NARUTO 狐狸忍法帖   作:黒羆屋

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第112話

「イリヤさん、戻りましたよ」

「暁」の拠点、であった地下の大空洞、今そこに人影はほとんどない。

 一時期集結した白ゼツによって埋め尽されていたそこには、「聖杯のイリヤ」を名乗る人形と、極数名が任務として雑用をこなしていいるだけだ。

 頭である「うちはマダラ」は暫く前に外道魔像を伴って出陣、それ故に、この大空洞はがらんとしていた。

 そこに戻って来たのは干柿鬼鮫。

 正確に言うのならば、「外道魔像」の欠片を核とし、穢土転生を代表的な術とする降霊系の忍術の亜流である「口寄せ・聖杯八使徒」なる術によって復活したのが今の鬼鮫である。

 彼のトレードマークともいえる相棒であった「大刀・鮫肌」は彼の手にはない。

 八尾の人柱力であるキラー・ビーに奪られてしまった。

 今鬼鮫は真っ白な、巨大な錨の様な得物をその背に背負っていた。

「鬼鮫、『重刀(じゅうとう)船折り(ふねおり)』の調子はどう?」

 イリヤはそう鬼鮫に尋ねた。

「そうですね、自意識がないためか、鮫肌よりは一段扱いやすいですね。

 まあ、その分危機の時に助けてくれる、という事もないんですけれどねえ」

 鬼鮫はそう言いながら肩を竦めた。

 かつての鬼鮫の愛用の武器であった「大刀・鮫肌」は意志を持った半ば生き物、といった武器であった。

 その為に、鮫肌は鬼鮫を気に入り、そして武器と使い手、というよりは相棒として互いを支えてきた、と言って良いだろう。

 とは言え今鮫肌はビーを気に入り、彼の得物となっている。

 そういう訳で、鬼鮫には扱える得物がなかった。

 彼ほどの忍ともなると、並みの得物では強度が足りない。

 そこで、トビとイリヤは彼のために特注の武器を創り出した。

 それが「重刀・船折り」。

 見た目は長身の鬼鮫を超える長さの巨大な錨、である。

 鬼鮫の特性である「チャクラの還元能力」、これは相手のチャクラを自分のチャクラに還元する能力、これを活かすために、トビは白ゼツの因子を加えた柱間細胞からこの長大な得物を削りだした。

