NARUTO 狐狸忍法帖   作:黒羆屋

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第16話

 あれから数日が経ちました。

 サクラ姉ちゃんに「自分が甘えるんじゃなくて、サスケさんを甘やかす感じでよろしく」といったのが良かったのか、2人の雰囲気は悪くない。

「押しつけがましくならず、後ろに控える奥さんのように」なんてアドバイスをしたのが良かったのだろうか。

 なんか妙なダンスというか、「奥さんだなんてぇ」ってくねくねしてたのが怖かったけど。

 いやリーさん、ホント申し訳ない。

 で、少ずつ僕とうちはサスケさんとの会話も増えているのだけれど。

 

「おい、お前なら強い相手にどう勝つ?」

 いや、そう言われましてもね。

「勝つって、どういう意味でですか?」

 そういうと、サスケさんは不思議そうな顔をして、

「勝つは勝つだろう、相手を叩きのめすことだろ?」

 …なるほど、僕とサスケさんの「勝つ」の考え方が違うから、なのか。

 やっぱりサスケさんは「うちは」だからなんだろうか、勝負事について王道を行っているんだろうなあ。

 それならば「勝つ」という事は相手を完全に屈服させて、生殺与奪の権利を奪う事なのだろう。

 しかし、

「それについては僕は違う考えなんですけど」

 僕にとっては違う。

 自慢じゃないが、僕は弱い。

 同年代の男の子の中では背が低いし、チャクラも多いという訳ではない、というか有り体に言って少ない。

 忍としてはこのまま成長と共にチャクラが増えたとしても中忍程度の量に収まるだろうと考えてる。

 そういう僕が「勝つ」ためには、さまざまな条件を付けて「限定的な勝利」を狙うしかないんだよね。

「まず、その勝利は『どうなれば勝ち』を考えます。

 何に勝つのか、どうなれば勝ちなのか、勝った結果どうなるとか、勝負をして勝った場合、負けた場合に何を得、失うのか、を考えますね」

 サスケさんは何か考え込んでいるようだ。

 多分、僕が言った事を自分の状態に当てはめているのだろうか。

「僕は同世代と比べても弱い方ですから、小技、戦術を積み重ねないと勝負にならないんですよ。

 まあ、サスケさんとかはそういう事もないんでしょうけど」

 同世代じゃ負けなしっぽいし。

「…そんなんじゃねえ」

 はい?

「…全く歯が立たなかった!! …」

 もしかして、

「その怪我の事、ですか?」

 つい聞いてしまった。

「……」

 まあ話してくれないのは当然なんだけどね。

 お互いに信頼しているわけでもない訳だし。

 だから、参考になりそうな事だけちょこっと話す程度で。

「まず、強い相手と戦う場合ですけど、大体正攻法は効果がないです。

 なぜなら正攻法って力と力のぶつけ合いですから、力の強い方が勝つのは当たり前なんです」

「それでもっ!」

 サスケさんが何かを吐き出すように声を上げる。

「オレはアイツに勝たなきゃならないんだ…!」

 アイツ、ですか。

 サスケさんの「勝ち」たいのは格上の相手、しかもかなり上位、というところか。

 ならば、

「サスケさん、その相手に勝つために今までどんな事をしてましたか?」

 ちょっとくらいしかなれないけど、そのちょっとの助力くらいはいいよね。

 

 しばらくサスケさんが話すのをじっと聞いていた僕だけれど。

「サスケさん」

「なんだ?」

「はっきり言いましょう、サスケさんは()()()()()()()てる」

「なんだと!?」

 サスケさんに睨まれる。

 結構怖い。

「まずサスケさんはほとんど独自での修行にこだわっているように思えます。

 まっとうな意味で師匠に付いた修行ってカカシ上忍くらいじゃないですか。

 確かにうちはの才能であれば、時間を掛けさえすればそこいらの上忍くらいの強さには結構簡単に届くかもしれません。

 でもね、サスケさんの相手ってどれくらいの強さなのかは分かりませんが、並大抵のものじゃないんでしょう?」

「そうだな、少なくとも今の木の葉隠れの里の中じゃ奴にかなうやつはいない」

 …そこまでですか。

 サスケさんがそう言っているだけなのかもしれないけど、それだけの相手である、とまず考えよう。

「その相手とできるだけ早く五分以上に持っていくなら、もっといろんな人に稽古をつけてもらう方が手っ取り早かったはずです。

 うちはの名前を使えば…」

「ふざけんな! うちはが俺なんじゃない、俺がうちはなんだ!

