NARUTO 狐狸忍法帖   作:黒羆屋

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サスケ対ダンゾウ、前半戦です。


第97話

「くっ…、なんとか死に損なったか…」

 トビは全身にダメージを追ったものの、辛うじて致命傷を免れていた。

 これならまだ「修復」に間に合う。

 ここまで計画を進めておいてここで倒れるなど冗談ではない。

 トビは倒れ込みたくなる衝動を抑え、息を整えて体の「修復」を開始した。

 己の中に取り込んだ特殊な細胞が、損傷した体組織を廃棄し、新しいものに交換していくのが分かる。

「ふん、柱間細胞、か。

 便利のものだな…」

 そうトビは呟く。

 かつて移植された千手柱間由来の細胞。

 それはトビの命令に従い、破壊された箇所を塞ぎ、そこに柱間細胞による新しい組織を形成する。

 それに従って痛みが収まって来た。

 そうして余裕が出てくると、トビは先ほどの現象を考え始めた。

「一体何が起こったのだ?

 今まであんなことはなかった。

 一体オレの『神威(かむい)』に何が起こったんだ…」

 トビの術、神威は時空間忍術の一種である。

 トビの術の場合、空間の位相を入れ替え、瞳術の指定している異空間とこちらの空間をつなげる。

 入れ替えた空間を攻撃が通る事で一見相手の攻撃がすりぬけているようにも見える訳だ。

 相手を「吸い込む」のもその異空間だ。

 その異空間に相手を転送しようとして、このようなダメージを受けた。

 それはつまり…。

「術はこちらの空間と異空間とを繋げるものだ。

 ならばそこに更に別の世界空間が接触した、という事なのか?」

 神威はトビの言った通り、今トビがいる現実の空間と、トビの瞳術によってアクセスする位相の違う別空間とを繋げる。

 ならば、ブンブクがまた別の時空間忍術を発動させた事によって「第2の異空間」の入口が存在し、トビの開いた第1の異空間と第2の異空間の接触、想定外の事態によって術が暴走した可能性をトビは考えた。

 己の忍術を分析、解析する事に時間を費やしてきたトビにとって、これならば一応の原因は理解できたと言える。

 とは言えやっかいだ。

 つまりは、ブンブク、いやもしかしたら茶釜の一族を狙う度にこのダメージを受けなければならなくなる。

 困ったものだ。

 能天気なことをトビが考えている間に、ダンゾウとサスケの戦いは始まっていた。

 

 

 

 ダンゾウとサスケは若干の間を開けて対峙していた。

 この程度の距離、忍にとっては一足の間だ。

 サスケと一緒に外の放り出された香燐はサスケから離れ、彼ら2人を視界に収めることのできる距離にいる。

 香燐はサスケの目である。

 感知能力に優れた香燐は、写輪眼で見通すことのできない情報を感知し、サスケにそれを伝える役目を担っている。

 問題は重吾の不在。

 本来であれば香燐の護衛に重吾が居り、攻撃が来た時には彼が弾く事で香燐は情報収集に専念できる。

 しかし、彼や鬼灯水月がいない今、ダンゾウの攻撃を捌いてくれる相手はいない。

 巻き込まれたとしても防御してくれるものがいない、しかし、香燐はそれでもサスケの傍に居ることを選んだ。

 彼女は3年以上前、丁度ナルト達が「中忍試験」を受けている時に草隠れの里の下忍として試験に参加している。

 その際にサスケに命を救われ一目惚れ。

 音隠れでサスケに再会してからは本人は隠しているつもりかも知れないがベタ惚れなのは誰が見てもはっきり分かるほど。

 それ故、彼女は気付かない。

 サスケの気配が変わっている事に。

 暫く前のサスケは香燐達を気にかけている、仲間である、という意識、いや無意識か、があった。

 今のサスケには己の闇しか見ていない。

 むごいことを言うようだが、彼は死んだうちはイタチすら見ていない。

 彼が見ているのは「一族を失い、愛する兄を失った自分」だ。

 うちは一族は血族への愛情が深い。

 それを利用される形で今の精神状態へと誘導された、とも言うが。

 香燐にはそこまでの闇はない、故に気付かなかったのである。

 

