NARUTO 狐狸忍法帖   作:黒羆屋

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第19話

 …茶釜ブンブクです。

 睡眠時間がほしいです。

 ここ2日ほど寝てません。

 僕のような子どもにこれは虐待だと思うのです。

「…すまない、苦労を掛ける」

 いえっ! 気にしないでください我愛羅さんっ!

 大丈夫ですから!

「オレは眠いじゃん…」

 はいそこっ! 愚痴言ってないで手を動かしてっ!

 現在僕たちは修羅場にいます。

 木の葉隠れの里の特使にあてがわれた宿の一角。

 そこはさまざまな書類がうずたかく積まれております。

 ちゃぶ台がいくつかとそこにひっきりなしに出入りするお兄さんたち。

 そして僕とカンクロウさんは書類を見合わせながら資料をまとめて行く作業に忙殺されている真っ最中です。

 なんでこんなことになったんでせう。

 それは4日ほど前にさかのぼります。

 

 

 

 あの後カンクロウさんに引っ張って行かれたのは砂隠れ、木の葉隠れの両陣営上層部を交えた会議の場でした。

 丁度今日の話し合いは終了したようで、残っているのはうたたねコハルさま、マイト・ガイさん、砂隠れのバキさんとテマリさん、我愛羅さんでした。

 …どうやらあんまり話し合いはうまくいっていない様子。

 ガイさん、バキさんがいら立ちを顔に出してました。

 コハルさま、我愛羅さんはそうでもないんですけど、やはりどこか落ち着かない雰囲気をしております。

「会見はどうだったじゃん?」

 カンクロウさんが我愛羅さんに聞いています。

 その前にテマリさんが、

「カンクロウ! お前はなぜここにいなかった!?」

 と怒ってますが、さっきの話を総合すると、カンクロウさんはここにいなかった方が良かったと思います。

「まあまあ、そんときオレがいたら邪魔になるだけじゃん?

 空気読んだだけだっての」

 カンクロウさん気楽ですね。

 というか、気軽に見せているだけかな?

 なかなか本心見せなさそうだしねえ。

「で、そこの坊やはなんでここにいるのかしら?」

 僕が聞きたいです、それは。

 僕はカンクロウさんに引っ張ってこられただけなので。

「お前、何自分には関係ない、って顔してるじゃん?

 明らかに当事者だから」

 そんな馬鹿な!?

 僕はただの子どもです! 政治なんて面倒な場所に引っ張り出されるいわれはない!

「あんだけ語っておいて何言ってるじゃん?」

「…ふむ、何を語ったか興味があるな」

 我愛羅さんが興味を持ってしまった!

「確かにな」

「どんな話を?」

 バキさんとテマリさんも!

 どんどん包囲網が狭まっていく気がする!?

「ブンブク、命令じゃ、話してみよ」

 コハルさまからの命令が出てしまいました…。

 しょうがないなあ。

 やりたくない~。

 一つ深呼吸をして、と。

「それでは」と僕はさっきカンクロウさんと話した内容を思い出し、頭の中でまとめながら話し始めた。

 

「一体何の話だ!?」

 ガイさんには後から説明します。

 

 

 

