NARUTO 狐狸忍法帖   作:黒羆屋

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第1部から第2部に移る間のよもやま話を掲載しております。

今回ですが、別作品からゲスト的な扱いでキャラクターイメージを持ってきております。


第27話 閑話集

 閑話その1 ブンブクとリーの会話

 

「どもで~す」

 今日、僕は入院中のみなさんのお見舞いに来ています。

 で、まずはロック・リーさんのお部屋に来ました。

 なんでも、リーさんってば僕が音の人たちにのされてるあたりにはもう綱手さま直々の手術を受けることになっていたそうで。

 で、手術が終わってすぐにリーさんってばみんなの事を追いかけて行ったんだそうです。

 なんというか、無茶ですよね。

「それが青春というものです!」それ間違いですから。

 そんな無茶して体壊したらどうするんですか!

 そんなリーさんは師匠であるマイト・ガイさんから現在修行禁止令が出ております。

 手術が終わった直後から動き出しているので、見た目以上に体にダメージがあるんだそうです。

 まあ、リーさん、ガイさんよりもその周りで見ていた先生方の方が「熱血」に当てられてダメージを受けたという話もありますが。

 確かにあのノリが駄目って人は里にも結構いるようです。

 かっこいいのに。

「で、実際どうだったんですか?

 リーさんの戦った相手って大分強い人だったみたいですけど」

 そんな風にちょっとお気楽感を出しつつ聞いてみたんですけど。

「…」

 あれ、何故ゆえに黙りこむんですか、リーさん?

「ブンブク君、君は何かにすがった事がありますか?」

 ? どういう意味だろ…。

「そりゃ、僕は弱いですからね、そんなんさんざんですよ」

 そう、僕は弱い。

 だからこそ、「ホノレンジャー」に憧れたり、ガイさん、自来也さまにも感動する。

 頼ると言ったら、近いところはおっとうにおっかあ、一族のみんな、うずまき兄ちゃんにキバさん、猪鹿蝶の人たちにサクラ姉ちゃん、同級生にその他にもたくさん、もちろんリーさんもその1人だ。

 いろんなところにぶら下がったり、依りかかったりしながらなんとか立っているのだなあ、そう思う。

「そうですか、そうですよね、うん…」

 リーさんはまた考え込んでしまった。

 

 しばらくして、

「支えが1つしかない、というのは不幸なことのような気がします」

 リーさんはそうつぶやいた。

 多分今回の任務についての事なんだろうなあ。

「たった1つのものにすがって、その善悪すら見ることなく、そして死んでいくのは…さみしいですね」

「そうですね。

 なら、なんにもすがるものがない、って人としたら立つ事すらおぼつかないのかもしれません」

 そんな中、あの人(サスケさん)はどう進んでいくのだろう。

 闇の中、まっすぐ進んでいるつもりで迷ってしまっていないだろうか。

 もしかしたら迷っている事すら気付かないかもしれないのに。

 リーさんは、

「幸い、僕たちにはたくさんの支えがありますよね。

 ガイ先生しかり、ブンブクくんしかりです。

 それに…」

 リーさんは心なしか頬を染めて手前のテーブルを見た。

 そこには瓶に飾られた()()()花が。

 ほっほ~ん。

 僕はあんまり品のあるとは言えない笑みをリーさんに向けてみた。

「な、なんですか、ブンブクくん!

 そういう笑みはせ、青春とは、その、言い難いんではないかと…」

 1つはサクラ姉ちゃんとして、もう1輪は誰かなあ?

 しばらくこのネタでリーさんをからかい、手加減しにくくなったリーさんに突き飛ばされて病室の壁に埋まる事になるまであと5分。

 

 

 

 閑話その2 秋道強化計画

 

