NARUTO 狐狸忍法帖   作:黒羆屋

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これで終わりです。


狐狸忍法帖外伝 聖闘士星矢×NARUTO 下

 狐狸忍法帖外伝・茶釜暗黒聖闘士団 その3

 

 シャカは処女宮にて日課の禅を組んでいた。

 シャカにはこの聖域で起きている事が手に取るように分かる。

 鳥のさえずり、野鼠の戯れ、そして。

「…おや、しばし前にあったこの感覚は」

 シャカは禅を解き、立ち上がった。

 

「おお、シャカ、珍しいなこんな所まで歩いてくるとは」

 金牛宮を守護する黄金聖闘士である牡牛座(タウラス)のアルデバランは珍しい事もあるものだと瞠目した。

 普段は処女宮に籠って任務の時のみそこから出るシャカが、ここまで来るとは。

「アルデバラン。

 聖域に顔見知りが遊びに来たようなのでね、出迎えに行こうかと思ってな」

 なおさら珍しい。

 彼は同世代の黄金聖闘士の中でも別格といって良い。

「神に最も近い男」の二つ名は伊達ではないのだ。

 それだけに交友関係となると、そもそも友情が成り立つほど彼と対等なものはそうそういない。

 アルデバランとて、対等でありたいとは思うものの、そうは言いかねる部分も多々ある。

 その彼があのように面白味を出しているのだ。

 興味があるというものだ。

「俺も行こう」

 つい、そう言いだしてしまった。

 

 

 

 さて、モーゼスさんが連れて来てくれたこの聖域ですが、さてどこに行けば事務方に会えるでしょうか。

 さすがにここまで前時代的な施設とは思ってもみなかったもので、勝手が分かりませんね。

 モーゼスさんも行っちゃいましたし、ちょっと動いてみようかと思ったその時です。

「お久し振りですね、茶釜ブンブク」

 この声は。

「あ、お久し振りです、シャカさん」

 黄金聖闘士のシャカさんでした。

「おい、知り合いってこれか?」

 そう、総髪の巨漢の人が言います。

 この人もなんかものすごい圧力を感じますね。

「あ、茶釜ブンブクといいます。

 今は『暗黒聖闘士の社会復帰を支援する市民団体』という団体の代表してます」

 とお伝えすると、

「はて、『暗黒聖闘士の社会復帰を支援する市民団体』とやら、寡聞にして聞いたことがないのだが…」

 と首を捻りました。

 まあできたばっかりの団体ですからね、知らなくても仕方ないかと。

 シャカさんが尋ねてきます。

「で、今日はその団体の長として、という事かな?」

「はい!

 あ、ちょっと待って下さいね」

 と僕は言い、近くに落ちていた葉っぱを拾って頭にのせ、

 ぼん!

 と人型に変化します。

「なに!?」

 そう驚くのは総髪の人。

 シャカさんは驚きもしません。

「むう、面妖な、妖怪の類いか…?」

 なんか失礼な言い方されてるような。

 しかし、この世界妖怪とかいるんだ…。

 なんて言ってる場合じゃないね、懐から書き出した資料を引っ張り出してシャカさんと総髪さん(アルデバランさんという方でした)に渡す。

「今なら説明も入れますけどどうします?」

 シャカさんはざざっと目を通すと、

「ふむ、若干の調整を入れるなら良いのでは?」

 と言ってくださいました。

 アルデバランさんの方は、

「ここの金の流れで分からん所があるんだがな…」

 と、かなりの量の質問を受けました。

 さすが黄金聖闘士という事なんでしょうか、質問とその理解も的確なもので、一芸は万能に通じるんでしょうかね。

 暫く待つように言われまして、今お出かけで無人の「白羊宮」で待つようにとのことで、僕はお茶と急須、ポットに座布団を取り出して一服です。

「…ああ、落ち着く」

 やっぱりお茶は良いですねえ、後はみたらし団子あたりがあればいいんですけど。

 そう考えていると、どたどたという足音と共に、なんかずるずるとした服装のおじさんがやってきました。

「貴様がこれを作ったのかあっ!」

 開口一番の台詞です。

 礼儀もなにもあったものじゃありませんが、えらい興奮してらっしゃる様なので仕方ないですね。

 何と言っても事務方としては「お金が浮く」これはものすごく大事なことですから。

 経費が節約できる機会というのはかなり少ないですからね、その逆はあっても。

「いやあすまんすまん、ワシは教皇様の片腕である参謀長ギガースという!

