サスケの戦いです。
114
うちはサスケは苦戦していた。
「くっ…火遁・豪火球!」
息を吸い込み、吐き出す吐息に火遁のチャクラを混ぜ込み、そして着火。
轟! と言う爆音と共に目の前のゼツの一体を強烈な熱を伴う火炎が押し包もうとして、
「水遁・水弾の術…」「水遁・水弾の術…」「水遁・水弾の術…」
3方向からの水弾によって打ち消された。
いくら初歩的な水弾の術とは言え、複数飛来すればうちはの豪火球すら潰すことが可能という事だ。
どうやら相手は判断こそはたけカカシに劣るとはいえ、それを数によって補っているのだろう。
厄介な。
サスケは声に出さずにではあるが毒づいた。
しかも、だ。
サスケの意識が逸れたのを見てゼツの1人がクナイを複数投擲してきた。
その何本かにはチャクラを込め、殺傷能力を高めている。
「写輪眼に対する牽制、か…」
写輪眼はチャクラの流れを視覚化する。
故に、チャクラの籠ったクナイには咄嗟に反応してしまう。
チャクラの籠らないクナイとて殺傷能力は十分だ。
投擲そのものがチャクラの出の身体強化を行っているのだから。
ならば、サスケにとっては本来見切りやすい筈。
チャクラの流れを見るとこの出来る写輪眼によって、そのクナイがどれだけの速度で投擲されるか、そういった事も写輪眼は解析してくれるのだから。
しかし、写輪眼の解析は万能でも、それを分析するのはサスケだ。
相手の投擲を解析、クナイに込められたチャクラを解析、それを繰り返すことでサスケには少しづつ負荷が掛けられていく。
それを見計らってチャクラを込めないクナイをゼツは投擲していた。
サスケはうちはであり、その秘儀である写輪眼に対しては絶対と言って良い信頼を置いている。
故に、無意識の内に「チャクラを伴わない攻撃」を軽く見てしまっている。
ゼツはカカシの経験をものにしている、つまりはかつての弟子であるサスケの事もある程度は理解しているのだ。
こと、その戦闘能力に関しては、カカシの経験に合わせてトビ、イリヤからの情報もあり、かなり正確に把握しているのだ。
その為だろうか、
「くっ、タイミングが…」
そう、彼らはサスケの読みを絶妙にずらし、本来のカカシとはほんのコンマ千分の一秒程攻撃を遅らせて打ち込んでくる。
今も、
「風遁・カマイタチ!」
風遁を使う事はサスケには分かっていた。
故に、風遁を相克する火遁を使おうとすると、印を結び終わり発動しようとする段階で、
「水遁・水弾!」
が飛んでくる。
カカシが相手に合わせた術を結印出来るのはかつて親友から譲り受けた左目の写輪眼の解析能力と、己の優秀な分析能力によるところが大きい。
ゼツはあくまでゼツでしかなく、カカシほどの才能はない。
それがなぜサスケを追い詰める事が出来るのか。
それがゼツの術発動の微妙なずれによる噛み合わなさ、それにあった。
達人同士の戦闘はほんの少しの狂いで勝負が逆転する。
ゼツ達は達人とは言えるほどの強さは本来ない。
しかし、彼らは「はたけカカシになる事」に特化したカスタマイズを受けていた。
その動きはカカシそのもの。
その事が、サスケの動きに微妙な狂いを生じさせていたのである。
本来のサスケならば、その狂いの無いサスケならば彼らを比較的楽に倒せていたのかもしれない。
もっともそれならば、トビと「暁」の元から出ていく事もなかったであろうが。
今のサスケはトビ、もしくはそれ以前からの「うちはの呪縛」を破りつつある状態、と言えるだろうか。
自分の今までの行動に疑問を持ち、それを調べるべく動きだしている。
それは確かにサスケの「自我の煌めき」なのだろう、しかし、それは殺し合いである忍としての戦いの場においては雑念となり、動きを鈍らせる。
さらに、サスケの中に仕掛けられた「うちはを縛る幻術」がサスケの動きを更に阻害していた。
