NARUTO 狐狸忍法帖   作:黒羆屋

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書き溜めのストックが切れました。
たぶんここからは3日から1週間ほどの間があくことになります。


第14話出来上がりましたんでもうあと1日2日は連続で投稿します。


第13話

 ども、なんかうちはサスケさんに捕まってしまいました茶釜ブンブクです。

 さて、通りからちょっと入ったところに連行された僕。

 そんなに怒らせてしまっただろうか。

 サスケさんってあれか、まさかカツアゲとか!

 …ないなあ。

 それはない。

 そもそもお金は自分で稼いでるだろうし。

 んじゃなんなんだろうか。

「おい」

「はい?」

 …なんか気の抜けた顔をしてらっしゃる。

 なんでしょうか?

 サスケさんはこめかみを揉みながら、

「お前に聞きたい事がある」

 なんだろうか。

()()()の事を教えろ」

 あの術? ……ああ! あれか!

「口寄せ・狸穴大明神、狸燈篭の術のことですか?」

「それだ! どうすれば習得できる!」

 あれってそんなに使える術じゃないんだけどなあ。

 サスケさんが覚えたがるような術かな?

 …なるほどそっか! サスケさん、あれを「膨大な数の口寄せ動物を召喚する忍術」だと思ったのね。

 合点はいったけど、やれやれ。

「それが聞きたかったわけですね。

 いいでしょう、お話します。

 ただここでは話し辛いんでいっぺん僕の家に行きましょう。

 ここからだと大した距離ではありませんし」

 お茶受けにはさっき買った団子を使う事にしよう。

 みんなには悪いけど、お見舞いはまた後日になりそうだ。

 

 僕の家に初めてサスケさんが来る事になった。

 今にサスケさんを通して、「租茶ですが」とお茶とお団子をお出しする。

「こんなもんは要らねえから!」

 サスケさんはなんでこんなに焦っているんだろう。

「良くはないです。

 僕たちはお互いに名乗りすらしてませんよ。

 礼儀は円滑な人間関係の一歩です」

 ここだけは譲れない。

「…チッ。

 …うちはサスケだ。

 これでいいか?」

「はい」

 僕はにっこりと笑って、

「僕は忍術学校5年生の茶釜ブンブクです、よろしくお願いします」

 いつもどおりに挨拶。

「で、()()()僕の使った術について、でしたよね」

「そうだ。

 あの召喚動物の数は尋常じゃない。

 あれだけの口寄せをするなら、ナルト以上のチャクラの量がなきゃならない。

 だが、お前のチャクラはそう大した量じゃなさそうだ。

 なら術の方にその秘密があると見た。

 どうやってあの数を口寄せして制御した!

 教えろ!」

 やっぱり致命的に勘違いだなあ。

 一つ一つ誤解を解いていかないととんでもない事になりそうだ。

「まず、サスケさんの考えは間違いです」

「何がだ!」

「僕、あの化け狸さんたち、制御してません」

「は?」

「だから、僕はあのひと()たちに命令したり、行動を制御したりしてないんです」

 サスケさんはポカン、とした顔をして、次の瞬間烈火のごとく怒り始めた。

「ふざけるな!

 どう見てもあの狸どもの動きは統率されたものだ!

 それで制御できてないはずがない!」

 まあそう思うよねえ。

 でもそれが事実なんだ。

「いいですかサスケさん。

 あの術、口寄せ・狸穴大明神、狸燈篭の術は召喚動物の大群を呼ぶ術じゃないんです。

 あれは召喚動物の里への門を呼び出す、それだけのものなんですよ」

 実際、器物を呼び出す術はたくさんある。

 身近なところでは武器の口寄せ、なんてのがある。

 ガイさんの教え子で暗器使いのテンテンさんなんかはものすごい数の武器を口寄せするし、巻物に封印していたものを取りだす、なんてのもこの一種だろう。

「馬鹿な! じゃあなんであいつらはお前の言う事を聞いた!?」

 これも勘違いだなあ。

 そもそも、あれって言うこと聞いてた様に見えてたのかしら。

「いや、あの術を使う前に化け狸さんたちの予定とか、機嫌とかを確認したうえだったんですけど、どうも最近暴れる機会がなかったみたいで、あの場に化け狸の里の総大将まで来てたんですよ。