 その為、この船折りはゼツと同じくチャクラの吸収能力を付与されていた。

 その吸収速度は能力をそれに特化した為に鮫肌を若干上回る。

 これによって、鬼鮫は今まで以上の戦闘能力を維持するに至っているのである。

 そして彼は一仕事終えて帰って来た。

「…首尾は?」

 そう尋ねるイリヤ。

「問題ありませんでしたよ。

 あの傀儡人形から奪った『七尾のチャクラ』はこの重刀・船折りとワタシの身に封じてあります。

 最もかなりの量でしたからね、ワタシとて抑え込むのはなかなか骨が折れましたよ」

 などと言いながらも余裕を見せる鬼鮫。

 鬼鮫はこの戦の序盤から戦場に浸透し、滝隠れの里の最大戦力である「蟲骸巨大傀儡・鋼」に込められた七尾のチャクラ、それを強奪する機会を窺っていた。

 そして戦場が混迷を強くするとともに出来た隙を狙って、鋼に込められたチャクラを根こそぎ奪って来たのである。

 膨大な量のチャクラ、それを完全に取り込むのは巨大な武器である船折りですら不可能。

 吸収しきれなかったチャクラの大半は船折りから還元能力を使って鬼鮫の中に封じてあった。

 一部とはいえ、忍100人程度では到底おさまらない膨大なチャクラ、それを封じておけるだけの容量(キャパシティ)が鬼鮫という規格外にはあったのだ。

 1000人にまで分身できる普段のうずまきナルト、その膨大なチャクラですら鬼鮫の3割程度、となれば鬼鮫が「尾の無い尾獣」と呼ばれるのも納得できるだろう。

「そう、お疲れ」

 イリヤは無表情ながらも満足そうなニュアンスを言葉に込め、書類を纏めていた。

 トビに提出する、今日だけでどれだけの戦果が出せたのか、といったものを纏めているのだ。

「…で、どうなんです? 状況は?」

 そう聞く鬼鮫に、イリヤは眉をしかめて見せた。

()()()はあまりにも弱い。

 相手の消耗を促すなら、養殖物から使い潰すべき」

 イリヤの言う「養殖物」とは、白ゼツのうち、トビが外道魔像の力と写輪眼の幻術で虜にした「木の葉隠れのヤマト」の木遁による制御で大量に発芽させた者達の事である。

 白ゼツはもともと胞子のような状態で存在する。

 それを木遁によって発芽、増殖させて10万以上の白ゼツを創造した。

 対するに、天然物、というのもある訳だが。

「天然ものですら、強力な上忍には勝ち目がない。

 万が一の発覚を恐れて、強い忍には近寄らせなかったのが問題かも」

 イリヤはそう言った。

 天然物の白ゼツ、それは、「他者に寄生し、その人生を乗っ取った者」という意味合いがある。

 元々白ゼツには「胞子の術」によって相手から奪ったチャクラを纏い、奪った相手に成り替わる能力がある。

 それを用いて、死にかけた旅人に成り済まし、各地で情報収集を行っていたのである。

 無論、優秀な上忍ともなればそれに気付く可能性が無いとも言えない。

 故に、彼らは忍びには近付かずにその生を全うした、ように見せかけていた。

 そして墓場の中で朽ち果てた遺体に憑り付きつつ、チャクラを蓄えていた。

 黒ゼツの命があるまで。

 故に、促成栽培的に作られた養殖物の白ゼツよりもより多くの経験を積んでおり、その分戦闘能力も高かったのである。

 その数、12万。

 双方合わせると20万以上の大軍勢という事になる。

 しかし。

「…上忍達をほとんど倒せていない。

 これは問題」 

 予想していたよりも遥かに不利な状況である、とイリヤは考えていた。

 今日1日のゼツの消費は約7万。

 一方忍連合軍の戦死者は1万そこそこ。

 これには湯隠れの里及び中小の里より参加している医療忍者の影響が大きかった。

 数にして1000人に満たない忍の集団、しかし、彼らの救った命は数万人に達する。

 こと、今日の戦いにおいて上忍を削ることが出来なかったのは医療忍者の活躍が大きい。

 彼らによって、穢土転生忍者との戦いにおいて相打ち覚悟の戦法をとった幾人かの上忍が助かっている。

 特に、

「春野サクラ、か」

 病払いのナメクジ綱手姫、その弟子のシズネと並び立つ、己の身を守る以上の戦闘能力を誇る綱手の直系の医療忍者。

 彼女が戦場に出張っている為、本来ならば後退させる際に死んでいる筈の者が幾人も助かっている。

 彼女をはじめとした戦闘能力のある医療忍者を潰さない事にはどうも策が上手く回らない。

 

 そもそも、忍連合軍はトビ達の予想をはるかに超えた12万人以上を動員していた。

 多くとも10万はいるまい、と思っていたのだが。

 …これに関しては、木の葉隠れの里、及び砂隠れの里で行われていた「準忍者資格制度」が大きく関わっていた。

 本来、こういった大規模な戦闘の場合、拠点である里の中心部を守るためにある程度の人数を防衛に回すものだ。

 実際、雲隠れや岩隠れ、霧隠れの各忍里は戦力をある程度里に残している。

 しかし、木の葉隠れ、そしてそれに追従した砂隠れは準忍者資格を持つ者達、いわば予備役の者達に里の防衛を任せることで、通常では考えられない戦力を捻出したのである。

 それに伴い、火の国にある中小の忍里が呼応、勝ち戦に乗ろうとする者達が大量に参戦する事となった。

 膨れ上がった戦力、忍の戦いは数ではない、それは事実。

 だが、同時に数の暴力はやはり馬鹿に出来ないのだ。

「…やっぱり医療忍者への暗殺攻撃は行うべき。

 とにかく士気を削らない事には…」

 そうブツブツとつぶやくイリヤ。

 その前に、すっと何かが突き出された。

 茶の入った椀である。

 どうやら集中している間に鬼鮫が茶を用意してくれていたようだ。

「イリヤさん、根を詰め過ぎないように。

 お体に障りますよ」

 干柿鬼鮫という男は、自分の事に無頓着、というより考えるのを拒否しているようだが、それとはまた別に、他者へ気遣いの出来る人物でもあった。

「ん、ありがとう、でも大丈夫。

 ここが正念場、ここの踏ん張りで『月の眼計画』の成否は決まる」

 イリヤは表情には出ないものの、鬼鮫の心遣いに感謝しているようであった。

 