 香燐が見つめる間にも、ダンゾウとサスケの間の緊張は高まっていった。

 そして激突。

 印を結びつつその年齢からは予想もつかないほどの速度で突進し、サスケの腹にその拳を叩きつけ…ようとしたダンゾウは、その一撃を奇妙なものに阻害された。

 人の肋の様な、鉄骨の様なそれ。

 万華鏡写輪眼の開眼によって発動できるようになった「須佐能乎」の防御によるものだ。

 須佐能乎は忍術に対して絶対的といっていい防御力を誇り、物理的打撃もよほどのものでない限りは術者を守り切る。

 更には虚空から巨大が骸骨の腕が湧き出、ダンゾウをがっしりと掴んだ。

 かなりの力なのだろう、ダンゾウの顔に苦悶が浮かぶ。 

 そしてサスケは問う。

 うちはイタチに一族を殺させたのはお前達木の葉隠れの上層部なのか、と。

 めりめりと軋む体の痛みをこらえてダンゾウは言う。

「…あいつは、そんな男ではないと、思ったが」

 その言葉を聞き、サスケの表情が変わる。

「イタチめ、死に際に、全て喋りおったか…」

 その時、サスケの中で全てが繋がった。

 うちはマダラの言った事は。

「本当、だったって事か!」

 サスケの殺気が膨れ上がった。

 怯えて縮こまる香燐。

 そして。

(なるほど、仕掛けたのはあのうちはマダラを名乗るもので間違いないようだ)

 ダンゾウは顔に出さず、内心でにやりと笑ってのけた。

 イタチが語る筈はない。

 ダンゾウはそれを()()()()()

 ならばそれを語った者がいるのだ。

 おそらく自分に都合のいいように捻じ曲げて。

 ダンゾウはサスケに語りかけた。

 理解するかどうかはさておき。

 忍とは、すなわち自己犠牲。

 必要な時に日の目を見る事無く影から表を支える者。

 世は綺麗事だけでは回らない。

 イタチの様な者達がいる為に平和は維持される。

 その事を、イタチの意志をサスケは履き違えてる。

「だが、お前に秘密を明かしたイタチは…、

 木の葉に対する裏切…」

 その瞬間だ。

 

 ぐしゃり。

 

 ダンゾウは握りつぶされた。

「それ以上イタチを語るな」

 サスケがダンゾウの血を浴びながらそう言った。

 

 

 

 なんばー301Cノ空間圧縮機構二異常発生。

 せるふもにたりんぐ機能正常。

 せるふりかばりー機能起動。

 …修復完了。

 機能正常。

 再起動開始シマス…。

 

 

 

 …さすがにしんどい。

 僕はふらつきながらも立ちあがり、そして腰砕けに倒れ込んだ。

 トルネさんとフーさんは生きてはいるようだけど動けない様子。

 っていうか、トルネさんには今触ることが出来ない状態だ、触ると確実に蟲の毒でやられる。

 ちょっと距離はあるようだけど、ダンゾウさまとうちは兄ちゃんが戦っているのが聞こえる。

 とにかく少しでも体力を回復しないと。

 僕は懐から「秋道印の兵糧丸」を取り出してぼりぼりと貪り、スポーツドリンクで流し込んで自来也さまから教わった仙術の呼吸法を行いました。

 それだけで若干痛みが収まって来るようにも思います。

 …まあ気休めなんですけどね。

 

 ダンゾウさまと兄ちゃんの戦いが続いてる。

 傍から見ていると緩急の付いた戦い、というのかな、打ち合っていたかと思うと突然動きが止まる。

 多分幻術合戦だろうな。

 特に、ダンゾウさまが殺されては復活する幻術、あれは僕を含めた「場」にかけているのだろうか、全く原理が分からない。

 圧倒的な兄ちゃんの「守護霊(スタンド)」みたいなの、どうやら「須佐能乎」というらしい、に何度叩き潰されて、死んだように見えてもいつの間にかピンピンしてらっしゃる。