敵であるゼツの動きとその予測への齟齬、そして自身の思い描く本来のサスケの動きと今の状態との解離、それがサスケの動きを縛っていた。
無論それはゼツ達を送り込んだイリヤの想定そのままだ。
イリヤは茶釜ブンブクの分身であり、分かたれる前のブンブクの知識と経験を引きついでいる。
引き継いでいないのはトビによって破壊された人格のみだ。
故に、うちはサスケと言う男の事をイリヤはよく知っていた。
ブンブクが音隠れの里に潜入していた時、ブンブクは定期的に分身を解除、改めて影分身を作りなおしては木の葉隠れの里との連絡をその口寄せ動物である安部見加茂之輔を通じて行っていた。
影分身の術は己と全く同じ存在を創り出す。
その際にチャクラをも分割する為に、扱いの難しい術であるとされていた。
とは言え、ブンブクにとっては元々チャクラが少なく、主たる戦闘法が体術である為に、今更2分の1になろうともそれほど問題ではなかったようだ。
その時の経験により、イリヤはうちはサスケという男について内面まである程度理解していたのだ。
その彼女が推測したサスケの精神状態、それならばゼツ4体で十分連れ戻せる、そう読んでいたのである。
…さてそれは本当に正しいのか。
彼女は忘れている。
サスケという男は「危機によってその能力を開花させる」という事を。
「このっ!?」
サスケはすんでの所でゼツの1体が繰り出した「千鳥」をかわした。
ゼツは千鳥の本来の姿である「圧倒的な速さの突き」と「雷遁の性質変化を乗せた突き」を取り交ぜて繰り出してくる。
それがまたサスケにとっては厄介だった。
千鳥はその性質上、周囲にチャクラをまき散らす。
あくまで千鳥の雷遁は「性質変化」であって「形態変化」ではない。
右手に雷遁のチャクラを集める、それだけなのだ。
故に、集めたチャクラは散じるのが定め、その形を変える形態変化を使う事でサスケは「雷遁」としての千鳥のバリエーションである「千鳥刀」や「千鳥流し」を編み出した。
ゼツ達が行っている千鳥はそういう点では効率が悪いと言える。
あまりの雷遁のチャクラの集中に、チャクラが漏れ出しているのだから。
しかしそれがまずかった。
サスケの写輪眼は日向の白眼の様に「物質を透過してチャクラの流れを視認する」、「チャクラの流れを立体的に視認する」事には長けていない。
よほど大きなチャクラの集中がない限りは「視認したチャクラの後ろにあるチャクラの流れ」を透かして見る事は出来ないのだ。
つまりは、ゼツの使う「雷遁の乗った千鳥」の後ろで他のゼツが術を使っても、下級忍術程度のチャクラの流れは千鳥の雷遁の放出によってサスケの視界へ入ることがないのだ。
その為、サスケはゼツの動きを読み、そしてそれに対応する事となるのであるが。
「おおっ!?」
またもやサスケの読みがずれた。
ゼツ達はサスケの動きを把握している。
サスケにもそれが分かっていた、しかし、対処できない。
「やはり腐っても天才の名をほしいままにした男のコピーって事か…」
ゼツの1体からの剣戟をクナイでギャリリと受け止め、受け流しながら左手に雷遁のチャクラを集め、もう2体のゼツの繰り出した「土遁・岩柱槍」を打ち払う。
雷遁のチャクラが土遁の術を相克したのだ。
しかし、サスケは大きく飛び退いた。
今までサスケの頭があった位置を、目にもとまらぬ速さでゼツの左の拳が振りぬけていった。
ゼツの使う千鳥である。
サスケは己の直感に感謝した。
あのまま喰らっていれば、「
…なるほど、もうオレは用済みという事か。
サスケはゼツの目的がサスケの捕縛から殺害へと切り替わったのを感じた。
どうやらトビにとって「月の眼計画」とやらを発動させればサスケは用済み、という事らしいとサスケは判断した。
発動がほぼ確定したという事なのであろうか。
