NARUTO 狐狸忍法帖   作:黒羆屋

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なんとか完成。
書くべき内容が増えてしまったので小南対トビは次回に回します。


第105話

 茶釜ブンブクのブラタヌキ

 

「…では、雨隠れの里も忍連合軍に参加していただける、と言う事で」

 ども、茶釜ブンブクです。

 僕が来たのは雨隠れの里の小南さんの所。

 うちはマダラさん(偽?)が指定した決戦の日時があと2週間ほどに迫っている昨今。

 僕は火影代行のはたけカカシさん、と言うよりも忍5大里の意向を受けて5大国内に無数に存在する中小の忍里、有力な一族の方々の元を訪ねて忍界大戦への参戦をご依頼ている真っ最中です。

 正直に言いまして、どれだけ戦力を集めても足りない、という事はないでしょう。

 一体どうやってマダラさん(偽?)が戦力を集めるかは知りませんが、あの「外道魔像」に蓄えられた尾獣のチャクラのみで戦うとは思えません。

 なんとなれば、尾獣のチャクラはあの人が目的としている「月の眼計画」の(きも)な訳ですよね。

 ならば、イタズラに戦力として使ってその力を削るのは不確定要素を広げるだけです。

 その辺り、計算していないとは思えないのですよ。

 故に、計画を発動するまでに時間を稼ぐ、開戦時期を定めたのはそういう意図もあると思われるんですよね。

 ですから、どこかから戦力を持ってくる筈。

 口寄せで大量の召喚をするのか、それとも外国(とつくに)から戦力を持って来ている真っ最中なのか。

 それを考えるとさすがに忍5大里だけだと手が足りないんじゃなかろうかと思う訳ですよ。

 で、各小里に渡りをつけて、彼らとの取引して向こうの要求をある程度飲むことで戦いに参戦していただく、と。

 …因果なもんですけどね。

 こちらの要求は、結局の所命のやり取りに向こうを巻き込む事ですから。

 相手からしたらマダラさん(偽?)の目論見が上手く言ったとしても死ぬわけじゃないですからね。

 で、連合軍が勝てば今までと変わらず丸儲け、と。

 それを、条件を出したり脅しすかししたりして参戦に持っていくのが僕の役割です。

 まあ風の国周辺は楽なんですよ、なにせ小さい一族ってほとんどいないですから。

 砂漠っていう過酷な環境下では、忍といえどもがっちしと協力しないと生きていけませんからね。

 風の国の忍はほぼ全部が砂隠れの傘下に収まってます。

 土の国も似たような感じです。

 あそこの場合は自然災害として雨の様に石が降って来る所ですからね、小さい所はやっぱり連合しないと生きていくのが難しいです。

 なので、僕のお仕事は火の国、雷の国、それからその周辺にある中規模の里に対する大使としてのお仕事になる訳です。

 滝隠れ、音隠れ、湯隠れの中規模としてもそれなりの規模を持つ里の長の方々はいち早く参戦を表明して頂いております。

 まあそうですよね、滝隠れは木の葉、砂と仲良いですし、音隠れは5大里にそれぞれパイプがありますしね。

 意外だったのは湯隠れ。

 様子見するかと思ったんですけどね、今回の連合に食い込むことで、より政治的優位を得ようというんでしょう、流石です。

 あそこはリゾートとしての面が強いですが、同時に医療忍術の開発にも力を入れてますし、継戦能力の向上と言う点においては文句なしに強い、と言えるのですよ。