 ここからうちはを俺が再興するんだ!」

 だからうちはの名前には頼らない、と。

 それが甘い。

 自分が弱い事を認識した、ならば目的のために手段を選んでいられないはず。

 使えるものは全部使って、それでなお手が届かない。

 そこからさらにあがいて少しでも確率を上げないと、っていうのが弱い者のやり口なんだけどね。

 サスケさんはもともと強い立ち位置にいたから自分より強い者と戦う事が少なかったのかも。

 ま、僕らの年代じゃ普通そんなもんなんだけどさ。

 とはいえ、そういう甘い事を言える相手じゃあないんだろうなあ。

「まず、今負傷して入院しているサスケさんにできる事は、

 一つ、さっさと体を治す。

 これは先生方の言う事を聞いて治りかけの体を壊さない、っていうのも含みます」

 どこぞの人みたいに治ってない体で修行始めて悪化させるような事をさせないためにもくぎを刺しとかないと。

「一つ、敵を知り、己を知らば百戦危うからず」

「何だそれは?」

「戦争の指南書みたいなのに書いてある文言です。

 敵の戦術や性格、人間関係とか、そういう情報をできるだけ集めて、さらに自分の使える戦術・忍術、自分の性格で戦いになった時に有利になる部分、不利になる部分、戦いになった時に足を引っ張る人、頼りになる人、そいうった情報を整理して次の時に備える事です」

「……」

「で、退院したらもう一度サスケさんの使える体術や忍術を確認して、その精度を上げておいた方がいい、という事」

「どういう意味だ?」

 言ったら怒るだろうなあ、と思う。

 でも、これは言っておいた方がいよね。 

「サスケさん、あの『千鳥』って忍術、不完全ですよね」

 

 

 

 サスケは驚いた。

 確かに今サスケが使える「千鳥」は不完全なものだ。

 かつてはたけカカシが生み出した体術である「千鳥」。

 術発動前のチャクラの集束に時間がかかる上、あまりのスピードにサスケ自身の目が付いていけず、速く動きすぎて相手からのカウンターを取られやすいという欠点がある。

 しかも、

「前に見た『千鳥』は確かに凄い技でした。

 でも僕の目にはあんまりきれいには見えなかった」

 ブンブクは不思議な事を言った。

 忍術に美しいも汚いもないだろうに。

 そう考えるサスケに、ブンブクはさらに言い募った。

「多分あの忍術を完成させる事が時間的には手一杯だったんじゃないですか?

 僕の目には我愛羅さんに打ち込む瞬間ってとても目では追えなかったんですけど、打ち込んで体が止まった瞬間、体の重心が微妙にぶれて見えたんです。

 そのせいで我愛羅さんを倒しきれなかったんじゃないかと思うんですけど」

 サスケは唖然とした。

 自分自身でも把握しきれなかった体術の微妙なブレ。

 それをこの少年は見切ったというのか。

 写輪眼もない、大した血統の家のものでもないこの少年が。

 サスケはこの時初めて自身の才能に疑問を感じた。

 

 

 