 秋道チョウザは5代目火影・志村ダンゾウとの会見を行っていた。

 ダンゾウより、秋道の秘伝である倍化の術に関して、その強化のめどが立ったという知らせが来たためである。

 もともと、秋道の一族は数年前にダンゾウ、というより「根」の要請により一族のものをほぼ強制的に供出させられている。

 その人員が検体となり、何らかの実験を受けていたのだとすると、チョウザとしてはその状況を確認せざるを得ないのである。

 忍びの一族は多くとも100人程度の集団である。

 けっして数が多い訳ではない。

 それだけに一族の秘儀が強化される機会を逃すわけにもいかず、秋道の一族の長としてチョウザはダンゾウとの会見を受けることとなった。

 本音を言うのなれば奈良シカクについてきてほしかった。

 彼の頭脳と読みがあるならば、ダンゾウに良いようにはされないだろう。

 無論、事前にシカクに話を通し、可能な限りの対策はとったつもりだ。

 しかし、相手は百戦錬磨の元「根」長官である。

 直接シカクを連れてくる事が出来なかったのは痛い。

 一族の秘儀に関する事である以上、それは不可能な訳だが。

「で、5代目。

 オレに声がかかったという事は、かなりの成果を期待できる、という事なのでしょうか?」

 チョウザは最初の一手でイニシアチブを取るべく、若干の凄みを加えながらそう言った。

 とはいえ、木の葉の猪鹿蝶の1人に数えられる秋道チョウザですら、3度の忍界大戦を潜り抜けたダンゾウにとってはまだまだひよっこにすぎないのだろう。

 全く動揺することなく、ダンゾウは手元のファイルをチョウザに渡し、読むよう促した。

 そのファイルに書かれたレポートに目を通すチョウザ。

 しばらくして、驚きがチョウザの顔を満たしていく。

 すべて読み終えたチョウザは、歴戦のツワモノらしからぬ興奮に顔を赤らめていた。

「5代目、これは本当なんですか!?」

「うむ、暗部におる秋道のものに施してみたところ、保有チャクラの増大、それに対しての身体への負担の減少が認められておる。

 貴様らにとっても有用な方法であると思うがいかに?」

 そこに書いてあったのは秋道の秘伝である倍化の術使用時の負担、および秘伝の忍具である3種の丸薬に対する副作用の軽減法が提示されていた。

「無論、秋道の秘伝である丸薬の製法が分かっている訳ではない。

 が、副作用の強い別種の兵糧丸を使用しての実験結果だ、効果は期待できると思うぞ?」

「むう。

 筋力鍛錬を行い、筋肉を増やすことで倍化の術使用時のチャクラ変換効率の上昇。

 チャクラによる身体強化を内臓に施すことで術使用時に生成された体内毒素の速やかな排出…」

 この時代、まだ知られていない事であるが、体内に蓄えられた栄養は、まず糖質から消費され、それが減少すると、次に分解消費されるのは脂肪ではなく、筋肉からである。

 秋道の秘術は体内に蓄えたエネルギーをチャクラに変換するもの。

 その為、倍化の術などを使った場合、筋肉の消費が見られ、その為に連続の使用は危険を伴うものであった。

 チョウザは続ける。

「催眠暗示によって五感をだまし、身体を鍛錬することでチャクラの保有量をいくばくなりとも上昇させる。

 これは確かに効果がありそうですな。

 しかし…」

 チョウザには最後の項目にあったチャクラ保有量の上昇は不可能な事が分かっていた。

 五感をだましきるような幻術。

 それはうちは一族の写輪眼以外に木の葉隠れの里には存在していなかった。

 木の葉の上忍の内、幻術のエキスパートと言えば夕日紅上忍が挙げられるが、彼女とてそこまで完璧な幻術を使うのは難しい。

 五感の内、4つを騙すのが限界であろう。

 レポートにある内容では五感全てを騙すほどの高等幻術でなければ効果を見込めまい。

 その考えに至り、チョウザははたと考えた。

 おかしい。

 このレポートは推論を述べているものではない。

 という事は、秋道の忍に対して五感全てをだますほどの高等幻術が使用されたということである。

 つまり、このレポートには…。

「秋道チョウザよ」

 考えがまとまる前に、ダンゾウより声がかかった。

「必要以上を考えずともよかろう。

 不信があるなれば3代目火影・猿飛ヒルゼンに確認をとるとよい。

 ヒルゼンには全て話してあるのでな。

 どうしても信じられぬなら、奈良シカクに相談しても良いのだぞ」

 その言葉にチョウザの警戒は若干なりとも下がる。

 

 結局幾人かの臨床試験を行い、目覚ましい効果を上げたこの方法は、一族宗家の嫡男、秋道チョウジに施され、後の忍界大戦で大きな成果を生むのであった。

 

「時に5代目、この方法を考案したのはもしや…」

「貴公の考えている通りよ」

 

