NARUTO 狐狸忍法帖   作:黒羆屋

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ここから第4次忍界大戦編までの閑話集になります。


第四次忍界大戦 前夜
第101話


 ブンブクのぶらり忍里途中下車の旅

 

 どもっ、「根」の取りまとめにてんやわんや、…になれない僕、茶釜ブンブクです。

 僕、長距離の移動に関しては自信がある、と言うかほとんどの忍よりも優れているらしいです。

 飛行能力のおかげで木の葉隠れの里から最も遠い雲隠れの里や、海を隔てた霧隠れの里にも大体1刻(2時間)あれば着きますからね。

 おかげで「根」の再編成に顔を出す事も出来ず、飛行中にカモくんからの遠話でフーさんやトルネさんと連絡を取るくらいしか出来てません。

 ちなみに睡眠すら飛行しながらなので正直疲れが取れないんですよね…。

 それはさておき。

 今僕は岩隠れの里に来ております。

 忍び連合軍の編成の為、今倒れておられる6代目火影・千手綱手様の代理、つまりは火影代行、次世代の火影として推されているはたけカカシ上忍の立場について、各影の方々からの承認を得る為に、火の国の首都から霧隠れの里、雲隠れ、岩隠れ、そして砂隠れの里を経由して木の葉に戻るルートを移動している真っ最中なのですよ。

 本来ならば腕利きの上忍ですら1月ほどかかるルートですが、僕なら強行軍で1日、余裕を持っても3日くらいで可能です。

 …まあだからこうやって「火影の飛脚」なんてやる事になっている訳ですけどね。

 この任務の期限は7日。

 なんで、ちょっと寄り道をさせてもらおうか、と考えているんですけどね。

 

「…で、それはどういうこった?

 いらん事するようならこっちも色々考えるんじゃぜ?」

 何か土影様に睨まれました。

 火影代行のカカシ上忍からの直筆の書簡、それを各影の皆さまへと届け、そのついでに「里の古老から忍界大戦時の記録を取らせてもらいたい」とお願いしてみてるんです。

「? 何か問題でもありましたでしょうか?」

「当然じゃぜ!

 いいか、お前ら木の葉をワシらはまだ信用しとらん!」

 まあそうですよね。

 数年前までいざこざありましたし、それこそ第2次の忍界大戦では土と火の忍の潰し合いが1つの山場でしたからして。

「分かってんなら何で記録を取る必要がある!?

 どうせ自分達の都合のいいように捏造するだけじゃぜ!?」

 …なるほど。

 土影様は記録を僕が好き勝手ねつ造して、今回の第4次忍界大戦終結後に木の葉が台頭する為の材料にする気だ、と。

 まあ、そう言う戦略もない訳ではないんでしょうが、今回は違うんですよね。

 そもそも、

「それならばこう言うのはどうでしょうか…」

 僕は条件を出してみた。

 

 その条件とは。

「悪い事じゃないね。

 アタシが一緒にいれば、アンタも悪さが出来ないだろうしね」

 僕は岩隠れの黒ツチさんと一緒に居ます。

 まあ早い話が監査役を付ける、ってことなんですけどね。

 情報を第三者が監査し、歪められないようにするってことなんですが。

 さてと、早速話を聞いてみましょうか。

 せっかく土影さまがお孫さんである黒ツチさんを付けてくれたんですから。

 

 

 

