閑話11 梅と桜
「ふーっ、かはぁーっ……」
格闘術の呼吸法を試しております、茶釜ブンブクです。
どうも、こう、色々試してはいるのですが、今のところ何1つものにできていないのが悔しいです。
まあ、単純に地力不足なだけなんですけどね。
とはいえ、基礎訓練をしっかりしつつ、自分の特性を見極めないといかん訳でして。
で、化け狸だった頃の記憶を漁って使えそうな武術とか、そう言うのを試しているわけです。
今僕がやっているのは今はもう継承する人がいなくなってしまった格闘術の呼吸法です。
息吹、雷声、鳴鶴とか言うらしいんですけどね、なかなか難しいです。
で、それと並行してやっているのが記憶にある格闘技術の内、防御に特化した形のものです。
腕を軽く前に出し、両手で紙でできた柔らかいボールを包み込むようにゆったりと構えます。
で、仮想敵は僕が戦ったもの凄く少ない経験の中で一番の、左近さんを想像しています。
ちなみに、左近さんと右近さんは今、木の葉隠れの里に所属してまして、
月夜の晩、拳を振り上げる左近さんを思い出しつつ、僕は構えるのでした。
…うまくいきません。
まあ、どうやら今練習してる技というのは格闘術の奥義みたいなものらしいんで、一朝一夕には習得できるもんじゃないんでしょうけど。
しかし、かつてあった技術、奥義がいまに伝承されてないっていうのもさみしいものです。
まあそれだけ忍術=チャクラの運用技術が強力だったという事なのでしょうけど。
文福狸としての記憶が引き出せるようになってきてから、文福さんはかなり無理をしないと僕の中から出てくる事はなくなりました。
前みたいに気軽に声をかけてくるような事はもうありません。
これが記憶の統合、というものなんでしょうか。
正直ちょっとさみしいです。
まあそれはともかく。
文福さんはチャクラの使い方をみんなが知らない時期から人間の国をふらふらと旅するのが趣味だったようでして、色々な知識をその過程で仕入れているんですよねえ。
おかげで格闘の技術とかも記憶の断片の中にはあるのでして。
それから、古くから生きている口寄せ動物達、妖魔化しているもの達の中にも古い時代を口伝している方もいらっしゃいますね。
実際、元3代目火影・猿飛ヒルゼンさまの呼び出される「老猿・猿魔」さんは四尾さんから古い物語を聞いてらっしゃったわけでして、それを元に「木の葉颪」が完成した訳ですしねえ。
そういった断片的な知識から現代の技術をブレンドしてなんとか僕の術として使える選択の幅を広げようとして入るんだけれどねえ。
それがうまくいってない、と。
丁度今はガイさんたちの班が任務を請け負っていますので、相談する相手もおりません。
どうしたもんかなあ、そう考えていたところでした。
「ブンブク君、なにしてるの?」
あ、この声は!
「どもです、ヒナタさん」
日向ヒナタさんでした。
僕はこの人好きです。
最初から兄ちゃんに対して隔意を持たない人って珍しかったですし。
日向一族の人って大体プライドが高く、相対的にこちらを見下す方が結構いるんですけど、ヒナタさんはそういうとこないですしね。
それにねえ。
どうやらうずまき兄ちゃんに…らしいですしねえ。
つい僕としても好意的になるってもんです。
「いまですか、ちょっと文献にあった古い時代の格闘技術を再現してるんですよ」
なにせ僕はチャクラが多くない。
加えて五遁に関してもやっと一通り使えるようになったというだけで、中忍レベルとは言い難い。
下忍の中でも多分低い方だろう。
