NARUTO 狐狸忍法帖   作:黒羆屋

25 / 121
第22話

 ども、茶釜ブンブクです。

 今日は病院に来ています。

 猿飛ヒルゼンさまから呼ばれまして、僕、というか文福狸さんの方がなんですけどね。

 そう言う訳で、学校が終わってからヒルゼンさまと話しこみ、やっと解放されたのですよ。

 で、ロック・リーさんをお見舞いして、これからうちはサスケさんのお見舞いに行くところなのです。

 リーさんはあまりむちゃをしないでいたのが良かったのか、複雑骨折をした手足の癒着も順調で、もうしばらくしたらリハビリ専門の所に転院するのだそうです。

 ちょっとホッとしました。

 サスケさんの場合、身体の方でなく、精神の方に大きな負担を受けているのだそうで(心的外傷、というそうです)、一見大丈夫に見えても実はものすごい大変な状態、という事もあるのだそうで、未だ退院のめどがつかないのだそうです。

 そのため、ちょっといら立ちを抱えているようなのです。

 春野サクラ姉ちゃんのおかげでだいぶ落ち着いているようだ、と医療忍者の先生はおっしゃってました。

 これはサクラ姉ちゃんいのさん達より一歩リードかな。

 いのさん、リーさんほんとに申し訳ない。

 僕はこれ以上恋のさや当てに関わりたくありません。

 

 さて、サスケさんの所に行くと、

「あら、ブンブク」

 サクラ姉ちゃんが出てくるところでした。

 今日はもう帰るのかな?

「うん、これからカカシ先生のとこに行くの」

 呼ばれたんですか。

「それもあるけどね…」

 あれ? なんか落ち込み気味?

「どうかしたんですか?」

「結局私って何の役にも立ってないなあって…」

 そんな事無いと思いますけどね。

「今のサスケさんは早く強くなりたいって思いがあって、なかなか退院できない事に苦しんでると思うんですよ。

 サクラ姉ちゃんはいま、サスケさんの支えになってるでしょ?

 だから…」

「ううん、そうじゃなくって」

 あれ、間違ったかな?

「ねえブンブク、ちょっと付き合ってくれない?」

 

 僕たちは病院のラウンジにいた。

 丁度人もいなくてお話をするにはいい感じだ。

 サクラ姉ちゃんが話し始めた。

「私はさ、忍なんだ。

 サスケ君の隣にいるだけじゃなくて、ナルトに守られてるだけじゃなくて、強くなんなきゃいけないの。

 でないとサスケ君の足を引っ張るだけになっちゃう。

 