 この辺り、湯隠れの長の政治的手腕の見事さに感動するばかりです。

 いやあ、陰謀を旨とする「根」に関わるのであればこうありたいものです。

 死人ばかりを出すのはスタイリッシュじゃないと思うんですよね、僕。

 …スタイリッシュとか言うなとか言われそうですが、僕としてはそうありたいんです! ここしばらくずっと泥臭い仕事ばっかりでしたし。

 もっとかっこよくなりたいなあ…。

 それはさておき。

 で、僕は今、雨隠れの里の小南さんの所に来ている訳ですよ。

 小南さんとの交渉に関しては、僕がそれなりの切り札(カード)を用意しました。

 それは。

「…では、この口寄せの巻き物は私が預かると言う事で、協力の対価とします」

 小南さんには忍蝦蟇の方々を起点にした伝手を使いまして、ハンザキ一族の方との口寄せの巻物をお渡しする事が出来ました。

 早速、小南さんが巻物を使用します。

 巻物にその名前を書いて、己の血で五指の血判を押します。

 そうすることで、反裂き一族との口寄せが可能になった訳ですね。

 そして呼び出したのが。

「…う~むう、ワシを呼び出したのがぁ、半蔵を倒したもんだとはぁなあぁ」

 この巨大山椒魚さんの名前は「マスジ」さん。

 かつて「山椒魚の」と呼ばれた雨隠れの里の長、半蔵さんの片腕にして二つ名の由来となった大山椒魚「イブセ」さんの息子さんです。

 イブセさんは半蔵さんと共に討ち死になさったそうですが、その後をマスジさんが継がれたそうで。

 事前に了解を取っていますので、マスジさんも特に小南さんに遺恨はないとの事です。

「私の名は小南。

 今、雨隠れの里を統治している者よ。

 マスジ、で良いのよね、こんごともに宜しく、ね」

「うむう、承ったあぁ」

 上手くいってなにより。

 これで、小南さんの里への影響力はより強くなった筈。

 小南さんは旧「暁」の最後の生き残りですし、そして旧雨隠れの里の半蔵さんのトレードマークだった大山椒魚をその口寄せ動物とした訳です。

 新旧の長のイメージを引き継ぐことで、より新長の権威を強める事がこれで出来たと思うんですよね。

 さて、これでここでのお仕事は終わり、と。

 じゃあ。

「それじゃ、私事(わたくしごと)の方、良いですかね?」

「ああ、雨隠れの古老に昔の話を聞く、というやつだな」

 そうです。

 僕は時間を見つけては各里の昔の話を聞いては纏め、それを3代目火影・猿飛ヒルゼンさまの「ヒルゼン狸夜話」と比較してその整合性を確認しているんです。

 まあ、本当ならそんな暇もない、と言うのが事実なんでしょうけど、今やっとかないと歴史の影に隠れたまんま、と言う事にもなりそうでしたし。

 どうも好奇心がうずくんですよ、なんつって。

 …まあ、実際の所は「介入者」の痕跡を見つける為の「悪魔の証明」みたいなもんなんですけどね。

 ダンゾウさまは介入者の痕跡を見つけた。

 ならば、更にそこから世界への介入の痕跡を見つけることで、介入者の特定が出来るのではないか、と僕は考えていたりする。

 このまんまだと、今度の第四次忍界大戦も、勝つにしろ負けるにしろまた忍界は不安要素を抱えて存続していきかねない。

 それを少なくとも1回は断ち切らないとね。

 

