あと1話か2話くらいで第1章完というところです。
どうも、茶釜ブンブクです。
僕は今、
激 戦 区、
にいます。
兄ちゃんが修行の旅に出かけてから2週間、里はさらに大変な状態になっています。
まず医療忍者の方々が倒れ始めました。
あんまりにも負傷者が多かったもので、まともに休息も取れない状態だったそうです。
そのため、医療忍者の修行中だった下忍も招集されるありさまで、それがさらに医療現場を混乱させる羽目に。
言ってしまえば医学大学の学生をそのまま現場で使うようなものですから。
それを支えるのは結局ベテランの医療忍者さんたちで、結果負傷者の治療はスピードアップしましたが、現場監督の医療忍者さんたちの疲労もマッハ、ということになったようです。
つぎに、コメディカルの人材の不足が目立つようになってきました。
看護師さんとか、薬剤師さんとか、お医者さん以外で患者さんの治療に関わる人たちのことだそうです。
お医者さんだけでは病院は回らないのだそうで、医療活動を支援する看護師さんと、患者さんのお世話をする院内介護士さんの数が致命的に足りないのだそうです。
で、ですね、僕はその病院で介護士さんたちのお手伝いをしているのです。
誰かが言ったらしいのですが、「使えるものは雛でも使え」ということだそうで、僕たち忍術学校の生徒も、学校が休校状態であるために、ここで奉仕活動をすることで出席日数に計算されるんだそうです。
つまり、ここでお手伝いをするなら、来年に僕たちは進級できるということになるわけですね。
単位がかかっているので、僕らも必死ですね。
がっちり仕事をしてみんなの役に立たなければ。
そう思う僕なのでした。
僕の仕事は、病院に入院している人たちのお世話です。
今回の騒動では怪我のレベルでは済まない状態の人がまだまだ入院しています。
戦闘の負傷のため、骨折、裂傷、火傷などの方のお世話をするのです。
ちなみに生死にかかわるレベルの人は一通り治療済みだそうで、火影さま…3代目さまも治療経過は順調だそうで、里の人たちもほっと一安心。
次代の火影さまも決まった事が発表され、里も復興に向けて動き始めている。
なお、忍びの人たちは志村のダンゾウおじいちゃんが次代の火影さまになるって聞いてなんか動揺してる様子がうかがえる。
そんなに心配なのかしら。
まあ、3代目さまが就任していた時期が長かったからねえ。
4代目様がいらっしゃった時期を除くと、40年近く火影をなさっていた訳だし。
確か木の葉隠れの里の歴史が大体80年くらいだったはずだから、その半分を3代目さまが担ってきたんだよね。
今まで木の葉の忍全体の精神的な支えであってくだすった3代目さまの引退じゃあしょうがないのかな。
とはいえ、ダンゾウおじいちゃん、もとい5代目さまも忍としてはお年だし、体調も良い訳ではないだろうし。
あと何十年も続ける訳にもいかないんだろうなあ。
火影さまになることでもっと体調が悪くなったりしたらいやだなあ。
そんな事を考えながら、怪我をした忍の人の朝ご飯の介助や、着替えのお手伝い、荷物運びなどをしているのでした。
さて、お昼の僕はリーさんの介助お手伝いです。
今日はガイさんも任務のためにいないので、何かあったらリーさんを止めるのは僕の仕事なのです。
そのリーさんですが、どうも術後の経過がおもわしくない様子。
負傷したのは大体2ヵ月半前ですから、まだ医療忍者のみなさんも余裕のある時期でしたし、からかなり手厚い治療看護を受けて重篤だった左の手足以外はある程度動くようになってきました。
しかし、どうも体に麻痺が残っているようなのです。
もしかしたらどこか中枢部分の神経がダメージを受けているのかもしれません。
そこまで分かる医療知識を持った医療忍者の先生がいないらしく、現状ではこれ以上の回復は見込めないらしいのです。
今まで体術一本でここまで伸びてきたリーさんにとってはとてつもない苦痛であるのは想像できる、いやできないほどでしょう。
僕にできるのはリーさんを支えようとする事、少しでも身体能力を落とさないようにリハビリのお手伝いをすることくらいでしょうか。
「リーさん、痛くないですか?」
「大丈夫です! もっとギュッと押してください、ブンブクくん!」
「いやだからやりすぎるとかえって逆効果ですって」
今僕はリーさんの左手足のリハビリを行っています。
手足の関節は動かさずにいるとその動かせる範囲(可動域というのだそうです)が狭くなってくるのだそうで、それをほぐしてきちんと動くようにストレッチをしてあげる必要があるのです。
で、若干の麻痺の残る体をリーさんと僕とで今ほぐしている真っ最中なのですが、リーさん無理するのに慣れてしまっているせいで、「もっと強く!」と無茶を言う訳です。
いやリーさん、これ修行じゃないからね!
