第17話
…どうも、茶釜ブンブクです。
現在、僕は、疲れ切っております。
もうね、へたばり切って日向ネジさんの背中におんぶしてもらってます。
特使のうたたねコハルさまは駕籠の中でゆっくりとされていまして、僕ら下っぱは本来自分で歩くのが当然なのですが。
「いやあすまんすまん! いつもリーとやっている感じで修行したら、ばててしまったかあ!!」
この通り、マイト・ガイさんの「いつもの」ペースに合わせて道中の修行をしようとしたら、もう、ね。
なんというか、途中から付いて行けませんでした。
テンテンさんやネジさんも止めてくれればいいものを、
「いや、
ということで、普段だったら次の日に来る筋肉痛が今リアルタイムで襲ってきております。
あ、みしみしきてる、みしみし。
という感じで、とても歩けたものじゃないんですよ、これが。
逆立ち歩き10km、兎飛び10km、反復横飛びで10km、もちろん根性パワーアンクル(僕用20kg)付き。
僕も実質初めて火の国を出るもんだからテンション上がっちゃって、無茶をしている事に気づきませんでした。
ほんと僕って馬鹿。
僕のテンションを見てネジさんたちも大丈夫、と思ったらしいです。
このお調子者な性格を治さないとひどい目に遭う気がします。
…今リアルタイムで遭ってましたね、反省。
この旅の面子ですが、
まず、木の葉隠れの里の特使・うたたねコハルさま。
ヒルゼンさまや5代目さまの同期の方で、里のご意見番のお1人だ。
多分この方も元は忍だろう。
お年を召してきてちょっとよたついた感はあるけれども、目の配り方とか尋常のものじゃない。
もう少し若ければ、「木の葉崩し」の時も戦えたんじゃなかろうか。
次に我らがヒーロー、木の葉で一番熱い男、木ノ葉の気高き碧い猛獣、マイト・ガイ上忍!!
…まあ、リーさんがいないと修行も張合いがないのでしょうか、その分僕のとこに来た感じ。
乗っちゃった結果がこれなわけで、やっぱり自分のペースを維持するのは大事だと感じました、まる。
木の葉隠れの里、第3班の担当教官であり、多分体術においてはあの自来也さまを上回る達人じゃないかな。
姿勢マニアの僕としてはそう推します。
次には第3班のメンバーであるテンテンさん。
結構病院でお会いすることが多い、仲間思いの方です。
もしかしてもしかしたら、と思わなくもないのですが、リーさんは気付いていないようなので放っといてあげようかな、と。
リーさんは入院中ですので、実質的な第3班のリーダーである日向ネジさん。
予想以上に面倒見のいい人で、僕をおんぶしてくれている方です。
いやあ本当に申し訳ない。
あとはコハルさまが乗っている駕籠かきのお2人。
この人たちは一般人なので、何かあれば真っ先に逃げてもらう事になっています。
ここまでが木の葉隠れの里の関係者。
砂隠れの里の忍でどうも所作からして只者ではない人、のバキさん。
多分上忍だと思う。
この人も姿勢が良い。
かなりの使い手…だと思う。
なんていうか、やたらとピリピリした雰囲気を持った人だ。
てか、この時期にピリピリしていない砂隠れの里の上層部の人はいないんだろうなあ。
で、最後にテマリさん、と。
しかしね、
「そう言えばテマリさん」
「なんだい、坊や」
だからその坊や扱いはどうかと思うんですけど!
「いやいや、訓練の体力配分を失敗しておんぶしてもらってる子は坊やで十分じゃないか?」
にんまりとしながら言われてしまいました…。
えらいへこみます、ちくせう。
「ま、坊やはともかく、任務となると普通はスリーマンセルで要人とか送るんじゃないんですか?
なんでまたテマリさんだけが護衛出来てるんです?」
? なんか不思議な顔をされた。
「ああ、そうじゃなくて、『私が』今回の特使だったんだよ」
あれ?
おや?