 と言う訳で半日ほど。

 うん、半蔵さんと暁の確執とか、いろいろ興味深いことが聞けました。

 顔半分腫らしてるけど。

 …激昂した里のおじいちゃんにぶん殴られたんですね。

 予想通りと言うかなんというか。

 なにせ、僕はダンゾウ様の後継でもありますし。

 しょうがないのですよ。

 かつての戦いにおいて、僕らの里は雨隠れの里の忍を多く殺しています。

 無論、その逆も然りなんですけど。

 普段は温和な人でも当時の事を思い出させちゃった訳ですしね、向こうも謝ってました。

 僕に当たってもしょうがないのに、って。

 …たぶん、これはうずまき兄ちゃんが体験した道であろうし、多分、今後何度も言われる事なんだと思う。

 木の葉隠れの里は忍里としては最大級を誇ります。

 つまりは、いろんなところから恨みを買ってる可能性が高いんです。

 力があると言う事は、勝つことが多いと言う事。

 勝った時っていうのは末端部分を意外に覚えていないものですけど、負けた時っていうのは反省も含めて色々といつまでも覚えているものです。

 兄ちゃんが火影になるならば、それまでの木の葉隠れのいろんな事、悪行も含めて話し合っていかないといけないのですから。

 まあ、それを思えばこの程度何ともないんですけどね。

 あ、そだ。

 僕は小南さんと長々と話し合っているマスジさんに話しかけました。

「マスジさん、すいませんけど、()()()お願いしますね」

「んん~、承知しておるう」

 マスジさんの言に小南さんが訪ねてきます。

「ブンブク、なんの話かしら?」

「あ、はい。

 ここの所、忍5大国の忍里を中心として、どうもうちはマダラの手の者らしい連中からの襲撃が続いてるみたいなんですよ。

 まあ、雨隠れは規模の割に防衛の範囲が狭めなんで多分大丈夫だとは思うんですけど、一応、ね。

 化け山椒魚の一族は忍蝦蟇と化け蛇の里と連絡の取れる珍しい所なんで、そっちから戦力を借りられるように手配してたんです。

 なんで、万が一があった時は、マスジさん経由で戦える人?たちを融通してもらうようにしておきましたんで、よろしくお願いしますね」

 小南さんは肩をすくめながらも、

「配慮は感謝するわ。

 出来れば頼りたくないものだけど」

 そうお礼を言っていた。

 本当にね、役に立たないと良いんだけど。

 

 

 

 さて、僕が次に来たのはとある廃墟。

 そこの所で僕の待ち人が来ている筈。

 さて、僕が建物に入ると、中は真っ暗。

 日の光も入らないその中で。

 

「ども、ブンブクです」

「いよぉ、ひっさしぶりだなあ、おい」

「そうですねえ。

 お疲れ様です」

「まあ、見事にしてやられたぜえ。

 ガキも侮れねえなぁ」

「ふん。

 くだらん話などどうでも良い。

 さっさと金の話をしろ」

「あい、了解です。

 こっちから提示できるのは…くらいですね」

「安い!

 せめて…くらいは貰わんと元が取れん!」

「とは言え、恩赦の部分がとんでもない金額になってますから。

 いくらなんでも御2人ともやりすぎなんですって」

「ん~、そうかあ?

 大したことねえだろうに」

「全くだ。

 そもそもオレ達は死んだ事になっとろう。

 ならばどれだけでも誤魔化しがきくと…」

「いや無理ですから。

 それに良いんですか?

 ここで一旦指名手配が解除されれば、賞金に関しても正規の報奨金が支払われる事になるんですよ?

 今まで闇商人を通してた為に、どれだけ中抜きされてたんですかね?」

「ぬっ…」

「俺ぁ虐殺が出来りゃそれで良いんだがなあ…、まあこいつにゃ大分世話になってるしなあ、まあ付き合うにはやぶさかじゃねえけどよ。

 それに、だ。

 オレもマダラの言う『夢の世界』は気に入らねえ。

 それじゃあジャシン様にはオレの祈りは届かねえからな」

「…ですよねえ。

 夢で僕を殺しても、ねえ」

「そういうこった。

 分かってんじゃねえかよ、ブンブク」

「ううっ、分かりたくなかった…」

「馬鹿1号、馬鹿2号、漫才はそれくらいにしておけ。

 良いだろう貴様の思惑に乗ってやろう馬鹿2号、有難く思え馬鹿2号」

「…相変わらず絶好調ですね」

「楽しんだのなら金を置いていけ。

 話すのも労力がいるのだ、分かっているだろう。

 …で、手付けは用意してあるのだな」

「はい。

 手付として『手練れの忍の心臓』を用意してきました」

「…確かに受け取ったぞ。

 …ふむ、確かにかなりの実力だったのだな、『志村ダンゾウ』は」

 