退院した後に修行ができるようにする準備運動だから。
無理してつぶれちゃったら元も子もないのです。
…そうしてしばらくリハビリを続けていた時です。
「…ブンブクくん、ボクの体は… 動くようになるんでしょうか…」
…僕には答えようがありません。
医療忍者の先生方は後遺症が残るだろう、とは言っていましたが、どの程度、というところまでは言っていませんでした。
医療忍者、というからには医療のエキスパートなのでしょうが、その方々が断言できない、という部分を僕が断言できる訳もありません。
なので…
「その答え僕は出せません。
出せない以上は決めつける事はできないと思います。
ただ…」
「ただ、なんですか?」
「リーさんは、体術の達人であるマイト・ガイ上忍のお弟子さんですよね」
「そうです、師匠の弟子である事がボクの誇りです!」
ガイさんの事になるとリーさんはさっきまでの消沈ぶりが嘘のように元気になるね。
「体術、つまり身体を動かすことって筋肉を動かす事、だけじゃないですよね。
体の動きに合わせて体内のチャクラを制御することでただ体を鍛えただけじゃ生まれない強い力を出す事が出来てる訳じゃないですか」
「…そうですね、体内のチャクラをコントロールしなければ、ボクがつけている重りをつけての修行は無理でしょうね」
…ん?
よく見たらいつも付けてるパワーアンクルつけてるし!
道理で妙にベッドが沈んでると思ったよ!
「没収です!」
「そ、そんな! これは先生の命か大切な人を…」
「だ か ら !! その先生の命令ですっての! まったくもう」
もちろん重くて1人じゃ運べませんでしたともさ。
「話がそれましたが、リーさんは体内のチャクラの制御は先生ほどではないにしても出来る訳じゃないですか。
はっきり言ってしまえば、下忍の中では最高峰だと思いますよ」
あの天才日向ネジさんとチームを組んでるくらいだし。
「褒めてくれるのはうれしいのですが、それで?」
リーさんは先を促す。
このあたり、やっぱりおなじ脳筋でもうずまき兄ちゃんとは違う。
知識量の差か、もしくは経験の差かしら。
「例えばですよ、カラクリ使いっているじゃないですか。
指からチャクラの糸を出して
「そうですね、でもそれは指先の細やかな動きとチャクラの制御で傀儡を扱っています。
残念だけれど僕にはその才能が無い…」
「で、中忍試験の時に日向ネジさんは全身からチャクラを噴出して攻撃をはじく技を使っていました」
「日向の秘伝、『回天』ですね。
彼は宗家に学ぶ事無く、日向の秘伝を編み出したんです、ボクとは違いますよ…」
むう、リーさんらしからぬネガティブ。
「まあ、聞いて下さいって。
リーさんは限界まで特訓をして疲れ切った時に、とっさに動かなきゃなんなかった時ってあると思うんですよ。
そういう時には体に残ったチャクラをうまく使って身体を効率よく強化してるじゃないですか」
「…だんだん話が難しくなってきたような気がします」
「そうですか?
僕が思うに、リーさんは体術系、つまり体を動かすためにチャクラを使う事に慣れてる。
それはチャクラを使って筋力の強化や神経の伝達スピードを上げてる訳です。
それなら、チャクラを使って痛んだ神経の代わりに筋肉に連絡を送ってやる事も出来るんじゃないか、と」
「ん? 良く分かりませんが…
! ああ、そういうことですか!
