NARUTO 狐狸忍法帖   作:黒羆屋

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今回もいろいろ世界観的なねつ造が入ってます。


第102話

 デイダラ参戦

 

 デイダラは怒っていた。

 粘土を捏ね回し、彼は「怒り」を表現していた。

 それは天を突く、(まさ)しく「怒髪天」を表現したもの。

 無口に作品を作り上げていく彼の姿を、警備に付いている砂隠れの忍びが恐々と覗き込んでいた。

 

 デイダラがこうなったのは暫く前。

 元「暁」で現砂隠れの傀儡操演術講師である赤砂のサソリがやって来た。

 サソリは暁においてデイダラとコンビを組んでいた戦友の様なものである。

 サソリは時間を作ってはデイダラの様子を見に来るようになっていた。

「よお」

「ん、旦那か?

 今日はずいぶんと深刻そうだな、うん…」

 やって来たサソリの様子が奇妙だった事にデイダラは気付いていた。

 サソリは己の体を改造し、人傀儡、と言う特殊な操り人形に仕立て上げていた。

 故にその表情は硬く、と言うより表情がない。

 しかしながら、デイダラは長い事サソリと付き合ってきた。

 その為に、サソリの雰囲気を読み取ることが出来るようになってきていた。

 まあ、サソリもデイダラと同じく芸術を解する者、お互いに芸術談義に花を咲かせ、相互の理解を深めたからこそ、と言うのもあるのだが。

 サソリはデイダラの牢の前に来ると、

「分かるか…」

 そう零した。

「そりゃあなあ、うん。

 分からん方が元相棒としてはまずいだろ、うん」

 デイダラの言葉に溜息をこぼすようなしぐさをするサソリ。

 人傀儡は呼吸を必要としない。

 忍術を使う際に呼気を必要とする場合もあり、呼吸をしているように見える機能は付いているにしても。

 この辺りはサソリとて元は人間、動きに人間じみた所が入るのは致仕方ない。

「…『暁』が全忍界に対して宣戦布告をした」

 サソリはそう告げた。

「は?」

 さしものデイダラも一瞬サソリが何を言ったのか、分からなかった。

「暁」は規模こそ大きいものの、忍界全体に喧嘩を売れるほど大きくはなかった筈。

 こと、実働部隊としては非常に小さい筈だ。

 でなければ、尾獣狩りをデイダラ達数名にさせる事はなかっただろう。

 忍界と戦争が出来るだけの戦闘要員を用意するとなれば熟練の上忍を集めたとしても1000人以上、その上で里の上層部を纏める怪物じみた「影」、そしてそれとタメを張る化け物どもと戦える人員を別途用意しなければならない。

 少なくとも以前所属していた「暁」の実働部隊程度では戦力が足りない。

 デイダラは己の実力をよく知っている。

 今のデイダラならば「影」と1対1でならば勝てる自信がある。

 が、それが2人3人となると絶対に無理だと言い切れる。

 忍界全体の戦力として、どれだけ頑張っても7万から10万といったところか。

 それと釣り合うだけの戦力を整えるのにどれだけかかるか。

「ペインの野郎、それだけの力を用意できたのか…、とんでもねえな、うん」

 デイダラの呟きに、

「…ペインは破れた」

「へ…、んじゃ今の暁は誰がまとめてんだ? うん?」

「トビだ」

 デイダラはサソリが何を言っているのか理解できなかった。

 トビが?

 ()()トビが?

 …信じられん。

 唖然とするデイダラに、サソリは「五影会談」での顛末を語ってのけた。

 

 今の「暁」はうちはイタチ、干柿鬼鮫が破れ、デイダラの入った辺りの面子は既にいない事。

 ペインが倒れ、小南が脱退し、現在の「暁」はトビが仕切っている事。

 トビは本当の名を「うちはマダラ」であると名乗った事。

 うちはサスケを取り込んだ事。

 そして、

「…トビ、いやうちはマダラは五影会談の会場に乗り込み、影のじじいどもに交渉を持ちかけた。

 尾獣を差し出し、己に協力しろ、とな」

 デイダラは呆れた。

「そんなん交渉でも何でもねえだろ、うん」

 その通り、トビはあくまで自分の要件を伝えただけだ。

「で、旦那、その協力ってなんにだよ、うん?」

 トビが何を成そうとしているのか。

 元の相棒その2であるデイダラにも気になる事であった。

「それは、だな…」

 その事に触れたくなかったのだろうか、サソリの機嫌が悪くなったのがデイダラには見て取れた。

「『月の眼計画』だそうだ」

 

