カンクロウ、という個性をつかみかねておりまして。
これでよかったかなあ、と悩むところです。
おはようございます、茶釜ブンブクです。
僕たちはいま、朝食を頂いているところです。
食に関してはうちの里とあんまり変わらないのだろうか、パン食とスクランブルエッグ、生野菜のサラダに牛乳でした。
パンがちょっと硬めでしたが、これはこれで僕は好きですね。
おいしく頂きました。
僕がいるのは木の葉隠れの里の忍びにあてがわれた宿の一室。
上忍のマイト・ガイさんは1人部屋。
僕と日向ネジさんが2人部屋に休んでいる事になります。
ちなみに今はネジさんとテンテンさんとで宿の庭にて修行中。
ガイさんはうたたねコハルさまの護衛として現在風影邸にてお話し合いに参加しているところです。
で、僕はというと、時間が空いておりまして、地道にトレーニングをしているとこなわけです。
え? なんで話し合いに参加してないんだって?
いや、するわけないでしょう。
裏側はさておき、今回の僕の役割はコハルさまの小姓役ですから。
重要な話し合いの場には出られないんですよね。
まあ、出たとしても何ができるという訳でもないですしねえ。
しょせん僕は前世の知識があるってだけの子どもにすぎないんだし。
政治って本当にいろんな要因が複雑に絡んだものだし、知識だけじゃどうにもなんないものだから。
本当にヒルゼンさまとか、5代目とか凄いと思う。
自分たちと対等に渡り合う政治の猛者達と、何十年も戦って里の利益を守ってきたのだから。
今回の事で少しくらいはお手伝いを、なんて思って僕が甘かったです。
という訳で、今僕にできる事と言ったら地道な訓練くらいなのですよ。
我愛羅さんも、テマリさんやカンクロウさんも今頃は会談の真っ最中で…。
コンコン…
おや、誰でしょうか。
「はい、茶釜ブンブクです」
そうドア越しに声を掛けますと、
「おう、オレじゃん、カンクロウじゃん、ちっと開けてくれねえかな?」
は? カンクロウさん?
なんで今?
疑問符は付きますが、とりあえずドアを開けます。
そこにいたのは、間違いなくいつもの格好をしたカンクロウさんでした。
「久しぶりだな」
「そうですねえ、お互い激動の時期でしたから…」
なんかジジくさいセリフを吐きながら、宿の待合室でお茶をすする僕たち。
「しかし、てっきり今頃はコハルさまたちとの話し合いに参加してるもんだとばかり思ってましたけど」
僕がそう言うと、
「いろいろとあるじゃんよ、はあ…」
なんかえっらい疲れたため息をつかれました。
ほんとにどうしたんだろ。
「なんか、大丈夫?」
「正直、大丈夫、じゃない」
僕に弱音を吐くくらいしんどい、と。
あれかなあ、今までの情報を基に考えると、
「もしかして、兄弟関係に無粋な横槍、って感じ?」
「! なんで…」
「あ、テマリさん見てたら大体分かったよ?」
「テマリ、分かりやすいからなあ…」
あ、やっぱりそうなんだ。
カンクロウさんは分かりやすそうで自分を隠すすべがある様子。
テマリさんは隠してはいるものの分かりやすいタイプなんだろうなあ。
ちなみに我愛羅さんは感情を隠すとかそういうのを今まで経験してこなかったタイプ。
だから今頃いろいろ苦労してるんじゃないかと思う。
感情のコントロールは子どもの時って友達付き合いから始まるものだから。
うずまき兄ちゃんなんかもシカマルさんやキバさんなんかとの付き合いの中でそれを覚えて行ったんだしね。
そう言う点では僕はずるいのだろう。
前世の記憶からいろんな知識を引っ張ってきて対処してしまっているのだから。
もしかしたら一番自分自身で決める事ができないのは僕なのかもしれないなあ。
自分自身の選択を迫られた時、本当の僕はその選択ができるのか。
そんな事を考えてしまう。
「何たそがれてんじゃん?
ガキのする面じゃねえじゃんよ」
あれ、逆に心配されてしまった。
「お前さ、若年寄とか、年齢詐称とか言われた事ねえ?