 鬼鮫はイリヤと組むようになってから、こういった「人がましい」会話をする事が多くなっていた。

 霧隠れの里にいた頃の鬼鮫は「情報漏えいを防ぐ為の仲間殺し」を任務とする事が多かった。

 いわゆる追い忍である。

 初めての仲間殺しは何時のことだったか。

 なまじ才能がある忍であったが故に、鬼鮫は上層部から便利に使われた。

 仲間たちに危険が迫った時、救出が不可能な場合には皆殺しにし、全ての情報を破棄した後に己のみ帰還する、という任務。

 上司である西瓜山河豚鬼は当時霧隠れの最強精鋭であった「霧の忍刀七人衆」の頭であり、傲慢な男であった。

 彼の下で働き続けることで、鬼鮫は何故己が生きていなければならないのか、悩むようになった。

 本来であれば上司である河豚鬼がそういったメンタルケアなどもしなければならないのだろうが、彼は強いだけの男であり、また強さ以外をその価値観に持っていなかった。

 故に、機会があれば里の外の組織に接触し、霧隠れの里を裏切る機会を窺っていた。

 河豚鬼は鬼鮫を己の便利な道具としか見ていなかった。

 だからだろうか、命令に逆らわず、霧隠れ特有の表情を読めない種族である鬼鮫を本当に道具として認識し、里抜けをすると話してしまったのは。

 鬼鮫は河豚鬼に従う振りをしてその首を掻き切った。

 それは霧隠れの里の長であった「4代目水影・やぐら」の命であり、その背後にいたトビの命でもあった。

 その頃から、鬼鮫はトビ、当時はうちはマダラであるという認識であった、の指令を受けて霧隠れを隠れ蓑に暗躍を始めた。

 内政を疎かにし、諸外国との協調路線を進めるために内乱を起こしかけていた当時の水の国の大名を暗殺して内乱を沈めたり、霧隠れ内部での戦争反対派を粛清したりもした。

 その結果、鬼鮫は霧隠れから逐電する羽目になったのであるが、それもまた想定の範囲内。

 トビが乗っ取った「暁」に参加した鬼鮫はそこで「うちはイタチ」というかけがえの無い相棒に出会う事になった。

 何と言っても彼は強かった。

 相性が良かったのか、鬼鮫は彼に勝てなかった。

 鬼鮫は気性が荒く、その気性を厭う心があった。

 イタチは実力で鬼鮫を抑え込むことが出来たのだ。

 そして彼は戦乱を厭う人物であり、気が立ってすぐに暴力に訴えてしまう鬼鮫をうまく制御してくれる相手でもあった。

 それは、鬼鮫にとって福音でもあった。

 そして、「暁」に所属して、初めて鬼鮫は「仲間」という概念、「所属」という概念を持つに至った。

 それは一度目の死の時、

「どうやら私は、ろくでもない人間…、

 …でもなかったようですよ…」

 そう考えていた事でも分かるだろう。

 鬼鮫はそのまま死ぬつもりであった。

 しかし、彼はまだ必要とされていた。

 トビ、そしてイリヤに。

 ならば良い。

 彼らと共にいけるならば、鬼鮫はそう思うのだ。

 

 そこで鬼鮫は周囲の状態に気がついた。

 1人足りないのではないか、と。

「うちはサスケはどうしました?

 見当たらない様ですが?」

 その問いにイリヤは、

「ん。

 うちはサスケは出て行った。

 今、白ゼツの内、腕利きを4人ほど向かわせている」

 なんでもない事のように、とんでもないことをさらりと言った。

 

 

 

