NARUTO 狐狸忍法帖   作:黒羆屋

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狐狸忍法帖外伝 聖闘士星矢×NARUTO 中

狐狸忍法帖外伝・茶釜暗黒聖闘士団 その2

 

 いや、凄いね今の。

 威力だったら「大玉螺旋丸」クラスじゃないかしらん。

 僕だったら一撃必殺だね、ホントに。

 あ、何が起こったかって?

 僕が来た時に危うくエスメラルダちゃんが攻撃の余波を受けそうになってたんでね、カバーに入りました。

 さっき聞こえてきた「カーン」って音は僕の胴体が出した音ですね。

 エスメラルダちゃんはその衝撃で気絶しちゃいましたけど。

 あと、八畳風呂敷の糸で一応ギルティーさんの防御もしてますよ。

 だから死んでませんのです。

 なんて事言っても一輝くん聞いてませんね。

「エスメラルダ…、良かった…」

 涙を浮かべながらエスメラルダちゃんを抱きしめてます。

 青春ですねえ。

 さて、後はギルティーさんを治療しないとね。

 僕は「全ては我の思うがまま」なんて感じでにやりと笑って見せたのです。

 

 なんつって。

 実際は咄嗟に捻りだした苦し紛れの小細工に過ぎないんですけどね、いつもの如く。

 さて。

 まずは治療だね。

 一輝くんもギルティーさんもズタボロだからして。

 特にギルティーさんは一瞬心肺停止まで行ってるから。

 こうする事で「ギルティーが死んだ」と幻術の仕掛け手さんに誤解させとこうっていうのが小細工。

 まずは応急処置して、と。

 …それだけでふつーに心臓が動き始めるんだ、とんでもないな聖闘士って。

 次に一輝くんの治療です。

「いや、オレは…」

 はいは、…ああ、そうね。

「エスメラルダちゃんお願い」

「は、はいっ!」

 エスメラルダちゃんにはいざという時の応急手当ての方法を教えてあります。

 なんせ一輝くんにはそっちのほうが嬉しかろうて(にやぁり)。

 さて、一輝くんはエスメラルダちゃんに任せて、僕はギルティーさんの方を、と。

 どれどれ…、うん、頭の中に残っていた術者の気配は消えてるね。

 後は数日かけて幻術の効果を解除しつつ人格の再構成だね。

 結構細かい仕事だし、本来なら無理なはずなんだけどね、この人超人じみた精神的耐久力があるから何とかなるんじゃないでしょうか。

 

 と、そんな感じで数日間、一輝くんやエスメラルダちゃんにご飯を作りつつ、ギルティーさんの治療を続けました。

 で、なんでも今日、一輝くんが「鳳凰座(フェニックス)聖衣(クロス)」を取りに行く事にしたんだそうで。

 …あの荒くれさんたちの所かあ。

 まあうまく()()使ってね。

「分かった。

 …世話になったな」

 そう言うのは死亡フラグだからやめようよ。

 いや、一輝くん主人公タイプだから大丈夫かな?

「なんの話をしてる…」

 そんな呆れたように言わなくても。

 ああ、アレって言うのは一輝くんが興味を示した幻術の要諦です。

 彼、自分の戦闘術に幻術を組み入れてみたいという話で、だったらば、という事でうちの里で作られた「打撃による幻術の導引」の技術をちょこっと修行させてみました。

 そしたらまあ見事に取り込んじゃって。

 まだまだ粗削りではありますが、「鳳凰幻魔拳」がいい感じでし上がってしまったではないですか。

 …才能ってほんっと不公平ですよね。

 

 さて、一輝くんは鳳凰座の聖衣を取りに、デスクイーン島の火口まで出かけました。

 あの辺りに巣くっている暗黒聖闘士(ブラックセイント)の取りまとめ役の人が聖衣を持ってっちゃったらしいです。

 まあ、ギルティーさんに認められた以上、一輝くんが正当な持ち主の筈ですからね。

 僕はギルティーさんの治療を続けとくことにします。

 でそれからしばらくして、何と言うか、「神々しい人」が来ました。

 エスメラルダちゃんなんかすっかり土下座しちゃってるし。

 この方が「アテナ」さまなのかな?

「違いますよ!

 この方は『黄金聖闘士(ゴールドセイント)』様です!」

 黄金聖闘士?

 あ、確か聖闘士(セイント)の序列で一番上に位置する人たちですっけ?

