うちはの真実、もしくは森乃イビキの困惑
周囲の者が驚く中、写輪眼の青年、名をうちはロクロウと名乗った、は話し始めた。
曰く、
自分はうちは一族の内、「クーデター反対派」の家に生まれた者であった、と。
うちは一族壊滅事件の際、全ての一族の者がクーデターを起こす側に付いていた訳ではなかった。
ロクロウの家族はクーデターを止める側に回っていたのだという。
「…んじゃあ、うちは壊滅事件って」
酷く難しげな顔をした茶釜ブンブクがそう言う。
最も年若い彼がそうすると、どこか滑稽さを醸し出す。
それが場の雰囲気を若干和らげた。
「そうですね、あの事件は『うちは同士の内乱』と言う事でもあるんですよ」
ロクロウはそう言って肩を竦めた。
うちは壊滅事件の数年前。
うちはは表面上結束しているようにも見えていた。
内弁慶の如くうちはの居住地でのみ気勢を上げる若者達。
後にうちはクーデターの中心的役割を果たす者達である。
残念な事に、彼らは里の外に出た事がない。
出なくとも十分に生活が出来ているからだ。
彼らの親世代、祖父祖母世代は非常に苦労した。
祖父たちの世代では里の創成からうちはマダラの反乱、親たちの世代では3度の忍界大戦と戦乱と混乱の時代だった。
彼らは子どもらに苦労や悲しみを押しつけたくないと身を粉にして働いた。
その為に頭領であったうちはマダラすら切り捨てた。
マダラは強すぎた。
そして同時に弱いものを顧みず、「うちはこそ最強」に固執し過ぎた。
確かに、マダラは強い、それは誰しも認める事だ。
だが、うちは一族が強いかどうかは微妙だ。
マダラ1人の強さにぶら下がってしまった一族はそれだけで自分達が最強だと錯覚しかねない。
それを分かっていたからこそ、独立強硬派を跳ねのけて千手と手を組み、木の葉隠れの里を設立したというのに、その立役者であったマダラが反旗を翻した。
これは非常にまずかった。
というのも、かつてマダラを敵視した独立強硬派がうちはマダラを神聖視し始めたのである。
マダラに従い、木の葉隠れの里をうちは一族が統べるべし。
かつての独立強硬派はクーデター推進派として変質していったのである。
その思想は九尾が再度木の葉隠れの里を襲撃し、木の葉隠れの里におけるうちはの立場が悪化するとともに強く浸透していった。
そしてうちはは2つに割れた。
青年団を中心とした強硬派、そしてうちはフガク及び長老ら高齢者達の穏健派である。
「…ちとおかしな所があるな。
フガクは確かクーデターの首謀者として処分されている筈だが…」
そう言ったのは山中いのいち。
彼の呟きに、
「…それは最終的にうちはの総意が『クーデター支持』に傾いたからです」
そう、ロクロウは告げた。
うちは一族は里が出来てより木の葉隠れの里において警備部門、つまりは警察と憲兵を兼ねた役回りを行っていた。
警察とはつまり里の民の治安維持、安全の確保を目的とした犯罪鎮圧。
憲兵とは里にいる忍による犯罪行為の摘発だ。
写輪眼と言う術を見抜く目を持つうちはにとっては適材適所であろうか。
問題は身内意識が強すぎた為、おいたをする一族の若者達に、つい手心を加えてしまっていた事。
その結果として、一部のうちはの少年、青年が増長してしまい、里の上層部より処分を求められたのだ。
当然、と言うべきか、うちはからは反発もあった。
しかし、このまま増長するのであればおいたでは済まないレベルになりかねない。
何と言っても暴走している彼らは忍、忍術使いなのであるから。
実際、酒に酔って暴徒と化し、酒屋を豪火球の術で吹き飛ばす、などと言った惨事も起きていた。
当然、周囲にいた上忍にたしなめられ、場合によっては実力で排除される事もあったが、「差別されているのは俺達」という被害者意識を持つ彼らは自分達がやっている事を理解していなかった。
自分達は差別されている事と、里に人間に危害を加える事は全く別の事である、と言う事に。
差別されているというのであればそれを周囲にアピールし、差別の撤廃を叫ぶべきであった。
実際、うちは一族の頭領であるうちはフガクは、差別撤廃の為、里の上層部に働きかけていたのだから。
ところがフガクが一族の若者達のしでかした事の火消しに動いている為にその運動は停滞していった。
そして更に鬱憤を溜めた若者達が暴走し、里の民、忍の他家との溝を深くしていったのだ。
最終的に、穏健派は数件の家族のみになっていた。
元々穏健派だった老齢の者達はどうしたのか。
彼らは身内がかわいかった。
ゆえに、孫達を押さえる事も出来ず、ずるずると推進派に取り込まれていったのだ。
身内の情に厚いうちはの弱点がここで露呈したと言えよう。
推進派はうちはのおよそ8割を占めるほどになり、フガクもその意見を否定しきることが出来なくなっていた。
むしろ、フガクがここで彼らを止める場合、暴発した彼らが里に与えるダメージは計り知れない。
うちはは表面的にはそうは見えない、しかし、感情的になりやすい傾向がある。
それを抑え込むために、フガクはあえてクーデターという祭りの御輿を買って出るしかなかったのである。
さて、この事を木の葉隠れの里の上層部は知らなかったのか?