話に聞く月の眼計画とはうちはの幻術を尾獣のチャクラで発動、それを月に反射させることで全世界の人間を幻術に封じ、それを以って世界平和を成し遂げるものである、という。
サスケにとってはばかばかしい限りのものだ。
ナルト達と再会していたサスケ、その精神は彼らとのぶつかり合いで活性化していた。
だからこそだろうか、本来のサスケが持つバイタリティが月の眼計画を否定していた。
トビの目論見通りならば、今頃サスケはすっかり絶望し、木の葉隠れの里を滅ぼす、という妄執に突き動かされているだけの存在となり果てているはずだった。
その状態であれば、月の眼計画は福音であった筈だ。
「木の葉隠れの里を滅ぼし、理想の兄と両親と何時までも幸せに暮らす」という痴人の夢に浸ることをサスケは望む筈であった。
そして無気力となったサスケはトビにとって都合のいい道具となっていた筈であったのだが。
それを妨げたのはまたしてもナルトであった。
サスケはナルトと戦う事で、「彼と勝負を付ける」という望みを持った。
それはサスケの歪み、錆ついて動かなくなっていった心に半ば無理やりにエンジンをかけるものであった。
サスケの心を動かすナルト達との交流、その動きを抑えつけようとするうちはに仕掛けられた術。
それらがせめぎ合い、結果としてサスケは不安定になっていた。
それ故にサスケは追い込まれていった。
実の所、イリヤ、そしてそれに命を出すトビから出ているゼツ達への命令は、
サスケを「生かして」連れ帰る事
であった。
しかし、ゼツ達はトビより与えられていた指令を無視して、殺傷力の高い術でサスケを責め立てていた。
本来ならば起こり得る筈がない。
ゼツはうちはマダラが千手柱間の細胞、通称「柱間細胞」より創り出した人造生命体、とされている。
そのような存在は大概の場合自意識を持たせたとしても「命令に絶対服従」するよう対策が取られているものだからだ。
それにも拘らず、いや、それだからこそ、か。
ゼツは間違いなく
さて、マダラはいつの間にそのような技術を得たのか。
うちはの写輪眼は術の解析こそ万能なれど、術の「創造」にはその助けとしかならない。
忍術を創り出すには深遠なる知識と術を考察する異常な視点、そして何より忍術に賭ける気が触れたとしか思えないような情熱が必要だ。
そう、例えば大蛇丸の様な。
マダラは間違いなく忍術の天才だ、しかし、「使う天才」が「創る天才」であるかと言えばそうではないだろう。
スポーツに於いて優秀な選手が優秀な監督であると必ずしも限らない様に。
ならば、ゼツとは一体何なのか。
何故故にゼツはサスケを殺害しようとしているのか。
そして、それが命令者にとって正しい判断であったのか。
イリヤの計算はゼツ達の命令違反により予想外の効果を生み出しつつあった。
ゼツの1体がサスケに斬りつける。
流石に慣れてきたのだろうか、その攻撃を余裕を持って捌き、しかし、その直後に千鳥による2連続攻撃がサスケを襲う。
それすら何とか捌いた所に足元からの土遁・心中斬首の術によって地面に引きずり込まれそうになった。
「!」
咄嗟に飛び退ることで術を回避したサスケ。
そこから、
「
「火遁・火弾の術!」
「水遁・水弾の術!」
数本のクナイと火球、水球が立て続けに飛来する。
サスケに攻めに転じさせぬよう、人数の優位さを利用して押し切る気なのだろう。
しかし。
「おかしい…」
サスケは守勢に甘んじながらも考えていた。
確かに忍は相手の隙をついて一撃必殺、反撃の糸口を掴ませぬまま相手を仕留めるのを最上としている。
これは忍の性質上当然のことでもある。
戦いとはリスクが大きく、本来ならば避けるべき懸案である。
しかし、忍には戦わなければならない時がある。
特に上忍ともなれば扱う機密情報、護衛する要人の重要性は相当に高い。