 ブンブクが話し始めてから1時間ほど。

 周囲の者たちはその発想に圧倒されていた。

 うたたねコハルは驚きを隠せないでいた。

 なるほど、ダンゾウの奴がほしがるわけだわい。

 木の葉隠れの里の忍術学校のシステムは2代目火影・千手扉間と3代目火影・猿飛ヒルゼンの2人が提唱、完成させたものである。

 それを他国の里に輸出することは相対的に木の葉隠れの里を不利にする行動なのではないか、そうコハルは考えていた。

 そのため、砂隠れの里の忍術学校の改革に関して、コハルは消極的であった。

 一方積極的であったのはヒルゼンと、意外な事に5代目火影・志村ダンゾウであった。

 ヒルゼンはともかく、ダンゾウは里の秘伝を外部に輸出するようなことは考えないと思っていたのだが。

 火影となってダンゾウも変わったのかもしれん。

 コハルはそう思うのだ。

 そのダンゾウが目を掛けている少年。

 最初は茶釜の一族を「根」に取り込むための方策ではないかと疑っていた。

「根」にとって、茶釜一族の滅私の精神は非常に有用だ。

 しかし、いつの頃からかダンゾウは茶釜の者を側に置く事をしなくなっていた。

 コハルは、それがダンゾウなりのけじめなのが分かっていた。

 子どものころからの付き合いだ、ダンゾウが冷血漢ではないことくらいわかっていた。

 ダンゾウは冷血漢を装わなければならない仕事をしてきた。

 そのためには部下にも情ではなく、理で接する必要があった。

 必要なれば死なせなければならない。

 そういった必要な時に「死」んでもらう部下を揃えなければならなかった。

 とはいえ、同じ一族のものをバタバタと死なせてもそれは問題だろう。

 その一族が衰退していってしまうのだから。

 かつて、うちは一族は「自分たちのみが何故犠牲にならねばならない!?」と反乱を起こそうとした。

 はたしてそれは事実だろうか。

 3度の忍界大戦。

 うちはの忍は確かに数多く死んでいった。

 だが、それは里の多くの家も同じこと。

 うちはのみが犠牲になった、それは本当の事なのか。

 木の葉隠れの里の上層部と、うちは一族の確執は強い。

 うちはから見たなら、木の葉は自分たちを切り捨てた。ならば武力にて里を自分たちのものにしても良いだろう、そう考えたのだろうか。

 ならば里から見たうちははどうか。

 里にあるにもかかわらず閉鎖的な一族。

 里にある他家とどのように関わっていたのか。

 うちはは天才の家系であるとされている。

 里の民がうちはを敬して遠ざけるならうちはは他の一族を、劣る存在として軽蔑していなかっただろうか。

 一族への愛が強いうちはは、その愛ゆえに他の一族を顧みなかった。

 お互いに歩み寄る事が出来なかった。

 それがうちは滅亡へとつながったというのに。

 茶釜一族。

 木の葉の裏を取り仕切るダンゾウにとってこの上ない手駒となってくれたものたちの一族。

 情を消し、ただ里のために尽くすのでなく、情を以って里に尽くしてくれた者達。

 ダンゾウにとって、そしてコハルにとっても死なせたくないものたちであり、そうであるが故に死なせてしまった者達。

 木の葉にとって必要な死であり、それを受け入れて死んでいく、それができる者たちがどれだけいるのか。

 ダンゾウにとってその命はかけがえのないものであり、いつの頃からか茶釜のものをダンゾウは配下にすることをやめていた。

 そのダンゾウが目を掛けている、コハルはそれをどう捉えてば良いか分からなかった。

 なるほど。

 これは「才」である、と。

 ブンブクは木の葉隠れの里、火の国と、砂隠れの里、風の国という1つの集団からの視点ではなく、国や里がある世界全体からの視点を持っているのだと。

 忍の5大国及びその周辺の国はある意味1つの文化圏を形成していると考えて良い。

 ブンブクはある意味その文化圏を一つの集団としてとらえ、その全体に利益があるように誘導をしようとしている。

 確かに火影の考案した教育制度を砂隠れの里に輸出するならそれは木の葉隠れの里の損失になるだろう。

 しかし、砂隠れの里に置いてその制度が定着し、西方との交易が始まるとすればどうか。

 この地方の交易の中心は火の国である。

 西方から流れてきた品物、情報は火の国に流れ込んでくることにもなろう。

 そうなれば木の葉隠れの里もうまくやるなら十分な利益が見込める事だろう。

 また、砂漠の商隊の護衛を主とする忍なれば木の葉隠れの里との競合はまず起こり得ない。

 商売敵となる確率は高くない事を考えれば、双方に損はない。

 むしろここで砂隠れの里に恩を売る事が出来る分、こちらにとって得になる可能性が高いとコハルは計算する。

 そうなると、自分たちを説得したこの内容を、砂隠れの里の石頭どもに理解させる必要がある訳だ。

 それはこの子どもにやらせよう。

 ダンゾウもそれを期待しておるのだろうし。

 もしもコハルの思惑が分かったなら、ブンブクが地面を米つきバッタのごとくのたうちまわりかねない事を考えながら、その段取りをコハルは考えていた。

 

 

 

 そして結局、砂隠れの里の上層部のみなさんに新風影さまである我愛羅さんの新政策である忍術学校の改革についてのプレゼンを、僕とカンクロウさんが担当する事になりました。

 2人とも抵抗したんだけどねえ。

 あ、ちなみに、我愛羅さんのことを「5代目風影さま」と呼ぼうとしたら、何か微妙な顔をされまして、今まで通り我愛羅さんで呼ぶ事になりました。

 で、コハルさま直々の命令で、木の葉隠れの里から送られて来る学校関係の資料の精査と、砂隠れの里の現状を示した資料の解読をする事になりました。 

 …こんなん10歳やそこらの子どもにさせる事じゃありませんよね。

 しかもアシスタントとして15歳の少年とか、マンパワーが足りませんっての!