 貴様の用意したこの資料、何とも素晴らしい!

 数百年にわたって無駄になって来た金銭と、厄介者であった不良戦士の解決策がここまでの完成度であるとは、これもアテナのお導きに違いないわい!」

 そこまでかあ、うん、まあそう言いたくもなるよね、うん。

 もともとデスクイーン島は聖域で問題を起こした不良不逞の元聖闘士予備軍の人たちの流刑地であったのだとか。

 更に昔は暗黒聖闘士というアテナさまに抵抗する悪党のたまり場であり、それとの戦いがあった地でもあるとの事。

 ん?

 それじゃ今彼らが纏っている暗黒聖闘士(ブラックセイント)聖衣(クロス)ってどっから出て来てるんだろう。

 本来ならそんな物騒なものってそれこそ黄金聖闘士の方々が殲滅していそうな気がするんだけど。

 …後から調べてみよう。

 まあそれは後においといて、今回の資料では、聖域にとっては経費の削減、暗黒聖闘士のみなさんにとっては自由と自分で金銭を稼ぐ機会を提供する形に持っていこうとしてる訳です。

 今、デスクイーン島には30人の身体能力のとっても高い働き盛りの10代の少年たちが、何をするでなくうだうだと生活し、時にそのストレスを暴力という形で発散しようとして聖域の聖闘士に抹殺される、というサイクルが出来ている訳です。

 それはあまりにも惨いし、同時にもったいない事でもあります。

 ギリシャの社会にとっては大きな損失になる訳です。

 彼らが更生して、ギリシャの社会の中で働くとしたら、かなりのプラスになると思うんですよ。

 そこで暗黒聖闘士の中であとから入って来る不良聖闘士候補を監督教育する機構を作って、監督機関の働きいかんではデスクイーン島からの出島を認めるようにするのはどうか、というのが僕の提案。

 根性の曲がったのは絶対に直らない、という考えもありますが、同時に人はいつでも変わることが可能であるとも思いますし。

 今まで目指す事の出来なかった戦士以外の目標や、そもそも他の職種への選択があるという事自体を知らない人たちが多いんですよ、あそこには。

 なので今まで知らなかった「職業選択の自由」の為の下準備である基礎教育とか常識といった部分を何とかする為にうちの団体がある、と。

 聖域側には「不逞の輩すら慈悲を掛け、真人間に更生させる」事による対外的な権威の強化が可能でしょうし(生臭い話ですが)、単純な話30人分の生活費、そこまで物資を運ぶ船の運営費用、ギルティーさんの様な聖闘士ではないものの優秀な人材の派遣と今の聖域の負担となっている部分、これを段階的に削減するというメリット。

 もちろん、裏側に回れば聖域として出来ないちょっと汚い仕事を暗黒聖闘士たちにやらせていたのかもしれませんが、彼らってとっても力の強いゴロツキ以上の存在じゃない。

 汚れ仕事はプロがしないと面倒な事になる事も多いですからね、多分そういった人材はすでにギガースさんあたりは抱えてるでしょうから、ほんとにそう言う人たちの露払い以上のものにはならないはずです。

 そこいら辺を上手く隠しながら、僕はギガースさんと交渉していくのでした。

 

 うん、かなり満足のいく内容でしたね。

 次回の話し合いの時も、ギガースさんと交渉する事にしました。

 やっぱり聖域は武辺の気質があるようで、ギガースさんの様な事務方は必要以上に肩肘を張らないといけないみたいです。

 なので、今回の件はギガースさん側からの提案で僕が作成した、という事にしました。

 …なんか泣いて喜んでたけど大丈夫かしらん。

 