 その話を聞いて、デイダラは、

「…ふざけんな」

 ぼそり、と呟いた。

 デイダラにとって最も重要な芸術。

 それは儚く、一瞬で消える爆発の芸術。

 形のあるものが消滅するその一瞬の美。

 それは夢のように儚く、しかして確かにそこにあったものだ。

 有るものが移り変わる、その過程の美。

 美は移ろい、動く。

 それは確かに現実にあったもの。

 それをだれにも否定はさせない。

 夢は夢。

 現実だからこそ、爆発は芸術たり得るのだ。

 一度しかないからこそ美しいのだ。

 ここに茶釜ブンブク、もしくは聖杯のイリヤが居たのなら、それを「一期一会」と称しただろう。

 一期一会。

 ()()()茶人・千利休が「一座一会」なる茶の心得を説いた所から出来上がった言葉だという。

 人とその場で出会ったこの時間は2度と巡っては来ないたった一度きり。故にこの一瞬を大切に思い、今出来る最高を、という意味である。

 そこから派生して、一生に一度だけの機会そのものを指す語とも言われる。

 デイダラの爆発はまさにそれだ。

 現実世界であるからこそ爆発は芸術足り得る。

 それを、全ての者を夢の世界に閉じ込めるなど、芸術に対する侮辱である、そうデイダラは認識した。

 それはサソリにとっても同じ事。

 彼の求める芸術とは「永く後々まで残ってゆく永久の美」。

 それは破壊や劣化、年月に抗い、いつまでも変わらないもの。

 周囲が変わってしまっても、それだけは変わらない、悠久の存在。

 つまりはサソリの芸術もまた現実に抗うものなのだ。

 現実に存在していなければ意味を成さない、それがサソリの芸術。

 つまりはサソリにとってもうちはマダラを名乗るトビの成そうとする「月の眼計画」は到底容認できるものではない、という事だ。

 表面に出せはしないものの、サソリはトビに対して激怒していた。

 そして、デイダラも。

「あんのボケなすがあぁ! 許さん!

 叩き潰す!」

 デイダラはサソリを見て言った。

「旦那、オイラをここから出してくれ!

 オイラも忍界側で戦う!

 あの馬鹿にお仕置きしてやらねえと気が済まねえっ!」

 怒り狂うデイダラを見つつ、

「分かった。

 あいつを締めるのに参加してもらおう。

 数日待て。

 風影に話を通してくる」

 そう言ってサソリは出て行った。

 怒りを抑える為に、デイダラは粘土を捏ね繰り回し、細工物を作っていった。

 

 なお、この時の作品が、陶芸作家デイダラの最高傑作「怒りの日」として末永く残る事は、爆発を愛する芸術家であったデイダラにとって不満であった、と後年彼は話していたという。

 

 

 

 茶釜ブンブクの「突撃! 狸の晩御飯(作る方)」

 

「たーぬきたーぬきちゃがまのこー このはのさとでくらしてるーっと!」

 ども、茶釜ブンブク料理人バージョンです。

 今僕は、音隠れの里に来ています。

 前回破壊された施設から居を移し、本格的に「里」として始動してるんですね。

 現在はカブトさんが里長代理で忍界大戦には忍び連合軍側に付いてくれるそうで、予想通りと言いますか、僕がその連絡役になってる訳です。

 …フーさん、トルネさん、申し訳ない。

 僕はいつになったら「根」の再編に関われるのだろうか…。

 それは置いといて。

 んで、なんで僕が料理人バージョンかと言いますと…。 

「料理長の飯が食いたいっす!!」

 …だれが料理長やねん。

 突っ込みどころ満載の一言。

 なんでも僕がいた時には今まで食べた事のないような料理がたくさん出てきて、食事を作る女性陣がそれを覚えきれていなかった、との事。

 皆さんやっぱり食の好みがある訳で、前に食べたあれが食べたいと言ってもなかなか作れないものもある訳ですし、作ってもらってもちょっとした一手間で味が大分変わっちゃいますしね。