 ほんとはずっと悩んでた。

 私がサスケ君とおんなじ班で良いのかなって。

 もっと強い人と組めば、サスケ君はもっと活躍できるのにって。

 ナルトもそう。

 ()()事件の時、私はなんにも出来なかった。

 サスケ君にかばってもらって、ナルトに助けてもらって。

 サスケ君といればいるほど、自分がサスケ君の隣にいて良いのかなって、悩んじゃって。

 どうしたらいいのか分かんないんだ…」

 サクラ姉ちゃんは男の忍に比べて身体能力的に特に優れている、という訳じゃないんだろう。

 かといっていのさんみたいに自分にしかできない特殊な力を持っているわけでもない。

 自分だけの武器がないってことかな。

 うちみたいに茶釜に化けられる、とかだとどうにもこうにも。

 それはさておき。

「それで、さっきカカシ先生に呼ばれてさ、もし『忍をやめろ』なんて言われたらどうしようか、とか考えちゃってさ…」

 さらにそこで不安要素が一気に増えた、と。

 この場合、どうすべきかなあ…。

「まず、カカシ上忍からいきなり忍をやめろ、といわれることはないと思いますよ。

 話を聞く限りじゃあサクラ姉ちゃんは何か致命的な失敗をした訳じゃないですし。

 うずまき兄ちゃんからも簡単にだけど聞いてますけどね、そもそもサクラ姉ちゃん実戦を経験してるんですよね?」

 さすがに任務の詳しい話は守秘義務に引っ掛かるので聞けないのですが。

 しばらく前に受けた任務でサスケさんが結構な怪我をしていたから、そこいら兄ちゃんにそれとなく聞いてみて、推測したんですけどね。

「まあ、そうね」

「それで潰れてないんだし、それだけで下忍としてはかなり使えると思われてるはずですよ」

「? どういうこと?」

「つまりですね…」

 忍として実戦を経験した。

 つまり殺しあいに参加したってことでしょうに。

 多分だけど木の葉隠れの里の忍として、実戦に参加し、人の生き死ににかかわる、これが忍としての分水嶺だと思う。

 今後、忍として、特に中忍以上になってCランク以上の仕事を請け負うならばどうしても死の恐怖が付きまとう。

 それに耐えきれた者のみが本来の忍としての忍務をこなしていく事になるのだろう。

 ここでその恐怖から逃げてしまったもの、というか逃げるのが大半だろう、そういった者は下忍として一生を送り、危険のない人生を歩むべきなのだ。

 ってか、そんなんに耐える事が出来る人の方がレアです。

 耐えきれずに壊れてしまう事すらあるのに。

 有名な血霧の里の忍なんて一時期そんなんばっかだったらしいですから。

 であるので、少なくともサクラ姉ちゃんは実戦を経験し、そして心が壊れたりしていない訳で、それは忍としてやっていくことが出来るという証だと思うのです。

「って感じなんですよ、僕が考えるに。

 で、今って下忍としての育成期間なわけで。

 いきなりカカシ上忍が実戦経験を積んだ忍に戦力外通告をすることはない、と考えます」

 僕の考えはこんなとこ。

 後はサクラ姉ちゃんがどう考えるか、だけど。

「…うん。

 なんかあんたにはいっつも励まされてばっかりね。

 いよっし!

 なんか気合入ってきたーッ!

 しゃーんなろー!」

 姉ちゃん、ちょっと落ちつこうか、ここ病院の中。

 僕はサクラ姉ちゃんをなだめるのでした。

 

「あーもうっ!

 恥ずかしかったぁ!」

 そりゃそうでしょ。

 テンションの上がった後、サクラ姉ちゃんは上がり切った後のダウナー状態でテーブルに突っ伏している。

 ありゃま、どうしたもんだかなあ。

「姉ちゃん、そろそろ行かないと、カカシ上忍待たせちゃうよ?」

「良いのよ、カカシ先生大体1時間は確実に遅刻してくるから」

 …それは社会人としてはどうなんだろう。

 忍は社会人ではないとかいうんだろうか。

「ああもうだめかも…」

 あれえ? さっき立ち直ったと思ったんだけどなあ…。

 どうしたもんだろうか。

「ねえ、私さあ、お願いがあるんだけど…」

 まあ、僕にできる事なら。

「いいですけど?」

 僕はそう言った事を後悔した。

 顔をかげた姉ちゃんは、何か目がキラキラ、というかギラギラしてるんですけど!?

「ねえブンブク?」

 姉ちゃんのそのエガヲは何か恐ろしいものを含んでいた。

 危険! 危険! DANGER!! WARNING!!

 撤退勧告が発令されました! 当方は速やかに避難…

 ぐわしっ!

 両肩を姉ちゃんに掴まれました。しかし回り込まれてしまった! です…。

「…何でしょうかLADY」

 もう僕にはできる事はなかったのです…。

 

 この世の地獄とはこのことか…。

 小動物をモフる天国はあれども、自分がモフられる羽目になるとわ…。

 現在、僕は準省エネモード、通称文福茶釜モードで姉ちゃん及び看護師のお姉さま方にモフられております。

 僕、なでられまくり。

 そろそろ苦痛になってきた。

 これでも僕は男の子ですからね、カワイイもの扱いは正直言ってきついんですよ。

 なので、姉ちゃんの手を逃げ出し、

 ぼふん!

 変化を解きます。

 まわりから残念無念のため息が聞こえてきますが無視です。

 後は遁走するだけです。

「姉ちゃん、サスケさんにも言ったけどさ、『敵を知り、己を知らば百戦危うからず』だよ。

 敵はともかく、自分の弱い所、強い所を姉ちゃんはまだ分かってないんだと思う。

 だからさ、カカシ上忍に聞いてみるといいと思うよ。

 そっから自分だけの武器が見つかると思う。

 んじゃねー」

 そう言って僕はサスケさんの病室に逃げ込んだのである。

 

