閑話を書いていたつもりだったのですが。
これで本当に原作第1部の部分の完結です。
「兄ちゃん、どう?」
やっと面会謝絶が解けて、うずまき兄ちゃんに面会しに来た茶釜ブンブクです。
「へっ、この程度でうずまきナルトさまがどうにかなるわけねーだろ!」
うん、兄ちゃん平常運転だね。
この心の強さが兄ちゃんの真骨頂だしね。
僕とは大違いだ。
僕は本質部分が弱い。
バックボーンの弱さ、というのかなあ。
前世の記憶に頼った理論武装は、どうしても実体験から微妙に離れてる感じだし。
まあ、前世の記憶にフィルター掛けずにそのまま体験したら、ただの子どもである僕の心が持つはずはないんだけどさ。
対して兄ちゃんは今までの経験を全部自分のものにしている訳で。
その中にはかなりシビアなものもあったはず。
それを乗り越えて今の兄ちゃんがある訳だし。
…今回の事もかなり兄ちゃんにとっては重かったはず。
なんでも春野サクラ姉ちゃんとの約束で、うちはサスケさんを連れ戻す、って言って出来なかった訳で。
それって兄ちゃんの中ではかなり大きな事だったはず。
兄ちゃんは人との絆を大切にする人だ。
その兄ちゃんが約束を守れなかった、というのはかなり大きなショックだったと思う。
でも兄ちゃんは折れてない。
多分兄ちゃんの中ではサクラ姉ちゃんとの約束はまだ継続中だ。
そしてサスケさんとの勝負も。
「…なあブンブク」
兄ちゃんが僕に声をかけてきました。
「なに? 兄ちゃん」
僕は、御見舞いのリンゴを剥きながら兄ちゃんに答えました。
ちなみに色々御見舞いの品を持ってくる人がいましたが、兄ちゃんが一番喜んだのは「一楽」のラーメンの出前でした。
それはともかく。
「オレさ、サスケに全力でぶつかったけど、届かなかった」
…やっぱりサスケさんの存在は大きかったかな。
兄ちゃんの目標みたいなもんだったし。
兄ちゃんはどうしてもきつい時にはたま~にだけど、こうやって愚痴をこぼす。
弱音じゃないよ、愚痴だよ。
「そうだね、
「! …そうだな、今はまだ、な」
兄ちゃんは不敵な笑みを浮かべると拳を握りしめた。
これは無意識だろうな。
ちょこっとふらついた気持ちが一気に引き締まった感じだ。
兄ちゃんは単純だけどそれだけに気持ちの切り替えがうまい。
「オレさ、エロ仙人と修行の旅に出る」
…今度は長くなりそうだね。
兄ちゃんが納得するまで帰ってこないつもりだってのは、付き合いも長いし分かる。
「…ん。
じゃあ僕は兄ちゃんが帰ってくるまで里を守るよ。
出来る範囲で、だけど」
これは約束だ。
必ずまた会おう、という。
「だからさ、兄ちゃんも必ず強くなって帰って来てよ。
でないとみんな強くなってるんだから、目立たなくなっちゃうよ?」
「それは嫌だなあ…。
ならものっすげえ忍術編み出してやるってばよ!
見てビビんなよ!」
兄ちゃんはそう言ってにかっと笑ったのである。
「ところでさ兄ちゃん、サスケさんに勝つ目途ってたってるの?」
「いきなりきっついなあ…。
それが全く。
どうしたもんだかなあ…。
特にあの『写輪眼』って奴をどうにかしねえと…」
ああ、それかあ。
「でさ、兄ちゃん。
写輪眼ってどんな力なん?
うちは一族の血継限界ってのは知ってるんだけど、詳しい事はみんな教えてくんないんだけど?」
それが分かっていれば、もうちょっとなんとかできた気もする。
情報って大事だよね。
「あれ、お前知らねえの?
結構有名なんだけどなあ…」
そりゃ兄ちゃんはサスケさんの同僚だった訳だし、知ってるでしょう。
チームメイトの実力を把握するのは必須だろうし。
「ええっとな、写輪眼ってのは…
その… ええっと…
なんだ…
そう! 術をコピーすんだってばよ!
