NARUTO 狐狸忍法帖   作:黒羆屋

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これにて第4次忍界大戦前夜終了です。
次回より最終章、第4次忍界大戦編に入ります。


第110話 + 閑話

 開戦の儀

 

 それは唐突でした。

 いきなり何かに引っ張られるような気配。

 そして、僕達は真っ暗な空間にいたのです。

 

 うちはマダラさん(仮)率いる「新・暁」との開戦を明日に控え、僕達裏方は大わらわでした。

 そもそも戦争なんてのは始める時がいっちゃん大変なんです。

 事前に組んでいた作戦のために連絡をどうするか、とか、兵站の割り振りは、とか、その輸送に関しては、とか。

 今回我らが連合軍は14万人を優に超え、15万人に上る未曽有の勢力になりました。

 これだけの大きさの人数を動員した戦いは、忍界には今だ経験の無い事ですから、上手く動かす為には下準備が必須なのですよ。

 それに、今回は後方支援もかなりしっかりしてますし。

 …ちょっと安心できない所もあるんですけどね。

 これには、湯隠れの里の忍軍が非常に貢献してくれてます。

 100人以上の熟練の医療忍者、そして医療忍術は使えないものの、医療行為の出来るお医者さんと看護師さんが1000人以上。

 湯隠れの里は豊饒な自然と観光資源を持っていて里の軍縮を進んで行った為に「戦を忘れた里」と呼ばれているんですけどとんでもない。

 僕とかフーさん、トルネさんから見るととってもやばい。

 だって、ねえ。

 医療忍者って普通は専業化するもんなんですよ。

 治療や病気に関する膨大な知識を頭に入れないとなんないですからね。

 サクラ姉ちゃんとか、シズネさん、綱手様は例外中の例外。

 山中いのさんですら医療忍術の習得は中途半端で終わっちゃったんですから。

 ところが、湯隠れの里の医療忍者のみなさん、確かに戦闘能力は大した事無いようです。

 でもね、会話の端々、熟練の忍でも気がつきにくいとこなんですけど、五車の術みたいな人遁、つまりは人心掌握術をマスターしてるのが見て取れるんですよ。

 湯隠れの医療忍者さんたち、少なくとも僕が話した範囲においてはそうでした。

 フーさんやトルネさんも同様だそうで。

 …湯隠れの里は「戦を忘れた」んではなくて、もっとえげつない戦い方をするようになっただけなんじゃないだろうか。

 この戦いにおいて己の虎の子である医療忍者を惜しげもなく提供し、その見返りを求めない姿勢によって信頼を得る。

 実際の所はそれぞれの里の精鋭に個人的に恩を売って後々のコネクションにするんでしょう。

 あくどく考えれば優秀な忍や先のある新進気鋭に取り入ってハニトラ、とかも考えられる訳でして。

 …既に規模や戦術において「根」は湯隠れの後塵を拝してました。

 やばいです。

 この戦いが僕らの勝ちで終われば、直接戦闘ではない暗闘が、政治の裏側の戦いの中心になるかもしれません。

 その時、1人勝ちするのが湯隠れ、と言う可能性もあるんじゃないでしょうかね。

 …いや、させませんけどね。

 それはさておき。

 僕は参謀本部にある感知型の忍の人たちが作り上げた「念話ネットワーク」が本格起動するまで、あっちこっちでっちという感じで飛び回り、書簡を渡してはサインを貰い、また別の書類を本部に持っていく、という感じの任務を散々こなしてました。

 僕って顔が広いから、いや、まじで。

 忍五大里に関して言えば、その上層部の人たちほぼ全員と(よしみ)を通じてます。

 その他の中小の里に関しても、中規模ならばほとんど、小規模でも火の国の中であれば結構な数にお伺いしておりまして、顔つなぎレベルならばそうそう他の忍びに引けを取らない自信があります。

 まあ、これには事情もありまして、火の国では大名の殿さまが近衛である「守護忍十二士」の制度を復活させる事になってまして、それのための連絡係もやってたんですよ、一時期。

 とは言っても、かつての近衛忍者っていうよりは、「国軍の総大将」的なものであるようで、自分で動くと言うよりは正に大将、一般の兵士を含む軍を率いる役回りの方々になる予定だそうです。

 …忍にそれが出来るのか、ちょっと疑問。

 まあそれはともかく、そう言った外回りのお仕事が役に立ってますね。

 ダンゾウさまはその辺りも含めて僕にそういった仕事をさせてたのかもしれません。

 そう考えながらも、書簡を持ってあちこちすっ飛んで歩いていた訳です。

 その時、その不可解な現象が起きたのです。

 

 周囲には、五影のみなさま、鉄の国の総大将であるミフネさまと、はたけカカシ火影代行、山中いのいちさん、雲隠れのサムイさん、岩隠れの赤ツチさん、霧隠れの青さん、砂隠れのテマリさん、侍大将の1人オキスケさんが居ますね。

「…で、これはどういう事かしら?」

 って、ちょっとテマリさん!?