 なんか兄ちゃんたちですら勝てなさそうな…、こっちはホントに人外魔境だなあ。

 彼、かな、彼女、かな? とにかくやたらめったら綺麗な人です。

「わたしの名はシャカ。

 黄金聖闘士・乙女座(バルゴ)のシャカ」

 シャカさんはそう名乗りました。

 それじゃあ。

「こんにちは。

 僕は茶釜ブンブクと言います」

 まあ、ここで所属を言っても何の意味もないようですし、名乗りだけで良いかな、と。

「…」

 じーっと僕を見るシャカさん。

 そんなに面白いもんでもないでしょうに、ってか、今僕は準省エネモードだったんだっけ、それだと面白いのかしらん?

「何とも面妖な、このような妖物今まで見た事もない…」

 何やら僕は妖怪認定されてるようですが。

 シャカさんは更に僕をじっと見ると、こう言いました。

「そもさん!」

 えっとこう言う時は、

「せっぱ!」

 咄嗟に口から出ました。

 確か「禅問答」だったかな?

「汝、自ら考える木石を人というや?」

 その問いに、僕の口は自然と言葉を紡いでいました。

「人を『考える(あし)』と言うが如し」

 その答えに、シャカさんは満足そうに頷くと、踵を返しました。

 去っていこうとするシャカさんに僕は、

「あ、今ご飯作ってる所なんですけど、いかがですか?」

 とお誘いを掛けてみた。

 

「ふむ、なかなかに味わい深い…」

 シャカさんは器用に流木を切り出したお箸を使いながら僕の作った魚料理を食べています。

 エスメラルダちゃんは恐れ多いという感じでご飯に手を付けられませんでしたが、シャカさんの勧めで恐る恐る食べています。

 シャカさんは一度身に付けていた黄金聖闘士の聖衣を脱いで法衣の様な服を着てらっしゃいますけどそれでもまあ神々しい事神々しい事。

「それで、シャカさんは何故故(なぜゆえ)にこちらに参られたので?」

 そう聞くと、

暗黒聖闘士(ブラックセイント)が悪さをしているというのでね、その首魁を潰しに来た」

 との事。

 ああなるほどね。

「それなら大丈夫かと。

 今なりたてですけど『鳳凰座(フェニックス)の聖闘士』の資格を得た少年があちらに聖衣を取りに行っていますから、じき片が付いてくるんじゃないかと」

 鳳凰座の聖衣をあっちのボスであるジャンゴさんだったかな、が確保してるのは確認済みです。

 入っている箱を開けようとして大火傷した事があるのもまたしかり。

「さて、馳走になりました。

 私も少しその少年に興味が出てきましたからね、見て参りましょう」

 そう言うとシャカさんは立ち上がり、黄金の聖衣を纏って去って行きました。

 

 しかし、聖衣って器用にフィギュア化するもんですねえ。

 やっぱり一輝くんの鳳凰座のやつも普段はフェニックスを象った形をしてるんでしょうか。

 

 シャカさんが去って大分経ったあたりに、一輝君が帰ってきました。

「あ、一輝くんお帰りーぃい?」

 何か後ろにぞろぞろ連れてる。

「い、一輝くん? それらどちら様?」

 一輝くんは何やら言い辛そうに、あっち見たりこっち見たりしてましたが。

「いやその、実はだな…」

「暗黒聖闘士の首領になった」

 いやあの、暗黒聖闘士? の首領になったって…どゆこと?

 

 簡単に言いますと、

「暗黒聖闘士全員締めて、頭目のジャンゴをぶっ飛ばしたらみんな舎弟になった」との事。

 ちなみにジャンゴさんとやらを叩きのめした後に黄金聖闘士のシャカさんと会ったとのことで、一手手合わせ願ったそうです。

 …一輝くん怖いもの知らずだねえ。

 なんか拳をぎゅっと握って、

「あれが黄金聖闘士か…、武の道はまだまだ険しい」

 とか言ってますけど、そう思えるって事は凄い事ですね。

 あの強さまで足を届かせようと思ってるんですから。

 一輝くんにも兄ちゃんたちと同じ属性を感じます。

 

