次回の投稿は2、3日かかるかもしれません。
「僕には前の生、前世というんでしょうか、その記憶があるのです」
僕がそう話し始めると、お二方は怪訝そうな顔をした。
まあそうだよね、僕らの宗教って忍宗だしね。
基本的に忍に限らず人と人とのつながりを重視する、そしてその要素としてチャクラの運用、つまり忍術があるってのが教義だし、そこに魂がどうのこうのって入ってきてないしなあ。
死んだら終わり、ってのが基本だし。
魂の概念なんて体、魂、チャクラ、の人間を構成する要素の1つにすぎないからなあ。
一般の人たちの間ではいろんな宗派があるけど、忍宗に神様はいないしなあ。
強いて言うなら六道仙人さま位?
どっちかってと仏さまだよね。
魂って死んだら世界に消えていくものってのが一般的な解釈だから、そうなると魂が記憶を保持しているってのはおかしいってことになる訳なんだよね。
そう言う訳で、お二人にとっては前世の概念ってせいぜいが「忍術を使って生まれたばかりの子どもの体を乗っ取る」くらいしか思いつかないんじゃないだろうか。
「別に、僕には昔の記憶がある、というだけの事なんですけどね。
まあなんと言いますか、頭の中にもの凄く鮮明な映画とかが入っている感じでしょうか。
必要になったなら頭の中で映画が再生される感じです」
僕がこういうと、
「ふむ、その記憶に乗っ取られるようなことはないのか?
平穏な映像なればともかく、お前の前の生が平穏なものばかりではなかった可能性もある」
そう5代目が言う。
そうですね、何も知らない幼児が虐殺の場面なんかを見せられた日にはどれだけひどい事になるかしれません。
人格のゆがんだ大人の思考を持った幼児ですか、勘弁してほしいですね、そんなもん。
「そう言う事はありませんでした。
何故かって言うと、僕にとっての安全弁みたいなのが記憶の中にあったからです」
「安全弁とな?
それはいったい…」
ヒルゼンさまが不思議そうに言う。
「そうですね、実際にあってもらった方が分かりやすいと思います」
「会う、とな?」
「ふむ、それはつまり人格を持っている、ということか。
お前の中にはお前ともう1人の人格があるのだな」
「まあ1人というかなんというか…」
お二人の顔には疑問が浮かんでいる。
それじゃあ、
「ちょっと待って下さいね、今
じゃあちょっとお願いできるかな?
…お任せなさい、悪いようにはしませんから…
んじゃあ…
猿飛ヒルゼン、そして志村ダンゾウの目の前で、茶釜ブンブクが変わっていく。
室内の気配を感知した暗部の護衛たちも、病室に入ってきて、その変化に各々の得物を抜き放ち、構えた。
「フー、テンゾウ、控えよ!」
5代目火影であるダンゾウの命が飛び、2人はその場で1歩下がった。
しかし、武器を下げる事はせず、要人2人に何事もないよう警戒をしていた。
そして、変化し終えたそこにいたのは…。
一言で言うと「着物を着た狸」であろうか。
着物といっても、ヒルゼン達の感覚からすると若干古臭く、大名やその側近が来ているような、官吏の着るような服を羽織り、頭には布の冠をかぶっている。
意外なほどに似合っており、もともとそのような服装をするのが当たり前だった時代の存在であろう、そのように思える
彼は、ヒルゼン達を見るとにっこりと笑って(狸ではあるが、表情豊かである)、
「火影殿、元火影殿、この姿ではお初にお目にかかりまする。
ワタシは『
そう告げた。
ヒルゼンもダンゾウもどう反応すべきか悩んでいた。
まさか人間以外のものが出てくるとは思いもしなかったためである。
こと、ダンゾウは予想外の出来事に直面した時、考えすぎるきらいがある。
そのため、3代目火影を襲名したのは直感で動く事も出来、かつ理性的な反応も出来るヒルゼンであったのだ。
「ああ、その、文福殿、でよろしいか?」
いち早く思考の輪から抜け出したのはヒルゼンであった。
「はい、ようございます、元3代目」
「…その元3代目、というのはやめてもらえんかのう、何やら座りが悪い。
ヒルゼンで構わんよ。
どうせお主の方が年が上じゃろうて」
「そうでございますねえ、享年は少なくとも大体400年ほどになるはずですので」
「ほう! それほどに!」
「まあ狐と違いまして尾の数は増えぬ訳ですが。
そう言えば一尾様はそれが気に入らぬ、と申しておりましたね。
九尾殿にはその辺り、散々っぱらからかわれていたようで御座いますしねえ」
2人の顔色が変わった。
「文福殿、九尾とはもしや…」
「ええ、『うずまき兄ちゃん』の中にいるお方、我ら妖魔の全ての始祖たる9匹の『尾獣』が一柱にて御座います」
「そもそも、チャクラとはこの世界に存在せぬものであったと聞いております」
文福はヒルゼン達にとって驚愕に値する事を言った。
チャクラ。
世界にあまねく満ち満ちているその力。
忍術の源となるその力が太古の時代には存在していなかった、など。
「! フー、テンゾウ! この近くに人を寄せ付けるな! それからこの場で聞いたことは他言無用!」
「はっ!!」
さすがの発言に本来顔色など微塵も変えないであろう暗部の者達も、動揺を抑えきれていなかった。
「…ふむ、ちとしょっきんぐな内容でしたかね?