 僕が犯人みたいに言わないで欲しいんですけど。

「アナタくらいしかこう言う悪さはしないと思いますけれど」

 って悪さって何さ、サムイさん!?

「そりゃブンブクはからかうと楽しいからだによ~」

「ふむ、真理だな」

 …泣きますよ、赤ツチさんにオキスケさん。

 とにかくじゃれてる場合じゃなくて、ですね。

「で!

 何が起きとる、子狸!?」

 いやだから僕がやってる訳じゃなくてですねえ雷影さま、…!?

 気配!?

 いきなりここにいるものとは違う気配がしました。

 みんながいっせいにそちらを見ると、そこには。

「2Pカラー?」

 色違いの、僕がいました。

 

 じー。

 右手上げて。

 左手上げて。

 右下げないで左下げる。

 くるっと回って、ぱぱんがぱん。

「だあれが殺したコマドリをっ…ぷぎゃ!?」

 頭に衝撃。

「何をしとるかこの馬鹿ものがあっ!!」

 すいませんっ!!

 雷影さまに拳骨を貰いました。

 痛む頭をさすってると、目の前の「ボク」から蔑むような視線が。

 誰のせいだと思ってやがんだちくせう。

 目の前の「ボク」は顔立ちはほぼ僕と同じ。

 でも、色は抜けるように白い。

 肌だけでなく、その髪も、銀色に近い白だ。

 目の色は紫に近い赤。

 で、黒地に赤い雲をデザインしているけど、明らかに木の葉の戦闘服をイメージした衣装を着ている。

 ええっと。

「どちらさまでしょうか?」

 これが。

 僕、木の葉隠れの里の茶釜ブンブクと、暁の「聖杯のイリヤ」との邂逅だったのです。

 

「ボクの名は『聖杯の』イリヤ。

『暁』の頭目、兄さん、じゃなくてうちはマダラの名代として来た。

 戦の前に改めて、降伏と服従を勧告しに来た。

 この戦いは無意味。

 勝負は見えている。

 大人しく3匹の尾獣を引き渡し、降伏する事を勧める」

 イリヤと名乗る僕そっくりの奴は、とても僕とは思えないような淡々とした声で、そう告げた。

 この真っ暗な空間、しかし、僕たちの姿は奇妙にもはっきりと見えている。

 まっとうな所じゃなさそうです。

 そもそも、なんで「いのいち」さんなんだろうか。

 ここにいるのは僕、僕そっくりのイリヤ、五影さまとその後継と目されてる人達、そしていのいちさん。

 僕といのいちさんが浮いてるんですよね。

 そう考えると、…なるほど。

「全体規模の通信中継忍術への割り込み、か」

 いのいちさんが呟いた。

 さすがは奈良シカクさん、シカマルさんのお父さんと長年つるんでるだけあって、経験も豊富だし、それを扱う頭の回転も早い。

 今、忍連合軍のみんなで速やかに連絡が取れるよう、山中を始め、いろんな一族の秘伝忍術を組み合わせて全ての忍からの連絡が相互に受け取れる通信忍術を構築したんですよ。

 10万人オーバーの相互連絡が取れる術。

 洒落になんないですね。

 それを参謀本部にいるいのいちさんたちだけで運用しようって言うんだから。

 本来ならばあふれるチャクラを湯水の如く使ってって事になるはずなんだけど、それをうまく制御して、最低限のチャクラ消費で抑えてるのがいのいちさんの優秀な所なんだろうなあ。

 さすがだと思う。

 で、そのシステムに強制的に割り込んで、精神の共有空間を擬似的に作ったのがここ、ってところなのかしらん。

 それだけのことをやってのけるのか、暁は。

 厄介だなあ。

 とは言え、なんで僕まで呼ばれたのか、と言うのは疑問だ。

 ハッキリ言って、僕の権限は大したことがない。

 僕は、里にとっては足の速い丁稚(でっち)、と言ったところか。 

 便利ではあるものの、挿げ替えの聞く存在でしかない筈。

 それは暁だって分かっているだろうに。

 なんで僕を呼び付けたかなあ。

 