それで最初にカラクリの事を言ったのですね!」
そう言う事です。
言ってしまえば自身の体をカラクリ
多分リーさんにカラクリ使いの才能はないと思うが、自身の体なら別だ。
破損しているであろう神経の部分だけをチャクラの糸で結ぶ、なんてのはかなり高度なカラクリ使いの技になるのだろうが、それが自分の体、しかも動かし慣れている身体内のチャクラならば事情も変わるかもしれない。
ボクの意見は机上の空論に過ぎない。
正直に言うならまず不可能だろうなあとは思う。
しかし、もしかしたらリーさんなら、と思う僕もいる。
絶望するのは全部試してからで十分だっっていうのもガイ上忍の教えであるわけだし。
少し険が取れたリーさんとそれからしばらくリハビリを行った。
この
リーさんの病室を出てきた僕の視界に何やらピンク色のものが入った。
おや、あれはもしや…。
病室をのぞくと、やっぱりそこにいたのはサクラ姉ちゃんだった。
「サクラ姉ちゃん、誰かのお見舞い?」
そう僕は声をかけると…!?
振り返ったサクラ姉ちゃんは涙を浮かべていた。
「そっか、サスケさんもうそんなに…」
サクラ姉ちゃんから、うちはサスケさんが謎の敵にやられてもう2週間も意識が戻らない、自分は毎日お見舞いに来ている、という話を聞いた。
そっか、心配だよね、姉ちゃん。
しかし、あの時点ではまだ中忍試験及び木の葉崩しの負傷が治りきっていなかったはず。
そんな状況であの優秀なサスケさんがなりふり構わないありさまで攻撃を仕掛ける、というのも合点がいかないんだけど。
いったい何があったのか。
もしかすると。
この前聞きそびれた
サスケさんは早急に力を手に入れる必要があった。
それはこの戦いを見越していたからなのだろうか。
そう考えるとつじつまが合う。
突発的な戦闘がおこりうる状況では口寄せ・狸穴大明神の術は向かないだろうし。
後はなぜ人に言えないのか…。
里の上層部はこの事を知っているのか…。
このあたりサクラ姉ちゃんに言うのは危険すぎるなあ。
これはサスケさんの個人的な事に関わるので話す訳にもいかないしねえ。
これはダンマリの一手だろう…
むんずっ!
…姉ちゃん、なんでぼくの肩を掴んでるんでせうか?
この時のサクラ姉ちゃんの顔、ボクは一生涯忘れられないものとなった。
笑顔って元を辿ると動物の威嚇につながるって話があるらしいけど、それが実感できてしまう。
「ブンブクゥ、何知ってるの?」
いやいや、何にも知りませんって!
「嘘ぉおっしゃい、知ってるって顔に書いてあったわよぉ…」
みりみりって、肩がみりみりって!
なんか姉ちゃんのバックに「話せや! くぉらぁ!!」ってな別人格が見える気がする。
怖いって! ええいっ! 最近察しの悪い人とばっかり会ってたから油断したか!
こうなれば変化の術とか…
「何に化けても逃がさないから…」
なぜ分かる!
「…あのねえ、あんたの考えてる事なんか丸わかりなんだから」
え? そうですか?
