だろうなあ。

「…なるほど、勘は良いようだ。

 里抜けする際の彼の事だ」

 …さて、どこまで話したもんかなあ。

 

 大体、僕の知るところを話してみる。

 もちろん、機密事項に引っ掛かりそうなところは意図的に外して。

 まあ、イタチさんもその辺りは分かってるでしょ。

「…なるほど、うまく大蛇丸にしてやられた、というところか」

「そう言う事です」

 僕は肩をすくめて言う。

 …これくらい道化ておかないと僕自身がまいってしまうので。

 サスケさんの里抜けは、まだ僕にとってもきつい記憶なんですよ。

 その様子を見ていて、何故かイタチさんがくすりと笑った。

 え? なに?

 なんか間違えたかしらん。

 どうやら僕がおろおろしているのが楽しいらしい。

 くすくすとイタチさんは笑い続けた。

 …ちなみに、後ほど火影さまにその事を報告したらば、眼を剥いて驚いていた。

 そんなに珍しいことだったのかなあ。

 

 

 

 鬼鮫はイタチが笑っているのを初めて見ていた。

 鬼鮫とイタチが一緒に動くようになってからそれなりの時間が立っている。 

 しかし、イタチが笑っているのを見たのはたった一度、弟のサスケの話題が出た時だけだった。

 それも一瞬、あるかなしかの微笑を浮かべ、次の瞬間にはいつもの無表情を貫いていた。

 そんなイタチがはっきりと笑みを浮かべていた。

 鬼鮫にとってイタチは暁における相棒である。

 その実力に疑いの余地はない。

 彼の指示はいつも的確で、短気な鬼鮫をうまくコントロールしてくれている。

 鬼鮫は今の自分、凶暴で短気な自分を偽りの自分、本来の自分は他にある、と思いたがっている。

 凶暴な自分を厭う鬼鮫は、イタチという判断を任せる相手がいる事を心地よいと思っている。

 とはいえ、その為にはうちはイタチという人間をより知りたいとも思っていたのだ。

 鬼鮫の知らないイタチの一面。

 それを引き出したのはこの子ども、茶釜ブンブク。

 鬼鮫はこの子狸のような少年に少しばかりの興味を持った。

 

 イタチは笑い続けていた。

 ブンブクは先ほどの「肩をすくめる大人ぶる子どもの姿」を誤魔化したいのだろうか、様々な話を振って来た。

「そもそもですね、あなた、弟さんをどう躾けてきたんですか!?

 人の事を会うたんびに『年齢詐称』あつかい!

 おまけにうちの兄ちゃん馬鹿にするし!

 僕に至っちゃ『子狸』扱いですよ!