 で、

「どうしたらいい?」

 と聞かれましても。

 暗黒聖闘士のお兄さん達は丁度30人。

 皆さん聖衣を身に付けていますが、いくつか重複しているものがあるみたいですね。

「聖衣っていろんな種類があるんですねえ。

 まあそれはともかく、どうしたらいいと言われましても…」

 見た所、一輝くんを御輿(みこし)に適当に暴れたい、という方々にしか見えなかったり。

「なんだこれ?」

「なんか変なのがいる」

「むう、珍妙な…」

 なんか暗黒聖闘士の人たちからひどい言われ様な気が…。

 まあいいや。

「一輝くんとしたらどうしたいのかなあ」

 そうすると、一輝くんが言う前に、

「当然、我らで世界制覇を!」

「首領がいれば世界を取ったも同然!」

「今まで誰も纏った事のない鳳凰座の聖衣を手に入れた首領は無敵だ!」

 と、暗黒聖闘士の方々が口々に言います。

 何かどっかで見たことのあるような感じですね。

 こう、集団の力やトップの力を自分の力と勘違いしちゃう痛々しい子どもたちって感じですな。

 案の定一輝くんは顔を顰めてます。

 とは言え、勢いに押されたとはいえ首領を引き受けちゃった以上どうにかしなきゃなんない、と考えてるんでしょう、真面目な長男気質ですね。

 あ、ほんとに長男だったんだっけ。

 とは言え、一輝くんが御輿になるほど能天気でもなければ不真面目でないのも知ってますし、どうしたもんでしょうかね?

 と、首を捻っていると。

「そこの珍妙なの、邪魔だ」

 そういう子がいます。

 左手に小型の盾を付けた長髪の少年です。

 白人(コーカソイド)系の顔立ちをして、隣にそっくりな子が立ってます。

 多分双子ですね。

「我らは一輝様と話しているのだ、珍妙な珍獣はお呼びではない」

 彼がそう言うと、周囲の暗黒聖闘士の人たちが一斉に笑います。

 むう、彼らは一輝くんの意識を誘導して、荒事を起こす方向に持っていこうとしてますね。

 これは荒っぽい事をしてその責任を一輝くんに押しつける気か、…そこまで考えてなさそうですね、これは前任者のジャンゴさんがそう言うタイプだったんでしょう。

「あ、そだ、一輝くん、前の頭目のジャンゴさんってどうなったん?」

「あ、ああ。

 さっき話した黄金聖闘士の方が連れていった」

 なるほど。

 その人締めあげて話を聞きたいところだったんだけど。

「邪魔をするなと言っている!」

 あ、苛立ってる。

「ブラックドラゴン、いい加減にしないか!」

 一輝くんが声を荒げるんだけど、

「しかし一輝様…」

 少年、ブラックドラゴンくんは不満の様子。

 まあ、こう言う集団だと、まずは腕っ節が偉いかどうかのバロメーターだしねえ。

 しょうがないっちゃあしょうがないんだけど。

 …もう、しょうがないなあ、やるか。

「ええっと、つまりは『弱い奴が口を出すな』というとこですかね」

 僕がそう言うと、言い返されるとは思っていなかったのか、

「な、あ、ああ、そうだ。

 我ら暗黒聖闘士の問題に弱いよそ者が口を挟むな、という事だ!」

 と言ってきます。

 それを言ったらええっと、青銅聖闘士でしたっけ、一輝くんもその対象外なんですけどね。

 まあいいや。

 つまりは。

「実力を示せ、ってことな訳ですね」

 良いだろう、やってやろうじゃないか。

 

 

 

 一輝は止めるべきと思い、ブラックドラゴンに向かい合おうとした。

「大丈夫、ちょっとお灸をすえて上げるだけだから」

 という茶釜狸の言葉を聞くまでは。

 一輝は眉をひそめた。

 この小型動物サイズがどうやって戦うのか、と思った。

 しかし、

「ほいっ!」

 近くにあった枯れ葉を頭にのせ、ブンブクは後方一回転、そしてぼうん! という音と煙に周囲が包まれ。

「な!」

 そこには軍人が着る様なカーキグリーンのベストを羽織った少年がそこには居た。

「…ブンブクちゃん?」

 エスメラルダも驚いている。

「…やっぱり、変身するのか、木の葉で!」

 一輝はまるでおとぎ話のキャラクターの様な変身に驚いていた。

 そして、少年姿のブンブクは、ぺろりと舌なめずりをすると、

「んじゃ、始めましょうかね、戦いを」

 そう宣言した。

 

 

 

 大体10歩くらい離れた所で僕たちは対峙しました。

 ブラックドラゴンさんは何と言うか油断しまくりです。

 隙だらけです。

 わざと隙を作っているんでしょうが、その隙の中に更に隙があります。

 それだと誘導したつもりがクリーンヒット受けちゃいますよ。

 まあ、それに乗ってみますかねっと!

