実際は長くなった部分を2つに分けただけなのですが。
出戻り
ども、たった今雨隠れの里経由で帰って来た茶釜ブンブクです。
何とか小南さんは無事でした。
色々手を打っておいたかいがあったというものです。
さて、僕の目の前には。
「…やってくれたものだな、ブンブク」
睨みつける、というか恨めしげな山中フーさん、油女トルネさんと。
黒髪の、大体50前後の壮年の男性が居ます。
この方、志村ダンゾウさまです。
…ええ、勿論ダンゾウさまはお亡くなりになってますよ、うん。
ただね、今、「根」は第4次忍界大戦の準備を整えつつ、その再編成をしなくちゃいけない訳です。
なのに、僕は火影様代行のはたけカカシ上忍、カカシさまの命令で散々あっちこっち飛び回って、なんにも出来てません。
なんで、その戦力差を埋めるためにですね、音隠れの里のカブトさんにお願いしておいた訳です。
…志村ダンゾウさまを「口寄せ・穢土転生」で呼んでもらう事を。
ダンゾウさまの血液は僕が持っていましたし、素体となる
なんでも大蛇丸さんが戻って来た時にはそれを体として使ってもらえるよう、科学者のみなさんとで作成したとか。
いやあ、大蛇丸さん愛されてますねえ。
それはともかく、僕があっちこっちをすっ飛んでいる間にカブトさんは依頼をこなしてくれていたようです。
で、僕が帰ってみると、「根」の再編成は既に終了、ダンゾウさまは別のお仕事をなさっていたとの事です。
若干若返っている為に、暗部の面をつけてお仕事をされていると御意見番の方々以外はなかなか気がつかなかったそうで。
…一見普通なんですけど、上忍さんたちの動きがおかしいのはそれが関係しているんでしょうか?
さて、一体何がどうなっているのか…。
「ほう、余所見とはいい度胸をしている」
いえ、何でもありません!
僕は板の間に正座で座らせられつつ、3人がかりのお説教を受ける羽目になったのでした。
僕がダンゾウさまとフーさん、トルネさんたちからお説教を受けた後に、ダンゾウさまが言いだしました。
「時にブンブクよ」
「はい」
「まあ良い知らせと悪い知らせ、途方もなく悪い知らせがある。
どちらから聞く?」
…何とも答えようがありませんが。
「んじゃあまあ良い知らせ、からよろしくお願いします」
そして僕は。
「うちはと千手、2つの血筋の者全てに簡単なものではあるが特定条件下で暗示にかかりやすくなるような幻術が仕掛けられていた」事に関しての情報を聞く事になったのです。
詳しくお伺いすると、
一、拷問尋問班の調査によって、「うちはと千手の血族に連なるもの全て」に上記の様な幻術が仕掛けられていることが判明した。
一、一族の根幹にかかわる様なチャクラの流れそのものに組み込まれた術である。
一、解除するのはかなり難しいが、効果を押さえて無効化するのは難しくない。
との事でした。
ほっと一安心です。
いきなり綱手さまが操られて暴走って事になったら、…怖っ!?
洒落になりませんって。
しかし、これで。
「…『介入者』の存在が一気に真実味を帯びてきちゃいましたねえ…」
僕のボヤキにダンゾウさまが頷く。
しかも、この流れだと、
「うちはと千手、2つの一族の成り立ちから介入者が動いたいた可能性がある、という事だな」
ダンゾウさまの言う通り、うちはマダラさんどころか、その更に前から何者かが動いていたという可能性がある訳で。
という事は、ですよ。
この「木の葉隠れの里」の成り立ち、いや、忍五大里の成り立ちにすらその人たちは介入しているってことですかね?