 

 

 閑話その3 動物試練の巻

 

 犬塚キバの相棒である忍犬「赤丸」、そして医療忍者シズネのペットである「トントン」は今、その生の中で最大の試練にさらされていた。

 なんでこんなことになったんだっけ。

 

 彼らがそのような事を考えている数日前の事である。

「どうしたの、2人とも?」

 赤丸とトントンは2匹そろってブンブクの前にやって来ていた。

「ワンワフン!」「ブヒッ!」

「…困っちゃうよねえ、2人の言ってる事、大体分かっちゃうようになっちゃったねえ…」

 若干の困惑を顔に乗せるブンブク。

 特に忍び動物を扱う家系でもないブンブクが動物の言っている事が分かる、というのは確かに珍しい事だろう。

 とはいえ、赤丸は犬に近しい妖魔である九尾が封印されたうずまきナルトの近くにいたし、トントンは大妖魔と見紛う程のチャクラを蓄えた千手綱手の近くにいたのである。

 そろそろ人語を解する妖魔の仲間入りをしそうになっているのだ。

 そのため、ブンブクのみならず、他のチャクラを多めに持っている、例えば忍であるなれば彼らの言いたい事はニュアンスで分かってしまったりする。

「うーん、君達が強くなる方法、ねえ…」

 赤丸はうちはサスケ奪還任務において、キバの足を引っ張ってしまった事を悔やまずには居られなかった。

 己が忍犬、犬塚の一族を守るべき存在であるにもかかわらず、キバに守ってもらわねばならなかった事。

 プライドもあろう、しかしそれ以上にキバへの情が赤丸を突き動かしていた。

 一方トントンも危機感を募らせていた。

 トントンの飼い主であるシズネ。

 彼女が戦いに巻き込まれたからである。

 トントンがシズネと同行する事になってから、大きな戦いはなかった。

 つい先日、自来也、綱手、大蛇丸の三すくみの大戦に巻き込まれるまでは。

 あの戦いはトントンの心にも大きな傷を残した。

 戦わなければ生き残ることはできない。

 戦わなければ守れない。

 その事をトントンは実感したのである。

 しかし、トントンには頼るべきものがいなかった。

 師となる存在に心当たりがなかったのである。

 どうすべきだろう、そう思い悩んでいるところに通りかかったのが赤丸である。

 彼は丁度、ブンブクに相談しに行く途中であり、トントンもそれに便乗したのであった。

 

「じゃあ、ちょっと知りあいに聞いてみるから、待っててね」

 なんというか、ずいぶんと気軽な様子でブンブクは2匹に言う。

 その後、虚空を見ながら何やらぶつぶつ言っているのを見て、2匹が若干引き気味だったのをブンブクは知らない。

 しばしブンブクが契約を交わした口寄せ動物たる化けオコジョの安部見加茂之輔を介して化け狸の里と連絡を取ったところ、

「…君達のお師匠さんになってくれそうな人たちがいるって話なんだけど、あってみる?」

 なにやら表情が青ざめた、ブンブクがそう言った。

 なんだろう、ものすごく嫌な予感がする。

 2匹はブンブクの態度からどんな凄まじい存在がヒットしたのかを想像し、慄いた。

「いや、大丈夫だって!

 なんでも化け狸の里に連なるところに丁度暇してる『狗神(いぬがみ)』さんと『猪神(ししがみ)』さんがいらっしゃるんだって!

 良かったじゃん、赤丸くんもトントンくんも同族の格上に師事できるんだよ!

 大ラッキーだって!」

 いやあんた、ラッキーって…。

 確かにそうかもしれないけどさ、名前に「神」なんて付くってものすごい高位の妖魔なんですけど。

 そんな凄いのにあったらその気配だけでボクら吹き飛びそうなんですが。

 そんな事を考える2匹。

 しかしほかに伝手もない。

 結局赤丸、トントンはブンブクの紹介を受けて高位妖魔に面接を受けることとなった。

 