あと、…なんだっけなあ、わっかんねえ…」
あ~、兄ちゃんに説明を求めた僕が悪かったよ。
どうしたもんだかなあ、そんな事を考えてると、
「写輪眼は忍術、体術、幻術の解析、およびその模倣が可能だ。
極めてくると行動の先読みなんかも可能になるな。
で、そっからは個人差があるみたいで、人によっちゃ幻術眼なんかも使えるようになるらしいね~」
ずいぶんと緩めの声がすると思えば、入口のあたりにはたけカカシ上忍が立っていた。
? 幻術で瞳術。
んで、術の解析と模倣…?
それってサスケさんが倒したい相手、の要素ではなかったっけ?
僕がうんうんと唸っていると、カカシ上忍が呆れたように、
「んでさ、茶釜くんはサスケの能力を知ってどうすんのかな~」
とまたもやゆるーい感じで聞いてきた。
僕としては、
「そりゃ、兄ちゃんにサスケさんと真っ向勝負をさせるために、ですが?」
というだけなんだけど。
「は?」
いや、なんでそんなに意外そうなんですか、カカシ上忍。
「ブンブク、それってどういうことだってばよ?」
ってか兄ちゃんも分かってらっしゃらない!?
…まあ、うずまき兄ちゃんだしなあ。
「兄ちゃんってばさ、サスケさんと会ったらどうするつもりなん?」
「当然、ぶっ倒す!」
まあそうだよね、兄ちゃんならそう言うと思った。
「んでさ、ぶっ倒すってどういう事かな、ってこと。
倒すってのはいくつか意味があってさ、例えば『殺す』って言葉とおんなじ意味を持ってる事もある訳。
兄ちゃん、サスケさんを殺したい、って訳じゃないよね?」
「うっ… そっか、そう言う事もあるんだよな。
そうだな、オレはサスケを殺したい訳じゃねえ。
こう、なんてんだろな… うまく言葉に出来ねえ…」
「僕が兄ちゃんからいっつも聞いてたのをまとめると、兄ちゃんはサスケさんと五分の相手になりたいんじゃないかって思ってたんだ。
サスケさんを追い抜くってよりは一緒に肩を並べる相手としていたい、って思ってるんじゃないかなって」
だから、最終的には小細工抜きの真っ向勝負に持ってかないとなんないんじゃないかなあ。
その為には状況を五分同士にして、お互いが駆け引き抜きの力押しのできる状態に持っていかないとならない訳で。
で、出来るだけ相手のサスケさんの手札を知っておきたいなあ、と思ってみたりして。
と、そう考えていると述べたところ、カカシ上忍からは、
「いや、それ忍の戦い方と違うから」
という至極まっとうな突っ込みが入った。
でもね、
「そうだ、オレはあいつを真っ正面からぶっ飛ばす!
そんでもって襟首ひっつかんででも連れ帰ってやる!」
ほら、兄ちゃんは眼をきらっきらさせて言ってる。
? なぜにカカシ上忍はたそがれてらっさるんでせう。
「いや、ほらね、なんていうか、通り越し苦労とかね…」
なんの事なんでしょうか?
はたけカカシは茶釜ブンブクという少年を危険視していた。
彼は何故かここしばらくのトラブルの中心にいる。
砂隠れの里の我愛羅との出会いから始まって、木の葉崩しにおける大蛇丸と猿飛ヒルゼンの戦い、里に侵入してきた「暁」の精鋭・うちはイタチと干柿鬼鮫との邂逅、サスケの里抜けの際の音の4人衆との交戦などである。
これだけのトラブルと、里に流れているブンブクの噂を総合すると、この状況が意図的なのではないか、ブンブクとはより危険な誰かの傀儡なのではないかと疑いたくもなる。
カカシは優秀な忍である。
5才の時点で忍術学校を卒業、6歳にして中忍試験に合格し、以降20年以上忍の世界で現役として活動している天才だ。
であるが故に、まずは疑ってかかる忍の業に縛られている。
茶釜ブンブクはうずまきナルトの弟分である。
しかし、ナルトは九尾の人柱力であり、他の里や「暁」など危険な組織からも狙われている。
ブンブクがその最初からナルトを標的とした組織の「草」であるとしたら、また、途中で人格を乗っ取られているとしたら、搦め手の苦手、というか天敵というか、なナルトは簡単に敵の手中に落ちかねない。
サスケの助けになる事が出来なかった、という内心忸怩たるものを抱えるカカシは、ある意味ナルトやサクラに対して過保護になっていたと言えよう。
かつてカカシは、中忍試験にナルト達3人を推挙した際、昇級試験はまだ早いと言うかつての担任であるうみのイルカに対して、
「口出し無用!