 なんで、僕の言う事を聞いたんじゃなくて、自分たちから喜んで、組織的に戦争をし(あそび)に来たっていうのが事実です」

 サスケさんが唖然としてる。

 想像の埒外だったのかしらん。

「じゃあ、あれは全く制御されていなかったってことか…」

 はい、その通りです。

「だから、あれはいわゆる普通の口寄せじゃないんですよ、困ったことに。

 言ってしまえばただの暴走なんです」

「だ、だが、それならあの口寄せ動物の1体1体と契約すれば…」

「いや、彼らを口寄せした訳じゃないんですから、門から出てきた際にこっちの言う事を聞く義理はないんじゃないかと…」

「ならば一度叩きのめして!」

「そしたら門から出てこないんじゃないですか?

 そもそも倒せるくらいの相手なら戦力に数える必要はないんでは?」

 忍の戦いってある意味質が全ての部分があるからなあ。

 強い相手にはどれだけ戦力をそろえても勝てない時は勝てないんだよね。

 もうちょっとこの国の人たちは戦術とか戦略ってのを練った方だいいんじゃないだろうか。

 サスケさんが何故にそんなに力が必要なのかは知らないが、だいぶ迷走してる気がする。

「ねえ、サスケさん。

 なんでそんなに力がいるんですか?」

「忍が強くなけりゃ意味がないだろ」

 どうもそれだけではないよね。

「それならまずはチーム内での連携を磨く方がもっと強くなれるんじゃないのかなあ。

 1人でできる事ってよっぽど能力が高くない限りはだいぶ限定されちゃうし。

 じゃんけんみたいなもので相性の悪い相手にはころっと負けちゃう事もあるわけですし」

 うずまき兄ちゃんに絡め手が得意な相手、とか。

 どうもサスケさんには1人で戦う、ということにこだわりがあるみたいだ。

 それがなぜか、という事が分かればもう少し協力ができると思うんだけど。

「…ならいい。邪魔したな」

 やっぱり話してはくれないか。

 当然だね、実質サスケさんとまともに話したのは今日が初めてだからなあ。

「…お前は何も聞かないんだな」

「はい、僕はサスケさんのことを何も知らないし、サスケさんも僕の事を知らないじゃないですか。

 なにも事情を知らない相手からああだこうだ言われるのは腹立つと思いますし。

 僕に話してもいい、と思ったら話してもいいんじゃないですか?」

「…ふっ、あのウスラトンカチよりは大分ましだな」

「そうですか?

 良かったら時々遊びに来て下さいよ、お茶くらいは僕でも入れられますし」

「…お前本当に年下か? ずいぶんとジジくせえぞ」

「余計なお世話です!

 みんなおんなじこと言うんだからもう…」

「ふっ、冗談だ。

 気が向いたら来てやるよ、年齢詐称」

 サスケさんはそう言うと、帰っていった、って年齢詐称ってどういう意味さ!

 結構あの人失礼なんだな。

 後々になって、僕はこの時サスケさんを呼びとめて、多少無理にでも事情を聞いておくのだったと後悔するのだった。

 

 サスケさんが帰ってすぐのこと。

「ブンブクゥ~ッ、いるかってばよぅ!」

 あ、兄ちゃんだ。

「あーい、兄ちゃん、いらっしゃい!

 久しぶりだねえ、家に来るの」

「おうっ、おっ、団子があるじゃん、食っていいのか!」

「いいよ、さっきお客さんに出した奴の残りだし」

「そっか…モグモグ…じゃなくてよ!」

 兄ちゃん口にもの入れたまましゃべんないの。

 行儀悪いよ、んで。

「ん、どしたの?」

 兄ちゃんは茶をすすりながら答えた(ちなみにそのお茶も手をつけずに帰ったサスケさんに出したものだったりする)。

「オレさ、しばらく修行の旅に出る!」

 え!?

 この時期はいろいろやばいんじゃないかしらん。

 里の上の人たちが許すのかな?