ってことはもしかして…。
「テマリさんって里のお偉いさんの身内か何か?」
「そうだね、私は先代風影・
…はい?
んじゃあれか、
「もしかして我愛羅さんって弟さん?」
「そうだね、我愛羅は下の弟になる」
ってことは、
「そしたら、カンクロウさんも?」
「あれは上の弟だね」
あらま。
「それだったらカンクロウさんも来ればよかったのに。
でもあれか、我愛羅さんだけ残してってのもなんだよねえ」
ちょっと軽口を叩いてみたんだけど、
おや?
砂隠れの2人ともなんか言いづらそうな感じ?
どうも危なく地雷を踏むところだったのかしらん。
その後、ちょっとごまかしを入れつつ会話を楽しむ僕なのでした。
砂隠れの上忍・バキはたった今の会話で目の前の少年の評価を変えていた。
火影が同行させる以上、尋常な子どもではあるまいと感じてはいたが、かなり厄介な相手だ、と。
今の会話で砂隠れの里に起きている事をある程度、もしかしたらかなり正確に知られてしまったかもしれない。
今、砂隠れの里の中では一応我愛羅が5代目風影となっているが、これに反対するものたちもいるのだ。
特に里の上層部では一尾の人柱力として非常に不安定な我愛羅を責任ある立場に置くべきではない、というもの、そして我愛羅を5代目として立てたは良いが、その実全ての責任をとらせるための
こういった反我愛羅勢力によって4代目風影のもう1人の息子であるカンクロウを風影に担ぎ上げようとする動きがある。
実際、我愛羅は砂隠れの里においては恐れられこそすれ、敬意を払われる対象ではない。
幼少時の我愛羅は力の制御が全くできず、何人もの死者を出している。
自業自得の面も多々あるものの、死者の親族、関係者はそうは思うまい。
上層部の中ではそこに漬け込む輩もおり、我愛羅主導の政権はまだ固まっていない。
バキ自身は「木の葉崩し」以降の我愛羅に良い傾向がみられるため、5代目襲名は間違っていなかったと考えている。
今は里の混乱を収めるのが重要である。
我愛羅には確かに政治的能力はまだない。
しかし、一尾の人柱力としての力は圧倒的だ。
少々、いや例え里全体が敵に回ったとしても戦ってのけるでろうその力は、里を混乱させようとする輩をたやすく捻り潰すだろう。
その力あってこそこの混乱した状況を乗り越えられよう、バキはそう考える。
政治は我々大人が手助けすればいいだけの話であろうに。
そして我愛羅にとって一尾の制御は大きな課題であるが、その助けになるのでは、と火影がよこしたのがこの茶釜ブンブクであった。
茶釜ブンブク。
化け狸との契約をし、口寄せの術で呼び出すことができるというこの少年は原因は不明であるものの封印されている一尾との交渉が可能であるらしい。
それが事実ならば、一尾の力を安全に引き出す事も可能ではないか。
それは我愛羅にとって大きな力になるとともに政治的切り札にもなる。
それだけにブンブクの身の安全は我愛羅派としては大きな命題となる。
彼の身に何かあったとしたら、我愛羅の立場が悪くなるだけでなく、木の葉隠れの里との関係もこじれる事となるだろう。
少年とはいえ、現火影、そして引退した3代目の2人から直接命を受けるものだ。
木の葉隠れの里にとっても重要な存在、もしかしたら次代を担う人材として英才教育を受けている者なのやもしれぬ。
ブンブクが聞いたら全身をかきむしりながら悶絶しそうな事をバキは考えていた。
テマリはこの子どもの来訪によって兄弟関係が良い方向に行くことを期待していた。
元々テマリとカンクロウは仲が良い。
4代目風影の子どもというだけあって周囲から目を掛けられていたし、生活に苦労した事はなかった。
砂隠れの里は砂漠のど真ん中、周りを砂にかこまれ、特産品と呼べるものもない。