 さて、あれから数度の話し合いが持たれました。

 ギガースさんたち聖域の事務方と十分な話し合いを持つことが出来たので双方かなり満足できるものに仕上がったかと。

 聖域から監視員(事務系の人だそうです)が付く代わり、暗黒聖闘士さん側にはかなりの自治が認められました。

 更生が認められた人は社会に復帰するなり、うちの団体に所属してもらって不良戦士の人たちの攻勢に尽力してもらうなりして頂くという形で話がまとまりました。

 …ただね。

「いやあ、ありがとうブンブク。

 貴様のおかげで長年の懸案が解決しそうだわい。

 これからも頼むぞ、『茶釜暗黒聖闘士団』代表殿」

 そう、団体名が満場一致で「茶釜暗黒聖闘士団(ちゃがまブラックセイントだん)」になってしもうたんですよ。

 エンブレムも茶釜をピクトグラムにした感じの我が家の家紋そのまんま、という代物で。

 良いのか、それで。

 とんでもない事に、暗黒聖闘士のみなさんのみならず一輝くんやエスメラルダちゃん、ギルティーさんまでがそれに賛成ってどうよ!?

 当座残る君たちの所属団体の名前とエンブレムですよ! いいの!?

「なにも問題なかろう」

 代表して一輝くんがそう言います。

 ええ~…。

 

 それから何度か話し合いを続け、本格的に「茶釜暗黒聖闘士団」の活動が始まりました。

 暗黒聖闘士のみんなの社会復帰のための一般教養とある程度の学力の習得、その為の教師役は僕(及びその影分身)とギルティーさんです。

 ギルティーさんは何とか起きられる位に回復しまして(やっぱり聖闘士って超人だね)、だからと言って、リハビリがてらに修行するのはまだ無理な状態です。

 なので、暗黒聖闘士さんたちの教員役をお願いしたんですね。

 そしたらまあ優秀だこと。

 もともと「教える」事を得手としていたのでしょう、知識も十二分にありました。

 意外です。

 聖域って武辺の思考回路で動いてるのかと思ってましたんで、一般教養や学問に関しては軽視されてると思っていたんですが。

 話を聞いてみると、ここ10年位でそうなってるんだそうです。

 …そろそろ、大きな何かが起きるのかもしれませんね。

 そのサイズの災厄とか、戦乱とか言うのは読み切れない場合もあるんですけど、やはり「神」がおわす場合はまた違うのかもしれません。

 聖域との話し合いもどんどんと進んでいきます。

 実際に事業を動かしてみると、どうしても計画通りにいく事は少ないです。

 最大のスポンサーである聖域とはしっかり話し合って、齟齬などがないようにしないといけません。

 おかげで聖域の聖闘士の方とか、事務方のみなさんとか、かなり知り合いになりましたよ。

 黄金聖闘士の方々はシャカさんとアルデバランさんが間に入ってくださったおかげで聖域に居らっしゃる方々とは面通しが出来ました。

 牡羊座(アリエス)のムウさん、天秤座(ライブラ)の通称老師さま、水瓶座(アクエリアス)のカミュさんはご都合があって今は聖域に居らっしゃらないとの事。

 また、双子座(ジェミニ)の黄金聖闘士の方、射手座(サジタリアス)の黄金聖闘士の方は今いらっしゃらないのだそうです。

 まあ、聖衣が身に付けるものを選ぶのであれば、88人の聖闘士が全員そろうのが珍しいんでしょうね。

 …そろそろ何かあるかな、と思ったのは間違いだったかな?