「いや、さっきから全部顔に出てるから。
口に出さなくても分かるから。
もうどんだけの付き合いになると思ってんの?」
「そんな、うずまき兄ちゃんにはばれた事無いのに!?」
「あの鈍感男と一緒にすんな!」
「…いや、もう分かった、分かりました。
確かに僕はサスケさんがこうなった理由が想像付きますけど…」
「! どうしてなの?」
「それ話せないですよ…」
「なんでよ!」
「これはうちはサスケさんの個人的な事だから。
もしここで話したとしたら姉ちゃんも僕もサスケさんから2度と信じてもらえなくなるんじゃないかな?」
「…でも」
「サクラ姉ちゃんは今まではたけカカシ上忍のチームとして兄ちゃんと一緒にサスケさんと組んできた訳じゃない。
僕なんかとは密度が違うでしょ。
そのチームメイトにも言えないことなわけじゃない。
それを本人から聞かないで、正直たいして関わりのない僕から聞き出したってのはサスケさんから見たらどう思うか、だと思うんだよ。
今姉ちゃんにできる事は詮索じゃなくてさ、サスケさんが起きてきた時に支えられるようにする事、じゃないのかなあ。
僕はしばらく病院で介助のお手伝いしてるからさ、何かあったら話し相手くらいにはなるし、ね?」
姉ちゃんを泣かせたままにしておくのはとっても嫌だったから本当は話してあげたいけど、それやったら多分サスケさんとの間に大きな亀裂ができそう。
リーさんからしたら都合がいいんだろうけど、そこに付け込むようなことはしないだろうしなあ。
「…分かった。もう聞かない」
分かってもらえたようでなにより。
本来のサクラ姉ちゃんは全部含めて察してくれる人だから、本当だったらこんな突っ込み方はしなかったはず。
姉ちゃんもかなり余裕がない様子だ。
ここにうずまき兄ちゃんがいてくれれば、2人の支えになるんだけどなあ。
僕では正直ちょっと足りないのだろう。
それがちょっと悔しかった。
春野サクラにとって茶釜ブンブクは「弟」であった。
初めて会ったのは幾つの時だったか。
当時特に親しい友人もおらず、忍術学校でいじめの対象とされていたサクラに近寄ってきたのがナルト、そしてブンブクだった。
ナルトは学校でも問題児であったが、その生まれのせいかいじめなどの差別的行動には敏感で、いじめを受けている現場でわざと視線を集める行動をしてサクラをかばってくれた。
当時のサクラは引っ込み思案で、ナルトの顔も見る事が出来なかった。
そのため、ナルトが自分をかばってくれた、ということ自体忘れてしまっていたのだが。
その後、放課後などに話しかけてくるようになったのがブンブクだった。
多分ナルトからサクラの事を聞いていたのだろう、ブンブクはしばらくしてからシカマル、そして
いのは気風の良い姐さん肌であり、クラスの女子の中心でもあった。
彼女と仲良くなったサクラは自然といじめられる事もなくなり、生来の明るさを取り戻していった。
サスケをめぐる確執から一時期いのとの中は険悪になったが、ブンブクとの関係は壊れなかった。
初めて会ってからしばらくして、「キーワードってどう?」と訳の分からない事をブンブクは言い出していた。
「は? きぃわぁど?」
「そそ、キーワード。
こう、気合入れる時とかに言うと気分が変わるような奴。
『よっしゃー』でもいいし、『よゆーっす』とか、『まだまだだね』とか」
何やら微妙なニュアンスのものも混じっているような気がしないでもないが、気持ちを切り替えるための儀式、と考えれば悪くはないのか。
そう考えて、サクラはふと気になった。
「ねえ、キミのキーワードって何?」
ふっとブンブクが変わった気がした。
表情は変わらないのに、何かが彼は変わった。
「僕のキーワードはねえ…」
その時、サクラはつい笑ってしまった。
ずいぶんとかっこいい言葉だねえ、と。
すっと後になって思う。
彼はきっと里のみんなが好きなんだと。
戦乱の世がまた到来する。