所属している風の国は軍縮を進め、外貨を稼ぐためには里の忍1人1人の能力を極限まで鍛えるしかない。
そんな環境でも比較的裕福に暮らす事が出来ていた。
兄弟の間でも特にぶつかる必要もなく、ただ仲良く生きてきた。
問題があったのは2人と我愛羅の関係である。
我愛羅は自分の存在を「他者を傷付け、殺す事が使命である」と決めつけていた事もあり、2人と距離を置く事が多かった。
2人はそれを当然として受け止めていたが、それがある日を境に分からなくなってきた。
あの日、うずまきナルトに破れた日より我愛羅は変わった。
時々瞑想のように目をつぶっては己の中にいる一尾と話をしているようだ。
また、かつて持っていたストイックなまでの「殺人」へのこだわりを抱えなくなっていた。
相変わらず無口ではあるものの、テマリが話しかければぎこちなくではあるが答えてくれるようになった。
もしかしたら、そうテマリは期待する。
確かに我愛羅は恐ろしい存在だった。
しかし同時に自分の弟なのだ。
いままではテマリやカンクロウからの接触を我愛羅は忌避していた、と言っていい。
しかし、この前の一件で我愛羅が変わったなら、自分たち兄弟の関係も変わっていいのではないか。
その変化に、この少年はいい影響を与えてくれるのではないだろうか。
我愛羅が不思議と心を許していたこの少年なら。
しばらく進んでいると、だんだんと背の高い木が無くなってきました。
風の国に近づいている証拠ですよね。
もうしばらく移動すると、灌木と草原が続く地域に入り、そこを抜けると砂漠に入って、さらにその奥に砂隠れの里があるんですよね。
いやあ、遠出なんて火の国の首都に行ったくらいで、国外に出るのなんて初めてですから、もうテンションが上がっちゃって上がっちゃって。
それに、植物の植生とか図鑑でしか見た事のない虫とか、いろいろ見どころ盛り沢山なんですよねえ。
ふっふっふ、こっちでしか見らんない珍しい虫とか見つけて、後からシノさんに自慢するんだあ。
…おや?
ガイさんとバキさんの動きがほんの少し変わったようです。
姿勢が少し猫背気味というか、重心を調整してどの方向にでも動けるようにしている、というか。
僕はゆっくりと、違和感を持たれないようにコハルさまの駕籠に近づく。
今日の駕籠周りの警備はテンテンさんだ。
テンテンさんは周囲に警戒をしてはいるようだけれど、何か感じ取った様子はない。
ネジさんもそんな感じ。
ってことは、もし敵がいるようならば、結構な手練れ、ってことになるのかな。
僕はテンテンさんと世話話をしつつ、ガイさんたちからの指示を待つ事にした。
唐突に、
「くるぞ!」
ガイさんの声が響く。
僕は駕籠の近辺でコハルさまと駕籠かきのお兄さんたちを守るために周囲を警戒する。
見ると、ネジさんが「白眼」を使っていた。
こめかみから目元にかけて血管の筋が浮かび、かなりの緊張状態にあるのが分かる。
チャクラの流れを見切る血継限界「白眼」。
日向家の2つの武器の内の1つだ。
「数は10、うち7人は下忍程度、2人は中忍、1人は上忍ほどのチャクラを保有している!
気を付けろ!」
便利だなあ「白眼」。
などと能天気な事を言っている暇もなく。
どうやら塹壕を掘ってその上にカモフラージュの布を乗せていたらしいです。
10人の忍が一斉に立ち上がり、20本以上のクナイを投げつけてきました!
あ、あれはやばい! 起爆札付きだ!
刺さった後に大爆発、かなりえげつない。
ああ、殺しに来ているのが良く分かる。
でもね、
「風遁・カマイタチ!」
テマリさんの風遁が全てのクナイを吹き散らす、いや、1本だけその風に逆らってこちらに飛んでくるのがある!
さすが上忍、この突風に負けない技量がある、という事なんだろう。
これはまずいか!?