 事の発端は、サスケの不信感が積み重なって来た事による。

 五影会談の前においてサスケがイリヤに接触した事による。

 それによって、サスケは混乱した。

 万華鏡写輪眼の覚醒条件、あれは間違いだったのか、と。

 それについてはイリヤ自身から訂正が入った。

 しかし、不信感はサスケの中にこびりついていた。

 そして五影との戦いの前に前哨戦として行ったドス・キヌタとの戦い。

 サスケは本来トビから吹き込まれた情報を元に「うちは壊滅事件」を理解していた。

 それはトビにとって都合のいい情報のみが含まれたものだ。

 それが、戦いの最中にキヌタから補完された。

 そこで初めてサスケはトビの言葉を疑う、という考えが浮かんだのである。

 さらにはダンゾウとの戦い。

 彼と戦い、イタチについて問われたサスケは、そこでやっとイタチが何故「自ら死を選んだのか」を考える機会を得た。

 それがなかったならば、サスケはイタチが「死に追いやられた」としか考えなかったであろう。

 ただただイタチは木の葉隠れの里の犠牲者であった、としか認識しなかっただろう。

 イタチは間違いなく己の住んでいた木の葉隠れの里を愛していた。

 戦乱を幼い目で見続けた彼は、木の葉隠れの里がそれに巻き込まれ、死に絶える事に我慢がならなかった。

 そして少ない犠牲で戦乱を押さえるためにうちは、己も含め、そして弟であるサスケ以外、を斬る事としたのかもしれない、その考えに至る為のきっかけを得た。

 最後に、うずまきナルト達と戦ったのが決め手であったろうか。

 サスケとナルトが殺し合うなら、お互いの死を覚悟する必要があった。

 それは相手を殺す覚悟、ではない。

 相討ちとなり、双方がなにも残す事無く死ぬ、という事だ。

 いや、それは違う、サスケは理解した。

 サスケとなると、2人が相打ちになればどうなるか。

 サスケはそれまでだ。

 自身が死んで、木の葉隠れの里はそのまま存続していくだろう。

 大部分の者達はイタチの死の意味を知らぬままに。

 ナルトはどうか。

 彼の思いは春野サクラやナルトの友人達、後輩、はたけカカシら先達たちが引き継ぎ、木の葉隠れの里を守っていくだろう。

 捨てた者と失った者、孤高である者と群れる者、憎しみを抱く者と憎しみを解く者。

 サスケが憎しみを抱いたままではどうしようもない状態が出来、そして、「万華鏡写輪眼の移植」という身動きの取れない、思考するだけの時間を取ったことが、サスケを変えるきっかけとなった。

 もっとイタチの事、そしてうちはの事を知らなければならない。

 そしてサスケは「暁」の真の本拠地であるこの大空洞を抜けだし、ほぼ全ての忍が出陣した木の葉隠れの里へと向かったのである。

 第四次忍界大戦、開戦の2日前の事である。

 

 

 

「…それは厄介なのではないですか?

 最悪、サスケ君からこの場所の事が漏れる可能性があります」

 思案気に鬼鮫はそう言う。

 しかし、

「別にばれたらばれたで構わない。

 兄さんの時空間忍術で外道魔像を動かしてしまえば此処なんて破壊されても構わない。

 むしろ精鋭が襲ってきた段階で『岩宿崩し』あたりで生き埋めにしてしまえば手っ取り早くて助かる。

 さらに言えば…」

「言えば?」

 鬼鮫の問いかけに。

 イリヤは無表情に、こう返した。

「今追わせている相手は兄さんの練習相手を務めた者。

 うちはサスケに勝ち目はない」

 

 

 

 うちはサスケは走っていた。

 一昼夜かけて追って来る者は4体。

 間違いなくゼツ、白ゼツと呼ばれるものたちであろう。

 彼らは見た目こそ同じだが、その能力には違いがあることをサスケは見抜いていた。

 黒ゼツと呼ばれる個体の独り言を聞いた限りではチャクラを吸い取り、そのチャクラを模倣することで相手とそっくりの外見、能力、記憶を得る。

 しかし、結局のところその威力は白ゼツのチャクラに依存する為にコピー元よりも弱い場合が多い。

 また、戦闘技術もあくまで「記憶」でしかなく、ゼツが使いこなすには結局のところ修行が必要だ。

 今のサスケの相手ではない。

 そう思っていたのだが。

「思ったよりも移動能力が高いな…」

 サスケは意外に感じていた。

 サスケは知らなかった。

 白ゼツには2種類ある事を。

 1つにはサスケの知っている「培養された」ゼツ。

 そしてもう1つは「致命傷を受けた者に寄生、そのチャクラを奪い、成り変わってその生を乗っ取った者」である。

 後者のゼツはその経験から培養されたゼツよりも腕が経つ事もあるのだ。

 そして、前者にしても経験を積めば十分な戦力となりうる。

 今、サスケを追っている者達のように。

 