 それでも必死に情報整理ですよ。

 ええっと、ここ10年間の忍務数の推移っと… !?

 なにこれ!?

 ほとんどDランクの仕事がない?

 基本的にCランクからってどういう事!?

 僕の推測が正しかったのが証明された感じだけど、ここまでDランクの仕事がないっておかしくないか?

「カンクロウさん、Dランクの仕事ってこんなに少ないんですか?」

「? なんかおかしいのか?」

 カンクロウさんの認識だと別におかしくない、と。

 確かに危険の少ない仕事って多くはないんだけどさ。

 でもお使いレベルの小遣い稼ぎの出来るお仕事とかで連携とか覚えていくもんだと思ったんだけど。

「そんなん実戦でやる事じゃん。

 失敗したら死ぬだけだし」

 うーんワイルド。

 サスケさんとかこういう思考回路だよなあ。

 そうなるとあれか、うちは一族ってずいぶんと里に馴染んでなかったんだろうか。

 里の中での孤立、それは一族のきずなを深めるけど、同時に周りとの溝を深めることにもなるしなあ。

 里の方でどうにかできなかったんだろうかなあ。

 …いけない、逃避行動なんてしてる暇ないんですから。

 これはカンクロウさんにちょっと聞いてみる必要があるなあ。

 

 カンクロウさんからいろいろ聞き出したところ、どうやらDランク任務が少ないのは風の国の生活圏が関わっている事が分かってきた。

 砂隠れの里や、風の国の首都など、大都市圏はともかく、一般的な人たちはオアシスに定住するか、その周辺を遊牧するかのどちらかだけど、遊牧している人たちは定住していないために依頼をしづらい傾向にあるらしい。

 これは一族単位で依頼をまとめるとか、いろいろやらないとDランクの依頼が増えないかな?

 それに生活圏が広範囲なんでやっぱり里の外に出て任務を受けられる有名血統じゃあない忍がもっと必要だね。

 これもプレゼンに取り込んだ上で今後の課題として設定しとかなきゃね。

 ほかには、商人さんの組合から要望とかあるといいよね。

 お金儲けの機会なんだしさ、ちょっと聞いてきてもらおう。

「すいません、カンクロウさん、ちょっと良いですか?」

「良くねえじゃん、いっそがしいじゃんよ」

 即返答が来ましたね。

 そんなに僕の話は聞きたくない、と。

「仕事増えるじゃん!

 これ以上仕事増えたらマジで死ぬじゃんよ!?」

 …まあ分かりますけどね。

 でも却下。

「駄目です、聞いてください。

 商工会議所で西方への業務拡大を狙いたい人たちがどれくらいいるか」

「…また面倒な事を」

「必要ですから。

 忍なんですから里にもそういう情報あるでしょ?

 よろしくぅ~。

 あ、後ついでに何か甘いもの買って来て下さい」

「…はあ、しゃあねえじゃん。

 こういうのはテマリに任せるじゃん」

 カンクロウさんは出て行った。

 ついでに少し休んできてほしい。

 さすがにお互い限界が近い気がする。

 カンクロウさんが戻ったら今度は僕が休ませてもらおうっと。

 

 

 

 カンクロウが一休みを入れ、戻ってくるとブンブクが奇妙な歌を口ずさみながらハイテンションを維持しつつ仕事をこなしていた。

 これはやばい。

 普段のテンションよりもおかしくなっているカンクロウから見ても異常だ。

 ゆーはしょっくう、いやっは~、とか言いながらばりばりと何かを書きつけている姿はとても10代の少年には見えない。

 なんというか、盆前やクリスマス前の修羅場、と言えば分かる人には分かるだろうか。

 カンクロウはブンブクに休憩を入れるよう言う事にした。

「おおい、大丈夫かあ?」

「いやははあ、大丈夫な訳ないじゃないですかあ」

 とっても良い笑顔でそう言い切るブンブク。

 だめだ、ほんとにまずい。

「まずちょっと休みいれるじゃん!