 そう言う訳で、久し振りに僕監修の料理が食べたいんだとか。

 なんだかなあ…。

 

 

 

 この世界には異質な部分がある。

 例えば、食に関して。

 この世界では交通機関が発達していない。

 その場合、その地方地方で食物は独自の進化を遂げるものだ。

「京野菜」と言うものがある。

 日本の京都独特の野菜をそう呼ぶが、かつての世界ではそれが当たり前であった。

 流通が発達していない、とはそういう事だ、地のものは外に流通しない、いや、できない。

 しかしこの世界においては地方独特の野菜やその地方でだけ食べられる肉、などは実のところほぼ存在しない。

 風の国の様に過酷な環境下で昆虫食などがあるものの、それ以外では意外なほど食材は豊富だ。

 例えば、ロック・リーの好物である「カレーライス」には様々な香辛料が使われている。

 香辛料の多くは亜熱帯下が原産であるものが多いが、木の葉隠れの里にある火の国において、亜熱帯地域がどれだけあるのだろうか。

 一般家庭の子どもであるリーが普通に食べられるほど香辛料が採取できる、となると本来ならば交通網が発達している筈。

 しかし、この世界においては忍が最も早い移動手段となり、人力、動物に引かせる馬車の様なものが交通の基本である。

 そして本来ならば交通網と共に発達する情報網によって様々な調理方法が広まるものだが、これがまた少ない。

 和食を基本として一部の中華、洋食が入っているのみ。

 まあ数十年にわたって戦乱が続き、やっと文化を成熟させる時間が出来た為なのであろうか。

 

 そこにブンブクは異常知識によってもたらされた調理法を持ちこんだ。

 その為、今まで食べた事のない料理を提供された音隠れの忍達は、言ってしまえば「グルメにハマった」のである。

 料理は一手間かけるのが重要だ。

 その要諦をブンブクは知らずに使っており、それが料理の味を良くしていたのであった。

 ブンブクが居なくなってから「一段味が落ちた」事に落胆した音隠れの忍達。

 そこにブンブクが戻って来たのである。

 男どもは美味い飯が食えると喜び、女達は料理のコツが分かると眼の色を変えた。

 そこに巻き込まれた茶釜ブンブク。

 今まで音隠れの施設で作った料理を全てもう一度作らされる羽目になったのである。

 

 

 

「ほい、エビチリお待ち!」

 僕が料理を作る傍らで、同じように料理を上げるおばちゃん達&僕の説明をメモに取っていくおねえちゃん達。

 僕は豆板醤で辛味とあの赤い色をつけて、甘みは「甘酒」で付けます。

 ポイントは背ワタをきちんと取る事ですね。

 食材の流通はあるんですけど、元々音隠れの人たちは小さい忍里の集合ですから忍の仕事以外の知識が薄かったりします。

 貧すれば鈍する、と言いますけど、やっぱり規模が大きいと余裕もあるんでしょうね、文化的な発展が違います。

 さて次はビーフシチューですね。

 いい感じで煮込めています。

「お肉の処理で必ず赤葡萄酒で『漬け込み』はしときましょう、味がしっかり染みますよ」

 そう言うと、周囲のお姉さんから、

「清酒とかどぶろくは駄目なの?」

 と質問が。

「うん、試してみても良いかもしれないよ。

 お酒ってお肉を軟らかくする効果があるらしいし。

 基本は出来てるんだからトライ&エラーで良いんじゃない?

 みんなで試してみれば良いと思う。

 上手く行ったらレシピ集とか作って売っても良いんじゃない?

 今後音隠れって『研究機関』としてやってくことになるんだし、忍術以外の研究もありだと思うしね」

 僕のこの一言が、「文化研究部」の立ち上げに一役買う事になるのを、今の僕は予想もしていなかった。

 

 さて、地獄の3時間がやっと終わりました。

 ひたすら鍋を振って腕がパンパンです。

 いやあやり切ったやり切った。

 心地よい疲労に身を任せて…じゃない!