その時、自分ができる事で里のみんなを守る、その心がそれを選ばせたのだと。
その言葉を聞いて、自分でも気合の入る言葉、それを考えて、気が付けばその言葉はサクラの代名詞のようになっていた。
ブンブクに慰められて病院から出てきたサクラは天に向かって気合を入れる。
「しゃーんなろー!!!」
空は快晴だった。
僕は病院で色々おかたずけの手伝いをしていた。
なにせ重体、重症患者が多いものだから消耗品や処置しなければならない器具がやたらと出る。
ほぼ24時間釜はぐつぐつとお湯を沸かし、煮沸消毒をする器具が大量に運び込まれてくる。
包帯なんかも洗濯をして乾かして、それがどんどん片付いてはその倍が送られてくる。
さすがにお仕事の時間は決まっているので僕も今日は上りの時間が来た。
さて最後にサスケさんの部屋を…と覗いて見ようとすると、入口には仮面をつけた上忍、暗部の人が入口を塞ぐように立っていた。
「…ここは今立ち入り禁止だ」
もの凄く簡潔に言われてしまった。
…どうやらサスケさんが目を覚ました、というところか。
んで、今尋問中、と。
まあ、中忍試験において勝負はつかなかったとはいえ、あれだけ試合を沸かせたサスケさんだ、下手に処分も出来ないだろう。
サクラ姉ちゃんが明日来るまでには、まあ問題なく会えるんではないかなあ。
それで、サクラ姉ちゃんが落ち着いてくれれば、またリーさんの所にもお見舞いに行ってくれるんではなかろうか。
まだ一緒に修行をした事はないものの、リーさんはどうやら僕の兄弟子になっているようだし。
出来ればリーさんの恋も成就してほしいなあ、とはかない希望を持つ僕なのでした、まる。
それはともかく。
この分だともうここでできる事はない。
帰ろう。
そう思って病院の入口へ足を向けた時だった。
「待って」
僕は呼びとめられた。
振り向くと、いつも僕の指導をしてくれている看護師さんのひとりだった。
「はい、なんでしょうか?」
「先生が呼んでるのよ、ちょっとナースセンターまで来てね」
はて? なにかあったかな?
ナースセンターに行ってみると、医療忍者の先生が何とも奇妙な顔で待っていた。
なんだろう、何やら嫌な予感がするんだけど。
こう、罠の真ん中に飛びこんだような。
こう、逃げ場のない勢子の包囲網に閉じ込められたような。
命の危険はない気がするんだけどなあ。
「失礼します、茶釜ブンブクです」
僕がそう声をかけると、先生はちょっと焦ったように、
「ああブンブクくん、待ってたよ。
実はちょっと一緒に来てほしいところがあるんだが」
まあ、それはいいんですけどね。
その挙動不審の理由が聞きたいです。
とはいっても教えてくれないだろうなあ。
「どこにいくんですか?」
そう尋ねると、これまたはっきりと言えないらしい。
「まあ、ついてきてくれれば分かるから」
だそうで、なおさら警戒心がわく。
しかたがない、最底辺の装備は持ってきているし、何とかするしかないか。
僕は大人しく先生についていった。
…これはちょっとなあ。
今僕の目の前には病室の扉がある。
その脇には2人の仮面の上忍。
つまりは暗部の人たち。
今里は空前絶後の人手不足。
その状態で2人の上忍を警護に付けられる人と言ったら。
「入れ」
渋いお声。
これは、志村のおじいちゃん、もとい、5代目火影さま、か。
んでもって、
「失礼いたします、茶釜ブンブクです」
中に入ると、
「おう、来たか。
ざっと一月ぶりくらいかの?」
元3代目火影・猿飛ヒルゼンさまがベッドにおられた。
うぉう、道理で先生緊張する訳だよ。
元3代目と5代目の火影さまのそろい踏みだよ。
これで緊張しない人はいないだろう。
僕も緊張で心臓がバクバク言っている。
「何、そう緊張するものではない、ここにきてもろうたのは礼を言うためじゃからな」
ヒルゼンさまはそう言って下さるけど、礼なんて言われることをした覚えはないような…。
「何をいっとる?