アイツらはもうアナタの生徒じゃない。
今は…ワタシの部下です」
と、そう切って捨てた事もあった。
今回のサスケの里抜けはそのカカシをして雛を守ろうとする親鳥のようにしてしまう程のショックを与えていた。
その状況なれば、カカシがブンブクへ過度の警戒を持つのもおかしい事ではないのだろう。
ところが、である。
ブンブクがナルトの病室に入るのを確認したカカシは隠業を使いつつ彼らの様子を見ていた。
ナルトは今、サスケに裏切られたという思いでいっぱいのはずである。
ナルトを懐柔、洗脳するためのきっかけとしては十分であろう。
ブンブクの師匠と目されている現5代目火影・志村ダンゾウはそういった心の隙間に付け込む技術が卓越していた。
ブンブクが悪意を持ってナルトに近付くなら、この機会を逃すまい、カカシはそう考えたのだが。
(な~んか、違うよねえ…)
なんなのであろうか、この背中がかゆくなるような展開は。
強いて言うならば、アイツだ。
熱血と青春の珍獣だ。
そういえばブンブクはガイの弟子だったっけ。
ナルトとブンブクの会話を聞いてのカカシの感想である。
カカシは自分の心配が杞憂、というより全くの方向違いであるかもしれないという事に脱力感を感じつつあった。
そう言えば、ブンブクはあのナカゴさんの息子でもあるんだよねえ。
カカシは昔から世話になっていた年上で世話好きの中年女性を思い出した。
幼少の頃、とある任務の失敗からノイローゼになり、父が自殺した後、カカシの世話を何かと焼いてくれていたのが当時まだ結婚していなかった茶釜ナカゴ(当時はまだ別の姓だった)であった。
当時、ナカゴはすでに忍として活動しておらず、忍術は使えるものの任務を受ける立場になかった。
木の葉隠れの里の忍組織の事務方として、B級、A級の任務を受けるカカシ達の後方支援を担ってもらっていた。
当時のカカシはかなりやさぐれていた、と言っていいだろう。
なまじ実力があるために、周りのものもなにも言えない。
そのカカシに唯一ものを言ってくるのがナカゴだった。
うちはオビトを失った時、のはらリンを失った時、波風ミナト先生と共にへし折れそうだったカカシを支えてくれた数少ない人でもあった。
茶釜ブンブクはその人の息子だ。
そんな事も自分は忘れていたのだろうか。
色々いらない事吹き込んで、そのたびにナカゴに締めあげられていた事を棚に上げ、カカシはそう考えた。
そんな事を考えていた時。
「ところでさ兄ちゃん、サスケさんに勝つ目途ってたってるの?」
そのブンブクの言葉で、カカシの中の忍びの部分が警告を発した。
今のナルトは精神的に滅入っている状態だ。
心の隙間に漬け込むのはたやすい。
そのナルトに対し、サスケの話を持ち出すのは人心誘導の幻術のとっかかりか。
そういう事案を幾つも見てきたカカシだけに、警戒が強くなる。
のだが。
どー聞いてもこの2人の会話は漫才にしか聞こえん。
「写輪眼」に関しての話にはなっているものの、感性で生きているナルトがブンブクに写輪眼の解説をする、というのがすでに無理が生じているのだろう。
あまり褒められた事ではないが、直接ブンブクに先ほどの言葉の真意を問いただしてみようか。
カカシはその会話に割り込んだ。
「そりゃ、兄ちゃんにサスケさんと真っ向勝負をさせるために、ですが?」
カカシはブンブクのその言葉を聞いて顎が外れそうになった。
口を隠す覆面をしていなかったら彼らに相当な馬鹿面を晒していただろう。
なにが悲しゅうて忍同士の戦いで真っ向勝負の力比べをせねばならんのか。
さらに呆れたのはナルトの言葉である、いや大体予想してたけど。
「オレはあいつを真っ正面からぶっ飛ばす!