妙にジジくせえじゃん」
ほっといて下さい。
カンクロウはこの妙に老成した子どもとどう関わろうかと考えていた。
いま、カンクロウは苦悩していた。
カンクロウの悩みは我愛羅とどう接するか、である。
かつての我愛羅には姉ともども恐怖しか感じていなかった。
それが、あの一件以来、我愛羅がやけに人間じみてきた。
まるで生まれなおしてきたように。
もともと、テマリは我愛羅に対して「姉」として接しようとしてきた。
かつての我愛羅はその接し方に拒否感を持っていたようで、死ぬことはなくともちょっとした怪我は日常茶飯事だった。
その姉を見て、カンクロウは我愛羅に何か求める事はしないと決め、会話も最低辺に済ませるようにしてきたのだ。
我愛羅との関係はそれでいいのだ、カンクロウはそう思い込むようにしていた。
それが変わったのがひと月前、「木の葉崩し」の一件以来である。
今まで周りのものを人として見ていなかった我愛羅が周囲と関わるようになってきたのだ。
テマリはその事に喜んでいたが、カンクロウはそうできなかった。
テマリと違い、カンクロウは人との関わりがそれほど好きな訳ではなかった。
人との関わるよりは、
いままで我愛羅はカンクロウにとって恐怖の対象にすぎなかった。
それがいきなり兄弟として親身に付き合え、と言われても簡単に出来るものではなかった。
そして気が付けば我愛羅は風影として祭り上げられ、自分も下手をするとその対抗馬として担ぎ出されかねない状況である。
正直に言って面倒なことこの上ない。
カンクロウは父の威光なぞ知った事ではなかった。
正確にいえば、親の七光りを背負ったところで自分が里の有力者どもの傀儡になり下がるのが分かっていたからである。
傀儡を使うものが傀儡にされるなぞ笑い話にもならない。
こういう時、姉の積極性をうらやましく感じる。
さりとて我愛羅と関わらない、という選択肢もカンクロウにはない。
どう関係を作るか、という事に悩んでいるだけでカンクロウにとっても我愛羅は弟なのだ。
しかも、4代目が暗殺された後の5代目風影という非常にかじ取りの難しい時期の里の長になってしまった。
彼の負担を軽減するためにも仲良くしたいと思う。
しかし、それに横槍を入れるものがおり、それらが問題を一層面倒なものにしてくれていた。
カンクロウは先代風影の年上の息子である。
それ故に、半月ほど前に行われた上層部の会議ではカンクロウを風影に、と推す者もいた。
あいつらは馬鹿じゃないのか。
つい口からそう罵声が飛び出そうになった。
若干15歳のガキに風影が務まると思っているのか。
風影は唯の名誉職ではない。
里の意思を代表し、また里の強さを示すものでなければならない。
それが分かっているはずだろうに。
上層部のお歴々は先々代の頃より面子が変わっていない。
年をとって変化に耐えられなくなったのではなかろうか。
カンクロウは里の未来が心配になる。
それと同時に我愛羅の苦難が目に見えるような気がした。
だからと言って自分が何とかしてやれるような状況でもない。
せめて上忍ほどの実力があるのであればともかく、今の自分はせいぜい特別上忍どまり。
里にいるたいがいの忍よりは強いと自負できるものの、政治的に我愛羅の役に立てるほどの強さは持っていない。
さりとて政治的手腕に優れるという事もない。
同年代をまとめ上げるようなカリスマはカンクロウにはなかった。
テマリであれば生来の押しの強さで同年代の連中をまとめ上げる事も出来ようが、残念なことに自分たち程度の年齢では里に大きな影響を与える事は難しい。
確かに、忍を教育する里で忍の発言力は大きいが、それは今までの成果を加味したものになる事は誰にでも分かる事である。
そして10代半ばの忍がどれだけの成果を成しているか、といえば推して知るべし。
その例外が我愛羅であり、その我愛羅とて、例えば上忍のバキに比べるならばそれほどの結果を残している訳ではない。
何せ自分たちが忍となったのは第3次忍界大戦の終結した後だったのだから。
大戦時に結果を残したものと平穏な時期に忍になったものでは発言力に大きな差がある。
だからこそ、現在の砂隠れの里の上層部は大きな顔ができているというものである。
とはいえ先にも述べたように上層部の入れ替えは先々代からほぼ変わっていない。
先の大戦で名を上げたバキが若輩として上がる程度か。
砂隠れの里の忍は強くあらねばならない。