 しかし、そうだとしてもダンゾウさまは後手に回る感じだ。

 あの腕にたくさん付いている「写輪眼」はそれ相応のチャクラを使う筈。

 綱手様のようにチャクラを溜めこんでいるのかもしれないけどね。

 ならば封印していた右腕、多分だけどあの写輪眼達に封じていたのだろう。

 それを消費している、と思われる動きがある。

 定期的に腕の「眼」がその瞼を閉じていくのだ。

 多分まずい流れだろう。

 僕は呼吸を整え、体力の回復に努める事にした。

 いざという時に動けるように…。

 

 

 

 強い。

 サスケは純粋に驚いていた。

 ダンゾウは忍としては高齢である。

 忍は早世する事も多い。

 才能はあっても経験を積む前に死ぬ、殺される事もあるだろうし、任務を受ければその確率は跳ね上がる。

 それを超えて名を売れば、その名が誘蛾灯のように強者を引きつけ、更に死の確率が上がる。

 ダンゾウの青年期は今よりも更に死が身近であっただろう。

 それを超えて生き延びたダンゾウや猿飛ヒルゼン、水戸門ホムラやうたたねコハルは相当の実力者なのだ。

 それをサスケはいまさらながらに体感していた。

 ならば何故、うちはを闇討ち同然に殲滅したのか。

 正面からの戦いであればうちはとて納得したであろうに。

 ここでサスケは1つ思い違いをしている。

 確かにうちは一族は己の待遇に不満を持ちクーデターを画策した。

 しかしその原因は一族の外にだけあった訳ではない。

 確かに里の上層部にはうちはは参画していない。

 里の取りまとめは火影、そしてご意見番であり、それぞれ里の有力な一族の者達で固められている。

 しかし、そこでの決定はあくまで最終的なものであり、その過程で他の有力な一族が無視される事はない。

 うちは一族の意見も取り入れられるのである。

 そこで必要となるのは政治力。

 各家に根回しをし、自分たちの意見を通りやすくする事はどこの家でも行われていることだ。

 その政治力がうちはには欠けていた。

 いや、欠けていた訳ではない。

 うちはを取りまとめる「うちはフガク」、サスケとイタチの父親である彼は優れた忍であり、実力と実績を背景とした政治力は里も無視する事は出来ないほどであった。

 問題があったとすれば彼の功績に対してうちはの実績、というよりは功績に比しての罪過である。

 うちはの一族の者はプライドが高く、そのプライド故に里の中で問題を起こすことがしばしばあった。

 うちはが里の中での警察に相当する警務部隊についていた事も問題であった。

 2代目火影・千手扉間はうちはを監視する為に木の葉警務部隊という特別な役職を与えたという。

 しかし、本当にうちはを信頼していなかったとしたなら里の中の警察、つまりは憲兵の役割を割り振るとは思えない。

 警備任務を通してうちはを木の葉隠れの里に融和させていく意味もあっただろう。

 しかし、それが裏目に出た。

 うちはは非常に愛情深い一族だ。

 己の身内、となった場合命がけでそれを守る。

 それが里にとって有害である場合ですら。

 うちはが警察であり、その身内から犯罪者が出た場合、それを取り締まることが出来るのか。

 他の一族は処罰し、身内のそれは処分が甘いとなると里の人間からの視線はきつくなる事だろう。

 それがフガクの政治力を低下させていたのである。

 フガク以外のうちはにはそれが「木の葉隠れの里はうちはを蔑ろにしている」と映ったのかもしれない。

 また、天才のうちは一族、という肩書がある。

 しかし、精鋭である暗部の上忍にうちはがたった2人しかいないのは、実力が伴わないのと同時に、危険な任務の多い暗部に我が子を選ばせない、という一族の者たちのエゴがあった。