 さっきテマリに話通したから、しばらくすれば商人どもの情報も集まってくるって」

 そう言うとブンブクはふらりと立ち上がり、

「ほいじゃあ、1時間だけ寝かしてください」

 そういったかと思うと、

 

 ぼむんっ!!

 

 煙と共に消えうせた。

「!」

 驚いたカンクロウが周囲を見回すと、

 からん…。

 椅子の上に、手のひらサイズの鉄器が転がっていた。

 おそるおそる拾い上げるカンクロウ。

 すると、

“カンクロウさん、そのまま置いといて下さい”

 ブンブクの声がかすかにした。

 これはどういうことだ?

 カンクロウが茫然としていると、先ほどの声が、

“気にしないでください。

 これ、省エネモードなんです”

 ? しょうえねもおど?

 なんのことだかよく分からないカンクロウ。

 そうすると、

 ぽへん

 という間抜けな音と共に、その鉄器、茶釜に、

 何とも間抜けな狸の顔、手足と狸の尻尾が生えた。

 

 

 

 カンクロウさんがなんというか茫然と僕を見ていた。

「ブ、ブンブク?」

 何故に疑問形?

 …あ、そっか。

 今の僕って…。

「今のこの姿ですか?

 これは準省エネモードの『ブンブク・文福茶釜モード』です!」

 そう! これは僕の血継限界を余すことなく使うための研究から生まれたチャクラ回復をしつつ、周囲の警戒ができるように生み出された術なのである!

 本来は金遁・九十九(つくも)変化、というらしいんだけど、なんか僕がやると茶釜を着込んだ狸のようになるんだよねえ。

 で、僕の前世である文福さんのちなんで文福茶釜という名前をおっとうとおっかあからもらったんだ。

 出来るようになったのはそれこそ中忍試験が終わった後くらい。

 連日病院で慣れない介護のお手伝いをするのは肉体的にも、精神的にもきついものだった。

 で、おっとうに疲れを軽減する方法はないか、と聞いたところ、金遁・九十九変化を教えてもらったのだ。

 最初に成功した時はさすがのおっとうも驚いていたけど、おっかあは「あらまぁ、かわいいねぇ」と言ってくれていたので僕的にはオッケイでした。

 というわけでこの姿で休むと通常よりもぐっすり眠る事が出来るんですよ。

 そこいら辺をカンクロウさんに説明すると、

「あ~、お前ってなぞ生物だったんだあ…」

 なんですか、なぞ生物って? 全く失敬な。

 ま、これで半日ゆっくりしたくらいは休みが取れるはず。

 それじゃお休みなさい。

 

 おはようございます。

 大体1時間くらいなは…ず…?

 なんだろう、えらい気持ちいい。

 こう、良い感じでブラッシングされているような…。

 目を開けるとそこには、

「テマリさん、そろそろ変わって下さいよ!?」

「いや! この手触り、さいっこうよ~!!」

 なんでしょう、僕は今、テマリさんの掌に乗せられている様子。

 周りにはテンテンさんとか、あと女の子、多分忍、の人たちが何人かいらっしゃる。

 それにしても、今の声はテマリさんだったよね。

 まるで山中いのさんが言ってたような…。

 僕が目を開けて周りを見回すと、お姉さんたちがあわてて向こうを向いた。

 なんぞ?

 僕が首をかしげると、さらにお姉さんが耳まで赤くなっている。

 よく分かんない反応をしてるなあ。

 で、

「テマリさん、なにしてるんです?」

 ほんとにね。

 テマリさんは焦りを少々見せながら、

「い、いや、こういった変化って珍しいからさ、ちょっと見せてもらおうかと…」

 …まあ確かに、こんな童話に出てきそうな姿に変化する奴も珍しいかもしんないけどさ。

 ちょっと傷つくなあ。

 僕がちょっとしょんぼりしているのに気付いたのか、

「だ、大丈夫よ、でも凄いじゃないの、この姿で休むと休憩の効率が良いんでしょ?」

 テマリさんが僕を持ち上げに来る。

 まあ、あんまり心配をかけるのも良くないよね。

 僕はテマリさんの掌方ひょいと下りると、

 

 ぼんっ!