これは…。
「ダンゾウさま、これを」
僕は紙の束を取り出してダンゾウさまに渡した。
「これは?」
「…各忍里において起きた事件の当事者、もしくは近しい者たちから問った調書です。
雨隠れでは『山椒魚の半蔵』の変遷、雲隠れからは『日向事件』についてのあの当時の人の動き、霧隠れからは四代目水影・やぐらの変遷について、岩隠れからは第三次忍界大戦の時の動きについてとなっています。
これに関しても奇妙な所が色々ありましたんで、精査の必要があるかと」
僕の手渡した書類を、異様な光彩となった目でダンゾウさまは眺め、
「今日中にまとめろ。
できるな」
結構な無茶ぶりをしてくれました。
その内僕って過労死するんじゃないかしらん。
まあ、里にみなさんには、ある程度僕のフォーマットに合わせてまとめておいて貰っているから難しくはないんですけどね。
いざとなれば、
「そ~らにっ! そびえるっ! く~ろがねのっしろぅっ!」
何ぞと歌いながら、さくさくと書類を整理していく僕。
…まあ、小技を使ってる訳ですけど。
今回の小技は僕の左肩にあります。
僕は自分の左肩を「金遁・部分什器変化」で茶釜にしているんですよ。
で、茶釜部分にしまっていた
「
「ふむ、良い。
岩隠れの分はもうすぐ終わるな」
なんか憑きものが落ちたみたいに、あの粘っこい雰囲気が取れた大蛇丸さんが、僕の肩から
大蛇丸さんは僕の茶釜の中におりまして、そこから首とチャクラ糸のみを出して書類の整理を手伝ってもらってるんですよ。
…間違ってもダーリンとか呼ばれたくはないんですが。
「呼んでやろうか?」
勘弁して下さい。
「しかし、『介入者』とは面白い概念だ…」
大蛇丸さんがそう言います。
あれ? 僕、その話を大蛇丸さんにしたっけ?
「…お前の中にしまってある『ヒルゼン狸夜話』に一通り目を通したからな」
なるほど、そう言う事ですか。
そもそも介入者なんて言う概念は、猿飛ヒルゼンさまが今言った「ヒルゼン狸夜話」っていう本の中で言っている事でして。
そもそも「介入者」っていうのは歴史の転換点にはまるで誰かが介入したように劇的に世界が動いていく、って意味合いでヒルゼンさまが付けた概念です。
うちはマダラさんと千手柱間さまの出会いなんて、忍界の歴史が変わる様な、
「でしょ。
物語としては、面白いんですよねえ…」
ほんとに物語としては、だ。
「…現実にいるとしたら、これは厄介だな」
「そゆことです」
軽口をたたきながらも、僕も大蛇丸さんもその手は止まらない。
ひたすらに読み込んだ書類から要点を書き出していく。
「…こう読み込んでいくと、もしも介入者が居るのなら、その意図は、分かるか?」
大蛇丸さんがそう質問をぶつけてきます。
それがなあ、確かに「介入者」の糸がなあ、ただ戦いを長引かせてるとしか思えないんだよなあ。
第3次忍界大戦と呼ばれる戦乱が終わって、大体10年くらいかな?
忍里の制度が出来あがってから大体60年ちょっとだと思ったけど、その間に忍界では3回の大規模な戦乱が起きてる。
なんて言うか、ひたすら消耗戦、って感じだ。
よくもまあ忍界って衰退しないなあとか思ったり。
「かなりのペースで人材が死んでますからね。
よく忍界って形を保ってるなあと思ってみたりするんですけど」
僕のぼやきに、
「それは多分逆」
そう、大蛇丸さんは言った。
「は? いや、これじゃ有益な人材がバタバタ死んで行っちゃうじゃないですか!?
思いっきり損でしょ?」
僕はそう思うんだけど。
大蛇丸さんはそう考えなかったみたいだ。
「戦争ってね、人を鍛えるのよ。
もちろん疲弊はしていくのは間違いないわ。
でもね、その中から、古くは千手柱間、うちはマダラ、の2英傑、岩隠れのオオノキや、元・暁の角都なんか。
若い世代を見ても、はたけカカシやマイト・ガイ、砂隠れの赤砂のサソリ、バキなんかもそうね」
大蛇丸さんはそう淡々と、でもどこか嬉しそうに言う。
この人、こう言った自分の興味のある事には熱が入るみたいで、その時にはこういったどこか女性的な、そしてぬめっとした粘着質な話し方になるんだよなあ。
ちょっと怖い。
「つまり、介入者がいるとしたら、その目的は…」
その僕の言葉に、
「『忍術』の技術の発展、という事か、大蛇丸」
いつの間にか傍に来ていた、ダンゾウさまがそう言った。
ダンゾウさまと大蛇丸さんは僕をはさんでにらみ合った。
お願いだから僕を間に置くのはやめてほしい、おっかないから。
暫しにらみ合って、お2人はニヤリ、というのがふさわしい笑いを浮かべた。
なおさらおっかなくなった。
「ずいぶん若造りじゃない、ダンゾウ」
「ふん、死者に世辞など必要ない。
こちらが知りたいのはお前の考えだ、続きを話せ」
ダンゾウさまは端的にそう言った。
確かに、ダンゾウさまも僕も、忍としては「忍術使い」、つまりはあるものを使っていくタイプだし、里への関わりは「官僚」、つまりは火影様の意向を受けて役人をとりまわすのが役目だったりする。
対して大蛇丸さんは忍としては「忍術学者」、つまりは術を開発する立場の人だし、里への関わりは「政治家」、つまりは自分がトップで、下にいる僕たちみたいな官僚や、その下にいる役人に己の決めた方針で仕事をさせる人だ。
僕らとは見方が違うんだよね。
その違った視点というのが大事な訳でさ。
同じ「介入者」としての陰謀のたくらみ方もダンゾウさまと大蛇丸さんでは違う。
ならば、僕たちじゃ見えないものも大蛇丸さんには見えるんじゃないだろうか、という事な訳ですよ。
それが今の「忍術の発展」なんでしょうかね?