 もう聞いてるんですか!?」

 イタチはブンブクの怒りが今一つ理解できていなかったが、こんな風にイタチに生の感情をぶつけてくる者は今までほとんどいなかった。

 うちは一族が壊滅してからはなおさらに。

 しかし、おかげで情報収集では知ることのできなかった普段のサスケを知る事が出来た。

 これだけでもブンブクと接触したのはよかった、そうイタチは思うのだ。

「ふむ、楽しませてもらった。

 色々聞かせてもらったからな、こちらからも1つ何かしてやろう」

 つい、そのような事を言ってしまった。

 とはいえ、これも1つの術。

 ブンブクは大分緊張が解けている。

 今までは里の情報などはまるで聞けていないが、精神的に弛緩したこの状況なら、もう少しブンブクから情報が引き出せるのではないか。

 今のところ、イタチはブンブク、というよりも木の葉隠れの里に対して重要な情報を与えていない。

 この子どもは、年齢に比しては情報戦、交渉に長けていると言えよう。

 しかしイタチも20年以上裏社会に揉まれているわけではない。

 ブンブクの考えている事などお見通し。

 そのつもりだったのだが。

「じゃあ、イタチさんと鬼鮫さんのサイン下さい!」

 イタチの顔が引きつった。

 横を見てみるなれば、普段は絶対に見る事の出来ない、顎が外れたような間抜けな鬼鮫(あいぼう)の顔。

 ブンブクは荷物を漁り、「じゆうちょう」を引っ張り出していた。

 イタチも子どもの頃に使った事のある、表紙に珍しい昆虫の写真が使われているものである。

 サインペンと白紙の帳面を差し出すブンブク。

 目をキラキラさせている。

 イタチは普段から写輪眼を使用している。

 ゆえに、忍術の解析は一瞬でできる。

 この帳面などに幻術の仕掛けでもしてあるのかと思いきや、その痕跡はまったくない。

 本気でイタチと鬼鮫のサインをもらうつもりなのだ。

 イタチは内心混乱の極みにあったが、表面に全く出す事無く、「じゆうちょう」を受け取り、さらりと自身の名前を書いた。

「あ、良かったら『茶釜ブンブク君へ』って書いてください!」

 ずいぶんと要求が多い。

 まあいい、イタチはさらさらと要望通り、ブンブクの名前を書き、帳面とサインペンを鬼鮫に渡す。

 鬼鮫は困惑していたものの、仕方なしに同じく帳面に自分の名を書き込む。

 そういえば、この帳面はもう何人かのサインが書かれている。

 つらつらとそれを見ると、気になる名前がある。

 マイト・ガイ。

 達筆と荒いの中間、そんな独特の書風で描かれた名前の脇には「これが青春!」という多分ガイの座右の銘であろうか、そう言ったものが書かれている。

 かつて木の葉隠れの里に潜入した時、強烈な回し蹴りを鬼鮫に喰らわせた猛者である。

 そう言えば、この子狸は奴の弟子であったか。

 情報を見る限り押しかけ師匠だったようだが。

 なるほど、確かに体術は奴譲りのようだ。

 鬼鮫とて超のつく一流の忍である。

 ブンブクが、年に合わぬ身体能力と格闘の経験を積んでいることくらいは分かる。

 これが育ってくるならば、なかなかに面白い相手になりそうだ。

 それまで()()()()()()()()()()ならば。

 鬼鮫はブンブクに帳面を返すと、奇妙な感慨にふけるのだった。

 

 

 

 ラッキーです!!

 超有名忍者のサインを同時に2人分も!

 お2方と別れて、僕はテンションが上がっていた。

 さすがに「暁」関係はこれ以上は無理でしょうし、貴重な体験を致しました。

 しかし、うちはイタチさん、かあ。

 予想よりもかなり「まっとう」そうな人だなあ。

「うちは虐殺事件」の主犯だって話だったけど。

 サスケさんや里の皆から集めた情報だと、イタチさんはうちはの皆を殺した後、サスケさんのみを殺さずに「オレと同じ瞳を持って追ってこい」とか言ったんですっけ?

 どうも、今のイタチさんとイメージが合わないんですよねえ。

 同じ目、ってことは「写輪眼」ってことなんでしょうが、なんか意味があるんでしょうかね?

 …それよりも、僕としてはサスケさんの事を大分可愛がってた、もしくは今も愛しく思っていそうなところが気になりました。

 うちは一族って一族への愛情が強い人たちだったようです。

 噂をかき集めて行くと、イタチさんもその例に洩れず情の深い人のようですし。

 で、サスケさんを見る目は優しく、対するサスケさんからは一族の仇として憎まれている、と。

 どうもお互いの想いにずれがあるのかなあ。

 というか、わざわざイタチさんはサスケさんから憎まれるように仕向けている?

 よく分からない。

 とにかく、この事だけは心に留めておくことにしよう。

 この件を僕は棚上げし、目的の商人さんと会うことにしたのでした。

 

 ちなみにその後、猫バアさまに会った時、「あんたねえ…」と、呆れられてしまいました。

 どうやら商人さん、マーキング液の扱いに失敗したらしく、ケミカルハザードマーク2が空区で起きたようです。

 … 取り扱いに注意、っていったのに…。

 

 

 

 閑話15 6年補講組イルカせんせー

 

「ほら、授業を始めるぞ!」

 ここは忍術学校の教室の1つ。

 土曜日にもかかわらず、朝から授業が行われている。

「きりーつ、れーいっ」

「おはようございます!」

「ちゃくせーきっ」

 忍術学校の教師であるうみのイルカは火影直々の命により週1回の特別補講を行っていた。

 その生徒達とは、

「おはよーございまーすっ、ほれ兄貴、起きろって」

「分かってるっての…」 

 かつて音隠れの里において西門の左近・右近と呼ばれていた2人。

「左近、学級委員だろ、宿題集めるぜよ」

「分かってるっての」

 東門の鬼童丸、

「多由也もほら、寄こせって」

「うっせー! 分かってんだよこのクソ…」

 ぺしん!