 大きな騒乱が起きるのであれば黄金聖闘士は全員そろってるかと思ったんだけど。

 で、ギガースさんからは彼の腹心を紹介してもらった。

「聖域の参謀、パエトンだ。

 なんだ、ただの小僧ではないですか、ギガースさま」

 そりゃただの小僧ですからして。

「あ、どうもよろしくお願いいたします、『茶釜暗黒聖闘士団』代表の茶釜ブンブクです」

「ふん、まあ脳筋どもよりは礼儀を知っているようだ」

 そう言いながら僕たちは握手をしました。

 …へえ。

 パエトンさんも表情が変わります。

 どうやら僕の実力を買ってくれたようです。

 僕も驚きました。

 パエトンさん、結構どころじゃない腕前です。

「ちょっと驚きました。

 事務方にこれだけの使い手がいるなんて…」

 ギガースさんはちょっとした悪戯が成功したような笑みを浮かべています。

 青銅どころか、白銀聖闘士に匹敵する腕前ですよこの人。

 なるほど、この人がギガースさんの後釜、という事なんですね。

 多分聖闘士の訓練所かどこからか引き抜いて来たんでしょう。

 教皇さまの側近ともなれば、聖域内において黄金聖闘士にも匹敵する権威を持つ事も出来るでしょうし、背闘士として聖衣に選ばれないのであればそれも1つの道ですしね。

 そうなると、事務方のトップに現場の事も分かる人が入る事になる訳ですね。

 …きっとギガースさん今まで苦労して来たんだろうなあ。

 確か教皇さまも元々黄金聖闘士だったとか聞いたし。

 聖域は武辺の気質が強い。

 それは裏を返せば文官を軽視する風潮にも結び付きます。

 それを打開するにはある程度文武に秀でた人を上に据える事も1つの手なのですよ。

 ギガースさんの苦労が目に浮かぶようだ。

 僕とギガースさんはうんうんとうなずき、パエトンさんはポカンとする光景が、そこでは繰り広げられたのでした。

 

 

 

 僕たちの事業が軌道に乗って暫くして。

 激動の時代が幕を開けました。

 僕らにとってのきっかけは、何処からか一輝くんの出征の秘密が彼の耳に届いた事でした。

 彼ら100人の孤児を背闘士の修行に送りだしたグラード財団。

 そこの前会長であった城戸光政、彼こそが一輝くんたち100人全員の父親だという事。

 さすがに呆れましたね。

 100人って。

 よくもまあ、とか思いましたけど、どうやら人工授精のよう。

 それはともかく一輝くん激怒しまして、暫く落ち着かなかったようです。

 そりゃそうですよね、親の一存で地獄に叩き落とされた様なもんですから。

 さらに、青銅聖闘士同士の戦いを興行的に見せる「銀河戦争(ギャラクシアンウォーズ)」とやらに一輝くんの弟達も参戦する、という事態になり、聖域も一気に緊張、というか大激怒しました。

 あれ、おかしいな?

 てっきりグラード財団って聖域の下部組織だと思ってたんだけど。

 これに関しては特に「獅子座(レオ)のアイオリア」さんが大激怒、自分の守る獅子宮を半壊させてしまったとか。

 というのも、個の銀河戦争とか言うイベント、その景品が「黄金聖衣」。

 さすがにふざけるな、でしょ、聖域としては。

 一体その意図がどこにあるんだか見当がつかないですよ、僕は。

 …しかし分からない。

 いくら「下手な鉄砲も数撃ちゃ当たる」といっても聖衣は88しかないんですよね。

 それで、そのイベントに参加する青銅聖闘士が、一角獣星座(ユニコーン)子獅子星座(ライオネット)狼星座(ウルフ)大熊星座(ベアー)海蛇星座(ヒドラ)

 他に、…は!?

 確か龍星座(ドラゴン)紫龍って中国にいる黄金聖闘士の老師さまのお弟子だったはず。

 こっちは白銀聖闘士の魔鈴さんの弟子でちょっと前まで聖域にいた天馬星座(ペガサス)の星矢くんじゃなかったかなあ!?

 潜入工作するっていう白鳥星座(キグナス)の氷河くんは暫く前に帰って来られた黄金聖闘士・水瓶座(アクエリアス)のカミュさんのお弟子なはずだけど彼もそうなの!?

 そして一輝くんが最も動揺しているのが、

「瞬…」

 アンドロメダ星座(アンドロメダ)の瞬くん、一輝くんの血を分けた弟だ。

 総勢10人。

 88人の内10人が木戸光政さんの子ども。

 …なんだこの確率。

 いくらなんでも異常だろう!?

 それとも何かあるのか!?

 一輝くん、行く気になってる様子だし、調べておいた方が良いかもしれない。

 この後すぐ、ギガースさんから一輝くんに聖域の青銅聖闘士として「銀河戦争」の調査、及び黄金聖衣の奪還の指令が下った。

 まあ、僕は裏から手を回して、暗黒聖闘士の皆を島外で活動させる為の許可を貰ってたんだけどね。

 