 僕は彼に向かって大きく歩幅を取って突進しました。

 ブラックドラゴンさんは余裕なのか右の指を突き出します。

 やばい!

 僕の中で警鐘が鳴り、僕はあわてて「四足の術」で四つん這いになりながら彼の左側に回り込みます。

 その瞬間、キュドン! という音を立てて先ほどまで僕がいた地面が抉れました。

「よく避けた…! なに!!」

 悠長に僕に話しかけようとしたブラックドラゴンさんですが、その頃には腕についた盾を目隠しにして、僕は既に彼への攻撃圏に入りこんでいます。

 僕は握りこんだ寸鉄で彼の脇腹を思いきり殴りつけ、

 がいんっ!

 その強力な盾に弾かれました。

 へえ、小揺るぎもしないのか…、大したもんだ。

「ふ、無駄だ。

 このドラゴンの盾は最強無敵…」

 でもね、隙の中に隙があるよっと!

 僕は打撃を受け止めた盾に手を掛け、更に体を一気に反転させて後ろ回し蹴りを盾越しに仕掛けました。

 体重ののった蹴りがブラックドラゴンさんの側頭部に突き刺さります。

「ぐっ!」

 さすがにぐらつくブラックドラゴンさん。

 …なるほど。

 装甲のある所だけじゃなく、ない所にも聖衣の防御力は及ぶんだな。

 なんかチャクラの身体強化の様だ。

 周囲からは「信じられん」といった雰囲気が感じられます。

 ブラックドラゴンさんは左腕を振るうと大きく僕を弾き飛ばし、更に距離を取ろうとしますが。

「木の葉流体術・影舞葉…」

 ブラックドラゴンさんの移動は風を巻く身体能力任せのもの。

 そう言う移動には自身の能力に加えて相手の起こす移動による空気の移動すら自身の移動技術に加える事の出来る影舞葉での追走がとても効果的なんですよね。

 ブラックドラゴンさんは僕を全く突き放すことが出来ません。

「くっ、離れろ!」

 いや、離れたらあなたのとんでも攻撃喰らうから嫌です。

 とは言え、

「いくら打ち込んできても、その程度の攻撃ではわたしの防御は撃ち抜けん!」

 なんですよね。 

 先ほどから寸鉄での打ち込みを何度も当てていますが、有効打には全く至っていません。

 さすがは聖衣ってことなんでしょうね。

 とは言え、未だにブラックドラゴンさんの攻撃は僕に当たっていません。

 そりゃそうですね、もろ喰らいしたらそこでゲームオーバーですから。

 でもね、彼程度では今まで僕が戦ってきた大物連中とは格が、ね。

 火力は十分でも、彼はどうやらこの聖衣とやらの性能を十分に引き出せていない。

 その証拠に、さっきから僕が左手の盾を目隠しや攻撃の障害にしているのを彼は気付いていないからだ。

 一輝くんはその動きに、「何らかの防具をつけた状態が万全」であることを示す兆候があったんだけど。

 これが聖衣に選ばれた人と選ばれていない人の差なのだろうか。

 この時、僕は聖衣に選ばれなければ聖衣を身に付けることが出来ないことを知らなかった。

 故に、この「暗黒聖衣(ブラッククロス)」の異常性も分からなかったのだけれど。

 だから、ブラックドラゴンさんも分からなかったんだろう。

 さっきから僕の打ち込みは、彼を倒すものでなく、彼の守りを崩す為に撃たれている事を。

 単調に撃ち込まれる僕の打撃は分かりやすいリズムを取っている。

 そろそろそのリズムにブラックドラゴンさんは慣れてきている。

 なので。

 ぎん!

 ほらうまく盾で受け止めた。

「ぬあ!」

 そしてブラックドラゴンさんは盾で僕を突き飛ばす。

 しかし。

「があっ!」

 盾で押された分の運動エネルギーを体の回転に変換し、僕は寸鉄の一撃を見舞った。

 盾から辛うじてはみ出していた彼の肘に。

 肘は各筋肉が腕を動かす為の要所。

 そこを打たれた場合、

「う、腕が…!」

 動かなくなる訳で、

「せいやっ!」

 がら空きになった腹部に沈み込むような寸鉄の一撃を、チャクラによる身体強化込みで叩き込む!