まあ、ワタシのような胡散臭いタヌキの言う事です、話半分で聞いておけばよろしいのでは?」
そう言われたとしても、ヒルゼン達にとっては自分たちの存在意義にもかかわる内容である。
余人に聞かせる訳にもいかなかった。
「さて、チャクラが存在しなかった、とはどういうことだ?」
「言葉どおりの意味ですよ。
ワタシは唯の狸だった時代がございましてね、少なくともその時代、チャクラが世界に満ち満ちていた事は御座いません。
ワタシが化け狸となってしばらくは、チャクラなぞ感じた事も御座いませんでしたよ。」
「むう、チャクラなしでも貴殿らのような知性あるものが存在できた、ということか…」
考え込むダンゾウ。
しかし、
「いいえ、チャクラなしでワタシ達のようなものは発生いたしませぬよ?」
文福はまるで謎かけのような事を言う。
「文福殿、それはいったいどういう事ですかのう?」
ヒルゼンが尋ねると、文福はこう答えた。
「ワタシが化けたのは始祖様、つまりは一尾様の影響でございます。
一尾様、九尾様をはじめとした尾獣の皆さまはかつておのれに似た生き物の近くに住んでいらっしゃいました。
その影響を受けてワタシ達のような人に近しい思考を持ち、チャクラを扱う生き物が現れたようなのです。
一尾様には化け狸や化けイタチ、九尾様には化け狐や忍犬族などのように」
「…なるほど、そうなるとチャクラが世界に満ちたのは尾獣達が眷属を増やしたから、という事になるのか?」
ダンゾウはそう尋ねた。
「多分そうではないはずです。
ワタシ達程度の数では世界に満ちるほどのチャクラを生み出すのは不可能ではないかと思われます。
なんといっても個体数が少ない。
ワタシ達は寿命が元々の生物よりも極端に長い。
そもそも私が死んだのも寿命ではなく、
大体10倍以上は生きる、と文福は言った。
「そう言ったものたちは子を成す事も少なくなるものです。
チャクラが世に満ちたのは、人が増えていった結果でありましょうなあ」
ヒルゼン達にとっては考古学どころか神話学の世界に入る内容であろう。
「まあ、当時はのどかなものでしたよ。
一尾様もたまあに九尾様やほかの尾獣の方々と大喧嘩をなさるくらいで、本当に穏やかな生活でした。
ワタシは100歳を過ぎたあたりで人化の法を会得いたしましてね、人の里や、小さいながらも活気のある国を見て回ったものです」
「ほう、どのようなところを?」
ヒルゼンは「
その知識は忍術のみに限らず、さまざまな分野に及ぶ。
この世界ではまだまだ考古学は盛んではないが、それでもある程度の知識は主に火の国、雷の国の学者によって開示されていた。
その知識と文福の話から、ヒルゼンは文福の生きてい時代は少なくとも1000年近く前、ことによると1000年以上前であろうと推測した。
「ヒルゼン、少し落ち着け。
とにかくチャクラは人が増えるのと同期して世界に満ちて行った、そういうことだな」
「ええ、それで間違いないでしょう。
それと同時に、あなた方が使う『忍術』なるものも広まっていったのですが」
文福は眉間にしわを寄せながらそう言う。
まるで忍術が広まった事を迷惑に思っているようだ。
「文福殿、どうかなされたか?」
「まあ、当時はまだ『忍術』という言葉もありませんでしたが、チャクラを戦に使う連中との戦いの中でワタシは死にましたしねえ。
あまり喜ばしい事でもなかったのですよ。
当時は誰が生み出したものか、尾獣の封印がいきなり出来るようになったようで。
一尾様が囚われ、それを取り返さんとする戦いでワタシ達化け狸及びその眷属は大きく力を減じました。
考えてもごらんなさい、化け狸と言うものがいる事はご存じでしょうが、化け狸を口寄せする事が出来た忍は今までおりましたでしょうか?」
考えてみれば、化け狸を口寄せする忍は記憶にない。
たまたま開発されなかっただけ、と考えるには奇妙である。
「単純な話です。
化け狸側で人と契約をするつもりがなかった、という事です。
このブンブクを除いては、ね」
文福は続ける。
「化け狸の側としてもみすみす一尾様を奪われ、同胞の多くを戦で失いました。