 いかんいかん、つい料理に熱中して、お仕事を忘れる所でした。

 カブトさんもそろそろ仕事が一段落付いている頃。

 ちょっと執政室にお邪魔しましょうか。

 

「御免下さい…、さようなら」

 くるりと背を向けた僕の襟首を御仁丸幽玄丸さんががっちりと捕まえます。

「…逃げんな」

「はい…」

 眼の前にはうずたかく積まれた書類の山。

 そして微妙に眼のイッチャッタ笑みを浮かべる薬師カブトさん。

「やあ、ウェールカームトゥージクレージタイー♪」

 …はいよ。

 

 更に6時間後。

「…終わった」

「やっと」

「きっつかったじゃん…」

 なんでこんなに書類が溜まってんですか!?

「…忍界大戦に参加する為だよ」

 は?

 カブトさんは疲れたようにそう言いました。

「一応なりともボク達は『田の国』の戦闘要員、という形になってるのでね。

 それが自国を無視して動く訳にもいかないのさ。

 なにせ音隠れ(うち)は国に対するパイプが少なすぎる。

 おかげで本来、他の里なら交渉で済ませる内容に、いちいち書類を書いてお伺いを立てないといけない訳だ」

 なるほど。

 ぽっと出の辛い所ですね。

 ここから国の上層部とのパイプを作っていかないとなんない訳だ。

 田の国の官僚さん達もまだまだカブトさんを信じてないだろうしね。

 そもそも忍界そのものを信用してない可能性が高いし。

 田の国はここ20年ほどで急速に軍備を増強、この場合って忍の里なんだけど、その弊害で国内における忍里同士の抗争が酷くなっていた様なんです。

 そこを大蛇丸さんに付けこまれたようなんですけど、大蛇丸さん自分が死ぬとか抜けることを考えてなかったらしく、国の上層部との交渉を1人でやってたらしいんですよね。

 カブトさんにそれが引き継がれてなかったからの悲劇、と。

「はぁ…、生きてるならさっさと帰ってきて欲しいんですけどね、ホントにあの人は…」

 おや?

 確かカブトさんは大蛇丸さんの生存を知らない筈ですが。

「カブトさん、なんで大蛇丸さんが生きてるって分かるんです?」

 それに対してカブトさんは、つらりと言いました。

「ああ、大蛇丸様に対して『口寄せ・穢土転生』使ったからね」

 と。

 …ええっと穢土転生ってあの悪名高いゾンビ忍術ですよね。

 それを? 大蛇丸さんに使った、と?

 …やっぱりこの人大蛇丸さんの弟子っすわ。

「まあ、これで穢土転生の効果もはっきりしてきたしね。

 やっぱり大蛇丸様の研究『チャクラ高次意識体説』にこれで1つ根拠が設定できた気がするよ、大分弱いけどね」

 …なんですか『チャクラ高次意識体説』って。

 あ、そっか、どっかで聞いた話だと思ったら、あのうちはマダラさん(仮)が言ってたんだっけ。

「それに関してなんですけど…」

 僕は五影会談でマダラさん(仮)が言っていたのを纏めたレポートを差し出したのです。

 

 カブトさんは眉を顰めながらレポートを読みました。

 その間に僕はカブトさんと幽玄丸さんのためにお茶と軽食の準備ですね。

 薄目に焼いた無発酵パン(ナーンと言うらしいです)にマヨネーズとマスタードを塗って、レタスと鶏ハムを挟んだサンドイッチです。

 幽玄丸さんはかなりお腹が空いていたらしく、サンドイッチを6枚もぺろりと平らげました。

 カブトさんは片手でサンドイッチをつまみつつ、お茶をすすって一息、という感じで溜息をつきました。

「…ねえ、ブンブク君、彼は本当にうちはマダラなのかい?」

 その問いに、

「多分違うと思います。

 ダンゾウさまが死ぬ前に、あの人の顔を確認しています。

 その際、うちはマダラとは違う、と断言してらっしゃいましたから」

 そう僕は答えました。

「だろうね。

 …忍界には幾つも不可解なことが起きているけど、この『マダラ』が意識集合体について言及しているのもその1つだね」

 それはおかしなことなんですか?