そう言って父達は里の強化を行っていたはずなのだが。
下部の忍びたちが強くなったのに反比例して上層部は決定能力を失っているのかもしれない。
そうであるならば新しい風、この場合は我愛羅という風影を盛り立てる事で里はより強く、豊かになれるだろうに。
カンクロウは自分にできる事を模索し、苦悩していた。
そこにやって来たのが茶釜ブンブクである。
初めて会った時はあっけにとられたものだ。
ブンブクとの関わりはうずまきナルトとの関わりとほぼ同時期だ。
直情的で空気を読まないナルトと、それをフォローしようとするブンブク。
まるで掛け合い漫才のような勢いにカンクロウとテマリは呆れたものだ。
我愛羅のみが冷静であったようだが、その後、彼の年齢を聞いた時の事は今でも忘れられない。
あの我愛羅が、万年無表情で、戦いの時のみ表情を
カンクロウが初めて見る我愛羅の表情。
その後も、時々街中で見かけるたびにブンブクは我愛羅たちに挨拶をしてきた。
時には世話話も。
砂隠れの里において、我愛羅に来やすく話しかける者などいなかった。
その瞳には必ず、恐怖か畏怖、嫌悪の感情が浮かんでいたものである。
我愛羅に負の感情を持たず接してきた初めての人物。
あの子どもなら、もしかしたら。
そう考えていたところに当のブンブクが何故か木の葉隠れの里の特使の一団としてやってきたのである。
つい、カンクロウは彼にあってみたいなどと考えてしまった。
本来縁もゆかりもないただの子どもに話をしてみようかと思うくらいには、カンクロウも追い詰められていたのだろう。
軽く会話をして、我愛羅との会話の糸口をつかんでみるか、程度の気持だったのが、気が付いてみれば、ブンブクに今の自分の現状や気持ちなどをすっかりさらけ出していた。
「なるほどねえ、それはまた厄介な…」
カンクロウさんからえらい大変な事を聞いてしまいました。
やっぱり我愛羅さんには味方が少なく、敵が多いみたいだ。
年の若い指導者がトップに立つと、ベテランがふてくされるっていうのは聞くけど(情報源、はたけカカシ上忍)、砂隠れの里もそんな感じなのかしらん。
たしか、砂隠れの里のある風の国って、軍縮が進んでるって話だし、里の方にもそのしわ寄せが来てる感じなのかも。
砂隠れだとそいう言う事はしないのだろうか。
後からカンクロウさんに聞いてみよう。
カンクロウさんの話を総合すると、砂隠れの里の陣営は今、3つにわかれている様子。
1つ目が言わずと知れた我愛羅さんたち5代目風影陣営。
ここはまあ、正統派というかなんというか。
うたたねコハルさまがお話し合いをしているのがここだよね。
で、2つ目が我愛羅さんが風影を襲名したのが気にくわない、で、別の人にすべきだ、と言っている陣営。
どうやらカンクロウさんはこの連中に付きまとわれている様子。
兄弟の仲を裂こうとするろくでもない人たちだ。
そもそも風影をカンクロウさんにさせよう、という事はつまりその人たちの操り人形になれってことだろうし。
なりたくもない責任者にした上で、風影にしてやったんだから俺たちに便宜を図れ、って言いたいんだろうね。
ホント、ろくなもんじゃない。
で、最後の3つ目。
ここも問題、というかここが問題児。
我愛羅さんが5代目を襲名するのには協力したけど、里の運営には協力しない、というスタンスをとっている人たち。
これは非常に厄介だ。
5代目襲名を手伝ったという恩を着せておいて、我愛羅さんから攻撃を受けづらくしている訳。
で、その後には協力しないってことは、今の内に力を蓄えておいて、失敗したらその責任を全部我愛羅さんに押し付ける気なんだろう。
そしてその後に十分力を温存して置いたその人たちが里の権勢を握る、と。
たち悪いよね、これ。
この人たちはカンクロウさんが風影襲名を断るのが分かってるだろうなあ。
で、我愛羅さんがこけたらカンクロウさんを祭り上げる、と。
やっかいだね、この人たちは。
砂隠れの里を守りたいのは我愛羅さんも反対派のみなさんも同じなんだろうに。
意見の相違が絶対にすり合わせのできないものだって信じちゃってるんだろう。
そうなると、だ。
「カンクロウさん、我愛羅さんって5代目風影としてどんな政策を出してるんですか?」
たぶん、我愛羅さんは反対派の人たちが受け入れられない、砂隠れの里の常識を覆すような方針を打ち出したんじゃないだろうか。
それが反対派の人たち、特に表立って反対をしている人たちの逆鱗に触れたんじゃないかな?
