NARUTO 狐狸忍法帖   作:黒羆屋

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今回はダンゾウ対サスケの前哨戦。
トビ対フー、トルネ、そしてブンブクです。


第96話

 …とうとう直接動きましたか。

 今ダンゾウさまとその股肱を仕留めておけば木の葉隠れの里の諜報活動をかなり潰すことが出来ますからね。

 そこいら辺もうちはマダラさん(仮)の策略ですかね。

 僕はカモくんに一旦攻撃を受けない距離まで撤退を指示しまして、飛行速度を上げる事にしました。

 一旦加速をしてしまえば滑空の速度はそれほど落ちない。

 加速してから滑空に入り、余裕を持たせてから、

「金遁・千里鏡」

 僕は山中フーさんと油女トルネさんに持たせているマーキング済みのお猪口を使って状況を確認します。

 フーさんの懐に入っている筈のお猪口は多分わざとでしょうが、地面に落とされています。

 そこから周囲の状況を見ると…。

 げ。

「フー、トルネ、援護しろ。

 右手の封印を解く。

 …馬鹿者が、早く来い」

 …最後のは僕に対してだな、うん。

 ダンゾウさまが、右腕に付けていた拘束具を外していました。

 大分相手は強い、そう判断したんですね。

 

 さて、近くまで滑空してから地面に降ります。

 こういう場合、僕は奇襲要員であった方が良いでしょう、どう考えても弱いですからね。

 こそこそと近付いていくと、うん、どうやらフーさん、トルネさんがうちはマダラさん(仮)と戦っています。

 …どこで乱入するか、と観察している訳ですが。

 なんか奇妙です。

 なんて言えば良いんだろうか…。

 このマダラさん、確かに強い。

 自分の能力である「透過」ですかね、攻撃なんかを受け付けなくなる、というのかな、の使い方がものすごく巧みです。

 かなりの経験を積んでいるようにも見えます。

 でも。

 動きが鈍い、透過の術以外で見るべきものがないんです、不思議な事に。

 確かに強いけど、一般的な上忍程度の強さです。

 マイト・ガイ師匠とか、はたけカカシ上忍みたいな超人じみた強さを感じません。

 彼らの強さは身体能力とその修羅場をくぐって来た経験にあります。

 マダラさん、鉄の国では「千手柱間との戦いで体がぼろぼろ」だと言ってましたが、今のマダラさんは能力を前面に押し出した戦い方をしています。

 これって、言ってしまえばチャクラに頼った戦い方なんですよね。

 チャクラを練るのはご存知の通り身体と精神の力からです。

 で、経験による精神の強化と違い、身体能力は年と共に衰える筈。

 つまりはチャクラって年と共に衰えるものなのでして、それを補うために忍は経験を積み、精神の力を鍛えると共に対人技術を磨いて年と共に「巧く」なっていくものなんです。

 その巧みさがあのマダラさんには足りないんですよね。

 少なくとも、ダンゾウさまより年かさで、かつ「伝説」の「最強」であるマダラさんがあの程度な訳がない。

 勿論僕に見抜けないだけ、という可能性もあるけれど、わざわざ自分が「うちはマダラ」だと名乗っているのに己の「巧さ」を隠す必要はないと思うんだけど。

 何というか、あれだ。

「大蛇丸」さんみたいな学者さんのような感じだ。

 対人戦闘を極力行わず、ひたすら能力の検証をしてきた人のよう。

 文献をあさる事で作り上げた、僕の中で構築した「うちはマダラ」のイメージと正反対なんだよなあ。

 とは言え、体術にはかなり光るものがある。

 忍らしい身体強化による一撃は、直撃を受けたなら僕あたりならどれだけ耐久力を強化したとしても確実に骨を砕かれそうだ。

 よくよく見ると、「木の葉流」の体術の術理がそこかしこに見られる。

 そう見ると、「老いて錆ついた忍が尾獣のチャクラで何とか体を動かしている」と見る事も出来る。

 判断が難しい。

 あ、そろそろ乱入した方がよさそうだ。

 これ以上梃子摺(てこず)っているとダンゾウさまにマダラさんが兄ちゃんをけしかけそうだ。

 いくらダンゾウさまが強化をしているといっても正直当代随一の強さを兄ちゃんは手に入れつつある。

 火影という激務のせいでダンゾウさまの体力や気力は数年前に比べて大きく削れている。

 木の葉の表と裏、両方の権力を掌握する、という事はそういうことだ。

 加えてダンゾウさまの強さは頭打ち、兄ちゃんは未だ上昇中、ということを鑑みればまともにやりあった場合、短期決戦ならともかく、長期戦になった場合ダンゾウさまに勝ち目はないだろう。