 まあ、体術マニアの僕としてはどうしても気になるところでして。

 いろんな忍の動きを見せてもらってたっきたけど、どうしてもサスケさんの動きは一流どころと比べると一段落ちる。

 上忍レベルと比べて一段、なので、十分に凄いんだけどさ。

 あ、うずまき兄ちゃんの場合、普段ぐっだぐだな割りに、ここぞという時は一流どころとそん色ないくらい体幹が安定するんだよね。

 ほぼ四足歩行になっちゃうくせに。

 おかげで僕にも移っちゃったし。

 ちなみに比べてるのはガイさん、自来也さま、カカシ上忍、ヒルゼンさまとか。

 実はすごいのはダンゾウおじいちゃん…ではなく5代目さま。

 5代目襲名以降とそれ以前とでは姿勢が全然違う。

 襲名以降は明らかに達人の動き、その姿勢なんだけど、以前は全くただのおじいちゃんにしか見えない不安定な立ち姿だったんだ。

 どんな時も徹底的に自分の実力を隠していたんだと分かると、その恐ろしさが身にしみるね。

「秘すれば花なり、秘せずば花なるべからず」って芸能関係の言葉があるけど、忍ってそうなんだ、と僕はうちから教わってきた。

 むき出しの刃は忍には要らない。

 必要な時に抜き放たれ、誰にも見られる事無くその務めを果たし、また仕舞われる。

 そうあるべき、と。

 ある意味5代目はその理想を体現してきたと言えるのかな。

 そして抜かれるべき時にその刃を抜いて見せた、それが5代目襲名だったのかな。

 火影という立場は木の葉の忍の代表という意味合いも強いから、伝家の宝刀を見せつける意味でも、その実力を晒さなければならなかったんだろう。

 その達人と比べるとサスケさんの動きはどうしてもおちる。

 実ははたけカカシ上忍も体術に関してはガイさんたちほどじゃないんだよねえ。

 特化型と万能型の違い、なのかもしれないけど。

 多分サスケさんは万能型。

 どんな忍術もそれほど苦もなく扱えるようになるだろう。

 あれ? そういえばうちはってなんか瞳術使えたっけ。

 うちはの写輪眼は有名だけど、その効果はあんまり知られてないんだよなあ。

 里の中でもうちはの事はみんなできるだけ話題にしないようにしているし。

 視力の強化か、幻術系か。

 まあそれはともかく、いろんな術を手に入れて、それをもとに多様な戦術で相手から勝利を奪うのが基本だろうなあ。

 そうなると、どうしても1つ1つの動きの完成度は下がっちゃうから、特化型の人には微妙に劣り、だからこそ万能型はさまざまな状況に応じた戦術を組むことができるようにいろんな忍術を覚える訳で。

 でも、どうも話を聞く限りではサスケさんの相手って同タイプの上位互換って感じなんだよなあ。

 そんなとんでもないのって誰の事なのやら。

 それを倒さなければならない、となると、本来のサスケさんの戦い方を押し通すならかなりの時間がかかるだろうなあ。

 なので僕としてお勧めしたいのは「自分だけの武器を手に入れよう!」なのです。

 1つの忍術を極め、それを生かすための戦術を幾つも用意することで相手から読み辛くする。

 サスケさんほどの才能があるなら、僕やほかの凡百が1つの事を極めるよりも容易なんじゃないかしら。

 それならカカシ上忍ほどの万能性を得るよりもまだ標的に届く可能性があるんじゃないかなあ。

 ってことをサスケさんに伝えてみたんだけど、

「無駄だ、奴は一目でこちらの術を読み解く」ってどんな怪物ですか!

 それってどんなに一生懸命忍術を習得しても打ち出す前に気づかれるってことですか!?

 むう、ならば作戦変更。

「だったら、敵を知る、ところから作戦スタートですよ!」

 こっちはどうだ。

 正体不明の怪物、というのはその正体さえ知れれば以外になんとかなるもんだし。

「まず、相手について分かっている事を書き出してみるのはどうかな?

 紙に書き出すことで、考えがまとまったりする可能性があると思うんですよ」

「む、なるほど…」

 こっちには乗ってくれそうかな。

「ちょっと待ってて下さいね」

 僕は病院の購買にノートを買いに走った(歩いてますよ、院内は走ると危険ですから)。

 

「で、このノートに項目をつけて、分かっている事を書き出してみるといいですよ」

 ノートに項目を書き込みつつ僕はそう勧めてみる。

 相手の名前、身長に体重といった一般的な身体項目、趣味や好き嫌いといった性格的な項目、どんな術を使うか、戦歴はどうか、口癖や人間関係などまで雑多な情報を一度紙の上に書き出す。

 その上でその情報を整理すると今まで見えなかった事が見えてくるかもしれない。

「ってかこういうのってサスケさん得意そうですけど、やった事無かったんですか?」

「ない。

 そんなことするくらいなら修行してる方が有意義だろ」

 取りつく島もないくらいバッサリと切り捨てられる。

 …なんかこのやり取りってどっかで体験しているような。

 なんというか、うずまき兄ちゃんとちょくちょくしてる会話がこんな感じのような気がする。

 …いやまさか。

 実はサスケさんと兄ちゃんっておんなじタイプなんじゃないのか?

