「すこしいいか?」
「あ、御馳走になってます、我愛羅さん」
僕は十分に食べた、さすがにお腹いっぱいです。
我愛羅さんもかなり食べてましたよね。
メインお肉で。
「我愛羅さんもお肉好きなんですか?」
「そうだな、タンは大好物だ」
ほほう、なかなか渋い所に行きますね。
ちなみに僕はホルモンとか、レバーとか内臓一般が好きです。
「やっぱジジくせえじゃん。
年齢詐称じゃん」
はいそこだまって。
ネジさんとテンテンさんも頷かない!
てか、ガイさんとコハルさままで!?
みんなひどい!
僕とカンクロウさんがどれだけ苦労したとぉ~!!
キシャ~ッ!!
「…まず落ち着け」
…錯乱気味だった僕を落ちつけたのは我愛羅さんの呆れたような一言だった。
さすがに5代目風影さまの前でこれはまずかったかなあ。
深呼吸をひとつして、と。
「で、何でしょうか我愛羅さん?」
「誤魔化せてると思ってるじゃん」
はいそこチャチャ入れないの。
我愛羅さんはいつもよりはちょっとだけ緊張している感じだ。
「話がしたい、向こうに行かないか?」
僕は我愛羅さんに向き合うと、
「わかりました。
すいません、ちょっとだけ空けます」
みんなに断りを入れて、我愛羅さんについていくことにしました。
我愛羅はブンブクと歩きながら思った。
こんな穏やかに過ごす日が来るとは。
つい1月前までは考えてもみなかった。
あの頃まではただ人を殺すことだけを考えていた。
正確にいえば、そう考えるようにしていた。
我愛羅の幼少時は苦痛ばかりだった。
信頼できるのはお付きの夜叉丸のみ。
自分が近付くと人が死ぬ。
その恐怖から自然と他者から距離を取った。
眠る事は出来ない。
眠れば一尾に体を乗っ取られるからだ。
精神状態は不安定になり、身体の能力もじわじわと削られる日々。
心の支えは夜叉丸だけであった。
その夜叉丸にも裏切られ、我愛羅はその心を鎧う事でなんとか耐えていたのだ。
その日々が粉々に破壊されたのがあの日。
そう、「木の葉崩し」決行の日、うずまきナルトと戦った日だ。
あの日、我愛羅は完膚なきまでにナルトに負けた。
「狸寝入り」まで使用し、絶対の勝利、殺りくをまき散らす一尾の力を開放してまでなおナルトに敗北した。
そこからだ、心を鎧った「殺戮する事で生を実感する」理屈が木っ端みじんになったのは。
本来なら、ナルトのような希望に満ちた目をした者に我愛羅が負けるはずはなかった。
もし我愛羅が負けるなら、同じ目をした男、うちはサスケに、であるはずだった。
しかし、我愛羅を理解したのはナルトだった。
ナルトは我愛羅と似ていた。
なのに、なぜ希望を持てる?