 僕は戦闘への介入を始めました。

 

 

 

 山中フーと油女トルネはマダラを名乗る男との戦いに苦戦していた。

 とにかく攻撃が当たらない。

 攻撃が透過するときはフーの「身転心の術」すら使えない。

 まるで幻術にでもかかっているかのようだ。

 トルネに至っては相手に接触しないことにはダメージを与えられない。

 とは言え下手に大ぶりをして、仲間であるフーに怪我を負わせる訳にはいかないのだ。

 トルネの攻撃は当たれば必殺の威力を持つ、それが味方に誤爆でもしようものならシャレにならない。

 フーとトルネは長いこと一緒に任務をこなしている、故に連携は完璧といっていい。

 しかし、相手は死角を塞ぎつつも攻撃は透過する。

 下手に攻撃をすると相手の影にいる相棒に攻撃が当たりかねないのだ。

「しっ!」

 数本のクナイを投擲しつつ、フーの攻撃の支援をするトルネ。

 投擲されたクナイにより、大きく後方に飛び退いたマダラを追撃していくフー。

 この状態ならば必ず当たる、という状態に追い込んでのフーの忍刀は、しかし空を切った。

 マダラの体に当たってはいる筈だ。

 しかし、フーの忍刀はマダラの体を通り抜けていった。

 マダラの使う「透過」の忍術であろう。

 しかし、成果もあった。

 殴りかかって来たマダラの拳も、フーに当たることなく、すり抜けていったのである。

 つまり、だ。

「カウンターを狙えば良い」

 そう、フーは呟いた。

 

 うちはマダラを名乗る男、トビは事態を冷静に捕えていた。

「…よく理解した。

 良い判断だ」

 ぼそりとトビは呟いた。

 フーとトルネ、彼らに見せている程にはトビに余裕はなかった。

 暗部の2人を相手取って戦えているのは一重に彼の瞳術によるものだ。

 彼の瞳術は体をこの世界ではない「別の空間」に移送させるものである。

 その為相手からは攻撃が透過しているように見える。

 つまりは、だ。

(相手の攻撃に合わせて使わないといかん)

 という訳だ。

 トビは己に戦いにおける天賦の才があるとは思っていない。

 とある事情から彼はその年齢に比して戦闘経験が多いという訳ではない。

 しかしながら己の術に対する研鑽は他の忍よりは多く積んでいたと思う。

 ブンブクの読み通り、彼は己の能力を実戦で使いこなすために徹底的に研究、研鑚をした。

 その結果として、総合能力で勝る2人の上忍を翻弄するまでに力を使いこなしているのだ。

 だからと言って油断をすればそのバランスは逆転する。

 出来るだけ早く仕留めねば。

 そう考えた時である。

 足元に転がるお猪口1つ。

「ちっ!」

 ダンゾウの配下にいる暗部、「根」の構成員に関してトビは一通り対策を講じていた。

 そうしなければ勝つ事は出来ないからだ。

 己の能力の範囲内で格上の相手と戦わなくてはならない、しかも、相手に「自分より格上である」と誤解させながら。

 その為に、トビは特定の個人との戦いを想定してのシミュレーションに余念がなかった。

 故に、

 ぼうん!

「せいっ!」

 フー、トルネの攻撃に合わせた仮面の少年・ブンブクの攻撃も予想をしていたのである。

 

 

 

 駄目か!?

 フーさん、トルネさんの連携に更に重ねて打撃を打ち込んでみたのですが、あっさりかわされました。

 やっぱり本物なのか!?

「ブンブク、遅い!」

 フーさんから怒られました。

「…いっちゃん良いタイミングで殴りかかったんですけどね、やっぱり強いですね、この人」

「この人? …まあ良い、3人で仕掛けるぞ!

 …カウンターのタイミングを意図的に作る」

 そうトルネさんが言います。

「…ほんじゃ行きます!」

 第一弾は僕から!

 大体僕は誰かの攻撃に際してサポートを行う形がほとんどだ。

 僕起点の攻撃はほぼあり得ない。

 故に、意表を付けるかと思ったけどビンゴ!

 ほんの少しだけ動きが鈍い!