 …ない。

 それはないわあ。

 今のはサスケさんが追い詰められている関係で視野が狭くなっているためだろうな。

 兄ちゃんほどのイノシシはそうそういない訳だし。

「とにかく、書き出してみて下さいよ。

 僕なんかじゃ役に立たないでしょうけど、例えばその情報をはたけカカシ上忍とかに見てもらえれば、勝ちへの突破口が見えてくるかもしれないじゃないですか?

 使えるものは何でも使わないと強者とは戦う事すら許されないですから」

 サスケさんは感じる事があったのか、僕の言葉に顔をしかめていた。

「そうだな、まずは戦いになるまで持っていかねえとな…」

「そうですよ。

 使う忍術や幻術、体術そのものを見抜かれたとしても、戦術そのものを見抜かれることはないじゃないですか。

 どんな武器だろうと当たらなければどうということはない、訳ですけど、それを当てるように持っていくための方法はいくらでもある訳ですし。

 情報から使えそうな戦術を複数用意して、それらを積み重ねた分岐のある戦術を用意すれば、それを全部読むのは難しいはずですから。

 姑息だろうと小技だろうと、それを積み重ねていけば術を見抜かれても当てる事が出来る、当てる事が出来れば相手を倒せるはずです。

 サスケさんの場合、『千鳥』を相手に当てるための戦術を中心に考えればいいんじゃないですか?」

 そううまくはいかないのが世の常だけど、攻め手の方がこういうのは有利だからね。

「…お前ホントに年齢詐称だよな」

 どこがですか!

 そんな話をしていると、

「サスケくん、お見舞いに来たよ」

 タイミング良くサクラ姉ちゃんの登場である。

「サスケさん、僕はこれで」

 僕が退室する事を告げると、

「そうか、またな」

 おっ、好感触。

 少しは僕の事を気にしてくれるようになったのかしらん。

 それは結構うれしいかも。

 

 その後、リーさんのお世話をしていると、先生から特別棟に行くように指示を受けた。

 特別棟っていうは元火影3代目・猿飛びヒルゼンさまの入院している一角の事。

 ヒルゼンさまはここのところ何かしら用事を見つけては僕を呼び出し、で、文福さんから話を聞くのが楽しいらしい。

 困ったもんです。

 なんでも考古学的な新事実が文福さんからいろいろ聞けるそうでして、それを紙に書き取ってまとめるのがここのところの日課なんだそうです。

 5代目さまからはそろそろ白い目で見始められているようですが、

「やっと火影を引退できたのじゃ、ちょっとくらい好きな事をさせんか!」

 だそうです。

 でもって、今日も今日とてお呼び出し、と。

 まあいいんですけどね。

 最近ではお見舞いにくる猿飛木の葉丸くんとも結構仲良くなりましたし。

 学校が始まったら、一緒にうずまき兄ちゃんと修行しようって言ってるんですよね。

 さて兄ちゃんはどんな「すっげえ」忍術を会得して帰ってくるんでしょうか。

 なかなか楽しみです。

 どうせ僕には習得できないような術でしょうけど(主にチャクラの量的に)。

 猿飛の家系である木の葉丸くんはいけるんじゃないかと思うんですけど。

 そういえば、今回の修行、じゃなくて旅がうまくいくと、あの綱手さまも木の葉隠れの里に戻ってこられるのかあ。

 三忍のうちお二人がそろうってなかなか凄いなあ、なんて考えながら歩いていると、ヒルゼンさまのお部屋の前に着いた。

「失礼いたします、茶釜ブンブク、参上いたしました」

 警護をしている暗部の人たちにそう告げると、中から

「うむ、入りなさい」

 そうヒルゼンさまの声がした。

 入ってもよろしい? と視線で暗部の人たちに問いかけると、うなずかれたのでドアを開けて中に入る。

 すると…。

 

「ああ、久しぶりだね、坊や」

 この人は、テマリさん。

 砂隠れの里の下忍だったはず。

 そう、大きな扇子で飛行ができそうな人だ。

 なんでこの人が今ここにいるのか、そう思ったんだけど。

「5代目火影殿、この少年が例の…」

 そう言うのはテマリさんの横に立っていた大柄な忍。

 顔の左半分を布で隠した特徴のある見た目のお兄さん、もしくはおじさんだ。

 ってか、また例の、とかあのとかですか…。

「左様、こ奴が茶釜ブンブクだ」

 今日は珍しく5代目も一緒にいらっしゃる。

 ここしばらくは政務が忙しくてヒルゼンさまにかまってる暇がなかったと思われる。

「そちらの書状は受取ろう。

 非公式ではあるが、貴公らの要求は通ると思ってくれて間違いない。

 同時に、木の葉、砂の同盟も承認されることになるだろう」

 …部外者である僕がいるところでそんな話をしていいんでしょうか?