 うちはの一族が碑文として残しておいたものだって言ってましたけど。

「勿論さ。

 うちはマダラは、と言うよりはうちは一族ははっきり言って一族としても小さいんだ。

 つまりは精強ではあるものの人数が少ない。

 さらに言えば彼らは『研究者』の一族ではなく、あくまで『忍術使い』の一族なんだ」

 …なるほど。

 つまりは、「経験則から来る忍術の効率的な使用」に関してはともかく、「高次の集合意識体」って言う概念が発生する筈はない、もしそうならば、うちはは「研究者」つまりは大蛇丸さんの様に忍術の深淵を望む学者になっている筈だ、と。

 確かにそれはうちは兄ちゃんを見ていれば分かるなあ。

 あの人、目先の力に飛びついちゃうタイプだし。

「君も言うねえ、事実だけど。

 とにかく、あまりにも忍界にはこう言う事が多い。

 僕が疑問に思っているだけでも、『千手扉間』なんかも疑わしいからね」

 は? 2代目さまですか?

「そう。

 そもそも2代目火影・千手扉間は幾つもの術を開発してるよね」

 そうですね。

 でも、実践の機会は多かったんですし、おかしなことではないのでは?

「攻撃の為の忍術なら分かるんだけどね。

 そもそも、概念すらないような術をいきなり編み出すっていうのはおかしいだろう?」

 どれのことでしょうかね。

 あの方、編み出した術がかなり多いもんだから良く分かりません。

 ちなみに、2代目さまが開発した術は多いのですが、それを普通の中忍レベルが使えるように改良したのは3代目火影・猿飛ヒルゼンさまだったりします。

 2代目さまの編み出した術は元が才能とチャクラに溢れた初代さまと2代目さま用なもんですから、効率がかなり悪かったようです。

 それを改良したのが3代目さま。

「忍びの神」と呼ばれる天才しか使えないような術をまともに使えるようにし、術を知り尽くした、それ故に「最強の忍」「教授」と言う二つ名をヒルゼンさまは持っていらっしゃったのですよね。

 …そうなると、もしかしてあれかな?

「そう、さっきも出てきた『穢土転生』。 

 そもそも、術理も発見されてないような現象を引き起こす術をどうやって見つけたのか。

 それにね…」

 なんでしょうか?

「いいかい、『穢土転生』は元からかなり完成度の高い術なんだ。

 実際研究してみても、改良点があまり見つからないんだよ。

 これだけ完成度の高い術を、あの戦乱の中でどうやって千手扉間は開発できたのか?

 疑問には思わないかい?」

 確かに。

 技術の発展には「戦乱と平和」の両方が必要です。

 確かに戦乱、つまりは兵器や武器、この場合は忍術や忍も含みですね、は、技術の発展のためには必須だとされてますけど、実際に技術が発展するのはその後に来る平和の時代においてです。

 戦乱でひどい目にあって、次にそう言う目に遭わない為に平和な時期を使って戦いの技術を高める訳ですね。

 だって戦乱の時期って技術を発展させてる余裕なんてないんですから。

 そんな悠長なことをしている間に1人でも多く敵を殺せ、って事になりますし。

 でなけりゃイタチさんやカカシ上忍が戦場に出る必要はなかった筈です。

 十分に成熟した大人として、覚悟を以って戦場に出る事が出来ていた筈。

 その余裕を奪うのが戦乱ですから。

「そんな風に、忍の世界には『場違いな出土品(オーパーツ)』的な事が色々あるんだよね。 

 もしかしたら、マダラを名乗っている彼も、そんなものに触れた1人なのかもしれない…」

 あ、カブトさんマダラさん(仮)を捕まえる気だ。

 そこからどれだけの知識が絞れるか楽しみって顔してる。

 僕と幽玄丸さんは顔を見合わせてため息をついたのでした。

 

 

 

 八使徒番外達

 