自分とナルトがなぜ違うのか。
それを考えている時だった、テマリが声をかけてきたのだ。
テマリは本来我愛羅を恐れているはずだった。
それが、敗北のあと、何かとかまってくるようになったのだ。
かつてうっとうしかったそれを我愛羅は心地よいと感じるようになっていた。
この心の変化はなんなのだろうか。
ナルトに負けたからか。
相談できるものはいなかった。
いや。
1人、いや一尾だけいた。
己の中にいるものである。
子どもの頃から一緒にいたもの。
我愛羅にとって、恐怖の対象だったもの。
それに話しかけてみろ、そういったものがいた。
なれば。
我愛羅は事あるごとに一尾に話しかけるようになっていた。
一尾の守鶴は話しかけるようになった我愛羅に、当初は怒声罵声しか浴びせる事はなかった。
とうぜんだろう、守鶴にとって我愛羅は言ってしまえば牢番だ。
今までほとんどの人柱力は確たる意思を以って守鶴を封じてきた。
たった1人を除いて、だ。
分福和尚。
ひたすらに守鶴と砂隠れの里のために生きた老人である。
人柱力として生まれ、その生の大半を薄暗い牢にて過ごした。
どうやら分福に忍びとしての素養はなかったらしい。
性格も戦いに向いていなかったのだろう。
彼は「役立たず」として生まれ、そのために牢の中で深く思索をした。
自身の生まれ、その生、人の意味、限りある己の、そして人の生をどう理解するか。
分福の生きた当時は教師もなかったであろう。
辛うじてその問答にこたえてくれるだろうヒント程度のものはあったかもしれない。
忍宗の経典。
彼は僧であった。
師事した僧侶は1人だけ。
忍宗の経を読み、師の言葉を反芻し、それらを時間をかけ、深く思索することで彼は一つの哲学に行きつく。
「人の心とは水鏡。
本心とは裏腹に、
口を開き揺れ動くもの。
が、その更に裏にある心は『受け入れあう事』をのぞむ」と。
彼は忍宗の祖、六道仙人の域に達した哲人であった。
彼は守鶴の唯一の友であり、預言者でもあった。
守鶴には必ずまた友が現れる、と。
一尾の守鶴は信じていなかった。
そんなものが現れる訳はないと。
しかし今、守鶴は当惑していた。
子どもの頃より一緒にいるのだ、我愛羅の行動など手に取るように分かるはずだった。
子どもの頃、守鶴は我愛羅にこう言った。
「おまえが眠りに就いたなら、
オレ様がお前の心と体を乗っ取り、
お前ら人間を皆殺しにしてやる!!
迂闊に熟睡しない事だ」と。
半分は嫌がらせのようなものだ。
歴代の人柱力はそれを真に受け必死に守鶴を抑えつけに掛かり、そして自滅していった。
守鶴はそのたびに人柱力より抜きだされ、封印されてきた。
人とは汚いものだ。
同族を犠牲にしてまで尾獣の力がほしいか。
狸の方がよほど仲間思いで良い。
かつて一緒に暮らしていた化け狸の里を守鶴は懐かしく思う。
一緒に歌い楽しみ、そして戦った。
あそこには六道仙人より分かたれた後の守鶴の幸せがあった。
自身は里より出た事はなかったものの、人の世を見て回るのが趣味の奇妙な化け狸がおり、人里、そして他の尾獣のいる里の話を良くしてくれたものだ。
時には九尾の奴が眷属を率いて
九尾は尾の数で尾獣の強さが決まるという屁理屈をこねる輩で、守鶴とはとかく仲が悪かった。
狸と狐の戦争は一時期人の国でも話題になっていたという。
まあもっとも、その大騒ぎのせいで人間に目を付けられる事になった事は守鶴は知らない。
そして突然人間が化け狸の里に攻め込んできた。
いつの間にか尾獣を封印する術すら作り上げて。
そこから長きにわたる人と妖魔との戦が始まった。
長寿である化け狸からしても長きにわたる戦いであり、長期戦となれば数に勝る人間が有利であった。
守鶴は捕えられ、その奪還も失敗した。
その中であの変わり者の化け狸も死に、もはや化け狸との縁は切れてしまったか、そう守鶴は考えていた。
それに変化があったのはつい先ほどの事。
懐かしい気配がすると思えば、件の変わり者が守鶴に接してきたのだ。
もう何百年たったのやら、まだ消えておらなんだかと守鶴はうれしくなった。
なんでも人に生まれ変わったとのこと、ずいぶんと面白い事になっている。
その生まれ変わりの子どももまた面白い輩のようだ。
「狸寝入りの術」で我愛羅と主従を入れ替えた時にはよりにもよってこの守鶴と交渉しようとしてきた。
恐ろしくはなかったのか。
いくら化け狸たちの後ろ盾があったとしても力の差は歴然であったろうに。