そうなると幻術と体術に活路を見出す必要があるんですよ。
幻術は今いろいろと試しているところで、体術は今言ったように古代の技術の発掘、再利用を主にしているわけです。
その辺りをお話ししたところ、
「ふうん、私にも、見せてくれるかしら…」
相変わらず奥ゆかしいですよね、ヒナタさん。
んでは、披露いたしましょうか。
「んん、なるほどぉ…」
ヒナタさんはなんかえらい感心してらっしゃいます。
「不思議な技よね、なにかこう…。
そうね、この手の形、腕の形が…」
ヒナタさんは日向秘伝の「柔拳」の使い手だ。
「日向は木の葉にて最強」を自負するだけあって、チャクラの動きを把握する「白眼」とチャクラの流れを断ち切る「柔拳」の組み合わせは、怪物じみた個人を輩出してきた「千手」、「うちは」を一族として上回る。
それだけの格闘技術を持つ家の人だけあって、何か思うところがあるんだろう。
「ねえブンブク君、私もちょっと練習してみて良いかな?」
はい、構いませんよ。
この一言が日向の一族に影響を与える事になるなんてその時の僕には思ってもみない事だったんだ。
これから1ヶ月ほど、僕はヒナタさんとこの武術を研鑽する事になる。
日向ヒアシは日向一族の居宅にて茶をすすっていた。
日夜一族の繁栄を願い激務にすさんだ心に、上質の茶はしみ込んでくるが如くその心を癒していく。
丁度庭では長女のヒナタが武術の型を修行… いや、それにしては日向の型とは違う。
少々気になったヒアシは、娘の所へ歩いていくのだった。
ヒナタはブンブクと研鑽している格闘技術を日向の武術に落とし込む事を試していた。
これが出来るようならば、いまひとつ完成していないこの技術も使い物になるのではないだろうか、そう考えての事である。
その時、
「ヒナタ、その型はなんだ?」
厳めしくも優しさの含まれた声がした。
ヒナタの父であるヒアシである。
かつては「出来そこないの長子」とヒナタを蔑んだ発言をせざるを得なかったヒアシも、分家のネジとの和解、末子ハナビを宗家嫡子とする事により、ヒナタとの距離もだいぶ縮まっていた。
「お父様、知り合いの子から変わった型を教えてもらって。
それを私なりに吸収できないかな、と思って」
ヒアシに対するヒナタの態度も緊張感のない、親子のそれである。
「ほう、そうか。
少し父に見せてみよ、助言くらいはできるだろう」
ヒアシは娘の努力に少々の助言くらいは父としてしてやりたい。
その程度の考えだっただろう。
しかし。
「……」
「あのう、お父様?」
ヒナタの動きを見たヒアシはしばらく考え込んでいた。
娘の声も聞こえぬほどに。
「…ヒナタよ」
「はい?」
ヒアシはまるで深く思いつめたような表情をし、
「数日時間をくれるか、ヒナタ」
「? はい…」
これより3日の間、ヒアシは道場に籠り、その間日向の執務は滞る事になるのだった。
僕は今日も今日とて修行の毎日です。
いや、学校行っって卒業式の準備をしたり、火影さまの依頼でほかの里まで足を延ばしたりしてますけどね。
丁度今日は学校もおやすみ、お仕事もない、ということでキバさんと一緒に足運びの練習をしていたりするんだけれど。
「で、キバさん、修行はどんな感じ?」
「夕日先生きっついぜ。
視覚と聴覚鍛えんのに幻術使って圧力掛けてくるんだよな。
おかげで1日終わると目と耳が痛くてよ…」
「それもすごいねえ。
でさ、この歩法って四脚の術とか使用しながら使えないかな?」
「ああ、いけるかもな。
この歩き方だと、分身とかも交えて使えそうな感じだ」
「あ、良いんじゃない!?