 

 といつもの人型に戻った。

 ? なに? その残念そうな目は?

 そんなに文福茶釜姿は楽しいのだろうか?

 とにかく、さっさと仕事を完遂しなければならん訳でして。

 すぐ脇ではカンクロウさんが一生懸命仕事してるし。

 さあ、僕も頑張ろう! 

 …ちなみに、この時の僕は寝ぼけていて判断能力ががっくりと下がっていた。

 後日女性陣が僕を見て騒いでいた理由を理解して、僕ががっくりと落ち込むのはまた別の話。

 

 それから数日間、カンクロウさんと僕の地獄は続き、睡眠時間は減ってそれと相対するようにお茶の味は濃くなった。

 最後のあたりはカンクロウさんと一緒に「Go! ホノレンジャー」を大合唱しながらプレゼンを完成させた。

 完成して丸1日寝ていたけど、起きてきたときにはカンクロウさんともども我愛羅派の人たちから万歳三唱をされた。

 もうね、なんていうか力作だったから。

 正直調査からプレゼンの完成まで1週間そこそこって尋常じゃなく早いと思うんだよね。

 コハルさまからも、

「よくやったの。

 これだけのものができるとは、思うてもみなんだわい。

 後はワシらに任せよ」

 という有り難いお言葉を頂いた。

 そう思うなら人員をもっと増やしてほしかった。

 例えば、日向ネジさんなら十分に役に立ったと思うんですけど。

 とか考えていたら、

「オレは警護に忙しかったからな。

 手伝えず残念だった」

 との言葉。

 ぜったいそんなこと考えてないよね。

 表情が「やらせられなくて良かった」って言ってるもん。

 もう絶対やんないもん。

 こんなデスマーチはもう勘弁。

 とはいえプレゼンをするための予行演習をしっかりしないとね。

 そういった下準備を繰り返しているとプレゼン当日となったのです。

 

 

 

 砂隠れの里において、その日は5代目風影・我愛羅の辣腕が初めて発揮された日であると記録されている。

 そもそも砂隠れの里においては、保守派が非常に強い勢力を持っていた。

 3代目、4代目の風影がその政治的技量をいかんなく発揮し、里をしっかりまとめていた事、むしろしっかりしすぎていたが故に、風影不在の折りに思考的柔軟性を発揮する事が出来なくなっていた保守派の上層部。

 そして日和見を決め込む中立派。

 本来中立派は我愛羅を5代目風影に押し上げた一大勢力であった。

 中立派と我愛羅を風影として認めている改革派を合わせると、保守派を若干超える勢力となる。

 改革派は中立派がいなければ我愛羅は風影に襲名する事もなかった。

 そのため、中立派の意見を無碍にする事が出来なくなっていた。

 中立派はその時の恩を盾に、改革派の動きを封じてきた。

 ところが、改革派はその日の会合に置いて、非常に効果的な説得を行ってきたのだ。

 その日、円卓に着いた各派閥の上部構成員達は、目の前に紙の束が置いてある事に気付いた。

「これはなにか」と尋ねると、改革を説明するための資料であるとのこと。

 ぱらりと中を確認した者たちは愕然とする。

 中には改革の意義、いくらかかるといった予算的な内容、成し得るのにどれくらいかかるかといった日数、そしてその効果。

 里の戦力としてどの程度の人員が準備できるか、そして彼らが任務をこなした場合、里に入ってくる収入まで。

 そういった、中立派としてはぜひとも知りたい内容が、そこには書き出されていたのだ。

 さらに、実際に会合が始まってみると、

「さて、忍術学校の改革を行った場合、10年後には下忍クラスの収入は…」

 改革の説明を行っているのはカンクロウであった。 

 プレゼンターがカンクロウであったため、カンクロウは我愛羅の派閥である事を強く印象付ける事となった。

 保守派にとっては大きなダメージとなり、中立派としても我愛羅に何かあった場合、カンクロウを担ぎ出すことは改革派に加担することと同義として見られる事になる。

 双方の派閥としては実に動きづらい状態となったのである。

 各派閥はそのため明確になった改革派の計画への攻撃を行うこととした。

 計画の穴をつく質問をし、計画が無謀であるとアピールしようとしたのである。

 しかし、その目論見は破たんした。

 改革派は保守派、中立派からの質問に対して、その内容を予測し、完全ともいえる解答・反論を用意していた。

 全ての反論を潰され、2派は改革派の政策を飲むしかなくなっていた。

 

 

 

「で、どうでした?」

 僕はプレゼンが終わった後にカンクロウさんに聞いてみた。

 カンクロウさんはにやりと笑うと、

「大・成・功じゃん!」

 そう言ってサムアップをして見せた。

 お、カンクロウさんもガイさんに感化されたか?