 黒ツチは驚きを以ってブンブクの事を見ていた。

 ブンブクの言いだした事は正直にいえばかなり無謀だと黒ツチは思っていた。

 どこの里でもそうだと思うのだが、年嵩の者ほど他の忍里の者への偏見は強い。

 当然と言えば当然だろう。

 彼らにとっては殺し合いをした連中の孫だ。

 同僚を殺された怨み辛みもあるだろうし、また相手を殺したという後ろめたさなどもあるだろう。

 そう言った感情が捻じ曲がり、ブンブクは受け入れられないだろうと思っていたからだ。

 祖父である三代目土影・オオノキもそう考えたからこそブンブクの提案に難色を示したのだろうし、万一にもブンブクに危害が及ばぬように孫である黒ツチを付けたのだろう。

 それくらいは黒ツチでも分かる事だ。

 しかし、

「ふむふむ、その時には…」

「そうじゃ! あの時火影が卑怯な手口を使わねば、あの子は死なずに済んだんじゃ!」

 怒り狂う老忍者からも、疑う老婆からも、ブンブクはすんなり、とはいかないまでも話を聞いていく。

 基本的にブンブクは聞き手に徹する。

「ふむふむ」とか、「うんうん」とか、話すのはほとんどその程度だ。

 しかし、それでいて年寄り達の話は進む。

 ブンブクが時折ずれる話の方向を上手くコントロールしている為なのだが、年若い黒ツチにはそれが分からない。

 ブンブクはが行っているのはコミュニケーションスキルの内、「傾聴」と呼ばれるものだ。

 ただ話を「聞く」のではなく、かと言って聞き手の都合の良い話を引き出す為の「訊く」でもない。

 注意と敬意を払い、より深く相手の話に、丁寧に耳を傾ける。

 相手が話したい事、伝えたい事を、受容的・共感的な態度で真摯に「聴く」。

 そういった技法である。

 これは別にブンブクのオリジナル、と言う訳ではない。

 実のところこの技法の師匠である人物はかなり初期からブンブクと接触していた。

 誰を隠そう、ブンブクの忍術学校の教員であったうみのイルカである。

 イルカは「真摯に話を聞く」と言う事の重要性を、当時問題児筆頭であったうずまきナルトとの関わりの中で身に付けていた。

 それはその後の「問題児はイルカに任せろ」という格言まで生み出す事になる、本人にとっては不本意であるだろうが。

 そのイルカの体得したもの、それをブンブクはイルカから学んでいたのである。

 無論、それにはある程度の信頼関係が必要だ。

 ブンブクは「五影会談」の際、岩隠れの里に特使として何度か訪れた際、里の者達とある程度の交流を持っていた。

 そう言った細かい所で信頼を得るよう動いていたのだ。

 元々ブンブクは年上に好かれる傾向があった。

 そしてイルカ譲りの「傾聴」の技術を以って人々の間に入りこんでいったのだ。

 無論、大きな動き、術を使っての誘導など行っていない。

 そこまでの術はブンブクには使えないし、また土影はそんなことを許さないだろう。

 ほんの少しの信頼を切っ掛けに、ブンブクは年寄り達から話を引き出していった。

 

 

 

「呆れたもんだねー、よくもまあこんだけ…」

 大体午後いっぱいを使って聞き取りが出来ました。

 いい感じです。

「あ、大丈夫ですよ、写しは作ってありますから」

 こう言う事務処理とかの仕事って音隠れで散々やらされてたし、そもそも砂隠れでもそうだったし、あれ?

 確か「根」でもそうだったなあ…。

 10代前半の年で事務職が得意ってなんか違うような…。

 いやいや、気にしたら負けだ。

 後はこれを時間を作って纏めておけば良いですね。

「纏めた奴は後から送りますね。

 原本がこっちにもあるんだから、改ざんは出来ない筈ですんで」

 何ならこっちでも要約作業してくれても良いんやで。

「…面倒だからそう言うのは君に全部投げで」

 言い切りやがりましたよ、黒ツチさん。

「それにね、今回の事は貸しだよね」

 まあ、僕個人の、ね。

「それでも良いんだ」

 …なんでしょか、この感覚。

「ああ! それじゃあ僕はそろそろ帰り…」

「まあ待てまあ待て」

 がっちりと僕は掴まれましたともさ。

 はあ…、厄介事のよかーん。

 

 …どうやら、黒ツチさんは個人的な内容を僕に相談したい、と。

 で、その中身が、

「デイダラ兄を砂隠れから連れ戻したい」んだとか。

 僕もメイキョウ先生からの情報で、デイダラさんが倒されて捕まったのは知ってました。

 で、デイダラさんクラスを安全に閉じ込めておけるのが今だと砂隠れの里の特殊牢獄だけなんですよね。

 なんで、デイダラさんを預かって貰ってる訳なんですけど。

 デイダラさんは我愛羅さん襲撃に関わってはいるものの、その相方であったサソリさんが許されている以上、デイダラさんにもあんまり無体な事も出来ない状態ですから、安全と言えば安全なんですよねえ。

 とは言え、「芸術は爆発だ」の、あれ? 逆だっけ? まあ良いや、のデイダラさんですからして、そろそろ無聊を(かこ)ってるんじゃないかなと。

 ならば、今回の忍界大戦でそれなりの成果を上げてもらえれば、サソリさんと同じく執行猶予が付く可能性が高いと思うんですよ。

 それなら、後の監督責任を土影様にまるな…げふんげふん、お願いする事でそれも可能でしょう。

 とは言え、

「さすがに土影さまを説得するのは僕には無理ですよ?」

 さすがに土影さまが「ダンゾウの弟子」を信用しきるように仕向けるのは無謀じゃないかと。

「うーん、多分大丈夫だと思うんだよね。

 じーさんデイダラ兄が出て行っちゃった時、結構(こた)えてたから」

 …なるほど。

 土影さまはデイダラさんにかなりの期待を持っていた、と言う事でしょうかね?

