NARUTO 狐狸忍法帖   作:黒羆屋

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今回の話では原作の大きな改変がおきます。


第115話

 周囲は阿鼻叫喚の坩堝(るつぼ)と化していた。

「く、来るなあぁっ!!」

 下忍の1人が数本のクナイを投擲する。

 それはあまたず銀髪の男に吸い込まれ、

 どどどっ!

 という音と共に突き刺さった。

 しかし、銀髪の男、ドラキュラは小揺るぎもしない。

 しかも、

 ぐぐっ、からり。

 その肉が盛り上がり、クナイを押し返した。

 クナイは地面に転がる。

「やはり無理か、しかし!」

 下忍が印を結ぶ。

 紙縒(こよ)りの様にクナイに結ばれていた起爆札がその(めい)と同時に複数起動、爆発を起こした。

「よし! 更に撃ち込めえっ!」

 周囲にいた中忍の指示により、相克を起こさない火遁と雷遁の忍術が矢継ぎ早に叩き込まれる。

 轟音が辺りを支配する、が。

「まだだ! まだ止めるなあっ!」

 轟音に負けない中忍の絶叫が辺りを震わせた。

 感知能力に長けた彼は、炎と雷の叩き込まれる中、件の男が全く足を止める事無く近付いて来ているのを知覚していた。

 信じられない。

 いくらなんでも、これだけの術が()()しているというのに。

 どれだけ頑丈な忍でもそうそう耐えきれないレベルの攻撃の筈だ。

 だというのに。

 ドラキュラは確実に近づいてくる。

 一歩、また一歩。

 恐怖に駆られ、中忍は己の全力を以っての「火遁・豪火球!」を放ち続けた。

 しかし相手は止まらない。

 一歩、一歩、確実に近づいてくる。

「嘘だ… 嘘だ嘘だ嘘だあっっ!!」

 あまりにも至近距離に近づかれ、豪火球を放てない距離になった中忍は、己が必殺のチャクラ刀に火遁のチャクラを込めた。

 高熱を発し、白く光る刃、それを目の前に近付いた怪物(ドラキュラ)に対し、袈裟掛けに叩きつける。

「くたばれえええっ! 化け物おおおおぉぉぉっ!!」

 その一撃は、見事にドラキュラの体を「通り抜けた」。

 あまりにもあっさりと。

 いや、違う。

 周囲には彼の体の焼けた何とも言えない臭気が満ちている。

 そして中忍は見ていた。

 通り抜けたのではない。

 チャクラ刀はドラキュラの体を間違いなく焼きながら切断していた。

 しかし、

「切った傍から再生、だと…!?」

 そう、ドラキュラの体は間違いなく高熱により破壊されていっていた。

 だが、破砕された傍から肉が盛り上がり、切断面が再生していたのだ。

 そしてドラキュラはぬうっと手を伸ばした。

 中忍の方をその両手でがっちりと捕える。

「は、離せえっ!」

 身体強化をされた中忍の力を持ってしても全く引き剥がす事に出来ない剛力。

 ドラキュラはがばあっと大きく口を開けた。

 まるで鮫の如き見事な牙がそこには並んでいた。

 そして中忍の首筋めがけ、

「ぎゃああああぁぁぁぁ… あぁ… あ…」

 ぞぶり、と喰らいつくとじゅるじゅるとその生血を啜り始めた。

 見る見るうちに干からびていく中忍、そして。

 ぱさり。

 血液どころか、体中の水分を吸い尽されたかのような中忍の遺体がドラキュラの足下に打ち捨てられた。

 からからに乾いたその木乃伊の様な遺体は、自重で簡単に潰れ、火遁の起こした風に乗って散っていった。

 