久しぶりに人間に興味がわいた守鶴であった。
あれから、自身の人柱力である我愛羅が話しかけてくるようになった。
正直に言うならばうっとうしいとも感じるが。
会話相手として我愛羅はそれほど悪くなかった。
話題が豊富であるわけでなし、話術がうまい訳でなし。
里の事、兄弟達の事、それと「木の葉崩し」の時のこと。
我愛羅はとつとつと語り、それに対して守鶴が相槌を打ちながら盛り上げる、そんな会話だ。
実のところ守鶴は誰かと話すのが嫌いではない。
人間という種は嫌いだが、その中には自分と気の合う者がいる事は、分福和尚によって理解しているのだ。
そして話す事に飢えてもいた。
しばらく前に思いっきり
そこに我愛羅が話しかけてきたのだ。
つい乗ってしまっていた。
うっとうしいならいつものように恫喝した後に無視を決め込むのが良手であったであろうに。
罵声を浴びせる守鶴の言葉を我愛羅は黙って聞いていた。
それが何日も続き、いい加減守鶴も怒声罵声のネタが尽きてきた頃だったか。
守鶴は我愛羅に聞いたのだ。
「なぜ話しかけてきたのか」と。
「なぜだろうな、オレにも分からない。
ただ…」
我愛羅は自分の言葉を紡ぐため、言葉を切りながらも続けた。
「木の葉隠れの里であった子ども、ブンブクといったな。
あれが言っていた。
一尾と話をしてみてくれ、と。」
あれ、とはあの子どものことだな。
けったいな少年の顔を守鶴は思い出した。
「一尾はオレと話が合う。
そう言っていた」
どこからそんな情報を得たのやら。
まあれだろう。
文福狸からだろうなあ。
しかしまあ、話が合う、というのであればちょっとくらい話してやってもいいかもしれん。
そこから守鶴と我愛羅のコミュニケーションは始まったのである。
我愛羅にとって意外な事に、一尾こと守鶴は非常に話しやすい相手であった。
我愛羅はあまり、というか非常に話すのが苦手である。
正確に言うと相手との言葉を交換する「会話」が苦手であると言おうか。
元々自分の心を素直に表現する事に慣れていないため、事務的な会話に終始してしまう我愛羅に対し、守鶴は長い生の間に自然と培った相手の思いを読む技術があり、我愛羅の思いも引き出すことができるようだった。
我愛羅にとって守鶴は初めて自分の話したい事を理解してくれる相手となった。
まだまだ我愛羅は守鶴にとって心を開ける相手ではないようだが、かつての守鶴と我愛羅の態度を考えるならば格段の進歩といえるだろう。
そこにブンブクがやって来たのである。
やって来てから、彼(とカンクロウ)には仕事が山積しており、なかなか直接話す機会がなかったが、ちょうど食事も終わったところであったし、2人でしか話せない事もある。
そう思い、我愛羅はブンブクを誘ってみたのである。
ブンブクは、
「わかりました。
すいません、ちょっとだけ空けます」
と、付いてきてくれた。
皆から少し離れた場所で、我愛羅はこう問うた。
「おまえは何者なんだ」と。
我愛羅さんから、
「おまえは何者なんだ」と問われた僕は、
「うーん、自分でも何者なんでしょうねえ…」
としか答えようがなかった。
木の葉隠れの里出身の忍者候補生、木の葉にある血継限界の一族茶釜宗家の長男、元化け狸の転生者、化け狸と口寄せの契約をした者、いろいろあるけどなんか我愛羅さんへの答えとはちょっと違う気がするんだよなあ。
「聞いたんだが、うずまきナルトの環境を改善したのはお前だそうだな」
は? 兄ちゃんの環境ですか。
確かに兄ちゃんは昔九尾の化身だって言われていじめを受けてましたけど。
「僕だけじゃないですよ。
兄ちゃんのために動いたのはあの世代のみんなですし」
そう、シカマルさんをはじめ、チョウジさんやシノさん、キバさんとか、同年代の男の子はみんな動いていたんだ。
僕たちはみんなで里を動かした。
子どもだからなにも出来ないんじゃない。
何もしないからできないんだ。
もちろんできない事をしても出来る訳じゃない。
出来る事から少しずつ積み重ねて、出来る事を増やして、そして話を聞いてくれる大人を増やして、それでなんとかしたんだ。
けっして僕1人がした事じゃない。
「僕がしたのは初めの一歩、それだけなんです」
僕がそう言うと、
「そうか…」
我愛羅さんはそう言ってうっすらと笑った。
僕はうれしくなってもっと笑った。
「ところで」
我愛羅さんがそう言った。
「ブンブクの中には化け狸がいるそうだな?」
あれ? なんで御存じ?