 それなら、お互いの感情さえ何とかなればどうにかなるんじゃないかなあ。

 まあ、それが一番難しいんだけどね。

 特に、デイダラさんの方が頑なになってるだろうしなあ、自分の根源とも言える「芸術」を否定されてるし。

 僕が考え込んでいると、

「…ワタシだって戻ってきてほしいんだ」

 んん~?

 何か聞こえましたよ。

 ひょいと顔を上げると「しまった」って顔の黒ツチさん。

 …なるほどね。

「…何が条件?」

 黒ツチさんが交渉を持ちかけます。

 さて何ふっかけましょうかね。

 

 結局の所、黒ツチさんに今回取る事の出来た調書のまとめを「黒ツチさん自身」でやってもらう事で協力する事にしましたよ。

 きっちり駄目だしもしますからよろしくお願いしますね。

「鬼いぃッ! 悪魔あぁっ!」

 ああ聞こえません。

 …むしろ気分はキューピットなんですけどね。

「? きゅーぴっとってなに?」

 まあそれはさておき。

 そして僕は砂隠れに向かって飛び立ったのでした。

 

 

 

 鬼鮫転生

 

 干柿鬼鮫、彼は死んだ。

 いや、正確にいえば、敵である木の葉の忍達への情報漏えいを避ける為、自ら死を選んだのだ。

 鬼鮫は負けた。 

 木の葉の忍、いや、「木の葉の珍獣」こと、いや違ったか、まあ良い、マイト・ガイに。

 あの男1人に「尾の無い尾獣」と呼ばれた鬼鮫が完敗した。

 ガイと鬼鮫は余りにも相性が悪かった。

 鬼鮫の戦術は有り余るほどの己のチャクラを使っての攻撃であるが、同時に「相手の(チャクラ)を吸収して強化する忍術」を併用する事で常に相手を圧倒するものだ。

 しかし、チャクラを身体の強化のみに使い、そこから繰り出されるのは全て物理攻撃、というガイの戦闘方法にそれは通じなかった。

 単純な「攻撃威力のぶつけ合い」の場合、そこに不純物が入るとそれだけで不利となる。

 鬼鮫の攻撃手段である忍術には相手のチャクラを吸収する効果が付加されていた。

 その分制御は難しいし、威力も若干ながら落ちる。

 本来の効果であるチャクラ吸収効果が付加されていればその威力は絶大、しかし、吸収するチャクラがないのではそれは無駄だ。

 結局、ガイの必殺体術である「昼虎」との術合戦に敗れ、鬼鮫は木の葉の忍によって記憶を覗き見られる事になった。

 しかし、これ以上彼らに情報を渡す訳にはいかない。

 ならば。

 鬼鮫は己の周囲に「水牢の術」を巡らせ、そして。

「口寄せの術!」

 己の周囲に人喰い鮫を召喚した。

 口寄せ動物となっているにしても鮫は鮫、先ほど噛み切った鬼鮫の舌、そこから漏れ出る血に狂い、お互いを喰いあい始める。

 無論、血を流している鬼鮫は最優先の得物だ。

“イタチさん、それにマダラ、いや…さん、そしてイリヤさん、

 どうやらワタシは碌でもない人間、

 でもなかったようですよ…”

 鮫達が鬼鮫の体を喰らい尽くし、水牢の中が真っ赤に染まった。

 

 死にゆくまでに、人は走馬燈と言うものを見るという。

 生まれてから死ぬまでの人生の回想。

 かつて、鬼鮫はその能力を買われ、「身内殺し」の暗部として働いていた。

 重要な情報を持つ忍びと同行し、彼らが捕えられそうになった時には感情を殺し、そして身内である忍達を虐殺していった。

 それはどのような相手にも向けられた。

 四代目水影の命により、里を裏切った上司、西瓜山河豚鬼を殺した。

 これだけは己の感情のまま、彼を切り刻んだ。

 汚れ仕事ばかりを続けていた為か、鬼鮫は自分の凶暴な人格が偽りであると、そう考えるようになった。

 当時「血霧隠れの里」と呼ばれていた霧隠れの里において、人格が破綻して殺人鬼となった上忍達を処理する為にも彼の様な存在はどうしても必要とされていた。

 だからと言ってそれに納得できるかと言うと人の感情は理性で抑えきれない場合も多い訳だが。

 その際に河豚鬼の持っていた大刀・鮫肌を手に入れ、その時にうちはマダラと出会い、才能を見込まれ「偽りを演じる苦しみから解放してやる」とスカウトされたのが抜け忍となり暁に加入したきっかけであった。