そんな事はあり得ない。
絡め手、という手段。
それは力が弱いからこそ使われる、のではない。
うちはは強い。
しかし、それを上回るのが忍と言う戦闘者の集団である「木の葉隠れの里」だ。
1人1人の強さは劣るかもしれない。
しかし、うちは1人に対して100人で掛かればどうか。
生き残るのはフガクを含めた数人であろう。
そしてフガクやイタチとて里の暗部10人と同時に戦闘となれば勝てるかどうか。
その中に自来也やはたけカカシ、マイト・ガイなどが入っていたならば。
うちはマダラですらそれらと戦うには大きなリスクを必要とするだろう。
それ故に、数と言う力を味方にすべくマダラは柱間と共謀してこの地に巨大な戦力、木の葉忍軍を創設させたのだから。
そして戦いの基本は数。
「戦いは数だよ兄貴!」と子狸が突っ込んでいるのを完全に無視し、ロクロウは話を続けた。
上層部は完全にうちはの動きを読んでいた。
なにも潜入などする必要はない。
うちはとて木石ではないし、仙人でもない。
飯も食えば、博打も打つし、女も抱く。
こと、景気の良いテロリストなどという刹那的な者なればなおさらだ。
食料の流れ、闇社会との繋がり、色街での噂、そういった調べれば簡単に分かる事を分析していけば自ずと答えは出るものなのだ。
こと、相手がそれを隠そうとしない場合。
年若いうちはの者達はそこまで頭が回っていなかった。
すでにフガクや老齢の者たちでは隠ぺいしきれていない。
うちはの居住区の中だけの話ならばともかく、里の色街や悪所などはコネクションがない以上どうやっても口止めなど不可能だ。
そう言った所に伝手を持っているのはやはり、「根」。
志村ダンゾウはかなり正確にうちはの動向を掴んでいた。
「根」と言う組織はその性質上、忍同士の情報網以上に一般社会、そして闇社会の情報網を扱う事に長けていた。
ダンゾウの情報網により木の葉隠れの上層部はうちは対策を行った。
そしてその一環として。
「我らうちはの『穏健派』の一部を一族から一旦切り離すことが提案されたのです」
ダンゾウは、かつて戯れに聞いていた子どもたちの話を思い出していた。
彼らは子供らしくもなく、ごっこ遊びにおいて「身内を敵味方に分け、どちらが滅んでも血を残す」なんぞという事をしていた。
誰であろう幼児期のブンブクである。
うちはのクーデターは成功するにしろ、失敗するにしろ里に大きなダメージを与えるだろう。
そしてうちは一族が滅んでしまったとしたらそれは里にとって回復し難い傷になりかねない。
うちはの名前はそれだけの力を持っているのだから。
ならば。
ダンゾウは上層部と連携し、うちはフガクと渡りを付けた。
そして、
「事前にうちはの一部を一般の里民の区画に移住させる」計画を提案したのである。
フガクはその提案に眉を顰めたものの、最終的に受け入れたのである。
うちはの血脈を残す為、フガクは苦渋の決断をしたのであった。