 …暫くの後に、彼らとの交渉は成立しました。

 在野にはまだまだ腕利きの忍がいます。

 彼らをスカウトするのも僕のお仕事の1つです。

 彼らの多くは地元で問題を起こして、そこから逃げ出した人たちです。

 そういう人たちを発見し、恩赦を条件に今回の忍界大戦に傭兵、もしくは元の所属として参加してもらうよう交渉するのです。

 もちろんさっきの人達の様に別途請求する方もいらっしゃる訳ですけど。

 そこいら辺は僕の腕の見せ所、と。

 …ダンゾウさま、交渉に使わせていただきました。

 お許し下さいとは言いません。

 あなたならそうするでしょうから。

 

 さて次は、と。

 …なるほど。

 砂隠れの里ですか。

 

 

 

 僕が来たのは砂隠れの里にある特殊牢獄です。

 中には、

「…おい」

 もんの凄い機嫌の悪そうなデイダラさん。

 …帰ろっかな。

「待てっつうの、茶釜ブンブク、うん」 

 いやその…。

「いぢめる?」

「なんでそうなんだよ、うん。

 別にいじめねえよ、うん」

 いやえっらいおっかない顔してたもんで。

「で、あのくそじじぃの方からの条件はなんなんだ、うん?」

 僕が砂隠れの里に来たのは、砂と岩の協定によって今砂隠れに幽閉されているデイダラさんの扱いを決める為です。

 元々岩隠れの里の所属であるデイダラさんは、長である土影さまとの仲がこじれて岩隠れを逐電、「暁」に入る事となりました。

 まあ、土影さまもデイダラさんを気にしていなかった訳ではない様ですし、その実力は買っていたみたいです。

 その為、「暁」の最も有力なスポンサーになっていたっていうのもあるみたいで。

 色々とお孫さんである黒ツチさんにも聞きましたけど、どうも岩隠れに戻って欲しいみたいです。

 …黒ツチさんの願望もかなり入っているようでしたので、お父さんの黄ツチさんとか、同僚の赤ツチさんからも裏を取らせてもらいましたけどね。

 優秀と言うのもあるようですが、デイダラさんは土影さまのお弟子さんであったようなので、弟子に対する複雑な感情が土影さまをこじらせている感じなんですよね。

 おかげでなかなか土影様から譲歩を引き出せません。

 今、岩隠れの方で黒ツチさんを中心に土影さまを説得する為の署名活動とか、上層部への働きかけとかをやっている真っ最中です。

 とは言え、このまんまだと第4次忍界大戦の本戦に間に合わない可能性も十分ありますんで、ここは小技を使おうかと思ってます。

「はい、ちょっとですね、土影様の説得に時間が掛かってまして。

 で、このまんまトビさんとの戦いを牢屋の中、っていうのも嫌でしょ?」

 僕はデイダラさんに聞いてみます。

「そうだな、うん。

 トビにはちっとお灸をすえてやんねえと気が済まねえ、うん」

 やっぱりそうですか。

 それならば。

「どうでしょうね、一時的にウチかどこかに所属する形で成果を上げて、その成果を持って岩隠れに凱旋、って訳にはいきませんかね?」

 デイダラさんは少し考え込み、

「木の葉隠れの里、ってんなら駄目だな、うん。

 これでも岩隠れにいたんだ、あそこと木の葉はまだまだ拗れているからな。

 木の葉隠れの里の所属が岩隠れに戻るのは面倒が多いと思うぞ、うん」

 なるほど。

 んじゃあ、

「『根』ならどうです?

 ウチなら元々『暁』との繋がりもありますし、根としても今回の戦いで成果を出さないと『暁』との関係を今後もねちねち言われる羽目になりますしね」

 デイダラさんは、

「それも良いが、砂はどうなんだ、うん?」

 そう聞いてきました。

「…それもありかも知れませんね」

 僕は考え込みました。

 砂隠れの人たちはサソリさんを見ても分かる通り、敵対していたとしても、有益ならば取り込む貪欲さがあります。

 それに、風影さま、我愛羅さんが認めるのであれば、デイダラさんも受け入れられるかも。

「良いかもしれません。

 ちょっと確認してきましょうか」

「え?