人と関わるのをやめたのもその辺りでしょうし、ブンブクに口寄せの契約をさせるよう仕向けたのも一尾様との関わりを取り戻したいが故、といえるでしょうね」
なるほど。
ダンゾウは文福の考えが読めてきた。
ブンブクは今後化け狸と言う優秀な口寄せ動物との窓口になりうる。
かつて自来也が妙木山の山中にて大蝦蟇たちとの契約により、さまざまな口寄せの秘術、さらには仙人モードを習得したことなどから、今後木の葉隠れの里の忍が死国の化け狸との関わりで強大な術を習得できる可能性も十分にある。
そう考えるなら、ブンブクに対して無理な注文を付ける事はできない。
文福が出てきたということはブンブクに付加価値をつけるのがその目的か。
そうダンゾウは結論付けた。
悪くない。
ブンブクが、たとえば自分の後を継ぎ、「根」の頭目となるのであれば化け狸と言う強力な同盟者を背景に動く事ができる。
他の里、特に砂隠れの里にも大きな影響力を持つ事とて可能だろう。
「文福殿、貴殿はいつでもブンブクと代わる事が出来るのか?」
「いえ、今回は特別ですよ。
ブンブクはまだ幼い。
自我が固まりきっていないので、彼の要請があれば出る事も出来ますが、今後は人格の統合が行われていくでしょうから、魂にへばりついたこの文福という残りかすはあと数年もすればブンブクの中に消えていく事でしょう。
元々ブンブクが主であり、ワタシはブンブクの意識の底に居候しているにすぎませんからね」
それが本当なればブンブクの意識が乗っ取られるといった危険もないのだが。
とはいえ、文福は十分に理性的であり、ブンブクに協力的であるようだ。
里に害をなす事は限りなく低いとダンゾウはみた。
ヒルゼンはまだ文福と話し足りないらしい。
言ってしまえば文福は過去、しかも1000年近く昔の生き証人(死んでいるが)であり、その言は考古学的にも貴重なものである。
忍術のみならず、学問全般に造詣の深いヒルゼンにとってはその知的好奇心を満たすのにうってつけの相手、といえた。
だが、
「あの、申し訳ないのですがね、あまりワタシが長く
今回はこの辺でお開き、という訳には参りませんでしょうか?」
「むう、残念ですのう…」
ヒルゼンは未練がましく文福を見ているが、ダンゾウはそれを聞いて、
「ならば仕方あるまい。
ヒルゼンよ、昔語りが聞きたいのならば改めて時間を割いてもらえばよかろう。
どうせしばらくアカデミーは再開されん。
子どもらも病院の手伝いに駆り出されておる。
ブンブクとてそれは同じであろう。
ならばお前の看護手伝いという名目でここに来させればよかろうて」
「ふむ、それは名案じゃの。
では文福殿、また後日な」
ダンゾウの提案を聞いて、ヒルゼンも引くこととなった。
「ではお二方、また後日、でよろしゅうございますね。
それでは失礼いたします」
文福がそう言うと、先ほどとは逆の変化が起こり、少年ブンブクが姿を現す。
元に戻ったブンブクは意識がもうろうとしているようで、ふらりと倒れかかった。
それをダンゾウが受け止める。
同世代の子どもと比べて少々軽めの体を抱えあげると、ブンブクはクウクウと軽いイビキをかきながら寝入ってしまっていた。
「ふむ、先ほどの入れ替わりは子どもの体には少々負担が大きいようじゃの。
これは悪い事をしてしもうたかの?」
「しかたあるまい。
ブンブクの事情をワシらに理解させるにはこれが一番手っ取り早いと思ったのだろう。
まあ、あまり無理をさせん事だ。
毎日呼びつけて話し相手などさせんようにな」
「分かっとるわい、まったく、年寄りはくどくなっていかん」
「同い年に言われてもな、
まあいい。
テンゾウ!」
「はっ、ここに!」
「茶釜ブンブクを居宅へ送り届けよ」
「はっ!」
暗部の優秀な上忍であるテンゾウの仕事とは思えぬ内容であるものの、上司からの命は絶対である。
テンゾウはブンブクを抱えたままその場を辞した。
…おはようございます、茶釜ブンブクです。
どうやらあの後僕はばててしまい、眠ってしまったようです。
これは不敬になんないのかしら?