そんでもって襟首ひっつかんででも連れ帰ってやる!」
もうはっきりした。
ブンブクは巷で言われているような
むしろ、この子は周りに影響を与えると同時に、周囲からも影響を受けてこうなったのだ、と。
この妙に折れない心はナルトからの影響だ、カカシはそう確信した。
そうだった、子ども達は相互に影響を与えあいながら成長していくものだったな。
カカシは幼少期を戦場で過ごした。
戦場ではとっさの判断が生死を分ける。
お互いに与えあう影響など、考えている暇はなかったが。
それでも、今のカカシがあるのは父や師、友のおかげであろう。
すでに会うことのできない人たちではあるが。
もう後はこの子どもらがねじ曲がった育ち方をしないよう見ていてやらねばならんだろう。
ただでさえ忍という生き方は捻じ曲げられ率が高い気がするし。
自分のねじ曲がり方を棚に上げたまま、カカシはそう考えている。
若干げんなりとしつつ、カカシは目の前の兄弟漫談に突っ込みを入れていくのだった。
そしてある晴れた日。
「ラーメン一楽」にて。
2人の男が飯を食っていた。
当然一楽のスタンダードであるラーメンである。
煮卵、ネギ、メンマ、海苔、ナルトに薄いチャーシューの入った味噌ラーメン。
麺は細麺、こしは抜群、スープは手間暇かけた至高、トッピングのバランスも多すぎず少なすぎず素晴らしい。
年若い男はすでに3杯目。
まるで食いだめでもするように、いや、実際食いだめであった。
男はしばしの間、生まれ育った里を離れる。
鼻梁に傷を持つ忍術アカデミーの教師、うみのイルカはラーメンをかっ喰らう男、うずまきナルトからしばしの別れを告げられていた。
「そうか…、少し長旅になりそうだな…」
その言葉にうなずくナルト。
その時、暖簾をくぐって白髪の大男が店に入ってくる。
この先ナルトの師となる木の葉隠れの里伝説の三忍が1人、自来也である。
続いて小柄な影が1人。
ナルトの弟分、茶釜ブンブクである。
ブンブクはナルトを見送るために自来也についてきたのだった。
「兄ちゃん、ちゃんとノート持った?」
「おう! 今度の修行でお前のアイデア使わせてもらうからな!
今度会う時に楽しみにしとけよ!」
「あい、兄ちゃんも頑張ってね!」
2人はどちらからともなくニッと笑うと、拳骨を軽くぶつけた。
ナルトはその後イルカに、行ってくると告げて店を出て行った。
3杯分のラーメンの代金をイルカに出世払いにして。
「行っちゃいましたね…」
「そうだな、しばらく里が静かになるな…」
イルカ先生はさみしそうです。
僕もある程度はさみしく…、大分さみしくなるけど。
ちなみに、さすがになにも頼まないのは失礼なので、僕は一楽の醤油ラーメン小盛りを頂いております。
ちなみに僕は味噌も好きだけど、スタンダードな醤油ラーメンが好きなのですよ。
「そういや、さっきノートがどうのってのはどういうことだ?」
あ、それですか。
「実は兄ちゃんが入院してる間に、いろいろ修行したら習得できるんじゃないかなあ、っていう忍術のネタを2人で考えていたんです。
定期的にはたけカカシ上忍とか、自来也さまとかいらっしゃるんで、そういった方々にも見てもらってですね、修行すれば見込みのありそうな忍術なんかをメモしてたんですよ。
兄ちゃんって結構迂闊なところがあるから、ノート忘れないようにって思ったんです」
「そっか。
ナルトの行動力と膨大なチャクラと、ブンブクのとんでもない発想が組み合わさったら、どうなるんだろうなあ…」
イルカ先生は苦笑いをしながらそう言った。
「…みんな、僕をなんだと思ってるんだろうか?」
「そりゃ、『うずまきナルトの弟分』だろ?」
!