「あたっ!」

「こら、多由也、ちょっとは言葉を直しなさい!」

「ぶぅ~…」

「だから女の子が汚い言葉は…」

「うっせーよ! で…! なんでもないです、先生…」

 イルカにわざとらしく睨みつけられてあわてて訂正するのは北門の多由也、そして、

「左近、じゃあこれ頼む」

 南門の次郎坊、と呼ばれていた、元・音の四人衆であった。

 

 音の四人衆。

 音隠れの里においても年若くして一目置かれていた大蛇丸の側近集団。

 大蛇丸にとって、実際の所は次代の自分の器候補であった君麻呂、彼が不治の病に倒れる事になった後はうちはサスケを育成するための試金石でしかなかったのだが。

 戦闘能力は大蛇丸の開発した呪印の力も相まって、全力で戦えば上忍相手ですらその経験不足を跳ね返して余りあるほどの力を発揮する。

 しかし、大蛇丸の育成方針のせいだろうか、隠密、戦闘以外の行動が致命的に問題だった。

 呪印は使用すればするほど人格が破壊されていく。

 その為、大蛇丸は常識など教え込むのは無駄、と考えたのだろうか。

 または大蛇丸自身が常識に欠けている部分があるためか。

 元・音の四人衆は一般常識に致命的に欠けていたのである。

 それこそ日常生活に支障があるレベルで。

 木の葉隠れの里の上層部は、早急に彼らに常識や忍としての基礎能力を教え込む必要を感じていた。

 そこで上層部の目に留まったのは忍術学校の教師である、うみのイルカ。

 実は、イルカには実績があった。

「木の葉崩し」において捕獲されたドス・キヌタ。

 大蛇丸による洗脳を解き、木の葉隠れに従うよう再洗脳を受けたキヌタ。

 彼もまた、一般常識に欠け、隠密行動と戦闘能力のみを付加されているだけの存在だった。

 そのキヌタに教養を与え、一般生活を営めるまでに教育する事に成功したのが、土曜日に彼の家庭教師を請け負ったうみのイルカ先生であった。

 その功績が上層部に認められて()()()、イルカは元・音の四人衆の教育を担当する事になった。

 その他にも、うずまきナルトを初めとした問題児を担当しきったという経歴も加味されたのだろう。

 合掌。

 

 彼らの一日は朝一番のホームルームから始まる。

「はい、じゃ、今日の目標な」

 イルカが黒板に今日の標語を張り出す。

「公共のものを壊さない」

「いいか、ここにいるみんなは任務をこなしてお金をもらって生活しています。

 で、どんなものでも壊してしまうとそれを直す任務にお金を払わなければならないんだ。

 そうするとみんながせっかく稼いだお金が修理をするための任務に支払うお金として使われてしまうんだ。

 だから、出来るだけ物は壊さない方がいいんだ」

 彼らにはこのレベルから教え込まなければならない。

「先生、ならば自分たちでやれば無料なのでは?」

 こういう時にいの一番に質問してくるのが次郎坊。

「確かに、そうすることで職人への技術料は払わなくてよくなるな。

 でも、職人ほど上手く修理することはできないだろうし、修理するための材料費は払わなきゃならないだろう?

 この後の『社会』の授業でも説明するけれど、材料はたくさん買うとおまけで安くなる場合がある。

 かといって、個人で買う場合、たくさんあっても使いきれないだろう?