そこを話し合う事が出来れば、もしかしたら我愛羅さんのシンパを増やす事が出来るんじゃないかって気がする。
「せ、政策?」
あ、そっからですか。
里を動かすにあたっていろんな問題がある。
その問題を明らかにして対策を考えてお金や人を割り当てる事、で、必要なら制度を変えて行こうって事。
そう説明すると、
「やっぱお前年齢詐称じゃん。
見た目はガキで頭はジジィじゃんよ」
だから誤解ですっての。
なんでみんな僕をそんなに大人びたやつにしたがるのやら。
“十分に大人びてますけどね”
文福さん、余計なお世話です。
で、カンクロウさんからいろんな話を聞く事が出来たんだけど、どうやら我愛羅さんは忍の育成に力を入れるつもりらしい。
僕らにとってうちの里の忍術学校の制度は当たり前のものだったけど、砂隠れの里の制度はまた違うものらしい。
徒弟制に近いもののようで、忍術、幻術の才能がある子どもたちを有力な忍の家系の人たちが修行をさせて下忍に育て、里からの任務をこなして中忍試験に臨む、と。
意外だなあ、中忍試験とか合同でする割りには下忍の育成とか里で全然違うみたい。
Dランク任務とか、カンクロウさんやった事無いんだそうで、これもまた違うねえ。
もしかしたら下忍用のDランク程度の依頼ってほとんどないのかもしれない。
話によると、砂隠れの里の忍って体術を重視していないらしいし。
忍になるには忍術、幻術の才能がある者のみがなれるらしい。
なんてもったいない。
体術って忍術や幻術に比べて軽視する人は実際多い。
木の葉隠れの里でもそうだ。
でもね、体術は全ての基本だよ。
体力がない忍びなんて役に立たないって。
特殊任務専門ってならともかく、万能に任務をこなす忍は全員体術が一定以上のレベルにあるもん。
それはガイさん…ごめん、あの人は例外中の例外だった。
ええっと、そう、バキさんを見れば一目瞭然じゃないですか。
あの人も凄いよね、体術軽視の砂隠れの里において素であれだけの身体能力を誇るってのは。
背中に一本鉄線が入ったかのようなたたずまいは戦う者の理想形の1つだと僕は思うのですよ。
体術軽視の里の方針があるのにあれだけの姿勢を手に入れるためにバキさんはどれだけの修行を積んだのか…。
これぞ男! ってかんじでしょうが!