穏健派の内、有望な少年少女達が集められ、うちはシスイの瞳術「別天神」によって彼らはうちはの一族の記憶から消えた。
シスイの別天神は掛けられた事すら忘れてしまう強力な幻術だ。
解除のキーワードは「ダンゾウの死」。
故に、ダンゾウが死んだことでロクロウは記憶を取り戻した、と言う訳であった。
ロクロウはそこまで語るとふうっと息をついた。
さすがに疲れたのであろうか。
「…なるほど、そうして君達はあの災禍を免れた、と言う訳か」
感慨深げに山中いのいちが言う。
この中では古参に入るであろういのいちは、戦場でうちはに助けられた事も度々あった。
親しい者もいたのである。
「ええ、ダンゾウ様には恩があります。
本来ならば、血族ごと消されていてもおかしくはなかったでしょうに」
それはこの戦乱の世なれば当然のことだった。
忍界大戦、いや、それ以前からどれだけの血脈が戦の中消失していった事か。
ロクロウはそれを想い、溜息をついた。
「うちはの
これで父も…」
ロクロウがそう言いかけた時、ブンブクから声が掛かった。
「ちょっと待って下さい?
うちはの内乱てなんですか?
僕が知ってる限りだと、『うちはイタチの暴走によって、うちは一族の全てが虐殺された』って事になってる筈です。
裏っ側から見ると違うのかもしれませんが、どういう事でしょうか?」
「…それはダンゾウ様の情報操作だろう。
いくらイタチ君が強いからと言って、不意を突いたとしても全員を仕留めるのは無理だ。
フガク様ほどではないが、クーデターに参加した連中はかなりの割合写輪眼を持っていた。
写輪眼を持っている者が複数いる場合、
確かに。
とは言え、ブンブクとて「根」の一員、しかも中枢に近い位置にいるのだ、ある程度の情報は知っている。
でなければ大蛇丸の元で修行していたうちはサスケの調査に赴いたりはしないだろう。
ブンブクは顎に手を当て、沈思黙考に入っていた。
「…ブンブク、疑問があるのか?」
油女トルネがブンブクを促す。
そうすることで、この少年は思考を加速させることを知っているからだ。
「…なんでしょうね、なんか奇妙な感じなんですよ。
少数とはいえ、穏健派も戦力を持ってる訳ですよね。
で、身内同士の殺し合いとなれば情に厚いうちはの一族です、重傷とか、重体レベルの人がいてもとどめを刺さない可能性があると思うんですよ。
イタチさんはそこいら辺徹底的にやる人でしょうから推進派の人に生き残りがいないのもなんとなく分かりますし、多分推進派の人たちが最大戦力として見ていたに…、サスケさんのお父さん、うちはフガクさんは戦わなかったでしょうから、もうちょっと生き残っていてもおかしくないと思うんですよね」
そう言われれば、とロクロウも得心する。
…ならば、うちはの内乱に乗じて動いた第三者がいたか、あるいは…。
「今話題になっている『幻術』ですかね?