「なんか今お前ものっすごい失礼なこと考えなかったか?」

 ? そんなこと考えてませんけど?

「おっかしいじゃん。

 なんかえらい嫌な気配がしたんだが…。

 なんかこう、無駄に暑っ苦しい気配がしたんだけれど…」

 ならガイさんは違うね。

 あの人の熱さは無駄じゃないし、ぐっと拳を握りこむような燃えだもんね。

 しかしうまくいって良かった。

 さすがに僕は会場にいる事は出来ないし、いざって時のためにカモくんにコッソリついて行ってもらったのは良いんだけど、本当にそれが無駄になってよかった。

 まあ、これでカンクロウさんと我愛羅さんの間もうまくいくだろうし、里の中の3派のまとまりも出来るんじゃないかと思うし、全体として丸く収まったんじゃないだろうか。

 今回の僕のお仕事はこれで終わりと考えて良いかな。

 たぶんちょくちょく砂隠れの里には来る事になるんだろうけど。

「しっかし、今回はお前に助けられたなあ。

 お前、ほんとに凄いじゃん」

 なんてカンクロウさんが持ちあげてくるけど、それ言ったらカンクロウさんも一緒なんだけどね。

「何言ってんのさ。

 最終的にまとめたのってカンクロウさんじゃん」

「あんときは必死だったじゃんよ。

 それに実際のとこはお前の指示で動いてたようなもんじゃん?

 お前上忍の資質があるって」

 だーかーらーぁ、そう言うのはただの買いかぶりですっての。

「とにかく俺はただ礼が言いたいだけじゃん。

 お前のおかげで我愛羅が里の連中に認められる一歩を踏み出せたんじゃん。

 オレもそこに加わる事が出来たんだ、言う事なしじゃん」

 カンクロウさんはそう言って、にかっと笑った。

 僕もつられて笑う。

 僕たちはどちらからともなく拳骨を突きだし、軽くぶつけ合った。

 

 さて、その日の夜はささやかながら我愛羅さんが催してくれたお酒抜きの宴会です。

 なんでかって言うと、僕がまだお酒を飲めないから、だそうで。

 いや、大人のみなさんには何とも申し訳ない。

「何を言っている! 今回の会談がうまく言ったのはお前の功績でもあるんだぞ!

 謙遜するな、それ食え食え!!」

 なんかえらいテンションの高いガイさん。

「そうじゃの、ようやったブンブク」

 ストレートなおほめの言葉を下さるコハルさま。

「良いから食べなさいって」「そうそう、良いお肉焼けたよ」

 テンテンさんとテマリさんが焼けたばかりのお肉を僕の皿に置いていく。

 そう、この宴会だけど、いわゆるバーベキュー方式なのである。

 普段だと、たき火を囲みつつお肉を食べるのが砂隠れの宴会なのだそうだけれど、僕たち(木の葉隠れの人)が慣れてないだろうということで、この形にしたんだそう。

 ちなみに、お肉を焼いているのはなんと上忍のバキさん。

 いいのかな、里でも5指に入るくらいの強さの人じゃないの?

 そんな人の焼いてもらうなんて恐れ多い。

 そう思ったんだけど、砂隠れの里とか、この近辺の人たちのもてなしは年長の男性が肉を焼くのが習わしらしい。

 …とは言ってもですね。

「ガイさん、もうちょっと落ちついて食べてはいかがでしょうか…」

 もの凄い勢いでお肉を消費していくガイさん。

 焼くのが追い付いていません。

 

 宴会がひと段落して、みなさんがまったりし始めた頃。

「すこしいいか?」

 僕に声をかけてきたのは我愛羅さん。

 5代目風影さまであった。




あと1話で砂隠れの里編終了の予定。

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