「そう、忍術の発展。
忍術に限らず、技術は戦乱とその間の平和によって培われる。
戦乱により必要に迫られ、そして平和の間にその技術が革新、成立する。
ここまでは分かる?」
まあそれは。
でもそうなると、
「2代目さまって凄かったんですねえ。
あの方が術を編み出したのって戦乱の最中でしょ?
ほれ、ダンゾウさまにも使われてる『穢土転生』とか。
まあカブトさんは本当に2代目さまが開発した術なのかどうか疑わしいって言ってましたけど」
「だろうな。
アイツに残してある資料から読み解けばそうなる。
それはワタシの推論でもあるから」
僕と大蛇丸さんが言っているのを聞いて、ダンゾウさまは眉を顰めている。
まあそうだろうなあ、ダンゾウさまにとって2代目さまはお師匠さんだしね。
その人が、何らかの影響を受けていた可能性がある、と言われるのは心苦しいのだろう。
「千手とうちはには細工がしてあった。
それを利用された可能性は否定できんだろう。
千手とうちは、そして
この木の葉隠れの里にこれだけの者が集められたのだ、何かあると考えない方がおかしいだろうに」
そう、日向。
ダンゾウさまの言っていた「悪い知らせ」ってのは日向に関してだったんですよ。
うちはの人たちに仕掛けられていた細工。
あれと同じようなものが実は日向の人達にも仕掛けられていたことが、僕のいない間に発覚してまして。
そっちの処置をするのに拷問尋問班と医療忍者の人達はてんてこ舞いだそうです。
それを考えると、木の葉隠れ、というか忍五大里の成り立ち自体も作為的に思えますからね。
忍3大瞳術のうち、写輪眼と白眼の血族、そして木遁の千手。
一見強い者達が集まってより強い力になっただけ、とも見えますけど、そこに何らかの介入がなされていたとしたら。
そしてその目的が「忍術の発展」だったとしたら。
…もしかして。
「この第4次忍界大戦とでも言うべき、暁との戦いは、茶釜ブンブク、お前が引き金を引いたのかもしれないわねえ」
にやり、と大蛇丸さんが微笑んだ。
その夜です。
ダンゾウさまは、一通りのお仕事を終えると、封印術でお休みになる事になりました。
相手方に穢土転生で操られる事の無い様に、と。
「後は頼むぞ」
そうダンゾウさまは僕、フーさん、トルネさんに言い含めると封印術の巻物に吸い込まれていきました。
僕はまた明日から任務で方々を飛び回る事になりますしね。
今日だけなのですよ、ゆっくりと出来るのは。
…なんか、洒落にならないブラックな職場環境です。
考えてみるとひどいもんですよね、忍って。
就職は10代どころか一桁代から。
お休みなんて碌に貰えず、…え? それは僕だけ?