 かつて「暁」の実働部隊の一員であり、現在「聖杯八使徒」が1人となった男、「尾の無い尾獣」と呼ばれた干柿鬼鮫は、月を見ながら湯呑茶碗で一献を傾けていた。

 つまみはない。

 時折奇妙に輪郭を崩す月を見ながら、鬼鮫は感慨に浸っていた。

 どうやら鬼鮫を取り込んだ「天秤の形をした触媒」、これのおかげで「聖杯のイリヤ」が近くに居る時は精神が落ち着くのだ。

 イタチがいた時、もしくはそれ以上の精神の安定を鬼鮫は感じており、若干の余裕すら生まれていた。

 月を見ながらさらに一献。

 そう杯を傾けていた鬼鮫であったが。

「…どちらですか?」

 背後に立つものに、そう声を掛けた。

「どうも」

 そう言うのは、

「確か…、天草四郎時貞、殿でしたかね」

 そう、きらびやかな衣装に身を包んだ青年、時貞であった。

 

「まずは一献」

 鬼鮫は予備の茶碗に酒を8割ほど注ぎ、時貞に渡した。

「これはどうも」

 時貞は人好きのする笑みを浮かべ、つまみとして持ってきていた蟹味噌を置くとくいっと一気に飲み干した。

「ほおっ…!」

 時貞から感嘆の声が上がる。

「良いでしょう?

 水の国で作っている酒ですよ。

 やはり、水が合うんですかねえ、生まれた所の酒が一番です」

 鬼鮫はそう言う。

「…分かる気がしますよ。

 私も生まれは海の近くでしたしね」

 鬼鮫は顔を上げた。

 彼は確か…。

「ああ、私そのものじゃありません。

 私の()になった、天草四郎時貞、という存在の、です」

 彼はそう言うと、皮肉気な、しかしどこか儚い顔を月に向けていた。

 

「私は、と言うより私達あなた以外の八使徒は、ですね、お分かりかとは思いますが、主たるイリヤ様の持っておられる「知識」から生み出された者です」

 鬼鮫はそれが分からない。

「知識からなぜ人が生まれるというのです?

 イリヤさんの持つ知識とは人の一生を網羅するほどのものだと?」

 人が生まれてから死ぬまでに経験する全てを網羅する知識。

 文字にすればそれだけで途轍もない量の文字数になるだろうに。

 到底信じられるものではない。

「それだけのものなのですよ、我が主の知識は。

 とは言え、あくまでも『知識』であり、『経験』ではないのだそうですけどね」

 時貞は肩を竦めた。

 言ってしまえばイリヤの頭の中には巨大な図書館があり、必要とする知識が即座に検索できる、という感じらしい。

 だからと言って、例えばイリヤが「兵器として使うプルトニウムの精製の仕方」を検索した所で彼女がすぐにそれを作れるようになるわけではない。

 まずはPu-239という略号がのがなんなのか、同位体とは何か、Pu-239とPu-238、Pu-240、Pu-241、Pu-242の差異、プルトニウムを取り出す為のハンフオードの核反応炉とは何か、AVLISとは何の略でありどういう意味か、など、自分に理解出来ないものを1つ1つ検索して自分の知識として取り込む経験を積まなければ意味がない。

 それらをすべて独学により経験し、更には忍術などで代用が効くのか、その実践、試行錯誤、それらをすべて行った後にやっとイリヤはプルトニウムを精製できるのだ、と言う。

 故に、イリヤの行った「口寄せ・聖杯八使徒」は別段異界の知識を以って口寄せをしたのではない、あくまでこの世界における「口寄せ」の忍術のバリエーションに過ぎないのだと。