うちはに仕掛けられているかもしれない、洗脳幻術」
ブンブクは小首を傾げ、左右の人差し指でこめかみを押しつつそう言った。
「そうなると、やっぱりオレ達の仕事って事になる訳ですかねえ、代行」
イビキはカカシにそう言うと、
「んじゃ、こっちは準備がありますんでね、うちの連中を集めないと…。
皆さんは1時間後にウチんとこの詰め所に来てください。
この分だと分析班の連中の力も借りねえとなんないと思いますからね。
そこいらの依頼もしておかねえと」
分析の準備をするために、詰め所に戻っていった。
…せめて一杯引っ掛けておきたかった、そう思いながら。
幻術師達の奮戦、もしくは森乃イビキの憂鬱
森乃イビキら「うちは洗脳術分析チーム」が動き出して6日が経った。
「なんてこった…」
イビキ達は初期に集められた者達に加え、分析班の精鋭、幻術を得意とする上忍達の協力を得、そして。
「きゅん!」
「…やっぱり頭部、特に視神経の交差するあたりに奇妙なチャクラの流れがあるって」
ブンブクの口寄せしたのは狸。
額に卍型の白い毛のある、黒眼の部分が真っ白なその化け狸、名を卍丸と言う、彼によって、あるかどうかも分からなかった「うちはの洗脳幻術」の存在が確認されてしまったのだ。
ブンブクの呼び付けた卍丸は、そのチャクラの流れを見る眼、どう見ても日向の至宝たる白眼にしか見えないもので、今までイビキらが調査分析した推論を証明して見せた。
イビキ達が導き出した結論、それは。
「一族固有のチャクラに仕掛けてあったとはなあ…」
そう、人に限らず生物のチャクラは個体個体で固有の流れがある。
それと同時に、血族にはその血族固有のチャクラの流れと言う者もあるのだ。
それらを把握する事で、感知型の忍は相手の特定をするのである。
例えば、茶釜ブンブクであれば「茶釜一族特有のチャクラの流れ」があり、更にその中に「茶釜ブンブク固有のチャクラの流れ」が存在する。
言ってしまえば指紋の様なものだ。
その、一族固有のチャクラの流れに細工がしてあったという事。
それだけの仕掛けが出来るのはうちはマダラに違いあるまい、そう上層部の御意見番たちは太鼓判を押していた。
そして、その解除に関しては山中一族と猿飛紅ら幻術使いが専門のチームを組むことで行う事になっていた。
これでオレ達の仕事は終わりだ。
ここ1週間ほどまともに眠る事の出来なかったイビキは大あくびをしつつ家へと帰っていった。
ドンドンドン!
イビキが熟睡している時、何処からか何かを殴りつけるような音がした。
ドンドンドン!
なんだ、やかましいなあ。
そう思ったイビキ、次の瞬間特別上忍としての習性から、一気に睡魔から解き放たれた。
ドンドンドン!
イビキの借りているアパートの扉が叩かれていた。
イビキは用心の為、手にクナイを持つと玄関の扉の前まで進み、
「イビキさん、イビキさん!
すいません開けて下さい!」
焦りを含んだ茶釜ブンブクの声を聞く事となった。
「んで、どうしたよ?」
睡眠不足により若干不機嫌な声でイビキはそう言った。
波の子どもなら確実におびえて泣く様なその声に、しかしブンブク、そしてその頭に乗っかった狸は泰然としたものだ。
「すいません、ここが一番近かった物で。
…まず最初に、すいません」
いきなりブンブクは謝罪をしてきた。
…つまりは厄介事、か。
イビキは腹に力を込めて、先を促した。
「ええっとですね…」
事の起こりは一旦解明チームが解散となったすぐ後の事だ。
ブンブクは卍丸に里の中を見せる為に彼を頭の上に載せ、大通りを練り歩いていた。
その時だ。
「きゅん!」
卍丸がその白眼で気になる人物を見つけた。
「どうしたの?」
ブンブクが尋ねると、卍丸は狸にしか通じない言葉で話しかけた。
「あそこを歩いている少年、彼に『うちはロクロウ』と同じ仕掛けが施されている」と。
のほほんとしたブンブクの表情、その目の色だけが変化する。
さらに、
「それと同時に、脳の奥の部分に似たような仕掛けがされている」とも。
どういう事か。
ブンブクは能天気そうに歩きつつもその少年を追跡、更には周囲にいた「根」の者に少年の素性を調査依頼していた。
「…で、その子の素性とかの調べは簡単に付いたんですけど」
ブンブクは如何にもバツが悪そうだ。
どうやら追加のお仕事があるのかもしれん。
溜息を堪えつつ、イビキはさらに先を促した。
「で、その子の素性なんですが…」
そこでイビキは驚愕の表情を晒す事になった。
「で、アタシの所に来たって訳かい…」
イビキとブンブク、そして化け狸の卍丸は現火影・千手綱手の入院する病室へと来ていた。
「確かにそれならアタシが最適だろうしねえ。
今、千手の血を一番濃く引いてるのがアタシだからね。
で、どうやって調べるんだい?」
「それは、こいつに聞いてやってください」
イビキはブンブク、と言うよりその頭の上に乗って、と言うかかぶさっている卍マークの狸を指差した。
「なんだいこの子は?