 

 

 この時、ブンブクは己の価値を理解していなかった。

 この数年で彼の築きあげたコネクションは膨大なものとなっていた。

「根」の長であった志村ダンゾウ、彼はブンブクのコミュニケーション能力を高く評価していた。

 そして、その能力を十分に使いこなせるよう、彼を火影付きの連絡要員とし、様々な場所へと派遣していたのだ。

 その結果がダンゾウを超える巨大な人脈である。

 ダンゾウのコネクションは忍界の裏側に限定されていた。

 そしてそのコネクションはブンブクら「根」の上層部に引き継がれ、そして火影の連絡要員として働いた結果、表側のコネクションもブンブクは確立していた。

 これだけの人脈を持つ者は忍界、いや表の世界を含めてもそう多くはない、そのような状況であるのだ。

 火影付きの連絡要員、それは忍界のみならず、その上にいる火の国の大名、ひいては忍五大国と呼ばれる火、水、風、土、雷の各大名への直接の接触もある重要な任務をこなす。

 それは忍界どころか国家元首への人脈を抱える事にもなるのだ。

 ダンゾウにはそこまでの意図はなかった。

 ブンブクが彼の予想を超えて上手くやったと言う事だろう。

 彼の人との付き合い方はうずまきナルト、奈良シカマルをはじめとした同年代の者達、うみのイルカや彼の父親である茶釜ナンブらの大人達、そして志村ダンゾウや猿飛ヒルゼンをはじめとした高齢の者達と非常に幅が広い。

 彼らとの交流を経て、様々な人たちとのコミュニケーションを円滑に進める技術をブンブクは得たのだ。

 それ故に、交渉を行うものとしてのブンブクは、少なくとも忍界において稀有、と言えるほどの人脈を得る事になっていた。

 …本人がそれを理解したなれば、「重い! 僕には重いってばよッ!」などと頭を抱えた事だろうが。

 

 

 

 僕が疑問に思う間に、イリヤを名乗る()()は、五影のみなさんに詰め寄っていた。

 無表情に。

 正直言って気持ち悪いもんだ。

 まあ、やたらめったら表情豊かでもそれはそれで気味が悪い訳なんだけど。

 どうやら、

「君が僕の影分身を加工して作られたっていう奴かな?」

 そう僕が聞いてみるとです。

 彼は僕の方を向いて、

「そう、ボクが君だよ、『僕』。

 さすがは『根』の後継者、耳が早い」

 そう言ったのです。

 周囲からは「どういう事だ!?」という声が聞こえてきます。

 それに対し、

「今言った通りの事。

 ボクは茶釜ブンブクの影分身、つまりは彼のチャクラを封じた人形を元に人格を与えられた人造人間と言ったところ。

 限定的ながらも茶釜ブンブクの知識を扱い、素体となった尾獣のチャクラを引き出すことが可能な茶釜ブンブクの上位個体だ」

 …ずいぶん失敬なものの言い方である。

 確かに僕ってチャクラ少ないけどさ。

 …ってか、絶対にこいつ、僕を挑発してるな。

 一体何の為に僕を怒らせようとしてるんだか。

 ならば、だ。

「誰が上位個体だって?

 貧相な見てくれしてるくせに」

「…ボクと上背が変わんないくせして何を言っている?」

「貧相じゃん。

 上位個体だってんならもっとかっこよくなったらどうなんだよ?

 せめてガイ師匠のタイツが似合うくらいになってからそういうのは言えってんだい」

「…それ、は」

 やっぱり基本的な嗜好とかは変わってなかったか。

 洗脳(ブレインウォッシュ)は人格を削ぎ落す方法で、知識や経験を削ぎ落しては意味がない。

 よし詰まった!

 畳みこむ!

「ちび」

 …自分が言われたくない言葉をぶつけてみようか。

 まあ、ブーメランなんだけどね。

「…ガキ」

「たれ目」

「…おさんどん」

 あうちっ!

 くっ奴めやりよるわ!

「器用貧乏!」

「…ブラコン!」

「誰がブラコンだ! どう見ても君じゃん!

 いくらなんでもあれはじいちゃんでしょ!?」

「…兄さんを侮辱するのは許さない!

 ブラコンはどう見てもキミ」

「うっさいよ!?

 貧相!」

「お前が貧相。

 ボクはチャクラに溢れてる。

 あと、成長すればないすばでぃになる筈」

「溢れてたって使いこなせなきゃ意味無いじゃん!