 お前、風影にそんな簡単に会える訳ないだろうが、うん?」

 そですかね。

 まあ、最近偉い人に会うのが当たり前になってきちゃって、そこいら辺の感覚が麻痺してるのかも。

 でもまあ、我愛羅さんなら問題ないと思いますよ。

 今は少しでも戦力が欲しい所ですし、デイダラさんなら1対多の戦いに圧倒的な力を発揮するでしょうから、喜ばれると思いますよ。

「いや、だってよ…」

 多分大丈夫でしょ。

「…あのなあ」

 いや、だって確かに守鶴さんを取り上げる為に我愛羅さんを倒したのはデイダラさんですけどね。

 我愛羅さんはデイダラさんを引き込む事によるメリットをちゃんと考えられる方ですから。

「そういうもんか、うん?」

 そういうもんです、はい。

 

「なんでこんなにあっさり…」

 デイダラさんが呆れています。

 今デイダラさんは牢の中から出て、久し振りの日光を浴びている所です。

 だから言ったじゃないですか。

「我愛羅さんは今回の戦いで忍界のドロドロととした因縁に風穴を開けるつもりなんですよ。

 その一歩として、自分の因縁を解くつもりなんですね。

 デイダラさんを受け入れる事で」

 デイダラさんはまだ首を傾げている。

 まあ、これで忍界連合軍はデイダラさんと言う比類なき忍を味方に付けた訳だ。

 一応僕の仕事も順調ってことなのかな?

 なんて考えてると。

「…さて、と。

 ブンブク、時間あるよな、うん」

 は?

 いやこれから僕は雲隠れまでひとっ飛び行ってこないと…。

「あるよな、うん」

 断定!?

「当然だ、うん。

 オレはイリヤと話してからお前と会うのを楽しみにしてたんだ、うん」

 はあ、ってイリヤって誰?

 …その後、散々質問攻めにされました。

 おかげで砂隠れから雲隠れまで、虎の子の精製燃料を使って一気に飛ぶ羽目になりましたともさ。

 お給金があぁ…。

 フーさん追加経費出してくれるかなあ…。

 

 

 

 やっとのことで、僕は実質的な忍連合軍の長である現雷影・キラーエーさまを訪ねて雲隠れの里にやってきました。

 尾獣の人柱力の人たち、うずまき兄ちゃん、キラービーさん、そして滝隠れのフウさんも雲隠れの領域に避難してます。

 ここで兄ちゃんたちは尾獣の力を引き出すために修行するんだとか。

 …普通に仲良くなるんじゃ駄目なんですかね。

 尾獣と人柱力の関係は僕にはまだよく分かんないもので。

 まあそれはさておき、気を張らないと!

 どーも雷影様苦手なんだよねえ。

 すぐ怒るし。

 あの雷みたいな怒鳴り声どうにかなんないもんか…、

「邪魔だあぁっ!!」

 ごめんなさぁーいっ!

 ってあれ?

 周囲を見回すと、雷影さまが周囲の忍にどなり散らしていた。

「どうなさったんですか?」

 顔を見知った雲隠れの上忍の人に聞いてみると。

「ああ、雲隠れにはいくつか小さい忍里があるんだが、そういうのは揃いも揃って実力者が仕切ってる。

 ところがだ、その1つでよりにもよって長が殺されたらしいのさ。

 その調査に人を送ろうとしたんだがね、よりにもよって雷影様がご自身で行こうとするもんだから」

 ああ、みんなで止めてたのね。

 …どうやら、僕の仕入れた情報が役に立つんではないか、そう思うのです。

 

「…で、殺された方は全身が『細い針の様なもので刺されて』内出血が酷く、『胸部に傷はないのに心臓が鋭い刃物で切り裂かれた』様になっていた、そして」

「うむ。

 そういった異様な死に様であるにも拘らず、相手のチャクラの気配すら残っていない!」

 ごっ!