獣人分身とかと併用するとなおさら効果高そうだし」
そんな会話をしていると、
「ブンブク君。ちょっといいかしら…」
「お、ヒナタじゃん、なに? お前ら仲良かったんだ?」
キバさんもびっくりです。
まあそうだよね、キバさんとヒナタさん、おんなじ班だし。
僕は特に縁があったわけではないんだけど。
たまに会った時には挨拶を交わす程度、なんだよね。
なんかヒナタさん妙に焦っているような。
…なんかやな予感がする。
撤退準備しといたほうがいいのかしらん。
「あのね、ブンブク君、お父様が君を呼んでるの…」
ビンゴ。
とはいえ聞いちゃった以上いかない訳にはいかないしなあ。
「キバさんごめん、ちょっと行ってくる」
キバさんにそう謝ると、
「…気ぃつけてな。
ヒナタの父ちゃんものすっごくおっかねえから…」
…なんでそういう脅し方しますかね。
「いやほんとなんだって。粗相のないようになあ」
ちくせう。
行くのがものすごく嫌になってきた。
とはいえ、
「ブンブク君、その、あの、大丈夫だから…」
涙目になりつつあるヒナタさんをほっぽらかして遁走、というのもないなあ。
しょうがないです。
ということで僕は日向のお家に連行されていったのでした。
茶釜ブンブクが連れてこられたのは日向の本家。
大きな日本家屋風の建物が鎮座しましており、その威圧感は圧巻である。
ブンブクがびくびくしながら中に入り、しばらく居間にて待たされていると、見知らぬ少女がブンブクを迎えに来た。
「父の準備が整いましたので、こちらにおいで下さい」
少女についていくブンブク。
連れて行かれたのは日向の庭先。
目の前には多分最近植えたのであろう梅の若木が、小さな花を咲かせていた。
その前に立っているのは日向家宗家当主・日向ヒアシ。
彼はブンブクを前にすると、
「よく来てくれた茶釜ブンブク。
君を呼んだのは他でもない、君の研究していた体術、それについてこちらの方で進展があった」
そう切り出した。
ブンブクはヒナタを見ると、
「もしかして、あの技術?」
「そうみたい、お父様はあれを見てから3日も一睡もしていらっしゃらないみたいで…」
ブンブクの唖然とした顔を見ながら、ヒアシは梅の若木の前に立ち、
「まあ、見ていなさい。
君の見つけてきた技術と日向の『柔拳』の融合を!」
その瞬間。
まるで真冬の暴風雪のごとき衝撃がその場を支配した。
「これは… 回天!?」
ヒナタがそう言う。
日向の誇る「柔拳」の絶技、「八卦掌回天」。
忍の世界でも砂遁の絶対防御と並び、最強の防御力を誇る奥義である。
ヒナタが見てもその範囲は圧倒的で、ヒアシの周囲3mほどの範囲は玉砂利が吹き飛ばされ、更地になってしまっている。
そこまで見たヒナタは愕然とした。
先ほどまで庭に会った梅の若木。
その木が。
その場に傷一つなく残っていたのである。
その様は厳冬の風雪の中、その一か所だけが春の日差しを浴びる様にも似て。
ヒアシは満足そうに微笑むと、
「どうかね、我らが奥義『八卦掌回天』、その内側にもう1つの絶対防御の結界を作り出したのだよ」
そう言った。
ヒナタは唖然としていた。
回天は全身より噴き出すチャクラと全身のばねを活かしたスピンにより相手の攻撃を全てはじき返す奥義である。
その範囲にある者は全て粉砕、はじき出されてしまうはず。
ならば梅の若木もその運命を同じくしていたのだが。
そこまで考えて、ヒナタは唐突に気付いた。
「あの技術ですね!」
ヒナタとブンブクが研鑚していた格闘の奥義。
両の手がふわりと何かを包むように構えられたあの奥義。
それを組み込むことで、回天はその内側にあるものを守りつつ、その絶対防御を発動できる、ということか。
「ああ、やっと…」
ヒアシは感慨深げだ。
「この技さえあれば、
ヒアシはポツリ、とそう言った。
誰にも聞かれる事無く、その言葉は空に溶けていった。
凄い…!
日向の回天は中忍試験の時に日向ネジさんが使っているのを見たけど、宗家当主の奥義となると格が違う。
範囲が違いすぎる、というのもあるけどね。
白眼によるほぼ360度の視界があって、この防御力がある。
「日向は木の葉にて最強」は伊達でも何でもない事が分かってしまった。
記憶の中にある尾獣の人たちの一撃も冗談抜きで弾きそうだ。
失礼な言い方だが、人柱力でもない、ただびとでしかないヒアシさんが繰り出す防壁というのが信じられないくらい。
しかも、僕の掘り出してきた格闘技術を取り込んだ結果、移動要塞みたいな事になっちゃってますよ。
「さて」
ヒアシさんが僕の方を向いた。
近づいてくる。
? …なんだろうこの感覚。
ここしばらくこんな感覚によく囚われる。
なんだろ、どこだっけ。
! そうそう! 丁度火影さまから無理難題ふっ掛けられる時の感じがこんな風…で…。
僕は周りを見回した。
うん、逃げ道なし。
ヒナタさんは僕に手を合わせている。
それはちょっとひどいんでない? ヒナタさん。
ヒアシさんが僕の目の前に来た。
そして、
「ところでブンブク君。
この技を研究して分かった事なんだがね。
君の見つけたこの技、歩法を調整することで、1点だけ防御の穴を作ることが可能なのだ」
? それって意味がないんじゃ…。
わざわざ鉄壁の城門に弱いところを作ったって…。
…! そう言うことか!
