NARUTO 狐狸忍法帖   作:黒羆屋

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第3章 サスケ奪還編
第21話


 ども、やっとお家に帰ってきた茶釜ブンブクです。

 やっぱり家は落ち着きます。

 久しぶりにおっかあの作ってくれた御御御付け(おみおつけ)がおいしくて、3杯ほどお代わりしました。

 野趣あふれる砂隠れの里の料理もおいしかったけれど、やっぱり僕はお米のご飯に御御御付け、御新香(おしんこ)が一番いいかなあ。

 ここに川魚の干物と卵焼きがあればパーフェクト。

 どうも、元々質素な食べ物に馴染んでいるせいか、たまにならハンバーグとかも良いんだけれど、ああいう味の濃いのは毎日食べるにはちょっとつらい。

 ここいらへんが年齢詐称といわれる原因なんだけど、持って生まれた舌に嘘は付けないんだよね。

 さて、帰って来てみると、やっとこさ忍術学校が復旧していました。

 同級生に聞くと3日ほど前からだそうで、カリキュラムも結構すし詰めで行われているそうです。

 よかった。

 また僕にとっての日常が帰ってくるのだ。

 …もうここ一月ほどのでたらめな日常は勘弁ですよ。

 せーじなんてだいきらいだ。

 いんぼーはものがたりのなかだけのことだよね。

 めーせーなんてのはもつべきひとがもつものだよ。

 …

 なんて考えていたらば、後頭部に衝撃が!

 なんか乗ってる!

「ワン!」

 …赤丸くんでしたか。

 という事は…。

「よ!

 おまえ大丈夫かぁ?

 ぼうっとしてよお」

 わが親分、犬塚キバさんである。

「あ、どもですキバさん。

 ちょおっとだけ疲れてるだけですから」

「それなら良いんだけどよ。

 おまえも大変だよな、いのから聞いたぜ」

 ああ、はい。

 山中いのさんは僕たちを迎えに来るはずだった猿飛アスマ上忍の下で忍としての腕を磨いている。

 そこから僕の事を聞いて、そこからキバさんに話が行ったんだろう。

 実際、僕はキバさんの子分だからね。

 あ、そうだ。

「キバさん、砂隠れの里のお土産です。

 羊肉のジャーキーです」

 ちなみに、油女シノさんには昆虫の標本、サクラ姉ちゃんには砂漠の押し花、とか、みんなにお土産を買ってきている。

 後は、うちはサスケさんとうずまき兄ちゃん、猪鹿蝶のみなさんに渡せばみんなに配り終わる。

 ただ、兄ちゃんだけはいつ帰ってくるか分かんないから、日持ちするものしかかってこれなかったんだよなあ。

 それが残念。

 ところで、と。

「キバさん、僕の事ってどれくらいいのさんから聞いてるんですか?」

 いのさんだって大した事を知らないはずだ。

 今回の僕の裏任務である我愛羅さんへの支援はまず知ってる筈はないけど、表側の任務であるコハルさまの小姓役というのも、余り表ざたにしてほしくない内容なんだよね。

 同級生たちとの距離ができるのはあまり好ましくないから。

 …なんか思考がずいぶん陰謀じみている気がする。

 多分気のせい。

 気のせい…だと思う。

「いや、怪我した弟子の代わりに木の葉の碧い珍獣に連れてかれたって聞いたんだが、なんか違わね?」

 …どんな説明っすか、いのさん。

 もしかしたらいろいろごまかしてくれたのかも知れないんですが。

「あ、そうだ、いのの奴がお前に会いたいってさ。

 今日は第22演習場で連携の訓練してる筈だぜ」

 はあ、まあ、いのさんにも会っとかないとなんないですから。

 ついでにチョウジさんとシカマルさんにも会えるとなお良し。

 キバさんと別れて、僕は訓練場の方に向かう事にした。

 その前に、家に寄って3人へのお土産をもって行こう。

 

 

 