ナルトとお主の術のおかげで里は一尾の襲撃から逃れる事が出来たんではないか。
謙遜なぞするものではない」
いや、ホントに僕がした事なんて大したことじゃない。
確かに術を使ったのは僕だけれど、あの術は化け狸の里の全面的な協力がなければ発動したところで意味のないものだから。
本当の意味で頑張ったのは化け狸のみんなとうずまき兄ちゃんだから。
「猿飛さま、5代さま、本当に僕のしたことはたいしたことではないのです…」
僕はその時に何があったのか話し始めた。
「…ふむ、なるほど…」
5代目さまは何か思案していらっしゃる。
ヒルゼンさまは唖然としている様子。
「むう、ブンブクや、その年で口寄せが可能であるというのはまことかの?」
「はい、化け狸の方々と親交を結ぶ事が出来ましたので」
まあ確かに、僕の年齢で高等忍術である口寄せが可能、というのも驚きなのだろう。
3次まである忍界大戦の最中なればいろいろとんでもない人たちもいただろうが。
代表的な上忍としてはたけカカシさんとか。
確かあの人は5歳で下忍、6歳で中忍、12歳で上忍になっていたのでは無かったかな?
僕の一つ上の年で既に上忍とか、とんでもないこと極まりない。
その頃には上級忍術なんてさんざん使っていただろうし、僕なんて大したことないのですよ。
「しかし、実戦も経験しておらぬお前が、よくもまあ口寄せの契約などできたもんじゃのう」
「まあ、化け狸の方々は義理がたいですから」
「義理かの?」
「はい!」
本当に彼らは義理がたい。
今回木の葉隠れの里を守る一助ができたのも、彼らが力を貸してくれたおかげなわけだし。
多分僕と口寄せの契約をしてくれたのも、彼らの持つ義理堅さからなわけだし。
「…本当にそうか?」
ぼそりと5代目さまが言う。
さすがに義理人情だけで人が動く、とはお立場上考えられないよね。
「ワシらはお前という人間を見てきた。
お前を知るものたちから聞くお前、そして知らぬものたちから聞くお前、あまりにも違いすぎるのだ」
…僕の実情とその行いがあまりにもかけ離れている、ということだろうか。
分からなくもない。
僕が
これはお話ししておいた方が良い事だろうか?
…キミのしたいようになさい、
ん、わかった。
この方々には話しておいた方がいい気がするんだ。
…では、
もうちょっとしたらね。
僕は姿勢を正してお二人に話す事にした。
「それは分かります。
僕はただの子どもにすぎません。
それが、里の上層部でも話題になるような事、そんなことは本来起こり得ない」
「そうだ、お前はあまりにも手際が良すぎる。
人を使う事に慣れすぎている。
本来であれば、人を使うという事は人としての経験を積むのと同義だ。
才能という言葉は特定の行動に際して効率が良いか悪いか、その程度の事でしかない。
しかし、お前の動きはまるで既に人を動かす事を経験している熟練者の動きに近い。
故にワシはお前の近くにお前を動かす何者かがいる、と思ったのだがな。
暗部のものにすらつかめなんだ」
いやいや、暗部の方々にそんな仕事させちゃだめでしょ!
もっと凄い仕事が何ぼでもあるでしょうに。
「ふむ、それだ」
「は?」
5代目さまはなんとなく笑みを浮かべているようにも見える。
「人を使う事になれたもの、というのは腹芸も得意になるものだが。
お前はあまりにも顔に出すぎる。」
え!?
そんなに顔に出てますか!
僕が顔をムニムニといじっていると、くすりとヒルゼンさまが笑い、
「ふむ、実のところ、この小僧を一番理解しておったのがガイの奴じゃとは…」
そう言った。
ガイさんなんて言ったんだろうか?
もの凄く気になる。
どうやらまた顔に出ていたらしい。
ヒルゼンさまが、
「うむ、ガイはのう、『熱血と青春の分かる男』と言うておったわ、クックック…」
うわぁ。
かなり恥ずかしいなあ、それ。
耳が熱くなってくのが分かる。
「ほう、マイト・ガイか。
若いころはかなり素っ頓狂なことをいっていたものだが。
年を重ねて少しは落ち着いたか…」
え! あれで落ち着いたんですか!?
うむ、奥が深い…。
「いや、あまり変わっとらんぞ」
あ、そうですか。
さて、
じゃあ、
お話しましょうか。
「僕、という存在がどういったものであるか、という事を」
僕はお2人に向かって、
「僕には前の生、前世というんでしょうか、その記憶があるのです」
そう話し始めた。