 結局の所、うちはが優遇されなかったのは里への貢献度が低かったからに他ならないのであった。

 感情のみが暴走するうちはの者達が実力で劣ると思いこんでいる他家とまともに戦う訳もなかろう。

 それゆえのクーデターだ。

 正しいと思うのであればフガクを通して待遇改善を唱えれば良かったのだ。

 当然問題があるとすれば里の上層部は改善点を提示しただろう。

 それを受け入れられるのであれば待遇は良くなるだろうし、受け入れられないのであれば変わらない。

 それだけであったのに。

 彼らはよりによって現上層部の掌握、クーデターという手段に出た。

 少なくとも強硬派であった者達はそれがどのような結果をもたらすかも考えていなかっただろう。

 彼らはうちはであり、写輪眼を宿す、もしくは宿す可能性のある者達だ。

 日向と違い、呪印によって眼の奪取を妨げる事の出来ないうちは一族を里の外に出すCランク以上の任務に付ける事は稀であった。

 里の中だけで完結していたうちはの強硬派には情勢を見る眼が欠けていた。

 今の情勢でクーデターなぞ行った日にはどちらが勝とうと他の忍五大里や火の国にある弱小里からの襲撃によって木の葉隠れの里が滅びるのは火を見るより明らかだろう。

 それを理解できない者が行った愚かしい暴挙、その被害を真っ先に受けるのは忍ではない唯人である里人である。

 それを避ける為の苦渋の選択だった事、それをサスケは理解()()()

 ただ、サスケは己の闇を見つめるのみだ。

 それがダンゾウと戦う事で本来のサスケらしい洞察力が働き始めていた。

 

 サスケは左目をいったん閉じ、そして、

天照(あまてらす)!」

 ついにサスケは「須佐能乎」に加えて「天照」を併用し始めた。

「ぐっ!」

 須佐能乎の一撃を宙に逃れたダンゾウを黒い炎が包み込む。

 それを肩で息をするようにして見ていたトビが思案気に言う。

「須佐能乎に天照まで…、バテるぞ。

 能力を確かめるにしてはやり過ぎだな」

 そして焼き尽くされたかに見えたダンゾウは、平然と佇んでおり、

「サスケ! 後ろだ!」

 香燐の言葉に身をひるがえしたサスケに、

「風遁・真空玉!」

 ダンゾウからの風遁の攻撃が飛ぶ。

 辛うじて掠める程度の被害に抑えたサスケ。

「…天照。

 久し振りに見たな。

 やはりイタチの弟だな」

 ダンゾウは悠然とした態度でそう言う。

 それがサスケの癇に障った。

「お前がイタチを語るな、と言っているんだ」

 サスケの突き刺すような視線にもダンゾウは動じない。

 この程度の殺気なら、嘗て幾度も受けた事があるからだ。

「兄弟…、能力は同じとて、眼が悟るものはこうも違うものか…。

 お前にとってイタチの真実などさほど重要ではない。

 お前は憎しみを手当たりしだいにぶつけているだけだ」

 そして、

「うちは一族の犠牲を無駄にしている」

 そう、ダンゾウは腕に埋め込まれた「写輪眼」をサスケに見せつけながら言った。

 それをサスケはダンゾウの挑発ととった。

 吶喊しながら切りつけるも、やはり切り捨てたと思ったダンゾウは、全くの無傷で佇んでいる。

(ならば幻術で!)

 挙動が読めず、成功率の高い幻術眼で動きを止め、止めを刺す。

 サスケの目とダンゾウの目が合った。

(幻術眼! 掛かった!)