 犬塚キバは先ほど別れた子分、茶釜ブンブクの事を考えながら、赤丸との散歩を楽しんでいた。

 もともと、ブンブクとはシカマルの紹介で知り合った。

 当時、うずまきナルトへの里の住民の虐待はその激しさを増しており、そういった事柄に疎いキバから見ても、見るに堪えないものであった。

 普段悪い事をしてはいけない、とか、イタズラはだめだとか言っている大人がナルトに石を投げているのを見るのは、腹立たしいものがあった。

 大人達がナルトを虐待する理由として挙げている、大妖魔九尾の変化したものだというものも、獣遁を修め、鼻が効くようになっていたキバからすればお笑い草だった。

 どこが九尾だ。

 もし本当にそうだったなら、里はとうの昔に滅ぼされているだろうに。

 あれだけの目にあったなら、自分ならとうの昔に大暴れしている。

 体臭もただの人間だし。

 忍犬である赤丸はナルトから何らかの力を感じ取っているようだが、それなら尚更手を出すべきではないだろうに。

 大人達の表裏のある態度はもともとガキ大将気質のキバにとっては納得のできないところであった。

 母にその事を聞いた時は「それについて口を出すな」と凄まれたので聞くことはできなかった。

 後々ブンブクにその事を話した時は、

「ああ、ツメさんおっかないもんねえ」

 と同情的に言われてしまった。

 犬塚ツメ、キバの母親はブンブクにとっても獣遁の基本である四足歩行を指導してくれた恩師であり、頭の上がらない人の1人だ。

 もっとも、ブンブクの頭が上がる人、というと里の中にはあまりいないのだが。

 それはさておき、そんな時、シカマルが里の大人をへこませてみないか、とキバに声をかけてきたのがそもそもの始まり。

 二枚舌の大人を理屈でやっつけるというのは、悪戯坊主のキバにとってもなかなか痛快なことであり、すぐさまそれに乗る事にした。

 その際に、ナルトの弟分として紹介されたのがブンブクであった。

 ブンブクは、一緒に遊んでいるとキバの気付かないところに気を回してくれるタイプだった。

 おかげでキバの世代の男の子達はナルトも含めて全体的に仲が良くなった。

 奇特な事に、母のツメや、姉のハナもブンブクの事を気に入っており、ナルトの影響を受けて四足歩行を自力で体得し始めた時期に、体術を教えてやっていた事もあったくらいである。

 その動きが何ともイヌ科の動物を想起させるのか、キバも年少のブンブクをかわいがり、赤丸もブンブクになつくようになっていた。

 その子分に良いところを見せるためにも、もっと強くならなければ、キバは赤丸と一緒にそう思うのであった。

 

 

 

 さて、第22演習場に来ました。

 ここは幾つもある演習場のうち、スタンダードな野原にフェンスが張ってあるだけの場所です。

 ほかには、森の中、とか、変わったところでは沼地とか、丘陵地帯なんかもあるんです。

 で、そこでは猿飛アスマ上忍が山中いのさん、奈良シカマルさん、秋道チョウジさんの猪鹿蝶トリオをしごいている真っ最中でした。

 傍から見ていると、どうやらいのさんの心転身の術を仕掛けるためにチョウジさんとシカマルさんが囮になっているのかな。

 でも、それだと作戦が分かりやすいし、きっといくつかの策を組み合わせて、現状一番成功率の高い方法を…。

 とか考えるんだけど、それすらシカマルさんは計算に入れてるんだろうなあ。

 シカマルさんの指示によって作戦が何度も切り替わってる。

 ここいらへん、信頼関係がないチームじゃあどうにもなんないだろうなあ。

 シカマルさんを信頼しきっているチョウジさんといのさんだからこそできる高度なチームプレイ。

 それをもってしてもアスマ上忍は捉えきれないのか。

 やっぱり上忍ってレベルが違うもんだなあ。

 アスマ上忍も多分体術をベースに忍術で火力を底上げするタイプなのだろう。

 あの3人を相手にしながら全くバランスを崩していない。

 つくづくうちの里って凄いなあと思う。

 アスマ上忍レベルの人がまだまだいるとか、他の里からしたら確かにおっかないだろうね。

 出来るだけ味方にしておきたいだろうし、何かあってうちの里とこじれるような事があったらどうにかして抑え込みたいところだろうしね。

 砂隠れの里とか雨隠れの里が無茶な忍の強化をしたくなる気持ちも分かってしまう。

 そんなことをつらつらと考えていたなら、どうやらく休憩に入った様子。

 途中で勝ってきたお茶と、手ぬぐいを持って僕はみんなに近づいていった。

 