「しっつれいしまーす」

 そうサスケさんの病室に入ると、

「来たのか、年齢詐称」

 いきなりジャブですか。

 不機嫌そうな顔を隠しもしないサスケさん。

 いろんな女の子に告白されているリア充のくせに、何がそんなに不満なのやら。

 まあ大体予想はついてるわけですが。

 僕に八つ当たりはやめていただきたい。

 さっきまで精神攻撃を散々受けてきたのであんまし余裕がないのですよ。

「で、やっぱりまだ退院は先?」

「そうみたいだ。

 なんでも医療忍者の第一人者が戻ってくるらしい。

 そいつの見立て次第で退院させるってことだ」

 なるほどね。

 あ、それってもしかしてあの「千手綱手」さまの事かしらん。

 伝説の三忍のお1人で「病払いの蛞蝓綱手姫」って言われるほどの医療忍者だったはず。

 ってことは、うずまき兄ちゃんも戻ってくるかも。

 ちょっと楽しみです。

「でもまあ、そろそろ退院のめどがついたんですね、良かったです」

 でもサスケさんは不満そうだ。

 まあ、実際寝てばかりで体力も落ちてるだろうし、リハビリとか真面目に受けないからなあ。

 どうもサスケさんは天才肌のせいか、精神的に余裕がなくなると視界が狭くなりがちに思える。

 あんまり窮地に立った事がないせいだろうか。

 そのため、視野狭窄気味の今、リハビリとか地味だけど効果的な作業を簡単に見切ってしまって疎かにする傾向がある。

 たしかに、サスケさんくらいの才能と身体能力があれば、結構簡単に体力とかは戻るかもしれないんだけど、急がば回れ、という言葉もあるし、リハビリをしておけば、その後比較的簡単に特訓に入れると思うんだけど。

「こんなところで足踏みをしてる暇はないってのに…!」

 焦りだけが募ってるんですね。

 このあたりでちょっと気分を変えないと。

「そう言えば、前に渡したノート、どうなってます?」

「ああ、あれか…」

 サスケさんは枕の下に敷いていたノートを取り出した。

「使わせてもらってる。

 だいぶ考えはまとまってきたな…」

 それは良かった。

「ただな、相手の戦術を考えた場合、どうしてもひっくり返せない部分がある」

 どうやらサスケさんはしっかりと相手の事を思い出して戦術を練っていたようです。

「…どんなところか、聞いても良いですか?」

 サスケさんは少し考えてから、

「そうだな、お前には話しても良いか。

 ただし、サクラには言うなよ」

 了解です。

 んで?

「相手は瞳術で幻術を使う。

 多分この里にいるどの幻術使いよりも強力だ。

 そしてその幻術は五感すべてに及ぶ。

 これを破らずして奴には勝てない…が、その方法がオレにはない…」

 なるほどねえ、解析に解析を重ねて形にしたはいいけれど、一点のみどうにもならない部分がある、と。

「…カカシ上忍とかは?」

「あてにならない」

 一瞬目が泳いでました。

 これはつまり、あてにしてはならない、もしくはあてにしても答えてくれない、かな?

 どうやら少なくともカカシ上忍は相手の事を知っている様子。

 相手が危険すぎるから戦わせたくないのか、何らかの事情があるからなのか。

 しっかし瞳術かあ。

 目を合わせないで戦う方法もあるんだろうが、かなりの高等テクニックの上、忍の場合、その技術を騙くらかすテクニックもあるだろうしなあ。

 相手が格上で、その上強力な瞳術かあ。

 複数人で戦うなら目を塞いでいても戦う方法もあるだろうに。

 それこそ猪鹿蝶の3人ならそういう連携も出来るだろう。

 また、第7班だってばかにできない。

 うずまき兄ちゃんはそういう視覚に頼らない戦いとか結構得意だったりするし。

 兄ちゃんをセンサー代わりにして、サスケさんが千鳥を当てられれば相手とて無傷ってことはないと思うんだけどなあ。

 あとは、

「超遠距離からの攻撃ですかね」

 相手の視覚外からの攻撃とか、攻撃が届かないと思っている範囲外からの狙撃のようなものかなあ。

 しかもできれば体術のようにチャクラを使わないものが理想、かな。

 相手は術を解析する能力に長けて、その上最強クラスの瞳術使い。

 瞳術って相手と目を合わせるだけで発動する場合が多い。

 つまりは印を結ばなくって良いという反則技だ。

 まあ手が空いてるからと言って術の使用にはかなりの集中が必要になるし、瞳術を使いながら動くのであれば、その精度は若干なりとも落ちるはずなんだけどね。

 それだけの相手に対して超遠距離からの攻撃、かあ。

「もしくは範囲攻撃忍具とか?」

 そっちもいいかも。

 我愛羅さんみたいに防御力が高い忍術を持っているのでなければかするだけで効果の出る毒の類いは有効かな?