そう思ったけれど、さすがにこちらにも上忍が2人付いてるだけはある。
2本のクナイが飛翔するクナイと弾き飛ばし、一瞬ののち、付いていた起爆札によって大爆発を起こす。
こちらにまで爆風が来て、つい顔を覆ってしまう。
この爆風に紛れて相手方は間合いを詰めてくるんだろうけど、それを見る余裕はない。
やっぱり僕は未熟なんだなあ。
とはいえそれはしょうがない。
今僕が持っているもので勝負するしかないんだから。
僕がすべきことはみんなの邪魔にならない事、万が一にも突破してくる相手がいたらコハルさまと駕籠かきの一般の人を守る事だ。
そのためにはとにかく見る事。
戦場の動きを見逃さないよう、僕は気を引き締めた。
爆炎による目眩ましを楯に、襲撃部隊は木の葉隠れの里の特使の部隊に切り込んだ。
木の葉隠れの里と砂隠れの里の上忍2人がいるとはいえ、人数で攻め手は上回っている。
さらに言えば、要人暗殺任務は攻め手の方が有利である。
有利な地形、奇襲のために練られた戦術、十分な練度の兵。
負ける要素は一つもないはずだった。
一斉に斬りかかったその瞬間、
「風遁・カマイタチ!」
爆炎が一瞬にして吹き散らされた。
砂隠れの忍び、テマリの大扇子より巻き起こった風が、風遁のチャクラを乗せて暴風のように攻め手の忍を吹き飛ばし、切り刻んだ。
さらにその風に乗って、無数の暗器が飛来した。
クナイ、手裏剣、投げ鎌、鎖分銅、戦輪…。
さまざまな形状の凶器が攻め手の下忍達をさんざんに打ちのめす。
「ちぃっ! 土遁・土流壁!」
中忍の1人が土の壁を作りだし、風と暗器を遮るが、
「あまい! ダイナミック・エントリィー!!」
その土壁ごと、マイト・ガイ必殺の飛び蹴りで打ち砕かれる。
はじけ飛び、地面に何度も激突しながら転がっていく中忍をしり目に、ガイは敵陣のど真ん中で拳を構えた。
ガイに周りの忍びが目を取られた瞬間、音もなくクナイが忍たちの首筋に突き立つ。
瞬身にて一瞬にして間合いに入り込んできた砂隠れの上忍、バキの手練の技が下忍達全ての命を一瞬にして奪った。
全ての下忍が膝を突くように地に伏せる。
「このっ!」
残った中忍が焦りをにじませつつバキにチャクラの乗った拳を突き立てようとする。
しかし、
「回天!」
全身からチャクラを放ち、相手の物理攻撃をはじく日向の秘技を用いたネジにその攻撃ははじかれ、
「八卦二掌!」経絡への2撃、
「四掌! 八掌! 十六掌! 三十二掌!! 六十四掌!!」
計64の打撃により完全のそのチャクラを封じられた。
日向の柔拳に名高い八卦六十四掌を全て受け、耐えきれるものなどおるまい。
中忍はそのまま倒れ伏した。
「むう、あれがかの『回天』に『柔拳法八卦六十四掌』、木の葉にて日向は最強というのも頷ける…」
その技は砂隠れの里にて最強の一角といわれるバキですら驚嘆するものであった。
これがたかだか下忍の使う技か。
木の葉隠れの里の忍の層の厚さを実感するバキであった。
なんというか、一方的としか言いようのない戦いが僕の前で繰り広げられています。
今まで一方的に攻めてきていたと思った相手が、たった数秒の内に1人しか残っていない。
なんというか、
とはいえ、ぼうっとしている暇はない。
どうやら一番強い人が残ったようだ。
この状況なら、逃げ出すか、それとも…。
「!!」
やっぱりこっちに突っ込んでくる!
コハルさまの命か、一般の人を仕留めて足を鈍らせるか。
当然ガイさんやバキさんが間に入るだろうから…。
僕は、その裏を読んで、と。
シカマルさん直伝の戦術予測、まあもちろんあの人には全く届かないんだけどさ。
駕籠の裏側にっと…!