「お疲れ様です」

 僕はそう言うと、まず上役であるアスマ上忍にお茶と手ぬぐいを渡した。

「おまえさんは、確か…」

「はい、忍術学校5年生の茶釜ブンブクです」

 アスマ上忍はしげしげと僕を見た。

 ? なんかついてます? もしかしてまた()()か?

「そうかそうか、君が…」

 …やだなあ、これ。

 きっついわあ。

 なんて顔をしてるのが分かったんだろう。

「…がんばれ」

 と、チョウジさんに慰められた。

 良い人だよねえ、チョウジさん。

 包容力があるというか。

 この人の良さに気づければ、ガールフレンドとか、なり手がたくさんいる気がするよ。

「お疲れ様です、チョウジさん。

 チョウジさんもこれどうぞ」

 チョウジさんようにもお茶と手ぬぐい、そしてチョウジさん用に持ってきたお団子を手渡す。

「おお! サンキュー!!」

 チョウジさんうれしそうである。

「ああつっかれた…。

 もう休みてえ…」

 だれたセリフを言うのはシカマルさん。

 シカマルさんにも渡して、と。

 後はいのさんに…。

 ワシッ!!

 …何故に僕は後頭部を掴まれてんでしょうか?

 いわゆるブレーンクローというやつです。

 …なんでしょうか、こうドロッと黒いものが背後から湧き上がって来てる感じがするんですが。

「ブンブクゥ、ちょっとこっち来なさい…」

 めりめりって、頭がめりめりって!

 われるもげるわれるもげるぅ!!

 痛いって! いのさん痛いってばあ!!

 僕はそのまま引きずられていった。

 

「どういうことかしら?」

 なんの話で?

 ほんとに分かんないんですけど。

「ほっほう…。

 んじゃ言わせてもらうわね。

 

 病院で、サクラとサスケ君が良い感じになったのってあんたの一言があったせいだって聞いたんだけど?」

 ! そっちか!

 しまったぁ! いのさんもサスケさん狙ってたんだっけ!

 すっかり忘れてたよ…。

「いや確かに助言はしましたけどね。

 そんなに仲良くなってるんですか?」

 あのサスケさんがデレてるとか?

「そんなわけないじゃない!

 サスケ君がサクラなんかにデレる訳ないもん!」

 じゃどんな感じなんですか?

「なんか、サスケ君が書き付けをしてる横で、サクラがリンゴを剥いたり、花を飾ったりしてるって」

「…? 別に普通にしてるだけなのでは?」

「その雰囲気がなんか良いんだって!