「…はいっ!」
それじゃあ僕もその名に恥じないように頑張りますかね。
「未来の火影の弟分」としては、さ。
第一部・完
閑話その5 蛇の師弟
森の奥深く。
音隠れの里の忍達が潜伏している秘密施設があった。
「木の葉崩し」の際、大蛇丸が猿飛ヒルゼンを倒すのに時間をかけすぎた為、音隠れの里の被害は甚大なものとなっていた。
とはいえ、そのほとんどは金銭の供与や脅迫、洗脳などによって得た使い捨ての駒にすぎない。
実質上、木の葉隠れの里の忍はそれ程数を減じる事もなく、大蛇丸の戦力はまだまだ残っていた。
その施設の一角、長の執務室に相当する場所でうちはサスケは大蛇丸と会見していた。
「あんたにつけば力が手に入る、それは間違いないな」
サスケは確実に格上の相手である大蛇丸に対しても強気の態度を崩さない。
「あら、その『呪印』の力がもの足りないと?」
普段であれば、不躾な物言いをされるなら大蛇丸の怒りを買い、生きている事はない。
しかし大蛇丸は機嫌が良かった。
大蛇丸の次代の体であるサスケが手に入ったのであるから。
後はこの最高の素材であるサスケを己の手によって最高の忍びに育成するだけだ。
大蛇丸は先の戦いによって師であるヒルゼンの偉大さを改めて痛感した。
しかし、その戦いでヒルゼンは忍としては死んだも同然の状態となった。
もう大蛇丸とヒルゼンが直接戦うことは不可能になったと言っていい。
彼の者に「勝つ」ためにはどうするか。
大蛇丸は「屍鬼封尽」による影響で両腕を中心とした肉体が腐敗しつつあるのにも関わらず、考えていた。
そして、あの「三竦みの戦い」である。
自来也、綱手と大蛇丸、その召喚動物であるガマブン太、カツユ、マンダの戦い。
その中で大蛇丸はナルトに目を付けた。
ナルトがサスケに対して、かつて自来也が自分に向けていた感情を持っている事に気付いたのである。
もしかしたら、ならばサスケもナルトに対してなにがしかの感情を持っているかもしれない。
ならば、サスケを最高の忍へ「育てる」ことで、自分は自来也に、ひいては自来也がその資質を引き継いだ「教授」ヒルゼンに勝った事にならないか。
そう考えた時、大蛇丸の中に何かが「灯った」。
それは大蛇丸が今まで理想としてきた「不老不死」とは違うものかもしれない。
しかし、それは人が、いや生き物が有史以来面々と繋いできた次世代への引き継ぎ、今まで1人で完結していた大蛇丸が「後継」を意識した始めてだったのかもしれない。
大蛇丸はその後、腐敗が進んできた肉体の腕を「斬り落とした」。
使えない道具であれば切り捨てる。
大蛇丸らしい考えであった。
大蛇丸は幻術、忍術のエキスパートである。
だからと言って体術が苦手という訳ではない。
チャクラ制御に関しては自来也、綱手に劣るつもりもりはない。
チャクラを身体の外に放出する忍術を得意とするが、体内のチャクラを制御する体術とて並みの技量ではないのである。
大蛇丸はかつて木の葉隠れの里の中で忍術の研究を行っていた。
血継限界を模倣するのは至難であったにしても、各一族の秘伝忍術はかなりの割合入手できていたのである。
そう、日向一族の「柔拳」すらも。
日向一族は宗家以外の者に施される白眼奪取防止用の「呪印」のため、前線に出る事がかなり多い。
おかげでわざわざ誘拐をするまでもなく、「柔拳」を間近に見る事は難しくなかったのである。
おかげで不完全ながらも大蛇丸は「柔拳」を使用する事が出来る。
とはいえ、今はそれが重要なのではない。
「柔拳」を習得する修行の過程で、全身からチャクラを放出し、それを制御する技術を大蛇丸は習得する事が出来た。
また、S級犯罪者の集団である「暁」に大蛇丸は一時期所属し、その構成員の技術を盗み見る機会があった。
その中にいたのが砂隠れの里随一といわれた傀儡造型師である「赤砂のサソリ」である。