 僕は低い姿勢からの蹴りあげで相手の顔面を狙います。

 当然、マダラさんには避けられますが、それで良し。

 僕にとっての本命は八畳風呂敷くんを解いたチャクラ糸もどきにあるのですから。

 僕の頭の後ろには先ほどトルネさんが投擲したクナイが落ちています。

 それにチャクラ糸もどきを絡めて相手の視界外からのアタック!

 を!?

 マダラさんは透過を行わず、首を捻って僕の蹴りを避け、そして振り下ろしの拳骨が!

 僕はその拳を首を捻ってかわし、するとあら不思議!

「くそっ!」

 惜しい!

 もうちょっとでマダラさんの右の拳に僕の操るクナイが突き刺さる所だったのに!

 まるで拳の中に埋まるようにクナイはその体を通り抜けていきます。

 僕が体をバック転の要領で捻ると、その隙にフーさんが更に切り込んでいきます。

 これで相手の隙を付ければ!

 しかし、フーさんの斬撃は相手の体を通り抜けていきます。

 まずい事にフーさんは後頭部を完全に相手に向けています。

 ここで拳を撃ち込まれれば脳幹を破壊されて死亡確定でしょう。

 実際、マダラさんはそれを狙ってフーさんの後頭部へ右の拳骨を振り上げています。

 が、これは仕込み。

 気配を消してトルネさんがその背後に迫っています。

 トルネさんは手袋をはずし、必殺の毒蟲手が迫っています。

 これが当たれば勝利確定…、! まずい!

 今一瞬マダラさんの目に嫌な感情が見えました!

 僕はフーさんとマダラさんの間に体を捻じ込みました。

 マダラさんの目に驚きの表情が。

 そしてその体を突きぬけるかのようにトルネさんの腕が現れて、僕の腕にぶつかり、

「うわぁぁっ!」

 激痛。

 当たった右の前腕が何かに食い荒らされているように痛みます。

 しかし。

 トルネさんが僕の腕を治療している最中、僕は左手をくいっと動かしました。

 これは単純な技術。

 相手がチャクラの流れを見る写輪眼だからこそ仕込んだ手妻。

 そう、痛みで引きつったかのように見せて、

「なんだと! がっ!?」

 トルネさんの投げたクナイに先ほど放っていた八畳風呂敷くんの糸にチャクラを()()()()()()引っ張って、マダラさんを襲わせたのです。

「ぬうっ、このっ!」

 マダラさんは慌てたように透過を使ったようですが、それでもクナイは体を掠め、一本はその面に突き立ちました。

「心転身の山中一族、そして秘伝忍術を持つ油女シクロの餓鬼、曲者の茶釜、ダンゾウ、いい部下を揃えたものだ…」

 しかし、マダラさんは急速にその動揺を抑え、どうやら透過の術を使っての様です、地面にすうっと入り込んでいきました。

 さて向こうの戦い方は、と。

 奇襲による撲殺、もしくは僕たちを分断隔離する為にサスケさんを吸いこんだあの「吸い込み」の術を使うのか。

 どうやら無制限に吸い込める訳ではないようだし、接触とかそれくらいでないと発動しないのかしらん。

 それならまずは狙われるのは僕かフーさん。

 今、トルネさんは全身の体表に毒蟲を浮き出させている「毒蟲体」とでも言う状態だ。

 これに接触される危険を考えればまずは僕あたりだろう、そう考えていた時だ。

 がっ!

 狙われたのはトルネさんだ!

 マダラさんはその右腕が汚染されるのも構わず、トルネさんを捕え、

 ズズズズズゥゥゥッ!

 その右目の中に引きずり込んでしまった!

「くそっ!」

 フーさんが焦りを見せました。

 確かにこれは不味い。

 このまま毒が回ればトルネさんをどっかにやったままマダラさんが死にかねない。

 なんて思った時です。

「右腕が毒蟲に感染してしまったな…」

 とか言いながらマダラさんが、

 ゴキュリ!

 右腕を、引きちぎりました。

 ぼとりと落ちる右腕。

 その断面は…人の肉体とは思えないような感じ。

 泥の様な、木材の断面のような。

 僕がそれに気を取られた瞬間。

 がっ!

 マダラさんがその腕を蹴飛ばしてきました!

 あれにはトルネさんしか解除できない蟲の毒が付いてます。

 さすがに僕とフーさんは体を捻って接触を回避しました。

 その瞬間です。

 フーさんの下、地面の下から浮き上がって来たマダラさんによって、フーさんも吸い込まれてしまいました!