 そして今現在。

 彼らの前にはとてつもない存在感を持った()()が鎮座しましていた。

 1匹、というよりはもはや1柱、と言った方が良いだろうその存在。

 まず、赤丸の前に立つ、というかそびえ立っているのは巨大なオオカミ(狼神)だった。

 純白の毛皮を持つ狼、それは高貴、神秘の中にもどこか柔らかさを持ち、女神である事を周囲に知らしめていた。

『小さき仔よ、私が犬の里の長、<真神《まがみ》>である。

 人共は私を<大口の真神>と呼ぶのう。

 まずは会えてうれしいよ、小さき仔』

 男性とも女性ともつかぬ中性的な声に、赤丸の心は若干ではあるものの癒された。

 存在感は赤丸を押しつぶさんとするほどではあるものの、真神が赤丸を労わっているのが分かったからである。

 一方トントンの前にいるのは小さな丘ほどもある巨大なイノシシであった。

 自然の猛威をそのまま形にしたような凶暴性を持つその存在に、トントンは気絶寸前であった。

「ワシは<鎮西(ちんぜい)乙事主(おっことぬし)>と呼ばれておる。

 同胞(はらから)の仔よ、歓迎しよう」

 口調そのものは穏やかだ。

 しかしそのチャクラは、慣れぬものからすれば暴風に等しい。

 正直漏らしそうだった、なにがとは言わないが。

 

 赤丸とトントンは2柱にそれぞれ自分が強くなりたい、という思いを伝えていた。

 真神はまだ良かった。

 イヌ科の性として群れに忠誠を誓うのはおかしい事ではなかったからだ。

 問題は乙事主である。

 彼の者は人間が嫌いだったのである。

「人にすり寄るとは何事か!」という叱責に、トントンどころか近くにいた赤丸もいろいろ決壊寸前になっていた。

「ワシの師事が受けたいなれば、その試練を受けてもらう!」

 真神のとりなしと、2匹の必死の嘆願もあって、入門テストが行われる事になったため、なんとかその場は収まる事になった。

 当然のことながら、2匹はブンブクを後ほどタコ殴りにする事を決意した訳であるが。

 

「それ、僕のせいじゃないよね!? ね!?」

 

 試練は過酷だった。

 巨大なキノコの森で貴重なキノコを手に入れるため、キノコ人間と戦ったり。

 若手の猪神に3日3晩追いかけまわされたり。

 早口言葉を100回連続で言わされたり。

 虫が飛んでいるのを半日追いかけないよう我慢させられたり。

 赤丸とトントンはすっかり疲労しきっていた。

「ふむ、まあよかろう、トントンよ、定期的に我が元へ来よ。

 お前には戦いにおいてはそれ程の才はないが、その鼻と耳には優れたものがある。

 基本的な戦い方はもちろんだが、直接戦うのではなく、己の主人の戦いを有利にする方法とチャクラの効率的な使い方を伝授してやろう」

 どうやらトントンを気に入ったらしい、乙事主が最初の頃とは全く違う、穏やかな気配で言う。

 一方、真神は赤丸に気になる事を言った。

「赤丸や、お前には『疾平(しっぺい)』の血が入っておるようじゃ」

 ? しっぺい? とはなんぞや? 赤丸は疑問を投げかける。

「お前の咆哮には破幻の力が宿っておる。

 お前はチャクラの増強と対幻術の力を鍛える事にしようかと思うておるよ」

 そしてこれより、2匹の地獄の修行が始まったのである。

 彼らは里に帰った時にブンブクに八つ当たりをするのであるが、それはまた別の話。

 

「だからそれ、僕のせいじゃないよね!?」

 

 

 

 閑話その4 ぷりずなー

 

 なんでこんな事になったのだろう?