 それか空気中に噴霧する毒とか。

 さすがに僕ではその知識がないなあ。

 それとなくテンテンさんあたりに聞いてみようかな。

「知り合いの中に忍具使いの人がいますから、それとなく聞いてみますか?」

「そうか、オレの名前を出さないで、なら頼めるか?」

 まあ大丈夫でしょう。

 僕とて超遠距離っていうのに興味がない訳じゃないんですし。

「そうなのか?」

「そりゃもう。

 相手の攻撃が届かないところから一方的に攻撃できれば、自分や味方が傷つく事がないじゃないですか。

 それに、範囲攻撃なら面への攻撃、つまり当たりやすい訳ですし。

 それは魅力でしょ?」

 まあそんな便利な忍具があるとも思えないんだけどね。

 あるんならみんな使ってるだろうし。

 でも、忍具の開発って試行錯誤の連発らしい。

 その過程で使い物にならないとされた忍具でも、特定状況下ならなんとか使えるものもあるだろうし。

 そういった物の中からサスケさんの目的にかなった忍具を見つける事が出来れば、もしかしたら、というところだろうか。

 長射程となると弓かなあ。

 範囲攻撃となると毒の付いた千本を大量にばらまく忍具とかありそうだよね。

 その他は思いつかないなあ。

「そもそも、相手に見られなければいいんですよね。

 相手の目を潰すような眼つぶしとか効果ないんですか?」

「前にも言ったと思うが、一目でこちらの術を読み解く。

 眼つぶし系の術は発動前に認識されるから避けられてしまう」

 そうなると、()ではなく忍具で代用するのが良いですかね?

 強い光を出す起爆札とか、目に入ると強烈な痛みのある薬品とかですか。

 …? そういえばそもそもどうやって術を読み解いてるんですか?

 もの凄い忍術の知識があるとか?

「…そうじゃない。

 すまん、これ以上話せない…」

 そんなに気にしなくても良いですよ。

 でもそうか、知識でないなら、多分術かあ。

 チャクラの流れを見切る白眼みたいなものなのかな?

 そうすると…。

「多分ですけど、サスケさんの身につけるべきはチャクラの動きをごまかせるような術、でしょうか」

 どっかにそんな術があるんじゃないだろうか。

 例えば体の表面に薄いチャクラの幕を張って、体内のチャクラの流れを見えないようにする、とか。

 どうかなあ、などと考えていたので僕はサスケさんの様子に気づかなかった。

 ぐわしっ!

 いきなり僕は肩を掴まれた。

 はっとした僕は、その正面に眼をギラギラとさせたサスケさんを見たのです。

 え、なに? 

「それだ!」

 だからなんなんですか!?

「そうだよ、あいつの技はチャクラの動きで術を解析してるんだ!

 チャクラの動きさえ悟られなけりゃ読まれる事もないんだ!」

 興奮してるサスケさんにぶんかぶんかと振り回され、僕は目が回りそうです、てか回ってます。

 そ、そろ、そろそろ離していただけるとお…。

 そもそもサスケさんも病み上がりなんですからぁ…。

「あ、悪りぃ… !」

 サスケさんと僕は、バランスを崩してベッドから落っこちた。 そして…。

 べしゃっ!

「ぐぺっ!」

 僕はサスケさんに押しつぶされた。

 明らかに僕の方がサスケさんよりちっこいしね。

 お、重い…。

「すまん! 大丈夫…」

 その時、超音波の悲鳴が聞こえた…。

 

 

 

 山中いのは不満顔だった。

 つい調子に乗って、同級の女の子たちにブンブクからのアドバイスを喋ってしまったのだ。

 その結果、今日のサスケへのお見舞いに、同僚の下忍、忍術学校の学生など、サスケファンクラブの面々が付いてくる、と言い出したのである。

 せっかく訓練を終えて、サスケへのアピールをしようと思った矢先のトラブルである。

 ファンクラブの面々は、いのに抜け駆けされてなるものかと我先に山中花店へ御見舞いの花を買ってきており、実家の家業としてはウハウハなのだが、恋する乙女としてはライバルが増えたという面倒くささがいのを不機嫌にしていたのである。