「この奥義には対になる技がある、そう言う事ですか!?」
例えば、受けた攻撃を自身の位置エネルギーに転化して、自身の打ちだす攻撃に上乗せするような、そんな捨て身の攻撃技。
そんな技があるのであれば…。
今見せてもらった「回天」で、攻撃をはじくのではなく内側に向かって収束し、その攻撃の位置エネルギーを受け止め、転化して一点集中で打ち出す、と。
うわあ。
で、僕にどうしろ、というのでしょうねえ。
「むろん、対になる技を発見してもらいたい」
無茶言うな。
そんな余裕をどこで作れ、というのですか!
もう今いっぱいいっぱいですからね、僕!
勉強に修行(師匠複数)に火影さまからの突発任務。
別に僕は史上最強の弟子は目指してない!
しかし、
「安心したまえ、ワタシから火影さまへ正式な任務として依頼しておくから」
…
……
………
僕に逃げ場はなかったのでした。
これから1年ちょっとして、「八卦掌回天・梅花」と「八卦双掌・桜花」という秘奥義が日向一族の門外不出の秘伝書に加わる事になったそうです。
閑話12 大蒜、唐辛子、鼬の最後っ屁
ごおりごおり。
ぐうりぐうり。
今僕はマスクとゴーグルを付けて、お家の倉庫で薬を作っている真っ最中です。
「兄貴ぃ、こんなもんでどうっすかぁ?」
アシスタントは正式名称安部見加茂之輔こと、僕の召喚動物である化けオコジョのカモくん。
彼もオコジョサイズのゴーグルとマスクで完全装備です。
ちなみに今やっているのは、雲隠れの里に行った時に頂いてきた激辛唐辛子のすり潰し。
初めてやった時にはカモくんと一緒にヂゴクを見ましたよ。
あれ以来、ゴーグルとマスク、手袋にぼろい服は必須になりました。
カモくんは作業が終わった後は必ずお風呂に入ってから帰ってもらいます。
このすり潰しが終わると、アルコールなんかを使って辛味成分の抽出を行います。
ニンニク、唐辛子、和辛子や生姜、山椒なんかから抽出して、それを膠なんかで作ったシートにくるんで成型、と。
え? なんでそんなもんを作ってるかって?
これはですね、おっかあから幻術の稽古を付けてもらってる時の事なんですが。
幻術って意識を別の場所にそらしたり、光や匂い、音なんかで意識レベルを落とすことで掛けるわけでして。
で、いっぺんその状態を強い刺激でリセットしてやると解けたりするわけです。
最も確実なのは幻術の解印を結ぶことなわけですが。
時々「幻術の解印を結んだ」幻覚を見せられてる可能性もある訳で、ここいらが厄介。
なので、幻術破りのための方法は何種類か用意しておきたいところ。
前みたいに鼓膜を破る、とかもう勘弁だし。
そう言う訳で様々な調合と術がこういった成分にどう影響するか、ってのを色々試しているところなんです。
「しっかし兄貴ぃ、ここまでやりますかい?」
「そう? 出来る事はやっとかないと、何かあった時に動けないのは嫌じゃない?」
「でもですよ、やっぱり1人じゃ無理ありますって…」
それもそうかなあ。
そしたら、ある程度データをまとめたら、木の葉隠れの里の分析班の所に持っていってみようかな。
色々忍術で調整するとおもしろい事が出来るかもしれないし。
実際、幻術破りとして辛味を使う場合、その効果が短時間で切れてくんないと問題あるんだよね。
30分も絡みでのたうちまわってたりするとその間に殺されてても文句言えないし。
後は揮発しやすくすることで催涙効果を期待してみるとか。
視覚、嗅覚は奪えるから、かなり効果が高いと思うんだけどな。
「でさ、頼んでた
僕は以前から頼んでいた件をカモくんに聞いた。
「それはばっちり!