 この後、僕はめちゃくちゃ働いたと思う。

 銀河戦争に乱入した一輝くんと、影武者の暗黒鳳凰座(ブラックフェニックス)の子たちを支援し、瞬くん達に伸された彼らを回収して封印術の巻物に収容した。

 黄金聖衣のパーツの写真を撮って聖域に送り、偽者なのは分かったんだけど、問題は箱の方だった。

 パンドラボックスと呼ばれる聖衣のしまわれる箱の方が本物であったようなのだ。

 という事は本物の聖衣はどこかにあるという事で、僕はグラード財団の現当主、城戸沙織さんの居宅を操作する羽目になった。

 ばれそうになった事はそうそうなかったけど、やっぱり星矢くんたち聖闘士の目を誤魔化しつつの調査はなかなか難物だった。

 意外な事に、城戸邸の執事をしている禿頭の男性、意外に勘が良い。

 多分ネズミか何かと間違えていたんだろうけど、そういった小動物を見つけるのが得意なんだろうな、結構危険な事もあったよ。

 とは言え、それらしいものは見つけることが出来ず、撤収する羽目になったんだけどね。

 その後はもう激動で。

 星矢くんたちの実力を見る為とグラード財団の目論見を見切る為に一輝くんが暗黒聖闘士四天王(ブラックドラゴンは2人で1組)を連れていったんだけど、途中でトラブル発生。

 途中で乱入して来た白銀聖闘士の人たちと情報が行きあってなかったらしく、5人が白銀聖闘士に打ち倒されてしまったのだ。

 大急ぎで回収をしようとしたんだけど、近くに桁外れに強い人がいて、多分黄金聖闘士かそれに準ずるくらいの人だ、その人の目を掠めて動いたもんだから5人の回収が遅れて結構大ごとになった。

 いや、治療が大変でね、聖域のミスでもあるから向こうの権威を最大限利用させてもらい、更には僕の医療忍術を使って何とか命を取り留めた。

 こう言うのは勘弁してもらいたい、と、ギガースさんに文句を言いに行こうと思っていた所、最後の大混乱がこちらを襲った。

 青銅聖闘士の4人+一輝くんが聖域を襲撃、教皇を断罪したんだとか。

 どうやら教皇は数年前から別人にすり替わっていたんだそうで、当然アテナも聖域にいなかった。

 …なるほど、それが城戸光政の持っていた根拠か。

 どうやら城戸さんの元にアテナは居たらしい。

 そうか、あのお嬢さん、城戸沙織さんが今代のアテナさまな訳だな。

 彼女を守るために黄金聖衣(どうやら射手座(サジタリウス)の聖衣だったらしい)も箱から出て彼女の傍に会ったのだろう、多分形を変えて。

 やれやれ、今後の聖域との付き合い方をどうするかなあ、最悪僕はここを出ていく羽目になるだろうし。

 とはいえ、一輝くんは今回アテナさま側についてるからね、うちがどうにかなる事はないでしょう。

 

 さて、今聖域は未曽有の人材不足です。

 こう言う時こそうちの出番な訳ですが…。

「一輝くん、アテナさまに口きいてくれ」

「な、何を言ってる!?」

 まあそうなるよねえ。

 とは言え、今の聖域って官僚機構がぐっちゃぐちゃでしょ?

 元々まとめてた、えっとサガさん? だっけ、教皇さまに化けてたの、その人がいなくなってんでしょ。

 で、その側近だったギガースさんとか、その下にいたパエトンさんなんかにも連絡付かないし、そうなると指令系統が滅茶苦茶になってるんだろうし。

「…そうだな」

 で、そこで僕たちですよ!

 うちの人たちの中には僕の技術を学んで情報収集とか官僚的な仕事の出来る人達もいるし、聖域の枷が緩んだ関係で不良不逞の輩も出てくるだろうから、それを取り締まる戦力も必要だと思うんだよね。

 で、そこの交渉が出来る人が今だとアテナさまだけだと思われるんで。

「…ふむ、今の聖域を支えているのは『牡羊座(アリエス)のムウ』だ。

 彼になら話を通せるかもしれん」

 なるほど。

 じゃあお願いしますね。

「…ここの所、事業の方はまかせっきりだからな、それくらいはするさ、首領としては、な」

 やっぱり真面目ですね。

 集団の長に向いてると思いますよ、一輝くん。

「ふん」

 