「…ぐふっ!」

 ブラックドラゴンさんは地に沈みました。

 ア~イウィ~ン!

 

 皆さん、ポカンとしています。

 あれ、この場合、「そいつは我らが四天王の中で最弱!」とか言う人が出てくるもんじゃない?

 なし? あれ?

 僕は一輝くんを見ます。

 一輝くんは驚いたように、呆れたように言いました。

「そいつな、オレが戦った中じゃ最強だったぞ。

 あのジャンゴとか言う奴よりも…」

 え? あれ?

 いや、ほら、最初に完勝して、続く相手にこっちの強さを誤らせるという高度な戦術が、ね、その…。

 ま、まあ勝ったから良しって事で!

「誤魔化したな」

「誤魔化したわ」

「誤魔化しやがった…」

 はいそこ! お黙んなさい!

 とかって言ったら、

「はい!」

 と綺麗な起立姿勢で言われてしまいました。

 あれ?

 

 まあ、藪蛇でしたけど僕の事は認めてもらえたようです。

 さてここからどうするか、ですが、まずは皆さんから事情を聞く所から始めましょうか。

 少なくとも「世界制覇!」とか一輝くんは考えてませんし。

 …みなさんから事情を聞きますと、どうやらここは不良聖闘士崩れの流刑地で間違いないようです。

 この島からでない代わりに、月1回食料や衣類などが送られてくるんだそうです。

 それにしてはここに居る人達は年齢がほぼ10代にしか見えないんですが。

 流刑地ってんならもうちょっと年齢層とかばらけても良いんじゃないかなと、そう思ったのですが。

 

 定期的にブチ切れて暴走、それを黄金聖闘士が一掃、と。

 

 うわぁ、シャレになんない。

 本来なら島に居る準聖闘士、聖衣には認められなかったものの、桁外れの実力と高潔な人格を持つ人物が暗黒聖闘士を押さえていたんだそうですが、数年前に突如おかしくなったとの事。

 あ、ギルティーさんね。

 だからあの人「有罪(ギルティー)」って名乗ってるのね、不逞な輩に有罪を突きつける番人って事で。

 で6年くらい前に暴動が起きて、その時黄金聖闘士に一掃された、と。

 その生き残りがジャンゴさん、で、その後に来た若い子たちを取りまとめていた、と。

 そりゃまた大変だったろうに。

 無人島レベルの生活だからねえ。

 なるほど、みんな基本的に戦うことしか知らなかったから、ジャンゴさんに従うしかなかった、と、ほうほう。

 そこで序列が出来ちゃったんだねえ、道理で一輝くんが「ボスが弱い」って言ってた訳だ。

 

 とにかく、これで何か島の内外でやらかせば黄金聖闘士がやってきてゲームオーバーは間違いないようですね。

 みんなそれでいいの?

「い、いや…」

「べつに黄金聖闘士とか怖くねえし…」

「まあ、そうだよなあ、全員でかかれば」

「無理だな、全員でオレに勝てないお前らでは鎧袖一触だ」

 皆さんが士気を上げている時に一輝くんが夢も希望もない事を言います。

「〝がいしゅういっしょく〟ってなんだ?」

「がいしゅうって食えるのか、一食分?」

 …これは不味いんじゃ…。

 考えたら彼らって義務教育受けてんのかしら。

 うちの里だと忍以外でもみんな学校に行ってるしね。

「一輝くん、数日空けて良いかな?」

「どうかしたのか、ブンブク?」

 ちょっと、この国の教育制度について調べてこないとまずそうなんだよね。

 

 僕は数日かけてギリシャ本土に渡り(渡り鳥に突っつかれたりしながら)、必死こいてギリシャの経済や産業、教育なんかを調べ上げました。

 んで戻ってみると、みなさんすっかり修行モード。

 特にブラックドラゴンくんとそのお兄さんは真面目に修行してました。

 僕みたいなふざけたのに負けたのが悔しいとかで、失敬な。

 で、僕は色々売っ払って作ったお金でいろいろ買ってきました。

「はいみなさん、ちょっと集まってくださいね」

 そう言うと、皆さん大人しく集まってくれます。

「今から皆さんの学力測定をします」

 言った途端にブーイング。

 そんなにみんな勉強嫌かい。

 ちょっと一輝くん! 顔背けない!