 さらにマダラ、いや…は組織内でも限られたメンバーにしか話さない「月の眼計画」についても明かした。

「月の眼計画」。

 それは鬼鮫にとっても希望となった。

 全ての尾獣を統合する事で始原の尾獣・十尾を復活させ、その膨大なチャクラを以って幻術を月に投影、全ての人々を幻術の世界に引き込み理想の世界を創る。

 輪廻眼、十尾、そして幻術を制御する術者。

 それらが揃う今、月の眼計画は始動するだろう。

 それが発動さえすれば、鬼鮫は自分の中にある破壊衝動を気にする事無く、マダラを名乗っている彼の制御の元、穏やかな生を送れる筈であった。

 それを目にする事無く死なねばならないのは残念だが、まあ彼の足手纏いにならなかった分だけ良しとしましょうか。

 

 次に思い出されたのはあの「聖杯のイリヤ」を名乗る少女。

 茶釜ブンブクの影分身を捕え、「外道魔像」の欠片に封印して創られた一種の傀儡。

 彼女は短いながらもうちはイタチという相方を失った鬼鮫とチームを組んでいた。

 主に情報収集任務であったが、元がブンブクから出来ており、ある程度その知識を流用できるせいか、イリヤはそれなりに有能だった。

 何せ鬼鮫は顔が怖い、体がでかい、得物がでかい、微笑むと般若、そんな感じで交渉事は全くと言って良いほど向かない。

 イリヤは感情が薄い、が、それだけにどのような「配役(キャラクター)」も演じてみせた。

 町娘、行商人、旅芸人、病人など、その時々にちょうどいい姿で情報収集を行う彼女を鬼鮫は若干の驚きを込めながら見ていたものだ。

 イリヤと鬼鮫のコンビは非常にうまく回っていた。

 ある意味、イタチとのコンビよりも。

 イタチは鬼鮫を完全に抑え込むことが出来たが、イリヤはそうしなかった。

 出来なかったというのもあるだろうが、鬼鮫の中に時折湧きあがる強烈な殺人衝動、それをイリヤは上手く解消させていた。

 どこから入手してくるのか、「裏切り者」の情報を仕入れて来ては、鬼鮫にそれをあてがっていたのだ。

 鬼鮫は長く続けていた「仲間殺し」の影響か、基本的には自分の凶暴な性格を忌避し、出来るだけ事を荒立てないように考える。

 しかし、同時にすさんだ生活を続けてきた影響なのか、切れやすく、そうなると暴力に訴えることが珍しくなかった。

 暴力を忌避し、しかしすぐに暴力に訴える、その矛盾が鬼鮫の精神を痛めつけていた。

 イリヤは鬼鮫の心のガス抜きの為に、彼が殺しても心が痛み辛いであろう各忍里の裏切り者のデータ、しかも救いがないほど利己的で、外道な相手をピックアップして置き、必要に応じて鬼鮫にぶつけるようにしていた。

 鬼鮫の破壊衝動を満たしつつ、賞金を稼ぐ、一石二鳥、そうイリヤは無い胸を張って自慢気にしていた、無表情で。

 