 さて、ちょっと久しぶりの聖域ですね。

 紹介状は持ったし、何とかなると良いなあ、と思いつつ。

「止まれい!」

 ああ、やっぱり偽教皇派だと思われていますか。

 警備の兵隊さんに槍を突きつけられました。

「ああっと、ここに鳳凰座の一輝様からの紹介状がありまして…」

「黙れい! 不審者をここから通す訳にはいかあん!」

 ありゃ、アテナさまがお戻りになられたってんで気張りすぎてるんだな、これ。

 それに、結局の所、青銅聖闘士の子たちを通しちゃったわけだしね、警備の人たちの精神的圧力はかなりのもんだったでしょうしね。

 さて、ここは腰を据えて話さないと駄目かなあ、何ぞと考えていると。

「なんだ騒がしい…、む、茶釜ブンブクか、どうした?」

 大柄な影が、と思ったら、アルデバランさんです。

 見知った顔が出てきたので内心ホッとして、事の次第を話すと、

「なるほど、確かに今聖域(ここ)は人が足らん、兵士はともかく事務処理を行える上位の官吏が大分抜けてしまったからな」

 そうアルデバランさんは言いました。

 下位の事務官なんかはここの状況を知らなかったのだろうけど、上位の官吏は知らないはずもなく、偽教皇さまの周囲には癖のある人たちがぞろぞろと居たとの事。

 それを一掃したら、聖域が全然回らなくなったもんで黄金聖闘士の方の内、ムウさんが上級官吏の役回りを一手に引き受けて仕事なさってるんだそうです。

 やっぱり黄金聖闘士はハイスペックだねえ。

 で、うちとの業務をどうするかっていう話し合いをしようと思ったんだけど、

「さすがのムウでもそこまでの余裕はないだろうなあ…」

 あ、やっぱりそうですか。

 そうだと思ったんで!

「ん? なんだこの資料は?」

 僕は纏めておいた資料を2冊アルデバランさんに渡し、1冊をムウさんに渡してほしいとお願いしました。

 

 暫くして、というか10分もしない内にムウさんの居る聖域第1の関門、白羊宮にお呼ばれしました。

 目の前にいるのはこれまた見目麗しい男性。

 顔立ちなんかはモンゴロイド系なんだけど、それにしては色が白め。

 この人が、

「私が牡羊座のムウです。

 早速ですがこの資料について…」

 どうやらムウさんでも余裕はないらしい。

 かなりの並列処理をしているようにも見えるし、さっきから書類にサインをするのが止まっていない。

 時折額に指を当ててるのはテレパシーって奴でしょうか。

 周りを文字通り飛び回っているのはお弟子さんだろうか、少年がわたわたしながら書類を持って来ている。

 僕たちは話し合いに入った。

 