 ぞろぞろと群れを成して病院へ向かう女の子達。

 なんと言おうか、アイドルのおっかけがライブに行くのと非常に近しい気がする光景である。

 病院に着くと、周囲からは異様な目で見られている。

 とはいえ、恋に恋する恋に盲目な乙女たちからすると、全く気になるものではない。

 気になる人はこの先、病室で寝ているのだから。

 病院では走ってはいけなません、という標語を脇に見ながら、乙女たちは一足でも早くライバル達よりもサスケの元へ着こうとじわじわと速足になっていった。

 廊下いっぱいに広がった女子の群れ。

 時々医師や看護師にぶつかるがそれすら見えていない。

 なんと言おうか、ブンブクの助言は全く役に立っていないようである。

 サスケの病室が見えてくる頃にはまるで競歩のような状態になっていた。

 ただでさえ、忍、またはその卵である女の子達である。

 まるで風、というより暴風雨のようにサスケの病室に近づいていった。

 そして病室の扉に手がかかる、その時である。

 病室の中から「がたん!」という何かがひっくり返るような音がした。

 それは女の子達の動きを止めるのに十分なものだった。

 ぴたりと動きを止めた女の子達。

 そして、いのがゆっくりと病室の扉を開け、彼女達の目に飛び込んできた光景は…。

 

 サスケが小柄な少年をその体の下に組み敷いている、という図。

 

 まあ、ぶっちゃけてしまうならば、自分の体調も加味せずにブンブクに持論を興奮したまま語り続けたサスケが、息切れをした際にベッドから転げ落ち、そのままブンブクを押しつぶした、という事なのであるが。

 女性陣からすると「サスケ君が少年を押し倒した直後」という風に見えるのだろうか。

 次の瞬間、黄色い悲鳴が病室、および病院の中に響き渡ったのである。

「いやぁ~! サスケ君が、()()()に走っちゃったぁ!?」

「そんなのいやぁ~!?」

「そういえば、サスケ君の()()()()って…」

「ナルトよ!」

「じゃあいつがサスケ君をそっちの道に!?」

「許すまじうずまきナルト!!!」

「今どこにいる、あの狐!!」

「里から出てるって聞きましたけど…」

「よし、戻ってきたら()るわ。

 各員、それまでキバ(えもの)を研いでおきなさい!」

「了解!!」

 女子たちは何やら一方的に騒ぎまくると、これまた一方的に集束、嵐のように現れて、嵐のように去っていった。

「…なあ」

「聞かないでください…」

 2人の男子を置き去りにしたまま。

 

 

 

 暴風雨のごとくいきなり現れていきなり去っていった女軍をポカンと見送り、ブンブクとサスケは立ち上がった。

 サスケはまだ調子が戻り切っていないのだろう、立ち上がった瞬間にふらつき、ブンブクに支えられていた。

 ブンブクはサスケをベッドに戻すと、

「それじゃあ僕は行きます。

 時間があれば幻術について調べてみますね。

 それじゃあ」

 といい、病室から出て行った。

 サスケは1人になって考え始めた。

 そう、うちはイタチと戦い、殺すための方策を。 

 サスケはもともと、イタチと正面切って戦い、勝利することのみを考えていた。

 うちはという一族は豊富なチャクラを生まれながらに持っており、特殊な瞳術である「写輪眼」を開眼する才能を秘めた木の葉隠れの里の中でもエリート意識の強い家系である。

 さらに言えば、2代目火影の政策のため、木の葉隠れの里でも隔離気味の一角に居を構えており、その事が一族の結束を高め、里への帰属意識を削ぐという皮肉にもつながっていた。