化け狸かい?」
そういぶかしむ綱手に、ブンブクが彼を「化け狸の里の卍丸さんです!」と紹介した。
卍丸はブンブクの頭の上で器用に正座をすると、
「きゅん!」
と挨拶をする。
それが微笑ましかったのか、ふっと笑いを浮かべる綱手。
しかし、
「なっ!?」
狸のその目が光彩の色を失い、白眼となるのを見て愕然とする。
卍丸の目が綱手の体にあるチャクラの流れを把握していく、そして。
「きゅん!」
卍丸が一鳴きした。
ブンブクの表情が暗くなる。
「で、どうだったんだ?」
イビキがブンブクに尋ねた。
その結果は。
「脳の奥の所に、先ほど話したような微細な仕掛けがしてありました。
たぶん、綱手さまにも仕掛けられているようです」
ブンブクの説明では、綱手にも脳の奥まった所にウチは一族に仕掛けられているのと同様のチャクラによる幻術の仕掛けがされている、との事であった。
何故この仕掛けにブンブク、および卍丸が気付いたか。
それは先に追跡した少年の出自にあった。
少年は忍ではなかった。
両親ともに忍ではなく、本人としては人気職である忍になりたかったが、チャクラの適正が低く、不可能であると言われていた。
だからと言って腐るでもなく、毎日を充実した暮らしをしているようだ。
彼には一般に知られていない事があった。
少年の両親、父親は千手家の傍系の傍系であった。
また、母親はウチはの傍系の傍系。
普通であれば暗部の上忍達ですら気に止めない代物。
何故なればそのような存在は珍しくない。
木の葉隠れの里が創設されて早60年以上。
千手とうちはもそれなりに混血が出始めている時期だ。
だから珍しい存在ではなかった。
この「千手に仕掛けられた洗脳の幻術」のタネは。
「幸いな事に、この幻術のタネは不活性状態の様です。
多分ですが、『うちはに仕掛けられた洗脳の幻術』のタネと同じく、何らかのきっかけがないと動かないんでしょう」
イブキの言葉に綱手は、
「ならその切っ掛けってなあなんだい?
それが分からないとおちおち昼寝も出来やしない」
と、おどけながら言ってのけた。
恐ろしくない筈がない。
己に何時起爆するかも分からない時限爆弾が付いていたようなものだからだ。
さすがは火影、イビキは内心そう感歎していた。
その疑問に答えたのはブンブク。
「推測なんですけどね」
そう言って取りだしたのは表紙に音隠れのマークの入ったレポート。
「大蛇丸さんが書いた論文の1つなんですけど、『血継限界の発動』についてのものです」
その中には、丁度仕掛けがされている脳の位置には、血継限界を司る部位がある、と言う論があった。
脳の奥底、右脳と左脳の間、視床後部の一部にある器官。
ブンブクの知識では「松果体」と呼ばれる部位。
人間では退化してしまった、蛇などが光を感知する器官である頭頂眼と同根の器官であり、眉唾なオカルト雑誌では「超能力を司る」器官ともされているものだ。
その器官にまとわりつくチャクラ。
未だ休眠しているその仕掛けは、
「つまり、うちの一族の血継限界である『木遁』の発動によって活性化する、と」
そう言う事だ。
イビキは愕然としていた。
「おいおい、こんなんうちはマダラにすら出来る訳がねえ。
一体こいつはどうなってんだ、いや、どうなっちまうんだ…」
うちはだけならマダラが仕掛けた、と言えただろう。
しかし、千手までとなると規模が違う。
マダラが千手の全てにこのような術を仕掛けるなどあり得ない。
ならば、更にその前から仕掛けられていたというのか。
「…仕事が増えるなあ」
イビキにはっきりと分かっているのはその事だけだ。
睡眠時間が削れ、疲労がたまるだろう。
うちはマダラを名乗る男が指定した開戦時期は後半月ほど。
それまでに何とかしなければならないのだろう。