 かなり突っ込んだ政治的内容をお話しているように聞こえるのですがねえ。

 僕の心の突っ込みを誰も聞き咎める事無く(まあ気が付いているんではないかと思いますが)、さらに話は続く。

「そう新しい風影殿には伝えてもらおう」

 へえ、風影さまって新しい方が就いたのかあ。

 そういえば中忍試験の時には大蛇丸さんが化けてたけど、その責任を取って辞任、なんだろうなあ。

「…火影殿、この子どもに聞かせて良いのですかな?」

 砂の忍の人がそう言う。

 もっともな意見。

 まあ、5代目さまはなにか考えがあって僕をここに置いているんだろうし、僕はもっともらしい顔をしていればいいか。

「こ奴は一尾に関わるものでもあるのでな。

 砂隠れの里への派遣に際して、こ奴も同行させるつもりでいる」

 むひょーじょーむひょーじょー。

 頑張って表情に出さないようにしております。

 なんか僕の意向はどこに行ったのでしょう。

 一応僕はまだアカデミーの生徒でして、まだ忍ではないんですがね、5代目。

 子どもを政治の場に引っ張り出すのやめてほしいんですが。

「茶釜ブンブクよ」

 5代目が僕に呼び掛ける。

「はい、なんでございましょうか、火影さま」

 僕は片膝をついてその言葉を受ける。

 面倒事の予感。

 予感というより確信、かな。

「お前はこの後、特使・うたたねコハルと共に砂隠れの里へ赴け。

 護衛にはマイト・ガイのチームをつける。

 出立は明日の昼。

 それまでに準備をしておけ。

 他言は無用だ」

「はっ!」

 …後から説明いただけるんですよね、5代目。

 

 さて、砂隠れの里の2人が病院を辞して宿に向かった後の事です。

「火影さま、どうなっているのかお話し頂けるのでしょうか。

 事情が全く飲み込めていないのですが?」

 僕がそう言うと、5代目さまは、

「うむ、今のやり取りでお前はいろいろ知ってしまったからな」

 ってわざと聞かせましたよね、それ。

 いたいけな少年に外交で圧力かけんでも良いじゃないですか…。

「まず、4代目風影が大蛇丸に暗殺されていた事が発覚した。

 これ以上の状況悪化に耐えきれないと判断したため、砂隠れの里は木の葉隠れの里に対して全面的な降伏を宣言した。

 これをワシらは受理することとした」

 うわぁ、なんとも思いきった事を。

 下手をすれば砂隠れの里が吸収されてしまう危険すらあるというのに。

 もうちょっとすれば公表されるんだろうけど、大混乱必至の内容だねえ。

 さて、そんな事を僕に教えて5代目さまは何をさせたいのでしょうか…。

「お前には砂隠れの里に行き、5代目風影の支援を担当してもらう。

 現風影は政治的に苦しい立場にあり、我ら木の葉隠れの里は彼を全面的に支援することとなった。

 その支援の一環としてお前を半月の間砂隠れの里に送る事にしたのだ」

 …なんで?

 元風影さま陣営のお立場が悪いとなんで僕が砂隠れの里に行く事になるのでせう?

 僕が首をかしげていると、

「5代目風影にはお前も会った事があるはずだ」

 へ? 砂隠れの里の人って僕、ろくにあった事がないんだけど?

 さっき会ったあの人が今の風影さまなのかしら?

 でもいくらなんでも情勢が不安定な今、里のトップがこんなにやすやすと里の外に出られる訳はないし、…!

「ほう、気が付いたか。

 新しい風影の名は『我愛羅』。

 4代目風影の末息子だ」

 …なるほど。

 しかし、我愛羅さんって1ヶ月ほど前まで下忍だったんですよね。

 それが風影の息子ってだけで新風影ですか。

 っていうより長男はどうしたんでしょうか。

 こういうドタバタの場合、忍としての能力はさておき、血筋的に長男坊を持ってくることが多いと思うのですが。

 さてこの違和感はなんだろうなあ。

「ふ、どうやら疑問があるようだな」

 5代目がそういう。

 やっぱりこの違和感は勘違いじゃない、と。

 そうなると、だ。

 …! そう言う事、かな?