 で、僕は皆にテスト用紙を配るのでした。

 

 甘かった…。

 白人が多いからみんなギリシャ人だと思いきや、生まれがばらばらで、ギリシャ語が話せる以外は文字の読み書きが出来る子が碌に居ません。

 それどころかギリシャ人ですらギリシャ語を読めない子がいる始末。

 この子たちの師匠って何教えてたんだ!

 これは立派に児童虐待だぞ!

 まあ、半分くらいの人たちは自国の読み書きが出来るようですが、それでも修行が始まってからは勉強も碌にしていないようで、基本的な知識とか、勉強のための心構えとかが全くありません。

 さすがにこれは不味い。

 …仕方ない、次に補給船が来た時に交渉するしかないですね。

 それまでは何とかギリシャ語が読めるようにみんなで勉強しましょう。

 話せはするんですから、それに書き文字を当てはめれば良いんですからね。

 

「ええっと、ふゆに、アリはすのなかにいた。

 すると、おなかをすかせたせみがきた。

 たべものをくれ、といった。

 ありはいった。

 なんで、なつのあいだたべものをあつめなかった…でいいのか? これ」

「それで良いんだと思う。

 なつのあいだうたったなら、ふゆのあいだおどればいい、と。

 これでいいのかなあ…」

「おっけーです、はい、ヴィルケさん一抜けね」

「ふっ、これで修行に入れるぜ!」

 ブラックスワンことヴィルケ・コポーネンくんは内心うれしそうに修行場の方に行きました。

 向こうでは早々に片を付けた一輝くんがみんなの面倒を見ています。

 ホントはギルティーさんにもやって欲しいとこなんだけど、未だ心の傷は大きく、寝たきりの状態です。

 それでも少しづつ会話とかできるようになってるんですよね。

 時間さえあれば現役復帰も夢じゃないでしょう。

「私も出来たぞ、これでどうだ狸」

「狸ちゃうわー! はい、ユゼフさん一抜けね」

「当然だな、兄さん、行くか」

「ああ」

 ブラックドラゴンことユゼフ・クラトフスキくんも一抜け。

 視覚に障害のあるお兄さんのイェジィくんにはギリシャで使っている点字を覚えてもらったところ、ものすごい勢いで単語や熟語を覚え、今では僕よりも上手に点字を読むようになりました。

 なんていうか、「好きこそものの上手なれ」ってのが良く分かります。

 さて、いわゆる暗黒四天王の内苦戦してるのがブラックペガサスことレヴィ・オズくんですね。

 ブラックアンドロメダのアリ・アスランはもうちょっとでおわ…「終わったあ! ワンコこれで良いか!?」

 誰がワンコですか。

 いっぺん締めないといかんですかね、この子は。

「わ、わかったから、睨むなってブンブクさん」

 まったくもうやんちゃなんだから。

 レヴィくんはやっぱり元がヘブライ語だそうで、現代ヨーロッパ系の書き文字とはちっと違うからねえ。

 あそこんとこの文字って右から左に書くそうだから。

 それでもなんとか終わらせて、一息つくレヴィくん。

「はいお疲れさま。

 言語形態が生まれの国と違うと大変だよね」

「まあな、それにしても、一輝様といい、アンタといい、日本て国は天才ばっかりなのか?」

 いやいや。

 一輝くんが才能あるのは間違いないけどねえ。

 僕の場合はほら、いろいろ覚えなきゃなんないお仕事だから。

「ああ、ニンジャだもんなあ」

 どうやらこの世界でも忍はヒーローみたいです。

 そうだね、レヴィくんはスピード重視タイプだし、体術をもうちょい鍛えたら簡単な分身なんかは教えられるかも。

「え! マジか!」

 嬉しそうだねえ。

 