 前はあんなにキャーキャー言ってたサクラがよ! あんなにお、奥さんみたいにって…ああもうむかつくー!」

 なるほど、サクラ姉ちゃんはちゃんと助言を聞いてくれていた訳ね。

 で、その雰囲気が大人っぽいサスケさんとマッチして、ほかの女の子たちがやきもきしている、と。

 …ならサクラ姉ちゃんに聞けばいいのに、という訳にもいかないんだろうなあ。

 何せ恋のライバルなわけだし。

 しょうがないなあ。

「そもそも、サクラ姉ちゃんとサスケさんはおんなじ班でしょ。

 どうしても距離は近くなるんですよ。

 僕の一言程度でそんなに変わりませんて」

 まあ、サクラ姉ちゃんのいつものテンションでべったりされたらサスケさん切れそうでもあるけど。

 故に、僕の一言はサクラ姉ちゃんたちの距離を縮めるものではなく、姉ちゃんがサスケさんから距離を取られないようにした、というのが正しいのです。

「んなら私達にもそれ教えなさい!」

 そりゃ構いませんけどね。

「実践できます?」

 問題はそこだったりするんだが。

「サスケ君のハートをゲットできるんならやってやるわよ!」

 …。

 いやだからね。

「その気張りすぎがサスケさんから距離とられる原因なんですって」

「そんなバカな!」

 いやいや。

 恋する乙女は盲目とはよく言ったもんです。

 なんか言ってあげて下さいよ、こっそりのぞいてる男連。

「めんどくせぇ…」

 分かりますけどね、シカマルさん。

 口に出すといのさんに…、「シカマル、後で覚えときなさいよ…」言わんこっちゃない。

「ボクは興味ないから」

 分かります、色気より食い気ですよね、チョウジさん。

 僕もそうですから。

「オレもそっちはあんまり得意じゃないからなあ…」

 担当上忍なら部下の心のケアもしましょうよ、アスマ上忍。

 年下がやる事じゃないと思うんですが。

「いやあんたどうしても年下に思えないから」

「そだな…」

「うん、ボクもそう思う」

「おまえら手加減なしな、オレもそう思うけど。

 ついでにオレの相談にも乗ってもらおうか」

 だーかーらー!

 楽しそうですねえ、もう。

 それはともかく!

「誤魔化しに走ったな…」

 僕の行動パターン読まないで。

 それはともかく!

「僕はサクラ姉ちゃんに、『自分が甘えるんじゃなくて、サスケさんを甘やかす感じで』って言いました。

 いくらサスケさんが大人びてるからって、体力的、気力的に弱ってる状態ですからね。

 普段だったら余裕もあるだろうし、甘えていってもサスケさんならさばけるでしょうけど、弱ってるところだと、余裕がなくなって思いっきり突き放されかねないですから。

 だから、自分の欲を抑えて、サスケさんのやりたいようにさせつつ、自分はちょっと離れたところから見守る感じが今は良いんじゃないかなあ、と」

 僕がそう言うと、いのさんも一応は納得してくれた様子。

「なるほど、押してダメなら引いてみろってやつね」

 まあ、ぶっちゃけるとそうなりますか。

 ぶっちゃけすぎという気もしますが。

「よし! んじゃあ早速実践を…」

 とか言ってるいのさんですが、

「おーし、休憩終わりな。

 訓練続けるぞ~」

 アスマ上忍がいのさんを、むんず、とばかりに捕まえて言った。

「え、ちょ、ちょっと!

 アスマさん見逃して~!!

 私の恋がぁ~!?」

 いのさんきひきずられて行っちゃった。

 あ、お土産渡しそびれた。

「シカマルさん、風の国のお土産、ベンチに置いときますね。

 それじゃ失礼します」

「おう、んじゃな…。

 あぁめんどくせぇ…」

 シカマルさんはかったるそうアスマ上忍についていった。

「じゃあね、ブンブク。

 お団子ありがとね」

 じゃあです、チョウジさん。

 チョウジさんのお土産、羊肉のジャーキーです。

 料理とかに入れるとちょっとくせがあるけどおいしいですよ。

「ん、分かった」

 僕はその場を後にした。

 

 

 

 面白い子どもだ、猿飛アスマはそう思った。

 茶釜ブンブクという人物に関しては、情報が錯綜していると言っていい。

 天才、問題児、冷徹な扇動者(アジテーター)、卑の後継者、蒼き珍獣の弟子、さまざまな噂が飛び交い、ブンブクという個人がどのようなものなのか、全く理解できない。

 こと上忍の間では危険人物のレッテルが独り歩きしている状況だ。

 特にうずまきナルトの弟分というのが大きい。

 うずまきナルト。

 その身に九尾を封じた人柱力。

 この事は実のところアスマ達の世代の忍にははっきりと伝えられていなかった。

 アスマ自身は九尾事件の時にはまだ守護忍十二士であり、何が起きたかをはっきり知ることができなかった。

 アスマが里に戻った時には既に九尾事件の後始末まで終わっていたため、ナルトがどういった存在なのかを教えてくれるものがいなかったのだ。

 ナルトに関しては里の上層部よりかん口令が敷かれており、その為ナルトという存在をはっきりと理解できたのはほんの五、六年前である。

 昔は断片的な情報しかなく、ナルトはどうやら九尾そのものか、その強力な眷属が封印された結果生まれた存在、という見方をする中忍が大体であった。

 実際のところは間違っていた訳だが、アスマが里に戻ってきてしばらくしたあたりで、ナルトの待遇が大きく改善されていたためにアスマはナルトが虐待を受けていたところを直接見た事はない。