それを守り、また奪うためには相手を倒す必要も出てくる。
無論、相手を殺す必要がない場合もあるだろう、しかし、下手に生かしておけば相手はより準備を整えて再戦を仕掛けて来るやもしれない。
さらに言えば、忍は戦闘技術のみを鍛えているだけではない。
縄抜けや侵入技術、サバイバル技術など術に頼らない技術の習得にも時間を取られる。
戦う技術のみを磨いていれば良い侍とはまた違うのだ。
だから、戦い方は勢い短絡的になる、のだが。
はたけカカシはまた違う。
確かに彼の場合、写輪眼を使用すると莫大な量のスタミナを恒常的に消耗してしまうために、強い相手と戦う場合どうしても短期決戦を取らなくてはいけない場合が多い。
しかし、カカシの本来の戦い方は写輪眼によって解析し、ものにした多彩な術と上忍としても多いチャクラを組み合わせて多種多様な術で相手を翻弄するものだ。
実際、今サスケに対してはなって来るのは火遁を克する水遁、雷遁を克する風遁を主として五遁全てを使用してきている。
しかし、攻撃があまりにも単調だ。
サスケはゼツの2体を相手取りつつ、残りの2体が千鳥を放つタイミングを注意していた。
彼らは五遁の下級忍術しか使ってこない。
まあそれでも直撃すれば十分にサスケは死ぬわけであるが。
下級忍術はチャクラの消費が少なく、カカシのコピーであるゼツ達なら、ほとんど間を置く事もなく撃ち込む事も可能だ。
実際に今受けている波状攻撃はそうなのだ。
しかし、サスケはそれに違和感を感じていた。
その違和感は比較対象が存在していた。
先ごろ五影会談で戦ったカカシ本人である。
あの時のカカシはまずサクラを保護する事を優先していた。
故に、それほど大きくぶつかった訳ではない。
しかし、それでもサスケにはカカシが以前よりも確実に強くなっていることを感じていた。
天才は天才を知る、という事か。
その時の手ごたえと、今のゼツ達とのずれ、それがサスケを苛立たせている。
ずくり。
その時、サスケの中で何かが蠢いた。
サスケを構成する要素、サスケの「うちは」としての部分よりも更に深い、より根源的な部分、それが不自由な戦いを強いられているサスケの苛立ち、圧迫感によって目覚めつつあった。
苛立っていたのはゼツ達も同じであった。
トビやイリヤからの情報を解析する
これはトビらにはばれていない筈だ。
そして木の葉隠れの里へと移動し始めたサスケをつかず離れず追跡し、最も襲撃にふさわしい場所へと
サスケは出来れば穏便に里へと潜入したいと考えている筈だ。
故に、「天照」や「須佐能乎」などの膨大なチャクラを使ううちはの固有忍術は使ってこないであろうと予想していた。
そして一旦戦闘に入ってしまえば、それらを使う余裕を持たせないように攻撃を重ね、サスケがじれて瞳術、特に天照に集中した瞬間、相打ち狙いで千鳥を打ち込む。
天照は相手を一瞬で焼き尽くす燃焼速度を持たない。
ならば、天照の黒い炎に焼かれつつも千鳥の速度でサスケに攻撃を叩き込む事は可能なのだ。
さらに言えば、己のみが砕けるほどの威力で千鳥を放てば、サスケの須佐能乎とてうち抜けると推測が立っていた。
そう、そこまでしてサスケに対し最適の攻撃手段を模索し、それをぶつけている、筈なのだ。
なのに、サスケは未だに立っている。
さあ、早く瞳術を使ってこい、その時こそサスケの最後だ。
そう焦れているゼツ。
しかし未だにサスケは瞳術を使ってこない。
これはどういう事か。
実の所、苛立ちを隠せないサスケであるが、少しずつゼツ達の攻撃に対処できるようになっていた。
本来イリヤがゼツ達に与えていた戦術、それはサスケを「捕える為」に組まれた戦術で、サスケの体力を削り、疲労によって動きの鈍くなった所を捕えるという時間の掛かるものであった。