 今回の僕の提案は現在反逆罪に問われ投獄されている上級官吏の釈放と再雇用だ。

 通常の会社や組織と違い、暫く前までの聖域は圧倒的な力(物理)を持つ偽教皇(サガさんと言う)による恐怖政治に支配されていた。

 なんでもサガさんは裏切りや翻意をテレパシーで察知、(自ら)処分していたとの事。

 …なんて言うか、世の暗部の長が歯噛みしながら羨む能力ですな。

 ダンゾウさまとか。

 ま、それはともかく、その状況では武力を持たない文官ではどうしようもないでしょうに。

 確かに、サガさんが出世欲を煽ってそう言った人材を集めたのは間違いない。

 でも、それだけに「欲はあれども使える人材」ってのがある程度集まってるんだよね、聖域の高官て。

 だから、きちんと監視を付けるなら十分な仕事をしてくれるはずである。

 …というのが僕の論。

 実際、ギガースさんとパエトンさんは十分に官僚としては使える人だったので、

「使える人は使うべき」という風に僕はムウさんを説得したんです。

 さすがにムウさんは渋ってましたね。

「この正義を報じるべき聖域に、そのような邪な者達を跋扈(ばっこ)させるなど…」とかなんとか。

 とは言えマンパワーが足りないのは間違いなく、このままでは聖域がうまく回らない為に実働部隊である聖闘士たちの支援が出来ないということにもなりかねない。

 実際、ムウさんは実働部隊のトップにいるはずなのに、事務方のトップも兼任している。

 これは不味いだろう。

 ムウさんが前線に立った時、状況を把握して全体に指示を出すものがいないのは致命的だ。

 そう言う点でギガースさんは最適とも言える。

 言っちゃ悪いけど、ギガースさんは上昇志向がある割にはその行動は小者だ。

 仕事は出来るけど、裏工作に関してはその欲のために穴が必ずできる。

 ムウさんが信頼できるレベルの人間であればギガースさんのおいた程度なら簡単に見破れるだろう。

 …なにせ誰も来ないようなシベリアの雪原に、教皇さんを讃えるモニュメントを作って関心を引こうとか考える人だし。

 切羽詰まると周りが見えなくなって失敗するタイプだからして、普段の事務一般を任せている限りは問題なく優秀なんだよね、あの人。

 パエトンさんも同じタイプだから、条件付けて出所させれば必死になって働くかと。

「…背に腹は代えられません、か。

 良いでしょう、あなたの案を飲みましょう」

 よろしくお願いします。

 

 ギガースさんとパエトンさん及び上級の官吏の人たちが復帰して、聖域は一気に元通りの働きが出来るようになりました。

 時々昔みたいに威張り散らそうとして黄金聖闘士の人たちに思いっきり睨まれているようですが。

 しかし、聖域の空気が緊張感を持ちつつも気分を落ち着けてくれるいい感じになってます。

 これが主であるアテナさまがいる為の効果なんですかね。

 今までと違う、まるで「活き返った」様にも感じます。

 僕たちの事業もうまく回るようになりました。

 今回の事で、怪我をして兵士として働けなくなった人たちへの支援も始めています。

 その事で一輝くんはアテナさま直々におほめの言葉を頂いたそうで、それもまた僕らの誉れですね。

 デスクイーン島はだんだんと活気が増してきました。

 活火山を観光資源として使う事がやっと政府から認められまして。

 こちらには炎や熱に強い暗黒鳳凰座の子たちや暗黒白鳥星座の子たちが居ますんで、必要な時には迅速に避難救助が可能です。

 また、簡易ではありますが地熱発電所と風力発電所を作りまして、そこから電力を供給できるようになったもんですから島のエネルギー問題の解決にもなりました。

 暗黒聖闘士たちの人力で基礎部分を作ったもんですからお金がかなり安上がりに作れたんですよ。

 資金の援助を頂いたギガースさんたちにはほんと感謝です。

 デスクイーン島はいい感じで発展しています。

 

 最近する事が大分少なくなりました。

 事務については暗黒四天王の彼らがかなりできるようになったものですから、権限を譲渡し、運営は実質暗黒聖闘士の皆でやってもらっています。

 ギルティーさんは大分傷が良くなって、リハビリがてらに暗黒聖闘士の皆と組手をしています。

 音速の拳の応酬とかリハビリとはとても思えませんが。

 時々青銅聖闘士のみなさんも遊びに来ますね。

 この前、エスメラルダちゃんと瞬くんが鉢合わせしまして、いやあ楽しかったですね。

 ってか、瞬くんホントに男の子なのかしらん。

 2人で話してると双子の女の子にしか見えん。

 あ、エスメラルダちゃんは正式に茶釜暗黒聖闘士団の事務員に就職しました。

 前の引き取り手の人にちょっと奮発したら快く認めてくれまして。

 未成年なのは都合が悪いのでギルティーさんの養子という事で書類を整理しました。

 ギルティーさん、御父さん呼ばわりに動揺してらっしゃいましたけどね。

 

 さて、今日は僕1人で行動です。

 今までこのデスクイーン島を調査して驚くべきことが分かっています。

 暗黒聖闘士(ブラックセイント)聖衣(クロス)ですが、どうやらこの島に聖闘士崩れの子が来る度に、その子の近くにパンドラボックスが現れるんだとか。

 そして彼が死亡したりすると消えてなくなる、そう言う異様な代物でした。

 しかも、聖域の聖衣と違って何と互換性あり。

 暗黒仔馬座の聖衣を身に付けているものが友人の暗黒鳳凰座の聖衣を身に付ける事も出来るんですよ。

 明らかに本来の聖衣と性質が違います。

 後ですね、聖衣によって強さが変化しません。

 本来の序列でいえば、青銅、白銀、黄金の順に強くなっていく訳ですが、暗黒聖衣に関しては基本的に強さが一緒です。

 なので、暗黒聖衣に関しては白銀、青銅ともに挌としては一緒の様です、さすがに黄道十二宮の聖衣は見てないので何とも言えませんが。

 それがどこから来てるのか、を調べる為に火口付近を探索するのですよ。

 