 西門の左近、右近は混濁する意識の中でそう考えていた。

 ケチのつき始めは多分あのガキに会ったところからだったろう。

 大したチャクラの保有量でもなく、技術的にも見るべきところのないただのアカデミー生。

 呪印の力を使うまでもなく、自分たちなら一方的に封殺できるはずだった。

 それが、蓋を開けてみれば全員まともな負傷はないものの、たった1人に翻弄される始末。

 あまりにも情けない。

 それだけに力みが入ったのか、その後に出会った特別上忍2人に対しては倒すことはできたものの連携が全くと言っていいほど取れず、無駄なチャクラを消費したように思う。

 思い返せばこういうときは次郎坊が他の3人の間を取っていたはずなのだが、その次郎坊が最も不安定であったような気がする。

 そして、うちはサスケを追ってきた連中との戦い。

 次郎坊は相手のデブと相打ちになったらしい、なんとだらしのない。

 その後、鬼童丸も追いついてこなかった所を見ると日向の忍に倒されたかやはり相打ちか。

 音の()()()本来の頭であるかぐや一族の生き残り、君麻呂まで担ぎ出してこのざまだ。

 君麻呂に次ぐと言われた自分が、情けない。

 左近達が戦ったのは忍犬使いの少年。

 大したことはなかったはずだ。

 油断もしていなかった。

 比較的最初から呪印の第2形態を使い、異形化してまで相手に挑んだ。

 第2形態になれば圧倒的な力が手に入る。

 左近達ははっきり言うならばまだ未熟である。

 その未熟な左近達ですら上忍を撃破しうる力を呪印は与えていたはずだ。

 それが結局、忍犬使いと、その後に援護に入った傀儡使いによって叩きのめされてしまった。

 忍犬使いに気を取られ、傀儡使いの傀儡の中に捕えられた瞬間、左近は死を覚悟した。

 その時であった。

“おい、左近! ぼうっとしてる暇はねえぞ!”

 兄の右近からの声が聞こえた。

 捕獲用の傀儡の中で、ところどころから外の光が入ってくる。

 その穴から外の声が聞こえた。

「クロアリは攻撃用のカラクリじゃねぇ、本来はただの捕獲用なんだよ。

 んで… クロアリと対をなすカラスがもっぱら攻撃用なんだ」

 無理やり首をひねってその穴から外を見てみると、もう1体の絡繰傀儡がばらばらになり、無数の針のような刃に変化していっている。

 つまり…身動きできない状態での串刺し!

「冗談じゃねえぞ! 出せ! コラッ」

 喚いている間に刃は左近に迫る。

 これじゃ手詰まりか…そう考えた時である。

 しばらく前に相手をしたガキの事を思い出した。

 あれは左近の蹴りを小型のものに変化して避けていた。

 確かに左近、右近はそんな変化は使用できない、が…。

「兄貴!」「おうっ!」

 左近達は「双魔の攻」という血継限界を持つ。

 この血継限界のため、大蛇丸に目を付けられ、音の4人衆に抜擢されたのであるが。

 双魔の攻は左近と右近がそれぞれ体を共有している状態を意味し、中に入っている方はどこからでも自分の体のあらゆる箇所を飛び出させることができる。

 それを利用して。

 

 カンクロウは止めを刺すべく、絡繰傀儡カラスを敵に突きたてようとした。

 その時である。

 いきなり捕縛用傀儡クロアリが内部よりみしみしを音を立ててはじけそうになるではないか。

 まるで中に捕縛した人間が()()になったかのように。

「このっ、往生際悪いじゃん」

 カンクロウはそれにあわてる事無く、

「カラクリ演操・黒秘技機々一発!」

 冷静にカラスを突きたてた。

 肉に刃物が突き立つ音がして、クロアリのボディから血が滴り落ちてくる。

 これにて西門の左近、一巻の終わり。

 

 とはならなかった。

 後々回収したところ、内部では2人の人間がまるででたらめにまじりあったような肉塊が転がり出てきた。

 しかも、まだ息がある。

 呆れるほどのタフネスぶりであった。

 

 いったい何が起きていたのか。

 左近、右近は己の血継限界である双魔の攻を使用し、無理やりに重要臓器などをもう1人の内臓などで脇へ押しやり、カンクロウの攻撃をそれ程重要度の高くない部分に集中させたのである。

 そのため、脳及び身体の制御系、心臓などの循環器系にはほとんどダメージが無い状態に抑える事が出来たのである。

 無論串刺しにされている体はぼろぼろだ。

 特に手足などはよくもまあくっついている、と医療忍者に言われるほどに切り刻まれていた。

 あくまで致命傷になっていない、というだけにすぎない。

 それでも「双魔の攻」の影響か、ナルトほどでないにしてもかなりの回復力を持った体は、混濁した意識とは別に凄まじいスピードで体力を回復しつつあった。

 