「修行の旅ってどこ行くの!?」

 僕がそう聞くと、

「エロ仙人と一緒に修行だってばよ!」

 …尚更胡散臭くなった。

 そもそも、

「兄ちゃん、エロ仙人って誰さ?」

 この前も言ってたような気がするけど。

 はっ、まさか!

「兄ちゃん、あの『お色気の術』ってその人から教わったんじゃ!」

 そんな変態に兄ちゃんを任せられません!

「違うっての。

 あれはオレのオリジナルだってばよ!

 オレに口寄せの術教えてくれたおっちゃんだっての。

 エロいけどすっげえ術を教えてくれた人なんだって!」

 ほおう、すっげえのはいいとしてもエロいのはなあ。

 ちょっとボクも自分の目で確かめた方がいいかも。

 そう思って、僕は団子の残りを包みなおし、

「僕もそのエロ仙人にあってみたい」と言ったのだった。

 

 外に出てみると、兄ちゃんは何か自分の体重より重たそうな荷物を抱えていた。

 いったいどこ行くんだろう。

 ってか、週刊ジ○ンプはいらんでしょう、ジ○ンプは。

 修行しに行くんでしょ、しかも2ヶ月分とか、かさばるでしょうに。

「いいじゃん、これっくらい楽しみがねえとさぁ」

 って兄ちゃん言ってるけど、それならこっち持ってきなよ。

「ん? なんだこの本ええっと…」

「『ド根性忍伝』! アクションものとしても面白いけど、僕たち忍にとって考える事が多い秀作だよ!

 忍者なら1人1冊持っておくべき忍生のバイブルだって」

「ば、ばいぶる? 何か難しくてよく分かんないって!?

 つまり…どういうことだってばよ?」

「軽く読めるから読め」

「漢字嫌いだからヤダ」

 バッサリ切って取られてしまった。

 面白いのに…。

 

 里の正門、ここは今人がひっきりなしに出入りしてる。

 今里の中では負傷という忍にとっての職業病が猛威をふるってる。

 その天敵に勝利するための物資が火の国中から集められているんだ。

 無論、その中にはいろいろとやばい人たちや物も一緒に入り込もうとしており、里の警護をする部隊との水際攻防戦がリアルタイムで行われている。

 そこに僕たちはやってきたわけだけど…。

「兄ちゃん、で、エロ仙人ってどこにいるの?」

 と僕が言った時である。

「ええい、失敬な、誰がエロ仙人かあッ!」

 やたらめったらでっかい胴間声が。

 声の方を見てみると、ずいぶんとでっかい人が。

 兄ちゃんって年相応って言うには若干小柄だけど、それでも頭1つ半分くらいはでっかいんじゃないかしら。

「あっエロ仙人!」

 ってこの人が!?

 確かにずいぶんと「濃い」人だけど。

 この濃さはかのマイト・ガイ上忍にも劣らないなあ。

「? なんかものすっごく貶された気がしたんじゃがのォ」

「むしろ褒めた気がするんですけど」

「で、このちっこいのは誰じゃい、ナルトよう?」

 このでっかい人にちっさい言われるとほんとに傷つくな。

 とはいえここで怒ったら負けな気がする。

「はじめまして、忍術学校5年生の茶釜ブンブクです。

 よろしくお願いします、ええっと、エロ仙人さん!!」

 だけど、ちょっとくらいは仕返ししてもいいよね。

 エロ仙人さん(仮名)はどうやらやっぱりエロ仙人という名前ではないようで、

「お前かナルトォ! ワシはエロ仙人ではないとあれほど言うておるだろうにのォ!」

「ええ~だって行動はエロそのものじゃん」

 そんなに! 危険すぎない!? もし兄ちゃんがエロに染まったりしたら…。

 なんて恐ろしい…。

 確実に女の敵だよね。

 サクラ姉ちゃんとイノさんに言いつけとかないと。

「ブンブクゥ~、なんか目が危険な感じになってんぞ?」

 おっといけない。

「まあいいわい。

 名乗りを受けたなれば返すのが道理じゃのォ」

 エロ仙人さん(仮名)はその長身をざっとひるがえすと、

「北に南に西東!

 斉天敵わぬ三忍のぉ!

 白髪童子ぃ蝦蟇使い!

 泣く子も黙るぅ色男!

