ダンゾウは八門遁甲もどきの術によって得た膨大なチャクラのほとんどを身体の強化とその強度の維持に費やした。
ダンゾウの体は長年の忍としての過酷な任務、「根」の長としての激務、そして5代目火影という過酷な役職を務めた事によって大きく衰えていた。
それは体内門を開いたとしても変わらない。
肉体が衰えている以上、そこに蓄えられている身体のチャクラとて若い者に比べれば大した量ではないのだ。
無駄にする事は出来ない。
移動速度を上げる為に脚部及び全身の骨格の強化、反応速度を上げ、更にはそれに感覚が付いてこれるよう視覚及び聴覚を強化。
刺突の威力を高める為に腕部及び背筋の強化を刺突特化型に切り替え、全身のチャクラの流れを整える。
嘗てダンゾウが得意とした一撃必殺の体術、その発展形だ。
既に衰えたダンゾウの体では発動するのは不可能、しかし、嘗ての全盛期をチャクラによって再現した今であれば繰り出す事も出来る。
サスケは必殺の「捻じり千鳥」の体勢に入っている。
しかし、
「…雷遁、か」
ダンゾウは体の周囲に雷遁を克する風遁のチャクラを纏っていた。
本来は移動速度を上げる為に空気を押しやる風遁のヴェール、それが雷遁に対しての防御幕の役割を果たす。
サスケの持つチャクラならば相性が悪かろうと無理やりに打ち破って来る事も予想できる。
だが、それでもかなりの防御力を発生させられるのは間違いない。
直撃さえ避ける事が出来れば、得物の長さの分だけこちらの攻撃が先に当たり、サスケの命を奪う事が出来よう。
ダンゾウは眼を
サスケは己の不利を悟っていた。
サスケの持つ必殺の忍術は、ダンゾウに対してことごとく不利であった。
まずは「
残念な事にダンゾウの持つ「写輪眼」による「イザナギ」との根競べにより須佐能乎を使用できるだけの力が維持できなくなっていた。
下手をすると中途半端に発動した挙句ダンゾウに須佐能乎ごと殺されかねない。
次に「
これはまあ命中させることが出来ればダンゾウを倒すことが出来るだろう。
問題はその燃焼速度だ。
天照の黒い炎は全てのものを燃やす事が出来るが、同時にある程度ゆっくりと燃焼していく為に発動、命中から必殺に繋がるのに時間が掛かる。
その間に攻撃を受けては共倒れだ。
実際、サスケは天照を壁に使ったために慢心し、雷影の体術を喰らっていた。
おそらく風影が邪魔をしなければサスケは雷影の
ならば体術の「捻じり千鳥」という事になるのだが、問題は。
「奴が『風遁のチャクラ』を纏っている事か…」
五大性質変化の相克により、雷遁は風遁に弱い。
よほど当たり所が良くないと、今のサスケのチャクラではダンゾウを仕留め切れない。
そして仕留め切れなかった場合、次の瞬間に死んでいるのは自分だろう。
どこかでダンゾウを出し抜かなければならない。
一応、種は仕込んである、しかし、もう1つ決定的な何かが欲しい。
そう考えた時、ダンゾウがサスケを睨みつけてきた。
来る!
サスケは直感的にそう感じ、覚悟を決めた。
捻じり千鳥に全てを賭けるか。
そう考えた次の瞬間。
…そうか!
サスケに今まで積み重ねてきた事が、1つの形となって降りてきた。
むう、乱入できません。
正直な所を言うならば、どちらにも死んでほしくない。
うちは兄ちゃんは文字通り兄ちゃんだし、ダンゾウさまは僕にとっては師匠の1人であり、信頼できる上司でもある。
故に、さっきから動こうとするたんびにダンゾウさまから待ったが入るんだよねえ。
どうも、僕の動きは完全に読まれてるんだよな。
さすが現上司。
しかし、ダンゾウさま、もっと余裕を持った戦い方をするかと思ってたんだけど、なんか切羽詰まってる感じだ。
…これは万が一を考えた方がいいか?
ダンゾウさまはこれまで滅私で生きてきた。
そろそろお休みを取ってもらっても良い頃だ。
ここで死んでもらっては困る、主に僕たちの心情として、なんつって。
さて、最悪生きてさえいてくれれば何とか…、と思っている時だ。
あのぐるぐる仮面、うちはマダラさん(仮)が動いた。
さすがに2対1は不味い!