「こりゃ過労死もあるかもなあ…」
ぼやくように呟いたイビキ。
しかし、その表情には闘志が漲っていた。
ここから高々2週間、凌ぎきってやろう、イビキは他の拷問尋問班人を招集する為に病室に背を向け、歩き出した。
閑話 忍びよる危機達
岩隠れの里の外周、そこには里の周囲を警護する結界衆の集落があった。
彼らは岩隠れの里との抗争に敗れ、取り込まれた者達。
岩隠れでは彼らを外周の防衛に当たらせると同時に、適度な距離を取っていつ何時裏切るか分からない外様の警戒を怠っていなかった。
そこでは最近オカルトじみた噂が聞かれるようになっていた。
曰く、この近辺でからからに干からびた死体が見つかった。
曰く、巨大なコウモリに襲われた。
曰く、死んだ筈の奴に襲われた、等々。
1つ1つを見れば忍術使い、つまりは忍の仕業ともいえよう。
しかしそう言った特殊な術を使うものは自ずと名が売れる。
そしてそういう輩の動向はある程度把握されるものである。
しかし、今の所他里の忍の内、そう言った特殊な忍術の使い手はこの後に控えられたうちはマダラを敵とする「第4次忍界大戦」のために動いているところであり、わざわざ外様である結界衆を襲撃する為に動くとは到底思えなかった。
その為にあくまで噂として流されていた。
彼らが「結界衆」として一纏めにされていたのも問題であったろう。
結界衆と言っても、小さい一族の集合であり、横の繋がりは希薄だった。
無論それは岩隠れを束ねる土影ら上層部の意向でもあったのだが。
横の繋がりが強くなり、彼らが連携して岩隠れに反旗を翻すことを土影は厭うたのである。
故に。
「た、たすけっ!」
ぶしゅり。
鮮血が周囲に飛び散った。
全身にクナイ、千本、手裏剣を突きたてた男が捕えた忍の首に人とは思えぬ牙を突きたてた。
ごきゅり、ごきゅりと男の喉が動き、それに従って忍の体が萎んでいく。
ぱさり、という音と共に忍の体が崩れ落ちた。
干物の様になった忍の体を捨て、男は歩き始めた。
からん、カランと言う音と共にその体に突き立った暗器がこぼれ落ちていく。
暗器の抜け落ちた体、そこにはその衣装にすら傷1つ、血の染み1つ見つける事は出来なかった。
男は次々に忍達を手に掛けていく。
上忍も下忍も関係ない。
捕らえられればすべからく喰い殺される。
チャクラにより圧倒的な腕力を誇った上忍も成す術なく死んだ。
強力な忍術も、砕き、焼く傍から回復し、術を練る合間に捕えられて喰われた。
逃げようとした者達は、男の眼を見たとたん金縛りにあい動けなくなり、結局喰われた。
その場にいた20人ほどの結界衆は全て木乃伊の様になって絶命していた。
かさり。
男以外の全ての者がいなくなり、しんとした周囲に足音が響く。
男は飢えと狂気に彩られた視線をそちらに巡らせて、
「落ち着いてください、ドラキュラ」
その声に狂気を一段落ち着けた。
ぐるる、と呻くようにその声に返すドラキュラ。
その声の主、天草四郎時貞は彼に親しげな笑みを浮かべ、
「さて、食事も終えましたよね?
帰りましょうか」
そう、何でもない事であるかのように告げた。
周囲の惨状を気にも留めないで。
水の国にある霧隠れの里には、他の里にはない特殊な者達がいる。
会場、海中の移動と戦闘を専門に扱い、海に囲まれた水の国の
彼らは水中での活動も得意としている。
しかし。
「ぎゃああぁっ! あ、熱いっ!」
水と言うのは厄介なものだ。
通常の大気中であれば、空気は熱を伝える能力が高くなく、また、汗の蒸散する際の気化熱の奪取による体の周囲に張られた低温の空気の幕が温度を伝えるのを押さえる。
しかし、水中であればその温度はすぐに体に伝わる事になる。
つまりは、周囲の水が100度以上の高温になってしまうと、
じゅん!