 予想以上に相手の動きは速かった。

 明らかにサスケの知っている白ゼツとは違う。

 あまり木の葉隠れの里に近付いてから戦闘をすると、里に残っているであろう感知型の忍に勘付かれる可能性がある。

 いくら腕利きが軒並み戦場に出ているであろう事を差し引いても強力な術を里近辺で使えば追手のゼツ達に利する事はあれど、サスケにとって都合が悪くなるのは間違いない。

「…此処でカタを付けるか」

 森の中に開けた場所を見つけ、サスケは足を止めた。

 暫く待つと、

「うちはサスケ、戻る気になったか…」

 追いついてきた白ゼツのうち1体がそういった。

 出てくる際に術の試しとして焼き尽くした白ゼツとは全く違う口調だ。

 なんというか人間味がない。

 人格の設定に手を抜いた、これが促成製造なのだろう。

 画一的な人格を植えつけることで、集団の戦闘に特化した忍を生み出した、というところか。

「くだらん事を言う。

 何故オレがお前らの指図を受けなければならん?

 オレはオレの好きにやらせてもらう、お前らの仲間になった覚えはないからな」

 本来であればそう言ったサスケの目には傲慢なれど強者の自身が見えていただろう。

 ゼツ達にもそう見えていた筈だ。

 しかし、サスケは口調とは違い、油断はしていなかった。

 様々な敵と戦い、そのことごとくに勝利して来たサスケ、その直感、この場合は1を聞き10を知るサスケの天性の学習能力と経験を十全に使いこなす事の出来る能力の高さの事である、が危険を警告していたのである。

 確かに今、サスケを追って来たゼツは全て似たような見た目である。

 しかし、その動きは明らかに熟練者のそれだ。

 さらに言えば、その動きには統一性がある。

 つまりは、

4人1班(フォーマンセル)に対応した奴ら、って事か…」

 現代の忍のチームにおける最小単位であるフォーマンセル、それに対応したゼツである、サスケはそう推論した。

 各々が役割を持つチームとしての強さを持つ集団である、と。

 それだけ4体の動きは似通っていた。

 しかし。

 その推論が間違いであった事を、サスケはすぐに悟る事になったのである。

 

 サスケを含む5人が対峙し、戦いは始まった。

 ゼツ達は術の連携でサスケを圧倒しようとする。

 1人が「土流壁」でサスケの術に対する盾、そして体術に対する移動の障害を作り、他の3人がそれぞれ忍術を撃ち込んでくる。

 サスケの場合、万華鏡写輪眼の秘術である「天照」を除けば中距離に対する攻撃はうちはの得意とする「火遁」と「手裏剣術」に限定される。

 サスケであれば更に多くの形質変化を使えてもおかしくはないだろう、しかし、彼はこの数年を「復讐」に費やしてきた。

 その為元々持っている者を伸ばすのが有効である、と大蛇丸は判断、あえて火遁、そしてカカシの教え込んだ千鳥を強化する方向で修行を続けていたのだ。

「この場で有効なのは『麒麟』だが…、対策は練られているだろうな…」

 周囲一帯に回避不可能な雷撃を頭上より降らせる、サスケの切り札の1つである「雷遁・麒麟」であるが、それもあくまで「雷遁」である。

 相手が4人いる以上、雷遁を相克する「風遁」の使い手がいる可能性は否定できない。

 まずは、

「しっ!」

 起爆札付きのクナイを数本先頭のゼツに撃ち込む。

 これで彼らの連携を乱す。

 その目論見で投擲したクナイは、

「!?」

 先頭のゼツに命中、爆発を引き起こした。

 それと同時に、双方の視界が一時的に封じられる。

 写輪眼によってチャクラの流れの見えるサスケにしても、その最も重要な武器(しゃりんがん)を保護する為に一時的に埃から眼を庇う。

 そして、土煙の中から飛び出してくる3人のゼツ。

 印を組み、術を発動する準備を整えての突撃だ。

「…風遁・カマイタチの術に水遁・大砲弾の術、土遁・岩柱槍の術か…」

 なるほど、岩柱槍の術で周囲を閉鎖、そこに雷遁と火遁を克する風遁と水遁を叩き込み、サスケを倒す、そう言う作戦であろうか。

「…甘く見られたものだ、うちはの火遁を!!」

 サスケは印を組み、大きく息を吸い込んだ。

「火遁・豪火球の術!!」

 そしてと行きと共に吐き出された火遁の性質変化を含んだチャクラは一直線に炎の線を描きながら3体へと向かい、

 

 轟!!