攻め手の上忍はさすがに焦っていた。
ここまで戦力に差があるとは。
木の葉隠れの里の下忍どもを甘く見たのが運の尽か。
上忍の戦力は計算の内であった。
また、4代目風影の娘の力もまた計算内。
残りの2人はチームの1人を欠く状況で、それほどの戦力とは考えていなかった。
まさかあれほどのものとは。
特に暗器使い。
あの娘が繰り出す無数に飛来する暗器のため、下忍達は完全に足が止まってしまった。
あれさえなければまだ駕籠を攻撃する余地が残っていたのだが。
これでは任務を果たすことができない。
しかたがなしに上忍は駕籠かきの男どもを狙うこととした。
少しでも特使の到着を遅らせ、次の策を練らねばならない。
砂隠れの里のバキと木の葉隠れの体術使いが上忍に迫る。
上忍は十分に引き付け、
カッ! ドスっ!!
2人の攻撃を、
「なにっ!」「変わり身か!」
変わり身の術でいなし、
そして忍刀を以って駕籠かきの男どもの首をはねるべく斬りかかろうとした瞬間、
ずぶりという足元の崩れる感覚にバランスを崩し、次の瞬間全身に暗器が突き立った。
全身に走る激痛。
せめて一太刀、と痛みをこらえて振りあげたものの、
「回天!」
日向の秘技に阻まれた。
最後の一太刀に全ての力を注ぎこんだ上忍は無念、の一言を胸に、目覚める事のない眠りに落ちて行ったのである。
僕は立ち上がると近くに転がる相手方の大将、多分上忍、に手を合わせた。
何っていうか残念なことに、前世の記憶のおかげ、というかせいというか、僕は死というものに対してあまり恐怖を感じない。
一度死んだ時の記憶もあるし、仲間、敵が入り乱れ、死んでいく戦場の記憶もある。
まあ、最も、記憶の中の文福がそう言った生々しい記憶にフィルターを掛けてくれていなければ、今頃僕は病んでるか死んでるかしてると思う。
とはいえ、死というものに対して敬意を払うのを忘れなかったのは良かった。
死は慣れて良いものでもないだろうしね。
で、僕が何をしていたか、というと単純で、駕籠かきの人たちが狙われるであろう地点に移動して、
若干盛り上がった状態の地面に化け、そこを相手方がふんずけたところで変化を解いてたたらを踏ませただけ。
たったそれだけ? というかもしれないけど、そのほんの一瞬の時間を稼いだおかげでテンテンさんとネジさんが間に合った訳。
僕はこのチームの中で戦力に数えられていない。
遊撃、とかかっこいい話じゃなく、単純に役立たずなのだ。
故に、僕という存在をカウントする事無くこの場の戦術は組まれている。
この場に置いて最も重要なのはうたたねコハルさまを守る事。
その次は一般人である駕籠かきに犠牲者を出さない事。
最も優先順位の高いコハルさまを守るのは上忍のお2人がやるだろう。
で、相手方がコハルさまを叩こうとしても、2人の手練れを相手にするのは大変だし、成功しても離脱するのは至難の業だ。
だから、次の目標であり優先順位が低いであろう駕籠かきのお兄さんたちのカバーに僕は入る事にした。
実際大当たりだった訳だけど。
人は簡単に死ぬ。
この人が死んでいなければほかのだれかが死んでいた。
だからと言って死を肯定したくもない。
まだまだ僕は未熟なのだなあ、そう感じた。
日向ネジは周囲を警戒しながら茶釜ブンブクを観察していた。
日向の血継限界である「白眼」はほぼ360度の視界をネジに与える。
周囲を警戒しながらブンブクを見ているのは簡単な事であった。
ブンブクは死んだ敵に手を合わせている。
そういった行動が自然とできるブンブクをネジは不思議に思っていた。
ネジは忍となるべき才能と努力、運命を持って生まれてきた。
血継限界を持つ一族に生まれた以上、忍になるのは決定である。
忍は非情を常とする職業でもある。
殺し殺されを日常としなければならない立場であり、それに慣れるしかない。