予定してた分は確保できましたぜ。
うえっへっへっへ… こいつで大儲けですぜえ、兄貴ぃ…」
カモくん、そのいやらしい笑いは僕どうかと思うなあ…。
じつは、カモくんに頼んで、化けオコジョの里とコンタクトを取ってもらって、臭腺の分泌物を分けてもらう事に成功したのですよ。
まあ、いわゆる「鼬の最後っ屁」ってやつです。
こっちも対幻術対策ですね。
嗅覚への刺激で幻覚を解こう、という事です。
で、なんでカモくんの目が<両>の字になってるかって言いますとね。
しばらく前に、砂隠れの里に行った時の事なんですけど、テマリさんに会う機会があったんですよ。
で、えらい怒ってるんでどうしたのかな、と思って聞いてみたんですけど、
「カマタリの最後っ屁をよこせ、とか言ってきたのよ、ほんと失礼!」
って行ってたんですよ。
どうも、砂漠を通る商人さんが、テマリさんが鼬の口寄せをするって知ったためだそうで。
で、鼬の最後っ屁ってイタチ科の動物がマーキングなんかで使う臭腺ってところから出るんだそうです。
それを薄めたり加工したりすると極上の香水になるんだそうで。
それを聞いたカモくんが、
「俺っちのマーキング液が、か、金に…!
俺っち大儲け!!」
とかわけわかんない状態になっちゃったんですよね。
そもそも加工しないと使えないってのに。
で、その加工法を模索するために一定以上のマーキング液が必要で、それの取り寄せに成功した、ということなわけです。
マーキング液も自分の所で実験するには危険がすぎるので、分析班の所に持っていきましょう。
ある日、分析班の拠点の1つが使用禁止になった。
それ以来、あるうわさが立つようになったのである。
その噂とは…。
「このはのさいしゅうへいき」
実情を知る者は、口を噤んでなにも語らなかったという。
「俺っちの金がぁ~!!」
閑話13 5代目火影
5代目火影・志村ダンゾウ。
後世、この人ほど火影となる前と後とで評価の変わった火影はいないだろう。
時代的に、第4次忍界大戦という忍にとって激動の時期であり、彼がいなければ木の葉隠れの里、ひいては火の国がこの過酷な時期を乗り切る事は出来なかったのではないか、と言われている。
任期は3代目火影・猿飛ヒルゼンに比べると10分の1近く少ない3年。
たったこれだけの期間に、志村は大々的に教育改革を行った。
まず、忍術学校の定員を倍以上に増やしたのである。
そして、それまで行われてきた実技中心の教育を、座学と職業倫理を中心とした道徳教育へとシフトさせたのである。
かといって実技を軽視するのではなく、6年間の修学期間の内、4年間を座学と道徳、基礎体力の強化に当て、残り2年で実技、チャクラのコントロールと攻撃的でない基本的な術を習得する事になる。
志村が学校改革をする前には驚くべき事に、低学年より分身、変化などを習得させていたという。
現代からみると初期の忍術学校は学習のためのカリキュラムが完成していなかったと見るべきだろう。
また、当時は忍の家系とそうでない、一般人の家系が全く同じカリキュラムで学習していた。
当然のことながら、忍の家系とそうでない家の子どもたちの実力差は大きく、ほとんどの者は忍として大成しなかった。
例外と言えるのは、講談としても有名な「うずまきナルト物語」にも登場する医療忍者、春野サクラくらいであろうか。
うずまきナルト物語は、話の内容が荒唐無稽なだけにしばしば現実に会った事ではないという論議が定期的に巻き起こるが、歴史の生き証人たる尾獣の歴々がその編纂に関わっているところを見ると、ところどころ話が大げさにはなっているものの、少なくとも登場する人物は間違いなく存在した、もしくはその元になる人物が存在した、というのが通説となっている。
話を戻そう。
入学時に基礎体力、学力のある忍の家系の子どもたちには5年時からの編入試験もあるが、その制度を設けたのも志村である。
志村が忍術学校を拡張したのには実のところ別の意味があった。
志村が火影を就任する直前に起きた、通称「木の葉崩し」事変である。
この事件は、当時の中央五ヶ国の中央集権的支配に抵抗した「田の国」の軍事組織である「音隠れの里」による木の葉隠れの里への強襲作戦が発端となった軍事衝突であった。