周囲の水が熱線で一瞬にして気化し、その温度が水を伝って霧隠れの上忍の体を焼く。
一瞬で蒸し上がった上忍は、同じ速度で絶命し、プカリと水上に浮きあがった。
その遺体を下から熱せられて浮き上がって来た水蒸気が吹き飛ばす。
どん! と言う音と共に先の上忍、そしてその前に仕留められていた彼の口寄せ動物である巨大な鯨の遺体が舞い上がる。
そして静寂に包まれた海。
その海底より何かが浮上してくる。
海面を割り、上がって来たのは青銅の肌を持つ巨人。
巨大な青銅の剣を持ったそれは、ギリシャ神話の英雄の如く、暫し悠然と立ち尽くし、そしてまた海底に消えていった。
雲隠れの里のある雷の国では、雷影だけではなく、雷遁にて己の体を強化する術が珍しくない。
今悠然と立っている男、雲隠れの里と友誼を結んでいる小さな里の里長である彼もまた、雷遁による優れた体術の使い手であった。
彼は今、命を狙われていた。
相手はかなり優秀な隠業の使い手の様だ。
闇に紛れて自分の命を取りに来たのは褒めてやろう、しかし。
「私の動きに付いてこれるか!」
彼は、自身の体に雷遁を纏わせ、凄まじい動きを披露した。
彼の使う雷遁は「速度」に特化している。
反射神経、移動速度にその距離、どれをとっても現雷影・キラーエーと互角以上に張り合う事が可能だ。
力を含めた速度では雷影に劣るものの、その速度故に、雷影と彼は友誼を結んでいた。
その雷影を狙う者がいるらしいとの報告を受け、彼は雷影の露払いとして事に臨んでいた。
そして闇の中に舞う暗殺者に追いついた彼を、
「なに!?」
驚愕が襲った。
そこにいたのは壮年の男性。
雷影のようなタイプではないものの、十分に筋骨隆々とした堂々たる体躯の精悍な男、それが。
衣装はあまりにも煌びやかな薄布を幾重にも重ねて複雑な色合いを出し、それに見合った髪飾りがしゃなりしゃなりと風に揺れる。
顔には白くおしろいが塗られ、本来ならば妖艶に見えるであろうきめ細やかな化粧が施されていた。
男女と言う差はどこにあるのだろうか、それを疑問に思えないほど余りにも本人とその意匠がかい離している存在、それが
その仕草すらまったく違和感しか感じない。
本来、男性が女性をまねるのであればどこか滑稽ながらもそれらしいしぐさにはなる筈だ。
それが全くない。
明らかに男性でしかない存在が女性やバイセクシャル、トランスジェンダーを愚弄する様な存在がそこにいた。
それは、にいぃっと嗤い、
「汝が速さ、この東方不敗と競うてみよ。
汝が勝てば生き延びられよう。
ワラワを楽しませよ…」
そう言った。
つまりは、
「死にたいって事だな」
男は雷遁を最大限に練りだし、そして最速を以ってその異形の存在、東方不敗を名乗る怪人に叩きつけようとし、
「なんだと!?」
その姿を見失った。
有り得ない。
今の男は動体視力をも雷遁によって強化されている。
それがヤツを見続ける事が出来ない。
男の視界には辛うじて東方不敗が羽織る美姫の衣装が、まるで蜃気楼のように見えるだけ。
次の瞬間、
「くっ!」
彼は腕にチクリとした痛みを感じた。
そこからはプックリとした血の玉が浮かんでいる。
どうやら千本よりも細い暗器で突かれたようだ。
しかし、
「この程度ではいくら受けても致命傷にはならん!
遊んでいるのか!?」
そう、いくらなんでもこのような獲物で死ぬ事はない。
男は急所すら守れば問題ない、そう判断し、持久戦に入る事とした。
早朝、男の里では大事件が起きていた。
男、つまりはこの里の里長が異様な死に様で発見されたのだ。
その全身は細い針の様なもので突き刺されていた。
その個所は数える事が出来ないほど無数に。
腕や足は触れればぐずぐずの挽肉の様になっていた。
その有様を憂慮した雲隠れの里の分析班によって彼の体は司法解剖に回された。
そして彼の心臓
既に戦争は、影より始まっていた。
次回の更新は来週になると思われます。
この章は後数回分続きます。
その後に第3部「忍界大戦編」に入ります。
今までの伏線を回収していきます。