…あ、そういうことかな?
「もしかして一尾さんに聞きましたか?」
「そうだ、
おや、もうお互い名乗りあう仲になってらした、と。
“それはそれは… フッフッフ…”
文福さんなんかえらい嬉しそうですね。
「彼に会えないか?」
ああ、ちょっと待って下さいね。
手持ちの兵糧丸ってどれくらいあったっけ?
正直言って今のチャクラ量からするとちょっと心もとない気が…。
“多分大丈夫だと思いますよ?”
? なんでです?
“ここしばらくヒルゼンさまの命で私を呼び出させ続けていたでしょう?
あれのおかげで若干なりともチャクラが増えているのですよ”
え! 本当!?
“まあ微々たるものですが”
持ち上げて落とすのはやめましょうよ。
“それと同時に私を呼び出す効率もかなり上がっているのですよ”
つまりチャクラの消費が少なくなっていると?
“そうですね。
口寄せ全般の経験が積めたようなものです”
へえ。
んじゃ、カモくんを呼ぶのが最近だいぶ楽になったと思ってたのは…。
“そのためだと思われます”
むう、ヒルゼンさまの趣味に付き合って、少しは僕にメリットがあったという事ですか。
それはともかく、兵糧丸のストックもあるし、たぶん行けるだろう。
経費ということで秋道印の兵糧丸をそれなりにもらっているので、おこずかいへのダメージもないし。
横領? 知りませんな。
僕はまだ忍術学校の生徒です。
本来ならこんなエライ場に来てていいもんじゃないんです。
「ええ、大丈夫ですよ。
んじゃちょっと変わりますね」
そういうと、僕は文福さんと交代した。
我愛羅はブンブクが化け狸文福に変わっていくのを茫然と眺めていた。
変化の術は忍術学校の高学年で習得する術ではあるが、基本的に見たものそのままに化けられれば合格点をもらえるものだ。
空想のものなどに化ける場合、術者のイメージに大きく左右され、大概がどこかに歪みを生じるものだ。
目の前に出でた人外はその不自然さがない。
直立する身長140㎝ほどの狸。
古めかしい着物を着て、頭には布製の冠が乗っている。
それは我愛羅を見てにっこりと笑い(狸そのものの顔なのに表情が理解できた)、こう言った。
「私が守鶴の古い友人の『文福』と申します、守鶴の人柱力殿」
「ああ、オレが我愛羅だ」
“シシシッ、我愛羅、なに緊張してんだア?”
「守鶴、あなたはまたそのような、我愛羅殿とて初めての相手で多少なりとも緊張いたしますでしょうに」
“あぁん? こいつにそんな配慮なんざいらねえってえの!”
「確かに必要ないな、楽にしてくれ」
ざっくばらんな守鶴と我愛羅に、
「それではそうさせていただきますよ」
文福は相好を崩した。
彼は懐から風呂敷を取り出した。
“おい、そいつぁ…”
「ええ、そうです。
里で織った織物ですねえ。
これなかなか面白い代物でして…」
文福がそう言うなり、風呂敷はばさりと広がり、まるで粘土のようにぼこぼこと歪み…。
そこには洋風のテーブルセットがあった。
「…凄いものだな」
我愛羅が感嘆する。
ブンブクではこうはいくまい。
チャクラを共有しているとはいえ、ブンブクと文福ではその技量に天と地の差があった。
「まずお座り下さいな」
文福が言う。
「すまないな、本来ならば俺が用意しなければならんのだが」
「気にする必要はありませんよ、守鶴の人柱力である以上、あなたも身内のようなものです」
「しかし、オレは守鶴を閉じ込めている檻のようなものだ、それを…」
「捕まるほうが悪い」
“おいっ!!”