 アスマが知っているのは、しばらく前までナルトが迫害を受けていた事、ブンブクがそれを是正した事だけである。

 当時の下忍や中忍の中には実際にナルトに暴力を働いていたものもおり、ナルトの待遇改善について語る者が非常に少ないのだ。

 アスマはこの事について特に興味を持つ訳でなく、しばらくは意識もしないでいた。

 気にするようになったのは第10班の下忍達を担当する上忍となってからである。

 アスマの抱える下忍の子どもたちはちょうどナルトと同じ世代であり、興味本位からシカマルに当時の状況を聞いてみたのである。

 シカマルは面倒くさそうにしてはいたものの、同い年のいのやチョウジからの合いの手もあり、大体の状況を確認する事が出来た。

 そこでブンブクの果たした役目は大きかった。

 本人はちょっと手助け、程度に考えているようであるが、ここまで動けるものがいるとは、アスマも思ってもみなかったことだ。

 社会資源、という言葉がある。

 社会における問題、その規模の大小を問わず、一定の課題を解決したり、特定の目標を達成するために動員される物、人、概念の事を言う。

 例を上げるなら、アスマ達忍は大名や依頼者にとって力強い社会資源であろう。

 大名たちが護衛が必要な場合、護衛を雇うという概念、その為に依頼する木の葉の里という組織、実際に護衛として行動する忍という人、忍たちが護衛のために使用する忍具、これ全て社会資源といえる。

 逆に言うなれば、概念、組織、人、物、それらがなければ一から生み出さなければならない訳だ。

 ブンブクはナルトの状態改善を目指して、子ども達、そして大人達の中に支援組織を作り上げた、ということだ。

 虐待に対して支援組織を作るという概念を作り上げたのはブンブクである。

 実際に動く組織をつくりあげたのはシカマルの動きが大きいようであるが、ブレーンとしてのシカマルに目を付けたのはブンブクである。

 己にできる事、できない事が見えていなければなかなかできるものではなかろう。

 それをわずか3歳の幼児が成し遂げたという事。

 最初にその事に気付いた時、アスマは背筋に寒気を感じたものだ。

 この子どもが木の葉の闇を牛耳るダンゾウの後継者となるのか、と。

 あまりにも危険すぎるのではないか。

 上忍、特に暗部の者たちが警戒を強めているのが理解できた。

 

 ところが、である。

 10班の下忍達と行動していると茶釜ブンブクと遭遇することが多くなった。

 ブンブクはシカマル、チョウジ、いのと仲が良い。

 というより、子ども世代全体と仲が良いと言っていいだろう。

 10班の子どもたちのみならず、ナルトや春野サクラなどとも仲が良いようだ。

 最近はロック・リーなどマイト・ガイの班ともよく一緒にいるのを見かける。

 そのため、アスマはブンブクを観察する機会を多く得ていたのだが。

 

 この子どもは迂闊すぎる。

 

 なんというか、行動がざるだ。

 一生懸命に隠そうとしている時もあるが、基本的に何を考えているか丸わかりである。

 どう見ても年相応の子どもにしか見えない。

 何ともアンバランスな子どもである。

 暗部の連中が勘違いする訳である。

 少々の接触では気がつかないだろう。

 深読みをしてしまう忍びなればこそ、その行動にいちいち意味を持たせようとするのだが。

 シカマルからの話を聞き、その後に何度も接触したアスマからすると普段のこの子は何もややこしい事を考えていないのだ、という事が分かる。

 後にガイと話した時、その事を話してみたなら、

「おう、お前も気付いたか!