だが、サスケを「殺害する為」に動いているゼツ達はそれを使わなかった。
最初に組んだ殺害用の戦術、それに捕縛用の戦術を組み合わせる事が出来れば、サスケの命は今頃なかっただろう。
こういった応用の効かないあたり、柱間細胞より戦力増強のために促成栽培にて創造された量産型のゼツの欠点でもあった。
だからと言って彼らに感情がない訳ではない。
元々彼らは「白ゼツ」、暁に最初から参加していた白黒のゼツの片割れを母体として生み出された存在だ。
その性格も、白ゼツのものを参考にトビによって設定されてる、
潜入工作などを行う場合は全く人格の無い人形では人の心の機微に対応できない為である。
それは心の揺れが存在する、という事。
余裕を持たずに組み上げられた策、それに綻びが生まれつつあった時、ゼツ達の1体がぼつりと呟いた。
「…何故倒れない? 『術』は完璧の筈だ」
それが、サスケの殻を破る事になるとも知らず。
ゼツの言葉は、ほとんど独り言程度だったにもかかわらず、サスケの耳に届いていた。
術だと?
ゼツの打ち出した手裏剣を「草薙の剣」で叩き落とし、その影から繰り出された千鳥を地面に身を投げ出すようにして回避、時折地面から伸びる手から飛び退きながらサスケは不審に思った。
サスケは当初、それは敵の戦術の事だ、と思った。
しかし、それにしては相手の様子がおかしい。
まるで戦う前から勝負が見えている様なものの言い方。
そしてそれは発動していない、というニュアンス。
戦いに関して間違いなくサスケは天才だ。
それは一旦戦いに入るとその明晰な頭脳が様々な事柄を今まで積んできた経験を糧に直感という形で教えてくれるのだ。
その直感がサスケに今のゼツの言葉のおかしさを伝えていた。
それが告げる事、それは、
「…既にオレは敵の術中にあった、という事か…」
そう結論付けるのに充分であった。
うちはである俺に術を仕掛けておくとは。
サスケの苛立ちは怒りへと変換された。
その時だ。
「ううぅ… おああぁっ!!」
サスケが咆えた。
めり、めり、とどこかから音がする。
まるで枷を引きちぎる猛獣の様なそれにも似た音が。
「!」
焦りを露わにしたゼツ達が矢継ぎ早に忍術を打ち込む。
轟音と共にはたけカカシの速度で結印された下級忍術が飽和攻撃の如く無数にサスケに押し寄せ、そして。
ごぅん!!
周囲に隠しようもない爆音と膨大なチャクラの残滓、そして土煙が舞った。
サスケが須佐能乎を使った様子はない。
それならば、この飽和攻撃を避ける
サスケの写輪眼を潰す手立てとしては悪くない。
うちはの瞳術であるイザナギは自分自身にかけ、己の都合の悪い事象を無視し、己の都合の良い事象を掴み取る為の術。
その代わり、急速にチャクラを使い果たし、写輪眼は2度と開かれる事はない。
うちは一族にとっての最強の武器である写輪眼を犠牲に発動される世界そのものへと影響を与える術だ。
それを使わせることが出来ればサスケなどただの術使いと堕す。
そうゼツは踏んでいた。
…それは判断が甘いと言わざるを得まい。
実際、
「なるほど、貴様らの術というのは大したもの
だが、もう無駄だ」
先の攻撃で一瞬ゼツ達の意識がサスケより離れた、その瞬間に、サスケは忍としての基本の術である「変わり身の術」でゼツ達の中心へと入りこんでいた。
そして、
「千鳥流し…」
ばぢぢぢぢぃっ! という音と共に雷遁が周囲を満たす。
千鳥の要領で集められた雷遁のチャクラを印を結ばずに形態変化をさせ、周囲へまるで雷を纏うように繰り出される術。
それは周囲にいた3人のゼツ、そして、
「ぎゃっ!?」
土遁によって地中へと潜んでいた4人目のゼツを地上へと引き出す事となった。
「今ので分かった。
貴様らの頼りとしていた術はオレの深い所に仕掛けられていた幻術だな。
これを仕掛けていたのは誰だ?