「イビキさん、凄いですね、こいつ」

 木の葉隠れの里、拷問班に所属する医療忍者は自分の上司である森乃イビキ特別上忍にそう言った。

 イビキはその様子を見ながら、

「ふん、どれだけ身体能力が高かろうと、こんなに薄っぺらくなっちまった自我じゃしょうがねえだろ。

 もう少ししたら、尋問用の意識低下薬を投入するぞ。

 じっくりと時間をかけて大蛇丸の洗脳を解いてやる。

 こっからがオレ達拷問班の腕の見せ所だ、気合を入れろよ!」

「はい!」

 木の葉隠れの里の暗部・拷問、尋問班。

 対洗脳のエキスパートでもあり、さまざまな薬品を使いこなす情報操作の要でもある。

 それだけに優秀な医療忍者も抱えているが、しばらく前までは「木の葉崩し」の影響による大量の負傷者の治療を行うため、拷問班は半休止状態であった。

 やっと活動できるだけの余裕が出たと思いきや、5代目火影・志村ダンゾウより「音の忍からの情報収集、および大蛇丸の洗脳解除、可能であるなら再洗脳を施して木の葉隠れの里の手駒として使えるよう調整する」という難問が与えられた。

 とはいえ、難題に挑むのは嫌いではない。

 拷問班はその能力を最大限に利用して、音隠れの里の忍を洗脳していったのである。

 

 

 

 閑話その5 ヘッドロック

 

「あだだだっ! 痛いっ! キバさん痛いってばよっ! ギブギブギブゥッ!」

「やっかましいわお前という奴わっ!」

 現在進行形でキバさんにヘッドロックを掛けられてるブンブクですっ。

 

 事の起こりはついさっき。

 僕が久しぶりに自宅でくつろいている時の事です。

「ブンブクゥ~ッ!!」

 泡を食ってすっ飛んできたのは我らが兄貴キバさん。

 もの凄い動揺してる。

 目の前に来て、すぐ話しだせない状態だったので、ぬるめのお茶を出して、少し息を整えさせ、それから、

「どうしたの? キバさん」

 そう尋ねてみると、

「赤丸が家出したっ!

 何処にもいねえんだ!

 傷が癒えたばっかりだってのに…」

 そう言った。

 え?

 あれ?

「もしかして、キバさんご存じでない…?」

 ぽそっと言った僕の言葉。

 しっかりとキバさんに届いてました。

 ゆらありっと立ち上がるキバさん。

 これはまずいっ!

 戦略的撤退ぃ… がっしり。

「ブンブク、なにを知ってんだ? ん?」

 

 という訳で冒頭に戻る訳です。

「お前なあ!

 オレがどんなに心配したとぉッ!」

「だあって赤丸くんがキバさんに何にも言わないで修行に出ちゃうなんて思わなかったじゃん!」

「じゃん! じゃねえよ、じゃん! じゃ!

 全く赤丸も水くせえぜ、ひとこと言ってきゃいいのに…」

 まあ、今回は赤丸くんも思うところがあったんでしょ。

 やっぱり守ってもらってばかりってのはパートナーとしてはね。

「それも分かるんだけどよ、やっぱ心配なんだって」

 ま、キバさんならそうだよね。

「でよ、赤丸の行ったとこってどんな事なんだ?」

「化け狸の人たちから聞いた話だと、かなり深い森の奥らしいっすよ。

 忍犬の里と化け猪の集落だそうで。

 赤丸くんの師匠さんが巨大な白狼で、トントンくんの師匠さんが巨大なイノシシだそうです」

「へえ、…赤丸強くなってくるかなあ」

「それは間違いないでしょ。

 赤丸くんだもの」

「だな、疑っちゃ悪りいよな」

 キバさんは鼻の下をこするとにやっと笑った。

 

「でよ、赤丸の相談にも乗ったんだ、オレの相談にも乗ってくれよ」

 あい、了解です。

 大体予想はついてるけど、

「どう自分を強くすればいいか、ですよね」

「そう言うこった。

 赤丸が一生懸命やってるってのにオレが手を抜いちゃ意味がねえだろ?