 本質ってやつは考えすぎると気付きづらいもんだなあ!」

 などといつもの大声で返してきていた。

 ガイもほかの上忍達よりブンブク近いせいか、その本質に接することが多いのだろう。

 もしくは本人が単純で、ブンブクと感性が合わせやすいのか。

 とはいえ、その性格に似つかわしくない知識と行動力で、ブンブクが騒動に巻き込まれるであろうことはかたくない。

 何かあれば自分たち大人が助けてやらねばならんだろう。

 アスマはそう考えていた。

 

 

 

「おい」

「なんだ?」

 第22演習場より家へ帰ろうとする茶釜ブンブクを見ている者達がいた。

 猿飛アスマなど、木の葉隠れの里の腕きき達に気取られずに。

 忍びの世でもS級犯罪者と呼ばれる者の内の2名である。

「あれにはいくらの値が付いてんだぁ?

 新進気鋭なんて、結構な賞金になってんだろ?」

 複数枚の刃のついた奇妙な鎌を持つ銀髪の男、飛段が傍らの忍び装束の男、角都に問いかけた。

「ああ、あれか」

 しかし角都からの返事はそっけない。

「あぁ? ずいぶんとやる気のねえ返事じゃねえか。

 しょぼいのでも血継限界なんだろ?

 その上新進気鋭だってんだ、死体でも金になんだろうがよ?」

 金の亡者である角都が全くやる気を見せていないのに飛段は疑問を持つ。

 飛段が言ったように、どんなに陳腐でも血継限界は血継限界だ。

 その情報を持つ死体は恐ろしい値段が付く。

 血継限界を調べている学者、仕組みを調べて己の術に生かそうとするフリーランスの忍、無論忍の里も生死にかかわらず欲しがるものだ。

 さらにそれが今売出し中の忍となれば、その首を欲しがる血気盛んな新人や、忍の首を並べて悦に入る狂人そのものの様なコレクターなど、金にするのは難しくない。

 それに、あの小僧ははっきり言って飛段の敵ではない。

 気軽に花を摘むが如くその首を切り落とすことができる。

 それは間違いない。

 飛段にとってみれば、簡単に殺せて金にできるチョロイ奴が茶釜ブンブクであった。

 そんな簡単に金になるブンブクを角都は何故に狙わないのか。

「簡単なことだ。

 あれは金にならん」

 飛段は少々驚いた。

 条件から言ったら全く金にならないわけがない。

「はぁ!?

 そんなわけあるかよ!?

 あれ位名が売れれば金を出す奴ぁ何ぼでもいるはずだろうが!?

 いつもオメエが言ってる事だぜぇ!?」

「事実だ。

 あの一族に金を出す奴はいない。

 故にオレもあんな無価値なものに手を出す必要がない」

「え? マジ?」

「その馬鹿のような口調をやめろ、いや馬鹿だったな、直さんで良い」

「てめぇ呪うぞ!!」

「ふん、できるものならやってみるがいい、無駄な事だ」

 いつもの会話をしながら、やはり気になった飛段は角都に改めて聞いてみた。

「でよ、なんで金になんねえんだ?

 条件的にゃあ悪くねえと思うんだが」

 少し落ち着いた飛段に、角都はこう話した。

「まずあの一族は殺したとしても死体が残らん」

「は? なんだそりゃ?