「しかし、あなた方はここに存在するのでしょうに。

 到底『知識』だけで出来ているとはとても…」

 鬼鮫の言葉に時貞は肩を竦めた。

「他の者達はともかくね、私はちょっと特殊でして。

 主の頭の中には無数の『天草四郎時貞』の物語があるのですよ…」

 そう語る時貞の顔は、苦い。

「それらを積み重ね、重複する部分を更に重ねる事で人格らしきものを形成するんだそうです。

 おかげで私の中には『何人もの天草四郎時貞』が存在して主権争いをしていますよ」

「それは…」

 鬼鮫にも覚えがある。

 相反する自分の衝動と性格。

 幾度もぶつかる内に、鬼鮫は自分の性格を本当の自分と思えなくなっていった。

 これは精神医学的に見ると解離性障害の一種であるともいえよう。

 余りにも辛い現実に、精神が病む事で起きるとも言われている。

 その中で最も重いとされるのが解離性同一性障害。

 いわゆる「多重人格」である。

 しかし、そんな状態でなぜ時貞がこのように普通に話せているのか。

「それなら、私が『天草四郎時貞』ではないからでしょうねえ」

 時貞は、自分を否定する言葉を発した。

 

「主の持っていた知識、それには『忍術』『魔術』などと言う言葉はお伽噺、物語の世界の話であるようです」

 時貞はそう言った。

「その中でトビ殿が参考にしたのは1つの物語。

 聖杯なる願望を叶える魔法の器を手に入れる為に魔術師達が殺し合いをする物語。

 1人の半端な魔術師の少年の成長物語」

「…待って下さい、今あなたはイリヤさんの持っている知識には『魔術』は存在しない、と言っていませんでしたか?」

 鬼鮫の言葉に肩を竦め首肯する時貞。

「そうですよ。

 私の言う物語は、ほら、火の国でやっている子供向けのヒーロー物であるじゃないですか、『何とか戦隊何とかレンジャー』とやらいう奴、あれと同じです」

 木の葉隠れの里などで放送されていたテレビ番組、それと時貞達とは同義であると言っているのだ。

 鬼鮫から見ても荒唐無稽な存在を実体化する。

 チャクラとは一体何なのか。

 己を構成しているそれが、どれだけのものなのか、鬼鮫には恐ろしく感じられた。

「そして私ですが、主は八使徒の纏め役として、主やトビ殿と『会話』と『コミュニケーション』の出来る相手として私を生み出しました。

 その物語の中には、『架空の人物を口寄せする』と言う方法も紹介されていましてね、それを応用しているんですよ」

「それは?」

 鬼鮫の促しに、時貞は告げた。

「死人のチャクラを使う事、ですね」

「死人?」

「ええ、死んで役割を終えたチャクラ、それはトビ殿曰く、『集団意識の座』に収納される訳です」

「それを引き出してくる、と?」

「ええ。

 実際そう言う術があるでしょう?」

 鬼鮫は顔を顰めて、

「穢土転生、ですか」

 そう言った。

 時貞は、

「そう言う事ですね。

 天草四郎時貞、という記憶を持った器を用意し、それに天草四郎に極力似た体験を持ったこの世界の(チャクラ)を封じた訳ですよ。

 それが私、と言う訳です」

 そう皮肉気に言った。

 彼の人生は天草四郎と酷似していた。

 人を救い、英雄となる。

 そして権力によって謀殺される。

「私は死なない、そう思い込んでいたんでしょうね。

 己は特別だ、と。

 しかし私は死んだ、理不尽に」

 そんな事は当たり前におきているのにね、そう時貞は嗤った。

「だからこそ、です。

 私は、私達はトビ殿に期待しているんですよ。

 私の様な偽者が、本物として生きていける世界、それは『夢の中』だけでしょうからね」

 故に、己は主命のみならず、己の望みとしてトビに助力するのだ、と。

 鬼鮫にもそれは分からなくもない。

 彼の望みも同じなのだから。

「ならば私達は同志と言う事になりますかね、『復讐者』・天草四郎時貞」

「そう言う事ですよ、『尾の無い尾獣』『裁定者』・干柿鬼鮫」

 2人はどちらからともなく湯呑を取り、酒を継いで軽く打ちつけた。

 その後、暫く2人は、鬼鮫の持っていた酒と、時貞の持って来た蟹味噌で月を見ながら杯を重ねていった。




ここで言っているのは「Fate/Staynight」は「物語」であるということです。
つまりは「Fate」シリーズがフィクションとしてある世界観という訳です。

天草の中の人、一応設定ではこの人、みたいのはありますが、まあ、はっきり出すつもりはありません。

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