僕は体の痛みをこらえて動こうとした。
それが失敗だった。
サスケとダンゾウは同時に走りだした。
速度はダンゾウの方が上だ。
サスケに向かって一直線に向かう。
一方サスケはふらり、ふらりと揺れながら、むしろゆったりと歩いているようにも見える。
しかしそれは特殊な歩法により相手に速度を感じさせない、一種の錯覚を起させるものだ。
そこから加速し、必殺の雷遁を相手に叩きつける、それがサスケの「捻じり千鳥」である。
ダンゾウの眼にはサスケがぶれて見え、的を絞りづらくなっている筈だ。
…とは言え、写輪眼に加えて自身の3倍近以上のキャリアを誇る格上に、どこまで通じるか。
まあ良い。
ここで負けるならオレはそれまでの男だったんだろう。
そう振り切れたなら、サスケの落ち着かなかった気持ちがすとんと腹の中に収まったような気がした。
目指すは目の前の男だ。
全力を以ってぶつかるのみ。
おもしろい。
表情にこそ出さないものの、ダンゾウは年甲斐もなく猛っていた。
この歳になってこれだけの相手と戦う事になろうとは。
ダンゾウは「天才に挑戦する者」でもあった事を思い出していた。
常に己の前を走る猿飛ヒルゼン。
それに追いつくために必死になって修行をし、実戦を潜り抜けたあの日々。
それを思い出したのであろうか。
若かりし頃の身体能力を取り戻したが故なのであろう。
そして眼の前に居るのは「うちはの天才」うちはイタチを倒した猛者である。
うちはサスケ。
彼にはどこか「こいつと正面から戦ってみたい」と強者に思わせる何かがあるのだろう。
それもまた、この世界におけるうちはサスケという「特別」を指示しているのかもしれない。
ダンゾウは結局の所己以外の何ものでもなかった。
すなわち、「挑む者」である。
ヒルゼンというライバルを失った彼にとって、サスケはまたとない「壁」であるのかも知れなかった。
双方が加速する。
疾風の様なダンゾウに対して、春風の如きふわりとした動きのサスケ、しかし、その動きが突如として変わる。
緩から急への凄まじいまでの速度変化。
その速度はダンゾウを上回った。
そして。
両者は丁度お互いとの距離、その中間で激突した。
ここは強引にでも介入するところだ。
ダンゾウさまの懐には僕のマーキングしたお猪口が入っている。
これで「金遁・什器変わり身」を使ってダンゾウさまと兄ちゃんの間に割って入る、それが僕の策、とも言えないような代物だ。
ダンゾウさまには悪いけど、僕としては2人とも死んでほしくはないからね。
無理やりにでもねじこませてもらおう。
そう思った時だ。
ぐるぐる仮面のうちはマダラさん(仮)が動いた。
なにする気だ?
ええい、面倒な時に動いてくれた!?
僕はマダラさんの足元に転がっていた僕のお猪口、それを金遁・什器変わり身で僕と入れ替えた。
その時、もうちょっと慎重に行動していれば状況は違ったかもしれない。
その時、兄ちゃんの相方であった女性がいなくなっていた事に気づいていれば。
サスケは己の敗北を悟った。
あまりにも須佐能乎に体力を持っていかれ過ぎた。
もともと碌に休みもとらず、香燐からの体力回復のみでここまで来たのだ。
体に無理をさせ続けたツケがここにきて噴出していた。
とは言ってもそう深刻なものではない、この状況でなければ。
超加速に入ろうとした瞬間、踵の上、いわゆるアキレス腱にほんの少しの違和感を覚えた。
たったそれだけだ。
しかし、その為に1/1000秒ほどの動作の遅れが発生した。
その程度の事、しかしそれは致命的とも言えた。
ダンゾウほどの相手にとって、その隙は好機そのものだ。
だが、サスケは先ほどまでの焦燥を感じなかった。
己の全身全霊をダンゾウに打ち込む、それだけを考えていた。
それはサスケの戦士としての矜持なのか、さもなければ、諦めない、サスケの本質がもたらしたものなのか。
サスケは迫りくるダンゾウめがけ、チャクラの集中した左手を突きだした。
「喰らえ!