 ドラキュラはまだ(かつ)えていた。

 彼の飢えはけっして収まる事はない。

 ドラキュラはイリヤのもたらした異常知識、その中に存在した「怪物」の集合体である。

 様々な「吸血鬼」の知識を纏め、そしてイリヤの知識の内最もふさわしい外見を「かぶせた」存在だ。

 その内側には様々な怪物がその飢えを凌ぐ為に餌となる「人間」を求めていた。

 ぎょろりとした目が周囲を見回す。

 周りの忍達に戦意はない。

 そこにあるのはひたすらに「恐怖」それだけであった。

 生物としての根底にある「生存本能」、それが目の前に怪物がいる、という状況に警告を発していた。

 既にそこには秩序などない。

 恐怖におびえ、全力で逃げだそうとするものの、恐ろしくて身がすくむ哀れな犠牲者がいるだけ。

 それらに向けてドラキュラは手を伸ばし…。

 

 ごっ!

 

 いきなり横っ面を何かで殴打され弾け飛んだ。

 途轍もない力で張り飛ばされ、まるでダンプカーにでも撥ねられたかのように地面を削り転がっていくドラキュラ。

 何度かバウンドし、ひときわ派手に地面に叩きつけられ、しかしドラキュラはあっさりと立ち上がった。

 彼は目の前を睥睨した。

 そこには。

「げあっはああぁぁぁああぁっ!! テメエが『不死身の化け物』って奴かよおっ!

 不死身対不死でやりあってみようぜえぁぇぇっ!!」

 やたらと「イイ」笑顔を見せる大きな鎌の様な異形の得物を持った男と、

「ふん、馬鹿の物言いはともかく、聖杯八使徒の1人だな。

 久し振りの大物賞金首だ、確実に刈らせてもらおうか」

 忍らしい覆面を付けた男。

 彼らはドラキュラと対峙した。

 

 元暁・飛段と角都の不死コンビ、参戦。

 

 

 

「…信じられぬ、雷影様と同等の速さを持つ者がいるなど」

 そこには焦りの表情を隠せぬ上忍が6名。

 いずれも各忍里の手練れ、そして侍大将ミフネの側近であるウラカクだ。

 影達とミフネはそれぞれ各戦場に散っており、大本営のある一角には影武者であり影達の側近でもある者達が勤めていた。

 いずれも後々の忍里を背負って立つ者たちばかりだ。

 そこを襲撃したのが東方不敗。

 女装の壮漢である。

 雷影には劣るものの、かなりの筋肉質の体がふんわりとした美姫の衣装からでも見て取れる。

 それが上忍達の視力に辛うじて見えるほどの速度で動きまわっているのだ。

 彼らの周囲には極彩色の色のみが残り、その姿すら()()とは判別できない。

 それもまた東方不敗の体術の1つ。

 そう、彼はチャクラを身体強化以外の部分に使用していなかった。

 尾獣より引き出されたチャクラを全て注ぎ込んだ、単純なれどそれ故に強力な近接格闘能力。

 加えて、彼にはイリヤから引き出された格闘技術に関する知識があった。

 異界における格闘、白兵技術はある意味この世界のものを超えていた。

 それはそうだろう。

 この世界には「チャクラ」があった。

 ちまちまと格闘技術を習得していくよりは忍術を学んだ方が戦いに於いて有利だからだ。

 かつて忍術が体術に優る、という発想はそう間違ったものではなかった。

「剣道三倍段」という言葉がある。

 これは剣道は格闘技の3倍強い、という意味ではない。

 剣で槍に勝つには3段階技術が高くないと勝負にならない、という意味である。

 射程の長い得物の有利をうたった言葉だが、それが現実だ。

 火力に優れ、射程の長い忍術が体術に劣る要素はない、それが覆ったのは3代目雷影やマイト・ガイなどの体術使いが活躍した事、忍の任務が暗殺と諜報からより広範囲な者へと変質していった事によるものだ。