子どもの頃は良いだろう。
忍は一般の子どもたちのヒーローであればいい。
しかし、現実は血なまぐさい。
戦場における最終兵器として、外交における外道仕事の担い手として、忍は非常に有効だ。
チャクラの続く限りいくらでも人を殺す事の出来る各国の切り札としての兵器。
それが忍の現実だ。
そこには敵を殺さねば自身が骸となる、非情な現実がある。
死者を悼む暇などありはしない。
自身が生き延びた事を何かに感謝する、それが精いっぱいだというのに。
確か、ブンブクは戦場に出た事がないはず、死を目の当たりにしたことなどないはず。
しかし、彼は死におびえていない。
死を目の当たりにして動揺などしていないのだ。
確かにそういう人間はいる。
元々死など度外視をしている誇大妄想狂や人格破綻をしているような厄介なものが忍の中にはある程度いる。
戦いの身を求め、国に戦争を仕掛けて滅んだカグヤ一族などはその典型だろう。
そしてやさしさゆえに、優秀であるが故に滅びて行く者もいる。
雨隠れの鬼人再不斬や、はたけカカシの父親で木の葉の白い牙と呼ばれたはたけサクモがそうであろう。
ブンブクはそれらとは違う、そうネジは考えていた。
初めて己が間近で見た死を恐れず、しかして軽んじる訳でもない。
この子どもは特別なのだろうか。
この子どもも特別な運命を持って生まれ、その運命に殉じるのだろうか。
ブンブクと縁のあるうずまきナルトによって、ネジは運命論の思考の輪から抜け出す事が出来た。
なればブンブクはナルトによって何か変わったのだろうか。
それともナルトがブンブクからの何かによって変わったのだろうか。
ネジは周囲を警戒しながらそんな事を考えていた。
もしブンブクがそれを知ったとしたら羞恥でのたうちまわっていたであろう。
さて、あれから1日。
特に問題もなく砂隠れの里の入口である、巨大な岩山に挟まれた谷に来ております。
実際はもっとかかるのですが、途中で砂隠れの里からお迎えが来まして、駕籠かきを下忍のお兄さんたちが引き受ける事になりました。
まあ早い早い。
砂の上を歩き慣れているというのもあるのでしょうが、正直ついて行くのがなかなか辛かったです。
途中でガイさんにパワーアンクルを外していいという許可がなかったら身動きとれなかったような気がします。
そういえば、ガイさんとバキさんは途中でふっといなくなってたりしましたね。
多分後を付けて来ていたり、待ち伏せをしていた方々をキュッとしてきたんでしょうねえ。
くわばらくわばら。
里の入口に近づくと、切り立った岩山が威圧的に僕らを迎えます。
飛行能力でもない限りはこの岩山を回避して里に入るのは不可能なようです。
関所としては理想的な場所ですよね。
ここで待ち構えればそうそう敵も入ってこれないでしょう。
確かにこれでは
で、色々と手続きをしてから中に入る訳ですが。
さすがにここしばらくごたごたしていただけあって、手続きが遅いようです。
とはいえここで威圧的に出てしまっては我愛羅さんの反対派の方々にいらない口実を与えるだけですし。
おとなしく待っていましょうかね…。
しばらく待っていると、関所が開き、中に入れるようになったようです。
さて行きましょうか…って!
開いた所にはなんか偉そうな方々が勢揃いしております。
あ、カンクロウさん発見。
多分砂隠れの里の正装なのだろう、普段着ているであろう隈取黒子の服装じゃなく、ターバンに白いマント、という恰好だったので一瞬分からなかったよ。
そして、その真ん中には、
「木の葉隠れの里の特使殿、よく来てくれた。
オレが5代目風影を襲名した『我愛羅』だ」
笠に「風」の文字の入った風影の服を着て、久しぶりに見た我愛羅さんは、どこか穏やかな雰囲気を醸し出していた。