 

 大きな炎の円を咲かせた。

 ゼツの水遁は確かに火遁を相克する。

 しかし、そこに含まれたチャクラの量と質はサスケの方がはるかに上回っていた。

 その為、相克以前に力押しで粉砕されてしまったのである。

 これで片がついたか、周囲を油断なく探るサスケ。

 故に。

「なにっ!?」

 足元から伸びた手に気がつき、飛び退った。

 地面からぬるりと現れるゼツ。

 そのチャクラからあのままだと地面に引き込まれていたかもしれない。

「土遁・心中斬首の術かっ!?」

 地中を潜行し、相手の足下から地中に首だけ残して引きずり込む忍術だ。

 サスケもかつてこの術を喰らってしまった事がある。

 その経験がサスケを救った。

 しかし、更なる猛攻がサスケを襲う。

 サスケは凄まじい怖気を感じた。

 チ、チチ、チチチチッ…

 鳥の囀るような音がする。

「かぁっ!?」

 全力で左に避けるサスケ。

 その右側を、

 バヂヂヂヂッ!

 凄まじい輝きを放つ何かが通り過ぎて行った。

 さらに、

「うぉっ!」

 1つ。

「くうぅっ!?」

 2つ。

「ちいっ!?」

 3つ。

 サスケは信じられなかった。

 はたけカカシの秘術である「千鳥」を使いこなす者が己の他に3人も。

 唖然とするサスケに、

「我らは『はたけカカシ』の術を使いこなすよう調整されたゼツだ。

 うちはサスケ、大人しく我らに従え」

 ゼツは、そう言った。

 

 

 

「は?

 そのゼツは…」

 鬼鮫はイリヤの言った言葉を聞き返していた。

「そう、あのゼツは『はたけカカシ』のチャクラを吸収している」

 イリヤはそう言った。

 元々、トビははたけカカシを己の「月の眼計画」にとっての大きな障害と考えていた。

 それは双方の使う時空間忍術によってだ。

 彼らの使う時空間忍術は「異空間」をその起点としている。

 お互いに術を打ち合った場合、それがどう作用するか分からない。

 実際、理由は不明であるが、茶釜ブンブクを良空間に吸収しようとした時、謎の暴走が起き、トビとブンブクは大きな負傷を負った。

 それを考えれば、時空間忍術「神威」はトビにとって脅威となりうるのだ。

 故に、五影会談の時、カカシに接触した時にトビはカカシのチャクラを白ゼツの胞子によって少量であれども盗み出した。

 それを元に生み出されたのが、

「白ゼツ・カカシクローンバージョン」

 という事である。

 カカシのチャクラを吸収した白ゼツの胞子を数体に与え、カカシの能力をコピーさせた個体を生み出したのである。

 無論の事、ゼツ達はカカシの能力はコピーしたものの、それをどう使うか、といった戦術的な発想は未熟だ。

 そこで、トビは己の知るカカシの考え方を瞳術によってそのゼツ達に植え付けた。

 更には同じく瞳術によって引き延ばされた精神世界で、白ゼツ達はトビと戦い続けた。

 その結果、白ゼツ達は手に入れたカカシの能力を使いこなすことが出来るようになっていたのだ。

 まあ当然のことながら本来のカカシの能力ではない写輪眼は使えないものの、写輪眼によって解析され、カカシのものとなった多数の忍術はトビとの拷問じみた戦闘訓練によって使いこなすことが出来るようになっていた。