 つまりは、体術は忍術に比べまだまだ発展途中と言って良い。

 故に、今、体術は「一撃必殺の近接攻撃法」として発展している。

 そう、一撃必殺だ。

 侍の使う剣術の様に格闘における駆け引きなどは忍の体術ではまだまだこれからの状態であり、例外は日向の様に体術を己の秘伝としている一族くらいなものだ。

 それがどういう事か、というと。

「ぬっ!? 捉えきれん!!」

 上忍の打ち込む手裏剣は尽くが東方不敗の手によって叩き落とされていた。

 忍術、幻術は動きが一瞬ではあるが止まってしまい、その瞬間を狙われ、

「があっ!? このっ!?」

 彼の指につままれた針によって腕や足を突き刺される。

 それほど大きなダメージではない、が、それも10度100度と受ける内にジワリジワリと傷が大きくなっていく。

 今のところ何とか手向かいが出来ているのが巨漢の侍、ウラカクである。

 彼は東方不敗の動きからなんとか彼の攻撃の起点を見切ることで、

「せいっ!」

 居合いによる切り返しを行い、どうにか傷付けられるのを防いでいた。

 とは言え、それには恐ろしい程の集中力が必要で、体に傷はないものの、その精神的損耗は他の忍びより大きいほどであった。

 相手の速度はウラカクの把握できるものではなかった。

 彼が今まで血反吐を吐きながら修練して来た「侍の道」、そこに含まれる戦いの機微が彼に東方不敗の速度を見切るだけの洞察力を与えていたのだ。

 しかし、それは同時にウラカクの知覚力を超えた洞察を強制されるという事。

 まるでやすりでそぎ落とされる様に急速に彼の精神は擦り減っていく。

 辛うじて、侍としての誇りと剣の修行による強じんな心があってこそ、ウラカクは立っている事が出来た。

 

 東方不敗は戦いを楽しんでいた。

 正直に言えば、忍という者達は食いでがない。

 東方不敗という存在はイリヤの記憶内にあるとある小説の登場人物、それを核として生み出されていた。

 東方不敗。

 それは物語の中であまりにも異質な存在であった。

 武侠物、と呼ばれる拳法アクションのジャンルのいっぺんに書かれたその人物は、主人公、ラスボス、主人公のライバルと3人纏めて戦い、更に有利に勝負を運ぶ事の出来る怪物、という設定であった。