火影さまの前で熟睡って…大丈夫だと思いたい。
そんな事になっていたなら、とうの昔に上忍の方々が…
「ごめん!」
…はい?
「茶釜ブンブクは居るか」
…えーと、
「ごめんなさいっ! つい出来心だったんですっ! 不敬罪で打ち首は勘弁して下さい!」
ここはDOGEZAをしてでもなんとかお許しを頂かなくてはっ!
「…何を言ってるのかな、君は」
頭を上げるとお面をつけているんで表情は分からないものの、呆れているのが雰囲気で分かる暗部の人が。
「昨日キミを送ってきたものだが、風邪でも引いていないかと心配でね、見に来た」
意外にフレンドリーな方なんだろうか。
暗部というと冷静沈着、感情を持たない完璧な忍ってイメージがあるけど、そうだよね、いろんな人がいるはずだよね。
あくまで忍務に私情をはさまない、というだけの事なわけだし。
「ありがとうございます、体調に問題はありません」
僕がお礼を言うと、暗部の上忍さんは何やら不思議そうな雰囲気をしていた。
「ふうむ、本当に普通の子なんだね。
これはみんなにも一度会ってもらった方が…」
おや、なんか物騒な事を言っているような気が…。
あんまり考えないでおこう。
あれから数日、連日病院にてお手伝いの毎日。
残念ながらうちはサスケさんにはまだ会えていない。
サスケさんは面会謝絶となっていて、サクラ姉ちゃんも会えていない状況だ。
毎日病院に来ては追い返されているので、さすがに気の毒になり、面会謝絶が解けたら教える事にした。
で、個々の所毎日サスケさんの面会謝絶が解けたかどうか確認していたのだけれど、今日、やっと面会ができるようになるとのこと。
久しぶりにカモくんを口寄せしてサクラ姉ちゃんに知らせてもらおうと思ったのだけれど、
“サクラ姉ちゃんって誰ですかい?”と言われてしまった。
今度親しい人たちにはカモくんを紹介しておかねば。
しょうがないので早めに仕事が終わる同級生に頼んでサクラ姉ちゃんに伝言をしてもらう事にして、とにかくサスケさんの様子を見に行ってこよう。
そう僕は考えた。
状況によってはサクラ姉ちゃんが見舞いに行くことで2人の関係が悪い方向に言っちゃう事もありうるし、それはサクラ姉ちゃんがかわいそうだ。
ここんとこ何年もサクラ姉ちゃんはサスケさんに恋している。
恋は盲目とはよく言ったもので、傍から見ていると明らかにサスケさんが辟易しているシーンがところどころあった。
あんまりガンガン行っているとサスケさんみたいな人には逆効果な時もある訳で、特にサスケさんが弱っているこの状況、チャンスであるとともに、接し方を間違えると致命的になりかねない。
これが恋のさや当て、だけならまだしも、2人はうずまき兄ちゃんを含めてスリーマンセルのチームである。
忍のチームでチームワークが乱れるのは大問題だ。
これは姉ちゃんだけの問題ではない! 兄ちゃんの問題でもあるのだ!
ってことで~ちょっとサスケさんの所にお手伝いに行ってきます。
サスケさんの病室に来てみました。
中をのぞきますと、あ、サスケさん起きてる。
「失礼します」
そう言って中に入る。
「…」
サスケさんはひどく憔悴した感じだ。
こちらをちらりと見たきり、下を向いたまま何も話そうとしない。
これはかなり手ひどくやられたみたいだね。
尋問がきつかったのか、その前の戦いが自分にとってあまりにも無様だと思ったのか。
ここいら辺は本人でないと何とも言えないだろう。
僕はサスケさんのそばに行って
「それじゃあ窓を開けますね、換気も必要ですし」
そう言ってカーテンを開けて窓を開けようとし、
「開けるな」
…そう言われてもですね。
「サスケさんは特に感染症とかは持っていないんですから、外の空気に触れた方がいいってお医者さんが言ってました。
そうして少しでも早く退院しないと」
「…うるさい、開けるな」
とりつく島もないですね。
サスケさんの話し相手になるよう医療忍者の先生には言われていますが、これはどうにも。
しょうがないので、サスケさんのベッド回りの掃除をしながら世話話をしてます。
…僕が一方的に。
「それでですね、サクラ姉ちゃんはそのうち来ると思います。
うずまき兄ちゃんの方は、なんでも三忍のお1人を探す旅に修行がてらくっついて行ったそうで…」
ぴくり。
お、反応あり。
サスケさん、兄ちゃんの事に反応したのか、それとも修行って言葉に反応したのか…。
「ふん、あのウスラトンカチ、無駄な事を…」
ああ、なんかえらいサスケさん卑屈になってるなあ。
他者を貶める事でなんとか自分を維持しようとしてる感じかな?