 “自来也”様たぁ、 あ、ワシのことよぉぅ!!」

 どどん、という感じで見栄を切って見せた。

 おおぅ! これはかっこいいかも!

 腕の出し方もこう僕たちだけでなく、街道にいる人たち全員に見せつける感じだし、どの位置から突っついてもぐらりともしない重心、圧倒的な実力を感じさせる。

 ん? じ ら い や ? 自来也! 自来也さまって三忍のお1人の!?

 え、本物!?

 僕が呆けていると、

「おーい、ブンブクしっかりしろー」

 誰の声だ? あ、うずまき兄ちゃんの声だ。

「大丈夫か、なんかまたすっ飛んでたぞ」

 それは申し訳ない。

「す」

「す?」

「すっげー! 兄ちゃん、ほんものだよ、ほんものの自来也さまだよ!」

 すっげー! かっこいー! テンション上がりまくり。

「そ、そだ、サインサイン!」

 今日はじゆうちょう持ってきてないし、何か書いてもらえるものは、あ、あった!

「これにサインお願いします! 茶釜ブンブク君へって入れてください!!」

「そうかそうか、どわっはっはっは、お、これはワシの書いた『ド根性忍伝』ではないか!」

「はい、忍者の心得の詰まった指南書としております!」

「そうか、うむ、幼いのに立派な心掛けじゃのう、良しサインをしてやろうかいのォ!」

「…ブンブクもエロ仙人も壊れた…」

 しばらく2人で盛り上がった。ヒャッホー!!

 

 2人して冷静になって、うずまき兄ちゃんの冷たい視線を感じながら話をしました。

「んで、お前さんが()()茶釜ブンブクか」

 またそれですか。

 何なんだろうね。

「一体里の上の方で僕はいったいなんて思われてるんでしょうか?」

「ま、いちいち考えるではない、それとも聞かせてほしいんかのォ?」

「ご勘弁ください」

 切実に。

 この後、三忍のお1人である「千手綱手」さまを探しに行きがてら、兄ちゃんに修行を積ませるのが自来也さまの目的だと聞いた。

 むう、自来也さまと言えば4代目火影・波風ミナトさまのお師匠様でもあるし、兄ちゃんみたいな感覚派にもなんか合いそうな方だし、いいんじゃないのかなあ。

 あ、でも、

「このごたついた時期にうずまき兄ちゃんと一緒に里の外に出て大丈夫なんですか?」

「まかせんか、これでも三忍のひとり、ナルトの1人や2人なんとでもなるわい」

 おお、さすが大物は違う!

「なあブンブク、エロ仙人の事、最初と見方がぜんっぜん違うんだけど」

 え?

「そりゃそうでしょ。

 エロ仙人と自来也さまじゃイメージが全然違うし。

 自来也さまならエロくてもいいんじゃない?」

「そうじゃろそうじゃろ!」

「ほら、それに今から迎えに行くのは綱手さまでしょ?

 『病払いの蛞蝓綱手姫』

 だからエロが行き過ぎたら去勢くらいしてくれるって」

「そうじゃ…ろ? いま何かとてつもなく危険なセリフがあったような…」

「ブンブク、『きょせい』ってなんだってばよ?」

「えっとそれはねえ…」

「いやいや待て、それ以上は言うでない。

 知らんでいい事じゃ」

 ? 犬や猫が必要以上に増えないようにする動物病院でする処理だって聞いたけど。

 何かとんでもないことなのかな?

「ま、まあとにかく、ワシらはこれから出発するでな。

 この修行でナルトがどこまで強くなってくるか楽しみにしとるとええ」

 こうして自来也さまとうずまき兄ちゃんは綱手さま捜索&修行の旅に出かけていったのでした。

 お土産にと持たせたお団子をほおばりながら。

 

 

 