 イリヤから引き出されたその情報に、トビは更に彼女の中にあった格闘技術や格闘物語の情報を加え、「圧倒的な速度と対人戦闘の要諦を極めた存在」を創り出したのである。

 彼の目的は「戦いを楽しむこと」である。

 それ故に、腕利きの上忍、そして忍の頂点に立つ五影をそのターゲットとして選んだのだ。

 だが、彼らは基礎能力、身体能力こそ高いものの、東方不敗の望む「強者同士の命を賭した戦い」を演じるにはあまりにも技術が拙かった。

 実際には上忍達も幾度も死線を潜り抜けた猛者だ。

 しかし彼らにはチャクラがあったが故に、それがない世界で戦いの経験を積み重ね、それを受け継がせて来た「武術」への対応があまりにもお粗末だった。

 東方不敗の攻撃には様々な要諦が入り組むように入っていた。

 人が成長する上で欠かせない条件反射や生物の姿勢維持のための本能的なバランス取りすら攻撃の起点とする東方不敗に、上忍達は対処しきれなかった。

 もしそれが出来る忍がいるとするならば、角都のような長年最前線でその実力を振るい、膨大な数の戦闘をこなしてきたものであろう。

 それですらチャクラ無き世界の「経験の積み重ね」である技術の継承には足りるかどうか。

 それを使っているのが東方不敗という、速度なら3代目雷影と、身体能力ならば八門遁甲を開放しきったマイト・ガイとも戦える怪物となれば。

「があっ!」

「ぐふっ!?」

 上忍が2人、とうとう崩れ落ちた。

 両の目と鼓膜をやられ、足の腱を断ち切られたのである。

 東方不敗の拳は忍としての分類で言えば、チャクラの流れる経絡を攻撃する「柔拳」ではなく物理的に肉体を破壊する「剛拳」という事になるだろう。

 しかし、その威力は力に依存するものというよりは、その速さにある。

 ガイ達の使う剛拳に対して「速拳」とでも言うべきものであった。

 その速度を活かし、針で上忍の首を狙う振りをし、それを避けられた瞬間に指先でこする様に眼つぶし、更には平手で耳を打ち、鼓膜を破った。

 その状態から地を這うような蹴りを連続で放つ事で上忍達の足を狙ったのである。

 ウラカクには予想がつかない攻撃だった。

 己に降りかかったものなれば何とか対処しようもあったものの、他者を守る余裕は既に失われていた。

「…んぬうああっ!」

 せめて、彼らを死なせぬよう、止めの一撃を見舞おうとして動きがほんの半瞬止まった東方不敗に居合いで切り掛り、止めを打たせる事無く後退させるのが精一杯。

「ぐうっ…」

「くふっ…」

 さらに2人。

「なにっ!?」

 ウラカクは目を剥いた。

「今のは…、柔拳か!?」

 経絡系を打ち抜き、チャクラの流れを断ち切る柔拳、それを東方不敗は使って見せたのである。

 いや、

「ほっほっほ、違う。

 ワラワが撃ち抜いたのは確かに経絡系、しかしの、それはチャクラの流れではなく『生命』の流れ、肉体に流れる命そのものよ」

 そう、彼が撃ち抜いたのは身体の中に流れる血管やリンパ管、神経系などの「身体を活かし、活動させる為の流れ」としての経絡系、武術における経絡である。

 どれだけ忍がチャクラに依存しようとも結局のところ生命体としてその基盤になっているのは身体だ。

 その活動に必要なエネルギーや命令を運ぶ導線を断ち切られては行動出来なくなるのは当然。

 しかも厄介な事に、武術で言うところの経絡は大体がチャクラの流れに沿ってはいるものの、所々違う部分も存在する。

 故に、上忍達は見誤った。

 日向はその呪印故に戦場で出会う強敵としてはうちはなどに比べて珍しくなかった。

 その為に上忍達の中には不完全ではあるものの、柔拳への対応が出来るものも少なくなかった。

 東方不敗の使う経絡への攻撃は日向の使う柔拳と似て全く非なるものである。

 柔拳への対応を咄嗟に行った上忍は、チャクラの流れではなく、血管の流れを断ち切られ、身動きが取れなくなっていた。

 ウラカクは唖然としていた。

 これだけの「武術家」がこの世に存在していたとは。

 オレでは勝てない。

 ウラカクは格の違いを感じていた。

 ならばどうするか。

 …ウラカクは太い笑いを浮かべた。

 彼は腹を決めた。

「ここが死に時!」

 どんっ!

 彼の甲冑が弾け飛んだ。

 侍の甲冑は忍のチャクラによる攻撃を捌く事に特化している。

 この怪物に対してはそう効果のあるものではなかろう。

 むしろ動きが阻害され、邪魔になるだけだ。

 いつもの和服姿となったウラカクは、剣を納め、

「皆の者、手出し無用!

 これ以上は犠牲が増えるのみじゃ。

 上忍殿達を連れて一旦医療忍者の元へ行けい!

 ここはソレガシが食い止める!」

「しかし、それでは!」

 周囲の暗部から制止の言葉が飛ぶ。 

 しかし、彼らにも分かっていた。

 精鋭たる暗部の自分たちですら、束になっても東方不敗の速度に追いつけないと。

 先ほどからの戦い、彼らには全く介入できなかったのだ。

「そうだの。

 これほどの戦い、割り込みは無粋よなあ…」

 東方不敗はにんまりと笑った。

 明らかに戦いに耽溺した太い笑み。

 あまりにもその衣装に似つかわしくないものであった。

 そして、

「ぅおおおおっ!」

 ウラカクから一筋の光、いや、

「奥義! 一日千秋ううぅっ!!」

 光の乱舞が放たれた!