 使いこなせてるってばよ?

 てかないすばでぃってなにさ!?

 マッチョならともかく」

「ボクは女の子だ。

 お前失礼」

 …は?

 ええっと、僕は男であれは女の子で。

 …まあそおいう事もあるのかね?

「ま、まあそれはともかく!」

「ともかくじゃない」

「ともかく!

 どうせ使いこなせてるはずがない!」

「できてるもん。

 ばーかばーか!」

「絶対に嘘だね。

 僕だったら使いこなせない自信あるってばよ!」

「そんな自信は狸に喰わせると良い。

 ってかさっきから言ってるのはブーメラン!」

「そりゃこっちの台詞じゃん!?」

 睨みあう僕達。

 そして。

 

 ごっ!!

 

 …ぅおおぉ、目に火花が散った。

 僕達の頭にダブル拳骨を振り下ろした雷影さまがお怒りの表情を浮かべてました。

「で、お前らはここで漫才を見せに来たのか、ん?」 

 いや、そうではなくてですね。

「さっさと話しを進めるんじゃぜ。

 そっちだって暇じゃあ無かろうに。

 要件は降伏だけか?

 んなら答えはきまっとる。

 (いな)、じゃぜ」

 まあそうでしょうね。

「理解不能。

 連合軍に勝ち目はないと言うのに。

 そちらの尾獣はそれぞれ個別に存在する。

 こちらの尾獣はひとまとめにしているから総量は2倍でも引き出せる力は6倍。

 これだけの力を受ければ、尾獣はともかくちんけな力しか持たない忍と言う個体は跡かたもなく消し飛ぶのみ。

 それを解消できるだけの策もなく、尾獣の人柱力を封じて戦うのは愚の骨頂。

 それは分かっている筈」

 うん、わざとらしいね。

「えっとさ、挑発はもう良いんじゃないかな」

 ボクはそう言って五影さまとイリヤの間に割り込んだ。

「坊や、それはどういう意味かしら?」

 やたらと色っぽい水影さまがそういう。

 それに返答をしようとして、

「…この目的は、ブンブク、お前、だな」

 風影さま、我愛羅さんがそう言いました。

 多分当たり。

 どうなのよ、と僕はイリヤを見ます。

 かれ、じゃなくて彼女はひょい、と肩を竦めました。

「? どういう意味じゃぜ、風影の?」

 土影さまはそう我愛羅さんに聞いていました。

 土影さまは僕を理解する程のお付き合いはない。

 水影さまも同様。

 ちなみに綱手さまと雷影さまは我愛羅さんの言葉に頷いていた。

「分かんないかい、土影。

 このイリヤとか言う奴は、茶釜ブンブクっていう優秀な連絡役に、瑕疵(かし)を付けに来たのさ」

 綱手さまがそういう。

 ま、

「そういう事。

 ボクがこの場にこうしていることで、茶釜ブンブクはその存在を疑われる。

 暁の間諜である、と。

 そうすることでその動きを制限し、イレギュラーをこれ以上発生させないようにする」

 なるほど、僕はイレギュラーですか。

 そしてそれを明言する事によって僕が深読みをし、行動の幅を制限したい、と向こうのうちはマダラさん(仮)は考えてらっしゃる、と。

「ふん、ならばここでこのイリヤとやらを潰しちまえばいいだけの話だろ」

 ボキボキと拳を鳴らしながら綱手さまが拳骨を構えますが、

「無駄。

 ここは先ほど通信中継忍術に割り込んだ際に出来た擬似的な空間。

 ここで殴られ、死んだとしてもそれは意識の一部がそう誤認をしたと言うだけの事。

 ボクの様に創られた存在にとっては大したダメージとはならない。

 むしろこの空間で暴れる事でシステムに負荷が掛かり、ダメージを受けるのはこの術を構築している山中いのいち他の感知型忍者のみ」

 綱手さまはびきりと顔をひきつらせ、動きを止めた。

「火影様、相手の煽りに乗ってはいけませんよ。

 確かにあれはブンブク君のやり方だね。

 大物喰いの時の彼にそっくりだよ」

 首を竦めながらカカシ代行がそう言いました。

 よく調べてますよね。

 この人、ぐーたらかと思いきや、いろいろ細かく調査する人でした。

 まあ、そうでなかったら火影代行とかできないでしょうし、そもそも生き残れなかったでしょうしね。

 なお、イチャパラをいつも読んでるのは、単純に趣味のようでした、余裕の表れとか、相手に隙を作る為とかじゃないそうです。