 なんだけどよお、どうもオレはこう、考えんのが苦手でよお」

 なるほど。

 んでは恒例の。

「じゆうちょう、です」

「は?」

「ここにキバさんの強い所、弱いところを書き出して、そこから対策を考えましょう」

「結構回りくどくね?」

「急がば回れ、ですよ」

 という訳でしばらくキバさんの分析をしたのでした。

 

「ん~、やっぱり、キバさんは早さが命、かなあ。

 出来れば体術系でチャクラを使わない攻撃方法があるといいけど、リーさんの木の葉旋風みたいなやつ」

「やっぱ体術を鍛えねえとまずいか。

 チャクラの量が増えねえと獣遁系は使いにくくってなあ…」

「そうですねえ。

 後はスピードを上げてやるために、複数の『瞬身の術』を覚えてみるとか?」

「なにが悲しゅうておんなじ様な効果の術を幾つも覚えなけりゃならんのだ…。

 手間だろうに」

 それは甘いよ、キバさん。

 体術、忍術、幻術、それぞれにスピードを上げる瞬身の術はあるけど、それぞれにちゃんと意味があるんだからね。

 体術はその通り、体の動きを調整することでスピードを上げたり、上げたように()()()技術。

 忍術はどっちかっていうとチャクラによって身体機能を上げることでもの凄い早さを得る術。

 で、幻術は動いている自分に目くらましをかぶせるたり、相手の気を別方向に向けさせることで高速移動したように見せる術。

 こういった技術を組み合わせることで、それこそ目にもとまらない速さで敵を翻弄できるって訳。

「てか、こういった相手を撹乱する技術って、キバさんとこの夕日紅上忍とかって得意じゃないのかなあ?

 もともと幻術使いなんだって話聞いたよ?」

「な~る。

 んじゃ、後から夕日先生に相談してみっかな。

 で、あとは?」

 ん~そうですねえ。

「スピードを生かすためには、やっぱり感覚が鋭くないと」

「それなら大丈夫だ、獣遁は嗅覚が…」

「それだけじゃだめです」

「…なんでだよ?」

「感覚1つなら、誤魔化す方法はいくらでもあるんです。

 出来れば聴覚、視覚も強化して置いた方が良いはずです。

 特に視覚はキバさん自身が高速で移動する以上、動体視力を強化する必要がありますね」

 キバさんは首をかしげ、「どーたいしりょく?」を聞き返してきた。

「動いているものを認識するための視力です。

 止まっているものを見るのは静止視力っていうんですけどね。

 で、キバさんは今言った通り、動き回って何ぼでしょ。

 そうなると、止まってるものを見ても、キバさんが動いてるからキバさん的には動いてるのを見るのと変わらない、と。

 動体視力を鍛えれば、牙狼牙とか使っても、相手を視認できるかもしれないです。

 そうなれば、途中で方向転換とかできるかもしれませんし、そうなれば戦いの幅が広がるんじゃないでしょうか」

 キバさんはさっきまでの興味なさそうな感じから一転して、真剣に聞いてくれている。

 あとは、と。

「これは赤丸くんが帰って来てからの事だと思うんですけど、修行の成果次第では赤丸くん、かなりチャクラの保有量が増えてるんじゃないかと思うんですよ。

 なんで、ほら、確かキバさんって赤丸くんと混合変化出来たでしょ」

「ああ、できるな」

「それでさ、そう言うのが出来るんなら、赤丸くんとチャクラの共有とかできないかなって」

 これは、シカマルさんから聞いたんだけれど、音隠れの忍、確か西門の左近さんだっけ、右近さんだっけ、あの人たちが2人で融合してチャクラを融通し合ってたらしいという話で。

 ならば、キバさんと赤丸くんもそう言った事が出来そうかなあ、なんて思ってみたりした。

 それをキバさんに話してみたところ、

「なるほどな、オレが動いてる時に、赤丸にチャクラの回復をしてもらうってのもありか…。

 おもしれえ話を聞かせてもらった。

 ちょっと家に帰って母ちゃんに相談してみるわ」

 そう言ってキバさんは帰って行った。

 さて、んじゃ僕も今回の資料を整理して、キバさんが使えそうなネタをまとめておこうかな。

 

 ちなみにこの後、シズネ上忍もうちに押し掛けてきまして、散々襟首つかまれてヘッドバンキングをさせられました。

 …ここんとこ僕の扱いが悪い気がするのは気のせいでしょうか。




大口の真神のイメージは「もののけ姫」よりモロの君、
鎮西の乙事主のイメージは同じく「もののけ姫」の乙事主よりお借りしてきております。
また、疾平は民話の「しっぺいたろう」から持ってきております。

しかし何と言いましょうか、閑話ってサクサク書けるよねえ。

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