 奥義・一日千秋。

 器用な方ではないウラカクが二刀を器用に操り、神速の連撃を繰り出す「光陰逝水」を編み出したオキスケに対抗して生み出した連続攻撃である。

 二刀によって切れ目の無い攻撃を繰り出すオキスケに対し、ウラカクもまた切れ目の無い「二択の攻撃」を繰り出し続けるのだ。

 彼の攻撃には必ず裏と表がある。

 どちらかを読み切れば避ける事の出来る攻撃、しかし、その二択が延々と続くとしたら。

 オキスケに体力で勝るウラカクの編み出した秘技、それは「体力が尽きるまで途切れる事の無い絶え間ない連続攻撃」であった。

「ほおっほおっ、これは、たいしたものよ!」

 東方不敗ですら目を剥くその攻撃は全く彼に攻めに転じさせる事無く撃ち込まれ続ける。

 1分。

 2分。

 5分。

 10分。

 ぶしゅり。

 ウラカクのこめかみから血が噴き出した。

 体の限界まで引き出したその力は、あまりにも大きかった。

 そのつけが今、ウラカクの体を崩壊させつつあるのだ。

 しかし彼は打ち込むのを止めない。

 己が生きている限り、東方不敗は他へは行くまい。

 ならば、全力を以って彼をここに釘付けにする。

 それが己の役、そして道だ。

 忍に「意志」があるように、侍には「道」がある。

 道を全うすることには意義がある。

 己の切り開いた道を、次の者達が歩いていく、その道を切り開く、それこそが。

「ソレガシの道でござる!」

 ぱん! ぱぱん! みちっ! ぶちぶちいっ!

 体の崩壊は止まらない。

 そして。

「ぅおおっ!」

 がいん!

 初めてウラカクの攻撃が東方不敗を捉えた。

「…見事よ。

 ワラワの『葵花宝剣(きかほうけん)』を出させるとは…。

 しかも」

 ばきん。

 ウラカクの渾身の一撃は、東方不敗の剣を己の刀と共に一撃の元に砕いていた。

 既にウラカクは満身創痍、立っている事すら奇跡の状態だ。

「見事な男ぶりよのう。

 その雄々しさに免じて、ワラワの奥義にて葬ってくれよう。

 その目に、この技を焼きつけて黄泉へ下るがよい」

 東方不敗は右手をまるで鷹が爪を突き出すように構えた。

 ウラカクの霞む目は、それでもその手をはっきりと捕えていた。

「そう、か…。

 汝は、剣士で、有ったか…」

 ウラカクの目は、東方不敗の右手にくっきりと剣術の修行をしていくと必ずできる手の平の肥厚、剣ダコを捉えていた。

 故に、ウラカクは東方不敗の攻撃を読み切っていた。

「剣術で、鍛えた、五指による、衝撃か…」

 この所、名のある忍が「体表に傷なく、心の臓のみを切り裂かれて死ぬ」という事件が幾つもあったが、やはりこの男の仕業だったか。

 東方不敗の秘技、「摘心手」。

 チャクラを一切使わず、それ故にチャクラでの防御を無効化する()()の奥義。

 5本の指から放たれる超至近距離の打撃、寸勁はその衝撃のぶつかる心臓の位置で強烈な衝撃を生み出す。

 1つ1つの威力は弱い、しかしそれが5つ重なって増幅されることで肉体を局所的に破壊する威力を生み出す。

 これがチャクラによって身体強化を行っている忍への東方不敗なりの対処なのであった。

 そして絶対の死をもたらす5本の指がウラカクへと繰り出され…。

「何っ!」

 その打ち込みがウラカクの中に吸い込まれんとした時、ウラカクの姿が消えた。

 摘心手に集中していたとは言え、東方不敗の目を盗んでウラカクを奪い去ったのは…。

「あっぶねえ…、侍の旦那、生きてっか?」

 能天気にも聞こえるその声。

「こっからはオレと赤丸があんたの代わりに戦う」

 ウラカクの示した道、東方不敗への道を歩くのは。

「この犬塚キバ様(おれ)がなあっ!」

「うぉん!」

 犬塚キバ、赤丸、参戦。

 

 

 