 今ダンゾウは動けない。

 サスケは隠業を使いつつダンゾウの後ろに回り込み、そして草薙の剣でダンゾウの心の臓を抉る…。

「ワシに幻術を掛けたのは褒めてやろう、…が」

 事が出来なかった。

 サスケの全身に巻きつく「自業呪縛の印」がサスケの動きを封じていた。

 ダンゾウは「根」の長としていくつかの呪印術を修めている、その1つが自業呪縛の印であり、ブンブク達「根」の構成員に施されている「舌禍根絶の印」もそうだ。

 序盤に仕掛けておいた術が最も効果を発揮するタイミングをダンゾウは待っていた。

 優れた術者とは仕込みを十重二十重と仕掛けておいて、そのうちの1つ2つで勝負を決めるものだ。

 ブンブクのようにほぼ全てを使いつくすほどに使わなければならない場合はよほどの格上と戦わない限りないものだ。

 そして、ダンゾウにとってまだまだサスケは格下だった。

 豊富な経験からダンゾウはこの咄嗟に幾つもの策を練り、サスケの動きを止めた。

 ダンゾウは幻術の解印を結び、サスケの幻術をあっさりと解いた。

 サスケの危機と見た香燐がダンゾウに襲いかかるも一蹴りで文字通り一蹴される。

 そしてサスケに向き直るとすっとサスケの草薙の剣を取り上げた。

 ダンゾウはサスケを無表情に見つめた。

「なぜこんなゴミの命なぞ残す必要があったというのだ、イタチ」

 しかし、ダンゾウの口から出たのはサスケに対してではなく、イタチへの言葉。

「!」

 ダンゾウから出るイタチという言葉にサスケは反応する。

「なぜこの程度の力しかない者に犠牲となる必要があった、大蛇丸」

 ダンゾウからの言葉に、呪印に縛られながらも顔をひきつらせるサスケ。

 ダンゾウにとっても大蛇丸は己の後継として欲しい人材であった。

 しかし、その適性があまりにもずれていた。

 木の葉隠れという組織の為に生きるダンゾウ。

 己の知識欲と周囲に居る少数の安寧のみを願うかつての大蛇丸。

 むしろダンゾウの後継ならば自来也の方が向いていたのではなかろうか。

 そして、

「なぜお前に殺されねばならなかったのかな、ブンブク」

 その言葉にサスケの表情が更に引きつる。

 無論ダンゾウはブンブクが死んでいないことを知っている。

 その上で、サスケを揺さぶる材料としているのだ。

 ダンゾウはサスケの剣を持ったまま一歩踏み出した。

 そしてそれを振りかぶり、

「見てみろ、このざまを。

 こいつは、お前達の…」

 そして剣を横薙ぎに振り、

「失敗そのものではないか…」

 サスケの首に刃が迫り…。

 

 

 