まさか『マダラ』ではあるまい?
…吐け、さもなくば」
打ち倒す。
そう睨みつけるサスケに、ゼツ達は。
「せっ!」「火遁・火炎弾!」「水遁・水竜弾!」「土遁・土柱槍!」
必殺のクナイの乱れ撃ちと忍術で応答した。
しかし、
「…なるほど、判断が大きく鈍らされていたな。
この程度の事も分からなかったとは…」
サスケは何でもないかのようにクナイを打ち落とし、手に集めた火遁のチャクラで火の弾を逸らし、竜の様な形の水にそれを叩きつけることで相殺、そのまま残ったチャクラを収束すると岩の柱を叩き折った。
「な!?」
唖然とするゼツ達。
それはそうだ。
たがいにほんの少しの発動時間のずれを作り、回避など不可能なタイミングで打ち出された必殺の連携、それをサスケはこともなげにいなして見せたのだ。
ゼツ達は、そしてその背後にいる者はサスケを甘く見ていた。
このそう長くない戦いの間に、サスケはゼツ達の戦い方を学び、それに対処する技術を得ていたのだ。
うちはは天才の集まりだ、とかつて木の葉隠れの里の者達は言った。
それは多分にうちはの秘儀である写輪眼の力が大きかった。
うちはにおいて、マダラにせよ、イタチにせよ天才の名をほしいままにした者達は写輪眼の力をどう有効に活用するか、それによって名声をほしいままとしていた。
サスケは違う。
確かに彼もまたうちは、瞳術の活用に長けている。
しかし、それと同時にその他の術、忍術、幻術、体術の全てを有効に使う事で彼は強敵達を打ち破って来た。
大蛇丸、うちはイタチ、志村ダンゾウ、彼らとの勝負を付けたのは瞳術ではなかった。
彼がカカシより伝授され、磨き続けた「千鳥」そしてそのバリエーションによってである。
そして彼はそれにより、千鳥の開発者であるはたけカカシの事をより理解していた。
「貴様らの動きは
その程度で貴様らがカカシ
はたけカカシは優秀な忍である。
サスケと戦っている最中にもカカシは戦闘技術、兵法を向上させていたのだ。
優秀な忍は常に己の殻を破っていくものだ。
カカシのライバルである(カカシは少なくとも表面上は認めないだろうが)マイト・ガイは己と同じ能力を持つ分身を創り出すトラップに掛かった時、己の限界を超えて自分の分身を倒した。
カカシ程の天才ならばなおさらだ。
サスケはそれを肌で感じていた。
その感覚が、今回の場合むしろ勝利の邪魔をしていたのは皮肉であった。
そう、サスケは「あのままカカシが実力を伸ばしていたら」という前提の元に戦っていた。
どちらが強いのかは推して知るべしであった。
「…言え。
お前らの背後にいるのは誰だ?