…と、熱く語ったらば、カンクロウさんに軽く引かれました。
「…ほんっと、お前ってガキだかジジイだかわっかんねえじゃん」
だそうです。
多分我愛羅さんは体術の有用性に気づいたんだと思う。
「カンクロウさん、我愛羅さんって中忍試験の予選でリーさんと戦ったんですよね」
「そうじゃん。
我愛羅が殴られるのを見たのはあん時が初めてだったじゃんよ」
なるほどね。
リーさんは忍術、幻術の素養が全くと言っていいほどない。
そのリーさんが自分を追い詰めたっていう事が我愛羅さんの意識を変化させたんだろう。
リーさんが忍術、幻術を使えないのを知っているかどうかはともかく、それがきっかけとなったのは間違いないだろう。
で、それを理解できていないのが反対派のみなさん、と。
たぶん、体術をカリキュラムに取り入れることで、忍術・幻術の習得がおろそかになるとか、そう言う事を考えているんだろうなあ。
その考え方は分からなくもない。
国の上層部にアピールするには幻術や忍術のような、一見異常な能力の方が見栄えが良いからねえ。
普通の人ができない事をやって見せると、それがまるで万能の力のように思えてくる。
見る人には術者がそういう風に見せている訳だし、そこから称賛を得ると、今度は術者の方も、自分は万能なんだって勘違いをする事がある。
その勘違いが、普通の人が持っている身体能力、それを軽視する風潮を生み、忍に体術は不要、最低限のものがあればいいって考えにつながったのかも。
まあ、たしかにチャクラの量さえ十分なら跳躍も剛力もチャクラによる強化でなんとでもなっちゃうしねえ。
我愛羅さんの戦い方はまさにそれだったし。
砂遁による絶対防御は忍術、体術の大概をはじくため、体術での回避って考える必要ないもんね。
でもそのためにリーさんからの攻撃を受ける羽目になったし、サスケさんの「千鳥」を防げなかった訳で。
そういった反省点とか、木の葉隠れの里のシステムに触れた結果として忍術学校の発展とかの発想が生まれたんだろうなあ。
ついでに言えば、Dランクの任務はどうしても肉体作業が主となる事が多い。
猫探しだの子守りだのお使いだのって、これ忍術とか関係ないよね、っていう仕事が多いんだけど、これに忍術が役に立つ事ってあんまりない。
でも、Dランクのお仕事で五千~五万両くらい、Aランクだと十五~百万両くらいだから、大体20回Dランクの任務をこなせばAランク1回分の収入になっちゃう。
で、Aランク、Sランクなんて上級の忍務って有名な個人のいる里へ指名して持ち込まれるってあるらしいんだけど、DランクとかCランクを国の外に依頼しようって人は多分あんまり多くないはず。
たぶん割増料金取られちゃうからね。
だから下級の任務を任せる事の出来る、忍術なんかはそうでもないけど、体力だけはある下忍も里の収入源としては馬鹿にできないのだ。
たしかに、忍としての能力を十全に備えているのは中忍からになるけれど、忍の里を経済的に下支えているのは実際は下忍なのだ。
その下忍の量と質を上昇させるために、我愛羅さんは木の葉隠れの里の忍術学校制度を取り入れるつもりになったんだろう。
これって凄い英断だと思う。
砂隠れの里は風の国からの軍事資金から里を運営するお金をもらっていた。
で、近年は風の国の軍事費縮小のあおりを受けて、とにかく優秀で少数精鋭の強力な個人を生み出す事に腐心していた訳だけれど。
そんな強力な忍ってDランクとかに使うのもったいないですよね。
だから低位の忍務って引き受ける人が少なかったんじゃないかと思うんだよね。
で、引き受ける人が少ないから低位の任務の達成率が下がってその結果低位忍務そのものの数が減る、と。
そうすると里の収入が減る、と。
…なんて言うか負の螺旋だねえ。
下へ下へとドリドリと潜っていく感じ。
これを打破できる可能性があるのですね、我愛羅さんは。
周りに認めさせることができれば、との但し書きが付きますが。
…こういうのはシカマルさんが強いんだけどなあ。
まずは問題点をじゆうちょうに書き出してみよう。
「…という感じなんですがいかがですかね、カンクロウさん」
…? 反応がないんだけど。
何その唖然とした顔は。
「…今の話、ほっとんど理解できてねえじゃん」
ああ、もうちょっとまとめておくんでしたね。
さすがにとりとめなかったかなあ。
「つまりですね」
僕はじゆうちょうに要点を書き出してみた。
・現在の砂隠れの里には我愛羅派、改革派とも言う、と保守系の反我愛羅派、日和見の中立派がある。
・我愛羅派は現在の忍者の育成システムを改革しようとしている。
・反我愛羅派、中立派はそれが面白くない。
・面白くない理由は今までの里の方針から大きく転換するから。
「それもあるけど、一番の理由はそれを推進しているのが我愛羅だってことじゃん」
「それどういう意味です?」
「我愛羅が一尾を制御しきれてねえのが問題じゃん」
「つまり、制御不安定な要素が結果が不安定な背策をするのが不安、と」
・不安要素として、「制御しきれていない一尾」「結果がどうなるか分からない新政策」
「あとは自分たちのやり方が里を支えてきたって誇りもあるしな」
「なるほどなるほど」
「とはいえ、今のままならじり貧なのは連中も分かってるじゃん」
「あ、やっぱり」
・里を守り立ててきたプライドが邪魔をしている?