 サスケには今までの自分の軌跡が見えていた。

 これが走馬燈、というものか。

 かつて、一族と共に兄と暮らしていた時の事が思い出される。

 幸せだった頃。

 兄はあまり表情を出す方ではなかったが、時折出る笑みがサスケはとても好きだった。

 どこか母に似た微笑み。

 それが失われたのが「うちは虐殺事件」。

 あれで全てが変わった。

 イタチを殺すために必死になって修行をし、その為に1人になった。

 そこに入りこんできたのがサクラ、カカシ、そしてナルトだった。

 ある意味、彼らと歩んだ1年がサスケにとって最も幸せだったのかもしれない。

 その後、ナルトの急成長を見た焦りからサスケは大蛇丸の元へと走る。

 あれからだろうか、サスケが闇を見るようになったのは。

 大蛇丸は良き指導者であった。

 サスケは大蛇丸からまるでスポンジが水を吸収するが如く様々なものを取り込んだ。

 この時がサスケにとって最も充実していた時期だろう。

 そして吸収し切った結果、停滞した。

 そこにやって来たのが茶釜ブンブクだった。

 彼の奇妙な思考と知識は、ぶつ切りだったサスケの経験を点と点を線で結ぶように繋げていった。

 それだけではない。

 気がつけばサスケは嘗て一族と暮らしていた時の様な暖かな何かを音隠れの里で感じていた。

 それを破壊したのもまたサスケであった。

 あれは飛段が敗北し、死んだと聞いた時のことであったろうか。

 飛段の敗北はサスケにとって想像以上の衝撃を彼に与えていた。

 当時のサスケにとって、飛段は大蛇丸に匹敵する格上の存在だった。

 その彼が己より上位だというイタチ、その強さはいかほどか。

 しかし、サスケはこのまま鍛えこんでいけばイタチに追い付ける、そう考えていた。

 その前におきた飛段の敗北。

 それをナルト達が成したという事実。

 それがサスケを追い詰めていた。

 またオレの前を走るのか。

 サスケは何かに縋らなければ先に進めない、そう思ってしまった。

 サスケが縋ったのは己の原点、と思ったもの。

 すなわち「復讐」。

 その力を得る為にブンブクを、そして大蛇丸を殺した。

 そして得た力、「万華鏡写輪眼」を以ってイタチを、兄を殺した。

 そして、なにもなかった。

 イタチを殺すことを人生の目標にしたサスケには、なにもなかった。

 だから。

“殺せなかった。弟だけは”

“血の涙を流しながら感情の一切を殺して里の為に同胞を殺しまくった男が”

“どうしてもお前を殺せなかった”

“その意味がお前に分かるか?”

「…死ねねえ」

“あいつにとってお前の命は”

「オレは…」

“里よりも重かったのだ”

 まだ死ねない、いや。

「死にたくない!!」

 その瞬間、ダンゾウは大きく飛び退った。

 サスケを守護する「須佐能乎」、その形が、

「先ほどとはまるで違うぞ…」

 今までの須佐能乎はまるで骨格標本のように見えていた。

 今の須佐能乎は武者の如き姿。

 これが、

「サスケの須佐能乎の本当の姿か…!」

 その強大な力に、ダンゾウは初めてサスケに畏怖を感じた。

 

 

 

 素晴らしい。

「よし」

 トビは満足気に頷いた。

 サスケの憎しみが成長し、力をつけてきた。

 体はそれに反応する。

「良い流れだ…、呪印を解くとは」

 トビは自身の策がサスケを強くした、そう思い込んでいる。

 サスケは憎しみを糧に強くなる。

 それはトビの計画に大きな進展をもたらすものだ。

 トビは己とサスケの共通する部分を「虚無」と断定していた。

 故に、その虚無感を強め、彼の闇を増大させることでサスケの成長を促すとともにいつか来る絶望の後の虚空、そう、トビも抱えているそれを分かち合える「同士」を生み出そうとしてたのである。

 サスケの本当の強さ、うずまきナルトと同じく「絆」によって強くなる、それを理解せぬままに。

 

 

 

 サスケの周囲に浮かび上がった須佐能乎の腕には弓と矢の様なものが付いていた。

 それを構え、ダンゾウに向ける須佐能乎。

「! 印が間に合わん」

 矢が放たれる。

 印を結び、うちはの禁術である「イザナギ」を起動する時間がない。

 仕方ない。

 ダンゾウはもう一方の切り札を使用する事にした。

 須佐能乎の放った「矢」がダンゾウに突き刺さらんとする一瞬。

 ダンゾウの前に巨大な「木」が生えた。

 がこっ! という大きな音と共にその木に矢が突き刺さり、そして。

「どうにか軌道をずらせたか」

 ダンゾウがぼそりと呟いた。

 それに、あの「矢」の速度はこれで大体把握した。

 確かに一度打ち出されれば回避するのは困難。

 しかし。

「それを打ち出す為には『矢をつがえ、構える』必要がある。

 なれば」

 ダンゾウは己の右目の包帯を解いた。

 そこにあるのはまたもや写輪眼。

「…とうとう『うちはシスイ』の眼を使うか」

 トビがそう呟いた。

 うちはシスイ。

 かつてうちはイタチと共に暗部の精鋭であった、「瞬身」の二つ名を持つ忍。

 ダンゾウには彼の目が移植されている。

 それを使ってミフネを洗脳したのだ、とトビは確信していた。

 シスイの写輪眼には仕掛けられた者が分からないほど巧妙な幻術を使うことが出来る能力がある。

 逆説的だが、シスイの幻術眼ほどの者でない限りミフネを幻術に落とし込むのは不可能であろう。

 故にトビは気付かなかった。

 それ以外の可能性に。

 例えば。

 ダンゾウとミフネが最初から共謀している、という可能性であるとか。

 