言わねぇなら…」
その恫喝に対し、ゼツ達は一斉にクナイで切りかかることで答えた。
しかし、その刃が届くその瞬間。
「…千鳥千本」
サスケの周囲に針の様な暗器「千本」を模した雷遁のチャクラが現れ、ゼツ達の持つクナイにぶつかり、そして、
「があっ!?」
クナイから雷遁の電撃がゼツ達の体を貫いた。
とは言えそれもまた予想済み。
倒れていく
味方2体を囮にし、サスケへ斬りつけると見せて大きく後方に飛んだ2体。
既に軽くではあるが雷遁のチャクラがその左腕には宿っていた。
2体同時の千鳥。
倒れた2体が邪魔になり、サスケの動きは制限されている。
この状態ならば千鳥の2連撃を回避しきるのは不可能。
写輪眼の洞察眼によって1体の動きを見切り、反撃で仕留めたとしてももう1体が確実にサスケの体を抉る。
これで詰み、だ。
勝利を確信し、加速に入らんとしたゼツ達の耳にサスケの言葉が聞こえた。
「…1つ言っておく。
『鳳凰』ってのはそれが1羽の鳥を指すんじゃねえ。
鳳と凰、雌雄一対の霊鳥を指すんだ…」
何を訳の分からないことを。
次の瞬間、ゼツ達は加速に入った。
ゼツ達は写輪眼を持たない。
故に、これは一種の特攻だ。
回避を考えない一撃を見舞うためだけの突撃。
しかし、その速度は絶対。
いくらサスケがその腕に火遁のチャクラを集めていたとしても、それで凌げるのは一撃のみ。
後方からのもう1体の攻撃は捌ききれない。
興奮と緊張によって奇妙に引き延ばされた時間の中、ゼツの1体は雷遁のチャクラをサスケに叩きつけようとし、サスケの左腕に食い止められた。
勝った!
これであとは後ろのものが己ごとサスケを仕留めれば…。
そう考えていたゼツの腹に、サスケの
「音隠れ体術秘伝・
サスケはそう呟いた。
火遁のチャクラの籠った
「な、何故…」
そうゼツは断末魔の呻きを上げた。
古流空手の攻撃手段、というより考え方、術理の1つに「夫婦手」というものがある。
攻め手、防ぎ手を夫婦のように連動させ、右を攻め手、左を防ぎ手、というように決めつけないというものである。
ここからサスケは左で打つ千鳥から、一見左で攻めつつその左手に連動した右手にもチャクラを回し、左の突きが捌かれようとも瞬時に右腕で攻撃が出来る体制を作っていた。
左の鳳が捌かれようとも、右の凰が相手を抉る。
これが千鳥から生まれ出た体術と火遁のハイブリッド、「鳳凰」であった。
2体のゼツが倒れ、サスケは残りのゼツに振りむいた。
「まだ話す気にならないか…」
気負うでなく、そう言うサスケに、ゼツ達は地面に潜ることで彼から逃げようとする。
しかし、
「相変わらず単調だ。
…千鳥流し」
地面の中に雷遁が打ち込まれ、弾かれる様にゼツ達が飛び出してくる。
その1体に、
「天照…」
絶対必殺の黒い炎が纏いつき、ゼツを焼いていく。
断末魔の悲鳴を上げるゼツを無視し、サスケは睨みつけ、
「話せ、でなければ…」
相手の動揺に付けこみ、
「瞳術…」
うちはの瞳術による幻術を仕掛けた。
不安定になっている相手には幻術を仕掛けるのも容易い。
しかし、その時ゼツがにやりと笑った気がした。
そう判断したサスケは大きく飛び退る。
その瞬間。
どぉん!
ゼツは衝撃と共に大爆発を起こした。
「…ふん、うちはの瞳術による幻術をキーにした自爆忍法か。
流石に分かってやがる…」
サスケはそう呟いた。
ここにゆっくりしている訳にもいかないだろう。
ここは木の葉隠れの里の領域だ。
その内に里に残った連中がかぎつけてやって来るだろう。
とは言え。
「侵入するには都合が良い、か」
サスケは隠業を使い、里の警備隊達と入れ違うように木の葉隠れの里へと潜入していった。
今回校正を入れていないのでいつもより誤字が多いかも。