 雷影さまが振り下ろした拳骨は、机を真っ二つに叩き割りました。

 おっかない…。

 周りの人たちは動揺すらしてません。

 すっかり雷影さまに慣れきっている様子。

 かつての雲隠れの里では雷影さまとビーさんとの激戦としか言いようの無いケンカが絶えなかったとかなんとか。

 しかし、「チャクラの痕跡の無い死体」ねえ…。

 昨今ではまず珍しいでしょうね。

 忍や侍は異常な攻撃力を持ちますが、それはチャクラあっての事。

 で、忍術や剣術、体術ですらその攻撃にはチャクラが使用され、ダメージを与えた相手にはその痕跡が残るものなんです。

 通常では分からないとしても、分析・解析専門の忍が行えばかなりの割合でそういうのは分かる筈なんです。

 チャクラの痕跡が残らない攻撃と言ったら、身体強化にすらほとんどチャクラを使用しないような、僕の中段正拳突きとか、そういうレベルの代物なはずなんですよねえ。

 だから、「体の外部を傷つけず、内臓だけにダメージを与える」なんていうのは、僕の頭の異常知識ですら…、ん?

 そう言えば、小南さんから聞いた連中の中に…。

 あ、あれか、な?

 首を捻りうんうんと唸りだした僕を、周囲の雲隠れの忍さんたちが奇妙な顔で見ています。

「どうした、狸坊主?」

 雷影様がそう声を掛けてきます。

「多分ですけど、小南さん、ああ、雨隠れの今の長様ですね、からの情報で、そういった事をやりそうな相手がいます」

 その言葉に、

「なんだと!?」

 ごがん!

 辛うじて残っていた机が粉々になりました。

 雷影さま、激昂しやすいから…、そういう事、かな?

「落ち着いてください、雷影さま」

「落ち着いてなどいられるか!

 これ以上…」

 その雷影さまの言葉に僕は、

「これは雷影さまを狙ったかく乱戦術です」

 そう言葉を被せた。

「ぬ!?」

 勢いの止まった雷影さま。

 ここは一気にたたみ込むべき。

「周囲の友好的な一族を雲隠れに集結、避難させるべきかと。

 破壊工作員が紛れ込むのは想定の範囲内。

 分かっていれば対処もしやすい筈です。

 そもそも我らは忍。

 諜報と破壊工作、防諜と対暗部(カウンターテロ)は我らの十八番(おはこ)でしょう?

 その心配よりは、忍連合の要たる雷影さまの状態の方が重要かと思いますが如何(いか)に!」

 叩きつけるように言います。

 こういう混乱した時は断言と勢いで押すのが良いようですから。

 と、イルカ先生に教わりましたよ、実地で。

 体術はおっとうとガイ師匠、忍術と幻術はおっとうとイルカ先生、そして交渉なんかに使う人遁はイルカ先生から教わったことが基本だし、その基本を鑑みながらイルカ先生の授業を見ていたのがものすごく役に立ってる。

 こう考えると、僕たちって年を経ったとしてもあんまし変わんないんだなあと思う。

 人の心は複雑になっても根本部分は子どもの頃に出来上がるって本当なんだなあ、と思ってみたり。

 そんな事を考えてると、どうやら雷影さまも落ち着いたみたいだ。

「…ふん、『根』の長、後ろ暗い輩の総大将にそう言われるとはな」

 いやまだ僕は根のトップに立ったわけじゃないんですけどね。

 経理はフーさんに押さえられてるし。

 まあそれはともかく、やっと雷影さまも落ち着いてくれた様子。

 これで僕も報告が出来ると言うものです。

 

「…以上が僕が回った地域での参戦状況になります」

 僕は報告を終えた。

 他の地域を回っている人たちからも、途中で報告書を受け取っていて、それも雲隠れに設置された統合作戦本部に届けてある。

 後はこの報告書を各忍里へ持っていく、のも僕の役割。

 …まあ今の所忍で足が一番早いのが僕だからねえ、やるしかないんだけどさ。

 もうそろそろ開戦日まで10日を切ってる状況だからね。

「…なるほど、これなれば、開戦までに12万は戦力が揃いそうだ」

 凄い数だよね、忍が12万人かあ。

 大体下忍が8割、中忍が1割9分としても上忍が1200人以上。

 …もの凄い戦力だ。

 上忍だけで普通に島とか吹き飛ばせそうだよね。

 でも、それはマダラさん(偽?)も想定してるだろうし。

 どうやって戦力を整えるつもりなのやら。

 僕はこれから忍里をどう回るか考えながら、本部付きの参謀さんたちの話を聞いていた。

 

 

 

 さて、一通り報告が終わって、霧隠れ、岩隠れ、砂隠れと回って、さて木の葉に戻ろうとしていた時だった。

 そして、

 ()()()()()()

 これは…、雨隠れの方角か!