 里の中においてはその優秀な能力で警備部門を担当、なおさら周囲との隔意が広がることにもなっていた。

 そのためだろうか。

 サスケは一族のもの以外との会話がひどく苦手でアカデミーにおいても親しく話す者はいなかった。

 そのことが、サスケを大人びて見せ、それが恋に恋する女の子達にからみると「かっこいい」という事になったようだ。

 元々顔立ちが整っているため、「ファンクラブ」まで設立されており、サスケとしては「うっとうしい」の一言であった。

 とはいえエリート一族というレッテルのため、男子も話しかけてくるでなく、サスケもそれで良い、一族の者さえいればいいのだ、そう思っていた。

 あの事件が起きるまでは。

 未だ記憶に鮮明に残る闇と血の赤。

 一族を滅ぼした男の顔。

 かつて兄と呼んだその男に浮かんだその表情をサスケは忘れる事が出来ない。

 絶対の無。

 血の繋がった一族を殺しつくしてなにも感じていない。

 そんな無表情をサスケは許す事が出来ない。

 許さない。

 イタチは必ずオレの手で殺す。

 サスケはそのために己を鍛えてきた。

 ひたすらイタチへの憎しみを育てながら。

 幾重にも積み重なった人形劇の末端として。

 己が誰かに操られ、さらにその誰かが誰かに操られる。

 人形が人形を操る人形劇。

 それに気付かずに必死になって修行を重ねてきた、つもりだった。

 そうではなかったのだろうか。

 あのブンブクに「手段を選びすぎている」と言われるまでは。

 彼はサスケに向かって、自分が弱い事、それを埋めるための考え方を話した。

 サスケにとって、それは今まで考えた事もない思考であった。

 サスケにとって勝つという事は単純な力比べであった。

 強い奴が勝って、総取りをする。

 その為にイタチを憎み、より強くならなければならない。

 人と関わったり、師に教えを受けるなど、強いうちはがすべきことではない、人を憎むことで人は強くなる、それなれば人との関わりなど端から考えるべきではない。 

 しかし、イタチとの戦いは根本的に違う。

 うちはイタチはうちはの一族の中でも別格の強さを誇る。

 イタチと比べるならどんな相手でも対等かそれ以下にしかならない。

 そのような相手と同じ土俵に立つ。

 そのための方法はイタチと同じく、ひたすらの修行しかないと思っていた。

 ブンブクはそれを甘いと評した。

 己の弱さを認識したなら、その劣勢をどうひっくり返すか。

 それには悠長に手段を選んではいられない。

 それこそが忍であろう。

 あの子どもはそういったのだ。

 今のサスケには修行をする体力がない。

 なればどうするか。

 その答えとしてブンブクは策を練る事を推してきた。

 自分が知る自分自身の情報。

 自分が知るイタチの情報。

 それを書き出し、視覚化することでイタチにどう対処するか、それを理論的に考える機会をサスケは得た。

 ナルトと違い、サスケは策を練る事を忌避としていない。

 ナルトは策を練ること自体が苦手であるし、理解力も低い。

 とっさの判断力とその正しさには目を見張るものがあるが。

 サスケはそういった判断が得意である。

 もともと敵の分析はサスケの得意とするところであり、今まで行ってこなかった自分自身の分析をそこに加えることで作戦を立てやすくなった。

 その結果、どうしても越えられない壁をイタチの中に見出すこととなり、絶望していたのだが。

 それも、ブンブクと話すことでその突破口くらいのものは見出すことが出来た。

 かつて戦った凄腕の忍、鬼人・桃地再不斬。

 彼の使う水遁・霧隠れの術はチャクラを練りこんだ霧で視界を奪う術であった。

 なればチャクラを解析する写輪眼もやりようによっては無力化できるのではないか。

 無論霧隠れの里の秘術でもあろうし、習得は難しいだろう。

 しかし似た効果の術を探すのであれば、木の葉隠れの里の中にもあるやもしれない。

 当たってみるのは意味があるだろう。

 いままでは人と関わることなど強くなるためには無意味、そう考えてきたが、もしかしたら違うのかもしれない。

 サスケの考えが少しずつ変わり始めていた。

 

「ならば、なぜイタチはオレを生かしたのだろう?

 あの場(うちは虐殺現場)であった事は本当だったのだろうか?

 何故オレに自分を憎め、などと言ったのだろうか?」

 

 そのことに、ほんの少しでも思い至るようになる程度には。

 

 

 

 僕は病院からの帰り道、いろんな事を考えていた。

 サクラ姉ちゃんとサスケさんの関係、サスケさんの相手の正体とその対処法、まあそういった事。

 とはいえ、どうやら突破口は見つかったようでよかった。

 これを機にサスケさんも立ち直るといいなあ。

 兄ちゃんもサスケさんの事、とっても気にしてたしね。

 そんな能天気な事を考えていたんだ。

 

 そしてこの日が僕たちの能天気な日の最後だったんだろうか。

 この日を境に、「木の葉崩し」から始まった、いや、多分13年前に起きた「九尾事件」、そこから始まった忍界の激動がまるでエネルギーを蓄えきった地殻のように表面に噴き出してきたのだ。

 この日から数日をして、うちはサスケさんが木の葉隠れの里から消えた。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。