 志村ダンゾウは暗部の養成機関にして火影の支配下にない暗部である「根」の構成員たちに今後の活動について指示を行っていた。

「全ては監視と現状維持だ。

 変化はいらん。

 ワシが火影を引退するまでは大きな動きは一切禁止する。

 連絡はフー、トルネの両名を介して行うものとする。

 よいな、ワシの任期中は『根』としての活動を知られる事を第1優先順位として極力回避せよ」

 事実上「根」の活動は休止するといってもいい状態である。

 ダンゾウは「根」を消滅させるつもりはなかった。

 汚れ仕事をする部署はどうしても必要だからだ。

 しかし、同時に己が火影になってしまう以上、「根」を使う訳にもいかない。

 それは、ダンゾウが己に課した規律によるものである。

「根」はあくまで里のために汚れ仕事を行う事、里の中央からの影響を受けない事が重要であるとダンゾウは考えていた。

 今後「根」が「根」として存在し続けるためには火影であるダンゾウが根のものたちに必要以上の影響力を持たないということが必要だった。

 そのため、一旦「根」という組織を休眠させる必要があり、ダンゾウはその処理を行っているところであった。

「ダンゾウ様」

 そう声をかけてきたのは「根」の構成員のうち、最も年若いサイであった。

「…分かっておる、『セイカイ』『イセ』と『ロクロウ』『ユリ』夫妻のことであろう。

 彼らの監視と保護は怠ってはならん。

 何かあれば第2優先順位として優先的に対処せよ。

 同時に秘密の保持は絶対だ。

 これに関しては全員の呪印を設定しなおす。

 けっして余人に彼らの事を気取られるな」

 

 一通りの処理を終え、ダンゾウは深々と椅子に腰かけていた。

 強い疲労感が体を包んでいた。

 …ヒルゼンはこの重圧に耐えておったのか。

 火影という地位の重さは知っていたはずであった。

 だが、自分がその地位に就く事、そして里そのものを背負うという事がここまで精神を疲労させるものであったとは。

 これでまだ引き継ぎの段階だというのだから恐れ入る。

 あいつ(ヒルゼン)とは同い年であり、火影をめぐってのライバルでもあった。

 このライバルが何十年も背負い続けた火影という看板。

 自分の代で傷をつけるわけにはいかん。

 …それにしても、次の「根」の長を考えねばな。

 ダンゾウの考えはそこに行きつく。

 使える、という点では「根」のものたちは全てが優秀だ。

 ダンゾウ手づから鍛え上げ、さらにそのの中から選びぬいた一騎当千の精鋭たちである。

 しかし、「根」という組織の存在意義を理解したうえで、なおその構成員たちを使いこなせる人材、というものを考えると非常に限定されてくる。

 まずは奈良シカク、シカマルの親子。

 頭脳の優秀さなれば間違いなく筆頭。

 しかし、奈良家の当主と次期当主ではとても「根」に引き込むことは難しい。

 さらに言えば、人格的にも高潔で、むしろ次代の火影の方がふさわしいだろう。

 ほかにも何人かの候補がダンゾウの脳裏に浮かぶが、必要以上に野心家であったり、逆に組織の維持のみに腐心して本質をおろそかにしそうであったりと、どれも必要十分な要件を備えているとは言えない人物ばかりであった。

 …そうなると、やはり。

 茶釜ブンブク。

 茶釜の一族からはかつて何人も「根」の構成員が存在していた。

 彼らが今いないのは一重に「使い勝手が良かったから」だ。

 死を命じなければならない時には命令を出さずとも死んでくれた。

 汚れ仕事をしてでも里を守るという「根」の意義を言わずとも理解してくれていた。

 若かりし頃のダンゾウはそれに甘えていたのだろうか。

 気が付けば自分の周囲には己の操り人形のようなものがそろってしまっていた。

 かつての同志たちは死に絶え、彼らの屍を足蹴にしながらダンゾウは生き延びた。

 全ては里の安寧と「根」の存続のために。

 そのひ孫にあたるのがブンブク。

 子どもらしからぬ発想と行動力を持つ異形、といってもいい。

 本人に言ったなら嘘・大げさ・まぎらわしいは訴えても勝つとか馬鹿な事を言いそうであるが。

 あれは鍛えれば「根」の長としてふさわしい仕事をするだろう。

 出来うるならばあのうずまきナルト、彼の少年が火影となるならさらに面白い。

 自分でその未来を見る事はまずなかろう。

 今まで自分がしてきたことは自覚している。

 そろそろその報いが来ても良いころであろう。

 しかし、願わくばその罪は自分一人で背負っていきたいものだ、そう考えながら、ダンゾウはまどろんでいた。

 