解せぬ。
若干夜は冷え込んできてます。
僕は火影の顔岩を下から望む講演で、綺麗な月を見上げながら玉露で一杯やってました。
本当はお酒なんでしょうけどね、僕はまだ未成年なもんで。
…ふう。
さすがに、ちょっと疲れた気がします。
かと言って、眠れないしなあ…。
なんて考えていた時です。
「何をたそがれているか、未熟者め」
「…悩むならば、やらなければいいものを、1人で抱え込むからだ」
やって来たのは、フーさんとトルネさんです。
2人は僕の脇まで来ると、どっかりと座りこみました。
そして僕の持って来たつまみを食べ始めます。
…あんまし多くないんですから、そんなに食べないで下さいよ。
「ふん、辛気臭い顔をしながら月見をしてるからだ。
どうせ封印術でつまみなど大量に仕込んであるんだろうが。
出せ」
そう言い張るのはフーさん。
まあ良いんですけどね。
即席バンバンジーと塩辛、野菜のスティックくらいしか用意できませんからね。
「…それだけ即座に用意できるお前に呆れるな」
そう言いつつ食う気満々ですね、トルネさん。
「…当然だ。
食える時に食うのは忍としての常識だろうに」
後輩にたからんでください。
ただでさえ、僕の戦い方は消耗品が多いんですから、辛味抽出液とか化けイタチの臭腺とか、高揮発性燃料とか。
あ。
「そうだ、フーさん、燃料代お願いしますよ。
きちんと補給しとかないと、そろそろ高速飛行が出来なくなりそうなんですから」
それを言うと、フーさんは渋い顔をした。
「ああ、それな。
どうも、代行は金銭的にルーズらしくてな、なかなか予算を回さんのだ、周囲の連中が」
…まあ、僕らって信用ないからなあ。
カカシ代行は時間にはルーズだけど、別にお金にもルーズって事はないしなあ。
むしろそこんとこは綱手様の方が駄目っ子だし。
シズネさんがお嫁さんになって離れて行ったらどうするつもりかしらん。
…やっぱり、早いところ自来也さまに元に戻って貰って綱手さまを監視してもらわないとまずいんじゃなかろうか。
一生、ね。
何ぞと僕が逃避をしてたりすると、
ごけん!
目から火花が!?
フーさんの拳骨でした。
「なにすんですか!?」
ほんとに眼から火花が出たかと思いましたよ!
「ほんっとにお前は馬鹿者だなあ…。
1人で悩まんでいい。
オレ達はどうせ1人ではなにも出来んのだ。
ならば悩みや葛藤を抱えるのも皆でやれば良い。
その程度の事が分からんお前じゃあるまい」
「…そうだ。
お前がダンゾウさまを口寄せした事にやましさを覚えている事、気付かん訳がない。
オレ達を甘く見過ぎだ」
…やっぱりそうだよね、これでも3年近くつるんでるんだし。
正直に言えば、やっとお休みになられたダンゾウさまをわざわざ現世に呼び戻すのは、それなりに僕の精神にとっては負担になっていたようだ。
若干挙動不審だったようで、それを心配してフーさんとトルネさんは来てくれたらしい。
「お前にここでおかしくなられては困るからな」
フーさんツンデレだったっけ?
「なんだツンデレとは?」
好意を持った人物に対し、デレッとした態度を取らないように自らを律し、ツンとした態度で天邪鬼として接するって感じの人。
「なるほど、まぁだ調子がおかしいらしいな。
お前の言だと確か斜め45度の角度でチョップを入れると直るんだったかな?」
じょーだんですじょーだん!?
…全くフーさんは感知タイプのくせして暴力症なんだか…
ずびしっ!
で、デコピンはひどいと思うのですよ!?
「やかましい!
年上をからかうなと言ってるんだ、オレは!
まったく…」
フーさんがぷりぷりと怒ってます。
「…まあ、気鬱は収まったようだな。
お前はオレ達の中では貴重なムードメーカーだ。
お前が落ち込んでいるとオレ達も落ち着かない。
そういう事だ」
トルネさんがそう纏めてくれました。
3人で月を見上げながらちょっとした宴会を続けました。
今日のお月さまはちょこっといびつ。
「団子月」と呼ばれたり、「たんこぶ月」と呼ばれる事もある、まあるい月にぽこっと出っ張りがある様にも見える状態です。
お月さまの裏には多分もうちょっと小さなお月さまがあるんでしょう。
それが、月の角度次第で見えたり見えなかったりする、と。
「…兎の神さま、かあ」
僕の言ったひとり言は、どうやらフーさん達に聞こえていたみたいです。
「…忍宗の伝説か、それがどうかしたのか?」
…あれ?
「忍宗にもあるんですか? 兎の神さまの伝説って?」
それは僕も知らなかった。
「ん? なんだ知らなかったのか。
てっきり忍宗の秘伝の方だと思っていたのだが…」
そんなんどうやって知ったんですか?