・いままでのやりかたでは無理が来ている事は理解。
「中立派の人たちって実利があればなびいてくれるかな?」
「その可能性は高いと思うじゃん」
「保守派の人たちは?」
「そっちは頭の固い連中で固まってる。
どうにかすんのは難しいじゃん」
・中立派の人たちは利益が出る事を説明しきれればこちらに取り込める。
・保守派の人たちは我愛羅さんが結果を出さないと認めない。
こんなとこだろうか。
「じゃあ、こっからどうするかですよね。
カンクロウさん、意見あります?」
僕には砂隠れの里の風習、風俗、考え方は分からないから、まずはジモッティーさんのカンクロウさんに聞いてみる。
「わかんねえ。
そもそも、忍術学校ってのはどう有効なのか、オレには分かんねえんじゃん!?」
「なるほど、良い意見です」
「なんでそうなんじゃん?」
「それじゃあ説明をば」
「また面倒な話が続くじゃんよ…」
そんな難しい事じゃないんだけど。
「まず、忍術学校をつくると、下忍がたくさん増えます」
「まあそうじゃん」
「でですね、そうすると護衛任務が増えるんです」
「? なんでじゃん?」
正確に言うと、護衛任務を引き受けることのできる下忍が増えるんだ。
「カンクロウさんって、商隊の護衛任務ってやったことないでしょ?」
「まあ確かにないじゃん。
それがどうかしたのか?」
「結構重要です。
商隊の護衛って
商人さんって損得にうるさいから、しっかりした商人ほど信用のおけるうちみたいな所に護衛任務を依頼するんですけど」
「それが?」
「ここで重要なのが、腕は良いけど有名な血継限界の家系とか、一族独自の秘術を持つ人たちって護衛任務って受けないんですよ」
カンクロウさんは今一つ納得できない顔をしている。
「カンクロウさん、カンクロウさんの持つ忍術っていわゆる秘術の類いじゃありません?」
「!」
いやそんな驚いた顔をしなくても。
油女シノさんから聞いてるんでカンクロウさんが傀儡使いなのは知ってるもんで。
「秘術使いや血継限界の家系の人間が下忍の内に護衛任務っていう拘束時間の長い、里から長期離れる任務を引き受けたらどうなるか、大体想像できますよね?」
「そうか!」
カンクロウさんは合点がいったようだ。
「誘拐や暗殺、瞳術使いなら目をえぐられる確率が高くなるじゃん!