 

 

「おのれ… 猿飛め…」

 いずことも知れぬ森の中。

 そこに大蛇丸の研究所の一つがあった。

 大蛇丸は薬師カブトの調合した薬を飲み、両の腕に走る激痛に耐えていた。

 両腕の霊体、あるいはチャクラの流れを3代目火影・猿飛ヒルゼンにごっそりと持って行かれ、全く回復の見込みがない。

 このままだと、この腕は腐り果てるだけであろう。

 その前に、()()()に乗り換えたいところではあったが、

(サスケくんは確保できなかったのよねえ…)

 本来の、次の自分の体として用意していたかぐや一族の君麻呂は治癒不可能な病気を発症し、もはや大蛇丸の役には立たなくなっていた。

 さりとてこのままでは忍術を極めんとする大蛇丸にとって次の体に乗り換えるまで何もできない事になってしまう。

「しかし、上出来ですよ。

 あの五影を2人までも…」

 そうカブト声をかけてくるが、

「私を慰めるようなセリフはやめなさい。

 殺すわよ…」

 そんな言葉はいらない。

「大蛇丸様?」

 カブトが不思議そうな声を出す。

「なに?」

「なぜそのようなお顔をされるのですか?」

 カブトは大蛇丸のそのような顔を見た事がない。

 本来、今の大蛇丸の状態であるなら、もっと焦燥していてもおかしくない、というより焦燥しているのが当たり前な状態だ。

 大蛇丸はこのような状態にもかかわらず、不敵に微笑んでいたのだ。

 

 自分でも不思議なことに、焦りを感じていない、それが大蛇丸には不思議だった。

 猿飛ヒルゼンとの死闘。

 自分でも思った以上に追い詰められたあの戦い。

 本来であれば圧勝しなければならなかった。

 切り札の一つである「穢土転生」。

 これを切った以上、必ず勝利せねばならなかったというのに。

 しかし。

 そのことを無念に思う自分と、また次があると考えている自分がいる事を大蛇丸は自分でも不思議に思う。

 今まで感じた事がなかった感覚。

 これは何なのだろうか。

 そこへ配下の1人が戻ってきた。

 なんであろうか、奇妙に口ごもった態度で、報告をしない。

「早く報告しなさい、もたつくものはいらないわよ」

 言外にさっさとしないと殺す、というニュアンスを込めて大蛇丸は報告を急かせた。

 その報告は、大蛇丸の計画外であり、また希望でもあった。

 猿飛ヒルゼンの生存。

「そう、分かったわ、行きなさい」

 配下はてっきり大蛇丸が激怒すると思ったのだろう。

 大蛇丸は気の長い方ではない。

 ありていにいえば短気だ。

 その大蛇丸が自分を殺しもせず下がれという。

 配下もそうであったが、カブトの驚愕はそれ以上だった。

 ありえない。

 今までの大蛇丸ならば確実にあの配下は殺されていたはずだ。

 一体大蛇丸に何があったのか。

 まだまだカブトにとって大蛇丸は理解しきれない存在である。

 であるが故に、カブトは大蛇丸を裏切らない。

 

 ヒルゼンが生きているのは分かった。

 なればサスケの体を手に入れるまでにできる事はしておこう。

「さすがに衰えたとはいえあの3代目・猿飛ヒルゼンと戦うのに体が鈍っていたかしら?

 少しでも勘を取り戻さないとねえ」

 必要ならこの腕を切り落としてもいい。

 そうして傷が治ったならば体術を鍛えなおすとしよう。

 体を乗り換える、ということを軽く見て、体術を疎かにしていたのは失敗だったかもしれない。

 そういえば自来也の奴は体術、幻術、忍術と満遍なく得意だった。

 綱手はどちらかというと体術より、自分は幻術と忍術が得意だった。

 いや、あれは考えてみるなら自来也や綱手に対して優位なところを見せたかった、というのもあったのだろうか。

 ヒルゼンとの戦い以降、昔の事を思い出す事が多くなったような気がする。

 何故だろうか。

 カブトの調合した薬が効いてきたらしく、大蛇丸はうとうとと眠りの中へと落ちていった。




いろいろ伏線を張りました。

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