「リー! 先に行け!」

 マイト・ガイがそう叫ぶ。

 茶釜ブンブクの偽者が現れた事により、これ以上の混乱を避けるために彼は参謀本部に止め置かれる事となった。

 とは言え、遊撃隊としての任務に変わりはない。

 救援要請のあった地域の手前、凄まじい数の量産型白ゼツ達を前に、ガイ班は足止めを受けていた。

 早く行かないと物資が足りない状態だ。

 ガイとテンテンはここで敵の足止めをしなくてはならない。

 ロック・リーにはガイほどの火力はない。

 また、テンテンは忍具による面制圧の能力があり、この場ではガイ以上に役に立つ。

 そこから、ガイはリーに先に進むよう指示を出していた。

「…分かりました。

 先生、テンテン、気を付けて!」

 リーはそう言うと走り去っていった。

「…さて、わざわざオレを足止めしたんだ。

 どんな罠であろうとも、オレが蹴り破る!」

 ガイはそう言うと大きくゼツ達の群れに向けて飛び込んでいった。

「ダイレクトォ、エントリィーッ!」

 

 先生は元気だなあ、そう思いながらテンテンは襲い来る白ゼツ達を見回した。

 彼らは1つにマイト・ガイという強敵の動きを封じる事、そしてガイ班のテンテンの行動に制限をかけ、あわよくば彼女を殺害する事を目論んでいた。

 彼らはイリヤからの情報により、テンテンが忍具使いであり、時空間忍術に適性があることを知っていた。

 テンテンは大量の物資を封印術の巻物に封じており、応急キットなどを大量に輸送された場合、ダメージを与えた忍が復帰してくる確率が増えるのである。

 その為、実のところ強すぎて倒せる確率の低いガイよりも、仕留める事の可能であろうテンテンの方にゼツ達は群がっていた。

 …その判断は間違いであったと言わざるを得まい。

「…口寄せ、『十方飛丸』」

 ゼツ達の攻撃が全て巨大な甲羅の様な何かに弾かれた。

 テンテンの持ちだしたのは巨大な甲羅型防具、十方飛丸。

 これは巨大な甲冑であり、そして。

「展開! 殲滅モード!」

 その甲羅が弾け飛び、そこから無数の銃口が現れた。

「先生! 上手く避けて下さいね!!」

「なにっ!? ってうおあぁぁっ!?」

 テンテンは外に一声かけると、その50以上の銃口から起爆札にも描かれている起爆術式を彫り込んだ千本をそれこそ嵐の様に撃ちだした!

 千本はゼツ達に向かっていき、接触すると同時に起爆、大爆発を起こした。

 それだけではない。

 時空間忍術によって銃身は即座に良空間に納められた別の銃身と交換され、更に千本を撃ちだす。

 それが計7回。

「…流石にオレごと撃つのはどうかと思うぞ…」

 ガイがそうぼやく。

 とは言え、

「それ位先生軽がると避けるじゃないですか…」

 テンテンの言う通り、ガイには全く怪我がない。

 双方それを見越しての連携であった。

 しかし。

「!? テンテン!!」

 ゼツには地面や木々に融合して潜む能力がある。

 それで生き残る者もいた訳で。

 どしゅ!