 ダンゾウは今まで腕に付いた「写輪眼」の制御に、移植された「柱間細胞」によって蓄えられた膨大なチャクラを使用していた。

 その一部をダンゾウは自身の身体強化に回し始めた。

 若かりし頃の身体に漲る充実感をダンゾウは感じ始めていた。

 無論、そんな事をすれば写輪眼の制御は甘くなる、即ち「イザナギ」の制御を老いた自身のチャクラで行わなければならないという事だ。

「イザナギ」はうちはの至宝である写輪眼を使い捨てる事で発動する禁術だ。

 ほんのわずかな時間ではあるものの、術者のダメージや死を含めた不利なものを夢に書き換える事が出来る。

 また術者の攻撃などで有利となるものは現実に書き換える。

 己にかける究極の幻術、とされるが、むしろこの場合は「世界」にかける幻術と言えるだろう。

 この世界を支配する「神」にすら幻術を仕掛ける、と言えるのではないだろうか。

 その代償にうちはは己の眼を完全に喪失する。

 それをダンゾウは大蛇丸より交渉で得た木遁を使用する事の出来る力を得る「柱間細胞」を腕に移植、更には写輪眼を腕に複数移植する事でイザナギを連続使用できるよう細工をしたのだ。

 もちろん、その制御には大量のチャクラが必要である。

 今まで柱間細胞にそれを任せていたものを、ダンゾウは己のチャクラで補い始めたのだ。

 つまりは発動に己のチャクラを大量に消費する、老いた身にとって大きな負担になる。

 ダンゾウはサスケを倒す事に己の命を消費する事も含め、全力を以って当たる事にしたのだろう。

 

「かあっ!」

 須佐能乎が次の矢を構えるまでに、ダンゾウは今まで無かった速度でサスケに急接近した。

 ダンゾウの得意とする風遁による瞬身である。

 一瞬で近付いた近付いたダンゾウ、そしてクナイでの一撃をサスケが纏った須佐能乎に見舞う。

 ぎんっ!

 サスケの須佐能乎は先ほどの者をはるかに超える高度を持っていた。

 チャクラを纏わない通常の攻撃では全く刃が通らなかった。

「無駄だ!」

 サスケの叫びと共に須佐能乎の拳がダンゾウを狙う。

 それをダンゾウは()()()()()()

 柱間細胞を移植した右腕でその一撃をがっちりと受ける。

 無論、その一撃は一瞬だけ拮抗し、そして須佐能乎の拳が打ち勝つ。

 それがダンゾウの狙い。

 須佐能乎の一撃を受け、その力を受け流し、ダンゾウは体を旋回させて左手に握りこんだクナイ、今そのクナイにはダンゾウによって風遁のチャクラが付与されている、を須佐能乎に突きこんだ。

 風遁のチャクラ、チャクラでの身体強化を併用したダンゾウの一撃、そして受け流す事によって物理的エネルギーに変換された須佐能乎の力が相まって、絶対であった筈の須佐能乎の防御が貫かれ、

「くうっ!」

 サスケは危うく首を貫かれそうになる所を、体を捻り回避した。

 その瞬間、須佐能乎の姿が消える。

 サスケは悠然と構えるダンゾウと対峙した。




私なりの「うちはが里に反逆した理由」を書いております。

うちはは天才の一族。→周囲から浮く。敬して遠ざけられる。
 ↓
うちはは里内での警察的役割を担う。
 ↓
うちはは同族意識が強い。
 ↓
軽犯罪を犯した身内を見逃す。
 ↓
バカな身内が「特権意識」をもって増長、更に行為を過激化させる。
 ↓
うちはの権威失墜、政治的発言力の低下。
 ↓
不満の増大、しかしプライドが邪魔して正直に言えない。
 ↓
穏健派が止めるが過激派が聞かない。
 ↓
過激派の暴走、クーデターの画策。
 ↓
事が大きくなりすぎてフガクでは消火不可能、仕方なしに参加。
 ↓
うちはフガクを神輿にクーデター計画が始動。

こんな感じでしょうかね。


次回は来週になるかと思います。

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