 カカシ代行は、能天気な振りをしつつ、イリヤを警戒しています。

 僕が分かるって事は、あいつも分かってるって事だろうし、…やりづらいなあ。

「…確かに茶釜ブンブクの動きを封じる意味もある。

 しかし、同時に先ほど言った降伏勧告も重要。

 戦いは兄さんの負担になる。

 この戦争は確実に兄さんの寿命を削る。

 故に、出来るならば降伏して欲しかった、それだけ。

 承諾出来ない、と言うのであれば、全力で蹂躙するだけのこと」

 イリヤは無表情にそう言いました。

 …感情が希薄っぽいな。

 ってことは、ある意味戦うと結構めんどい相手になりそうだ。

 感情の揺れが少ないって事は、挑発なんかの感情に訴える策が使えないって事だしね。

 それは僕の戦い方を大きく狭める事になる。

 出来れば直接やりあうのは避けたいところだけど…。

「『僕』はボクが殺す。

 1つ言っておこう。

 今の暁の中で2番目に強い者達を束ねているのはボクだ。

 ボクを殺さない限り彼ら、我が精鋭たる『聖杯八使徒』を止める事は出来ない。

 彼らはボクの忠実な(しもべ)であり、最強の武器だ。

 彼らを止めたければボクを殺しに来る事だ。

 ボクは全力で逃げ隠れする。

 それに追いつけるのはブンブク、『僕』だけだ。

 もちろん『僕』に精鋭を付けてくれても良い、その方が好都合だ」

 そうだろうね、その分戦力が削れるんだから。

 正直言って、戦力になる上忍を遊ばせておく余裕があるとは思えないんだよね。

 そこまで分かっていて、こうやってふっかけて来てるんだろうしなあ。

 僕と離れた時期から彼、じゃなくて彼女か、は僕とはまた違う経験を積んでる。

 それが、彼女の「策」に僕とは違う色を付けているんだろう。

 この違いが勝敗を分けるかもしれない、と思うとぞっとする。

 もちろん、向こうは向こうで別れてからの僕の経験を恐れてるんだろう。

 …良いだろう、付き合ってやろうじゃないか。

 そう腹を決めると、僕は「ボク」を睨みつけた。

 彼女も僕を睨みつける。

「では、明日、兄さんが開戦を宣言する。

 そうなればもはや後戻りはできない。

 滅びてから悔いる事の無い様に」

 そうイリヤは毒づき、そして僕達の意識は解放されたのでした。

 

 ボクはその後、カカシ代行に呼び出されました。

「あんまり勝手に動かないでね~。

 タダでさえ好き勝手動きそうな人たちがいるんで、さ」

 ああ、兄ちゃんたち人柱力の人たちですね。

 でもあの人たちなら、向こうにヤマト上忍行ってるんですから、大丈夫なんじゃないですかね、いざとなれば木遁で抑え込めるでしょうし。

 …ん? なんか顔色が変わったような?

「これは特秘事項だ」

 カカシ代行の雰囲気が変わりました。

「ヤマトが敵に捕えられた」

 は?

 あの「木遁」のヤマト上忍がですか!?

 あの人にかかれば兄ちゃんたちですら1対1なら分が悪いってのに。

 ボクの知る限りじゃヤマト上忍とまともに戦えそうなのは角都さんとか範囲攻撃を得意とする殲滅型の戦闘をする上忍にガイ師匠とか、カカシ代行とか位なんだけど。

 一体どんな奴がヤマト上忍を倒したっていうんでしょうか。

「ああ、それなんだけどさ」

 カカシ代行の言った事が、僕には理解できなかった。

 ヤマト上忍は、

 

 騎馬武者、

 

 に負けたのだ、と。

 …いや、騎馬武者って、何時の時代の話ですか?

 今の時代、馬は個人の移動手段としてしか使われてません。

 国家間の関係が安定して来たんで、道が整備され、そのおかげで荷馬車なんかは発達しつつありますけどね。

 昔みたいに鎧を着こんで槍を構え、馬に乗って突進とかは忍術のせいで時代遅れになってます。

 その為に、馬を扱うのは極一部の秘伝忍術を使う一族か、口寄せで忍馬とか使う人たちに限られてます。

 そういう人たちにしても、甲冑を着込む事はしないですねえ。

 甲冑を着込むのは鉄の国の侍くらいですからして。

 より詳しい話を聞くと、

 

 深紅の馬に乗った奇妙な長柄の武器を構えた武人、

 