「鬼鮫、これを持っていて欲しい」

 イリヤから唐突に言われたのは八尾の人柱力であるキラー・ビーを「狩り」に行く前日だっただろうか。

 渡されたのは小さな模型。

 天秤の形をしたそれは、鬼鮫が持てば簡単に壊れてしまいそうな代物でありながら、異様な強度を持っていた。

「これは?」

 鬼鮫が問うと、

「お守りの様なもの。

 これは外道魔像の欠片から削りだされた形代。

 尾獣のチャクラがかなり多めに封じられている。

 いざという時のチャクラが溜めてあるものと考えてもらえれば良い。

 それと…」

 そこでイリヤは言い淀んだ。

「それと?」

「…それはチャクラを蓄える性質を持つもの。

 普通の量のチャクラなら認識はしないと思うけど、もしもそのチャクラを使いきった状態だと、鬼鮫のチャクラを強制的に取り込もうとするかもしれない。

 鬼鮫のチャクラ量は並はずれている。

『尾の無い尾獣』の二つ名は伊達じゃないから」

 鬼鮫は肩を竦めた。

「それなら問題はないでしょう。

 これの中のチャクラは膨大です。

 これが無くなるほど使用する事になるとは思えません。

 何せワタシにはこの『大刀・鮫肌』があるのですから」

 そう言うと鬼鮫は背負った鮫肌の柄を握った。

 鬼鮫の持つ「大刀・鮫肌」は刀とは言うものの、性質が違う。

 どちらかと言うと鬼颪のようになった刀身で相手の肉体を「削る」のが目的である。

 そして、肉体と共にチャクラも削る。

 削られたチャクラは鮫肌を通して鬼鮫が取り込むのだ。

 故に、忍びとの戦いにおいて鬼鮫のチャクラが尽きる事はあり得ない筈。

 であったのだが。

 

 

 

 鬼鮫は己の意識が覚醒していくのを感じていた。

「…「汝三大の言霊を纏う七天、

 抑止の輪より来たれ、

 聖杯の守り手よ…」

 声が聞こえる。

 (きさめ)を呼ぶ声が。

 鬼鮫はその瞳を開けた。

 眼の前には、己の相棒たる「聖杯のイリヤ」。

「…ワタシは死んだと思っていたのですがね」

 皮肉気な笑みを浮かべ、鬼鮫はイリヤに話しかけた。

 イリヤは無表情だ。

 しかし、しばらくの間とは言え、パートナーとしていくつかの任務をこなしてきた鬼鮫には、イリヤが困惑しているのが見て取れた。

 イリヤはしばらくの後、珍しくも当惑した口調で話し始めた。

「今回は全くの想定外。

 あなたに預けていたチャクラのタンクとしての『天秤』の触媒。

 それが問題だった。

 ガイ師匠と戦った時に、この触媒のチャクラをあなたは全て使いつくした。

 間違いない?」

 その通りだった。

 全くの予想外な事に、鮫肌が裏切ったのである。

 その為、鬼鮫の戦術が大きく崩れた。

 チャクラが膨大にあるにしても有限のものとなったのである。

 故に、予備のチャクラとして残しておいた触媒を使わざるを得なくなった。

「そして、急激にチャクラを使いきった『天秤』の触媒は、それを埋めるものを必要とした。

 それが鬼鮫、あなたの『精神のチャクラ』。

 あなたはその記憶情報ごと天秤の触媒に吸いつくされた。

 今、あなたは『天秤の触媒』を核にして存在している。

 そこで、私はアナタにお願いしたい」

 そう言い、イリヤは鬼鮫に頭を下げた。

「お願い。

 兄さんのためにもう一度戦って欲しい。

 鬼鮫が消えて、今、兄さんの周りには誰もいない。

 兄さんはそれが当たり前だと思っているようだけど、それは違う。

 元々兄さんは社交的な面のある人格。

 あのままだと計画が遂行される前に壊れてしまう危険がある。

 あなたは数少ない兄さんの賛同者。

 いるといないとでは兄さんの精神的な安定度が違う。

 お願い」

 鬼鮫はその小さい目を剥き、驚きを表現していた。

 イリヤがここまで感情的になるとは思ってもみなかった。

 確か、「聖杯のイリヤ」はトビの作り上げた一種の傀儡、感情などは適当な、トビに無条件に従う人格が組み込ま(インストールさ)れている筈ではなかったか。

 もしや、それがここまで「成長」したと言うのだろうか。

 ならば…。

「…しばらく時間を下さい。

 考えたい事もあるのでね…」

「分かった。

 そこからチャクラが無くなって、あなたが消えるまで十分な時間がある。

 決めたらば声を掛けて。

 じゃ」

 イリヤは鬼鮫を置いて部屋を出ていった。

 

 そしてその1日後。

 聖杯八使徒の番外、「裁定者」干柿鬼鮫が「暁」に参戦する事となる。

 

 

 

 白牙と最強の再臨

 

「干柿鬼鮫は私達の盟友として戦ってくれることを約束してくれた」

 聖杯のイリヤはトビにそう報告していた。

 トビはつい先ほどまでうちはサスケに処置を施していた。

 そう、サスケはイタチの目を移植された、つまりは「永遠の万華鏡写輪眼」を手に入れた、と言う事だ。

 手術の予後は未だ不安定であり、サスケが動けるようになるのは数日は先の事だ。

 それまでにいろいろ準備をしなければならなかった。

 この場に居るのはイリヤ、トビ、そして。

「で、ワシの術と…」

 聖杯八使徒の1人、『唱手』果心居士、そして。

「ワタシの魔力で木の葉の秘術を再現するのだな…」 

 同じく『輝騎』ソロモンであった。

 