この軍事行動は木の葉隠れの里の圧勝で終わったという記録が残っているが、当時の最高指揮官、3代目火影・猿飛ヒルゼンの戦線離脱など、木の葉隠れの里の中心部まで攻め込まれていた形跡があり、後年の歴史学者達の論争の的となっている事変である。
木の葉崩し事変では数多くの負傷者が発生した。
この中には軍事を司る忍も多数存在し、木の葉隠れの里では戦力を早急に補給する必要があったのである。
ここで登場するのが諜報部門である「根」の元長官である志村ダンゾウである。
現在までの調査では、志村は猿飛と同年代であり、年齢的な問題で3年間という短期間の政権であったとの見方が有力である。
通例では戦力の低下した里では、忍術学校の卒業年数を繰り下げることで人員の補充を行ってきた。
これは才能のある若年者が精神的に幼いまま戦場へと駆り立てられることとなり、多くの戦場神経症、戦場精神病の温床となっていた、とされる。
志村は人員不足を忍術学校の拡充で補おうとしたのだ、と後年の研究ではされている。
また、木の葉崩しで負傷した傷痍忍者を雇用する場として忍術学校を使用した形跡もある。
負傷し、戦場に出る事の出来なくなった忍を教員として雇用し、人材の育成とともに福祉の拡充をも図ったのだろうと考えられている。
また、当時の忍の階級は、上忍、特別上忍、中忍、下忍、の4階層であった。
志村は下忍の後に「準忍者資格」を設定した施政者でもある。
当時、下忍となった者は、戦士階級として火の国の軍事、防諜を担うものとして強制的に対人戦闘に参加することが決まっていた。
志村の設定した準忍者資格はBランク以上の任務を請け負う事を禁止する代わり、忍術の日常的な使用を認めるものだった。
結果として日々の雑務の肩代わり、自治体の雑務など、Dランク任務を請け負う人材が増え、結果的に里としては増収になっていった。
代わりに準忍者資格保持者は緊急時の予備役としての側面も持つようになり、国家としての防衛力の増強にもつながったと考えられている。
教育者としての5代目火影・志村ダンゾウは、ストイックなまでの人格者として知られている。
その彼が、火影となる直前まで秘密警察の長官であった事は意外に知られていない。
彼が関わったとされる事件は多い。
木の葉崩し事変の数年前に起きた「うちは虐殺事件」がその最たるものだろう。
これは、当時木の葉隠れの里の中でも名門中の名門とされていたうちは一族が、そのほとんどを殺害されたとされる事件である。
犯人はうちは一族の1人、うちはイタチであるとされているが、たった1人で100人からの人間を殺害するのは不可能であろう。
ここに志村と「根」の関与が取りざたされるのは当然と言えよう。
また、木の葉崩し事変も志村が引き起こした事であるとする論文も存在する。
志村と猿飛は同世代であり、猿飛を火影から引きずり落とすための陰謀であったとする説である。
こちらは物語としては面白いものの、一般的には「大蛇丸生存説」と同じ妄想論であるとされている。
当時、戦災孤児をかける孤児院を志村は経営していたと言うが、孤児たちを使い捨てのできる私兵としていたという論文もある。
とはいえ、この時代、そのような事は各里で行われており、特記すべき事ではないだろう。
人体実験などが行われていたという説もあるが、これもまた妄想論であろう。
比較的信憑性の高い説だと、霧隠れ、雨隠れの里のクーデターへの関与であろうか。
当時、双方の里は支配階級の圧政によって人口の減少が歯止めを失っていた。
これは現在に残っているデータでも検証できる。
志村は改革側、保守側双方に援助を行い、どちらが勝利したとしても木の葉隠れの里に利益があるよう調整した、というものである。
これを以って志村が危険な諜報機関の長官であったと断ずることは難しい。
しかし、5代目火影・志村ダンゾウは調べれば調べるほどに興味の尽きない研究対象である事に変わりはないのである。
「で、実際どうだったんですか、茶釜ブンブクさん?」
「さて?」
閑話の部分の時系列はばらばらだったりします。
のちのち組み直して時系列を修正するかもしれません。