 あれか? 死んだときに発動する呪印かなんかか?」

 死んだ時、敵方に死体を渡さないため、何らかの方策をとっている一族は意外と多い。

 日向家の呪印などは血継限界である白眼を他家に渡さないための呪いである。

「どうも違うらしい。

 ゆえに、死体を切り売りすることは不可能だ。

 心臓も残らんしな。

 実際にオレもやった事があるから間違いない」

 角都は既に100年近く生きている。

 その長い生の中で茶釜一族のものとも戦った事があるようだ。

「奴らの死んだあとには何らかの食器が落ちておる」

「…おい、おちょくってんのか?」

「だから事実だと言っている。

 気になるのならイタチにでも聞いてみる事だ。

 やつは木の葉隠れの里の出身だ。

 きちんと話してくれるだろうよ」

「…。まあいい。

 んじゃそれが事実として、その食器ならいくばくかで売れるんじゃねえの?」

「確かに。

 そう思って金に換えた事もあったのだがな」

「なんだ、やっぱり売れるんじゃん」

「買い取った奴が暗殺される事件が続発してな。

 忍び以外で欲しいというやつはいなくなった」

「は?」

「あの一族は死ぬ間際に食器などに姿を変える変化を使うようでな。

 しかも、自分を他の食器と入れ替える変わり身を使えるらしく、気が付くと、茶釜の一族の食器と普段使っている食器が混じるんだそうだ」

「なあ角都、冗談とかじゃねえよな?」

「冗談ならどれだけいいことか。

 それなら金になっただろうに」

 角都は非常に残念そうだ。

 その様子から飛段は角都が冗談やからかいを言っている訳ではない事を理解した。

「奴らの化けた食器を一旦買ってしまえば、何処に暗殺者がいるか分からない状況に購入者はなる訳だ。

 奴らを使えるのは火の国の大名だけだったからな、おかげで火の国の大名はよほどのバカ者でない限り暗殺された事はない。

 逆にいえば、バカ殿であった場合、茶釜の一族に暗殺されうる。

 おかげで火の国の大名はどんな馬鹿でも最底辺の善政をしくのさ」

 なるほど、忍に狙われたなら、一般人ならば生き延びるのは不可能だ。

 その事が周知されているために誰も茶釜一族に手を出すことはないのか。

 それは納得した飛段だが。

「んなら忍はどうなんだよ?

 血継限界を調べてる大蛇丸みてえなのはよ!?」

 見たところ、あの一族は忍としての能力はそれほど高くない。

 簡単にひねれる相手なら捕えておけば研究材料となるだろうに。

「調査できんのだよ、あれは」

 そう考えていた飛段に、角都は思いもかけない言葉を発した。

「…何を言ってる?

 そんな訳ねーだろうが!」

「事実だ。

 あの一族が変じた食器だが、大蛇丸ですらただの食器としか認識できなかった。

 さらに、ほんの少し目を離した瞬間に、その食器は信楽焼の置物に代わっていたそうだ」

「…それ、()()大蛇丸が言ったのか?」

「ああ、事実だ…」

 角都の声は信じがたいものを無理やり信じざるを得ない苦渋に満ちていた。

 それはそうだろう。

 あの大蛇丸がそんな冗談を言う訳がない。

 ならばそれは事実、という事になる。

 大蛇丸が解析できなかったものを、他のものが解析できるか。

 そしてそれにふさわしいだけの成果を見込めるか、と考えるなれば、幾千万の金を消費して1両分の金を錬金するようなものだろう。

 なるほど、確かに角都にとっては価値がないだろう。

 そして、ここであのガキを殺したところで木の葉隠れの里の上忍どもが寄ってくるだけ。

 大して殺す事も出来ないだろう。

 飛段にとっても益少ない少年であった。

 そもそも飛段と角都は、九尾の人柱力を確認しに木の葉隠れの里にやって来たのだ。

 ところが肝心の人柱力は里を離れているとのこと。

 さらに、その護衛としてあの自来也が一緒であるという事。

 これは無駄足であったかと帰り仕度をしているところに、茶釜ブンブクをみつけ、行きがけの駄賃にでもなればと角都に目算だけでも出してもらおうと聞いたところ、この有様であった。

 見事に無駄足となった飛段と角都。

 仕方なしに帰途に就いたのである。

 

 そして自身の知らぬ間に人生最大の危機を回避したブンブクは、「つんつんつっきよだ みんなでってっこいこいこい!」なんぞと鼻歌を歌いながらふらりふらりと帰路についていた。




 この話では猿飛アスマが守護忍十二士に所属していたのは十代半ばから二十歳過ぎくらいまでと仮定しています。
 そのため、アスマは九尾事件の時に里にいなかったものとしてお話を構成しています。
 また、木の葉側の死者がなかった関係で比較的早めに忍術学校も復旧しております。

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