なるほど、実力は高くても特別な家系の生まれじゃない忍の意義は確かに…」
そういうこと。
特別な家系の忍はほとんど里から出る事がない、もしくは出してもらえないのが一般的だ。
未熟なうちに里から出ると、殺されたり誘拐されたり、碌な事がないだろう。
里の中ですら、誘拐などの犯罪が後を絶たない。
僕が生まれたすぐ後くらいに、日向の誰かが誘拐されかかったっていうのは結構有名な話だし、その実行犯が他の里の忍びだったらしいというのも事実のようだ。
そう言う訳で、それなりの実力の忍って下手な大物忍者よりも稼ぎが良いのだよ。
大物って雇うだけでも洒落になんない金額が動くんで、おいそれとは使えないし、最大戦力を里から長期間離しておくわけにもいかないのだから。
少数精鋭は良いんだけど、そういった稼ぎ頭がいないのが砂隠れの里の不利なところじゃないかしら。
「うむう、長期の仕事のできる奴をたくさん抱えてれば、確かに商人連中からの金が入ってくる、か…」
カンクロウさんは思案顔。
カンクロウさんには言えない、というかそのうち否でも知るだろうから言わないんだけど、どの里でも一般人に紛れ込んでいろんな情報を里に送る諜報員ってたくさんいるんだけど、そう言った人たちと接触して、合法、非合法の情報を里に持ち帰るのもそういった忍たちである。
それが少ないとなると、情報戦が大変な事になる訳で。
忍界大戦の時、歴代、特に3代目4代目の風影さまは苦労したんだろうなあと思ってしまう。
ま、それはともかく、低ランクのお仕事をこなす初~中級の人員の層の厚さが、木の葉隠れの里を豊かにしてくれており、殿様との対等な関係を維持する原動力ともいえるのです。
これ自慢ね。
それにですよ、
「砂漠を行く商隊にとって、忍術の使い手ってかなり重要じゃないかと思うんですよ」
砂漠は温度の変化がとても大きい。
朝から夕方、日の出ている時間帯は熱風吹きすさび、で、夜になるとえっらい冷え込むんだそうです。
空気は乾燥し、毒虫なんかも多いんだそうで。
シノさんが大喜びしそうだ。
…それはさておき。
忍ってその毒を持つ生き物の知識も学ぶし、砂漠の移動なんかも砂隠れの里の人ならよく知ってるでしょうし。
後は風遁で熱風の軽減とか、夜の安全な寝床とか土遁で作れそうだし。
砂漠は結構肉食の獣とかいたりするんですよ、予想外に。
そう言うのってたいがい夜行性なので夜安全に過ごせる空間は大事なんだそうです。
砂漠のガイド役なんて、特別な家系の人たちにはやらせらんないんじゃないでしょうかね。
「砂漠なんてそんなに大変なもんじゃないじゃん。
そこまで需要があるもんか?」
砂隠れの里の人間からしたらそうかもしれませんけどね。
風の国の人たちは砂漠にあるオアシスやステップを放牧のために巡回する生活をしてますけど、その範囲内の事なら何でも知ってるでしょ。
商人の人たちがほしいのはその知識と、自然や肉食獣、盗賊から身を守ってくれる護衛を兼ねた存在、つまり砂隠れの忍ってことなんですよ。
砂隠れの里がそう言った砂漠のガイド兼護衛を貸し出してくれるなら、商人さんたちは風の国のさらに西の方、商売のフロンティアに手を伸ばすかも知れませんし、そうなれば風の国、ひいては砂隠れの里にも利益が出る事になりませんか?
「…壮大な話になってきたじゃん」
「そうですよ。
我愛羅さんがやる事は砂隠れの里の利点を生かす事でしょ。
なら「豊かだけれど四方を強力な国にかこまれてる火の国」にないところに目を向ける必要があるんですよ。
で、これを我愛羅さんと話し合えばカンクロウさんも一目置かれるし、我愛羅さんとの関係も作れるってもんでしょ?
ほら問題解決」
なかなか僕いい事言った!
これで問題解決って事で…。
「んじゃ今から我愛羅んとこ行くじゃん!」
…は?
なんで僕まで引っ張られてんでしょ?
「当然じゃん!
こんなめんどくせえこと、オレ1人じゃ出来る訳ないじゃんよ!?」
え? なに?
我愛羅さんとこで今のもう一遍説明しろと?
「何言ってんじゃん!
説明もなにも、我愛羅とで里の連中説得するための方策を練るじゃん!
そのための作戦会議じゃんよ!」
説明どころかブレインとして参加っすか!?
それはちょっと荷が重い…。
それに僕ってば木の葉隠れの里の陣営ですし。
「なら特使も混ぜて作戦会議をするじゃんよ。
それで解決じゃん」
さらに話が大きくなった!
風の国のさらに左、たぶん西のほうはどうなってるんでしょうね。
修正を加え、カンクロウのテマリへの呼び方を姉さん、から呼び捨てに変更しました。