「事実でしょうが」
文福は守鶴にも容赦がない。
「いやなら頑張って脱出するか、人柱力の方と仲良くなって出してもらうかしなさいな。
噂では八尾殿は人柱力殿とうまくやっておられるようですよ」
“…むう”
この2人の力関係が意外な方向を向いているのに驚いた我愛羅。
“おい我愛羅、砂分身でオレの分体作れや”
唐突に我愛羅に要求をする守鶴。
我愛羅はしばし考え、
「分かった」
そう言うと印を結び、
「砂遁・砂分身!」
2メートルサイズの一尾の守鶴を生み出した。
「ほう、うまいものですね、では私も…」
文福もまた印を結び、そこに現れたのは、
「…一体これはどういう状況?」
文福と交代で記憶の中で眠っているはずの茶釜ブンブクであった。
なんか凄い事になってるなあ。
我愛羅さんの隣に関取もかくやという体格の一尾の守鶴さん、僕の隣に昔の官吏の格好をした文福さん。
すっごいカオスだよね。
本来ならば出てこれない人たちが出てきちゃってるんだから。
砂隠れの里の人たちが見たら発狂するんじゃないでしょうか。
「シャシャシャ、こういうのは面子が多い方がおもしれえからなあ。
おいガキ、酒持ってこい」
いやそう言われても。
向こうでやってたバーベキューはあくまでお子様向けでして、酒は持ってきてないんですよ。
「つっまんねえなあ、おい!
…じゃ、あれだ。
ガキ、里の連中呼んで来い」
すっげえ無茶ぶりキターッ!!
え、そんな無茶な!
「あんときゃ呼べただろうが、ああん!?
それとも出来ねえとでも言うのか!?」
そもそもあれは先方の予定が空いてれば、ってのがあるんですよ。
強制的に呼びつける術じゃないんですって!
「良いから呼べってーのー!
せっかく外に出られたのにつまんねーだろー!
久々に里の酒飲ませろってーの!」
だだっ子モードに入った守鶴さん。
助けて文福さん。
そういう目で文福さんを見ると。
「…」悟った目をしておられる。
あ、無理ですか。
我愛羅さんは展開についていけず呆然。
ここは僕が締めるしかないのか!
さて、しょうがないのでカモくんに連絡を取ると…。
“あれ、どしたんすか兄貴、お仕事の方はうまく言ったって話だったじゃないすか?”
“うん、まあそうなんだけどね。
ちょっと宴会で接待をね、しなきゃなんなくて…”
“兄貴、お酒は20歳からっすよ…”
そう言う意味じゃない。
“いまさ、砂隠れの里の守鶴さんに頼まれてさ、そっちのお酒とか回してもらえない?”
“なんすかそれ? 一尾様が人柱力の外に出てるってんですかい? まさかそんな…”
“そのまさかだったりするんだけど、どうかな?”
そう伝えるとカモくんはしばらく黙りこみ…。
黙りこみ…。
黙りこみ…。
ねえカモくん、なにがあったの?
“兄貴、落ち着いて聞いてくだせえ…”
何その嫌な予感マックス状態は!?