「まあ、色々あってな」
…諜報活動中って事ですかね。
忍宗とは言え、巨大な組織に違いはないですから。
上に行けばいくほど、腐敗もするでしょうしね。
まあ、忍宗の場合、縦の繋がりってほとんどないですからね、基本的に忍宗寺って横のつながりがメインだし。
おかげで組織力そのものは大したことがないんですよね。
…最も、非常事態の時や戦乱の世に於いては一般大衆を守ることが出来るのは宗教だけの場合も多いんですけどね、逆に食い物にする場合もありますけど。
そっちの逸話だと、どうやら「兎の神さま」は悪役っぽいですね。
世界を支配しようとした悪い神さまを、六道仙人が懲らしめて月に封印した、と。
僕の知っているのは、鬼子母一族の
月からやって来た兎の神さまは、あんまりにも人々が争うのを見て嫌になり、月に帰っちゃうって話。
忍宗の話、そして五馬の話に共通するのは兎の神さまってことでしょうか。
後は、「月にいる」ってことか。
…うがった見方をすれば、忍宗と対立する組織との抗争があったって感じになるのだろうか。
そういう話なら、「介入者」の組織の前身がその連中って考えても面白いかも。
ま、あり得ないけどね。
なんとなれば、介入者は多分少数だ。
巨大な組織なんてのは大きくなればなるほどざるみたいに情報が漏れてくる。
情報を扱い、それを盗み出してくるプロフェッショナルの忍に勘付かれない、なんて事はあり得ない。
途轍もなくうまくやっていたペインさんですらそれは出来なかった。
由良さんを操っていたサソリさんの場合は彼個人のネットワークだった訳だし、それですらカブトさんの裏切りであっさり見破られてしまっている。
噂話レベルにすら登らない、水を漏らさぬ情報統制なんて、まずあり得ないのだ。
故に、よほどしっかりしたセキュリティを持つ、数人からせいぜい10人程度の組織でなければまず僕らに気取られない、なんて事はあり得ないのだ。
僕はその時、真実に最も近く、そして致命的に間違った答えを出していた。
この時、もう少しでも情報があれば、また違った道があったのかもしれない、そう思う日が来るのかもしれない。
「さて、後は…」
僕がぽつりと呟くと、
「
フーさんが険しい目をした。
「…確かに、途方もなく厄介な話だったな」
トルネさんも、目元は覆面で見えないものの、同じような目をしているのだろう、って予想がつく。
僕もそうだからだ。
ダンゾウさまが封印を受ける前に言った、「途方もなく悪い知らせ」に関してです。
本当に悪い知らせでしたともさ。
もう特大の。
「カブトの言によれば、だ。
ワシと共に、ヒルゼンも奴は呼ぶつもりだったらしい…」
…僕の背中にぞくぞくっとした寒気が襲いました。
これは特大の厄ネタですよ。
「ヤツを口寄せは出来なかったそうだ。
つまり…」
誰かに呼ばれている、という事。
…3代目火影・猿飛ヒルゼンさま。
それだけじゃない。
その場合、敵には「口寄せ・穢土転生」を使える術者が居ると言う事で。
そして尾獣という桁外れのチャクラを持つものがエネルギータンク代わりに捕まっている、と。
これまずいよね。
穢土転生を使える大蛇丸さんは、ここ20年から30年ほどの死亡した優秀な忍の体の一部とかを、買い取ったり盗み出したりしていた、というのは本人からも聞いてますし、カブトさんも知らない様な研究施設のいくつかが荒らされているのも確認済みだそうです。
有名どころだと歴代の各影の体とか。
下手をすると…、
「卓越した術者である先々代の水影や、体術最強と謳われた先代雷影が敵になる可能性がある、という事だな」
そうなんですよ、フーさん。
ゾンビの集団ですか、ぞっとしないですねえ。
それに、その人たちの懇意にしていた人たちはどう思うんだか。
「…それが穢土転生の強みだからな」
まあ、そうなんですけどね。
それに、実際に「穢土転生」を受けて復活したダンゾウ様からもたらされた情報。
それは穢土転生の重大な欠陥を露呈していました。
「…うむ。
発見次第、早急に対処しなければならない。
どれをとっても自分たち以上の格の相手なのだがな…」
ほんとに。
僕なんて遅滞戦術が基本なのに、それが使えないって事ですからね。
正直言って不安です。
「そうもいってられんだろう。
ダンゾウ様はオレ達に託す、と言ってくださったんだからな」
「…うむ。
ここで引く訳にもいかないだろう」
そうなんですよね、御2人の言う通りで。
ダンゾウさまは、封印を受ける直前に僕らに言った。
「お前たちなれば、やれる筈だ。
我が息子達よ」
と。
ならば、やってのけるしかないでしょう!
僕達は顔を見合わせました。
「明日から、最後の追い込みだ。
万全を期して、奴らを叩く!
いいな!」
フーさんがすっと拳を突きだしました。
それに僕とトルネさんが、
こつん、
と、拳を打ち合わせます。
それが、「新生・根」の初めての脈動だったのかもしれません。
ブンブクとイリヤ、双方ともにずいぶんかけ離れた存在になっていますが、本質部分は同じです。