 くっ!

 下手に引くとダンゾウさまの負担になります。

 未だダンゾウさまは封印を解き終わっていません。

 せめて封印を解き終わる時間を稼がないと…。

 そう焦りが出たのでしょうか。

 やばっ!

 捕まえに来るマダラさんの腕を掻い潜り、腕をもいでしまった為に攻撃の死角になるであろう右側に回り込みます。

 が、

「甘い…」

 右のサイドキックが僕を襲います。

 でもね、

「!」

 惜しいっ!

 今僕は、指輪の内側に鋭い刺のついた得物、角指を使って蹴りに来たマダラさんの足の腱を狙いに行ったのです。

 しかし今の感触は…。

 まるで木材でも切りつけたような…。

 その時。

 僕の頭がその右足に引っ掛けられました。

 まずいっ!

 グイッと僕は引き寄せられ、

「ではさらばだ、茶釜ブンブク」

 そう言ったマダラさんの周囲の空間がぐにゃりと歪み…。

 

 

 

 仕留めた。

 トビはそう実感した。

 トビの吸い込む「別の空間」はかなりの広さがある。

 ダンゾウ配下の3人とサスケ、香燐との空間的距離はかなりとってあるのでその中での接触はないだろう。

 内部は()()()に見張らせているので問題はない。

 そしてブンブクを吸いこもうとした時、異変は起きたのだ。

 

 トビの「別の空間」に居たサスケと香燐は「世界が揺れる」のを感じた。

「な、何が起きてるの!?」

 これ幸いとサスケに抱きつこうとして、

「離れろ。

 これは…」

 周囲を警戒するサスケに邪険に扱われる香燐。

 揺れはさらにひどくなり、

 バリンっ!

「世界に亀裂」が入り、サスケと香燐は元の世界に放り出された。

 

「震源」に近かったトルネ、フーはさらにひどい有様だった。

 自分を含む「空間」そのものの歪みは彼らの体をめりめりと痛めつけた。

「ぐうっ!」

「がああっ!」

 空間が裂け行く時、体が一緒に割けなかったのは唯の僥倖である。

 そして元の空間へと吐き出された2人は地面に叩きつけられた。

 

「が、がああああぁぁぁっっ!!」

 その「震源」たるトビは体が引き裂かれるようなダメージを受けていた。

 一体何が起きた!?

 このような事、今まではなかった。

 とてもではないが、()()()()()()()がなければ生きてすらいないだろう。

 倒れこみそうになる足を必死で踏ん張り、そしてトビは己と繋がる空間の砕ける音を聞いた。

 それと同時に、しばらく離れた場所にサスケと香燐が現れ、すぐ近くにフーとトルネが叩きつけられた。

 完全に意識はないようだ。

 ならば茶釜ブンブクはどこに、そう思ったトビの正面。

 ブンブクが立っていた。

 いや、これは本当に茶釜ブンブクなのか?

 目の前に居る茶釜ブンブク、それは、あまりにも作り物めいていた。

 陶器のような硬質の肌、生き生きとしていた目はガラス玉の様で。

 首のあたりには継ぎ目だろうか、ラインが入っている。

 だらりと垂らした腕の服からのぞく生身の部分、そこにもライン。

 手首のあたりはまるで人形の球体関節のようにも見える。

 そう見えた次の瞬間、まるでその姿は幻のように消え、そして、血まみれのブンブクの姿が現れた。

 その更に一瞬後。

 ブンブクは地面に倒れ伏した。

 

 

 

「うちは…サスケ、か…」

 サスケはダンゾウと向き合っていた。

 こいつがうちは一族を滅ぼした「根」の頭目。

 うちはイタチに同族殺しをさせた悪の親玉か。

 サスケにとって分かりやすい敵。

 それが目の前に居た。

 …その考え方で言うならば、トビとてイタチと一緒にうちは一族の排除に動いた仇の1人なのだが。

 トビの巧みな誘導により、サスケの意識は今、ダンゾウにのみ注がれていた。

 ダンゾウはサスケを無感動な目で見ると言った。

「丁度良い。

 お前の写輪眼も頂くとしよう」

 ダンゾウの右腕には、グロテスクに飾られた写輪眼が幾つも埋め込まれていた。

 

 

 

 閑話 男

 