大蛇丸をしてサソリの技術を盗むのは困難を極めたが、忍術の全てを習得する野望を持った大蛇丸にとって、サソリの技術は無視などできないものであった。
その甲斐あり、サソリほどではないにしてもチャクラ糸を操る技術を大蛇丸は習得している。
全身からチャクラを放出する技術と、機巧傀儡を造り操る技術、そして大蛇丸はチャクラ制御の達人だった。
そこから生まれたのが、
「あんた、その腕はどうした?」
「ああ、先の戦いで
『変わりの腕』を付けているだけよ」
今現在、大蛇丸の肩についている「機巧傀儡腕」である。
大蛇丸は「キリキリ」と音を立てる腕で、器用に肩をすくめて見せた。
本来、どれだけ精巧なものだとしても義手などでは忍術を発動するための印を結ぶことは不可能。
なぜなれば義手にはチャクラの通り道たる経絡系が存在しない。
しかし、大蛇丸にはサソリより盗み出した「人を傀儡に改造する」技術があった。
これまで大切に保存してきた「本来の」大蛇丸の体、そこから腕のみを切りだして、傀儡へを改造。
その腕を取り付けることで「経絡系のある義手」による忍術の行使が可能となったのである。
奇しくも茶釜ブンブクが発想した「断ち切られた神経をチャクラによってバイパスする」技術を大蛇丸は編み出していたのである。
忍は片腕が使用できなくなるととたんに戦闘能力が低下する。
大概の忍術は両手を使用した印の行使が前提だ。
印を組むことが出来なくなった忍は、血継限界や片手印を組むことのできる秘伝などを除き、忍術の行使が出来なくなるのである。
大蛇丸はその常識を覆した。
この技術が広まる事はないであろうが、この事を他の里が知ったなら、どれだけの犠牲を払ってでも大蛇丸を確保しようとするだろう、それだけの技術だ。
大蛇丸。
確かにこの男は天才であった。
「サスケ君、3年、3年の間、ワタシはアナタを徹底的に鍛えてあげる。
あなたはワタシの最高傑作になるの。
その力を以って、アナタはアナタの目的を達しなさい」
大蛇丸はひどく機嫌よくサスケにそう言った。
「ふん、何を企んでいる?
一見あんたに利がないが」
サスケはそう言う。
昔ならば大蛇丸の糸など気にする事もなく、ただ強くなる事を、いや、強い術を手に入れることのみを考えていただろうが、サスケはブンブクとイタチへの対策を考える過程で状況を分析する考え方が身についていた。
復讐を成すために必要な事はただ強い技を使うだけでなく、期を窺い、成す事の出来る機会を見逃さない事。
その為に「考える事」をサスケは心がけるようになっていたのである。
大蛇丸はサスケに近付くと、その長い舌を淫靡にくねらせながら、
「そうね、ワタシの望みは『アナタの体』。
ワタシは永遠不滅の肉体を手に入れるためにアナタに目を付けたの。
3年たったならあなたは最高の忍、最高の器になっているでしょう?
あなたが最高の状態になった時にワタシはアナタの体を奪い、最強の忍となるの」
そう言った。
サスケはその瞳に黒い意志を灯しながら、
「出来ると思ってんのか?
オレはその時、あんたをひねり潰すかも知れないぜ」
そう睨みつける。
「…ふっ、ふふふっ…」
その目に怯むことなく大蛇丸は嗤う。
「いいわぁ、その瞳。
構わないわよ、出来るなら殺して御覧なさい。
それだけの力をつけさせてあげる。
そうでなければその体を乗っ取る意味もないのだから」
その日、大蛇丸とうちはサスケ、2人の師弟関係が結ばれた。
サスケは3年後の自分がうちはイタチと戦えるようになっているか、それを考えていた。
大蛇丸はそんなサスケを眺めつつ、
「ああ…。
ワタシの未来はこの子の中にある…」
そう考えていた。
その瞳の中に、蛇のような飢餓と、ほんの少し別の感情を滲ませながら。
という訳で、大蛇丸さんは体を乗り換えておりません。
幻幽丸さんは一族の皆さんと共にまだ囚われているかと。