 テンテンの背後から、腕を木の槍の様にしたゼツが彼女の背から胸を貫いた。

 そして、

「は~ずれっ」

 その声に振り向こうとしたゼツ。

 その体を、

 ぐにゃり。

 先ほど貫いたテンテンの体が灰色の粘土の様になって包み込んだ。

 そして、ゴリゴリという音と共にゼツをくるみ、押し潰していく。

「身代わり人形・泣きのグズ蟲」

 それがこの人型の名。

 テンテンは自分そっくりに作った特殊粘土の人形と変わり身の術を使って入れ替わっていた。

 これは攻撃などの刺激を受けると、一旦非常に柔らかくなった後に相手をその身でくるみ、急速に収縮、硬化する事で圧殺する。

 しばし前にブンブクの使った捕縛用の罠を応用した恐るべき忍具だった。

 彼女は溜息をつきつつシニヨン(おだんご)に纏めた髪留めを解いていた。

「分かってるから、さっさと掛かって来なさい」

 その声と共に地面から更に4体のゼツが飛び出してきた。

 変わり身の術を使われぬよう、四方からの一斉攻撃。

 本来のテンテンの技量ではちと荷が重い、しかし。

「斬糸・輪法半月斎」

 その言葉と共に、彼女の髪がぶわっと広がった。

 そのままテンテンはその場で一回転。

 ゼツ達のいる空間を、彼女の広がった髪が通り抜ける。

 そして、

 ばらり。

 ゼツ達は文字通り崩れ落ちた。

 チャクラ糸の操演を応用した忍具である非常に細く、鋭い刃を持った鋼糸、輪法半月斎。

 彼女は纏め上げた髪の中にその忍具を隠し持ち、それにチャクラを通すことで自在に鋭い刃を操ることが出来るようになっていた。

 

 周囲にはもはやゼツはいない。

「先生、早くリーを追いましょ。

 あいつ1人だとやっぱり不安で…」

 テンテンは殊更気楽にそう言おうとして、ガイの表情が常日頃と違う事に気付いた。

 彼の視線は彼方へと向けられていた。

 そちらには土煙が立ち、はっきりとは見えないが、戦いが行われているようだ。

 なにやら馬鹿笑いの様なものも聞こえて来るような。

 テンテンが不審そうにそう思った時だ。

 ぅおん!

 唸りを上げて何かが飛んできた。

 特徴的な歯並びと肌の色をした、霧隠れの里の上忍だった筈。

 それが、

「ぐほっ…」

 血反吐を吐き、叩きつけられた地面から立ち上がろうとして、崩れ落ちた。

「な、何があったんです!?」

 テンテンは彼を助け起こしつつ、そう尋ねた。

 上忍は口から血の泡を吐きだしつつも、

「信じられん、程の、体術使い、だ。

 気をつけろ…」

 そう言い、そして気絶した。

「先生!」

 テンテンはそう声をかけるがガイは振り向かない。

 何か異様だ。

 そう思い、もう一度声をかけようとした時だ。

「…さん」

 ぼそりとガイが呟いた。

 いつものガイでは有り得ない様な小さい声。

 その声と共に、強い風が吹いた。

 土煙が風にさらわれ、一気に見通せるようになる。

 そこには。

 テンテンは呆然とした。

「あ…」

 あまりの驚きに。

()()()()()をする人がまだいたなんて…」

 それは緑色だった。

 緑色の「かっこいい(ブンブク談)」上下のタイツを身に付け、首には深紅のマフラー、脛にはオレンジ色のレガース。

 マイト・ガイとの装束と似通っていた、いや、素材も同じものの様だ。

 マフラーを外し、木の葉隠れの里のジャケットを羽織ればガイと全く同じであろう。

 顔立ちは相手の方が若干年上だろうか。

 しかし、鼻髭と顎髭のせいで年嵩に見えているだけで意外に若いのかもしれない。

 それだけではない。

 目元など、顔のつくりや髪の質などがガイそっくりだ。

 兄弟と言っても通じるだろう。

 その人物に、ガイはこう叫びかけた。

 

「父さん!」

 

 マイト・ガイ対マイト・ダイ。

 時を隔てて親子が対決する。

 

 

 

 そしてその頃、リーもまた、強敵と向き合っていた。

 周囲にはうめき声と血の臭いが充満している、戦場で。

「ここからは、ボクがお相手を務めます!」

 そう言い、リーが拳を突きつける相手。

 右の胸に大きな傷のある、浅黒い肌の巨漢。

 最強にして最速の男。

 1万の軍勢と戦い得た怪物、その名を。

 

 3代目雷影。

 

 かつて体術最強と言われた男と、現在体術最強を謳われる男の弟子との死闘が、始まる。




という訳で、3代目雷影様はリー君と戦うことになりました。

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