これがオレの…」
ダンゾウは焦りを隠せなかった。
緊張による脳内麻薬で引き延ばされた時間、その中でダンゾウはサスケの使う術を読み間違えていた事を知らしめられていた。
サスケの使う術、それは「千鳥」ではなかった。
恐るべきことに、サスケはこの土壇場で新しい術を生み出したのだ。
はたけカカシより授けられ、研鑚を積んで己のものとした「千鳥」を下地とし、うちは一族が得意とする「火遁」をチャクラの性質変化として加えたもの。
言わば、「雷遁を火遁に置き換えた千鳥」である。
無論、雷遁と火遁では当然のことながらその性質は異なる。
それをうちはの至宝である写輪眼、その基本能力である血継限界以外の忍術の解析、それを使って差異を調整、ぶっつけ本番とは言え発動してのけたのである。
おそらくサスケの完成させた「捻じり千鳥」の要諦も加えているのだろう。
これでダンゾウを優位にしていた「五大性質変化の相克」による優位が消えうせた。
むしろ火遁で攻撃するサスケに対して風遁の防御を張っていたダンゾウは不利となっている。
しかし、それでもダンゾウは得物の長さ、そして瞬身の加速においてサスケの上を行っていた。
まだ負けない、しかし。
「…惜しい」
ダンゾウはそう思ってしまうのだ。
今、サスケの中ではダンゾウと戦った経験が凄まじい勢いで結実している事だろう。
このままぶつかればそれは死という形で虚空へと消え去る。
かと言ってここまで来て殺されてやるつもりもない。
残念だが、将来有望な忍が志半ばで死ぬ事は珍しくない。
ここでその命、絶たせてもらおう。
ダンゾウはサスケと睨みながらその手を繰りだし、そして。
「…ぬかったか!」
体が重くなるのを感じた。
先ほどか。
先ほど、サスケに睨みつけられた時、恐ろしく周到な瞳術による幻術を仕掛けられていたのだろう。
ほんの少し、例えるなら1キロほどの負担が体に掛かっているように感じられる程度の幻術。
だが、今の状態ではそれもまた効果的だ。
ほんの少しのダンゾウの動きの誤差、それがさらにダンゾウとサスケの差を埋めていた。
「まだだ…。
まだワシの方が先に届く」
そこまでしてもまだサスケの死は免れない。
サスケは素手、そしてダンゾウはクナイに加えて風遁のチャクラで疑似的なチャクラ刀を形成たものを使っている。
そのリーチの差がダンゾウの勝利を決定的にしていた。
そしてお互いの攻撃が伸び…。
その時、様々な事が一時に起こった。
ダンゾウがクナイと突きだした時、サスケの腕から炎が槍のように伸びた。
サスケの得意とする「千鳥鋭槍」、その火遁版である「
トビが拳を固め、ダンゾウに殴りかかった。
その足元にブンブクが現れ、寸鉄を握り、トビの顔面を掠める。
本来ならその程度の攻撃を受けるトビではない。
しかし、
「サスケぇっ!」
サスケとダンゾウの間に割って入った者、香燐。
トビの面、正確にはその瞳から吐き出されるように彼女は彼らの間に割って入った。
彼女を瞳術「
香燐を囮にしてダンゾウの首を取る、それがトビの策であったが、それはブンブクによって中途半端に阻止された。
「このっ!」
トビは蹴りを放ち、
「ぎゃんっ!」
ブンブクを蹴り飛ばした。
その時には、
「かはっ…」
香燐の体がダンゾウの擬似チャクラ刀に貫かれ、
「なにっ!」
その切っ先を砕くように鳳翼鋭槍の切っ先が擬似チャクラ刀を砕き、香燐の体を突きぬけて、
「香燐っ!」
そのままダンゾウの持つクナイ、そして柱間細胞を移植した右腕を打ち砕き、そして。
「ぐふっ…!?」
ダンゾウの胴体の右半身を吹き飛ばした。
「香燐! 香燐! しっかりしろ!」
ああ、サスケの声が聞こえる。
香燐は己の命が欠けつつあるのを自覚していた。
ああ、サスケがワタシを呼んでいる。
それだけで香燐は今までの苦労が報われた様な気がしていた。
彼が己を気に掛けているという、その事に。
それがとてもうれしかった。
なのに。
トビはサスケの攻撃を受け、即死状態である筈のダンゾウに近付いた。
彼の持つ「うちはシスイ」の眼を手に入れる為である。
シスイの写輪眼の力、「別天神」は途轍もなく強力な幻術を仕掛ける事が出来る。
それは相手に幻術に掛けられたと気づかせることなく操ることが出来るほど強力なものだ。
これを「月の眼計画」へと組み込むことが出来れば、それは完璧なものとなろう。
これでオレの念願がかなう。
そう意気揚々とダンゾウに近付き、その右目を抉ろうとして、
「! なん…だと…!?」
ダンゾウの右目、その瞳は、
いや、よく見れば、それは、
「義眼…、いや
そう、ダンゾウの右目は写輪眼ではない、普通の光彩を持つ眼であった。
その上から変装用のコンタクトレンズを装着し、己の眼が写輪眼であると欺いていたのだ。
「しかし、おかしい。
白眼持ちの上忍が確かにうちはシスイの眼をダンゾウに見たと言っていたのだが…」
霧隠れの里の上忍、青はその右目に白眼を移植していた。
彼はうちはシスイを知っており、そのチャクラをも感知していた。
それと同じものをダンゾウが持っている以上、これがシスイの眼であることは疑いもなかった、のだが。
「一体どういう…」
考え込んでいたトビは、その為に動きが一瞬遅れた。
ダンゾウが仕込んでいた仕掛け、
「なにっ!?」
眼の奥に仕込んでいた呪印、それは眼球を圧迫し、その中に詰まっている体液を圧縮、そしてまるで弾丸のように撃ちだした!