「今、オレ達の持つ戦力は正直に言えば心許ない。

 強い忍が、大量に必要だ」

 トビがそう言う。

「それで『死人』を引っ張り出そうという訳かのお、浅ましい、浅ましいのお」

 そう言いながら果心の顔は愉悦に歪んでいる。

「ふむ、死人の復活なれば、確かに我が魔術の領域であろうな」

 そう言うソロモン。

 とは言え、実際の所は「魔術」と言いながら使われるのはチャクラ。

 この辺りの、忍や侍とはまた違うチャクラの運用をしている、と言うだけなのだが。

 ソロモンは特に「口寄せ」に特化した忍と言って良い。

 本人は「魔術師」であると頑なに言っているのだが。

 彼ら八使徒は時貞と鬼鮫を除くとどれだけ訂正しても決して己を曲げることをしない。

 正確にいえば出来ないのだ。

 口寄せの際、余りにも戦闘面に特化させたが故に、その人格は非常に薄っぺらい。

 しかし、それだけに己の領域においては無類の強さを誇るのだ。

 そして彼らが模倣するのは木の葉隠れの里における秘術、外道の術である、

 

 口寄せ・穢土転生

 

 であった。

 既に実験そのものは成功し、ほぼ木の葉隠れで開発された術を完全に模倣出来ていた。

 無論、果心の持つ忍術の情報、ソロモンの口寄せの卓越した技量もある。

 しかし、最も大きかったのは。

「これだな」

 トビの手にあるノート、それは「大蛇丸機密文書」と後々呼ばれる事になる、大蛇丸が音隠れの里において行った研究成果の一部であった。

 トビはカブトすら知らない大蛇丸の研究施設を探し当て、そしてそこで発見したのが「口寄せ・穢土転生の実験資料」であったのだ。

 大蛇丸は神の資料に加え、各地の腕利きの忍、その体細胞を採取していた。

 各里の歴代の「影」の体組織はもちろん、「雲に二つの光あり」と謳われた金銀兄弟、かつて霧隠れの里で最強を謳われた「忍刀七人衆」の内、特に腕利きだった連中の細胞まで用意されている。

 これだけ用意してまだ足りないというのか。

 トビは首を捻っていた。

「問題があるとすれば…」

 その言葉に、

「マイト・ガイとはたけカカシ」

 イリヤがそう告げた。

 その言葉にピクリとするトビ。

 トビは彼らに因縁があった。

 が、それだけではない。

 単純な話、この2人は別格と言って良いほど強いのだ。

 時空間忍術の使い手で、大物を幾人も倒しているはたけカカシ。

 そして「尾の無い尾獣」と呼ばれた干柿鬼鮫を倒したマイト・ガイ。

 彼らへの対抗策は考えておくべきだろう、しかし、どうするか。

 その解決策、それは。

「それなら、私に心当たりがある」

 イリヤがそう言った。

 

 イリヤはトビをとある部屋へと連れていった。

 そこは資材室。

 と言っても、通常の資材ではない。

 忍術の研究に使われる器材がさまざま置いてある部屋だ。

 その中には「うちはの眼」や「天秤の重吾の体液」、「かぐや一族の骨格標本」など、正気の沙汰とは思えないものも置いてあった。

 その一角、様々な忍びの体細胞が保存されているそこに、イリヤの目指したものがあった。

「にいさん、これ」

 彼女の示したものを見て、トビは。

「ぶっ、ぶふっ、ぶわははぁはははぁあはははぁぁっ!!」

 腹を抱えて嗤い出した。

 ひーひーと腹を抱えて今までの分を取り返すかのようにげらげらと笑い転げ、トビはのたうちまわった。

 暫くの後、笑いの発作が治まったトビ。

「い、イリヤ、…ナイス!」

「兄さん人格(キャラクター)が崩壊してる」

 トビはそれでも上機嫌を崩さない。

 イリヤの示した()()は、あまりにも皮肉が効いていた。

 これならば、あの2人に当てたとしても、途轍もなく面白くなるに違いない。

 トビはそのもの、茶色の遮光瓶に入ったそれを眺め続けた。

 瓶にはラベルが張ってあった。

 それにはそれぞれ、

「白牙」

「最強の下忍」

 そう書かれていた。


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