 そんな風に過ごしていたある日です。

 とうとう聖域(サンクチュアリ)からの補給物資を積んだ船がやってきました。

 物資を運ぶのは暗黒聖闘士のみなさんに任せるとして、僕は交渉でしょうね。

「失礼いたします、代表の方はいらっしゃいますでしょうか」

 僕は船のへりに乗っかるとそう言いました。

 漁船レベルじゃありませんね、もう一段大きいです。

 まあ、30人からの1月の食糧と衣類ですからね、結構な量です。

 で、そう声を掛けると中からまたゴッツイ人が出てきました。

 この人は暗黒聖闘士の人たちと比べても圧倒的な強さですね。

 正直まともにやったら僕なんか勝負になりません。

 まあ、まともにやる訳はないんですが。

「誰だ貴様は」

 大男さんは上から見下ろすように、という身長差の関係でみ押しつつ、僕にそう問いかけました。

「失礼いたします、僕は『暗黒聖闘士の社会復帰を支援する市民団体』の代表を務めます、茶釜ブンブクと申します」

 あ、ポカンとした。

「な、なんだって?」

「ですから、僕は『暗黒聖闘士の社会復帰を支援する市民団体』の代表です」

 大男さんは困惑した表情です。

 よし、ここから畳みかけるべし!

 僕は懐からこの時のために作っておいた資料を持ち出し、彼に説明という名の洗脳を仕掛けるのでした。

 

 大男さん(白鯨星座(カイトス)のモーゼスさんというそうです)に説明を終えて、ほっと一安心の僕です。

「さて、ここからは質問を受け付けたいと思うのですがいかがでしょうか?」

 そうは言ったけれど、どうやらモーゼスさんには判断が付きかねるようだ。

「こ、これは聖域に持って帰り、検討をしたいと思う!

 民間の協力に感謝する!」

 と言って引き返していかれました。

 …あれは駄目だな。

 どうも聖闘士さんというのはプライドが高いようで、聖域の事務方に渡してくれ、といっても教皇様に指示を得なければの一辺倒。

 いや、教皇さまって世俗の最高位であり、神さまとの直接交渉の出来る方でしょ!?

 そんな所まで上げずに経理とか総務とかの部署に持ってけば良いでしょうに。

 多分モーゼスさんが教皇さまにお会いできたとしても、何の説明も出来ないでしょうねえ。

 そういった経験なさそうですし。

 しかしあれだけ若い人が責任者とはねえ。

 聖闘士の組織っていろいろ厄介そうだ。

 脳筋かつ上意下達の硬直した組織なんじゃなかろうか。

 それも規模によるなら使い勝手も良いんだろうけど、話に聞く限り聖域って1000人以上の人が所属する組織っぽいんだよね。

 88人の聖闘士に一般兵士、官僚に雑務を行う人たち。

 そんだけの組織を切り盛りするのにいちいちトップにお伺いを立てなけりゃならんて…、いや、聖域の人たちはトンデモ揃いだっけ。

 もしかしたら教皇さまってのが聖徳太子を超える処理能力を持ってるとか…、あり得そうだなあ。

 とは言え、実際にお金を動かすのは官吏の人たちだろうから、何とかそこに僕の作った資料を持っていってもらわないと。

 仕方なし。

 僕はスニークミッションを発動するのでした。

 

 まあ、分身の1つが準省エネモードのまま船に乗って、モーゼスさんを追跡するだけなんですけどね。

 いくら聖闘士さんたちが優秀でも、こちとら隠密が旨の忍です。

 単純な戦闘能力でならともかく、隠ぺい隠密で劣る事はありません…黄金聖闘士の方々の様な規格外を除けば。

 さて、追跡です。

 

 らくちんらくちん。

 僕(分身)は今、モーゼスさんにひっついて移動しています。

 モーゼスさんは正方形の箱を担いで移動しています。

 箱の中身はモーゼスさんの纏っていた聖衣です。

 どうも普段はこの箱にしまっておくのが作法の様ですね、一輝くんもそうでしたし。

 暫く行くと、って言いましても人目につかない所をもの凄い勢いで走ってるんですけどね、この人。

 体感で準音速。

 本気で走ったら音の壁を超えそうですね。

 知った忍でもそれくらいのスピード出す人はいる事はいますけどね、やっぱり聖闘士ってとんでもないです。

 大体の距離と地図を照らし合わせると、船を降りてから大体200kmくらいかな?

 どうやらついたようです。

 準省エネモードで覗いてみると、凄まじく壮観な眺めが。

 小高い丘、もしくはそれほど高くない山の斜面に長々と石道が作られ、要所要所にパルテノン神殿みたいな豪奢な建物が建っている、そう言うド迫力な光景、これが聖域なんですか。

 下手に意識を持っていかれるとモーゼスさんにばれちゃいますから、もうちょっと周囲に溶け込む感じで行きましょう。




暗黒聖闘士の面々の本名は、出身地の有名どころの名前から適当に決めてます。

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