 結局は手間暇をかけても安くならない場合の方が多いんだ」

「なるほど…」

 標語は一般常識を書き出すとともに、「何故それが良いのか、だめなのか」を彼らに理解させるためのディスカッションの場でもあった。

 故に、イルカはここで手を抜くわけにはいかなかった。

「常識に意味がない」と彼らに思わせるわけにはいかなかった。

 そのため、忍術学校ではうみのイルカを中心とした「音の四人衆矯正チーム」が立ち上がり、彼らの指導を行なっていた。

 都合のいい事に、というか、不幸中の幸いというか、「木の葉崩し」によって現役をリタイヤせざるを得なくなっていた忍はそれなりの数になっていた。

 そのため、忍術学校の教師として傷痍忍者達を雇用する政策を火影は打ち出していた。

 そのうち幾人かが教師となり、職業訓練を受けていたのである。

 彼らがイルカと立ち上げたのがこの矯正チームである。

 無論、最初は反発もあった。

 音の四人衆は音隠れの里の所属であり、「木の葉崩し」を主導したのは音隠れの里の長、大蛇丸なのである。

 音隠れの忍によって負傷させられた者も数多く、その怒りの矛先が彼らに向く事も予想できる事だった。

 それを止めたのが教育者・うみのイルカである。

 イルカは後輩教師達に元・音の四人衆の状況、彼らも大蛇丸の野望の犠牲者である事、彼らの忍としての有用性、大人として子どもを導く事の大切さを説いて回った。

 その結果、傷痍忍者である彼らは、このカリキュラムを通して元・音の四人衆を矯正できるなら、と、チーム結成を快諾してくれたのである。

 そして今現在に至るのである。

 

 授業中。

「はい、んじゃここを右近、やってみてくれ」

「ZZZ…」

「おい、兄貴起きろって…」

「左近、右近を起こしてくれ、それと…」

「これでボーナス連続ゲットぜよ…」

「鬼童丸! 副腕でゲームやってんじゃない! ばればれだっ! あとチャクラの無駄遣いだっ!」

 

 給食。

「せんせー、オレこれ嫌いなんだけど…」

「なんだ、右近はピーマン嫌いなのか? 任務につくと食えないものがあるときついぞ? アレルギーとかないんだったらちょっと無理しても食べたほうがいいな」

「そうだ、なんでもうまいぞ!」

「次郎丸はそんなんだからクソデブだっての…」

「こら他由也! またそんなこと言って! 次郎丸に謝りなさいっ」

「…わかった。 ごめん…」

「よく言えたな、多由也。えらいぞ」なでなで

「! …うん」

「お、多由也が赤くなったぜよ」

「! このっ、~~~~っ」

「ほら、鬼童丸も、早く食べないと休み時間無くなってしまうぞ」

「やべっ、昼までに2ndステージクリアしないといかんぜよ!」

 

 放課後

「きりーつ、礼」

「ありがとーございましたー!」

「はいお疲れ様、気を付けて帰れよ」

 一日が終わるとさすがのうみのイルカでも疲労する。

 普段イルカが受け持っているのは上は12歳くらいまでである。

 14歳の多由也たちは小さい子たちとはまた違った悩みや相談があるだろう。

 それに対応するために、これからチームの皆とディスカッションを行う。

 それもまた、イルカにとっては大変ながらも楽しい作業であった。

「しかし、イルカ先生はよくこのようなやり方をご存じでしたねえ」

 元上忍の後輩教師がそう言う。

 イルカとしては、もともとの階級も年齢も上の後輩に対して、なかなか話辛いものがあるが、これも仕事である。

「まあ、そうですね、これは実のところ、ワタシの独自のものではありませんで…」

「ほう、ではだれが?」

「教え子の1人がですね…」

「ああ、また()ですか」

 イルカの言葉を途中で遮り、教師はそう言った。

「あ、あの、もしかして…」

()の方では結構有名ですから、茶釜ブンブク君」

 やっぱりそうなんだ。

 イルカは苦笑いを浮かべた。

 幼いころのブンブクが考案、それをシカマルが組み上げた、複数人での問題提起とディスカッション、問題解決までのシステムは、うずまきナルトの状況改善に大いに役立った。

 それをブンブクから聞いたイルカが、キヌタの教育に取り入れ、成功を収めたのである。

「さて、もう一仕事、ですかな」

「そうですね、皆さんもう職員室に集まってるでしょうし」

 イルカたちは大きく伸びをしながら職員室へを急いだのである。

 

 その後、元・音の四人衆へのアプローチの成功によって、忍術学校が教育機関としての幅を広げて行くのはもうしばらく後の話である。

 

 

 

 閑話16 ぢつと手を見る

 