 だったそうです。

 鎧はどうやら革か布に金属の板を重ねたやつを縫いつけたもの。

 長柄の武器は蛇みたいにうねった刃を持つ長刀みたいなもののようです。

 僕の知識の中だと、

「なんか呂布みたいですね」

 そう、僕の知識の中にある、この世界に無い歴史の中にいた猛将の1人。

 でも、あくまで一般人レベルの話。

「う~ん、そうですね、僕の知ってる話だと、百歩離れた所から槍の要を弓で射抜いた、とかする人ですけど、それ位なら上忍のみなさんって出来ません?」

 そうなんだよね、それが凄いって言えるのは「一般人」での話だ。

 忍だとそう珍しい腕では無かったりする。

 普通に、投げた手裏剣が岩に突き立ったりするし、ちなみに僕は出来ません。

 それを考えると、それっぽい見てくれをした人、ってだけな気がするし。

 …イリヤが言ってた精鋭の1人である事に間違いはないだろうなあ。

 って事は、ヤマト上忍を手玉に取るようなのが後7人いるって事だよなあ。

 …やっぱりイリヤは僕がやるしか、無い、かな。

 カカシ代行に「無理はしませんよお」と言いつつ、僕は腹の中で覚悟を決めるのでした。

 

 

 

 閑話 ある科学者の日記

 

 汎銀河歴 …年 ○月 ▽日(記録が汚損しており、解読不可能)

 

 惑星…(破損しており解読不可能)を脱出して25年。

 私以外の者達は助かっただろうか。

 生命が存在する可能性を予測し、空間跳躍から亜光速飛行を駆使してやっと辿り着いた恒星系だ。

 改めて計算すると、第3惑星が最も生命存在に適した軌道と重量を持っていることが予測できた。

 残念ながら、人体冷凍保存装置(コールドスリープ)から目覚める事が出来たのは私のみ。

 ここからどう人類を再生していくかが私の使命であろう。

 不安と共に期待が体を震わせる。

 

 

 

 …………年………日(破損しており解読不能)

 

 大きな発見があった。

 この惑星には空気があったのだ。

 比率は窒素約8割に酸素が約2割、その他の成分が若干。

 それは、この星にかつて我々の世界と酷似した生命が存在したことを示していた。

 重力はほぼ1G。

 我々の生存にとても好都合である事も分かっている。

 しかし、この世界には異常な所があった。

 水もある。

 空気もある。

 しかし、生命の存在は微生物すら存在していなかった。

 このまま調査を続行することにし、…(以下、汚損しており解読不可能)

 

 

  

 …………年 ▼月 …日

 

 驚愕の事実だ。

 この星に、「チャクラ」が存在する事が分かった。

 この惑星の極点、そこにはグロテスクなオブジェが存在した。

 まるで石で出来た巨大の樹木にも見える。

 私が見た所、犬科の四足獣、霊長類、偶蹄目、軟体動物、昆虫などが凝り固まって木の枝の様に融合しているようにも見える。

 間違いない、これは「チャクラ」の結晶化現象だ。

 チャクラの存在する場所にある、全生命体を取り込んでまるで化石の如く石化する現象。

 驚くべき事に、この状態になってすら、ここにある生命体は「生きている」のである。

 汎銀河連邦の法令に従って特定周波数での通信を周囲に流す事にする。

 運が良ければ連邦の生き残りがこの通信を拾って救助に来てくれるかもしれない。

 多少、いや、組織の全力を使ったとしても、チャクラの価値を分かっているのならば私を回収しに来る筈だ。

 それまでに…(以下、損壊しており解読不能)

 

 

 

 …○×…年 △月 ■日

 

 全能感を感じる。

 これが「チャクラ」の凝縮された「神樹の実」を取り込んだ、その結果なのか。

 素晴らしい。

 これならば、コールドスリープから目覚める事無く死んでいった同胞たちの遺伝子から「人類」を再生する事も、遺伝子情報を選別をし、この世界の生命と掛け合わせる事で「地球の生物」を復活させる事も可能だろう。

 一度失った我らが故郷「地球」。

 それを再誕する事が可能になる筈だ。

 私はここでこの世界の神となろう。

 今度こそ、人類は失敗する事無く存続し続ける事が可能になる筈だ。

 

 

 

 ここで記録は途切れている。

 

 

 

 この力、誰にも渡さぬ。

 この力は我のモノ。

 我が子らにも、いずれ来るであろう同胞にも、決して渡さぬ。




次回の更新は来週後半になります。

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