それは威力でいえば水弾程度。
よほど急所にうまく当てなければ死ぬ事もあるまい、その程度の威力。
しかし、
「!?」
2度のブンブクによる打撃を受けていたトビの仮面はその程度の威力でも十分なほどに脆くなっていた。
ぱきん!
という音と共にトビの面は砕け、
「くっ!」
彼は左手でその顔を覆った。
しかしそれで充分だった。
ぎろりと眼を見開いたダンゾウ、そう、彼は死に切れていなかった。
辛うじて残った命を燃やし、ダンゾウはトビの顔を目に焼き付けた。
「見えたぞ!
汝うちはマダラに非ず!!」
そうダンゾウは咆え、最後の仕掛けを発動した。
香燐の消えゆく命を歯噛みしながら見ていたサスケ。
その耳に、
「忍びの世の為、
木の葉の為、
お前はけっして生かしておかぬ!!」
そう咆えるダンゾウの声が聞こえた。
まずい!
サスケは香燐を抱え、一気にダンゾウから飛び退った。
ダンゾウから黒い血液にも似た何かが飛び散った。
それは彼の周囲に八卦の記号が浮かび上がらせ。
「!? これは裏四象封印術か!」
そしてその記号は内部の空間を押しつぶすように膨張し、一気にダンゾウの体へと押し寄せて来た!
ヒルゼン、次は、ワシの番のようだ…。
走馬燈がダンゾウの頭をよぎる。
思い出されるのは、そう、あの時。
第1次忍界大戦の終結後、雲隠れの里と和平を結ぼうとした時のことだ。
その会談時にクーデターを起こした手練れの上忍金角・銀角兄弟により襲撃を受けたあの時だ。
金角の部隊に追い込まれたダンゾウ達7人は、囮を残して撤退せざるを得なくなっていた。
その時か。
己が囮に名乗りを上げる事が出来ないでいた時に、あっさりと囮を名乗り出たヒルゼン。
結局は2代目火影・千手扉間直々に囮を買って出て、この結果として扉間以外の者達は生き延びた。
その時、扉間に次代の火影として指名されたのはヒルゼン。
己が動けなかった事に、ダンゾウは愕然としたものだ。
お前はいつも…、オレの前を歩きやがる…。
そう歯噛みをした事もあった。
しかし。
いつの間にか、意識はヒルゼンの屋敷へと移っていた…。
時に忍達が手合わせをする広々とした庭。
その縁側に、ダンゾウはヒルゼンと肩を並べて座っていた。
「どうじゃった、ん? ダンゾウよ…」
茶の入った椀を持ち、ヒルゼンがそう言う。
ダンゾウはヒルゼンの妻、琵琶湖の淹れてくれた茶をすすり、
「ああ、なかなかに良き人生だった」
そう言った。
「苦労を掛けたな」
盟友であったうちはカガミがそう労わる。
「そうでもない、むしろ火影の大役の方が疲れた」
そうぼやくダンゾウに、
「へえ、ダンゾウは火影になりたくて仕方がなかったんじゃないの?」
そう尋ねてくるのは秋道トリフ。
「ふん、なってみると気苦労が多い仕事であったよ。
よくもまあヒルゼンはあんな大役を10年どころでなく続けたものよ」
「じゃろ。
そうじゃろ。
あんなん長く続けるもんじゃないわい…」
ゲンナリとした顔でヒルゼンが言う。
その顔を見て皆が笑う。
あの時代、生き残ることを夢見て果たせなかった者達が朗らかに笑う。
その笑みを見ながらダンゾウは言うのだ。
「ああ、なかなかに良い人生であった」と。
「ワシは外道を以って木の葉を守ろうとした。
それが正しかったのかどうかはワシでは何とも言えん。
それは後世の者達が評価すべき事であろう。
だからワシは全てを捨て、ただ木の葉を守ることだけを考えるようにしておった」
周囲に居る者達はダンゾウの言葉に耳を澄ました。
「ワシは何も持たなかった。