 五影会談が終わったその後。

 初老の男性、名を名張の四貫目という、はこれからどうするか考えていた。

 サスケと香燐はトビに連れ去られた様だ。

 鬼灯水月と天秤の重吾はたった今、

「そこの2人…、鎧を脱げ」

 そう、侍大将の1人であり、総大将ミフネの側近でもあるオキスケに変装を見破られ、

「あらら…、

 バレてたみたいだね」

「やはりあまりいい案ではなかったな」

 武装解除をさせられている最中であった。

 あの2人を助け出し、どうやってこの中から逃げ出すかが四貫目の懸案であった。

 四貫目はこと隠密に関しては忍界でも有数である。

 感知型の忍術を使う程度では発見はされない。

 というのも、元々チャクラが多くない四貫目は、隠業により周囲にある自然のチャクラを目くらましとして使うことを覚えていた。

 一級の上忍ともなればチャクラの保有量は四貫目の数倍に達する。

 故に、チャクラ感知能力から己を隠すのは大きな苦労が伴う。

 また、まだチャクラの少ない下忍や中忍はというと、そもそも隠業の技量が圧倒的に足りない。

 四貫目は中忍の中程度のチャクラ量と、他の追随を許さないほどの経験により、ほぼ全ての忍からの探知を掻い潜る力を持っているのだ。

 とは言え、そう言う点では水月や重吾は問題だ。

 彼らの保有チャクラは九尾の人柱力であるうずまきナルトや「尾の無い尾獣」干柿鬼鮫など例外中の例外を除けば上忍の中でもトップクラスといっていい。

 その割には隠業を重視しない彼らを連れて遁走しなければならないとなると、かなり取れる手段が狭まる。

 その後はトビの元からサスケと香燐を取り戻さなければならないのだから溜息が出る。

 

 四貫目は何故にサスケ達を気に掛けるのだろうか。

 それを己でも理解していなかった。

 最初はサスケに対する罪悪感であったように思う。

 己の何げない一言がサスケを追い詰め、音隠れの里からの逐電を促す形になってしまったからであると。

 

「サスケ君、どうも今、君はふらふらと足元が落ち着いていない状態のようだ。

 そう言う時は自分の原点を見直してみると良い。

 自分の根幹にあるものを見直す事によって、先が見えるかもしれん」

 

 その言葉はサスケの意識を多分悪い方に変えたのだろう。

 彼は「うちはイタチを超える」という音隠れの里で培った考えから「うちはイタチを殺す」という少年時代の思考へと戻ってしまったようであった。

 その危うさ、不安定さが四貫目には恐ろしかった。

 周囲を巻き込み崩壊していく、そんな虚無的な何かにサスケが変貌していってしまっているようで。

 それも香燐、水月、重吾という仲間を得た事でかなり薄れたようにも思っていたのだが。

 致命的であったのはやはりうちはイタチと戦い、殺してしまったところだろうか。

 サスケは決定的に変わってしまった。

「蛇」と名乗っていた頃はまだ香燐達を見る余裕があった。

 イタチを倒して以来、サスケの瞳はなにも写さなくなった。

 香燐達はただ居るだけの存在になってしまっていた、そう感じていただろう。

 しかし、四貫目から見るとサスケは気付いていない。

 己が「仲間」を求めている事に。

 元々人とは集団の中で生きる生き物だという。

 その為であろうか、水月や重吾が食料の確保や周辺の調査で離れると、サスケの挙動が若干不安定になるのが見て取れた。

 香燐とて気が付きそうなものであったが、彼女の場合、惚れた弱み、というやつでサスケに関しては幾重にもフィルターが掛かるのである。

 孤独に1人闇を見る眼と不安を感じ、仲間を求める眼。

 サスケの本心はどちらなのか。

 四貫目は幾ばくかの苦悩と共にサスケを見つめていたのである。

 

 さて、そろそろ動くべきであろうか。

 そう考えた時だ。

 背後に気配を感じた。

 このワタシに気取られることなく近付くとは。

 ゆっくりと背後を振り向く四貫目。

 そこにはサスケと香燐を吸いこみ、五影に喧嘩を打ったばかりのトビがいた。

「アンタは…」

 そう言いかける四貫目に、

 

「もういい」

 

 トビはそう話しかけた。

 その言葉が鍵言葉(キーワード)になっていたのかもしれない。

 そうか、ワタシは…そう言う事か…。

 四貫目はそうして思い出した。

 

 この時より「名張の四貫目」と呼ばれた忍は忍界から姿を消すことになった。


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