 今サスケの前にいるのは若干劣化しているとはいえ、「はたけカカシ」の能力を持ったゼツなのである。

 それが4体。

 同一人物からコピーされたものだけに、連携に関しても申し分ない。

 サスケには「一対多」の戦いの経験が少ない。

 基本的に彼のやっていた修行は「強敵との1対1」を想定したものだ。

 雑魚が何人来ようとサスケは苦にするまい。

 しかし、五影会談において影達に圧倒された様に、実力者のチームと戦うのは彼の得手ではない。

 イリヤはそう分析し、白ゼツ達を送り出したのだ。

 それが間違いだとは言わない。

 しかし、鬼鮫はどうも違和感があるのだ。

 人というのはそう簡単なものではない。

 ただのろくでもない男、それが鬼鮫の自分に対する評価であった。

 そんな自分にも誰かを大切に思う心があった。

 もしかしたら、それはいつの間にか元相棒に影響を受けていたためなのかもしれない。

 自分自身ですら知らなかった心の動きがある。

 そしてそれを見抜く事が出来るのは身近な者、とは限らない。

 トビはカカシに執着している様子がある。

 ならば、執着するが故に見えていないものもあるかもしれない。

 それに。

「良くも悪くも人は変わるものです」

 鬼鮫はそう言った。

「…あの五影会談以降に、はたけカカシは変わった、その可能性は否定できない。

 しかし、それでもやはりうちはサスケに勝機はない。

 彼がうちはである限り」

 それは鬼鮫も知っている。

 うちはに仕掛けられた血族丸ごとに対する幻術。

 それだけのものをよくもまあ仕掛ける事が出来たものだ、と鬼鮫はうちはマダラという忍に驚嘆する。

 ただ術を使うだけの自分とはまるで違う。

 術を根底から理解していなければそのような事は出来ないだろう。

 うちはというのは天才の集まりだと言うが、それも納得できる話だ。

 …鬼鮫は大きな勘違いをしていた。

 うちはが天才であると伝わるのは、その戦闘能力故だ。

 彼らは決っして術を分析する能力に長けている訳ではない。

 確かに彼らの「写輪眼」は全ての術を解析する。

 だが、「解析」出来たからと言って「理解」出来るかというとそうではない。

 物事を理解する為にはその前提となる知識が必要だ。

 例を上げると、以前茶釜ブンブクは己の知識の中に「恒星間空間転移(ワープ)技術」がある、といった事があった。

 だが、彼がそれを成し得るための知識は膨大だ。

 それを1つ1つ「思い出して」己のものにするまでにどれだけの時間が掛かるか。

 人の一生を掛けても不可能だろう。

 それだけの基幹技術が必要になる。

 それを使いこなすにはチームを組んで、つまりは多数の人間によって成されるべき事なのだ。

 それと同じで、写輪眼によって解析された術を「猿真似」つまりは己に合わせてフィッティングしてやる事無く相手と全く同じように印を組んで発動させる事しか、写輪眼では出来ないのだ。

 そこからその術を使いこなすための理解は、理解の基本となる情報を知らない、言ってしまうとフランス語を知らない日本人が仏仏辞典でフランス語を解読する様なものなのである。

 それが出来るのは忍術の研究にその情熱を燃やす事の出来る大蛇丸や猿飛ヒルゼンの様な学者達であろう。

 そして力がある故に、うちはマダラは学者ではありえなかった。

 その彼が何故に「一族全員の仕掛ける幻術」を使う事が出来たのか。

 それは彼らにはまだ知らされていない事であった。

 

「しかし、大分戦力を減らされましたねえ」

 鬼鮫がそう言った。

 実際、相手方の主力である上忍は全く削ることが出来ず、こちらの主力である「穢土転生」忍者はかなりの数封印されてしまった。

 そう、封印だ。

 こちらに触媒のあるめぼしい忍は軒並み呼び出してしまっている。

 という事は、これ以上の戦力増強を見込めない、という事でもあるのだ。

 山椒魚の半蔵、傀儡元祖のモンザエモン、霞谷七人衆等が既に封印をされてしまっている。

「…そろそろこちらも切り札を切る時、か?」

 イリヤがこてん、と小首を傾げると同時に、

 ごうん!

 巨大な音と共に、外道魔像が大空洞内に現れた。

「…今戻った」

 巨大な像、その手に乗ったトビが、飛び降りてイリヤの前にやって来た。

「兄さん、首尾はどう?」

 そうは言うものの、彼の背負った巨大な甕を見ればそれは一目瞭然だろう。

「ああ、何とか回収してきた。

 鬼鮫、そっちはどうだ?」

「問題ありません。

 必要ならいつでも『七尾のチャクラ』を外道魔像に送り込めます」

 鬼鮫の言葉に満足げに頷くトビ。

「ならば今すぐにでも…」

 そう言いだしたトビの言葉を珍しくもイリヤが遮る。

「待って兄さん。

 その甕、中の金角と銀角を出して。

 彼らのチャクラを奪う代わり()()を埋め込んで使う」

 彼女の掌にはマーブル模様の木片。

 外道魔像の破片である。

「一度負けた連中を使う、というのか?」

 そう問うトビに対して、

「そう。

 彼らは十分な戦力となる。

 明け方から一気に総攻撃をかけ、人柱力たちの動きを誘発する。

 そのために」

 彼女はそう言葉を切り、

「聖杯八使徒、全て出撃させる」

 そう言い切った。


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