 僕は火口付近を見て回りながら考えます。

 この世界には神様が居られるようです。

 アテナさまはいわゆる「ギリシャ神話の神」である訳ですね。

 で、神話に関して聖域の人たちから話を聞くと、結構厄介なことが分かります。

 いわゆる主神級の神さまとアテナさまは地上の支配権を掛けて何100年に1回大戦争をやらかすらしい。

 その為の戦力が聖闘士、という訳。

 で、これに負けて支配神が変わると人の生活もガラッと変わる羽目になる様子。

 今の世の、ある程度欲望を肯定した世界を維持するにはアテナさまに勝ってもらわないといかん、と。

 僕の調べた限り、他の神さまだと神様としての力をガンガンに振るう方々のようで、それやると最終的に人の種って絶えそうなんですよね。

 完全管理された生物の脆弱性ってのは歴史が証明してるしね。

 人に限らず、生物は多様性を求める。

 誘導によって一方向を向かせたとしても、必ず別方向を望む個体が現れるようになってるんです。

 有名でしょ? 2:6:2の法則って。

 

「2:6:2の割合で、よく働く蟻・普通の蟻・働かない蟻が集団にはいる。

 よく働く蟻だけの集団を何度作っても、時間がたつと自然に2:6:2の比率で蟻は仕事を分担するようになる」

 

 これを神は理解できないようなのだ。

 燕雀(えんじゃく)(いずく)んぞ鴻鵠(こうこく)(こころざし)を知らんや。

 志の高い人の事を低い人は理解できないであろう、というような(ことわざ)ですが、逆も然り。

 浮世離れして理想ばかり高い人に、地を這いその日を精いっぱい生きる人の苦労は分からない事もあるでしょう。

 文字通り神の視点を持つ「神」は「人」を理解できないかもしれない。

 だからこそ、アテナは「人」に産まれ、人として育ち、そして聖域で神となるのかもしれません。

 人を理解する為に。

 さて、大戦争をするといっても、神様同士で殴り合おうものなら地上は消し飛びますね。

 だからこそ、神の代理人として聖闘士が居るんでしょうが。

 ならば、他の神の代理人は? と考えるとやっぱりいるそうです。

 海神ポセイドンさまには海闘士(マリーナ)、冥界神ハーデスさまには冥闘士(スペクター)、戦乱の神マルスさまには火星士(マーシャン)という方々が居るんだとか。

 んじゃ暗黒聖闘士って何ぞや、って事になるじゃないですか。

 誰に使えているのやら、分からない超人たち。

 そのルーツを探る! なんて感じでワクワクしますね。

 それにこの島、デスクイーン島という名前。

 これもなんか暗示的なんですよ。

 死の(デス)女王(クイーン)の島。

 調べてみるとそう呼ばれそうな女神様が存在する事が分かりました。

 冥界の神、ハーデスさまの連れ合いである女神さまですね。

 ハーデスさまが閻魔様みたいな方であるのに対して、女神さまは慈悲を持って罪人を救済する、お地蔵様みたいな方のようです。

 …気が付くと、僕は漆黒の闇の中、洞窟の様な所にいるようでした。

 真っ暗なはずなのに、そこが洞窟であることが分かる、そんな奇妙な感覚。

 闇の奥、そこには小さいながらも清潔に整理された祭壇の様なものがあります。

 周囲に人の手が入ってるとは思えないのですが。

 ふらりと近付いてみると、ギリシャ文字、いや、もっと古い文字の様です。

 聖闘士たちの聖衣に刻んであった文字のよう。

 僕には読めませんが、いや、この文字は確か…。

 僕がその言葉を発した時、闇の中にとてつもなく大きな存在感のある何かが生まれ、いや、そこにありました。

 それは僕の方に意識を向け…。

 

 

 

 僕はふっと眼をさましました。

 午後の縁側、座布団の上でうつらうつらとお昼寝中でした。

 いつもの柿の木の見える我が家の風景。

 ふと目をやるとおっかあがフクちゃんと遊んでいます。

 おや、おっとうが帰ってきたみたいです。

 僕はぼん! という音と共に人型に戻ると、おっとうの荷物を受け取るべく玄関に急ぐのでした。

 

 多分、僕はまたあの世界に行くことがあるのだろう、そう思いながら。


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