 何があったのか…。

 僕はカモくん経由で木の葉隠れの里に連絡を入れつつ、雨隠れの里の方へと向かうのでした。

 

 

 

 暁 戦力終結

 

 人の噂には一部の真実が混じる。

 よく言われることだ。

 そして、その小さな村にも周辺を縄張りとする行商人から奇妙な噂が耳に入るようになっていた。

 曰く、「墓から死人が起き上がり、どこかへ行ってしまう」と。

 商人は賢しらな表情で、

「ある日、墓に行ってみたら、数日前に埋めた親父、それに、何年も前に埋めたじいさんや婆さんの墓までもがひっくり返されててなあ、遺体がなかったんだと」

 と、まるで怪談でも語るように言った。

 そんな馬鹿な、と若い者達が中心となって墓地に行ってみると。

「…ない」

 この世界、埋葬は土葬だ。

 とは言え、埋めるのには棺桶(文字通り桶)に入れ、体を曲げて埋葬するのが庶民の基本。

 平棺に入れて体を寝かせたまま埋葬するのはそれなりに金のある家である。

 この周辺では桶に入れて土葬するのが基本なのだが、その墓が暴かれ、死体が無くなっている。

 しかも。

「なんかこれ、上から掘ったんじゃなくて、まるで下から持ち上げられた見てえに…」

 若い衆は半分腰を抜かしながら己の家へ逃げ帰った。

 

 それを見ていたものがある。

 白い体躯の異形。

 白ゼツと呼ばれる者達が数体、そこに佇んでいた。

 彼らは申し合わせたように見合わせると、そこから立ち去っていった。

 

 同じように、幾つもの村から、1人、2人と白ゼツが集まってはとある1点をめがけて移動していった。

 その数、数万。

 彼らは忍達に見つからぬよう、時に地面や木々に融合しながら、集合していった。

 

 

 

 その夜、海から異様な一団が上陸してきた。

 漁師達も寝静まった海から、白い人型が上陸してきた。

 白ゼツである。

 彼らは海底を歩き、ここまでやって来た。

 その数、やはり数万。

 最終的に一体どれだけの数が集まるのか。

 それを把握しているものは、たった1体? だけであった。 

 

 そこには影のような者達がわだかまっていた。

「ヤア、おれ」

「ヤア、おれ。

 向コウハドウダッタ?」

「アチラハアチラデ、ナ。

 呪術使イドモハ役二立タン。

 忍者ト違イ、アマリニモ術ヲ秘匿シスギル。

 アレデハドウニモナラン」

「オイ、ジャアソチラハドウダ?」

「神術モ同ジヨウナモノダ。

 神官達ガ制御方法ヲ禁術トシテイル」

「ヤハリ忍術ガ最モ我ラノ目的ニカナッテイル、カ。

 ココデ失敗スルト痛イナ、マタ1000年ヤリ直シカ」

「故二、世界中カラ戦力ヲカキ集メタ。

 我ラ『神の手』モ全テ呼ビ寄セタノダ。

 処理能力ヲ上ゲネバナ」

 そう言いながら、彼らは1つに融合していった。

 そして。

「完全体に戻るのは久し振りだ。

 これで確実に成し遂げようじゃないか」

 黒ゼツ、と呼ばれるものは月を見上げ、そして言った。

「俺達の、本当の『月の眼計画』を。

 成し遂げられるのをそこで見ているが良い。

 なあ、『神の眼』よ」


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