 最近ね、なんというか、才能の差って理不尽だと思う今日この頃、皆さまどうお過ごしでしょうか、茶釜ブンブクです。

 みんな強くなってくんですよ。

 リーさんは「木の葉颪・破城」をモノにしました。

 僕は全体を見る目、観の目を少し鍛える事が出来ました。

 日向ネジさん、ヒナタさんは「八卦掌回天・梅花」と「八卦双掌・桜花」を修行なさって、ネジさんはとうとう先日八卦双掌・桜花を完成された、との事。

 …なんで僕のあいまいな記憶から出てきた武術の概念を形にしてのけますかね。

 ガイさんも、ネジさんもおかしいくらい凄い。

 僕は梅花の型を修行する過程で格闘技の技術の「回し受け」をなんとかものにし、今は全身と腕の捻転による防御技術である「化勁」を修行中です。

 赤丸くんとトントンくんは定期的に妖魔の里に行って順調に強くなっているようです。

 赤丸くんはチャクラ量の増強、幻術破りの咆哮を習得、小獣への支配能力を得てきたそうで。

 トントンくんは簡単な治癒能力と嗅覚をはじめとした探知能力の強化、猪としての戦闘能力を鍛えてもらったそうです。

 ちなみに僕は彼らが帰って来た時、いきなりぶちかましと丸かじりを喰らいました、全く理不尽だと思います。

 キバさんは赤丸くんが帰ってくる前からそのスピードに磨きをかけ、ついにこの前、早さなら上忍を超えるレベルにまで達したそうです。

 さらに赤丸くんとのコンビネーションで凄い忍術が使えるようになったとか。

 ちなみに教えてはくれませんでした。

 初お目見えでみんなを驚かすんだとか。

 猪野鹿蝶のお3方も順調に強化中らしいです。

 奈良シカマルさんは忍の修行のほかに戦術、戦略についてもお父さんのシカクさんに師事しているとか。

 山中いのさんは医療忍術とか、色々手を出したようですが、今は山中家秘伝の心転身の術や心乱身の術をどう使うか、という所にまで踏み入っているそうで、お父さんのいのいちさんが内心大喜び、という話です。

 そして秋道チョウジさんですが、なんでも倍化系の強化法が見つかったとのことで、今その修行の真っ最中だろうです。

 本当に、ねえ。

 

 修行すれど 修行すれどなお わが力 強くならざり ぢつと手を見る

 

 そんな気分です。

 

 

 

 閑話17 新キャラ(!?)

 

 火影の執務室。

 そこで5代目火影・志村ダンゾウと暗部の上忍の1人が会っていた。

「…茶釜ブンブクがイタチと接触した。

 うずまきナルトと同時に、ブンブクも『暁』に注視された可能性がある」

「それで、彼の監視と護衛をオレに、という事ですか」

 上忍は奇妙な面をしていた。

 暗部の顔全体を覆う面ではない。

 面頬と呼ばれる鼻から顎の下、顔半分を覆う防具である。

 面頬はまるで鬼の如くにかっと開いた口、そしてその中にぞろりと生えた牙がなんとも恐ろしげである。

 そして、左目に眼帯をしていた。

 左目を隠し、顔半分を隠すその有様はどこかはたけカカシにも似ていた。

「そうだ。

 ()()()()?」

 ダンゾウの物言いに、上忍は軽く眼を見開いた。

 今は火影という表の立場にいるものの、本来ダンゾウは「根」という木の葉の闇を司る組織の長である。

 そのダンゾウが、たかだか少年1人を守るために()()()()? なぞという言葉を使うとは。

 これはなかなかおもしろくなってきた。

 上忍はそう思うのだ。

「いいでしょう、ダンゾウ様。

 オレの全身全霊を込めて、茶釜ブンブクを守りますよ。

 その代わり…」

「分かっておる。

 盟約は違えん。

 違えれば里にとって害を成そう。

『根』の全力を以ってあれらは守り抜こうて」

 軽く鎌をかけてみたのだがダンゾウは表情を変えない。

 相変わらず食えない人だ。

 そう考えながら、

「では、茶釜ブンブクが忍術学校を卒業した後、彼の担当上忍をオレ、メイキョウが務める、ということでよろしいですね」

「うむ、頼む」

 こうして茶釜ブンブクが忍術学校を卒業して後、暗部に所属していたはたけカカシですら知らない上忍、メイキョウがその担当上忍となる。

 ブンブクを知らない上忍達はこの事によりなおさらブンブクを危険視し始めるのであるが、それはまた別の話。




カカシ  「何者だ、その面を取れ!」
メイキョウ「…君に言われたくない」

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。