家族も、富も、ただ木の葉の安寧の為にあれば良い、そう思っていた。
しかし、な…」
ダンゾウは周囲を見回した。
懐かしい顔ぶれ。
裏切った者もいた。
裏切られた者もいた。
殺した者もいた。
信頼した者もいた。
愛した者もいた。
彼らを見て、
「もうワシの人生も終焉に向かった時、思いがけず後継を得る事が出来た。
油女トルネ。
山中フー。
そして茶釜ブンブク。
彼らは木の葉隠れの里という大樹を陰から支える良き『根』となろう。
そしてその大樹は、いつか火の国を支える柱となろう、火の国は全ての国を支える屋台骨となり、そしてその動きはさらに広まるだろう…」
ダンゾウはそう言った。
ダンゾウがブンブクを見たのはいつの頃だったか。
あれはブンブクが同年代の子どもたちと遊んでいる所を見た時であったか。
あれはごっこ遊びであっただろう。
まあありがちな設定。
2つにわかれた武将同士の戦い。
それにまああの子狸は
「じゃあ、君は『のぶゆき』さんで、君は『ゆきむら』さん役ね!」
全く聞いた事のない名前であり、ダンゾウは何をやっているのかと興味を持った。
話を聞いていくと、「一族を分けて敵味方にする事で、血を残す」という話だ。
子どもの考えるようなことではあるまいに。
ダンゾウはそれからブンブクという幼児を気に掛けるようになっていった。
この頃のブンブクは他者との関わり方を学んでいる最中であり、後にダンゾウがこの事をブンブクに話した所、体を捻りながら悶絶していたものだ。
「それ僕の黒歴史ですから忘れて下さいっ!」などと言っていたが、誰が忘れてやるものか。
そのおかげで残せた血もある。
彼と関わった事で、ダンゾウは若干なりとも視界が広がった、そう思っている。
子どもの頃から公園などでナルト達と遊んでいるブンブクに話しかけ、おやつなどをやりながら話をした。
ブンブクも「志村のおじいちゃん」などとダンゾウに懐いていたものだ。
もっとも、「子どもに先立たれた独居老人」という見方をされていたのは遺憾であったが。
彼との話はダンゾウにとっても眼から鱗の落ちるような考えがあった。
木の葉隠れの里を「火の国の一部」そして火の国を周辺諸国を含んだ広大な地域の一部とする考え方は、木の葉隠れの里のみを見ていたダンゾウにとって今まで考えた事すらないものだった。
周辺諸国を含むすべての地域への変化、影響、それを考えるという事。
それはヒルゼンの進めていた「木の葉隠れの里を豊かにするには火の国を豊かにする必要がある」と考え、教育を広めようとしていた動き、それを更に拡大した者でもあった。
グローバリゼーション。
社会的あるいは経済的な関連が国家や地域などの境界を越え、全国規模に拡大して様々な変化を引き起こすという考え。
それをダンゾウはブンブクと話す間に手に入れる事になったのだ。
それがあればこそ、「介入者」という概念を受け入れる事になり、その結果、ここで死のうとしている。
しかし。
「人生の間際にこれだけのものを手に入れる事になろうとは。
ヒルゼンよ、オレはお前に劣らなかった、今なら胸を張ってそう言える」
ダンゾウはヒルゼンにほんの少しの笑みを浮かべながら、そう言った。
「ふん、今更気付いたのか。
ワシはとうの昔に知っておったよ…」
ヒルゼンが苦笑しながらそう言う。
ならば。
「ワシの人生も、そう、捨てたものでは、なかったのだな…」
ダンゾウの瞼が落ちていく。
「うむ、よき、じんせい、で、あった…」
そうして。
志村ダンゾウ、第5代火影にして「根」の長たる男は、死んだ。
次回、五影会談篇、完結。