「無駄じゃないと思いますけどね、兄ちゃんの場合」
お、サスケさんムッとした。
僕はサスケさんの言い方にケチは付けない。
ただ兄ちゃんにとってこれは意味のある行動だ、と知ってもらう必要はあるかな。
「は、お前にあいつの何が分かるってんだ?
あいつは唯のウスラトンカチだ。
何もあいつに期待するべきじゃない、そんなやつだ」
まるで自分だけが兄ちゃんを分かっているような口ぶり。
…あれ? てっきり兄ちゃんが一方的にライバル視してると思ったんだけど?
なんだろうな、今の技量を考えれば別にサスケさんが兄ちゃんより弱いとは思えないんだけどなあ。
確かにここ一番の兄ちゃんの勝負強さは僕だって認めるところだけど、それは「ここ一番」であって、普段からその力が発揮できる訳じゃない。
多分何か大事なものがかかった勝負じゃない限り、今の兄ちゃんではサスケさんには勝てないはずだ。
今のサスケさんには「千鳥」っていうここぞという時に使える一撃必殺の忍術がある。
対して兄ちゃんにはそれがない。
大一番にこれ! という頼れる武器があるとないとでは安定感が段違いだから。
今回の修行の旅でそう言ったうずまきナルトといえばこれ! みたいな武器が手に入れば、兄ちゃんはもっと化けるんだろうけど。
そういった彼我の差というのを見ないであいつは凄い、とか俺はだめだ、みたいなことを言ってるのが今のサスケさんなんだろう。
「そうですねえ、僕は皆さんの忍務についてってる訳じゃないですから。
でも、だからこそわかる事もあるんですよ。
兄ちゃんの強みって」
「なんだそれは!?」
よし、乗ってきた。
ふっふっふっ、兄ちゃんを馬鹿にされていてムッと来てない訳じゃないんですよ、ボクは。
しっかり兄ちゃん自慢を聞いてもらいましょうか。
「まず、兄ちゃんはお馬鹿です」
「は?」
「基本的に周りを見てませんし、察しも悪いです」
「いや、あのな…」
「勉強も嫌いですし、だから忍術の術理とか考えるだけ無駄なんです」
「そこまで言わなくても…」
「だからこそ、指導してくれる人を徹底的に信じるしかないんです」
「……」
「兄ちゃんは修行の目的を話したとしても理解できません。
でも、修行を通して身に着いた事は実体験として理解できるんです。
だから兄ちゃんは指導してくれる人をとっても尊敬するし、また師匠さんの方でも兄ちゃんに敬意を払ってくれるんです」
「… そうだな…」
「そんな兄ちゃんだから僕は尊敬してるんです!」
さあどうだ!
「…お前は凄いな」
…は?
なんでそうなんるんですか?
ここは兄ちゃんが凄いことを認めるところでしょうに!
「お前は前向きだよ。
… オレにはなんでそんなに前を見ていられるのかが分からない…」
あらら、また下を向いちゃった。
これはしばらく時間が必要でしょうか。
サスケさんには甘やかしてくれる人が必要な気もするけど…。
そんな事を考えていると、
「サスケくん!」
お、サクラ姉ちゃん登場。
「サスケくん、大丈夫!?」
おお、こっちの事は見もしないでサスケさんに突撃してったよ、流石です、姉ちゃん。
その後は、まあ恋女房のごとくかいがいしくお世話をする事、口から砂糖が出そうです、ごちそうさまでした。
この分だとどんだけ罵られてもサスケさんから離れないだろうし、後から姉ちゃんのフォローは僕がすればいいか。
今日の所は引き揚げよう。
さて次はリーさんのお世話だね。
こうしてその日は過ぎて行くのでした。
最初のあたりのNARUTO世界における宗教について。
あれはブンブク君の主観ですので、いろいろおかしいところもあります。
そこらへん含めて後々の伏線です。