“今最上級の酒を用意するって話です”
ほっ、そう。
んじゃよろしくね。
カモくんを召喚すればいいんだよね。
“いや、それがっすね…”
…勘弁してほしいなあ。
守鶴は上機嫌だ。
どうやら何百年かぶり、もしかしたら1000年ぶりくらいに化け狸の里の酒が飲めるかもしれない。
これはワクワクする。
我愛羅が説明を求めているが、気にならない。
「大丈夫、全部任せろ」
守鶴はそう言う。
その言葉に嫌な予感が強くなる我愛羅。
この際守鶴を引っ込めてしまおうか、そう思った時である。
ブンブクの本体を使っている化け狸文福がスイと両手を前にかざし、流れるように印を組んだ。
そして、
「口寄せ・狸穴大明神、狸燈篭…」
この術が、砂隠れの里にさらなる混乱と、安定をもたらすものになるとは、その場にいた誰もが予想できなかった事だった。
文福さんが術を使うと、巨大な鳥居と4対8基のこれまた巨大な燈篭が地面から湧き上がってきた。
来ちゃうんだあ。
そしてその奥、鳥居の奥の暗闇から、お囃子としか言いようのない音楽が流れてきた。
笛と太鼓、
そして、僕たちの目の前に、混乱がやってきた。
まずはっぴを着た楽師のみなさんが20人ほど、これは僕より小さいかおんなじくらい。
で、これが抜けると笠ときらびやかな衣装に身を包んだ踊り手さんたちがまた20人くらい。
で、こっからが混乱。
まるで歌舞伎役者のようにポーズを決めた守鶴さんが飾られた、全長5メートルくらいの大きな奴が、20人くらいの人に引っ張られて登場。
その後ろからは思い思いの姿に変化した大物さんたちが。
チンドン屋さん、大名行列、武者行列、百鬼夜行、サンバカーニバル、サーカスの宣伝、なんかよくわかんないもの。
そう言うのが列を成してやってくるのです。
「何をやって……!?」
ガイさんやバキさん達もやってきましたが混沌としたこの状況が理解できず、フリーズしてらっしゃいます。
「ブンブク、なにが起きておるのじゃ?」
ああ、冷静なのはコハルさまですか。
やはり年の功ですね。
「はあ、実はですね…」
かくかくしかじか。
僕がコハルさまに事情を説明している間にも、化け狸の行列はとどまる事を知らず。
最終的に200を優に超える化け狸がやって来ていたようです。
…あ、これまずいよね。
「コハルさま、これは里のお歴々に伝えなくても良いんでしょうか?」
僕がそう言うと、コハルさまはしばし思案して、
「それはバキ殿と我愛羅殿にお願いしようかの?
これを利用すれば我愛羅殿にも有利に働こうほどに」
? どういうことでしょうか?
「これを我愛羅殿が一尾を抑えきっている証と思わせれば良い。
そうすることで我愛羅殿には里における求心力が生まれるということじゃ」
なるほど、このアクシデントを生かす訳ですね。
そうなると僕らの役目は、
「里の者達とこの化け狸どもが衝突しないよう見張る、という事になるの」
分かりました、なんとかします。
その夜、僕たちは全員とてつもない疲労に襲われる事になった。
いやだから彼らは敵じゃないんですって!
攻撃しちゃだめー!
ハイ
このまんまだと戦争になっちゃうから!
え? 戦争大賛成!?
戦争は娯楽じゃなーい!
エロもだめーッ!
若い人たちを桃源郷にってやーめーてー!
狸が化けてんですよ!
乗るとかうまく言ってって何の話ですか! このエロ酔っぱらいどもー!!
そして次の日、化け狸のみなさんが帰った後、里は一日機能停止状態になったという。
ホントにこの時何にもなくてよかった。
何かあったら僕の責任にされてたかもしれない。
この日の事は里の一般人には伏せられた。
しかし人の耳に戸は立てられぬとも言う。
我愛羅が一尾を抑えきることができ、その力を以って100の妖怪を抑えたとの噂が里に広がり、我愛羅の力を示した事になった。
この話が広まったことで我愛羅に対する支持率が上昇、里の安定に貢献することとなる。
また、この日から砂隠れの里では化け狸、化け鼬などとの交流が見られるようになり、テマリが鎌鼬と口寄せの契約を結ぶなど、一部忍の戦力拡大にもつながったようだ。
そしてこの日からある者の名前が里の忍たちの間で広まる事になる。
茶釜ブンブク。
まだ幼い少年ながら化け狸を何匹も呼びだす凄腕の忍として、また、5代目風影・我愛羅と木の葉隠れの里を結ぶものとして、影の参謀役として、その名前は広まっていく。
本人の実力や意向を一切無視する形で。
あわれである。
なんかものすごい嫌な予感がします。
これはさっさと木の葉隠れの里に帰った方が良いよね!