「里の政局混乱を押しつけるための人身御供、ですかね?」

 僕がそう言うと、5代目はほんの少し口元を歪めた。

 …おっかないなあ。

 僕の背筋に冷たいものが走る。

 なんか蜘蛛の巣にからめとられているような気がするよ。

 それはさておき。

 たぶん砂隠れの里は今大混乱に陥っている。

 里の上層部ではこの混乱に乗じて他の里が何かを仕掛けてくることを危惧しているだろう。

 出来るだけ早くこの混乱を収めなければならない訳だ。

 そう言う時に一番手っ取り早いのは、誰か責任を取る人間を設定してつるし上げる事。

 混乱は収束したとみんなにアピールするセレモニーに使われる犠牲者を用意して、それが全部悪いんだと責任を押し付ける事だろう。

 そのために元4代目風影の陣営は権力を取りあげられていた、5代目となった我愛羅さんが全部悪いんだ、ということで我愛羅さんを処分した後に元4代目陣営の誰かが本当の5代目として立つ、という筋書きだろうか。

「おそらくお前の考えている事は正しい。

 だが、ここでワシらが5代目風影に肩入れすればどうなるか、分かるか?」

 …む、ええっと。

 我愛羅さんの政治的立場が強くなって、相対的に元4代目陣営の立場が弱くなる、と。

 んでもって木の葉隠れの里(うち)の砂隠れの里への影響力も強くなる、と。

 そうなると僕の役割ってのは、やっぱり守鶴さん関係なんだろうなあ。

「僕に一尾さんを抑えろ、という事ですか?」

「可能であるならば、だな。

 実際にできなくても良い、ただ5代目風影のためにワシらが協力している、という事実が見えればよい。

 お前を派遣するのは5代目風影に対する木の葉隠れの里の好意と期待を表しているのだ。

 それだけで意味がある」

 なるほどねえ。

 正直政治に巻き込まれるのは嫌だけど、守鶴さんや我愛羅さんの役に立てるならまあ悪くはないかな。

 で、ガイさんにちょっとは稽古をつけてもらえるかもだし、日向ネジさんやテンテンさんにもいろいろ教えてもらえるかもしれない。

 特にテンテンさんは忍具使いだし、変わった忍具とか僕も興味しんしんだ。

 砂隠れの里ってどんなところだろう。

 僕はちょっとワクワクしていた。

 

 

 

「ダンゾウよ、本当に良かったのかの?」

 ヒルゼンはダンゾウに尋ねていた。

 ダンゾウは自分の後継者(木の葉の裏方)としてブンブクを鍛えるつもりなのだと、ヒルゼンは知っていた。

 そのダンゾウが情勢の不安定な砂隠れの里に、必ずしも必要でないブンブクを送り出す理由。

「ああ、あ奴は経験を積まねばならない。

 ワシらとて時間がある訳でもなかろう。

 火影は良い。

 三忍が内2人が候補として残っておる。

 問題は木の葉の裏だ。

 一柱のみの支えでは木の葉隠れの里、そして火の国の軍事面を支える事は難しい。

 ワシとて火影になってやっとその難しさに気付いた。

 ヒルゼン、お前はよくもまあこんな事を40年近くも出来たものだ」

「ふん、お前やコハル、ホムラがいてくれたおかげよ。

 でなければ最初の数年で潰れとるわ」

 火影という立場はそれだけ重い。

 1人で背負うには重すぎる。

 それ故に火影を支えるものは1人でも多い方がいい。

 そのための人材を養成する必要があるのだ。

 ダンゾウは忍術学校を卒業する前からブンブクに経験を積ませるつもりであった。

 今回の事はダンゾウにとって渡りに船、というものであったのだ。

「それでブンブクに試練を与える、という訳かの?

 本人が聞いたら泣いて怒るぞ?」

「泣こうが喚こうが里のためだ、やってもらう」

「やれやれ、ブンブクもえらいのに見込まれてしもう他の、これから大変じゃて」

 そう言いながらもヒルゼンの顔には人の悪い笑顔が浮かんでいた。

 

 遠くでくしゃみをする誰かがいたようだ。




ここから少し書き溜めに入ります。
数話分たまりましたらまた投稿いたします。

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