きっと、多分、メイビー。
という訳で木の葉隠れの里に帰る日がやってきました。
「激動の2週間だったじゃん」
そうですね、本当ね、カンクロウさん。
「またおいでよ、で、そのときはさ、またたぬきもーどでさ…」
僕としては不本意なんですがね、テマリさん。
テマリさんの撫で方は確かに魅力的なんですけどねえ。
なんというか、僕にも男のプライドというものがね…。
「だいぶ世話になったな、また来るといい、今度は仕事抜きでな」
そうさせていただきます、バキさん。
「…本当に世話になったな、ブンブク。」
我愛羅さん。
本当に大変なのはあなたじゃないですか。
僕たちはちょこっとだけ手助けしただけです。
後はカンクロウさんやテマリさんが助けてくれますって。
「まあ、そうだな。
守鶴は今一眠りしている。
多分淋しいんだろう。」
“余計なお世話だ”
あ、狸寝入りですね。
“うまくねーぞ”
…じゃ、守鶴さんもまた。
答えは返ってこなかったけど、なんか守鶴さんが尻尾を振ってあいさつしてくれたような気がした。
さてそれじゃあ帰ろうか、僕たちの家、木の葉隠れの里に。
そう思っていた僕の所に、我愛羅さんが近づいてきた。
「我愛羅さん、僕たちはそろそろ行きますね」
僕がそう言うと、
「そう言えば、オレはお前の術を見せてもらったが、オレの術は見せていなかったな、と思ってな」
そう言うと、我愛羅さんはコハルさまの所へ行き、何か話しているようだ。
ほんの少しの間、我愛羅さんとコハルさまの話は続き、何らかの結論が出たようです。
「木の葉隠れの皆、少しまとまってくれるか?」
我愛羅さんは僕たちと、駕籠かきをしてくれる下忍のお2人に出来るだけ近くにいるようにといった後、
「ブンブク、オレの術を見せよう。
砂遁・流砂漠流!」
印を結び、その瞬間、
どんっ!
地面が大きく持ち上がり、どんどん僕たちは上昇していく!
これは!
「オレの術、流砂瀑流の変形でな。
本来は砂雪崩で敵を押しつぶす忍術だが、これは上昇方向への力を加えている。
そして、ここから、砂遁・砂漠浮遊の術!」
上に持ち上げられた砂の一部がまるで絨毯のように広がり、僕たちを乗せている。
凄い、僕はここまでの高度に上がった事はなかった。
砂隠れの里が小さく見える。
人なんて認識できないほどだ。
そしてどこまでも広がる砂漠。
ほんとに雄大で、美しい。
僕だけじゃなく、みんなもこの絶景に度肝を抜かれているようだ。
我愛羅さんはいつもの無表情にほんの少しだけ得意げな笑みを浮かべ、
「木の葉は確かに豊かで美しい。
だが、風の国もまたかくも美しい。
オレはその事のやっと気付いた。
木の葉と砂は確かに違う。だからと言って砂が木の葉に劣っているわけではない、その事を教えてくれたお前たちに感謝する。
これはその礼だ」
そう言って、我愛羅さんは絨毯の一部を切り離した。
「このまま飛べば数時間で風の国の国境まで着く。
それまで空中遊泳を楽しんでくれ」
砂の絨毯は一路国境を目指し始めた。
僕たちはその間砂漠の絶景を堪能する事が出来たんだ。
「うぶえぇぇぇっっ!!」
乗り物酔いに襲われたガイさんを除いては。
なお、この空中遊泳にて帰りの時間が丸一日どころではなく速くなりまして、迎えの忍の人たちが出立しようとして時にはもう僕たちは帰りついていた、という事態になりました。
準備が無駄になったと猿飛アスマ上忍に怒られましたが、それはまた別の話です。
ラストのあたり、ちょこっと付け足しました。
ここからまた書き溜めに入ります。
若干の時間をいただくかもしれません。